魔法科転生NOCTURNE SS置き場 作:人ちゅら
全2話。次回で終わりです。
あなたは
隠すつもりだった──というより、わざわざ話す理由がなかった。十文字家の次期当主に必要なものを教えた。それだけのことだ。少なくとも、あなたにとっては。
けれども秘密というものは往々にして、当事者の意図とは無関係なところから露見するものだ。
公務の会場警護にあたっていた古式魔法師の一人が、克人の
ちょっとした話題にはなったものの、それを騒動に仕立てて発言力の拡大を画策した者たちもいた。しかし
ただし、問題が収まったからといって、あなたの自由が増えたわけではない。
「これ以上、余計なことをされては困るな」
間薙本家で、現当主はそう告げた。
──余計なことか。
「十文字家の人間を鍛えたことではない。あれは結果として悪くない。問題は、お前が何の手続きもなく、個人の判断でそれを行ったことだ」
それは実にもっともな指摘だ。
あなたは悪びれもせず、そうだなと黙って頷き返し、それで? と続きを促した。
「よって任務を与える。古式魔法家の修行補助だ。対象家門はこちらで選定する。お前は内容に応じ、必要な範囲で指導しろ」
つまりは「勝手に動くな」ということだろう。
正直なところ、面倒な仕事が増えた、と思わないでもない。
けれど、克人を鍛えた理由は、東京を守るためだった。
それは人修羅であるあなた自身の都合であり、あなたがこの時代に生きる上で必要だと判断したことでもある。
今後も必要とあらば、現代魔法師を鍛えるつもりでいた。ならば今回の任務は、その前例として悪くない。古式魔法師たちが力をつけること自体も、歓迎すべきことだ。あの
──分かった。引き受けよう。
「……もう少し愛想良く出来ないのか」
──必要あるかね?
あなたの答えに、当主は小さく嘆息した。
こうしてあなたは、間薙家の名のもとに古式魔法家を訪ねることになった。
* * *
訪問先は、密教系の古式魔法師の家門だった。
代を重ねるうちに霊格を失いかけ、古式魔法師社会での立場も弱まり、今ではかなり追い込まれているらしい。家門の屋敷に招かれたあなたを迎えた家長は、丁寧な礼の奥に、隠しきれない緊張を滲ませていた。
「此度はお越しいただき、ありがとうございます。間薙家にお力添えいただけるとは、まことに心強い」
──依頼内容を改めて確認させてください。
あなたは社交辞令をほどほどに切り上げた。
「
護法――護法童子との契約。
あなたは家長の説明を聞きながら、後継者と対面した。十六歳の少年だ。家の跡を継ぐ者として育てられてきたのだろう。背筋は伸びていたが、こちらを値踏みするような視線には、年相応の反発も混じっていた。
ふむ……やはり霊格が足りないか。
ひと目で分かる。その霊格は、覚醒者どころか、異能者としても未熟だ。
本人もそれを薄々理解しているのか、あなたの視線に気付くと、わずかに顎を上げた。
──今のままでは、正式な契約は難しいでしょう。
「承知しております」
家長は答えた。
──まずは修行を通じて、擬似的に霊格を高めていただく。
その上で仮の契約を結び、後継者殿が自身で鍛錬を重ねる。
後継者殿が正式な契約に足ると認められた時点で、正式な契約へ移る。
……そんなところになるでしょうか。
「宜しくお願い致します」
たとえ仮の契約であっても、本人の修行が前提となる。
護法を得るための方便ではなく、結縁を始めるための猶予だ。
それですら、本来ならば破格の待遇と言える。契約――密教系の魔道士が“
護法は悪魔の中では人間に近い位階に属する存在だ。それでも、低位の精霊とは違い、確かな意思を持ち、契約する相手を自ら選ぶ。本来なら未熟者の前には姿を現すことすら無い。
──それと……
今後の効率を考え、あなたは家門の直系門弟に限って、修行への同席と見学を許可した。
それは単なる指導の都合だけではない。今回の仕事には、間薙家の名を示す目的もある。古式魔法師の間で、間薙家はアンタッチャブル――底知れぬ存在として見られている。間薙家の威光を知らしめておけば、今後、余計な異議を申し立てる者も減るだろう。
家長は、あなたの判断を受け入れた。
* * *
修行当日。
儀式の場に集まったのは、家長と後継者、それに直系の門弟たちだった。
後継者は、あなたの姿を見てから、どこか自慢げに儀式の準備を始めた。あなたより一歳年上だという自負が、彼の態度には見え隠れしている。
「こちらが、修行場を開く儀式です」
彼は周囲の反応を確かめるように、術式を展開した。
【異界】が開く。
年齢を考えれば、立派なものではあった。術式の組み立ても、所作も、家伝の作法に沿ったものなのだろう。どうにも手続きがチグハグで、お世辞にも効率が良いとは言えない。それでもトランス状態に入ることでマガツヒを増幅させ、場を境界化させた手並みは褒めても良いかもしれない。
……だが、あなたはその【異界】の管理者だ。
正直なところ、目を見張るほどのものでもない。
【異界】としての深度は浅い。
間薙家の管理基準で言えば、ゲートパワーにして、五。
自然精霊や低位の妖精、地霊が喚起できる程度だろうか。
これでは到底、護法を迎えることはできまい。
あなたは口笛をひとつ吹いた。
澄んだ音が【異界】の隅々まで響き渡る。音に呼応するようにマガツヒが流れ込み、場の構造が書き換わっていく。
ゲートパワーは五から二十五へ。
低位の神格を召喚できるだけの深度が、瞬く間に整えられた。
ゆっくりと、しかしはっきりと空気が変わる。
門弟たちの表情が凍った。
家長も息を呑んでいた。
後継者は、開いた口を閉じることすら忘れたように、あなたを見ている。
──古来、音楽は魔術と縁深いものがある。
斎場を
これは分類するなら仙術の、
あなたは何事もなかったかのようにそう語ると、彼へ向き直った。
──では始めましょう。
御家の本尊――
後継者は、驚きを隠せないままに頷くと、家伝の
……?
それは摩利支天を召喚するためのものだという。
けれど、あなたの知る通常の真言とは明らかに異なっていた。
口伝で継承される間に変化した術式なのかもしれないが……
古式魔法において、形には必ず意味がある。
思いつきで崩してよいものではない。
まあ、まずいことになるようなら、あなたが手助けすれば良い。
確認のためにも、まずは手を加えず、伝承どおりに唱えさせることにした。
儀礼の言葉が【異界】の深みに響いた。
次の瞬間。
場の奥に、四面八臂の
確かに摩利支天は、女神格で現れることもあるとされる。
されるのだが、四面八臂の異形で描かれた例はなかったはずだ。
あなたは、現れた
──これは……
なるほど違和感の理由は
修行は、思いもよらない形で始まろうとしていた。
感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。
手術前に新型コロナにかかって手術が順延になり、その後、肺炎になってゴロゴロしてました。
11月に再度入院して手術ということになったので、申し訳有りませんが、もう一ヶ月ほどお休みをいただきます。
外伝の方は今回の「むすびなおし」で一旦お休みとして、この後は本編の九校戦編の執筆にかかろうと思います。
体調面からしばらく不定期更新になりますが、そちらでもお付き合いいただければ幸いです。
いやまあ、何かネタになりそうな話が思いついたら、唐突に書いちゃうかもしれませんが。
ま、あくまで二次創作、気楽なお遊びということでご容赦ください。