魔法科転生NOCTURNE SS置き場   作:人ちゅら

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 入学編と九校戦編の合間の物語は、ひとまずこの辺で打ち止めにしておこうかと。
 全2話。次回で終わりです。



SS#062x3a むすびなおし(1)

 あなたは十文字(じゅうもんじ)克人(かつと)に修行を施したことを、誰にも話していなかった。

 

 隠すつもりだった──というより、わざわざ話す理由がなかった。十文字家の次期当主に必要なものを教えた。それだけのことだ。少なくとも、あなたにとっては。

 

 けれども秘密というものは往々にして、当事者の意図とは無関係なところから露見するものだ。

 

 公務の会場警護にあたっていた古式魔法師の一人が、克人の霊格(レベル)が以前より明らかに大きくなっていることに気付いた。霊格の鍛え方など、通常の現代魔法師が知る由もない。余程のことがなければ、古式魔法師が関わっていることは分かっただろう。しかし、十文字家が古式魔法師から霊格の鍛錬を受けるような関係は、ほとんど知られていない。自然、同じ第一高校に在学中の、あなたや吉田(よしだ)幹比古(みきひこ)らの名が挙がった。

 

 ちょっとした話題にはなったものの、それを騒動に仕立てて発言力の拡大を画策した者たちもいた。しかし間薙(かんなぎ)家が関(・)心(・)を(・)示(・)し(・)た(・)と知れると、騒ぎはそれだけで沈静化した。

 

 ただし、問題が収まったからといって、あなたの自由が増えたわけではない。

 

「これ以上、余計なことをされては困るな」

 

 間薙本家で、現当主はそう告げた。

 

──余計なことか。

 

「十文字家の人間を鍛えたことではない。あれは結果として悪くない。問題は、お前が何の手続きもなく、個人の判断でそれを行ったことだ」

 

 それは実にもっともな指摘だ。

 あなたは悪びれもせず、そうだなと黙って頷き返し、それで? と続きを促した。

 

「よって任務を与える。古式魔法家の修行補助だ。対象家門はこちらで選定する。お前は内容に応じ、必要な範囲で指導しろ」

 

 つまりは「勝手に動くな」ということだろう。

 正直なところ、面倒な仕事が増えた、と思わないでもない。

 

 けれど、克人を鍛えた理由は、東京を守るためだった。

 ト(・)ウ(・)キ(・)ョ(・)ウ(・)鎮(・)護(・)。

 それは人修羅であるあなた自身の都合であり、あなたがこの時代に生きる上で必要だと判断したことでもある。

 

 今後も必要とあらば、現代魔法師を鍛えるつもりでいた。ならば今回の任務は、その前例として悪くない。古式魔法師たちが力をつけること自体も、歓迎すべきことだ。あの不遜な天使(ウォッチャー)らの侵略に対抗するためにも、備えは多い方がいい。

 

──分かった。引き受けよう。

 

「……もう少し愛想良く出来ないのか」

 

──必要あるかね?

 

 あなたの答えに、当主は小さく嘆息した。

 

 こうしてあなたは、間薙家の名のもとに古式魔法家を訪ねることになった。

 

 

*   *   *

 

 

 訪問先は、密教系の古式魔法師の家門だった。

 代を重ねるうちに霊格を失いかけ、古式魔法師社会での立場も弱まり、今ではかなり追い込まれているらしい。家門の屋敷に招かれたあなたを迎えた家長は、丁寧な礼の奥に、隠しきれない緊張を滲ませていた。

 

「此度はお越しいただき、ありがとうございます。間薙家にお力添えいただけるとは、まことに心強い」

 

──依頼内容を改めて確認させてください。

 

 あなたは社交辞令をほどほどに切り上げた。

 

「護法(ごほう)との契約。その見届けをお願いしたく」

 

 護法――護法童子との契約。

 

 あなたは家長の説明を聞きながら、後継者と対面した。十六歳の少年だ。家の跡を継ぐ者として育てられてきたのだろう。背筋は伸びていたが、こちらを値踏みするような視線には、年相応の反発も混じっていた。

 

 ふむ……やはり霊格が足りないか。

 

 ひと目で分かる。その霊格は、覚醒者どころか、異能者としても未熟だ。

 本人もそれを薄々理解しているのか、あなたの視線に気付くと、わずかに顎を上げた。

 

──今のままでは、正式な契約は難しいでしょう。

 

「承知しております」

 

 家長は答えた。

 

──まずは修行を通じて、擬似的に霊格を高めていただく。

 その上で仮の契約を結び、後継者殿が自身で鍛錬を重ねる。

 後継者殿が正式な契約に足ると認められた時点で、正式な契約へ移る。

 ……そんなところになるでしょうか。

 

「宜しくお願い致します」

 

