朝の食堂で一夏は昨日まででは信じられない光景を目撃している
「アクセルさん、こちらもおいしいですわよ」
「じゃあ、俺はこっちをセシリアちゃんにあげちゃうぜ」
昨日まではたしかに険悪だった二人が仲良くおかずをとりかえっこしている……。アクセルと食事をしているときにセシリアに相席を求められたときは、またあの険悪な雰囲気に挟まれるのかと思っていたが、これはこれで自分がここにいていいものなのか不安になってしまう
「そうだ、一夏のIS届いたんだってな」
どうやら存在を忘れ去られたわけではなかったようだ。このまま食事が終わるまでイチャイチャを見せ付けられなくても済みそうだ
「ああ、でも結局時間がないからフォーマットとフィッティングは試合中にやることになりそうだってさ」
「そっちは心配ないさ。昨日のダメージを考慮して今日の対戦は俺と一夏だからな。戦闘データ取りが目的だし
「それマラソン大会の一緒に走ろうねくらいに信用できない台詞だぞ」
昨日の試合は見ていたが、武装からしてアクセルの機体は中~遠距離用のはずである。わざわざ近接戦に付き合う理由はないはずだ
「大丈夫さ。斬りあいしたい理由はデータもあるけど記憶に関しての理由もあるんだ。前に言った近接の方が性に合ってるってのは嘘じゃなくてな。手がかりになるかなと思ったんだな、これが」
「そういうことなら望むところだ。銃があってもどうせ現時点じゃ使えたもんじゃないだろうしありがたいよ」
記憶を取り戻すことに関しては態度とは裏腹に貪欲なアクセルのことである、本当に引っかかるところがあるのだろう。セシリア戦で見せられたビットさばきを見るに自分ではとても避けられたものではないはずだ。だったら、斬りあいに付き合ってくれるという申し出を断る理由もない、むしろありがたいくらいである
「話は決まったな。じゃあ、一次移行が終わるまではウォーミングアップで終わったら勝負と行こう。ま、どんな武装か様子見はさせてもらうけどな」
「アクセルさんとの試合で手の内をかなり見せてしまいましたし、わたくしとしても様子見は大賛成ですわ」
「その様子見でやられて後悔するなよ?こっちは様子見してるからって遠慮なんてしないからな」
「そんなヘマはするつもりはないぜ。じゃ、そろそろ教室に行く準備しようぜ」
話し込んではいたが、すでに結構な時間が経っていたようだ。一夏は残り少なくなっていたおかずをかきこむと先に食べ終わったアクセルを追って自室に帰った
放課後の昨日に続く2回戦目、アクセルと一夏が対峙している……朝の約束通り一次移行に入る前はウォーミングアップということで軽く斬り合っている
「特訓してたって言うだけあって、なかなかやるじゃない」
「そっちこそ近接の方が性に合ってるって言うだけあるな」
両者ウォーミングアップということもあって相手に合わせており、試合の緊張感は感じられない
しばらく斬り合っていると一夏のISに変化が現れた。工業的な凹凸があった機体は、滑らかな曲線とシャープなラインが特徴的な機体に変わっていた
「さぁ、こっからが本番だな」
「ああ、本気でいくぜ!」
一夏が変化した太刀を思わせるブレードでアクセルに斬りかかる。アクセルはそれをレーザーブレードで受け止めようとしたが―
(手ごたえがおかしい!!)
違和感を感じたアクセルは身を捻りブレードを避けると一夏から離れる
(レーザーブレードが掻き消えた!?こりゃ、受けるって選択肢はなさそうだぜ)
離れたアクセルに一夏が突っ込んでいく。アクセルの行動から好機だと判断したようだ
(一気に決める!)
