エヴァンジェリンとの戦いの後、夕映はのどかと一緒に自室へと戻った。その足取りは強く、即座に戦えるように警戒もしていた。そして、2人が自室である部屋に入った。
「夕映っ!?」
「もう、駄目……です」
夕映は部屋に入った瞬間にぐてーと力が抜けたように倒れていく。
「眠い、しんどい、だるい……身体中痛い」
「あははは、お疲れ様……」
エヴァンジェリンの攻撃は障壁無視の触れたら即凍結封印というかなり鬼畜な攻撃を必死に避けているのだ。夕映の魔王モードは天上天下唯我独尊状態だが、その実水面下では必死に行動している。
「夕映、せめてソファーに行こう」
「うぅ、すいませんですのどか……」
のどかの手によって軽々と抱き上げられた夕映はソファーに移動される。そこでのどかは夕映を寝かせて頭を自分の膝の上に乗せて夕映の頭を優しく撫でていく。
「のどか、何してるですか」
「頑張ってる夕映の頭を撫でてる」
「止めるです」
「嫌」
「……なら勝手にするです」
そのまま夕映は眼を瞑る。そんな夕映をのどかは慈愛に満ちた表情で撫でていく。
(エヴァンジェリンさん、流石だったのです。悔しいですが、油断していなければこちらの負けだったのです。五感を奪わなければこちらの攻撃なんて殆ど避けられてこちらは嬲られるだけだったのです)
思い返してみても、エヴァンジェリンは自身の再生能力に任せて軽い攻撃を避けない為、最初の方で五感をある程度奪えた。これが大きい。その後直ぐに立て直してくるがあちらをこちらが知っていて、あちらはこちらを知らないというアドバンテージはかなり大きかった。
(それにしてもあの全力全開モードは今考えるともの凄く恥ずかしいのです! なんですかあれは!! どこの中二病ですか! 小学生で中二病とか終わってるのです!! ましてや、こっちとら20代後半も追加すれば30代……終わったのです……)
心の中で身悶えまくる夕映。だがそれを表に出す事は無い。
(ですが、止める必要は無いのです。いえ、むしろ出来ないと思ってはいけない。そう、顧みないで突き進むのみなのです! もっともっと強くならねばなりません……ふふ、そうですね、強くなる。その為に手段なんて選んでられないのですよ。今回で理解したのです……私とのどかには圧倒的なまでに武器が足らないと。ならばやる事は一つでしょう……トレジャーハンター・のどかと怪盗綾瀬夕映が荒らしまくってやるのです!)
そんな事を考えながら夕映は眠りに落ちていった。残されたのどかは夕映の身体から懐中時計を取り出す。
(夕映はお休みだけど訓練はしないとね……先ずは重力を思いっきり高めよう。私はもっと強くなって夕映の隣で夕映を守るんだから)
のどかはのどかで夕映と寄り添う為の力を求める。夕映が魔王ならばのどかは魔王に仕える暗黒騎士といった感じだろう。そして、この数日後に魔法世界と現実世界で奇妙な事件が起こっていく。
学園の主だった魔法先生は緊急招集が行われ、広い会議室で現在エヴァンジェリンと夕映の対決映像を見せられていた。それを見た先生達の表情は恐怖に硬直している。それほど彼らとは実力が違う。空から爆撃する戦闘機と地上で拳銃を持っているくらいの差が存在している。
「き、危険すぎる!! 直ぐに封印すべきです!」
「いや、封印なんて生ぬるい! 殺してしまうべきだ!」
恐怖におののく者達が好き勝手言っていく。
「そういうがの……誰が彼女の相手をするのじゃ?」
「わ、私はむ、無理です……あ、あんなのに勝てない!」
「む、無理だ……そ、そうだ、学園長や高畑君なら……」
「わしか。わしじゃ夕映君には勝てるが同時に負けるの」
「ど、どういう事ですか?」
「学園を滅ぼしてよいうというのならば勝てるという事じゃよ。少なくとも夕映君はエヴァンジェリンを殺す為になんの躊躇もなく麻帆良学園を犠牲にする気じゃった。儂なら確かに勝てるわい。犠牲を無視し、地形を変える程の魔法を使う相手と戦うのじゃから、少なくとも多大な犠牲はでるの。そうなれば生き残っても全員オコジョになって監獄いきじゃな。ましてや夕映君は英雄であるナギ・スプリングフィールドの従者じゃ。彼女の年齢から考えてナギは生きている。そして、夕映君に魔法を教えたんじゃろうな」
「な、なんの為にですか!」
彼らにとってナギ・スプリングフィールドは大戦を終わらせた英雄だ。そのネームバリューは凄まじい。
「大戦の裏に暗躍しておった組織と戦っておるみたいじゃな。あれは壊滅したと思っておったのじゃが、そうじゃなかったようじゃ」
「つまり、夕映君の目的は
「そう言っておったし、その通りなんじゃろうが……しかし、ナギめ……人選ミスじゃろが……子供にこんなことを背をわせるとはけしからん奴じゃ。それに敵対者を
「そうですね。しかし、ガンドルフィーニ先生はのどか君に助けられましたね」
「どういう事ですか! 先生は全治2ヶ月の大怪我ですよ!」
「命があるだけましじゃろう」
「あの瞬間、夕映君はのどか君の乱入が遅ければガンドルフィーニ先生の身体を貫いて命を断っていたんだよ」
タカミチのいう事は正しい。まさに夕映は心臓をえぐり取ろうとしていた所をのどかに邪魔をされたのだ。
「た、退学にすべきでは……?」
「いや、その前に本国に増援を……」
「両方無理じゃ。夕映君は正式な手続きを持って入学しておる。確かに授業こそ出ておらんが、テストは常に満点な上に学生の実力を図る為に全国で行われた試験ですらトップじゃぞ。それも大学レベルの物でじゃ。マスコミとかから取材申し込みなどが殺到しておる。本国の増援を頼む理由をどうするのじゃ? こっちから怪しかったので仕掛けたら逆襲を喰らいましたとでもいうのかの? しかも相手は英雄の従者で弟子じゃぞ? そんな恥知らずな事できるわけあるまい」
「で、では……」
「放置じゃ! 今回は儂の判断ミスじゃしな。もちろん、全力で排除せねばならぬのなら排除するがの」
「そうですね。それに私達は先生ですよ。生徒を導くのが仕事です」
「そ、そうか……じゃあ高畑君に任せるよ」
「そうですね。その方がいいでしょう。なんて言ったて彼は紅き翼のメンバーなんですから」
「確かに問題の綾瀬君はナギ・スプリングフィールドの関係者なんですから……」
「ふむ。可能かの、タカミチ君」
「わかりました。私が頑張ってみましょう」
「では、解散じゃ。タカミチ君には話があるから残るように」
「はい」
人が居なくなった後、2人は別の問題へと話をする。
「姫巫女の様子はどうじゃ?」
「駄目です。完全に力を使い切ったようです。自身の危機に反応して強制的に覚醒し、無理矢理の力の解放です。身体への負担も相当な物のようで今も眠っています」
本来なら彼女はこのまま幸せに過ごし、本来の人格が出る事などなかった。だが、変わってしまった。夕映とエヴァンジェリンの戦いによって明日菜の運命は変わった。これがどう影響するかは誰も知らない。