月曜日、試合が予定されていた日である
試合順はくじで決めることになっていたが、最初の試合はもう決まっているようなものだった。一夏のISがまだ届いていないのだ
「まぁ、試合順が後になったんだ。相手の手の内を観察しときな」
「……あ、ああ」
「どうかしたか?」
なんだか様子がおかしい一夏に尋ねてみる
「実は、言われたとおり箒に頼んで剣の特訓をしたんだけどさ……肝心のISの方の特訓をまったくやってないんだ」
「まったく!?箒ちゃんに剣と一緒に教えてもらわなっかったのか?」
「そっちの方も頼んでたはずなんだけどさ……俺も箒も剣の方に熱くなっちゃって」
武道を嗜んでいるならそっちを頑張るといいとはアドバイスしたが、まさかISの方をまったく特訓していないとは夢にも思わなかった。しかし、もう試合当日である放課後にアリーナを借りて試合をする以上はISの特訓をする時間はとれない
「過ぎたこと気にしてもしょうがねぇって。剣の特訓だけでもやることをやったことには変わりないんだ。なるようにならあね」
「そう言ってくれると助かるよ」
「なんとなくだけど、俺は接近戦の方が性に合ってる気がするし斬り合いは望むところだぜ」
「じゃあ、剣の特訓も無駄にならずに済みそうだな」
一夏もいつもの調子に戻ったようだ。アレコレどうにもならないことで悩むよりも開き直った方がうまくことが運ぶものである
「そろそろ準備しなくちゃいけねぇな。じゃあな」
「ああ、頑張ってこいよ」
アクセルはアリーナのピットへと向かった
ピットに着くとそこにラミアがいた
「アクセル様、アシュセイヴァーに関して伝言を預かっています」
「予想はつくけどなんだい?」
「近接戦闘ではレーザーブレードを使って欲しいそうです」
「だろうな」
先日のようにパンチを繰り出して壊さないでくれということだろう。わざわざ言われなくても機体が壊れるようなことをするつもりはまったくない
「それでは、私はこれで」
短いやり取りをしただけなのに、ラミアは去っていってしまった。伝言はしたからもう用はないということなのだろう
試合時間が目前と迫っている。アクセルがアシュセイヴァーを起動し、アクセルの右耳のイヤリングがPTアシュセイヴァーとして構成される
(入学試験じゃ、ガンレイピアとレーザーブレードしか使っていなかったな……他の機能や武装も試しておくか)
戦闘データを取らなければならないのだから、武装はなるべく使っておきたい。ただ、アリーナのような場所では威力が高いが取り回し辛いハルバートランチャーは使いどころがなさそうだ。取り回しやすいガンレイピアがあるのでなおさらである……まあ、無理やりにでも使ってみるのも手であろう
試合時間となり発進ゲートが開かれた。アリーナの使用時間が短いからか、試合開始の合図はなしである。発進したら即戦闘開始だ
「アシュセイヴァー出るぜ!」
アクセルはゲートを飛び出した
アクセルがゲートから出た瞬間いきなりレーザーがアクセルを襲った
「バリア展開!お~、きれいきれい」
アシュセイヴァーに装備されているビームコートで身を守る。レーザーやビームの類はこれで防げるが、エネルギーを消費するため多用は禁物である
「いきなり撃ってくるなんてやっぱそうとう怒ってるのかな?セシリアちゃん」
「あなたのような方に問答は無用ですわ!」
「そうこなくっちゃな。こっちも煽った甲斐があるってもんだ」
「一気に終わらせて差し上げます!さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットと"ブルー・ティアーズ"の奏でるワルツで!!」
セシリアのISと同名の自律機動兵器が展開され、アクセルに襲い掛かる。アクセルはそれをどこから来るかわかっているがごとくかわしていった
(他方向からの攻撃か、この類の戦法はあいつ等で慣れて……ん?あいつ等って誰のことだ?)
