ハイスクールD×D ~転生した大導師~   作:尾尾

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第18話

「言いたい事は色々あるかもしれないけれど先ずはイッセーの治療から始めるわよ」

 

  部室へと帰還してきたリアス一行。最近は怪我してばかりだと思いながらイッセーは治療を受けるのだった。

 

「部長、助けにきてくれてありがとうございました」

 

「私の大切な眷属だもの。当然の事だわ。それに謝らなければいけないのはこちらの方よ。ごめんなさいイッセー。まさか依頼人の元に堕天使達がいるとは思わなかったの」

 

「ッ!そうだ!あの神父!部長、なんで堕天使と神父が一緒に行動してたんですか!」

 

「あれは恐らくはぐれ悪魔払いよ」

 

「はぐれ悪魔払い?」

 

「はぐれ悪魔と似たようなものさ。教会で異端とされた悪魔払い。それがはぐれ悪魔払いだよ」

 

  イッセーの疑問に木場が横から答える。どの組織にもそういう者はいるのだ。人間社会でもそれは変わりない。

 

「さて、それじゃあこれからの予定を伝えるわ」

 

  そしてリアスの口から伝えられたのは、領土内に侵入した堕天使の討伐であった。

 

「領土への侵入のみならず、数名の民間人の殺害。流石にこれ以上黙っていろというのは無理な話だわ。『神の子を見張るもの』にも文句は言えないはずよ。既に敵の本拠地は掴んでる。イッセーの怪我が治り次第殴り込みに行くわよ!」

 

「な、殴り込みですか!」

 

「安心しなさいイッセー。今度は一人ではないわ。それに敵の主戦力は堕天使数名にあのはぐれ悪魔払い一人。十分私たちでも勝算のある相手よ」

 

「はい……」

 

  リアスの鼓舞する言葉にもイッセーはいまいち自信を持つ事ができない。イッセーの不安の種はフリードであった。先ほど感じたフリードの殺気。あれはリアス達が束になっても敵わない、別次元の存在の様に思えたのだ。そして僅かにだが自分の知る超常の存在、アレイ・クロウに似た雰囲気も感じ取っていた。

 

「あの……アレイ先輩は一緒に来ないんでしょうか?」

 

「それは出来ないわ。イッセー、貴方は私の眷属よ。けど、アレイは違う。これは私の領土内での不祥事なの。だから私たち自身で解決しなくては意味がないのよ。バイサーの時は勝手に着いてきてしまったけれど私はもうアレイを関わらせるつもりはないわ。勿論、アレイは大切なオカルト研究部の仲間だとは思っているわよ。関わらせないのは私達で対処しなくてはならない時だけ。わかってちょうだい」

 

  頼みの綱のアレイが参加しないと聞きイッセーの不安はさらに増してしまう。その様子を見たリアスは更に言葉を続ける。

 

「イッセー、貴方はあのシスターを助けたいんでしょう?」

 

「っ!?」

 

  今の言葉にイッセーが反応した。我ながらずるい言い方であるとリアスは自嘲する。

 

「さっきは助けられなかったあのシスター。今度は助けられるかもしれない。できるかどうか、それは貴方次第よ」

 

  リアスの言葉に段々とイッセーの目にやる気が灯っていく。

 

「俺が……俺がやれば……」

 

「そうよ、イッセー。貴方はどうするの?」

 

「やります!俺が!俺がアーシアを助けるんだ!」

 

「その意気よ!さぁ、話している間に怪我は完治したわ!早速だけど今から殴り込みに行くわよ!」

 

  イッセーがついに覚悟を決める。あの心優しきシスターを、自らの手で救うのだと。

  時間は未だ深夜、人一人歩いていない町をリアス達一行は堕天使の本拠地である教会へと向かうのであった。

 

 

  ♢

 

 

「あらあら、あちらも準備万端のようですわ」

 

  既に教会が目視できる距離まで近づいてきたリアス達。朱乃の言葉通り、武装した神父集団と二人の堕天使が教会の前に陣取っていた。

 

「ここは集団戦に向いている私と朱乃に任せなさい。イッセー、祐斗、小猫の三人は裏手から教会内に侵入するのよ」

 

「はい!」

 

「あそこに堕天使が二人いるということは教会内にはあの神父とリーダーの堕天使のみのはずよ。祐斗、小猫。イッセーを守ってあげてちょうだい。イッセー、兵士の特性は覚えているわね?プロモーションの許可を出すわ。全力でやりなさい」

 

「今から私が大きめの攻撃をします。その隙に走って下さい。それじゃあ行きますわ!」

 

