魔法科転生NOCTURNE SS置き場   作:人ちゅら

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前回に続いてメガテン回。
今回ちょっと刺激的、暴力的な内容があります。ご注意ください。



SS#027x2 狂騒の祭

 ビル周辺に駐められたバイクを数えてみれば、十八台もあった。

 最低でもそれだけの人数が中にいる。と考えるべきだろが、奇妙なことに半数ほどが砂埃で汚れていた。

 乗り捨てていくような場所ではないと思うのだが。

 

 まあ何であれ相手がただの人間であるなら、そう気を張る必要もない。面倒があっても後始末をするのは別の誰かだ。問題はその中に魔道士がいた場合だが、ビル全体が薄っすらとMAGに覆われていて、中の様子はよく分からない。

 テナント募集中の張り紙がされたガラス扉を開けると、あなたは無造作にビルに踏み込んだ。

 ビル内部は何故かダウンライトが点灯していて、視界に支障はない。

 

 

 あなたが侵入した時点で既に、新エコービルの中には近代都市にはありえないほど大量のマガツヒ(MAG)が満ちていた。だが玄関口からわずかに溢れていたモノを除けば、マガツヒは見事にこのビルの中に留められている。

 通常、マガツヒを無機物で遮ることは出来ないものだ。であるなら、このビルの現状は何者かによって意図的に仕組まれたものであることは明らかである。

 

 建物を一つの容器(はこ)、一つの世界(セカイ)見做(みな)してその中に供物(マガツヒ)を捧げる。そして溜まったエネルギーを【魔界】へと漏出させ、【物質界(アッシャー)】との境界に孔を開けて両者をつなぐ回廊とする。

 これまで何度も見てきた、その場を()()とする儀式魔術だ。

 

 既に漏出は始まっているようで、ビル内は【境界化】が始まっていた。空間がねじれ、ビル内部は既に見たとおりに歩くことは出来ない。上層への階段に足をかければ、次の瞬間には打ち捨てられたマネキンの散らばるブティックの跡地に立っていた。

 なぜもっと早くに話を持ってこなかったのかと、あなたは左手で自身の顔を覆い、ため息混じりに頭を振った。

 

 空間の()()()は【境界化】が安定すれば治まるので、それまで放置するという選択肢も無くはない。だが安定するまでにかかる時間はマチマチで、ほんの数秒で終わることもあれば数日、数週間経っても終わらない場合もある。それに一度帰ってまた来るのでは面倒だ。

 ここは少し手を借りるかと、あなたは仲魔を召喚した。

 

 

――花魄(カハク)

 

「はいはーい」

 

 

 あなたの突き出した右手の先に強い光が弾けると、次の瞬間には右手の甲に腰掛ける小さな小さな美女の姿があった。蝶の(はね)を持つ地霊・カハク。その愛らしい容姿にふさわしく、応えた声音は小鳥のさえずりのようではないか。

 だが見た目に反し、彼女は首縊りに使われた木の精とされる。無邪気な笑顔の奥に潜んだ瞋恚(しんに)の炎は、人一人を簡単に焼き殺せるだけの力を持っているのだ。

 

 

――道案内を。

 

「えーまたァ? そういうのってピクシー(あいつ)の役目じゃなーい?」

 

――……

 

「じょ、冗談! 冗談だから。そんな怖い顔しないで。ね?」

 

――……………

 

「じゃ、じゃあ、あのっ! ついて来なさひっ」

 

 

 人間を殺しうる強い力を持つとは言え、悪魔としての彼女は下級で、戦いにおいては雑霊(ザコ)を掃討する程度が関の山だ。それでもこの一言多い彼女(アクマ)を呼んだのには、二つの理由があった。

 

 一つは木の精という彼女が持つ権能。

 彼女は死者の未練(おもい)を、かすかな花の香に乗せて伝えるという。その花の香を操って空間を探り、また香りを辿ることで未練の主を探し当てる事が出来た。その力はこのようにねじれた空間でも変わらず有効なため、あなたは同じような場面で彼女を頼ることが少なくなかった。

 

 もう一つは、彼女が顕現するために必要となるマガツヒが少ないということ。

 あまり高位の悪魔を呼んでしまえば、この場に蓄えられた()()()()()()()()にどんな影響を与えるか分からない。マガツヒを食い尽くして【境界化】が沈静化されればよいが、何らかの術式によって現れた悪魔が狂わされたり、溜めこまれたマガツヒが予期せぬ魔法に変じてしまうことも、無くはないのだ。

 

 

 それはさておき。

 

 そんなに怖い顔をしていただろうか?

