IS学園のIS用アリーナで学園の教師である織斑千冬が最後の点検をしている。使用後のアリーナに問題がないかを確認すれば今日の仕事は終わりだ。入学準備やらなにやらで忙しかったがそれもひと段落した、4月の始業が近づくまでは早く帰ることができるだろう
異常もないようで帰ろうとしたとき、アリーナの中心に光が現れた。光が解け、そこに男が倒れているのを目の当たりにして、千冬は今日帰ることはあきらめた
近づいてみると男はどうやら気を失っており、負傷しているようである。救急車でも呼ぼうかと思ったとき男は目を覚ました
「うう……レモ……ン」
「おい、しっかりしろ」
目は覚ましたようだが、意識がはっきりしないのか返事がない
「意識はあるのか?あるなら"あ~"でも"う~"でもいいから返事をしろ」
「ああ?」
「馬鹿にしているのか?お前は」
「いや、そういうわけじゃない。聞こえている」
どうやら本当に悪気はないようだ。悪気があれば怪我人といえど容赦なく張り倒していたところである
「俺は……誰だ?どうしてこんなところに?」
「やはり馬鹿にしているんだろう貴様」
そういいながら手を振り上げた所で……
「ふざけるならもっとまともなこと言ってるよ」
本人から否定されてしまった
「いや、アクセル、アクセル・アルマー……これが俺の名前らしい」
「嘘かどうかは救急車を呼んだから、怪我を治すついでに調べさせてもらう」
「怪我を治せて、記憶についても検査してもらえるんなら望むところなんだな、これが」
数分後に救急車が到着し、アクセルは病院へ運ばれた
検査の結果アクセル・アルマーの記憶喪失は本当であることがわかった。千冬からすれば、現れ方からして不審なものである以上このまま帰すわけにもいかない。関係者の方から接触してきてくれれば楽なのだが……
千冬がそう思っていたところで病院にアクセルへの連絡がはいった。記憶喪失であるアクセルを出すのもアレだろうとまず千冬がでる
「アクセルという青年を保護したもので、IS学園で教師をしている織斑千冬と申します」
「あら、IS学園の関係者さんなのね、じゃあ都合が良かったわ。あと、堅苦しいしゃべり方しないでいいわ。私も素でしゃべるから」
都合が良いとは?と言う千冬の疑問はすぐに次の言葉によって解決した
「私はIS開発の科学者をしているレモン・ブロウニングというものだけど、実はわが社でISに代わるパワードスーツを開発したからそっちの学園でISとの戦闘データが欲しいのよ」
「ISに代わるパワードスーツとはにわかには信じられない話だな」
「まだ公表してないし、性能の証明はIS学園でISと戦闘させて見せ付けるつもりだったもの。どちらにしろ、お偉いさんに公表したあとに特別枠でパイロットを入学させることになると思うからよろしく」
レモンがもう確定していることのように語っているところをみるに、どうやら本当にパワードスーツを完成させたらしい
「で、そのパイロットが今そっちの病院にいるアクセル・アルマーっていうわけ」
「あ~、そのアクセル・アルマーという男なんだが……」
「……何かあったの?」
「記憶喪失らしいのだ。検査もしたし間違いない」
困ったことになった……人手不足でアクセルがタイミングよく転移してきたと思ったらコレである。もしパイロットとして使えないなら次の手を考えなくてはならないし、純粋にアクセルが心配である
「アクセルの様子は?」
「直接話した方がわかりやすいだろう代わるぞ」
「もしもし?俺の関係者さん?さっそくだけど俺のことを教えてほしいんだな、これが」
聞こえてきたのは確かにアクセルの声。しかし、テンションがおかしい……彼の性格からは考えられないほど明るい口調である
「あなた本当にアクセルなの?記憶喪失にしてもおかしくない?」
「そう言われても、俺が覚えてるのは名前だけなんだよ」
「まぁ、殺伐としてたし過去の経歴がなくなるとこうなる可能性はなくはないわね」
