1988年11月16日。綾瀬家に娘が生まれた。その少女は夕映と名付けられた。だが、その少女はまともな存在では無い。
(転生は無事に完了したのです。流石は超さんですね)
夕映は自分を見下ろす母親の姿がある。彼女の名前は
「私の可愛い夕映……」
愛おしそうに夕映の頭を撫でる真夕。それに夕映はくすぐったそうに身体を捩る。そして、母乳を与える為に胸を夕映の口へと押し当てる。
(これは恥ずかしいのです。生きる為には仕方無いとはいえ……これから下の世話まで全てお母さんに任せるしか無いとは……)
「真夕! 夕映は元気か!」
「ええ、修」
黒髪の男性が入って来る。彼は綾瀬修。夕映の父親だ。母親共にどちらも一般人である。
(二人共凄く若いのです。それに凄く眠いですが、色々とやらねばならない事があるです。しかし、凄くだるいです)
夕映は凄くダルそうにしながら思考を研ぎ澄ましていく。
(思考を分割して潜在魔力と術式の構築、カシオペアのシステムを確認しなくては……)
夕映の体内には禍々しい大量の魔力が存在した。それはナギ・スプリングフィールドの魔力と七つの大罪の悪魔の力だ。
(この膨大な魔力を使いこなす為には修行が必要なのです。他にも創造主となったエヴァンジェリンさんを超える為にもあらゆる手段を駆使して力を得る必要があるのです。ならば悪魔の力を最大限利用するのです。ふふふ、弱く惰弱な私では無いのです。火星のテラフォーミングとその後の戦争を止める為に強大な力が必要なのです。そう、野望を成就させる為に人間すら止めてみせるですよ。最優先排除目標はメガロメセンブリアの殲滅も必要ですし、ヘラス帝国も邪魔になる可能性があるです……そうなのです、邪魔な存在は全て滅ぼせば……っ!? だ、駄目です! 何ですかこの考えはっ!!)
夕映は気づいていないがその魂は確実に変化している。それも七つの大罪の力を取り込んだ事により禍々しい方向にだ。今はかろうじて元の精神が勝っているが、これからどうなるかはわからない。
(思考は気をつけなければいけませんが、先ずは力をコントロールして新しい術式を考案する事なのです。目指すは8年以内です。ネギ先生の村が襲われる場所が私にとってターニングポイントでもあるのです。
夕映は自身の考えた計画を実行する為に潜在魔力のコントロール訓練を体内で行っていく。それと並行して必要な魔法を作り出し、カシオペアⅣの調整も行っていく。その時、夕映は体内にあるアーティファクトに気づいた。
(ふふふふ、素晴らしい誤算なのです。まさかアーティファクトが私の身体に融合しているとは思わなかったのです。しかし、
そう、夕映は二つのアーティファクトを体内に所有している。一つは
そして、夕映が手に入れたもう一つのアーティファクトは
(これは使えそうなのです。流石はネギ先生のお父さんなのです。これはとてもいい餞別を頂きました。これから冥府魔道を進む私には大変役立つです。ですが、今は魔法の開発が優先です。そうですね、
夕映は自身が出来ないとは一切思っていない。強靭なる自我からなる自尊心によってだ。これは夕映が取り込んだ七つの大罪の悪魔である傲慢を司るルシファーの力の影響だ。つまり夕映は暴食、色欲、強欲、憤怒、怠惰、嫉妬、傲慢がそれぞれ強化されている。暴食によって食事量を始め空気中に漂っている魔力の吸収吸収効率などが増え、色欲によって美しさが増える。強欲によって欲望が強化され、傲慢によって自尊心が強化される。憤怒によって怒ると爆発的な力を発揮する。嫉妬はその名の通り自分が持っていない物を他人が持っていると欲しくなる。怠惰は積極的に動きたくなくなり、だるくなるが休息による回復速度が上がっている。