ハイスクールD×D ~転生した大導師~   作:尾尾

15 / 20
第15話

 

  自身が悪魔に転生したという衝撃の事実が発覚してから数日、イッセーは毎晩自転車に乗り市内を爆走していた。手に持つ携帯機器に表示された家のポストへとチラシを投函してはまた次の家へと向かう。悪魔のお仕事、と言えば聞こえは良いかもしれないがやっている事はただのチラシ配りだ。

  チラシ配りが悪魔の仕事?と思うかもしれないが、イッセーはまだ悪魔に成り立ての新人である。いうなればこのチラシ配りは新人研修であった。勿論これが終われば悪魔の本来の仕事である契約取りが待っているのだ。

  あの日、リアスはイッセーに言った。悪魔として功績を上げ爵位を貰えばハーレムも夢ではないと。それを聞いたイッセーのテンションの上がり方は尋常では無かった。それからのイッセーはまさにチラシ配りの鬼。今までリアス達の使い魔が一週間に配っていた量のチラシを一晩で配り切って見せたのだ。

  一方、アレイスターといえばあれからオカルト研究部に入り浸っていた。朱乃が入れたお茶を飲みながら小猫を撫で回し雑談をして飽きたら帰るという気ままな生活。リアスもアレイスターに対しては強気に出る事が出来なかった。それでもなんとか頼み込み、オカルト研究部に籍を置く事だけは容認させたのだった。

  そんなこんなで研修も終わり、今日はイッセーの契約取り初日だ。

 

「さぁ、イッセー。魔法陣の準備が出来たわ。中央に立ちなさい」

 

「は、はい!」

 

「イッセーに予想外のチラシ配りの才能があったから思ったより早く契約取りをさせてあげられるわ。今日イッセーに向かってもらうのは小猫に入った二件の予約の内の一つよ。そう難しい内容では無いはずだから気楽に行ってきてちょうだい」

 

「分かりました」

 

「この魔法陣は貴方を依頼人の下へ転移させ、依頼が終わればこの部室に戻してくれるわ。到着後はマニュアルを見て頑張りなさい。さ、もうすぐ転移が始まるわよ」

 

「おぉ!」

 

  魔法陣の準備をしていた朱乃とリアスが離れると、魔法陣が青く輝き始める。こういった類の物を見ると実際に悪魔になったのだなという実感が沸き起こってきた。

  魔法陣がより一層輝く。イッセーは思わず目をつむった。次に目を開いたら依頼人の目の前にいるのだろう。明るい未来の為の第一歩だ。しっかりと契約をとってみせる!そう意気込んでイッセーは

目を開い…………

 

「って、あれ?」

 

  目を開くとそこは見慣れたオカルト研究部。どういう事なのだろうか?何か不備があったのか?イッセーは思わずリアスの方へと振り向く。するとリアスは額に手を当て困り顔をしていた。

 

「イッセー」

 

「はい」

 

「どうやら貴方は魔法陣を介して依頼人の下へは行けないようなの」

 

「ん?」

 

  どういう事なのだろうか。リアスは先ほど眷属悪魔なら誰でも魔法陣を利用できると言っていたはずだ。説明を求めようとイッセーが他の部員の顔を見ればリアスと同様、皆困った顔をしている。

 

「魔法陣は一定の魔力が必要なのだけど…………  これは高い魔力なんて必要ないわ。それこそ子供でさえ出来るもの」

 

「つ、つまり?」

 

「つまり、貴方の魔力は子供以下。低レベルすぎて魔方陣が反応しないのよ」

 

「えぇぇぇぇぇぇ!」

 

  絶句するイッセー。魔方陣が利用出来ない、つまりイッセーは自らの足で依頼人の下へと向かわなくてはならないのだ。今までこんな悪魔がいただろうか?