  朱乃が手に集中させていた魔力を解き放つ。極大の雷が敵の集団を襲った。今のでおよそ3分の一は倒しただろう。その隙にイッセー達三人が走り出す。

 

「さて、朱乃。敵は人数が多いだけの烏合の衆。さっさと片付けてみんなの後を追うわよ」

 

「もちろんですわ」

 

  全身に魔力をたぎらせ、二人は敵中に飛び込むのだった。

 

 

  ♢

 

 

  一方、教会へと侵入する事に成功したイッセー達はフリードと相対していた。

 

「おっと!さっき会ったばっかなのにもう来たのか!それ程までに俺っちに切られたかったのかい?」

 

「バカな事いうんじゃねぇ!俺たちはお前たちを倒すために来たんだ!」

 

「俺っちを倒す?ブハハ!そいつは冗談きついわ~。チミ達が俺っちを倒すなんてそれなんて無理ゲー?」

 

「あいにくだが君に構ってる時間はあまりないんだ。さっさと決めさせてもらうよ」

 

  木場が持ち前のスピードを活かしフリードへと突撃する。

 

「んっんー、スピードは中々のもんだ」

 

「なっ!」

 

  木場が驚嘆の声を上げた。フリードは木場のスピードに対応し剣を容易く受け止めたのだ。

 

「君はどれだけ人をバカにすれば気が済むんだ」

 

「うん?なんのこっちゃ?」

 

  木場が憎々しげに見つめるフリードの手には一本の焼き鳥の串が握られていた。

 

「ハァァァァ?!な、なんだよそれ!」

 

「ハァァァァ?!悪魔君達は知らないんですか?こいつは『妖刀焼き鳥ブレード つくね』なんですけど?」

 

「妖刀焼き鳥ブレード つくね!?」

 

  何をバカな事を!と内心イッセーは叫ぶが現に木場の剣を受け止めたのだ。まさか本当に妖刀なのではないかと思いかけ……

 

「落ち着いて下さい二人とも。あれは本当にただの焼き鳥の串です。恐らく気で強化しているのでしょう。ちなみにあの串は駅前の焼き鳥屋の串です」

 

  小猫によって現実に戻された。

 

「ハッ!お、驚かせやがって……」

 

「君がそれで戦うというのなら僕はそれで構わないよ。ただ、いつまでその余裕が続くのかな?」

 

  気を取り直して木場が再度突貫する。

 

「ふっ!ほっ!せいっ!ちぇりゃあ!」

 

「グゥッ!」

 

  自身の全力を持ってフリードへと切りかかる。しかし、その刃がフリードを捉える事はなかった。炎の、氷の、雷の、光の、闇の、様々な魔剣を使い、時には二刀で切りかかろうとも全て焼き鳥の串に防がれる。

  その様子を見てイッセーは嫌な予感が当たったと考えていた。やはりフリードの実力は別格なのだ。しかし、フリードを突破しない限りアーシアを助ける事が出来ないのもまた事実。

 

「小猫ちゃん!」

 

  自信を戦車へとプロモーションさせて小猫とタイミングを合わせフリードへと殴りかかる。戦車二人分の打撃だ。これでダメージを受けないやつはそう居ない。だがそのイッセーの甘い考えは簡単に覆された。

 

「パワーもまぁ年齢を考えれば大したもんだ」

 

「おいおい、嘘だろ……本当に人間かよ」

 

「信じられません……」

 

  そこにはイッセーと小猫の二人の拳を受けてなおその場から一歩も動く事なく平然としているフリードの姿があった。

 

「お前達の個々の能力は良い線いってるよ。同年代でも上から数えた方が早いくらいはあるんじゃないの?」

 

  予期せぬ敵からの賞賛にイッセー達の動きが止まる。

 

「だけど俺っちには届かない。そんなんじゃアーシアちゃんを助けるなんぞ夢のまた夢だな」

 

「クソっ!」

 

「一つ、良い事を教えてやるよ。アーシアちゃんだけどな、このままだと無事じゃすまないだろうなぁ」

 

「どういう事だ!」

 

「この奥でなここのリーダーがアーシアちゃんを使って何かやろうとしてるんだよ。何をやろうとしているかは俺っちには分からんけど無事じゃすまないだろうな~」

 

「そんな!このままじゃアーシアが!なんで!なんで俺にはアーシアを助ける力がないんだ!」

 

「……おいおい、悪魔君。まだ使ってない力があるんじゃねーの?」

 

「……使ってない力?使ってない…… うん?そうか!神器か!」

 