 たとえ仮の契約であっても、本人の修行が前提となる。

 護法を得るための方便ではなく、結縁を始めるための猶予だ。

 それですら、本来ならば破格の待遇と言える。契約――密教系の魔道士が“結縁(けちえん)”と称するそれは、護法に、相応の霊格を持つ相手だと認められて初めて成立する。

 護法は悪魔の中では人間に近い位階に属する存在だ。それでも、低位の精霊とは違い、確かな意思を持ち、契約する相手を自ら選ぶ。本来なら未熟者の前には姿を現すことすら無い。

 

──それと……

 

 今後の効率を考え、あなたは家門の直系門弟に限って、修行への同席と見学を許可した。

 

 それは単なる指導の都合だけではない。今回の仕事には、間薙家の名を示す目的もある。古式魔法師の間で、間薙家はアンタッチャブル――底知れぬ存在として見られている。間薙家の威光を知らしめておけば、今後、余計な異議を申し立てる者も減るだろう。

 

 家長は、あなたの判断を受け入れた。

 

 

*   *   *

 

 

 修行当日。

 儀式の場に集まったのは、家長と後継者、それに直系の門弟たちだった。

 

 後継者は、あなたの姿を見てから、どこか自慢げに儀式の準備を始めた。あなたより一歳年上だという自負が、彼の態度には見え隠れしている。

 

「こちらが、修行場を開く儀式です」

 

 彼は周囲の反応を確かめるように、術式を展開した。

 

 【異界】が開く。

 

 年齢を考えれば、立派なものではあった。術式の組み立ても、所作も、家伝の作法に沿ったものなのだろう。どうにも手続きがチグハグで、お世辞にも効率が良いとは言えない。それでもトランス状態に入ることでマガツヒを増幅させ、場を境界化させた手並みは褒めても良いかもしれない。

 ……だが、あなたはその【異界】の管理者だ。

 正直なところ、目を見張るほどのものでもない。

 

 【異界】としての深度は浅い。

 間薙家の管理基準で言えば、ゲートパワーにして、五。

 自然精霊や低位の妖精、地霊が喚起できる程度だろうか。

 

 これでは到底、護法を迎えることはできまい。

 

 あなたは口笛をひとつ吹いた。

 澄んだ音が【異界】の隅々まで響き渡る。音に呼応するようにマガツヒが流れ込み、場の構造が書き換わっていく。

 ゲートパワーは五から二十五へ。

 低位の神格を召喚できるだけの深度が、瞬く間に整えられた。

 

 ゆっくりと、しかしはっきりと空気が変わる。

 

 門弟たちの表情が凍った。

 家長も息を呑んでいた。

 後継者は、開いた口を閉じることすら忘れたように、あなたを見ている。

 

──古来、音楽は魔術と縁深いものがある。

 斎場を設(しつら)える際に演奏される礼楽、

 神降ろし(シャーマン)の太鼓(ドラム)や足踏み、手拍子。

 これは分類するなら仙術の、嘯呼(しょうこ)に近い魔(・)術(・)だ。

 

 あなたは何事もなかったかのようにそう語ると、彼へ向き直った。

 

──では始めましょう。

 御家の本尊――摩利支天(マリシテン)を召喚し、護法との結縁を行います。

 

 後継者は、驚きを隠せないままに頷くと、家伝の真言(マントラ)を唱え始める。

 

 ……?

 

 それは摩利支天を召喚するためのものだという。

 けれど、あなたの知る通常の真言とは明らかに異なっていた。

 口伝で継承される間に変化した術式なのかもしれないが……

 

 古式魔法において、形には必ず意味がある。

 思いつきで崩してよいものではない。

 

 まあ、まずいことになるようなら、あなたが手助けすれば良い。

 確認のためにも、まずは手を加えず、伝承どおりに唱えさせることにした。

 

 儀礼の言葉が【異界】の深みに響いた。

 

 次の瞬間。

 場の奥に、四面八臂の女(・)神(・)が姿を現した。

 

 確かに摩利支天は、女神格で現れることもあるとされる。

 されるのだが、四面八臂の異形で描かれた例はなかったはずだ。

 

 あなたは、現れた神格(アクマ)を見つめた。

 

──これは……

 

 なるほど違和感の理由はコ(・)レ(・)だったか。

 

 修行は、思いもよらない形で始まろうとしていた。

 




 感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。

 手術前に新型コロナにかかって手術が順延になり、その後、肺炎になってゴロゴロしてました。
 11月に再度入院して手術ということになったので、申し訳有りませんが、もう一ヶ月ほどお休みをいただきます。

 外伝の方は今回の「むすびなおし」で一旦お休みとして、この後は本編の九校戦編の執筆にかかろうと思います。
 体調面からしばらく不定期更新になりますが、そちらでもお付き合いいただければ幸いです。

 いやまあ、何かネタになりそうな話が思いついたら、唐突に書いちゃうかもしれませんが。
 ま、あくまで二次創作、気楽なお遊びということでご容赦ください。
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