ハイスクールD×D ~転生した大導師~   作:尾尾

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こっそり投稿……


第19話

 

 

アーシアが悪魔となった教会襲撃から数日が経ち、イッセー達は平和な日々を過ごしていた。勿論悪魔となったのだから今までの通りの生活というわけにはいかない。イッセーはリアス監督の下、毎日トレーニングに励んでいる。同様にアーシアもイッセーと共に深夜のチラシ配りの仕事をやっていた。しかしそんな平和は長くは続かない。新たな騒乱が着々と近づいているのだった。

 

「はぁ~」

 

  現在、イッセー、アーシア、木場の三人は旧校舎にある部室へと向かっている。イッセーはため息をつきながら廊下を歩き、その足取りはどことなく重い。アーシアがそれを心配そうに見つめているがその視線にイッセーは気づかなかった。

 

「部長は一体どうしたんだろう……」

 

  リアスはこのところどこか心ここにあらずといったようにボーッとしている事が多かった。誰が話しかけても反応が鈍く、何かしら厄介事を抱えているのはイッセーから見ても丸わかりであった。

  そして遂に昨夜、イッセーの部屋にリアスが押しかけ裸で抱いてくれと迫ってきたのだ。流石のイッセーもこれには驚いた。勿論、眼福ではあったのだがいきなり抱いてくれと言われはいそうですかと頷けるほどの度量は童貞のイッセーには無い。そのままリアスに押し倒され理性が飛びそうになったその時、一人の乱入者に止められその場は収まったのだった。

  昨夜の怒涛の出来事の中では混乱の極地にいたイッセーだが、一夜明ければ流石に冷静になってくる。リアスがあそこまで強行手段に出たのだ。事態はイッセーが思っていたよりも深刻なのかもしれない。以上が現在イッセーを悩ましている出来事の一連の流れだった。

 

「部長のお悩みか。たぶん、グレモリー家に関わる事じゃないかな?」

 

  イッセーは移動中に木場へと尋ねる。帰ってきた答えは以上の通り。木場は詳しくは知らないようだ。眷属になってまだ数日であるイッセーは悪魔の事情などまだまだ知る由も無い。ましてやグレモリー家などと言われても分かるはずもなかった。

 

「朱乃さんなら知ってるよな?」

 

「そうだね。朱乃さんは部長の懐刀だから」

 

  あまりリアスの事情を詮索するのは良く無いとはわかっていながらもイッセーはどうしてもその事が気になるのであった。

  そんな事をしているうちにオカルト研究部の扉が見えてくる。

 

「僕がここまで来て初めて気配に気づくなんて……」

 

  木場は目を細め、顔を強張らせる。恐らく何か感じ取ったのだろうがイッセーはそんな事はお構いなしと扉を開ける。

 

「全員揃ったわね。では、部活をする前に少し話があるの」

 

  部屋の中にいたのはリアス、朱乃、小猫、そして昨夜イッセーを止めた銀髪のメイド、グレイフィアの四人であった。いつもの和気あいあいとした雰囲気はなりをひそめ、張り詰めた空気が部室内を支配している。

 

「実はね……」

 

  リアスが口を開いた瞬間、部屋の中心の魔法陣が光出した。もともと書かれていたグレモリーの紋様がイッセーの知らない形へと変化してゆく。

 

「────フェニックス」

 

  木場の呟いた言葉と共に眩い光が部屋を覆った。次の瞬間、魔方陣から炎が巻き起こり人影が現れる。そのシルエットが腕を一振りすると周囲の炎が掻き消えた。

 

「ふぅ、人間界は久しぶりだ」

 

  現れたのは赤いスーツを身に纏う一人の男。

 

「愛しのリアス。会いに来たぜ」

 

  男は片手で髪を掻きあげ甘ったるい声でそう言い放った。

 

 

  ♢

 

「いやー、リアスの女王が淹れてくれたお茶は美味しい物だな」

 

「痛み入りますわ」

 

  魔方陣から現れた男ライザー・フェニックス、純潔の上級悪魔であり古い家柄を持つフェニックス家の三男、グレイフィアからそう説明されたイッセーは驚きを隠せなかった。さらにその後、リアスの婚約者だと伝えられた時のイッセーの表情は筆舌に尽くし難いものであった。

  そのライザーは現在ソファに座りリアスの髪や肩などを触り続けている。単なる下僕でしかないイッセー達は少し離れた席からそんな二人の様子を見ている事しか出来ず歯痒い思いをしていた。

 

「いい加減にしてちょうだい!」

 

