ハイスクールD×D ~転生した大導師~   作:尾尾

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第10話

 

  ここは北欧の森の中。辺りは薄く霧がたちこめ、背の高い針葉樹の上から射し込む日光が薄明光線を作っている。その中をアレイスターとエセルドレーダが歩いていた。その姿は、二人の容姿と周りの景色が相待ってまるで映画のワンシーンのようだ。

 

「なかなか有意義な時間であったな」

 

「イエス、マスター」

 

「特にあのヴァルキリー、将来どれ程のものになるか楽しみだ」

 

  アレイスターは先ほどのアースガルズへの訪問に満足し上機嫌であった。目的の北欧魔術を目にし、面白い人物にも目を付けた。これ以上はない結果だった。

 

「やはり北欧という場所は美しいな。森一つとっても幻想的なものではないか」

 

「同感です」

 

  エセルドレーダと会話しながら森を進む。機嫌のいいアレイスターはいつになく饒舌だ。

  その時、側の茂みからガサッという音が聞こえた。気配からして獣の類ではないようだ。近づいて覗き込んで見れば、まだ十歳にも見たないであろう白髪の少年が倒れこんでいる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「ふむ」

 

    その姿は血にまみれ、着ている衣服もボロボロであった。痩せ細った手足を見るに栄養失調である事も伺える。ここはまだアースガルズに近い北欧の森の中、本来ならばこの様な所に人間がいるのは不自然であった。

 

「少年よ、貴公は何をしている」

 

「………………」

 

  少年からの返答はない。衰弱しきっていて返答する元気もないようだ。放っておけば間もなくこの少年の命は尽きるだろう。そのとき、ふとアレイスターは自分が悪魔であった事を思い出す。今の今まで忘れていたが悪魔は人間と契約する存在だ。せっかく悪魔になったのだ、暇潰しにこの少年を救ってやるのも良いかもしれない。そう思ってアレイスターは再び少年に声を掛けた。

 

「貴公は間もなく死ぬだろう。だがまだその命に執着するというのならば、余がその命、拾ってやろうではないか」

 

「………………ッ!」

 

  少年の身体がピクリと反応した。

 

「さぁ少年よ、そのまま朽ち果てるか、生にしがみつき生きながらえるか。貴公の好きなように選ぶがよい」

 

「………………たい」

 

「聞こえんな」

 

「……たい ……きたい 生きたい!生きたい!!! 生きて奴等に!教会に復讐するんだ!!!」

 

  少年が吠えた。その小さな命は再び生を望む。身体は衰弱し、這いずることしか出来ないがその目は強い意思を宿しギラついていた。

 

「良い目だ。よろしい、ならば契約だ。その命、余が救ってやろう。これからは余の為にその命を使え」

 

「あ……」

 

  アレイスターが少年の傷ついた身体を魔術で回復させる。少年は限界を迎えたのかそのまま意識を失った。

 

「よろしいのですかマスター?」

 

「ああ、そろそろブラックロッジのメンバーが欲しかったからな。本日をもって魔術結社ブラックロッジ再結成といこう」

 

  アレイスターが笑い声をあげる。

 

「しかし、一人目の構成員が魔術師でも何でもない少年か。これもまた面白いではないか」

 

  気を失った少年を無造作に掴み再び二人は歩き始める。こうして遂に、この世界で魔術結社ブラックロッジが設立することとなったのだった。

 

 

  ♢

 

 

「ほらほら、しっかり避けなきゃ死ぬわよ」

 

「ちょっ!無理無理!これは無理だって姐さん!」

 

  俺、フリード・セルゼンがボスに拾われてもう一年がたつ。

  俺は教会で行われていた聖剣計画の被験者だった。人工的に聖剣使いを作り出すっていう糞みてーな計画だ。俺はそこで聖剣に適合する為に散々身体をいじくり回された。結局、適合する事が出来なくて処分されそうになったので命からがら逃げ出し死にかけていた所でボスと出会った。初めてあった時はあの世のお迎えが来たと思ったね。あんまり綺麗な金髪で浮世離れした雰囲気なもんだから天使だと錯覚しちまった。けど蓋を開けてみたらビックリ!

