魔法科転生NOCTURNE SS置き場   作:人ちゅら

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 ブランシュ事件の際、人修羅さんが去った後の裏門でのアレコレ。


SS#060 救命活動 - 安宿怜美

 フロントを大破したトラックのエンジンが、断続的に火花を散らしていた。

 焦げた臭いと、融解した金属の熱気が夜気へ混じる。

 破壊された車体は中央から大きく裂け、運転席側は壁へめり込むように潰れていた。

 

 その傍らへ駆け込んできた救急隊員の一人が、思わず足を止める。

 

「……(ひで)ぇな」

 

 道路には砕けたガラスと瓦礫が散乱し、周囲の外壁には着弾痕が幾つも残っている。

 一高襲撃事件――その戦闘の爪痕だった。

 

「生存者一名! 運転席!」

 

 別の隊員の声。

 キャビン内部へライトが差し込まれる。

 男はまだ生きていた。

 

 だが両腕は不自然な方向へ折れ曲がり、下半身は潰れた計器盤へ完全に挟み込まれている。

 特に両脚は、膝から下の形状がほとんど失われていた。

 

「脈拍低下! 出血性ショック!」

「油圧カッター急げ!」

 

 車体切断が始まるより早く、ひとりの女が規制線を潜ってきた。

 

「医療班よ」

 

 どこか草臥(くたび)れた雰囲気を漂わせた白衣の女――ここ、魔法大学附属第一高等学校の保険医である安宿(あすか)怜美(さとみ)だった。

 

 隊員のひとりが反射的に制止しようとして、胸元の身分証を見て顔色を変える。

 

一高(イチコー)の……」

「説明は後よ」

 

 安宿は手を伸ばし、運転手の首筋へ指を当てた。

 脈は今にも途切れそうに、か細い。

 

 大量出血。

 多発骨折。

 内臓損傷もある。

 

 通常なら、救急搬送中に死亡していてもおかしくない状態だった。

 

「――固定(ロック)

 

 低い呟き。

 安宿のCADが起動し、刹那、淡青色のサイオン光が男の全身を包み込んで、消える。

 

 現代魔法による応急治療。

 情報次元(イデア)にある男の情報構造体(エイドス)を、正常な状態に上書きする。

 それは世界を(だま)す、魔法らしい魔法。

 

 だがそれも、万能とは程遠い。

 一度に書き換える情報量が多くなれば、それだけサイオン消費も激増する。

 どこかひとつでも破綻すれば、現実の復元力にあっさり負けかねない。

 

 状況から判断し、血圧低下の抑制と、破綻しかけた循環器系への強制干渉に限定する。

 根本治療には程遠い、あくまで生命維持のための処置だった。

 

 男が苦悶の声を漏らした。

 

「……ぅ、ぁ……」

「喋らないで。死にたいの」

 

 安宿は淡々と言った。

 

「救急車が来るまで保たせます。だから意識を手放さないで」

 

 校舎の側では見落としがないか安全確認に走る民間警備会社の武装隊員が走り回っていた。

 

 人目のつかない裏門では、テロリスト側に三人の負傷者が出ている。

 校内図書館では武装テロリストと一高生の間で激しい交戦があったらしく、相当な数の負傷者がストレッチャーに載せられ、忙しなく搬送されている。

 お陰でこちらまで救急隊が回ってこないほどだ。

 

 今夜だけで市内の病院に何人運び込まれるのか、誰にも分からなかった。

 

 

 運転手の男は、焦点の定まらない目で夜空を見上げた。

 

「俺、は……」

 

 何かを言いかけ、咳き込む。

 血が口端から溢れた。

 

「……っ、俺、そんな……話は……」

 

 安宿は答えない。

 ただ、術式維持へ意識を集中し続ける。

 

 そうして救助作業が再開。

 数分後、ようやく手の空いた救急隊が到着。

 男を担架へ固定した。

 

「先生、搬送します!」

「お願いします。脚は、恐らく……でもまだ助かるわ」

 

 救急車のドアが閉まる。

 

 サイレンが夜道へ遠ざかっていくのを見送りながら、安宿は小さく息を吐いた。

 現代魔法は万能ではない。

 失われた肉体を、何事もなかったように戻せるわけではない。

 

 それでも。

 少なくとも今夜、ひとつの命だけは繋ぎ止められた。

 

 

 後日。

 運転手の男は一命を取り留めたものの、両脚は膝下から切断された。

 一高襲撃事件における負傷者の一人として、記録だけが残された。

 




 感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。

 本編では明示しませんでしたが、人修羅さん、去った際にこっそり安宿先生に事後処理を頼んでいました。
 元々殺す気はなかったものの、【ディア】系は使いたくない(バレたら国家レベルの騒動になる)ので、次善策として現代魔法の治癒で対応してもらおう。という次第。
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