魔法科転生NOCTURNE SS置き場 作:人ちゅら
2095年5月4日――水曜日・午後。
あなたは
魔法科高校の警備目的で、現役魔法師を配属する。
そしてその人員をそのまま二科生の実技教官にできるようにする。
二科生問題の解決と、魔法師の卵たちの保護を狙った提案自体は概ね受け入れられた。
もちろん細部の調整は今後必要になるだろうが、少なくとも交渉は成功と言って良い。
玄関へ向かう途中、使用人が一礼した。
「こちらです」
案内された先には、見慣れた少女が立っていた。
淡い水色のブラウスに白いロングスカート。
派手さはないが、良家の令嬢らしい上品な装いだ。
「お疲れ様」
七草
「父から見送りを頼まれたの」
わざわざ長女を立たせるほどのことだろうか?
あの提案が、彼にとってそれなりに価値のあるものだった、ということか。
「お客様を放り出すなんて、
肩を竦める仕草が妙に板についている。
なるほど、十師族の長女という立場は伊達ではないらしい。
元より断る理由もない。
ありがたくお願いするとしよう。
「はいはい」
真由美は楽しそうに笑った。
屋敷から門へ向かう道は広く、丁寧に整えられた庭園が続いている。
しばらく歩いたところで、真由美が横目でこちらを見た。
「ひとつ聞いてもいい?」
――なんだ?
「どうして
取引相手として、ということだろう。
それは予想していた質問だった。
「他にも候補はあったでしょう?」
あなたは少し考えてから答えた。
――七草家は十師族でも最大の権門だと聞いた。
「ありがとう」
――まだ続きがある。
「でしょうね」
真由美が苦笑する。
――七草家は数を力にする。
真由美の表情がわずかに真面目になる。
「数を?」
――優秀な一人をさらに強くするのではなく、多数を活かす発想だ。
七草家の強みは人脈だ。
血縁。
系列企業。
協力者。
傘下組織。
個々の戦闘力で見れば他家に劣る者もいるだろう。
だが、それらを束ねる力は突出している。
今回の提案は、一部の天才のためのものではない。
「二科生のため?」
直接的には、その通りだ。
魔法師として一流ではない者。
才能に恵まれなかった者。
そうした人間にも活路を与える。
だからこそ。
一般的に精鋭とは言えない二科生でも活躍できる世界を目指すなら、七草家の方が相性が良い。
真由美は小さく目を見開いた。
「へぇ……」
意外そうな顔だった。
「そこまでちゃんと考えていたのね」
当然だろう。
先々の影響を考えれば、考え無しに行える提案ではない。
「少しくらい照れなさいよ」
意味が分からない。
そんなあなたの反応を見て、真由美は呆れたように笑った。
そして少し歩いてから、再び口を開く。
こちらが本題だろう。
「じゃあ十文字家は?」
十文字家か。
――候補には入れた。
「へぇ?」
今度は真由美が驚く番だった。
だが、選ばなかった。
「理由は?」
十文字家は精鋭主義だ。
首都防衛。
国家防衛。
そのために最強の魔法師を育てる。
それが十文字家の思想である。
もし二科生にも一定の力が与えられる環境が出来たらどうなるか。
「……魔法師の数が増えるわよね」
そう。
戦力は増える。
だが管理も難しくなる。
力を持つ者が増えれば、当然問題も増える。
十文字家なら、その危険性も考慮するだろう。
「それは否定できないわね」
真由美も納得したようだった。
――それに。
「それに?」
――十文字は、政治取引に向かない。
これは断言できる。
次期当主とされる
少なくとも政治取引に関する教育を行ってはいないのだろう。
それはつまり、家門として当主に政治能力を身に着けさせる家風――教育システム――が無いということだ。
たとえ家長個人に才があったとしても、組織としては頼りない。
一拍。
二拍。
そして真由美が吹き出した。
「それ本人に言ったら怒られるわよ?」
怒るかな?
まあ、苦笑いくらいはしそうであるが。
それよりなにより、これは事実だろう。
「まあ……事実だけど」
克人の顔を思い浮かべたのだろう。
真由美は苦笑する。
――克人は損得ではなく正しいと思う方を選ぶ。
「それは美点よ?」
だから政治には向かないのだ。
正しさと現実は必ずしも一致しない。
妥協も取引も必要になる。
その点で言えば。
七草家の方が、話は通しやすかった。
だからあなたは今、ここに居る。
「褒められているのかしら」
――褒めている。
「そういうことにしておくわ」
真由美は肩を竦めた。
やがて正門が見えてくる。
見送りも終わりだ。
「でも少し安心した」
真由美が言った。
何が、だろうか?
「父があなたを評価した理由」
風が庭木を揺らす。
真由美は柔らかく微笑んだ。
「なんとなく分かった気がする」
あなたは首を傾げる。
――そうか。
「そうよ」
それだけ言うと、真由美はくすりと笑った。
「それじゃあ、また学校で」
――ああ。
軽く手を振る真由美に背を向ける。
今後、七草家との取引がどこまで続くかは分からない。
だが一度紡がれた縁というものは、そう簡単に切れるものでもない。
その縁が良縁となるか悪縁となるかは、これから先の話だ。
だが少なくとも。
最初の一歩としては悪くない結果だった。
感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。
ネタとしては弱いんですが、やっぱり説明回としては入れといた方が良いかな? ということで書いてみました。
人修羅さんの思考としては、だいたいこんな感じです。