あの金色の魔人じゃ~あ~りませんか!

  多少なりとも裏側に関わる奴ならば誰でも知ってるような大悪魔だ。その時ばかりは終わったと思ったね。だから部下になれって言われた時は心底驚いた。俺みたいな奴が金色の魔人の目に止まるとは思ってもみなかったからだ。そりゃそうだろ?俺はただのズタボロのガキだったんだ。得意な事なんてありゃしない。魔術のまの字も知らないんだぜ?それでもボスは俺を拾ってくれた。だから俺はボスの為なら何だってするって誓ったんだ。

  ボスは俺がクソッタレの協会に復讐したいと言っても何も言わなかった。けどその為の力が欲しいと言ってからは俺を鍛えてくれた。実質的な師匠は姐さんだったが……  

  姐さんってのはいつも師匠と共にいる謎の人だ。名前はエセルドレーダ、見た目はロリロリな人だがこの人もボスと同じで半端じゃない。避けなきゃ一発で死ぬような魔力弾をポンポン放ってくる。そのせいで毎回俺はズタボロになっていた。こんな感じで喋ってるけど今も姐さんが魔力弾を飛ばして来ている。

  あっ…… これは避けられない……

 

「あんぎゃーーー!!!」

 

「ふぅ、今日はこれで終わりね」

 

  もう……むりぽ……

 

 

  ♢

 

 

  黒焦げになったフリードが転がっている。今日も頑張っていたようだが、流石にたった一年ではあのナコト写本であるエセルドレーダには手も足も出るはずがなかった。

 

「少し出てくる。留守は頼んだぞエセルドレーダ」

 

「何か御用事でしょうか?」

 

  今までフリードの訓練を見ていたアレイスターはおもむろに立ち上がりそう言った。

 

「この辺りで何者かが争っている気配を感じる。それを見に行こうと思ってな」

 

「わざわざマスターの手を煩わせる訳には行きません。私が確認して参りましょう」

 

「いらん。エセルドレーダはフリードを見ておけ」

 

「イエス、マスター」

 

  アレイスター至上主義であるエセルドレーダは自分が行くと提案するが却下され、留守番を命じられる。無論アレイスターの命令を断るはずもないエセルドレーダは素直にその命令に従った。

 

「それでは行ってくる」

 

「行ってらっしゃいませ、お気をつけて」

 

  アレイスターは夜の街を歩き出す。向かうは先は郊外の神社、姫島神社だ。

 

 

  ♢

 

 

「いやぁぁぁぁぁっ!!!母さまぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「優秀な巫女ではあったようだが、黒き天使などにそそのかされるからそのような目に遭うのだ」

 

  深夜の神社で一人の少女が母親らしき女性に泣きながら必死に声を掛けている。女性は刃物のような物で袈裟斬りにされたようで、大きな傷口から絶え間なく大量の血が流れていた。少女は必死に女性の身体を揺らすが女性の反応はない。おそらくこの女性は既に亡くなっているのだろう。

  少女の周りは武器を手にした大人達に取り囲まれていた。

 

「さて、邪悪な黒き天使の子よ。次は貴様の番だ」

 

  一人の男が少女にそう告げた。男の持つ武器は血に濡れている。少女の母親を殺害したのもこの男なのだろう。

 

「恨むなら貴様の父を恨め」

 

「ッ!!!」

 

  男が刀を少女に振り下ろす。少女は思わず目をつむった。

  刀が少女に当たる直前、辺りに声が鳴り響く。

 

「一人のいたいけな少女を大の大人が多人数で寄ってたかってというのは美しくない。そうは思わんか?」

 

「誰だ!」

 

  男は刀を止め声がする方へと振り向く。そこには金髪の男が立っていた、アレイスターだ。

 

「誰だか知らんが邪魔しないでもらおうか」

 

「何故その子を殺そうとする。いったいその子が何をしたというのか?」

 

「ふん、この子は黒き天使と人の間に生まれた穢れた子、生きていてはいけない存在なのだ」

 

「親がどんな存在であろうと生まれた時点で罪がある子などいないのだよ。それがたとえ邪神の子であろうともな……」

 