 あなたは自分の顔を一撫ですると、逃げるように飛んでゆくカハクの後を追った。

 

 

*   *   *

 

 

 花魄に案内され、歪んだ空間を何度もワープしながら狭い小部屋に着く。

 おそらくは店舗裏(バックヤード)だろう。

 冷蔵庫と事務机、椅子が乱雑に散らかっているその部屋には、奇妙な生活感があった。

 

 不法占拠者でもいたのだろうか。それとも?

 冷蔵庫の中には大量のコンビニ弁当が入っていたものの、どれも賞味期限はとっくに過ぎていて異臭を放っている。

 あなたは顔を背けると勢いよくドアを閉め、その存在を忘れることにした。

 

 

 机の上には叩き壊された年代物のノートパソコンと、一冊の古びた手帳。

 そして何処かの湖畔を背景に、幸せそうに笑い合う男女の写真が収められた写真立て。

 

 

 手帳はどうやら去年(2094年)日記帳(ダイアリー)のようだ。

 ペラペラとめくってみると、ほとんど全てのページに過密なほどの書き込みがある。最初のうちは字も丁寧に、内容も整理して書かれているが、後になるほど字は崩れ、読み取りづらい走り書きになっている。

 それは日本各地を()(めぐ)りながら、記してはならない何かを探すフィールドワークの記録のようだ。四国から兵庫、奈良、京都、それから北陸を経由して岩手まで北上し、南下して関東一円を巡り、年末に吉祥寺(ここ)辿(たど)り着いたとある。

 どれも古くから霊場とされていた場所だ。

 この手帳の主が魔道士であるなら、おそらく修験(しゅげん)か密教系のそれなのだろう。

 それが何故、こんな都市部に来たのやら。

 最後のページには、震えた線で『もう一度あの日に』と書かれていた。

 

 

 ノートパソコンは画面にヒビが入っていたので、あまり期待せずに電源を入れてみる。

 どうやらバッテリーは生きていたようで、起動音がして画面のバックライトが点灯する。モニタは辛うじて生きているようだ。

 そして次の瞬間……

 

すぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せすぐに消せ

 

……画面を文字が埋め尽くすと、バツンと異音がして消えた。

 焦げ臭い異臭がするので、おそらく基盤の何処かでショートしたのだろう。

 これから情報を得るのは諦めるしか無い。

 

 

*   *   *

 

 

 おかしなバックヤードを出ると、すぐそこに見えていた階段にたどり着くためにフロアを一周するような手間を掛け、あなたたちは二階、三階と踏破する。

 

 何度か似たような場所を歩かされた。

 カハクがささやかな逆襲(いやがらせ)を試みたのだろうか?

 だが彼女は気まぐれと悪ふざけを信条とするピクシーと違い、どこか根が真面目で一本気な性分だったことを思い出す。そんなことはしないだろう。あなたは疑念を抱いたことについて一言「すまん」と謝ったが、彼女は「わ、分かればいいし分かれば……え、なんで?」と目を(しばたた)かせていた。

 

 途中、マガツヒに誘われて迷い出たモウリョウや、悪魔の概念(カタチ)を持ちそこねたスライム(できそこない)に遭遇するが、ほとんどは怯えるように縮こまっていたため、あなたは無視して先を急ぐ。カハクに手を出そうとしたごく少数の愚か者にのみ、あなたの鉄拳を叩き込んで。

 

 

 階段下に立ったときから、既に噎せ返るような生の匂いが漂ってきていた。

 あまりの臭気にカハクは「あとは階段上ればすぐだしここまでで大丈夫よねゴメンもう無理」と早口にまくし立て、さっさと【魔界(すみか)】へ帰ってしまった。

 階段に足をかけてみても、もう別の空間にずれ込んでしまうことはない。あなたは無言で階段を上ってゆく。

 

 そうしてたどり着いた四階は、これまでの冷ややかで(カビ)臭い廃墟の空気とも異なり、顔をしかめずには居られないほど生臭く、そして(けむ)たい空間だった。

 外周をクリーム色の塗装が剥げた壁に囲まれ、太い支柱が何本も立ち並んだ大空間(ホール)は、大きな新エコービル本来のそれより、もっと広さを感じる伽藍堂(がらんどう)

 

 中心に立つ白木の鳥居は()()()に汚れ、そのすぐ下にはハンドボールほどの大きさの丸みのある物体(なにか)が鎮座している。

 その鳥居を囲むように何組もの痩せこけた裸の男女が絡み合い、獣声を上げていた。

 更にその周囲には手酷く殴る蹴るの暴力を振るわれただろう紺の制服の男たち。おそらく派遣された警備員であろう彼らは血まみれ、痣まみれで、もはや微動だにしていない。

 脱ぎ散らかされた衣服は酒と砂埃にまみれ、ライダースーツのゴムや革、それに混ぜ合わされた血と汗と交合の臭いが充満したそこは、およそ正気の人間が長居できる場所とは思えない。

