「ふうん、ここがそうなんだ……」
IS学園の正面ゲートに小柄な少女がその体躯に似合わないボストンバックを持って立っていた
その少女の名は
「えーと、受付ってどこにあるんだっけ?」
上着のポケットから取り出したくしゃくしゃの紙には"本校舎一階総合事務受付"と書いてあったが、場所の名前がわかったところでこの学園に今来たところである鈴にはさっぱりである
「ええい、考えるよりまず行動よね」
夜になっているのだから、灯りの点いている建物を洗っていけばいいだろう。そう決める前に彼女の足は歩き出していた
しばらく歩いて、IS訓練施設あたりに来ると誰かがアリーナから出てきた。場所を聞くチャンスだと駆け寄ろうとしたが、それが一組の男女だとわかると足を止めた。いい雰囲気の所に割ってはいるほど野暮ではないのだ
(一夏以外に男がいるの?そういえば、男も使えるスーツができたんだっけ?……まだ採用には至ってないらしいけど)
入ってくる情報によれば、入学試験をかねた模擬戦で勝利したものの腕に不具合が見つかり採用は保留となったらしい。ISに勝てる兵器というだけで驚異的なのだから、採用しても良いのではないかと鈴は思っていたがいろいろと難しいところがあるようだ
(いい雰囲気だなぁ。私も一夏と……)
男の素性はともかく、となりの女の子がかもし出している雰囲気は鈴にとってあこがれを感じるものだった。幸せオーラがあふれ出ている。自分もあのようにエスコートされてみたいものだ
いつのまにか妄想の彼方へとトリップしていた鈴だったがアリーナから聞こえてきた声によって現実に引き戻された
「……だから……だよ」
知っている声が聞こえた。一年ちょっと経っているとはいえ、この声を鈴が聞き間違えるということはないだろう。胸が高鳴っていくのが自分でもわかってしまう
「いち―」
出そうとした声が裏返って鈴は赤面した。なんだか意識しているようで恥ずかしいのだ、実際意識しているのであるが……
「だから、箒は素直にアクセルに両方のアドバイスを任せてくれればよかったんだよ」
「何を言う一夏!私の警告で助かったところはあったではないか!」
「警告はISの方でもやってくれるっての。肝心の打開策がなくてジリ貧だったじゃねぇか!」
そのまま口論しながら男子と女子は行ってしまった
(あれは確かに一夏だったわよね?結構遠慮ない口論だったけどそれができるくらい仲良いの?)
一夏ととなりにいた女子の関係と胸のもやもやを引きずりながら、とりあえずやることを済まそうと鈴は歩き出した
アリーナと本校舎は隣接していたため、それからすぐに受付は見つかった
「アクセルくん、織斑くん、おはよー。転校生の噂聞いた?」
朝の教室で男二人で談笑していたところクラスメイトに話しかけられた。ちなみに明らかに年上のアクセルであるが、目線や態度が軽くて親しみやすいためかもっぱらくん付けで呼ばれている(ちなみに一夏や箒は呼び捨てである)
「転校生?今の時期に?」
「可愛い娘だといいねぇ」
普通なら一夏のように時期に関して言及しそうなものであるが、さすがアクセルと言ったところか全くぶれない
「なんだも中国の代表候補生なんだってさ」
「きっとチャイナドレスが似合う娘が転入してくるんだな、これが」
「ちょっと、アクセルさん!わたくしというものがありながらまだ合ってもいない女性のことを考えておりますの?」
怒りの炎を燃やしながらセシリアがアクセルに詰め寄る
「おいおい、ちょっとどんな娘かなって想像しただけだって。チャイナドレスはセシリアちゃんに着てもらうよ、セシリアちゃんならばっちり似合うと思うんだな」
「そ、そこまでおっしゃるのなら着て差し上げてもよろしいですわ」
怒りの炎はすぐに鎮火されたようだ。というより、明らかにアクセルは怒ったセシリアの反応を楽しんでいる。扱いはもう心得たものなのであろう
「アクセルはいつものこととして、一夏は気になるのか?」
「ん?ああ、少しは」
「ふん……」
返事を聞いた箒は不機嫌になってしまった。箒の質問の意味を一夏はよくわかっていないだろう
「今のお前に女子を気にしている余裕があるのか?来月にはクラス対抗戦があるというのに」
「大会のあるなしに関わらず特訓はしてるんだ。大丈夫さ一夏」
「他人事のように言ってるけど、アクセルも大会行事には無条件で参加だっただろ?」
「アクセルさんの実力でしたら問題はありませんわ」
クラス対抗戦はスタート時点での実力指標を作るためにやるものである。クラス単位での交流と団結のためのイベントで、やる気を出させるために一位のクラスには優勝賞品として学食デザートの半年フリーパスが配られる。尚、アクセルが優勝の場合は二位のクラスが賞品を受け取ることになる
「どうせなら、やっぱり専用機持ちとやりたいもんだね」
「でも、専用機を持ってるクラス代表って今のところ一組と四組だけらしいよ」
「だったら、その四組のクラス代表が当面の目標になるわけか」
対抗戦に向けて四組のクラス代表を目標にすると決めたその時―
「その情報、古いよ」
教室の入り口から声が聞こえた
「二組も専用機持ちがクラス代表になったの」
ツインテールの少女が腕を組んで、肩ひざを立ててドアにもたれかかっている
「鈴……?お前、鈴か?」
(一夏が知ってるってことは知り合いか?なんだかいやな予感がするんだな、これが)
「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。宣戦布告に来たのよ」
笑みを漏らす鈴をよそにアクセルは言い知れない不安を感じていた