「その存在自体が禁忌であるという者もいるのだ!邪魔をするというのなら貴様もただではおかんぞ!」

 

「余と敵対するか。それもよかろう、ならばかかってくるがいい」

 

「ほざけっ!!!」

 

  男達が一斉にアレイスターへと襲い掛かる。しかし、男達は多少なりとも修行を積んだといっても所詮ただの人間、アレイスターの手によって瞬く間に殺されていく。

 

「残るは貴公一人だな」

 

「おのれ……なんという理不尽な力だ……」

 

「貴様もあの少女の母を殺したのだろう?因果応報という奴だ。余が言っても説得力はないがな」

 

  最後の一人の頭が弾け飛ぶ。この場で生きているのはアレイスターと少女の二人のみであった。

 

「さて、少女よ。無事か?」

 

「は、はい。あの、助けてくれてありがとうございました」

 

  少女は怯えながらも感謝の言葉を口にする。

 

「礼はいらん。それよりも貴公の母を弔ってやらねばな」

 

「ぐすっ、母さまぁ……  うわぁぁぁぁぁん!」

 

  母の死を再確認したのか、少女が再び泣き始める。アレイスターは黙って少女の頭を撫で続けるのだった。

 

「朱乃からはなれろぉぉぉぉぉ!!!」

 

「ふむ?」

 

  突如大絶叫と共に光の槍がアレイスターへと降り注ぐ。無論、そんな物が効くアレイスターではないので障壁を張りそれを防ぐ。

  すると、一人の堕天使が降りて来た。

 

「その武人のような雰囲気、貴公には見覚えがあるぞ。たしか……バラキエルという名だったか?」

 

「何故貴様がこんな所にいるのかは知らんが朱乃から離れろ!そして朱璃の仇を取らせてもらう!たとえ、それが無謀な事だと分かっていようともな!」

 

  バラキエルは光の槍を携えてアレイスターへと特攻するが、小さな影がそれを防ぐ。

 

「止めて!!!」

 

「あ、朱乃!!!」

 

「どうしてこの人を殺そうとするの!この人は私を助けてくれたのに!」

 

  バラキエルは自身の娘である朱乃の突然の行動に狼狽する。アレイスターの事を妻を殺した張本人だと思っていたが、それは間違いであったらしい。

 

「この人が来てくれなかったら私も死んでたわ!父さまは一体何をやっていたの!今日はずっと家に居てくれるって、休みだって言ってたのに!父さまがいたら、母さまは死ななかったのに!」

 

  朱乃の糾弾が続く。

 

「母さまを殺した人達が言ってたわ!父さまが、黒い天使なのがいけないんだって!黒い天使は悪い人だからって!私もこの黒い翼があるから悪い子なんだって!こんな物、こんな物無かったら母さまも死ななかった!こんな黒い翼嫌いよ!あなたも嫌い!大嫌い!私の前から消えて!もう二度とその顔を見せないで!うわぁぁぁぁぁんっ!」

 

「あ、朱乃……」

 

「触らないで!」

 

  最後まで言い切った少女、朱乃はバラキエルの伸ばす手を振り払い、アレイスターにしがみつき大きな声で泣き始めた。バラキエルは何も言う事が出来ず沈痛な面持ちで下を向いている。

 

「親というのは難儀な物だな。この子は余が引き取ろう。なに、悪い様にはせん」

 

「なっ!しかし…… いや……そうだな…… 朱乃はこれからも狙われ続けるだろう。それならば貴様の元に居た方が安全なのかもしれん。貴様の元が世界で最も安全な場所なのは間違いないからな。だが一つ、一つだけ約束してくれ。朱乃を無事育てると」

 

「承った」

 

  バラキエルにとっても苦渋の決断だったのであろう。しかし娘の安全を願いアレイスターへと託す事を決めた。

  バラキエルの娘、姫島朱乃はアレイスターに引き取られる事となった。図らずも朱乃はアレイスターの元でその魔術の才能を開花させる。こうして、朱乃はブラックロッジの二人目の構成員となるのだった。

 


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