ハイスクールD×D ~転生した大導師~   作:尾尾

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第2話

 

  この世界にマスターテリオンが生まれ落ちて12年、分かったことといえばこの世界は以前とはまるで異なっているということだけだ。確かに地球という点は同じでありこの世界にも魔術、悪魔、天使、堕天使、そして神というものは存在していた。しかしその実態はかつての世界に比べれば脆弱なものである。神とは名ばかりで宇宙一つ破壊する力も持たない。かの邪神と比べるにもおこがましいほどちっぽけな存在、それがこの世界の神であった。

 

(マスター、そろそろお父上が迎えにくる時間です)

 

(もうそんな時間か……)

 

  今はすっかり日課となった鍛錬の時間だ。いや、鍛錬というよりは力の確認というのが正しいかもしれない。この世界での父、エドガーは悪魔であり母、ミーシャは人間であった。つまりマスターテリオン、改めアレイスターは悪魔と人間のハーフとしてこの世界に生まれ落ちた。しかしどういう訳か邪神の因子も未だ体の中に存在している。従って今のアレイスターの身体は半分が人間、四分の一が悪魔、残る四分の一が邪神といった割合で構成されていた。そして悪魔の血が新しく流れているせいなのか、かつての全盛期に比べればおよそ魔力は半分以下にまで低下し使用する事のできない術式もいくつか存在していた。ド・マリニーの時計などがその典型だ。それゆえ少しばかり不安定になった力と己の新しい身体の確認をしていたのだ。

  それと同時にアレイスターはこの世界の魔術にも手を出していた。以前の世界では大導師を名乗る程には魔術の造詣が深かったアレイスターにとって、この世界の目新しい魔術は十分興味深いものだったのだ。

 

(お前にも窮屈な思いをさせるなエセルドレーダ)

 

(滅相もございませんマスター。私の喜びはマスターと共にあること。何にも囚われずただ平和にマスターと共に過ごす、これ程の幸せはありません)

 

  現在、わりかし満足している生活を送っていたアレイスターにとって、ただ一つだけ困った事があるとすればそれはエセルドレーダの事。どうにかして彼女を人型にしてやりたいのだが幾ら試していてもナコト写本として現れるのみであり開く事もできない。勿論リベル・レギスも召喚出来ないのだがあれはこの世界には過ぎた力であるので問題はない。しかしアレイスターは伴侶であるエセルドレーダの事だけはどうにかしてやりたいと思っていたのだ。

 

「おーい!アレイスター!もう昼食の時間だぞ~!」

 

  今世でのアレイスターの父、エドガーが向こうから声を張り上げ走ってくる。

 

「今日も相変わらず派手にやったもんだなぁってその本どうしたんだアレイスター?」

 

「ふむ、父には見せた事がなかったか。これは余の半身とも言えるべき存在、ナコト写本だ。昔は開く事が出来たのだがどういう訳か開かなくなってしまってな」

 

「何かその本、物凄い気を感じるぞ。父さんバカだからよく分からないがただの本には見えないな。神器ってやつじゃないのか?」

 

「神器?何だそれは?」

 

「おお!アレイスターにも分からない事があったんだな!父さん感激だよ!神器ってのは確か聖書の神が作った物で色々な効果がある魔道具みたいなものだったかな?本来は人間にしか宿らない筈だがきっとお前は母さんの血を受け継いでいるから神器を宿しているのだろう。詳しい事は母さんに聞くといい。母さんも神器を持っているからな」

 

「ふむ、なるほど」

 

  アレイスターは手の中のナコト写本を眺める。エドガーはこれを神器と言ったがアレイスターは内心、それを否定する。さらに、自分の相棒であるナコト写本がこの世界のちっぽけな神が創り出した物と一緒にされる事に苛立ちさえ感じるのだった。

 

 

  ♢

 

 

  「まぁ!それじゃあアレイスターも神器を持っているのね!さすが私の子だわ!」

 

「とりあえず神器について詳しく教えて貰いたいのだが」

 

  家に帰ると母が昼食の準備を終えアレイスター達の帰りを待っていた。母、ミーシェは神器の事を話すととても喜んでいる様子でアレイスターの事を褒め抱きしめる。たったそれだけの事、普通の家族だったのならば当たり前の事だが今まで体験した事のない両親との触れ合いをアレイスターは嫌がる事なく受け入れるた。

 

「ええ、神器は聖書の神が作ったっていうのは知ってるのよね?そうね、先ず神器には色々な種類があるわ。純粋に武器として戦闘能力を持つもの、傷を癒したりするもの、はたまたまるで役に立たない物まで。きっと生み出した神ですら全ては把握していないんじゃないかしら。ちなみに私の神器は