  そんな中、遂に堪忍袋の緒が切れたリアスの怒号が室内に響き渡った。リアスは立ち上がりライザーを鋭く睨んでいる。

 

「ライザー!前にも言ったはずよ!私はあなたと結婚なんてしないわ!」

 

「はぁ、リアス。そんなまがままが通用すると思っているのか?分からないのか?この縁談には悪魔の未来がかかっているんだ。君だってグレモリー家を潰すわけにはいかないんだろ?」

 

「私は家を潰さないわ!婿養子だって迎え入れるつもりよ。でもライザー、それはあなたじゃない!私は私が良いとおもった者と結婚する。それぐらいの権利はあるはずだわ!」

 

リアスのはっきりとした拒絶の言葉にニヤニヤとした笑みを浮かべていたライザーの機嫌が徐々に悪くなっていく。

 

「これでも俺はフェニックス家の看板を背負った悪魔なんだよ。フェニックス家に泥を塗るわけにはいかないんだ。だいたい俺はこんなところには来たくなかったんだ。人間界の炎を風は来たない。フェニックスの悪魔としては堪え難いんだよ!」

 

  ライザーの言葉と共に周囲を炎が駆け巡る。

 

「俺は君の下僕を全部燃やし尽くしてでも君を冥界に連れ帰るぞ!」

 

  ライザーから放たれたプレッシャーが部屋を支配するとともに炎が勢いを増した。ライザーは堕天使よりも圧倒的に強いのだろう。イッセーはその殺意、敵意に晒され全身が震え出す。

  ライザーの炎が背中へと集まり翼のような形を作り出す。確かにその姿はフェニックスにふさわしかった。限界まで張り詰めた部屋の空気。いよいよライザーが動きだそうとした瞬間、いつもの冷静で恐ろしい、しかしイッセーにとっては何よりも心強い男の声が響き渡った。

 

「やれやれ、この場は話し合いの場ではなかったのか?どこぞのネゴシエイターではあるまいし。それ以上は些か無粋ではないか?」

 

  いつも通り、気づけはアレイスターがソファへと腰掛けている。一触即発の部屋の雰囲気などお構いなしにくつろぐその姿はイッセーに落ち着きと安堵を与えてくれるものだった。

 

「ちょっとアレイ。今は大事な話し合い中なん『リアス!!!下がりなさい!!!』キャッ!」

 

  グレモリー眷属でないアレイスターを巻き込む訳にはいかないとリアスがアレイスターへと退出を促そうとした瞬間、リアスは強い力に引っ張られ投げ飛ばされた。一体全体何事かと思ってみればグレイフィアが顔を真っ青にさせ震えながらもここは通さないと言わんばかりにアレイスターの前に立ちふさがっていた。

 

「ちょ、ちょっといきなりどうしたのよグレイフィア」

 

「何をしてるのリアス!早く逃げなさい!ライザー様も!一刻も早くこの場から離れるのよ!」

 

  グレイフィアはメイド時の敬語ではなく切羽詰まったようにそう叫んだ。今までそのようなグレイフィアを見たことがなかったリアスは慌ててグレイフィアを止めようとする。

 

「急にどうしたのよグレイフィア!あれはオカルト研究部の部員のアレイ・クロウよ!落ち着いて!」

 

「アレイ・クロウですって!何をバカな!あれは……あれはアレイス『始めまして。アレイ・クロウだ。今はそう名乗っている。間違えるなよ?』 ッ!!!」

 

  アレイスターから言葉を掛けられる。ただそれだけでグレイフィアは立ち向かおうとしていた心がくじけそうになった。何に変えても自分の義妹を守らなくてはならない、意識が飛びそうになりながらもグレイフィアはアレイスターから発せられる重圧に耐えた。

  グレイフィアは大戦を生き残った悪魔だ。当然アレイスターのことは知っているし戦場で見かけたこともある。そう知っているのだ。アレイスターのその理不尽なまでの力を。それゆえグレイフィアはアレイスターを恐れる。グレイフィアにとってアレイスターとは恐怖の象徴であった。どれだけ夫からアレイスターはそんな奴じゃないと言われてもそれだけは今まで変わることはなかった。

 

「奴もいい女を妻にしたものだ。余を知りつつも立ち向かおうとするのだからな」

 

「あなたは……あなたは何故このようなところに?」

 

「そうだな…… 面白いものを見つけた、とでも言っておこうか」

 

