ライザーとの話し合いの翌日、リアス率いるグレモリー眷属はある場所へと向かっていた。
「あの〜、部長。俺たちは今どこに向かってるんですか?」
「あら?イッセーには言ってなかったかしら?」
「いやいや!俺起きた瞬間にいきなり拉致られたんですよ!」
昨夜、悶々としてなかなか寝付けず寝不足のまま朝っぱらから叩き起こされてこうして連れ出されている一誠は疲労困憊のようだ。
「イッセー、今私達が向かっているのはアレイの家よ」
「アレイ先輩の家?!」
「そう、今日こそはアレイに自分の事を話してもらおうと思ってね。今までうやむやにしていたけれどアレイの存在は異常すぎるわ。私が戦慄するほどの魔力と操作技術、ライザーの攻撃を受けてもまるでダメージを負わなかったあの耐久力。ライザーはあんなのでも上級悪魔だわ。アレイは人間……かどうかは分からないけど仮に人間だとしたら無傷なんでことはあり得ない。それに極めつけはグレイフィアのあの様子。あんなに怯えたグレイフィアなんて初めて見たわ」
リアスの言葉にイッセー、アーシアを除く眷属達は大きく頷く。対する二人の頭には大きな?マークが浮かんだ。
「あの、部長。グレイフィアさんが怯えていたって言ってもあの人はメイドさんじゃ?」
「あぁ、イッセーには言ってなかったわね。グレイフィアはグレモリー家のメイドであると同時に魔王ルシファー様の女王。そして、それは冥界最強の女王であることを意味するの」
「え〜!!!グレイフィアさんが冥界最強の女王!?」
「えぇ、だから私達は驚いているのよ。それに昨日の二人の様子だと二人はお互いの事を知っている。アレイの事を聞こうと思ってもグレイフィアは冥界へと帰ってしまったから直接本人に聞くしかないでしょ?」
「でもだからと言ってアレイ先輩が話してくれるとは思いませんけど……」
「正直私もそう思うわ。でもだからと言ってそのままにしておくわけにはいかないでしょ?昨日散々引っ掻き回してくれたのはアレイ本人なんだから」
「えぇ、そうです……ぬぁっ!」
イッセーが言葉を言い切る直前にビクンと身体を震わせた。
「どうかしたイッセー?体調不良?」
「いや、なんだか最近急にこういうことがあって。別に何処か悪い訳では無いと思うんです。ただ、なんかこう体の中にある何かが怯えているような……そうな感じがするんです。それに決まってアレイ先輩の話をしている時に」
「アレイの話をしている時……ね。まぁ近いうちに病院へ行っておきなさい。何かあるといけないから。さぁ、もうすぐでアレイの家よ。えーっと……どうやらあれのようね」
リアスが地図と睨めっこしながらある場所を指差した。リアスの指に従い、その方向へと目を向けるイッセーを待っていたのは超が3つも4つもつくであろうかという豪邸であった。
「えっ!ちょっ!えっ!あれ!?」
「はう〜大っきいです!」
「いやはやこれは予想外と言うべきか予想通りと言うべきか……」
「あらあら」
「(……姉様の匂い?)」
「グレモリー家の本邸並みね」
閑静な住宅街に突如現れた大豪邸に空いた口が塞がらない一誠達はリアスの言葉によって現実へと引き戻される。
「いつまでも驚いてないでさっさと行くわよ。でもこの家ってインターホンはあるのかしら?」
「止まりなさい」
「ッ!!」
リアスがインターホンを探すために家へと近づこうとした瞬間、家から一人の人物が出てきた。外見は幼い、しかし隠しきれない妖艶さを合わせ持つ可憐な少女。そしてなにより……
(なんて濃い死の気配!!!)
