次の日の深夜、夕映は森の中にあるログハウスへとやって来た。ここはエヴァンジェリンの家だ。夕映の目的は自身の欲しているダイオラマ魔法球だ。
「来たか。まあ入れ」
「はいです」
大人しくエヴァンジェリンに従って中に入る。するとそこには無数の人形が飾られていて、まさにドールハウスといった感じだ。そんな中にある椅子に2人は座り、テーブルを挟んで対峙する。
「お前の目的のダイオラマ魔法球だ」
「確かに。調べさせて貰うのは準備が整い次第させて頂くです」
「ああ。そっちの要件はそれでいいだろう。次はこっちの要件だ。単刀直入に言う。貴様は何者だ?」
「私は綾瀬夕映。スプリングフィールドの弟子です」
「違うな。いや、そうかも知れないが、貴様の魔力波長は有り得ない程にナギに似ている。断言してやる。お前はナギの血を引いていないのにナギの魔力を持っている。混じっているように偽装されているが明らかに後天的にナギの魔力が付与されている。それは魔法を受けた私が何より理解している」
エヴァンジェリンにとって目の前の夕映はナギから魔力を奪った存在でもあると考えられる。それはつまり、自身の解放は夕映にしか出来ない事であり、魔力その物を対象に付与するなど完全なる世界の技術が必要だ。
(さて、どうするですか……真面目に返答しますか? どちらにしろ今のエヴァンジェリンさんなら対応できます。それに教育者として非常に優秀ですから引き入れた方が良いですね。その方が調査は可能ですから)
「なら、全てを話してあげるです。ただ、私の話は全て事実である事を認め、私に協力するという条件を飲んでくれるなら現在のナギさんの状況も教えてあげるですよ」
「……お前の話が事実だという証拠は?」
「悪魔の契約において嘘を付かず事実を話す事を約束するです」
「命を賭けるのだな?」
「別に構わないのです」
「いいだろう」
エヴァは夕映の取りだした契約書にサインする。悪魔において契約は絶対だ。破ると命が無くなる危険すらあるのだから。そしてそれは悪魔の力を持つ夕映も例外ではない。原作でフェイトが使ったようなアイテムだといえばわかりやすいだろう。
「では、何から話して欲しいですか?」
「そうだな……やはりナギの現状からだな」
「こちらのナギさんでしたら現在は造物主に捕らえられている所でしょう」
「生きてはいるんだな……まて、こちらだと?」
「はい。私は未来から転生という形で過去の世界に戻って来たです」
「未来から……とても信じられんが契約書が発動していないのだから事実なのだろうな」
「その世界でナギさんは死にました。エヴァンジェリンさん、貴方に致命傷を負わされて私に自身の魔力と大罪の7魔王の力を渡して魂ごと消滅しました」
「巫山戯るな! 私がナギを殺すだと!」
「事実です。といっても、身体は貴方でも心は違いましたが」
「私が操られたとでも……」
「心当たりがあるはずです。連中は狡猾なのです。貴方に細工されていないとどうしていえるですか、真祖の吸血鬼」
夕映の憎悪の篭った声を聞いてエヴァンジェリンは自身の身体を見詰めた後、久しく忘れていた事実を思い出した。
「そういう事か。つまり私の身体が真祖へと変わる時にでも術式に細工をしてあったのか。いや、そもそも私が真祖になったのは造物主の肉体の為と考えれば納得ができるな」
「ええ。未来の私達は造物主を倒し、世界を平和にして魔法世界も救いかける場所までいきました。ですが、エヴァンジェリンの身体を使って復活した造物主は普段をエヴァンジェリンに任せ、エヴァンジェリンの意識の無い時に配下に指示を出して私達や赤き翼を不意打ちで滅ぼし、最後には圧倒的強さで私やナギさんを蹂躙しました」
「それで貴様ここに逃げてきたのか」
「いいえ、逃げてません。これは戦略的に後ろに向かって前進です。私達は負けていません。何故なら皆の意思を継いだ私がまだ居るからです」
「はっ、厄介な奴だな。時を越え、化け物になってでも連中を滅ぼす気か。世界を救うという大義名分を掲げちゃいるが、単なる復讐鬼じゃないか」
「駄目なのです? 復讐を果たしつつ世界を救ってより良き世界にする。何に問題があるのですか? あるのならばそれを粉砕し、無きものにして突き進むだけです。例え何度やり直す事になろうともです」
「全然ダメじゃないさ。むしろ私好みだ。いいだろう、貴様に協力してやるよ。私も他人に自分の身体を好き勝手されるのは気に食わん。それは他の私もそうだろう。なんとしてでも解析して解除する。もしもそれが出来ない時は構わんから私ごと滅ぼせ」
「もちろんそのつもりです」
「くっくくくく」
「ふふふふふふ」
エヴァンジェリンと夕映は笑いだす。
「「あははははははははははっ!!」」
どちらも瞳には狂気が宿っている。この二人は前の世界では違ったが、この世界では確実に2人共超越者である。古き超越者と新しき超越者。世界の理を書き換え、自身の望むままに世界を改変する事が可能な者達は協力を取り合いお互いに利用する。お互いにプライドも高く、王である2人は他者など顧みない。行くと決めた道をただひたすら突き進むのみ。
「ああ、エヴァンジェリン」
「エヴァでいいぞ夕映。お前は油断していたとはいえ私に勝ったのだからな」
「分かったです。ではエヴァ……少しの間、のどかを預かって鍛えて欲しいのです」
「ふむ。構わんが死ぬ可能性もあるぞ?」
「のどかは西洋竜と東洋龍の力を与えてあるです。人外の領域に片足は踏み込んでるです」
「なら問題無いか。それで貴様はどうするのだ?」
「ふふ、道具集めなのですよ。私は探偵もしていた事がありましてね……」
夕映は世界図絵を召喚して開く。これは深度Aクラスまでの魔法に関する極秘情報にアクセスできる。
「こうやって伝承などの情報を収集し、解析を行うと……見つけたですよ」
「おいおい、これは……やるつもりか?」
「ええ、もちろんなのです。探偵のお仕事はやっていましたが、今度は怪盗もやるですよ」
「探偵をやってた奴が怪盗をするのか」
「まあ、両方やるのですよ。探偵は人の知られたくない事を探して暴き出し、怪盗は人の物を探し出して盗む。どちらも外道には変わらないのですよ。それにまさか探偵をしている人が怪盗をするなんて誰も思わないのですよ」
「そうだな。まあ、どうせなら変装セットも貸してやる。姿も変えてしまえ」
「了解なのです」
夕映の狙う獲物……それは過去の英雄達が持ち、現在ではアーティファクトや宝具などと呼ばれている物だ。それを探し出して盗む。罪悪感など一切切り捨てている夕映は誰にも止められない。実際に次の日には必中必殺の呪いの槍といわれる封印処理がされていたとある大英雄の宝具を発見した夕映は襲撃計画を立てていく。