 

「……無様」

 

「ああ、無様だな」

 

「あふん!やめて!小猫ちゃんもアレイ先輩もそんなゴミを見る目で見ないで!」

 

  二人分の強烈なジト目がイッセーに突き刺さる。しかし、いくらイッセーが嘆いた所でどうしようもない。無い物は無いのだ。

 

「イッセー!依頼人を待たせるわけにはいかないわ。しょうがないから今から自転車で現場に向かいなさい!」

 

「う、うわぁぁぁぁん!がんばりますぅぅぅぅ!」

 

  イッセーは涙を流しながら、チラシ配りの時同様、自転車に跨る。こうして、イッセーの契約取りは初日から難航する事となるのだった。

 

 

  ♢

 

 

「…………」

 

「あ、あの……  部長?」

 

  イッセーは産まれたての子鹿の様にプルプルと震えている。イッセーの眼前には明らかに怒っているリアスが立っていた。

  あれから数日、イッセーは二回契約取りを行った。しかし、結果は二回とも破談だったのだ。

 

「一回目は漫画のバトルごっこ、二回目は魔法少女のアニメを一緒に観てたですって?」

 

「あはは、前代未聞だよ」

 

「うぅ、反省してます。すみません」

 

  流石の木場もこれには苦笑するしかない。本来、依頼人と契約を結べなかった場合すぐさま帰還する、というのが普通のことなのだ。

 

「……契約後、依頼人にはアンケートを書いてもらうことになっているの。『悪魔との契約はいかがでしたか?』って」

 

  リアスが二枚のアンケート用紙を取り出してイッセーに文面を見せつける。

 

「一つ目は『楽しかったです。こんなに楽しかったのは初めてです。イッセー君とはまた会いたいです。次はいい契約をしたいと思います』 二つ目は『楽しかったにょ。またミルたんは悪魔君と魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブをみたいにょ。次はミルキーシリーズ一気見をしたいにょ』」

 

「森沢さん…… ミルたん……」

 

  イッセーは契約は結べなかった。しかし、依頼人は満足している。流石のリアスもこうなるとは予想する事が出来なかった。

 

「はぁ、こんなアンケート初めてでどうしたら良いか分からないわ」

 

「まぁ、そう怒るな、リアス・グレモリー。初心者なのだ。まだまだこれからだろう」

 

「アレイ先輩……」

 

  ここで、リアスに怒られる+二人のアンケートにより泣きそうになっていたイッセーにアレイスターが助け舟を差し出した。

 

「しかし、7オルタナティブか……  このミルたんという者はなかなか分かっているではないか。だが余からすれば無印の4が一番だがな」

 

「ん?んん???」

 

  あれ?おかしいぞ?今、目の前の人物から放たれるはずのない言葉が聞こえたような……  イッセーは思わず己の耳を疑う。

 

「そもそもとして魔法少女ミルキーは無印が本編でありオルタナティブが番外編である。本編が王道的な魔法少女であるのに対し、番外編であるオルタナティブはいまいち盛り上がりに欠けるという点がある。いや、決して余もオルタナティブを貶している訳ではないぞ。本編とは異なり、明確な敵が出てこなくダラダラとした日常物である分、安心して見れるというのは大きなポイントだ。脇役やライバルの活躍が多いというのもオルタナティブの人気の一つであろう。さて、少々話はそれたが次に何故余が無印ミルキー4を押すかという事を話そうと思う。無印ミルキー4の最大の目玉と言えばやはりミルキーのライバルであるダークミルキーの初登場作品であるということだろう。1~3まで順風満帆であったミルキーがダークミルキーと出会うことにより初めて挫折を味わう事になる。ミルキーとダークミルキーが『ストップ!ストップです!先輩!』む、まだ十分の一も話していないぞ」

 

「聞き間違いじゃなかった!いきなり何を言い出すんですか!」

 

  まさかアレイスターが魔法少女を語り出すとは思わなかったため、イッセーは呆然とするが我に返ると慌ててアレイスターを止めた。恐らく、アレイスターのあの様子では止めなければ永遠と魔法少女トークが続いていただろう。オカルト研究部の面々も信じられないような物を観たかのような顔をしている。

 

「何だ?余がこのような物に造詣が深いのがそんなにも奇妙か?」

 

  アレイスターの言葉に朱乃以外の皆が激しくブンブンと首を縦にふる。アレイスターと魔法少女、普通だったらどう考えても結びつかない両者だ。

 