少し記憶の片隅に引っかかったようだが、気にしている暇はないようだ。現にビットから放たれたレーザーが掠めていった
「試合中に考え事ですか?注意力が落ちたみたいですわよ」
ISの高感度のセンサーで見透かされたようだ。まぁ、操縦者の姿が見えているからセンサーなしでもある程度はわかるだろうが……
(このまま避け続けるってのも退屈だし、こっちも打って出るとしますかね)
アシュセイヴァーの胸のハッチが開き、無数のミサイル"ファイアダガー"が発射される。セシリアはビットでファイアダガーを撃ち落した
「ビットの扱いはまぁまぁってところかな」
「まるで、ビットの扱いを知っているかのような発言ですわね」
「記憶喪失だから戦闘は身体が覚えてるってのが正しいんだけどな。だんだん思い出してきたところさ、戦闘に関しての記憶ばかりってのがたまに傷だけどな」
そう言ってアクセルは肩の"ソードブレイカー"を4基切り離し展開させる。アシュセイヴァーに装備されている自律機動兵器である
「そちらも同系統の武装をお持ちでしたか……しかし、わたくしのブルー・ティアーズに敵うとは思わないことですわ」
「煽っちゃったのはこっちだけど、硬くなりすぎだ。スマートに行こうぜ!」
アクセルはアシュセイヴァーから展開されたソードブレイカーの一つがセシリアにレーザーを放つ。真正面からの射撃を避けられないはずはなく、セシリアはそれを軽くかわした。しかし、その次の瞬間にセシリアが見たのはすでに破壊された自分のビットの姿である
「随分とデリケートなビットだねぇ。ちょっと注意がそれただけで動きが鈍ったぜ。さあ、今度はそっちがダンスを踊る番だ!」
ソードブレイカーが隊列を組みながら、セシリアに迫った。セシリアも先のアクセルと同様にこれをことごとくかわしていく
「そうそう、当たるわけにはいきませんわ!」
「かわしやすいだろう?セシリアちゃんと全く同じビットの使い方で動かしてるからな。今度は俺のやり方でいくぜ!」
アクセルのソードブレイカーの動きが変わった瞬間、それはどういうことなのかと聞く余裕もなくなった。セシリアの回避先を読んでいるがごとく、ソードブレイカーのレーザーが襲い掛かかる。スターライトMk-Ⅲでソードブレイカーを撃墜しにかかるが当たらない
(ブルー・ティアーズと同じ自律機動兵器ならば、相手もあのビットの操作に集中しているはず!)
セシリアはビットの操作に集中しているだろうアクセルに弾道型のミサイルを放った。これをアクセルはまだ肩に装備されていた2基のソードブレイカーで撃ち落してしまう。その瞬間セシリアの顔が露骨に歪んだ
「万策尽きたってところか?そろそろキメさせてもらうぜ!」
ソードブレイカーがセシリアに突っ込んできた。掠めたビットによってシールドエネルギーが削れる
(ぶつけて近接攻撃もできるビットですの!?)
