ほとんど変わっていませんが。
1話は説明不足だったのと、ナギの魂だけでは足りないと感想を頂いたので少し増やしました。
エヴァンジェリンにのどかの事を任せ、夕映は単身で魔法界へと移動する。それも無数に偽装を施し、何度も転移を繰り返しての侵入だ。つまり、正規のルートではない。転移した場所は深い森の中で誰もこないような場所だ。
「トランスフォーム!」
変身の呪文を唱えると夕映の姿がどんどん変わり、身長は伸びてスラリとして髪の毛はふわふわのサラサラ。その姿は大人の夕映だ。だが、服装が違う。黒いコートに身を包み、大きな三角帽子をつけている。片目にはモノクルが設置され、強力な認識阻害が発動しているので夕映とは分からない。ましてや炎髪になっているのだから。
(流石はエヴァンジェリンさんの物ですね。ですが、私の装備も負けていませんよ)
夕映が取りだしたのは科学の結晶で作られた様々なアイテムのうちの一つだ。そして改めて転移した場所はアイルランドだ。
「レディースアンドジェントルメン……なんて言わないのですよ」
とある英雄の石の上に立ち、楽しそうに笑う夕映。
(そういえば怪盗の名前も決めていませんね……シャナにしましょう)
名前をシャナと決めた後、保管されている場所へと力ずくで突入する準備に入る。何故ならこの石の下に厳重に封印されて隠されているからだ。魔法世界でもAランク指定され、過去に封印されたとあるだけで場所は不明だった。だが、微かに散りばめられた手がかりを夕映はみつけて、ここへとやって来た。
(さあ、その姿を見せるですよ!)
「天光満る処に我は在り、黄泉の門開く処に汝在り、出でよ神の雷インディグネイション!」
上空へと飛び上がった夕映から発せられる無数の魔力の光が束となって上空へと集まっていき、強大な魔法陣をいくつも形成していく。そして、その中心で収束した魔力によって発生した神雷と呼ぶに相応しい光量と大音量を持って超広範囲を撃ち据える。 張られていた結界を神の雷は地面ごと消滅させ、石が有った場所に巨大なクレーターを発生させる。
「ふむ……どうです?」
結界が破られた事で警報の魔法が辺りに魔法使いにしか聞こえない音無き音で響き渡る。それを無視しながら夕映は片手を振るってもうもうと立ち込める煙を風の魔法で排除する。地上に降りた夕映はそこに有った物に驚愕する。
「これはこれは……まさかの護衛が居ましたか」
「はっ、テメエか。俺を起こしたのは……」
「ああ、そうだ」
相手の強さを見て瞬時に魔王モードを発動させて戦う為の準備を行っていく夕映。それほど目の前に居る全身青タイツは危険だ。ましてや夕映が手に入れに来た真紅の槍を持つ槍使いなのだから。
「てめえもコレが欲しいのか?」
「ああ、欲しい。友の為の武器とする」
「はっ、自分の為じゃねえのかよ」
「私に槍はあわん」
「なら、試験は貴様で行う。俺はただの残滓だからな……勝ってみせろ。そうすれば一応は認めてやる。まあ、無理だろうがな」
(槍自身の意思ですか……厄介ですね。流石は宝具といった所なのです。ですが……)
「面白い冗談だ。いいだろう、全力で撃ってこい」
「いいねえ、それじゃあ遠慮無く行くぜ!!」
槍を持つ存在から膨大な魔力が溢れ出す。それは明らかにナギと同等かそれ以上だ。そして、それらが全て槍へと注がれていく。
「一撃だ。一撃を凌いだら貴様の勝ちにしてやるよ」
「舐めた口をほざく……いいだろう。私を殺せるなら殺してみせろ」
「いい度胸だ」
