15話
月への慰安旅行が決定され、大々的に発表された。行く日は12月20日から1月3日までの14日間。そして同時に発表された宇宙戦艦に世界中は驚愕の嵐に包まれた。何より、月面基地に抽選で関係ない民間人までご招待する事がネット上であげられたのだ。しかも無料であり、各国10組50名までという規定だった。当然の如く応募が殺到するが、応募方法は綾瀬コーポレーションの品物を購入し、ポイントを貯めた者だけだ。さて、こんなのが発表されれば1-Aの皆がどうするかは決まっている。
「夕映ー」
「なんなのです?」
木乃香が夕映に近づいてくる。その手にはアスナの手が握られている。
「うちらも月旅行行ってみたいんやけど、駄目なんかな?」
「む……別に構わないのですよ」
「本当! 嬉しいわ」
「ん……楽しみ」
「ちょっ、夕映っち、私らもいいよね!」
「まあ、別にクラス全員連れて行っても問題無いですが、土産代とかは知らないのですよ」
「やったー!」
「月だよ、月ー!」
頼む方も頼む方ならあっさり許可する夕映である。
「夕映君、アスナ君の事、頼むね」
「いえ、タカミチも来るですよ。紛争地帯はほぼ私達が根絶しているので問題無いはずなのです。引率者として教師の仕事をするです」
「……わかった。聞いておこう」
「よろしくです」
(面倒なのはタカミチに任せたらいいのです)
2週間の間の仕事は全て茶々シスターズが担当してくれる。まあ、ほぼ護衛といえるのだが。895万体も存在するシスターズはビームライフルとビームサーベル、ATフィールド並の障壁を標準装備しているので世界中の施設警備も万全だ。
さて、ネット上に次々と上がっていく月面基地の地下に作られた街の映像に話題はどんどん取られていく。そして宇宙戦艦なんて物を持ち出され、ましてや月面に基地を開発しているのだ。その技術力は数世代先どころの話では無い。もちろん、そんな物を作られては困る者達が存在する。
「綾瀬コーポレーションの技術力はどうなっている!!」
「はっはっは……宇宙戦艦など空想の産物だ……実現できるはずがない……」
「だが、どう見ても実現されているぞ!」
「あれが本物なら由々しき自体だ。奴らが我が国よりも膨大な戦力を持っている事になる」
「しかし、どうしますか? 経済制裁に踏み切りますか?」
「駄目だ。調べたら我が国の株式会社や負債の6割が綾瀬コーポレーションの関連企業に買収されていた……」
「なんだと!?」
夕映は有り余る資金を持って、既に世界の経済支配へと乗り出していた。それは水面下であり、秘匿された物だ。
「あちらの引き抜きはどうなっている?」
「駄目です。こちらの話にどうあっても靡きません」
「人質は?」
「無視されました」
「巫山戯た奴らだな……実際に見せしめをやってやれ」
「既にやりました。暗殺部隊を差し向けた所、結果はこれです」
男が操作して映像を映し出すと、無数の桶が現れた。その中には一つずつ首が入れられていた。
「こ、これは……」
「雇った実行者です。その者達の首が送られて来ました」
「護衛も完璧という事か?」
「いえ、おそらくはこちらの動きが監視されているのでしょう」
「っ!?」
「それと宇宙開発局から逆に何人も引き抜かれました。まるで制裁だというように……」
「奴等目っ、調子にのりおって!! ここは武力で解決すべきでは!!」
「そ、そうだ! 奴らは大量殺戮兵器を所持しているのだから!」
「確かに文字通りの大量殺戮兵器を所持しているだろう。だが、どうするのだ? 奴等が宇宙戦艦を作れる技術力があるなら、奴等の言っていた軍事衛星も存在している。現に我が国の上を何度も飛んでいるんだぞ? それにサテライトキャノンなるものが搭載されていて、撃たれたらどうするのだ? 核兵器はニュートロンジャマーによって無効化され、ただの鉄の塊になる。戦争を起こせば間違い無く我々の負けだ」
「しかしっ、我々は正義の……」
「勝った方が正義だ。既に多数の国々が奴等の勢力下に入って発展している。そう、我々は負けたのだ。たった12、3歳の少女にな」
「……」
「だが、このままでは終わらん。奴等に恭順しながらその技術力を吸収し、我々がトップに返り咲く。今は雌伏の時だ。諸君らもくれぐれも無謀な事はするな。現状では奴らに太刀打ちできないのだから」
「はっ」
大国達もこぞって夕映の支配下に入っていく。それは夕映達の力を利用する為だ。だが、そんな物は夕映も承知している。では、どうするかといえば簡単だ。支配下に入った後、隙を見て彼らのスキャンダルを発表する。ないものは罠を貼って作り、それすら破った者は夕映が逆にスカウトする。だが、それすらも拒否した者達は人知れず消えていく。数年の間、心臓麻痺で死んでいく権力者達が出るが、その証拠は一切上がらない。科学と魔法を手に入れ強化された魔法忍軍は人知れず綾瀬コーポレーションの、夕映の敵を排除していく。
そして月日は流れ、夕映達は宇宙戦艦で月へと旅立った。その光景は全世界に中継された。当然の如く、船内の撮影すら許可された。それはまさにアニメや空想の世界の物が現実に現れた事を意味している。そして、月面基地に到着したら作られた都市で遊び回る事になる。地球を眺めながら泳いだり、散策に出かけたり、月面を散歩したりでき、そこは正に楽園だった。
「夕映、凄いね。地球があんなに小さいよ」
「確かに小さいのです」
「ほら、二人共、さっさとクリスマスパーティーをするぞ」
はしゃぎながら楽しそうに遊ぶエヴァ。エヴァンジェリン専用の肉体を作られ、自由に動き回っている。街中がクリスマス一色となり、そこかしこでプレゼントが配られている。それは恋人たちのデートスポットにもなっている。
「夕映、私達も行こ」
「わかったです」
のどかと夕映は手を繋ぎながら街を歩いていく。街は人工の雪が振ってホワイトクリスマスを演出していく。
「あ、言い忘れてたね。夕映、Merry☆Christmas」
「MerryChristmas、のどか」
2人がお互いに言葉を発すると同時に夜空に盛大な炎があがり、爆発して光を散らす。愛衣が花火を担当しているのだ。それは地球を中心に置いて、周りを花で飾る一種の芸術となっていた。