続けざまにビットが一斉にセシリアに突進してくる。一度に食らったらひとたまりもないと、セシリアは大きく回避運動をとった
「そら、行けぇ!ハルバートランチャー!」
ソードブレイカーを回避したセシリアに大出力のレーザーが直撃し、落ちていくセシリアをアクセルが受け止めた。完全に気を失っている
『試合終了。勝者―アクセル・アルマー』
勝者を告げる声を後にしながらアクセルはセシリアを医務室へ運んで行った
セシリアが目を覚ましたとき、さっきまで自分と戦っていた男が自分が寝ているベッドの隣に座っていた
「気がついたかい?すまなかったな。試合用のモードにはなってたんだが、威力が高すぎたみたいだ」
「いえ、わたくし負けましたのね」
自分がここで寝ていたのが何よりの証拠であろう。自身の手札をことごとく破られ負けたのである
「すまなかった」
「あのランチャーについてなら今あなたが謝罪なさったはずですが?」
いまさら、何を誤ることがあるというのであろうか?それにあれほどの大火力ならある程度のチャージが必要なはずである。それを避けられなかっただけの話であり本当なら謝罪をされるいわれはない
「そうじゃないさ。この試合になる前までさんざん煽ってきたからな。本気で勝負してもらうためとはいえ、少し言い過ぎたと思ってな」
「いえ、あなたがわたくしを怒らせてくれなければ、あなたのことをなめてかかりもっと無様な姿を晒すことになったでしょう」
今回の試合の内容も良いものとはいえないのだ。なめてかかっていたらどうなっていたのかなど想像したくもない。結果的に助けられたようなものでむしろお礼を言いたい気分であった
始めは軽い男なのだと思っていたが、この真摯な謝罪といい、なんと義理堅い男なのだろうかと思う
「そう言ってもらえると助かる。改めてよろしくな、セシリアちゃん」
「ええ、こちらこそアクセルさん」
そう言って二人は握手を交わした。その後、話は試合内容に移った
「あの試合のあなたのビットの扱いには惚れ惚れしましたわ」
「セシリアちゃんもセンスは良いと思うぜ。常に相手の反応が遠いところを狙えるってことはそれがわかってるってことだからな」
「それ一辺倒ではいけないことは今回アクセルさんにビットを使われて初めてわかりましたわ」
そう、わざわざ自分と同じ使い方でビットを使ってそれを気づかせてくれたのだ。普通に使っていればそのまま勝てていたのだから、それ以外の理由はセシリアには見つからなかった
「ビットのうまい扱い方はこの総当り試合が終わった後にでも教えてあげるぜ」
「是非、よろしくお願いします」
笑顔でそう答える。最初の険悪さが嘘のようである
「そういえば、あのビットの操作にはそれほど集中力がいりませんの?あっさりとミサイルを迎撃と合わせて6基もビットを操作しておられましたが」
「いや、それ相応には集中力は必要さ。ちょっとコツがあるんだな、これが。これもちゃんと教えてあげるから安心しな」
どうやら自主訓練の相手には困らなくなりそうである
勝負の内容を話しているうちに勝負前交わしていた言葉を思い出し、セシリアは顔を赤くしながらアクセルに尋ねた
「あ、あの、わたくしが負けたらあなたの女になるという話なのですが……」
「小間使いにするってのも本気じゃなかったんだろう?無理やりってのは趣味じゃないし、気にしなくてもいいんだぜ?」
「とんでもありません!是非わたくしをあなたの女にしてください」
本当にとんでもないことになった。まさかのあちらからの告白である。確かにセシリアは美少女であるが、自分の記憶のこともある。ここはしっかりと断っておくべきだろう
「いいかい?セシリアちゃん。俺は記憶喪失なんだ。この意味がわかるかい?」
「どういうことですの?」
「記憶が戻れば俺に恋人がいたなんてことがありえるってことだよ。そんなことになったらお互いつらいだけだぜ?」
ラミアのあの態度もある。自分にそういう人がいる可能性は十分あった
「やはり、あなたは先ほどからわたくしが思っていた通りの人でしたわ。軽く見えて、その実とっても真摯な人。よけいに諦められなくなりました」
どうやら決意は固そうだ。表情からも本気だということが伝わってくる。ここで何を言っても聞きそうにない
「はぁ……俺の人間関係がはっきりしない内はキス以上はなしだぜ?あとは俺の記憶が戻らないとどう転ぶかはわからんぜ?」
妥協案を出す。この妥協案が褒められたものでないのはわかっているが、セシリアの表情を見ているとバッサリ斬り捨てることなどできなくなった
「今はそれでもかまいませんわ」
セシリアが笑顔で妥協案を受け入れる。記憶が戻った後に修羅場が起こることがないようにアクセルは祈った
学園編中はアクセル以外のシャドウミラーの影が薄くなりそうです