堂々と近づいていく夕映。その距離はわずか5メートル。お互いに瞬時に接近できる距離だ。もちろん、夕映は無数の障壁を張り巡らせて対峙する。そして唐突に放たれたそれは無数に張り巡らされた夕映の障壁を紙でも破るかのように貫いてくる。
「どうするんだ? これで終わりか? それとも逃げてみるか?」
「ふん、私は逃げぬ! 真正面から打ち破ってくれる! 失われし数多の意思よ、無限の流星となりて我が下へ来たれ!! 我が敵を滅せ!」
どこからともなく無数の流星を降り注がせ対象を爆発させる魔法を放ちながら大量の魔力を込めた両の拳で槍の刃先を受け止める。むろん、それで勢いが消えるはずもなく魔闘気と魔力を融合させた全開の
「真正面から受け止めるって言ってたのにこれかよ!」
「何を言っている! ぐぬぬぬ……真正面から貴様を殺しにかかっているだけよ!」
「くそっ!!」
槍使いも必死に逃げる。無数の爆発する彗星が。ただ、槍使いに運がなかったのは使われた魔法が超広範囲を無差別に破壊する魔法であり、本人が抜け殻という事だった。そう、夕映の魔法は周りの自然を犠牲にしながらも着実に槍使いの力を消費させている。
「だいたいなんで止められるんだよっ。因果すら逆転する力でも持ってやがんのか?」
「はっ、私は既に因果から抜け出た存在だっ!! 故に因果如きが私がねじ伏せる!」
夕映は身体の位置を入れ替え、槍を流しながらしっかりと柄を掴んでそのままねじ伏せにかかる。いや、どちらかというと槍の使い手を殺し、完封勝利をめざしている。
「はっ、避け続ければ俺の勝ちだぞ」
「それはその魔法だけの話だ! 黄昏よりも暗き
夕映は自身の内に眠る魔王の力をバイパスにして七つの大罪の力を引き出し、爆発的な力を得る。しかも命令しているのだ。
「いいから力を寄越せ!」
当然、拒否されるのだが、夕映はそこを無理矢理引き出してぶっぱなす。
「避ければ問題無い……」
「逃がすか愚か者! 集いて、曲がれ!」
「ちょっ!?」
夕映の命令に従い、彗星達は槍使いの退路を断つ。退路が無くなった瞬間、彗星と新たなに放たれた極大魔法は槍使いを飲み込んで特大の大爆発を起こす。そして同時に夕映は槍を捩じ伏せてくるくると回し出して背中に回す。
「取りあえず手に入れたです……」
掌や甲からは大量の血液が流れ、槍に付着している。皮なんて剥がれているのでかなり非道い怪我といえる。
「ちっ、やってくれるじゃねえか……」
「……」
(しぶとすぎなのです)
魔王モードを解除したというのにまた入れる事になった夕映。流石の夕映も大量の大魔法を連打して魔力は枯渇気味だ。そんな状態でもなんでもないかのように今度は槍を構える。
「それでまだやるか?」
「いや、残念ながらタイムオーバーだ。いいだろ、お前は認めてやる。そいつを持つ事になる奴は知らんがな」
「問題無い。持てないなら持てるまで成長させるだけだ。例え無数の壁を超えさせても」
「おっかねえな、おい。だが、嫌いじゃないぜ。せいぜい楽しみにしてるぞ」
「ああ、期待しておけ」
槍使いが光の泡となって消滅していく。その幻想的な光景を見送った夕映はそのままそこで余韻に浸る……というか、必死に回復薬を飲んでいく。
(これを毎回するですか? 流石に死ねるですよ……いえ、これが特別だと考えるです。でも、対策は取らないと……待てよ、英雄の幻影には英雄の幻影をぶつければいいのです。幸い、この槍を寄り代にすれば召喚はでき……なんて消費量ですか……何かで補わなくてはいけませんね)
そんな事を考えて居ると、この場に無数に転移してくる者達と遠くの方からサイレンが聞こえて来る。
「動くなっ!!」
「貴様がこの惨状を作り出したのか!」
(連中の犬ですか)