その力を完全にコントロールするようになれば夕映は人間を超越した存在になるのは間違い無い。ましてや生まれたばかりでスポンジの様になんでも吸収する赤ん坊の頃から本来夕映が持っている成長力(何ヶ月もかかる初等魔法を1ヶ月強で習得するという驚異的な成長力)を感情によって強化され、欲望のまま貪欲に突き進む夕映は瞬く間に成長していく。そして成長する過程でまほネットに接続し、知識量と魔法を増やしていく。これは他者の持っている技術に嫉妬し、貪欲に貪っていく。その得た知識から魔法を開発し、発展させていく。その第一歩が
数年の月日が流れ、夕映は成長して6歳になった。順調に急成長している夕映は周囲から天才と言われていた。それもそのはずだ。夕映は小学校に入る前に高校の入試問題で満点を取ったのだ。元から祖父である綾瀬泰造の家に入り浸りながら無数の哲学書や帝王学、人心掌握、学術書、兵法書などを読みあさって記憶しているので、親族は全員理解していた。
「御祖父様」
「なんじゃ、夕映?」
「夕映はイギリスのウェールズに旅行に行きたいです」
夕映は祖父に堂々と要求を告げる。両親にすら偉そうにするが、祖父だけは別だ。これは夕映にとって祖父が尊敬できる存在だからだ。
「ほう、旅行とな?」
「別に留学でも構わないのです。はっきり言って、小学校に行くのは無駄なのです」
(あんな低脳な事を学ぶくらいなら、図書館に篭っていた方がましなのです)
もちろん、近場の図書館の本は全て読み終わっている。
「夕映、確か麻帆良の初等部に入学するとか言ってなかったかの?」
「ええ、その予定なのです。だから旅行の方はいいのですが……駄目ですか?」
(最悪、
「真夕達は仕事か……ふむ。可愛い孫の為じゃ、よかろう。だが、先ずはパスポートを作らねばな」
「はいです。では早速行くです」
「そうじゃな」
夕映は用意しておいた荷物を持つ。丁度チャイムが鳴らされた。
「誰かの?」
「呼んだタクシーが来たのです」
「そうか」
祖父は夕映が事前に呼んでおいたタクシーを不思議とも思わない。何事も効率良く動くのがいいと考えているし、夕映の事だから事前に準備していると思っているのだ。
(
|即時敵弾吸収陣《キルクリ・アボソルプラティオーニスエクス・テンポレ》が組み込まれた障壁は事前に準備しておく必要があるとはいえ、一度発動させておけばしばらくは持つ素晴らしい障壁だ。一度だけとはいえ、その魔法を吸収してこちらの力に変えるのだ。しかも、その障壁は吸収効果こそ無くなるが、それなりの強度を持つ障壁となるのだからかなり便利といえる。難点としては小型化した為、一定以上の威力を持つ魔法は吸収しきれずどんな魔法でも発動してしまうという物がある。その為、基本はひたすら回避に徹する必要がある。
それはさておき、パスポートを手に入れた夕映は祖父と共に2週間後にはイギリスのウェールズに来ていた。既に英語がペラペラである夕映は祖父と観光しながらカシオペアの機能を使い、夜になると時間を巻戻して1人で出かける。
(全ては計画通りなのです)
そして、夕映が向かったのはネギの生まれた村だ。もちろん、まだ襲撃はされていない為、人が多くいる。そんな中、黒いゴスロリの格好をした夕映は自身に認識阻害の魔法をかけながら村の周りを魔法による身体強化を行いながら移動していく。村の周りを一度回ったらまた同じルートを進んでいく。
「我が名の元にこの地に刻印を刻む」
そして、めぼしい場所で儀式を行う。地面に小さな魔法陣を描き、その中心に試験管に保存しておいた自身の血を流し込む。この血は魔法薬と同じで強力な魔法が掛けられている。
(次は認識阻害をかけた石を配置し、隠蔽するです)
