魔法科転生NOCTURNE SS置き場 作:人ちゅら
内容のリピートがうるさいので、こちら(外伝)に移しました。
七草真由美の能力を一部改変・拡張しています。
SS#006 *2095年4月9日 七草真由美
2095年4月9日――放課後。
新年度はなにかと忙しくなるものだ。各種行事もあれば、在校生の
加えて生徒会や委員会といった組織の役員らは、組織の新陳代謝を図るべく、また前年度で卒業した生徒らの席を埋めるべく、新入生の勧誘をしなければならない。これはマニュアル化できない、個人の裁量を要する組織ほど重要度が増す。少しでも早く人員を補充し、教育を始めなければ、後輩に仕事を任せられなくなるからだ。それはつまり、自分の時間が損なわれるということに他ならない。
役員の肩書や経験は、将来のために役立つカードだ。だが戦前の学校風景とは大きく異なり、生徒会にも委員会にも相応の仕事があり、サボれば無所属の生徒よりもマイナス評価は大きなものとなる。もしも後輩が使い物にならなければ、それだけ先任の上級生らの時間が食われることになるのだ。
だからこそ取り返しのつくこの時期に新人を確保し、教育する必要がある。彼らはまず自身のために、この慣習を維持しようと努力する。
生徒会室では新風紀委員長の渡辺摩利が、新生徒会長の七草真由美とともに新入生のデータベースを浚っている最中だった。二人は風紀委員会に勧誘する生徒を選ぶため、春休み期間中から相談を重ねていた。
風紀委員は学内の騒乱、風紀を取り締まるため、場合によっては実力行使を要する。また全国魔法科高校親善魔法競技大会――通称・
そのため風紀委員には実力、人格の両方が要求されることとなる。人格はよくても実力が伴わなければ取り締まりは有名無実化する。能力があっても人格に問題があれば当人が風紀を乱す原因となりかねない。お陰で一長一短、なかなか絞り込めずにいた。
新任の風紀委員は、生徒会、部活連、教職員それぞれの推薦によって決まる。その生徒会推薦枠を誰にするのかが、現在最大の課題となっていた。
そこに一本の
内容はトラブル発生。場所は校門。一科生と二科生の口論がヒートアップしているとのこと。
真由美は小さく息を吐いて気持ちを入れ替える。
「摩利、校門前でトラブルよ」
「今年の新入生も元気が良さそうだな」
「もう!」
(冗談言ってる場合じゃないのに、摩利ったら!)
真由美が、ぷう、と頬を膨らませて不満をアピールすると、摩利は両手を上げて降参の
元より入学式から一週間程度はどうしても騒動が起こるため、それ自体については特段の感想はないし、ふざけてみせる余裕もあった。去年も、一昨年もあったことなのだ。きっと来年もあるだろう。それに煩わされるのは恒例行事でしかない。
問題点があるとすればただ一つ、今が
魔法科高校では風紀委員などの一部例外を除き、私物のCADの校舎内への持ち込みが禁じられている。通常は登校時に保管庫に預け、下校時に返還されることになっている。
もちろん魔法科高校である以上、魔法の行使を伴う授業もあり、その際にはCADが必要となる。だがCADの性能に頼らず基礎能力を伸ばすという目的から、実験では設置型のCADを共用し、体育など激しい運動を要する際にも魔法の範囲や機能に制限を加えた携帯型CADを貸与されるのが通例だ。故に授業時間中のトラブルは、それほど大きく発展しない。
逆に生徒たちが私物のCADを携帯している、登下校時の校舎から校門までのわずかな距離は、この時期ホットスポットとなりやすい。しばらくすれば部活動の勧誘合戦が始まり、この範囲はより広がってしまう。そのことを思い出し、真由美は今から頭が痛くなる気がした。
* * *
魔法大学付属第一高校の生徒会長、紛うことなき優等生である七草真由美には、幾つかの得意魔法が存在する。
一つは彼女の代名詞ともなっている【魔弾の射手】。ドライアイスの弾丸を射出する銃座を形成する魔法だ。この魔法により、彼女は射撃競技の試合で「エルフィンスナイパー」「