それはメガロメセンブリアの魔法使いだった。彼らは封印結界が破られて緊急事態を知らせるエマージェンシーコールを聞いてこの場に駆けつけて来た。
(さて、どうするですか……いえ、考える必要もないのです。メガロメセンブリアなら殺しても問題無いです……あそこは連中の犬ですから)
「そうだと言ったらどうする?」
夕映は三角帽子の鍔を下げながら連中を睨みつける。
「決まっている。正義の魔法使いとして貴様を断罪する!」
「くっくくくくく」
「何がおかしい!!」
「いや、何。貴様らメガロメセンブリアの老害に仕える者達が正義を語るなどおかしくてな」
「なんだとっ!!」
夕映の言葉に怒りを顕にする魔法使い達。その間に夕映は魔法の準備を脳内でしていた。今の夕映にとって、中級クラスの無詠唱など容易いのだ。
「構わん、捕縛しろ!!」
「貴様らから仕掛けるという事は命がいらないんだな? 言っておくが、私は攻撃されて命を奪わないような甘ちゃんではない。死ぬ覚悟が出来ているならかかってこい。クーリングダウンにはちょうどいい」
「舐めやがって!!」
「正義の為に悪を討ち滅ぼせ!!」
無数の魔法使いが魔法を撃とうと詠唱を開始する。それに対して夕映は槍を構える。
「突き穿て」
回復した魔力を込めて槍を投擲する夕映。槍は一人一人を狙い撃つのではなく、一撃で広範囲を吹っ飛ばす。それも音速を超えて衝撃波を発生し、魔法使い達の障壁を紙のように破っていく。槍使いと比べると威力は50分の1以下だ。それでもこれ程の威力がある。
「や、やったっ!」
中にはなんとか回避した存在も居る。それらは直ぐに夕映へと攻撃しようとする。
「甘いぞ」
「え?」
「ほら、背後をよーく見ろ」
「そんなのに騙されるはず……え?」
背後には投げられた槍が方向を変えて対象目掛けて物凄い速さで戻って愚かな存在の心臓を貫いて次の獲物を目指す。何度かわされようと対象を貫くまで追尾し続ける極悪な槍だ。
「ああ、安心しろ。お前達のような塵芥でも私の役に立てる。塵も積もれば山となる。勿体無い事はしない。私は挑戦者でもあるのだからな」
「なっ、何を……」
生き残りが震えるなか、夕映はある言葉を発する。
「我が元に集いて、我が力となれ」
その言葉が発せられた瞬間、殺された者達の身体から青白い塊が出て来る。それは大きさがバラバラで揺らめいている。それが夕映に吸い寄せられていくのだ。そして、夕映はそれを掌で掴んで口へと運んでいく。
「不味い。大した魔力でもないし、食べる価値もない。面倒だ……暴食よ、喰らえ」
差し出された夕映の掌に口の様な物が現れて瞬時に青白い塊を吸い込んで体内へ入れる。そして、直ぐに夕映のエネルギーとして吸収されていく。
「ひっ、ヒィィィィィっ!!」
「おいおい、逃げるなよ。仲間が待っているぞ? 正義の魔法使いなんだ? 仲間を見捨てたらだめじゃないか……そうじゃないと悪の魔法使いになってしまうぞ?」
「そ、それでいい! 命の方が大事だ!」
「そ、そうだ! 逃げろ!」
「そうか。なら諦めろ。誰ひとりとして逃がさん」
「あがっ!?」
「いぎっ!?」
無詠唱で発動された重力魔法によって生きながら潰された後に魂を吸収……いな、食われた。後には死んだ者達の死体だけだ。
「ちっ、時間をかけ過ぎたか……」
夕映は槍を回収してさっさとゲートを開く。何故ならサイレンが間近に迫っているからだ。こうして、夕映は一つの宝具を手に入れた。そして、これは同時に夕映が魔王としての道を順調に歩んでいく第一歩となる。何故なら要注意人物として指名手配されるのも時間の問題だからだ。