「受けられないならこっちが先に斬るまでさ!」
二人が交差すると試合終了を告げるブザーが鳴った
『試合終了。勝者―アクセル・アルマー』
試合結果には誰もが驚いていた。両者攻勢に出ており、先に斬りつけていた一夏がアクセルを捕らえたものだと思ったからだ
だが、一部の者は勝負の結果を目に捉えていた
(近接戦の方が性に合っているとおっしゃっておりましたがまさかこれほどとは思いませんでしたわ)
(あの一閃なんという速さだ……)
(あの速さは国家代表並じゃないのか?記憶喪失に関わらず次世代の兵器になるかもしれないものを任されるだけはあるということか……)
見えたものは皆アクセルの一閃に驚いていた
(さすが隊長……しかし、今の一閃は以前の隊長ほどのキレがない。やはり、身体の方も記憶は完全に取り戻していないということか)
アクセルの素性を知るラミアを除いて……
「いやぁ、肝が冷えたぜ。レーザーブレードが掻き消えたときはどうなるかと思ったぜ」
「それはこっちの台詞だよ。あんなに肝が冷えたのは千冬姉を相手にしたときくらいだ」
「まぁ、確かに身体の方はどんどん本調子になってるみたいだな。ただ反比例して、俺が何者なのかがどんどんわからなくなっていってるんだな、これが」
自分の身体の感覚が記憶をなくす前に戻っていっているのだろうという事はわかるが、情報としての記憶はそうはいかないようだ。これだけ戦い慣れているのなら戦っているうちに記憶に引っかかるシチュエーションに出会うこともあるかも知れないが……
「だけど、やっぱり悔しいな。勝ったと思ったっていうのもあるんだけどさ」
「IS初心者だし剣の方もブランクがあったって話じゃねぇか。これから頑張ればいいさ……イヤでも頑張らなきゃいけなくなるかもしれないけどな」
「それってどういう意味だ?」
「お前がISの唯一の男性操縦者だからさ。貴重なモルモットを欲しがってるやつらは多いだろうぜ」
それを聞いた一夏が黙り込んでしまう。なにか思うところがあったのだろう
「その危険も俺の使ってるPTが正式に採用されてISが不要になればなくなるけどな。だから、応援してくれよ」
にやりと笑いながらそれを言ったアクセルはピットに戻っていった
ピットにはセシリアがアクセルを待っていた
「お疲れ様です。アクセルさん」
「出迎えに来てくれたのかい?セシリアちゃん」
「そ、それは、わたくしはアクセルさんの女ですから……」
顔を赤くしながらセシリアは答えた。初心でなかなかに可愛らしい
「出迎えはもちろんなのですが、アクセルさんに聞きたいことが」
「なんだい?」
表情が真剣なものに変わったセシリアにアクセルの表情も真剣なものに変わる
「一夏さんの機体の武装です。レーザーブレードが掻き消えたようですが?わたくしと一夏さんは対戦前ですし、教えられないというのならかまいませんが……」
「あれはおそらくだが、エネルギー性質のものを消滅させるんだろうな。俺が一夏より速く斬るという判断に出たのもその所為さ」
「そうですか……」
なにやら、複雑そうに思案するセシリア。おそらく、一方的に情報を得たことに罪悪感に近いものを感じているのかもしれない
「後なセシリアちゃん。情報を知っているだろう相手に聞いて確証を得ることは恥じゃないぜ。むしろ、情報は積極的に集めたほうがいいぜ。勝利を確実にするためにな」
「え…?」
「ちょっと気にしてただろう?セシリアちゃんはプライドが高いしな。さ、試合も終わったし飯でも食いにいこうぜ」
「はい。それはそうと、先ほどの試合の―」
アクセルは笑顔になったセシリアとアリーナを出て雑談しながら寮の食堂へ向かった
次の日の放課後。セシリアと一夏の試合は一方的なものとなっていた
「例のブレードは恐ろしいですが、近づけなければどうということはありませんわ!」
(くっ!ビットが厄介すぎる。しかもアクセル相手のときと動かし方がまるで変わってる!?)
「今のわたくしは怒りに囚われておりませんし、油断もありませんわ。ですが、ビットをここまで長時間かわし続けたのはあなたが初めてですわ!」
「長時間かわす以前に封殺したアクセルを見てるからあんまり嬉しくないぞ!」
ビットをかわすのに必死な一夏はセシリアに近づくことができていない。セシリアは一夏を仕留めることよりも一夏を近づけないようにビットを動かしている
(このままじゃいつかはやられる!だったら一か八かで突っ込む!!)