妙に明るいアクセルというのは変な感じだが、ふさぎ込まれるよりはずっとマシだ。身体に戦いが染み付いていれば戦闘も可能かもしれない
「あなたはわが社の開発しているパワードスーツのテストパイロットで、そこにいる千冬さんが教師をしているIS学園に入学してうちの商品の性能を証明してほしいのよ」
「ん?俺は開発会社の人間なのか?違和感が……。それに記憶喪失の俺にテストパイロットなんて務まるのか?」
「それは確かめなくちゃいけないところね。特別枠の入学が決まったら一応入学試験の名目で確かめさせてもらうわ」
「記憶喪失の人間あいてに……人使いが荒いね、まったく」
「人手不足なのよ。できればあなたで済ませたいの。それに、今のあなたの方がやりやすいかもしれないわ」
元のぶっきらぼうなアクセルよりも学園という環境に入れるのであればこちらのアクセルの方が溶け込みやすいだろう。それに元のアクセルは任務であればなんでもこなすとはいえ、いまさら学生生活などということは嫌がりそうだ
「まぁ、捨てられて路頭に迷うことになるよかマシかね」
「話は決まったわね。記憶の方はあなたのことだから問題ないわ。戦っていればそのうち戻るわよ」
「人事だと思って……気楽なもんだ」
「記憶喪失のくせに妙に明るいあなたに言われたくないわよ。じゃあ、退院後はお金は出すからホテルにでも泊まってちょうだいな。入学試験には迎えをよこすから。ブリュンヒルデさんによろしく」
「誰だソレ?」
その疑問の返事はなく電話は切れていた。強引な入学命令に自分はそんなに代わりの聞かないポジションにいたのかと疑問にも思ったが、記憶がないのだからわかろうはずもない。とりあえず、近くにいる千冬に素朴な疑問をぶつけてみる
「ブリュンヒルデって何のことか知ってるか?」
「知らん」
「あからさまだねぇ。何を指してるのか丸わかりの反応だぜ」
ブリュンヒルデが何のことかわかっても、自分のことは何一つわかりそうにない。記憶が戻るまではとりあえず命令に従うしかないのろう……自分の年齢もわからないが、成人はしているだろう。いまさらハイスクールの学生をやるのかとアクセルはため息を吐いた
「良かったのか?奴を裏方に回して他の者を使う手もあったはずだぞ」
アクセルと話をつけたレモンにヴィンデルが問う
「記憶喪失の彼のテンションの方がティーンエイジャーと学園生活には適しているわ。多分、他の誰かじゃ気が滅入っちゃうわよ。この世界の若者の流行にもついていけないだろうし」
「だったらいっそのこと記憶がない奴にということか……だがPTの戦闘データを収集するのも目的だ。戦闘は問題ないのか?」
「いくら記憶喪失でも彼の体に染み付いた戦闘技術は失われようがないわ。それに、それを確かめるためにわざわざ入学試験までさせるのよ」
「だめなら代わりを出すまでか……」
保険があるというのもあるが、理由はもう一つある
「それに、闘争の中で生きてきた彼だもの。闘争の中の方が記憶は取り戻しやすいと思わない?」
「それもそうか……だが、記憶が戻ってからが地獄だろうな」
「あの変わりようだものね。戻った後の彼がどういう反応を見せるのかも楽しみだけれど」
イジりがいのないアクセルをイジるいいネタが見つかったと二人は笑いあった
入学試験当日、病院で受けた連絡の通りにアクセルの滞在しているホテルに迎えが来た。一度、コレの前にも入学試験等ほかもろもろを伝えるために関係者だという人間が接触してきたが、その時も今回の迎えも会話に入ると、驚きの顔を見せ「本当だったのか」という言葉を呟いていた。記憶のない身としてはそんなに以前の自分と違っているのかとなんだか変な気分である
試験会場のアリーナに着くと、一人の20代前半くらいの若い女性に迎えられた。パッと見でわかるほどの美貌とスタイルに目を奪われた。なんだか人間離れした容姿である気もする
「シャドウミラー社IS解析班に所属しておりますラミア・ラヴレスと申しますです。たいちょ……アクセル様、あなたの機体まで案内いたしますことよ」
「面白いしゃべり方だねぇ。君も俺のことは良く知ってるのかい?」