白炎の双手、炎を生み出す神器よ。これがお料理にとっても便利なのよ!」

 

「母さんはこんな事言ってるが昔俺はそれに幾度となく焼かれたぞ。いま思い出しても身震いがする……」

 

「あらやだ!そんな事あったかしら?お母さん忘れちゃったわ」

 

  この世界での両親はかつて敵対していたらしく何度も戦ったらしい。今の母の姿からは想像する事が出来ないが若気の至りというやつなのだろう、アレイスターははしゃぐ母を見ながらその様な事を考えていた。

 

「神器は人に様々な力を与えてくれるわ。それを悪用するもしないもその人次第。まぁアレイスターにはそんな心配はいらないでしょうけどね。神器は人の思いに答える力よ。たとえばね、神器の中には神滅具と呼ばれる物があるわ。それらは人の身でありながら神をも殺す事が出来ると言われているのよ。人間の可能性は無限大ってやつね」

 

  人の身でありながら神をも殺す……かつて大十字九郎がなし遂げた事だ。人間の可能性ーーそれはアレイスター自身が一番良く分かっていることであった。

 

「アレイスターは自分の神器がどういった物か分かっているのかしら?」

 

「ああ、だがそれを教える事は出来ない」

 

「そう、アレイスターがそういうのならそれでいいわ。きっと貴方には私たちには思いも寄らない考えがあるのでしょう。貴方は昔からそうだったわ」

 

「母よ、感謝する」

 

  両親もやはり何処か違和感を感じていたのだろう。それも無理はない。しかしそれを受け入れ自分を愛し育ててくれる両親の事をアレイスターは愛おしく思い始めていた。

 

「今日は実は父さんからも話があるんだ。アレイスターももう12歳になっただろう?実はルシファー様から王都の学校に入学する許可が貰えたんだ!アレイスター、学校に興味はないか?」

 

  どうやらアレイスターへ王都の学校への誘いの様だ。しかし王都の学校はソロモン72柱のような貴族達が通う学校である。本来父の悪魔としての階級はソロモン72柱以外の家名すらない有象無象の一悪魔。その様な平民では全く縁のないところであるはずだった。しかし父であるエドガーは己の武力を持ってその力を示し魔王ルシファーの眷属に選ばれた唯一の平民悪魔だ。どうやらアレイスターの事を聞いた魔王ルシファーが特別に王都の学校に通う許可を出したようであった。

 

「どうだアレイスター?お前にも同年代の友達がいてもいいんじゃないか?」

 

「でもあなた、ただでさえハーフなのに平民のアレイスターが王都の学校なんかに通ったら虐められてしまうんじゃないかしら?私心配だわ!」

 

「おいおい、ミーシャ馬鹿な事いうな。よく考えろよ。三歳の頃に親子のスキンシップのキャッチボールで危うく俺を爆散させる様なやつだぞ。そんな心配はいらないさ」

 

「…………それもそうね」

 

  母が反対しようとするが一瞬で父に論破される。確かにアレイスターは父との初めてのキャッチボールにて、いささか力を入れず過ぎてしまった事があった。エドガーが必死に避けなければきっと死んでいたに違いない威力で球を投げたのだ。

  後日、アレイスターはこれをグランドマスターたる余の一生の不覚である、と語っている。

 

「それに王都には色んな書物があるぞ。きっとお前の知らない事が沢山待っているだろう」

 

  未知が待っていると聞けばふつふつと興味が湧いてくる。ここ数年でアレイスターは家にある魔道書は読み尽くしてしまっていた。更なる知識を得るならば王都の学校へ行くのが一番の方法なのは明白だった。

 

(王都へと行けばエセルドーレダを召喚する方法も分かるかも知れんな)

 

(マスター……)

 

「父よ、決めたぞ。余は王都の学校へと行こうと思う」

 

「お!本当か!いやーこれでアレイスターが断ったりしたら俺が気まずくなるからよかったよ」

 

「アレイスターがそう決めたなら私は何も言わないわ。貴方は貴方が思う道を行きなさい」

 

「よし!そうとなったら早速準備だ!入学式は来月にあるから急いで色々揃えないとな」

 

  学校へと通うのならば必要となる物は色々ある。両親は早速準備のために動き出そうとしていた。

 

(さぁエセルドレーダ、来月からはまた新たな生活が始まるぞ)

 

(イエス、マスター。マスターと共になら何処へでも)

 

  冥界の王都の学校、そこにはどんな未知が待っているのだろうか。柄にもなくアレイスターは期待に胸を膨らますのであった。

 

 

 

 

 

 




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