  当然その答えはグレイフィアが納得できるものではなかったがこれ以上アレイスターに問いただしても何も答えないだろうし、そもそもグレイフィアにはアレイスターに対して問いただすという行為ができなかった。

 

「さて、グレモリー家とフェニックス家との縁談であったな。話し合いが難航しているようだが余にいい考えがあるぞ。たしか成人した悪魔同士が戦うゲームがあっただろう?その勝者の言い分を聞くというのはどうだ?」

 

「レーディングゲームのことでしょうか?」

 

「そう、それだ。異論はあるか?」

 

「いえ。この世にあなたに意見できる者がどれだけ居ましょうか?少なくとも私には無理です」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!なに勝手に話を進めてるの!というかグレイフィアはアレイと知り合いなの?!」

 

  グレイフィアが動き出してから呆気に取られて居たリアス達、そしてライザー。いち早く正気に戻ったリアスが抗議の声を上げた。

 

「お嬢様、もともと話し合いがこじれた時はレーディングゲームで決着をつけよと両家から仰せつかっております。これはもともと予想されていたことです。そして私とアレイ様が知り合いかという問いについては答えることは出来ません」

 

 ある程度落ち着きを取り戻したのか元の口調に戻ったグレイフィアがそう答える。

 

「な、なんだかよく分からんがゲームで決着をつけるというならば好都合だ。だけどリアス。本当に良いのか?」

 

「どう言うことかしら?」

 

「なに、俺はすでに成人しているし何度もゲームをやっている。それになぁリアス、まさかここにいる面子が君の下僕なのか?」

 

「アレイは違うけどかねがねあってるわ。だとしたらどうなの?」

 

「これじゃあ話にならないんじゃないか?君の女王である雷の巫女ぐらいしか俺の可愛い下僕に対抗出来そうにないな」

 

 そう良いながらライザーがパチンと指を鳴らすとフェニックスの魔法陣が光出し総勢15名の眷属悪魔が現れた。

 

「とまぁこんなもんだ。これを見てもまだ君は勝ち目があると思うのか?」

 

「くっ!」

 

  ライザーが自慢げにそう言い放つ。数というのはなんにおいても大きなアドバンテージとなる。質より量という言葉があるくらいだ。レーディングゲームにおいてもそれは変わらない。だが、量に勝る質があるのなら話は変わる。質より量、しかしまだ若いリアスの手札には量に勝る質は存在していなかった。

 

「だが俺も鬼じゃない。そこの人間、あれを助っ人として参加させてもいいぞ。かまいませんよね?グレイフィアさま」

 

「それは……」

 

  グレイフィアが言い淀む。アレイスターこそ量より質の典型だろう。アレイスターが出れば完全に出来レースになる。いや、そんな些細な問題ではない。きっと冥界中が大騒ぎになるに違いない。そんな事はグレイフィアも分かっている。どうしようか悩んでいると当の本人であるアレイスターが拒否の声をあげた。

 

「何故余がおままごとに付き合わなければならんのだ?」

 

「おままごとだと!」

 

「むしろおままごと以外のなんだというのだ?余からすれば貴公らの戦いなど児戯に等しい」

 

「き、貴様!先ほどから黙っていれば調子に乗りやがって!」

 

「ほう?余に弓を引くか」

 

「黙れ!そのすかした口を二度と開けないようにしてやる!」

 

「いけません!ライザー様!」

 

  グレイフィアの静止も虚しく、激昂したライザーがアレイスターめがけて炎を放つ。

 

「アレイ!」 「先輩!」

 

  その様子を見たイッセー達は悲鳴をあげる。アレイスターはいつもの微笑を浮かべ、一切の回避行動を取らずに炎に包まれた。

 

「なんてことを……」

 

  グレイフィアがそうつぶやく。次の瞬間、燃え盛る炎は一瞬にして消え失せ中から無傷のアレイスターが現れる。

 

「なっ!ば、馬鹿な!俺の炎が!」

 

「この程度の炎など我が宿敵の無限熱量に比べれば微々たるものだ」

 

「待ってください!どうか!どうか寛大な慈悲を!」

 

  立ち上がり一歩、また一歩とライザーの元へ歩みを進めるアレイスターへとグレイフィアは必死に頭を下げ許しを請う。

 

「下がっていろ、メイド。躾のなっていない子供を叱るのは大人の役目だ」

 

「ひぃっ!く、くるな!なんなんだ!なんなんだお前は!」

 

  ライザーは尻餅をつきながらも必死に炎を飛ばすがまるで効果は無くアレイスターの歩みを止めることは出来ない。自慢の眷属達も完全にアレイスターに臆しているようで使い物にならなかった。