一夏はセシリアに向かい全速で突っ込んでいく、それを見たセシリアは弾道型ミサイルを発射した
(それが来るだろうと思ってた!)
あらかじめミサイルを警戒していた一夏は紙一重でかわし、そのままさらに突っ込むが、セシリアが自身の側に残していたビット2基を展開し弾幕を張った。一夏はビットから放たれるレーザーを雪片弐型で受け無効化すると、そのまま一閃しビットを破壊する。そのままの勢いでセシリアの目の前に迫りセシリアを斬りつける
「インターセプター!」
一夏の雪片弐型をショートブレードでセシリアは受け止めた
(今ですわ!)
一夏のブレードを受け止めた瞬間、セシリアは残りのビットに攻撃を命じた。そのレーザーが命中した瞬間に試合終了のブザーは鳴った
試合終了後の一夏側のピットにはアクセル、一夏、セシリアと教師の千冬と真耶が集まっていた
「では、クラス代表を―」
「ちょっと待ってくれ千冬姉」
バシンッと一夏の頭を千冬がぶっ叩いた
「織斑先生と言わんか!馬鹿者!」
「はい、織斑先生。白式のことで聞きたいことがあります」
「なんだ?」
「白式ってもしかして脆いのか?ビットのレーザーに一発当たっただけで試合終了したけど」
ビットは基本的に連携を基本としており、一撃で勝負を決められるものではないはずである。直撃とはいえ流石に一撃でやられると思っていなかった
「いや、雪片の特殊攻撃の所為だ。アレはシールドエネルギーを攻撃に転化している。欠陥品といっていい代物だ」
「欠陥品って―」
「改めて3試合終わったわけだが、織斑とオルコットの試合結果を見るとオルコットがクラス代表となるわけだが……」
反論しようとした一夏を華麗にスルーし千冬は話を進めた
「二人と試合したアルマーの意見はどうだ?」
「実力はセシリアちゃんの方がもちろん上さ。だけど、これからを考えると一夏にどんな形ででも戦闘経験を積んで欲しいところかな」
「でしたら、わたくしはクラス代表を辞退しますわ」
以前あれだけ男子のクラス代表を拒んでいたセシリアとは思えない言葉が飛び出したが、アクセル戦後に二人に対する態度が明らかに変わっていたためそれほどは驚かれなかった。しかし、セシリアのプライドの高さを考えれば意外なことには変わらない
「アクセルさんの言うことですもの、考えあってのことでしょう。それに、クラス代表になるよりアクセルさんの教えを受ける方が有意義ですわ」
顔を赤らめながらセシリアが言う。そこからしばらくどこかの世界に意識がトリップしているセシリアをスルーして千冬が話を決める
「では、クラス代表は織斑に決まりだ。今日はこれで解散する」
解散を告げた後、千冬と真耶は会議があると行ってしまった
「面倒くさいだろうけど、頑張れよ一夏」
「昨日言ってたこともあるんだろ、だったら俺なりに頑張るさ。あんな真剣な顔されて言われたんだしな」
確かにクラス代表など面倒くさいだろうと思っていた一夏であったが、昨日のアクセルの言葉で気が変わったようである
「俺もセシリアちゃんと一緒に特訓に付き合ってやるさ。箒ちゃんも誘っていいぜ世話になったんだろ?」
「ああ、よろしく頼むよ」
「では、四人で特訓ということになりますのね。二人きりでないのは残念ですが……まぁ、いいですわ。特訓頑張りましょうアクセルさん、一夏さん」
「じゃあ、寮に帰るとしますか」
三人はこれからの特訓を約束すると学生寮に帰った
「あ~!千冬姉に雪片のこと追求するの忘れてた!!」
ちょっとした不安要素を抱えながら
ヴィンデルを恋姫の蜀に入れるという嫌がらせレベルの話を書こうとしてやめたことがあります