魔法科転生NOCTURNE SS置き場   作:人ちゅら

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 四葉真夜、登壇。



SS#062 夜の気配 - 四葉真夜

 第一高校襲撃事件――通称、ブランシュ事件から数日後。

 

 日本魔法師協会の各支部が緊張に包まれていた。

 十師族会議のため、各支部に十師族の当主たちが来訪しているためだ。

 

 オンラインの会議は、重苦しい空気の中で進行していた。

 

「……以上が、魔法大学側からの要請です」

 

 提言者の七草(さえぐさ)弘一(こういち)が、手元の資料を閉じる。

 

「各魔法科高校への民間魔法師警備員――“巡回警護官”の派遣。及び、一部人員の実技教官転用による学生魔法師育成体制の強化。協会としては、本件を共同事業として提案します」

 

 淡々とした声音。

 だが、その場にいる誰もが理解していた。

 

 これは単なる警備強化案ではない。

 魔法師社会そのものへ影響を与える制度改革だ。

 

「ふむ……」

 

 一条(いちじょう)剛毅(ごうき)が腕を組む。

 

「一高襲撃の件を考えれば、防衛強化そのものには異論はない。二科生の育成強化も、悪い話ではあるまい」

「同感です」

 

 二木(ふたつぎ)舞衣(まい)が扇子を口元に当て、笑みを浮かべる。

 

「現状の二科生制度は、どうしても実技面が弱くなりますもの。地方校でも慢性的な教官不足は問題になっていますし」

 

 両者の賛同を受け、会議室の空気がわずかに動く。

 弘一は表情を変えない。

 

「現在、警護官候補として挙がっている民間魔法師のうち、およそ半数は教育任務へ転用可能です。特に一高、二高、三高では即効性が期待できるでしょう」

 

 合理的な提案だった。

 

 襲撃事件を受けた世論。

 学生魔法師への不安。

 慢性的な教官不足。

 そして、民間魔法師の職域拡大。

 

 複数の問題を一度に処理できる案に見える。

 

「……随分と“善政”だな」

 

 ぼそり、と。

 三矢(みつや)(げん)が低く呟いた。

 

 弘一は肩を竦める。

 

「必要だからですよ、三矢殿」

「必要、か」

 

 三矢は鼻を鳴らしただけだった。

 

 会議室の一角。

 九島(くどう)(れつ)は腕を組み、静かに目を閉じている。

 賛成も反対もない。

 ただ、沈黙していた。

 

十文字(じゅうもんじ)家としては賛成だ」

 

 十文字和樹(かずき)が短く言った。

 

「関東圏の警備強化は急務だ。特に第一高校は、今後も狙われる可能性が高い」

 

「でしょうねぇ」

 

 二木舞衣が頷く。

 

「テロリストに“成功体験”を与えてしまいましたもの」

 

 空気が、少しずつ賛成へ傾いていく。

 

 その流れを見ながら、四葉(よつば)真夜(まや)は静かにティーカップを傾けていた。

 張り詰めた空気が、モニタ越しに微かに広がる。

 

「四葉殿は、どうかな?」

 

 弘一が視線を向ける。

 真夜は、少しだけ考えるように目を伏せた。

 

「……そうね」

 

 柔らかな声。

 

「襲撃事件が起きてしまった以上、仕方がないのではないかしら」

 

 それだけだった。

 

 だが。

 その瞬間、会議の流れは決まった。

 

 六塚(むつづか)温子(あつこ)が小さく息を吐き、

 

「六塚家も異論はありません」

 

 八代(やつしろ)雷蔵(らいぞう)も渋々といった様子で、

 

「……八代も賛成としよう」

 

 と続ける。

 

 棄権したのは五輪(いつわ)家と九島(くどう)家のみ。

 

 反対意見は、結局最後まで出なかった。

 

 

*   *   *

 

 

「――七草にしては、随分と()に寄っているわね」

 

 会議終了後。

 四葉本家へ戻った真夜は、執務室のソファへ身を預けながら呟いた。

 傍らには、執事長・葉山。

 

「警備強化、二科生育成、民間魔法師の職域拡大……表向きは、どれも理に適っています」

「ええ。だからこそ、気になるのよ」

 

 真夜は薄く笑った。

 

「あの人、善意だけで動くタイプではないでしょう?」

 

 葉山は数秒沈黙した後、

 

「調べさせましょうか」

 

 と静かに問う。

 

「お願い」

 

 真夜は即答した。

 そして窓の外、夜景を眺める。

 

「……何を見つけたのかしらね、七草弘一」

 

 

*   *   *

 

 

 数日後。深夜。

 司波達也の端末へ、四葉真夜からの着信が入った。

 

『ご機嫌よう、達也さん』

「……何か御用でしょうか」

 

 画面越しの真夜は、相変わらず妖艶な微笑を浮かべている。

 

『少し気になったものだから』

 

 真夜は足を組み替えながら続けた。

 

『廃棄バイオ工場の件。何か変わったことはなかった?』

「特には」

『そう』

 

 真夜は、じっと達也を見る。

 値踏みするような視線だった。

 

『学校生活には慣れたかしら?』

「問題ありません」

『お友達作りも、学生の本分よ?』

 

 達也は無言だった。

 真夜は小さく笑う。

 

『最近、あなたが関わっている……()()の子』

 

 達也の目が、わずかに細まる。

 

間薙(かんなぎ)君、と言ったかしら?』

「……なぜ、その名前を?」

『私が答えるとでも?』

 

 くすり、と真夜は笑った。

 

『彼とは程々に付き合いなさい』

「理由を伺っても?」

『さて。女の勘、とでも言っておきましょうか』

 

 それだけ言うと、真夜は一方的に通信を切った。

 

 静寂。

 執務机の傍らで控えていた葉山が、静かに口を開く。

 

「……よろしいのですか?」

 

 その問いには、“間薙”という名そのものへの警戒が滲んでいた。

 

 真夜は窓の外の夜を見つめる。

 まるで、遠い昔の夢でも思い出すように。

 

「さて、どうなるかしらね」

 

 夜空に浮かぶ十三夜の月が、妖しく微笑んでいる。

 




 感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。

 真夜サマ。人修羅さんの登場で、原作とちょっとだけスタンスを変えて参戦します。
 設定上はちょっとどころでなく変わっていますが、それを書けるのはどれだけ先になるのか……
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