そしてその魔法を支えているもう一つの得意魔法が【マルチスコープ】。自身を中心とした球状空間に対して多角的な視覚的情報を取得する、高度な知覚系魔法である。これによって真由美は、【マルチスコープ】の範囲内であれば視界を遮蔽物に制限されることがなく、あらゆる角度から【魔弾の射手】による攻撃が可能とされる。
特に後者については先天的な才能を有し、ほとんど負担なく使用することができる。
トラブルの現場に走っている現在も、当たり前のように【マルチスコープ】を行使していた。
そして現場が効果範囲に入ったのとほぼ同時に、真由美は即座にサイオンの弾丸を射出する無系統魔法を展開。一科生女子のCADを対象に、即座に狙撃を行う。
CADを使用した現代魔法の弱点として、起動式を展開中のCADに無関係なサイオンが衝突すると、起動式のサイオンパターンが撹乱されて魔法式を生成できなくなるという性質が有る。一秒未満という微小な時間で処理される起動式に直撃させる必要があるため、あまり現実的とはされないが、これも一応は対抗魔法の一つだ。狙撃を得意とする真由美の、隠れた得意技でもあった。
だが、そのサイオン弾がCADの座標に届くことはなかった。
間薙シンの【
七草真由美には秘密にしている先天的な魔法特性がある。それは周囲のプシオンの活性化に
彼女にとって【マルチスコープ】とは、この特性を現代魔法学的に再解釈したものにすぎない。
プシオンとは生物の情動、特に強い感情に反応して活性化する超心理的粒子
時にはそれを自ら生み出そうと、他者に対して悪ふざけに興じることもある。思春期の若者たちの多感さは、彼女にとって好ましいものだった。故に彼女は人との触れ合い、コミュニケーションを好むようになった。
だが同時にそれは、彼女から多くの驚きを奪い去っていた。
強い感情を持つものを自動的に感知してしまう能力は、悪意ある
とはいえ驚きを得るために【マルチスコープ】を使わない、という選択肢は存在しない。七草家長女という立場にあって、ただ退屈であるというだけで自衛を怠ることなどできないからだ。
かくして彼女は社交的でいたずら好きな性質と、世を俯瞰する冷めた性質とを併せ持つこととなった。
そんな彼女の感覚が、これまでにない未知を感知した。
広場をまるごと包み込むほどに広がった
足を止め、【マルチスコープ】からの情報をまったく無視し、ぽかんと口を開けてそれを見上げる。
真由美はしばらくの間、自身が知覚した
プシオンとは生物の情動を司る非物質粒子だ。プシオン自体はありふれたもののようだが、活性化するには生物の強い感情が必要となる。そしてその感情の強さ、大きさによって活性化する量も変化する。
とはいえ、この大きさはありえない。少なくとも真由美がこれまで知覚したことのある活性プシオンは、それがどれほど強い情動でも――たとえ自身や愛する者の生き死にに関わるものですら、その人体という器から大きく溢れ出るようなものは無かった。子供の頃、招待されて参席したパーティの会場が襲撃され、数倍する人数が混乱と狂騒の
どれほど巨大な感情なのか。
それが攻撃的、破壊的な衝動であるのなら恐るべきことだ。その感情の主が力ある魔法師であったなら、この場をまるごと吹き飛ばされても不思議には思わない。刹那の間に野次馬たちは物言わぬ
「摩利!」
「? どうした真由美。急がなくて良いのか?」
「摩利は下がって」
それでもその場から逃げなかったのは、生徒会長という肩書のためか、七草という名の為さしむる業か。
あるいは単に、好奇心だったのかも――しばらく後、この時のことをシンに尋ねられた折に、真由美は苦笑いと共にそう回顧した。
摩利は怪訝に首を傾げながらも足を止める。戦闘以前の状況判断において、真由美が間違えたことはない。その信頼ゆえだ。
真由美も摩利がそうすることを信じていたからこそ、無駄に言葉を重ねることもしなかった。摩利の動きを見定めもせず、すぐさま【マルチスコープ】に意識を集中する。
ドームは美しい半球状に広がっている。ならばその外周から等距離にある地点を測ることは、【マルチスコープ】にとってあまりに容易い。
そして彼女は、そこにこの未知の核となった少年を確認した。