これを村を囲むように何箇所にも設置していく。最初は村の遠くからだが、だんだんと村へと近づいていく。深夜になると村の中にも同じ物を施していく。何重にも重ねて施された認識阻害と隠蔽術式により村人は違和感を感じない。もちろん、大した影響も無いのも理由だ。これを数日かけて行った。その後、夕映は祖父と共に帰国した。
そして月日は流れて麻帆良学園初等部に夕映は当然の如く主席で入学した。そして入学式では自分こそが主役であるかのようにゴスロリの衣装に身を包んだ夕映は威風堂々と突き進む。その姿は王者の風格を持ち、圧倒的な自身に満ち溢れている。
「し、新入生代表、綾瀬夕映」
そして、代表挨拶を始めた夕映は堂々と行う。
「本日は新入生の為にこのような盛大な式を挙げ貰い感謝するです」
この頃になると既に夕映の精神は変化し、世界は自分の野望を達成する為にあるとすら思っている。実際、夕映は転生君の力をカシオペアⅣと魔法の力で再現し、野望を達成する為に何度も転生しなおす気でもある。その為の準備も並行して行っている。
そして、夕映は本来では存在しなかった魅力もふんだんに発揮してカリスマと化している。そんな姿を確認した近衛近右衛門が夕映に目を付けないはずがない。
(なんじゃアヤツは……多数の隠蔽術式が発動されておる。こんな魔法生徒が入学してくるなど儂は聞いておらんぞ! それにこの波動は生まれ持った物なのか、なんて禍々しさじゃ! 綾瀬夕映……これは早急に調べる必要があるの。それに他の子達が心配じゃな)
近衛近右衛門の思惑を他所に夕映は最初の日だけ出席し、授業は完全にボイコットしながら図書館でひたすら読書する日々を送っていく。
学園長室で後頭部が長く、髷と相まって洋梨の様に見えるぬらりひょんのような姿をした理事長でもある近衛近右衛門がタカミチ・T・高畑に質問する。
「あの綾瀬夕映という子じゃが……どうなっておる?」
「相変わらず図書館に入り浸っているようです」
「しかし、彼女は何者なのですか? 学園長が気にする程の子だとは思えないのですが……」
「アヤツは魔法を使っておる」
「そんな馬鹿な! 魔力を感じませんよ!」
タカミチには感知出来ない程の高度な隠蔽術式が発動されている為、近衛近右衛門以外には魔法を使えるとは気づかれていない。流石は関東魔法協会の理事も務めるだけはあり、学園最強の魔法使いという肩書きに相応しい力を持っている。
「アヤツの隠蔽術式はかなり高度じゃからな。儂ですら隠蔽術式と障壁が張られている事しか見抜けん」
「そうですか……こちらが取り寄せた綾瀬夕映の資料です」
「ふむ。正に天才か……しかし、両親や親族は全員が一般人か……どこで魔法を習った?」
「一度だけイギリスのウェールズに行っていますね」
「あそこはナギの出身地があるの……まさかそこでかの? いや、ありえんの。たった数日であそこまでの魔法が使えるはずは無いのじゃ」
「しかし、念の為に調査団を派遣した方がいいですね」
「そうじゃな。調査するように連絡をしておくかの。それと監視を付ける様に言っておくのじゃぞ」
「分かりました」
こうして夕映に監視が付けられる事になった。だが、夕映はそれに直ぐに気づいたが放置していた。夕映にとって学園の人間は敵でないと思っているからだ。邪魔であれば容赦無く排除するが、現在は前の事もあって味方として認識しているからだ。そう、夕映は自身がどんな存在になっていて、相手に馬鹿な者達が居るのを知らない。夕映にとってエヴァンジェリンは悪の魔法使いだが、同時に師匠でもあり、そちらの事はある程度知っている。だが、結局夕映は正義の魔法使い側だ。悪の魔法使いだった事はなく、正義の魔法使いがどうでるかを理解していなかった。