  イッセーはすっかり忘れていたが自分には神器が宿っていることを思い出した。前にリアスが言っていた言葉、神器は思いに答える。ならばそれは今ではないのか。そしてイッセーは力の限り叫ぶ。

 

「お前が全ての始まりなんだ!お前のせいで俺は色々酷い目にあったんだぞ!だったら少しぐらい……少しぐらい俺に力をかしやがれぇぇぇ!」

 

『Dragon booster!!』

 

  光と共にイッセーの腕に紅い篭手が現れる。

 

「おおでた!よし!行くぜぇぇぇ!」

 

「ようやくか…… んじゃあかかって来なさいな!」

 

  イッセーの身体は自分が思っていたよりも速く動きフリードへと迫る。これが神器の能力なのだろうか、一瞬その考えが頭よぎるがいや今は目の前の敵を倒すのが先決だと考えて思考を切り替えフリードへと殴りかかった。

 

「ん~!良い具合になって来てるな!」

 

「すぐにその口を黙らせてやるよ!」

 

『boost』

 

  篭手から再び音声が流れる。その瞬間、イッセーは自分の中の力が増すのを感じた。

 

「おお!良いよ!良いよ!良い感じだよ!」

 

「うおおおおおお!」

 

『boost』

 

  雄叫びをあげながらイッセーは何度も何度もフリードへと殴りかかるがその度に焼き鳥の串で防がれ、避けられ、転がされる。だがイッセーがその手を休める事はなかった。

 

「ハァハァ」

 

「おっと!そろそろ悪魔君はお疲れかな?」

 

「……して」

 

「あん?」

 

「どうして!どうしてそれだけの力がありながらお前がアーシアを助けてやらないんだよ!お前、アーシアには優しかったじゃねーか!」

 

  疲労が溜まり限界へと近づきつつある中、イッセーはずっと疑問だった事をフリードに問いただした。その言葉にフリードの動きも止まる。

 

「……まぁ悪魔君のいう事も最もだな。確かに俺っちならアーシアちゃんを助けるのは簡単だ。だけどその役目は俺っちじゃないのさ」

 

「役目ってなんだよ!」

 

「役目っていうのは少し違うか…… 俺っちじゃアーシアちゃんを本当に光の当たる場所に連れて行く事が出来ないのさ」

 

「何言ってるのかわかんねーよ!」

 

「おーう、もう限界か」

 

    イッセーの打撃に遂に耐えられなくなったのかフリードの持つ妖刀焼き鳥ブレード つくねが真ん中から折れた。まぁ焼き鳥の串にしてはよく持ったほうだろう。

 

「アーシアはお前を信用していた!光の当たる場所だかなんだかはしらーねけどお前のそれは全部ただの言い訳だろうがぁぁぁぁぁ!」

 

『Explosion!!』

 

「何っ!うぉぉお!」

 

  イッセーの怒号と共に再び篭手から音声が流れる。その瞬間、イッセーの身体は爆発的に加速し、その拳は遂にフリードへと頬へと突き刺さった。フリードはそのまま吹き飛ばされ壁へと衝突する。

 

「ハァハァ……ど、どうだ!やったぞ!」

 

「おー、痛つつ。良いの一発もらっちゃ……プベッ!」

 

  フリードが再び動き出そうとした瞬間、何処からか座椅子が落下してフリードに命中した。その後立て続けにいくつもの座椅子が落下して完全にフリードは下敷きになってしまった。

 

「こ、小猫ちゃん……」

 

「何か文句でも?祐斗先輩」

 

「い、いや何も……」

 

  座椅子を投げた犯人、それは他でもない小猫だった。騎士として一言文句を言いたい木場ではあったが、何か落ち度でも?と言いたげな小猫の前に黙るしかないのであった。

 

「さて、行きましょう二人とも」

 

「お、おう」「う、うん」

 

  学園のマスコットである小猫の正体は恐ろしかった……そう思いながらイッセーは先に進むのだった。

 

 

  ♢

 

 

イッセー達が去ってから少し後、教会内に二人分の足音が響き渡る。

 

「いつまでそうしてるのフリード。それともお仕置きがお望みかしら?」

 

「はい起きた!俺っち今起きたよ!だからその手の魔力は引っ込めてぇぇぇ!」

 

  フリードの上に覆いかぶさっていたいくつもの座椅子が一瞬で細切れになり、下からフリードが現れる。

 

「全く、最初からそうすれば良いのよ」

 

「姐さんは容赦なさすぎて俺っちガクブルだわー」

 

  フリードにとってエセルドレーダとは母親の様な存在であり、どうにも頭が上がらないのであった。

 