 それらを取り囲むように瓦礫が円に配置され、一種の結界が成立していた。

 

 

「誰か」

 

 そんな狂乱の祭祀場の奥は、ひときわ異様な明かりが一つ。

 鳥居を挟んだ向こう側に、景気よく炎が燃え盛る護摩壇(ごまだん)があった。

 赤々とした炎の強い光とそこから方方(ほうぼう)へと広がる煙によって、奥まではっきり見通すことが出来ない。

 

 獣声と肉を打ち付ける音に紛れ、パチパチと何かの爆ぜる音が聞こえた。

 

「しばし待て。すぐ終わる」

 

 正気であるほど絶句するだろう騒音の中、やたら聞き取りづらい(しわが)れ声で何者かがそう告げると、カタカタとメカニカルキーボードの打鍵音をさせて「これでよし」と独白した。

 護摩壇の向こうで何者かが立ち上がり、こちらへと歩いてくる。

 煙のむこうから現れたのは、場違いにきれいな白衣を着た、痩身の男だった。

 

「何用か? こやつらの同輩にも見えんが」

 

――【異界】化の(きざ)しがあると聞いてな。

 

 周りでうごめく理性を捨てきった有象無象――おそらくはここを根城にしていたチーマーたち――を示しながら、語る男の目には、好奇の色が浮かんでいた。

 ふむ。

 

「なるほど、貴様も魔法師か……して、この儀式の見物(けんぶつ)に来たのか? それとも邪魔をしに?」

 

 問いと同時に、男の気配が剣呑なものへと変わる。

 見れば周囲に満ちていたマガツヒが、鳥居を中心に大きな渦上の流れを作っていた。

 さて、何が召喚さ(よば)れたものやら。

 

「どうした。言葉も忘れたか? うぬも禽獣(きんじゅう)の類か?」

 

 酷い言われようだ。

 だがまあ、これだけの儀式を成功させる腕があれば、自信家になるのも頷ける。

 万能感はいつだって人を狂わせるものだ。

 ああ恥ずかしい。

 

「む。もしや貴様、伝え聞く()()()()の手の者か!?」

 

 あなたが共感性羞恥に悶えそうになっているのを他所(よそ)に、男は思考を言葉にしながら何らかの答えに至ったらしい。

 くわっと眼を見開き(つばき)を飛ばしてわめきたてる。

 まあ依頼主は確かに葛葉(クズノハ)家からのものなので、間違ってはいないが。

 

「既に衰えて久しいと聞いていたが、腐っても関東鎮護、侮れんな」

 

 男は白衣の胸元からメガネを取り出すと、両手で丁寧にかける。

 ツルのあたりを触りながら黒目を左右に動かしている。

 おそらくスマートグラス――メガネ型情報端末――なのだろう。

 

 もしかしたら自分の知らない機能があるのかもしれない。

 ガジェット好きな性分が顔を出し、思わずメガネを凝視してしまう。

 

 だが、男はあなたの視線を勘違いしたらしい。

 目力を強め、ギョロリと睨みつけてくる。

 

「我がアシヤ流の怨敵クズノハ。そちらもヤル気か。そうでなくては御祖(おんそ)道満(どうまん)公も報われぬというもの」

 

――(いや)、俺は……

 

「だが、いっかなクズノハとて、もはや儀式を妨害することなど出来はすまい」

 

 白衣の男は鼻息荒く、ニンマリと勝ち誇った表情で指を鳴らす。

 それが起動のスイッチだったのだろう。

 渦巻くマガツヒが鳥居の下に置かれたなにかに吸い込まれてゆく。

 

 あなたはクズノハでもないし、なんなら妨害するつもりもないのだが。

 

 まあ、このビルを丸ごと【異界】化させようとしているマガツヒが適切に消費されればそれで良い。

 果たして何者が現れるのか。

 あなたはその【眼】(アナライズ)で白衣の狂人を見つめた。

 

 

 これより語るは世界の記憶。

 

 おちたるものの ものがたり

 




感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。
([ここすき]もチェックしてますんで、感想書くほどじゃないなーという方も、いいなーと思ったところでポチポチやってもらえれば幸いです)

「メガテンと言えばエログロ」ってのは流石に言いすぎかも知れませんが、要素の一つではあるよね、ということでひとつ。

今回登場させたカハク(花魄)について、逸話、能力は本作の独自設定ということで。
子不語の逸話(?)だと「放っておいたら干からびた」だの「水をかけたら生き返った」だの「美人だったんで見物人が集まった」だの「勉強の邪魔になったんで木に上げたら鳥に咥えられて連れ去られた」だのとロクな扱いを受けていない可哀想な子だったので。
(最後のは成仏を意味すると考えれば悪いことではないんですが)
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