 

「少しばかり反省する事だな。なに、フェニックスなのだ。一週間程で元に戻るだろう」

 

「うわぁぁぁ!なんだこれは!俺はフェニックスだぞ!嫌だ!俺は……俺は誇り高きフェニッ……」

 

  アレイスターが手をかざした瞬間、ライザーのつま先が凍り始める。ライザーは氷を溶かそうと炎を放つが氷の侵食を止めることは出来ない。そして時間にして数秒、もがき断末魔をあげながらライザーは完璧な氷像に変わってしまった。

 

「一体どういうことなのよこれは……」

 

  しんと静まりかえった部室で先ほどから置いてきぼりであったリアスがそうつぶやいた。アレイスターの登場、グレイフィアの変貌、最後はフェニックスの氷像だ。

 

「くくくっ……誇り高きフェニックスか。ならこの氷像は誇り高きフェニックスの像と名付けてやろうではないか」

 

  アレイスターは愉快そうに笑う。フェニックスは炎の化身だ。それが凍るなんて一体どういうことなのだろうか?子猫は珍しそうにライザーをペシペシと叩いている。それを見たリアスはもう考えることを諦めるのだった。

 

「お嬢様、今日のところは解散にしましょう。ゲームの詳細は後日お伝えいたします」

 

「え?」

 

「申し訳ありませんが私は至急冥界へと帰還しなくてはならなくなりました。それでは皆様、アレイ様、失礼いたします」

 

「ちょっ!グレイフィア!」

 

  リアスの制止も無視し氷像となったライザーをひっ掴むとライザーの眷属達と共にグレイフィアは冥界へと帰還してしまうのであった。

 

 

  ♢

 

 

「何ということをしでかしてくれたのだあのバカ息子は!」

 

  ここは冥界のとある屋敷、魔王ルシファーの居住だ。その屋敷の廊下を一人の中年男性が慌てながら歩いていた。息を切らせながら進むこと数分、目的の部屋にたどり着き男性は身なりを整え入室した。

 

「魔王さま!遅くなりました!」

 

「おぉ、フェニックス卿もいらっしゃったか」

 

「これはこれはグレモリー卿。お待たせしてしまい申し訳ない」

 

  部屋ににいたのは中年と青年の男性、そして女性が一人。魔王ルシファーとグレイフィア、そしてサーゼクスの父、グレモリー卿だ。

 

「この度はライザーが大変な迷惑を……」

 

「いやいや、フェニックス卿。今回の事は誰が予想できましょうか。まさか今になって彼が現れるとは……」

 

「いや、私がしっかりと教育しておけばあの魔人に喧嘩を売るなんてバカな真似はしなかったでしょうに。あぁ!三男だからといって好きにさせていたのが間違いだった!もうフェニックス家はお終いだ!縁談ももう破談にした方が良いでしょう。そうでないとグレモリー家にも迷惑がかかる」

 

「いや、それはやめた方が良いでしょう」

 

  完全に憔悴しきった顔で破談を進めるフェニックス卿にサーゼクスが待ったを掛けた。

 

「今回は彼、アレイスターがレーディングゲームをするように提案した、そうだろう?グレイフィア」

 

「はい」

 

「ならばこのままゲームを行うべきでしょう。むしろ破談にした方場合アレイスターがどう出るのか予測できません。それよりもライザー君がアレイスターの満足するゲームを行えば彼は何もしないでしょう」

 

「フェニックス家の命運はライザー、あのバカ息子にかかっているという訳か……あぁ!不安だ!どうしてルヴァルじゃないんだ!」

 

「落ち着いて下さいフェニックス卿。流石に彼もフェニックス家を潰すということはしないでしょう……たぶん。それよりも何故今になって彼が出てきたのか……」

 

「……我々に対しての復讐ではないのか?サーゼクス。我々は彼に対して取り返しのつかない事をしてしまったから」

 

「いえ、それはないでしょう父上。彼はそんな事を気にする男ではありません。それに復讐であるのならあの時にすべて終わらせていたはずです。それよりもフェニックス卿、父上。決してアレイスターの事は口外しないでいただきたい。下手に漏らせば冥界は大混乱になる」

 

「わかっとる」

 

「ええ、勿論ですとも」

 

「あぁ、アレイスター。君は何故今になって現れたんだい?現れるなら僕たちの目の前に出てきてくれれば良いのに。いやきっともうすぐ会えるんだろうね。その時が楽しみでしょうがないよ」

 


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