「今代の赤龍帝はどうであった?」

 

「はい、ボス。実力はまだまだ橋にも棒にもかかりません。しかし…… 爆発力は大したものです。俺っちも最後に良いの一発くらっちゃいました。将来が楽しみですね」

 

「ほう?お前がか?」

 

  頬を抑えながら苦笑するフリード。アレイスターは興味深そうに聞き返した。

 

「ええ、ああいうのがボスの言うヒーローってやつなんでしょうね。耳の痛い小言も貰っちゃいましたよ」

 

「そう思うなら最初からあの娘を助けてやれば良かったものを」

 

「後悔先に立たずって奴です。けどもうアーシアちゃんには俺っちは必要ないですよ。今度こそ本当の友達が沢山出来るんだから……」

 

「さて、お前がそう思っても相手がそう思ってるとは限らんがな……」

 

「何か言いましたかボス?」

 

「いや、何も…… ふむ、どうやらあちらも終わったようだ」

 

『吹っ飛べ!クソ天使ッ!』

 

  アレイスターが言葉を言い終えるその時、イッセーの大声と強烈な打撃音が教会内に響き渡った。

 

「これでようやくプロローグが終わりを告げるか」

 

  イッセー達が堕天使を倒したのだろう。もはやここに用事のないアレイスター達も帰路に着こうとした瞬間、教会内を巨大な魔力が支配した。

 

「これは……」

 

「マスター!」

 

  この感覚、アレイスターとエセルドレーダにとっては忘れる事など出来ない、前世で幾度となく感じてきたものであった。

 

「この感覚。中々に力のある魔導書だな」

 

  次の瞬間には重苦しい気配は霧散した。力を感じたのは一瞬。恐らく魔導書の持ち主は既に逃げ去ったのだろう。

 

「失態だな、フリード」

 

「も、申し訳ありませんボス!今すぐ持ち主をぶっ殺して……」

 

「いや、今回はこれほどの魔導書が近くにありながら気づかなかった余の落ち度でもある。それよりもフリード、お前は今から魔導書の持ち主を監視しろ。殺す必要はない」

 

「了解です」

 

  フリードは一陣の風となりその場から消え失せた。

 

「まさかこの世界に機械神を召喚する事の出来るほどの力を持つ魔導書が存在していたとは……」

 

「イエス、マスター。たとえどんな相手であろうとマスターと私、そしてリベル・レギスの前には敵は居ません」

 

「勿論だともエセルドレーダ。あぁ一体どのような担い手なのだろうか。今から楽しみであるな」

 

   アレイスターは大きな笑い声をあげながらその場を立ち去るのだった。

 

 

  ♢

 

 

  ここは神の子を見張るものの本拠地のとある一室。八枚翼の堕天使とボロボロになった一人の中級堕天使が顔を合わせて居た。

 

「コカビエル様!遂に、遂にこれが完成いたしました!」

 

  ボロボロの堕天使、レイナーレが興奮しながら八枚翼の堕天使、コカビエルへと一冊の本を差し出した。

  レイナーレの持つ魔導書『金枝篇 血液言語版』 それは666人の血、そして一人の信心深い聖女の血を吸う事で完成となる魔導書であった。レイナーレはリアス達に止めをさされる直前、最後の力を引き絞りアーシアの血液を奪取、そしてあらかじめ仕込んで置いた術式で神の子を見張るものに帰還し無事コカビエルから言い渡された任務をこなしたのだった。

 

「よくやった。だが貴様の役割はこれで終わりだ」

 

  レイナーレから魔導書を受け取ったコカビエルは光の槍をレイナーレに突き刺した。

 

「な……何故……コカビエル様……」

 

「何故俺がわざわざ手間を掛けて貴様に魔導書の完成を任せたか分かるか?貴様は聖女の血を吸わせて完成だと思っていたようだがそれは違う。最後に必要な工程、それは持ち主の魂を捧げる事だ」

 

「そ……そんな……私は……至高の……堕天使……に……」

 

「安心しろ。至高の堕天使には俺がなる」

 

  コカビエルは虫の息であったレイナーレの頭をぐしゃりと踏み潰し高笑いを上げた。

 

「フハハハハハ!ようやくだ!ようやく奴を打倒できる力を手に入れた!待っていろアレイスター!

貴様はこの俺、コカビエルが殺す!」




ようやく一巻が終了です。長かった……
あと、最近時間がなくて皆さん全員の感想に返信するのが難しくなっています。
ご了承下さい。感想をいただけるのは大変ありがたく原動力にもなるのでよろしければこれからも感想をいただけると嬉しいです。

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