「各地を転々としていたため敬語がうまくしゃべれなかったりしちゃうのです。記憶に関しては情報は与えなくてよいと言われております」
どうやら、自分の記憶は自然回復を待つしかないようである。口を滑らせるなというほどの命令ではないあたり、このまま仕事をこなしていれば記憶のキーワードが自然に出てくるだろう
その後の会話でも記憶に関するキーワードに引っかかることはなく、アクセルの機体の鎮座する格納庫に着く
「これがアクセル様の機体である戦闘用パワードスーツPT"アシュセイヴァー"です」
「PT?アシュセイヴァーってPTとは違ったような気がするぜ?」
「確かに基のアシュセイヴァーは"アサルト・ドラグーン"略して"AD"と呼ばれるカテゴリです。ですが、パワードスーツはすべてPTということにしようということになりましたのでございまする」
「基の?アシュセイヴァーってすでに別の形のものが存在しているのか?」
「しゃべりすぎましたね。もうすぐ時間ですので機体の装着をお願いしまする。ISと同じように装着と同時に情報は頭に入りますし、ISと違いファースト・シフトのような時間のかかるフォーマットやフィッティングは必要ないのでありんす」
もう少し泳がせてしゃべらせれば良かったか?と内心思ったが、時間が迫っているようだ着いた早々にかとも思ったが、会話でボロが出ないようギリギリに到着したのであろう。機体のフォーマットに時間がかからない事がそれを可能にしているところもあるようだが……
「それにしたってぶっつけ本番とはね……記憶喪失の俺がうまく動かせると思ってんのかね?」
機体を装着しながら呟く……本当に情報が頭に入ってくる。集音性のためか、物音がクリアに聞こえてきた
『我らはそれだけあなたを信頼しているということです』
どうやら呟きが聞こえていたようだ。そうしているうちに試験開始のブザーが鳴った
「アクセル・アルマー、アシュセイヴァー出るぜ」
アリーナに飛び出した時に自分と相対していたのは見た所重武装の機体のようである。データによると機体名は"ラファール・リヴァイヴ"で後付武装が豊富な機体であるらしい。相手は随分と渋い趣味のようだ
そう思っていたところでミサイルの雨が降り注ぐ、しかし、アクセルはそれを易々とかわしていく
「いきなり容赦ないねぇ……さて、機体も俺も慣らし運転といきますか」
さらなるミサイルによる攻撃をアクセルは連射性の高いガンレイピアでミサイルを撃ち落す。それによって起こった爆煙に紛れて相手に接近しながらレーザーブレードを抜き放つ。望むところだと言わんばかりに相手も近接用ブレードを展開させた。自信の見える表情……どうやら本来の得意分野は近接戦で最初からミサイルを展開していたのはブラフだったようだ
「やってくれるねぇ。だがまぁ、なるようにならあね!」
ブレード同士がぶつかり合い鍔迫り合いに発展する。そこで、アクセルは身を捻ると同時に自身のブレードを消し去り、それによって体勢が崩れた相手の懐に飛び込んだ。しかし、ブレードを再展開するのでは攻撃には間に合わないはずである
「四肢がある兵器はそれ自体も武器になるもんだぜ」
アクセルが渾身の拳を相手に叩き込むと武装を使っていない攻撃にも関わらず、相手のラファールのシールドエネルギーがゼロになった。アクセルが入学試験に受かった瞬間である
(外見ではわからんがマニピュレータがイカれてやがる。あのパンチの威力の反動か?この機体大丈夫なのかねぇ)
それに、先ほどの自分の戦闘での感覚も気になった。失っていたものを取り戻していく感覚だったのである。戦っていれば記憶が戻るという言葉は眉唾物であったが、どうやら信じられるようだ
機体の不調は気になるが記憶を取り戻す算段はついたのだ、なるようになるだろうとアクセルは格納庫に帰還した
作中にあるとおりアシュセイヴァーはアサルト・ドラグーンですが、レモンが開発したパワードスーツが全てパーソナル・トルーパーとなっている関係でPTとなっております