少女とリアスの目が合う。リアスの意識があったのはそこまでであった。
♢
「なんて脆弱な…… マスターはこんなもののどこが気に入ったのかしら?」
「まだまだ成長途中ですもの。これから先、どうなるかわかりませんわエセルドレーダ様」
「そんなこと貴方に言われなくても分かっているわ朱乃」
他のグレモリー眷属が軒並み倒れている中、朱乃は一人涼しい顔をしている。
「それにしても私一人でみんなを運ぶのは大変ですわね」
「大変と出来ないは違うわよ」
「まぁそうですが……ってあら?」
朱乃が皆を連れて部室へと帰ろうとした時、魔法陣が出現しその中からグレイフィアが現れた。
「お嬢様?!大丈夫ですか!どうしてここに?!」
「グレイフィア様、落ち着いてください。リアスは他の皆同様眠っているだけですわ」
「眠っているだけ?……はぁ、よかった」
「よかったじゃないわ。全く今日は招かれざる客が多すぎる。せっかくマスターと二人きりだというのに」
倒れているリアスを見た瞬間大慌てしたグレイフィアは朱乃によって落ち着きを取り戻す。しかし、ホッと息を着いたのも束の間。エセルドレーダの苛立った様子によって場に緊張感が現れた。
「エセルドレーダ……様でございますね?」
「あら?どうして私のこと知っているのかしら?」
「貴方の事はレヴィアタン様より聞き及んでおります」
「レヴィアタン?……あぁ、あのマスターに色目を使った雌猫ね。たしか今、魔王だったかしら?どうでもいいけれど」
グレイフィアは目の前の少女に戦慄を覚えた。魔王の事をどうでもいいと吐き捨てる。エセルドレーダはその主同様化け物なのだとグレイフィアは思った。心は恐怖に支配され、身体は震えが止まらないが己の使命を果たそうと懸命に口を開く。
「アレイスター様へとお伝え下さい。我が主が貴方をお呼びしていまぁっ‼︎」
その瞬間、エセルドレーダの細腕がグレイフィアの首を捕らえ締めあげる。
「一体何様なのかしらね貴方達は。マスターを呼びつける?下等生物の存在でなんたる不敬。その身をもって償いなさい」
「あ……ああ……」
エセルドレーダが首を折ろうと力を込める。
(サーゼクス……)
グレイフィアは己の死を覚悟し目をつむった。しかしいつまでもたってもその時は訪れない。どういうことだと目を開いた瞬間、地面へとグレイフィアは投げ捨てられた。
「……マスターに感謝しなさい。マスターから伝言よ。帰って自分の主に伝えなさい。用があるなら自分で出向け、とね」
エセルドレーダはそう言うと館の中へと消えていった。
「大丈夫ですか?グレイフィアさま」
「ゲホッゲホッ……ハァ……ハァ…… ありがとうございます姫島様」
「みんなの事もあります。一旦部室へと戻りましょう」
朱乃の言葉にグレイフィアは息絶え絶えになりながら頷き、部室へと転移して行くのであった。
♢
「う、う〜ん。あら?ここは……」
「起きたのね?リアス」
「ご無事ですか?お嬢様」
「朱乃?グレイフィア?!どうしてグレイフィアがここにいるの?それにここは部室?!なんで部室に…… いや、思い出したわ。私達気絶してたのね」
しばらくして目を覚ましたリアスはグレイフィアがここにいることに驚くも徐々に状況を把握していく。
「様するに今回はアレイにも会えず何も分からなかったと……」
「えぇ、そうですわね」
「恐ろしい子だったわ。今でも身体が震えているもの。あの女の子がいる限りアレイには合わせてもらえそうに無いわね…… だったらいいわ。グレイフィア、アレイについて教えてくれないかしら?」
「彼についてですか……」
「なんでもいいのよ。少しでも彼の事を教えて欲しいの!」
「……それはできません」
「グレイフィア」
「できません」
「グレイフィア!!!」
「できない!できないのリアス!世の中には知らなくてもいいことがある!知らない方が幸せなことがあるのよ!」
メイド口調を忘れ声を荒げるグレイフィアにリアスは気圧される。
「私は彼が恐ろしい。サーゼクスは怒るかもしれないけれど私は彼が恐ろしくてたまらない。リアス、貴方には彼にだけは関わって欲しくはなかった……」
「グレイフィア…… 貴方が何故そんなにもアレイを恐れているのかは私には分からない。でもアレイはオカルト研究部の大事な仲間よ。彼が何者であろうともそれは変わりないわ」
リアスはグレイフィアの言葉を振り払うかのように声を高々にそう宣言した。
「……ライザー様とのレーティングゲームは一週間後に決まったわ。今はそちらに集中しなさい。応援しているわリアス」
「ありがとうねグレイフィア」
グレイフィアが冥界へと帰還するための魔法陣が現れる。
「それじゃあねリアス。一週間後に会いましょう」
───彼は……あの方はそんなにもぬるく優しい人物ではないのよ…… ───
最後にそう呟いたグレイフィアの言葉をリアスは聞こえない振りをするのであった。