「余ほど永く生きていればな、こういったサブカルチャーにも手を出すほど暇を持て余してしまうのだよ。まぁ、魔法少女については友の影響であるがな」

  

「はぁ」

 

  イッセーは分かったような分からないような生返事を返す。イッセー達はアレイスターについて知っている事は殆どない。それゆえ初めて分かった事が浮世離れしたアレイスターの趣味が魔法少女だったのというのがあまりに衝撃的だったのだ。

 

「さて、兵藤一誠。いつまでもそうしている時間は無いのではないか?」

 

「うわっ!本当だ!もう行かなきゃ次の契約に間に合わねぇ!それじゃあ部長!行ってきます!」

 

「イッセー!今度はしっかりと契約を結んで対価をもらってくるのよ!それが悪魔としての基本なのだからね!」

 

  はい!と元気の良い返事をしてイッセーはオカルト研究部の部室から飛び出して行った。新たな依頼人の元へと向かうのだ。

 

「全く。面白い子ね、イッセーは」

 

  イッセーを見送りながらリアスはそう呟いた。

  その後は続々と木場、朱乃も魔方陣で契約取りへと向かう。そんな中、小猫がアレイスターの服の裾を掴み話しかけた。

 

「……アレイ先輩」

 

「何だ?搭城小猫」

 

「私はミルキー6オルタナティブが好きです」

 

「なるほど。貴公もまたミルキニストであったか……」

 

  『魔法少女ミルキー』それは冥界、人間界問わず人々を魅了して止まない超人気作品なのである。

  こうして今日もまた、ミルキーの輪が広がるのだった。

 

 

  ♢

 

 

  学校からの帰り道。既に日が暮れて暗くなった市街地を一人、アレイスターが歩いていた。

 

「フリード、新たな報告か?」

 

  アレイスターがポツリと声を出した。辺りにはひと気がある様子はない。第三者から見ればただの独り言の様に聞こえるかもしれない。だが、それは誤りだ。

  アレイスターの声に呼応する様に一陣の風が吹く。すると何時の間にか一人の男がアレイスターの眼前に跪いていた。

 

「いえ、別に緊急事態って訳じゃ無いんですけどね。堕天使達が本格的に動き出す様で。どうします?目障りなら今すぐサクッと始末しちゃいますが」

 

「ふむ……」

 

  アレイスターは顎に手を当て暫し考え込む。そして数分後、考えが纏まったのか口を開いた。

 

「そうだな、その堕天使どもにはリアス・グレモリー達の当て馬になって貰おうか。フリード、お前はその者達の所へ潜り込んでおけ」

 

「なるほど、ボスも悪いお人っすね。それで?俺っちも赤龍帝の子にちょっかい出しても?」

 

「構わん、だが殺さぬ様にな」

 

「さっすがボスぅ!あっ、これは全然関係ない話なんですけどね。その堕天使達の所に一人、神器持ちの子がいるんすよ。その子がまた不憫な子でして。理不尽に教会の糞共に異端審問されて教会から追い出されたってのに健気に神を信じてがんばってるんですよ」

 

「ふむ」

 

「俺っち的にはもう見てるだけで涙がちょちょぎれそうになるからどうにかしてあげたいんですけど……」

 

「まぁそれについては好きにするが良い。自らが最善であると思う行動をしろ」

 

「了解っす!」

 

  やはり自分の主は最上だ。フリードはアレイスターへの忠誠を再確認して元気良く返事をする。正直、フリードのそれはもう盲信の域まで達しているのだがフリードの人生を垣間見ればそれもしょうがない事なのだろう。

  盲信的な部下というのは得てして、ある種の扱いずらさというものがある物だ。しかし、アレイスターには既にエセルドレーダがいた。エセルドレーダはアレイスターに対しては盲信を通り越して狂信の域である。アレイスターの為ならば即座に地球をぶっ壊すレベルだ。なので、アレイスターにしてみれば一人増えようが今更な話なのであった。




今日からまた、細細と更新を再開したいと思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。