「何格好付けてるんだ?似合ってないぞ」
「なんてこと言うのよ、アンタは!」
一夏の指摘で気取った態度は終わった。気取った態度というものはそう続くものではない
「おい」
「なによっ!」
スパンッ!―鬼教官の出席簿による一撃により鈴はすぐさま退散する羽目となった
「織斑くんクラス代表決定おめでとう!」
「おめでと~」
クラッカーが乱射され一夏の頭に紙テープが降り注ぐ、壁には『織斑一夏クラス代表就任パーティー』と書いた紙がかかっている
「クラスの誰かが絶対になるものに選ばれてなんで祝われてるんだ?」
「なにかにかこつけて騒ぎたいんだろうさ。まだ学生なんだ、お前も一緒になって騒ぐくらいでいいんだぜ?」
「アクセルが本当は高校生してる年齢じゃないっての忘れそうになるな。それはそうと、明らかに一組の人数超えてないか?」
一夏の言うとおりパッと見でもこの場にいるのが一組より多いと見て取れた。それに、二組の生徒らしき女子も見える
「久しぶりね一夏。と言っても朝に会ってるけどね」
「ああ、久しぶりだな。一年ぶりになるのか。元気にしてたか?」
「げ、元気してたわよ。アンタは見るからに元気そうね」
(ああ、この反応は……箒ちゃんだけ応援するわけにはいかなくなったってことか。一夏が気づいてるわけないよなぁ)
鈴の反応と表情を見てアクセルは鈴が一夏に惚れているのだろうと言うことを悟った
「一夏、どういう関係か説明して欲しいのだが」
「俺もぜひとも教えてもらいたいねぇ」
「アクセルさん!!」
「一夏との関係が気になるだけだから大丈夫だよ」
なにかにつけて嫉妬の炎を燃やすセシリアをアクセルはなだめる。今でこれならば記憶が戻ったとき恋人がいるとなったらどうなるのだろうかと不安になるアクセルだったが、今考えてもしょうがないことであろう
「興味津々で聞くほどおもしろい関係じゃないぞ。ただの幼馴染だよ」
「……」
「何睨んでるんだ?」
「なんでもないわよっ!」
(箒ちゃんと同じで幼馴染か……いまんとこは一夏にそれ以上の感情なしってとこか。苦労するねぇ二人とも)
なんで鈴が怒っているのかわかっていない一夏にアクセルは呆れる。隣に座っているセシリアも同様のようである
「幼馴染?」
反応したのは箒だった
「あー、小四で箒が引っ越してっただろ?その後小五の頭に転校してきたのが鈴なんだよ。そういえば、二人って面識ないんだったな」
「つまりは、一夏以外は面識ないんだろ。じゃあ自己紹介といこうぜ。俺はアクセル・アルマーっていうんだな、これが。記憶喪失だけどよろしくな」
「記憶喪失?冗談でしょ?」
やはり突っ込まれた。まぁ、突っ込むなと言う方が無理な話である
「いや、検査もした正真正銘の記憶喪失らしいんだ。先生も言ってるし間違いない」
「そ、そうなんだ。とにかくよろしく」
一夏に言われたことで鈴も一応の納得はしたらしい
「イギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ。クラス代表は一夏さんに譲りましたが、対戦する機会もあるでしょう。そのときはよろしくお願いしますわ」
「負けるつもりはないわよ」
「こちらこそ、そのつもりはありませんわ」
そういってセシリアは手を差し出し、鈴がそれを握る。二人は火花を散らしているが、さわやかで見ていて微笑ましい火花である
「篠ノ之箒だ。よろしく」
「こちらこそよろしく」
必要最低限の挨拶を交わし、お互いを見る二人の間には火花が散っている。さきほどの火花と違って前途多難を予感させられる
「アンタ、クラス代表らしいけど操縦大丈夫なの?男子じゃ中学で勉強してるわけないでしょ」
「今はここにいる四人で特訓してるよ。アクセルが発案なんだ。鈴も一緒に特訓するか?」
「対抗戦が特訓の延長になってもおもしろくないし、対抗戦が終わったらにさせてもらうわ」
それはアクセルも思っていたことでもあるのでありがたいところだった。対抗戦までどう特訓するか気を使わなくても済むということもある
「それより一夏、約束覚えてる?」
「……!!」
「ほう……」
「まあ!」
「……え~と」
約束というワードに反応する一夏以外の三人。箒はピリピリした空気を放ち、アクセルとセシリアはニヤニヤしている。当の一夏は頭を捻っている
「ああそうだ!あれか!鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を―」
「そ、そう。それ!」
「―おごってくれるってやつだろ!」
自信満々に答える一夏だが、周りにいる面々の表情は微妙なものである。アクセルにいたってはアチャーと言った具合に頭を抱えている
そして当の鈴は肩を震わせ、怒りに満ちた目には涙が薄っすらと浮かんでいる
「最っ低!女の子との約束をちゃんと覚えていないなんて、男の風上にも置けないやつ!犬に噛まれて死ね!」
パァンッ!と一夏の頬を叩くと、鈴は出て行ってしまった。パーティーで騒いでいた面々も静まり返ってしまっている
「こりゃフォローできねぇぞ。一夏」
「流石にこれはいけませんわ。一夏さん」
この状況では一夏のフォローをできる人間はいない。約束をちゃんと覚えていなかった事実を見ればしょうがないことであろう
「一夏……馬に蹴られて死ね」
みんなの言葉に一夏はボコボコである。本気で沈んでいる
「ま、謝っときな。そんときにしっかり話しとけよ」
「わ、わかったよ……」
解決法はそれしかないであろう。謝った上で話し合えば大概許してもらえるものだ
「対抗戦まで引きずるなよ。引きずったら―」
試合は荒れることになるだろう。そう思っていたアクセルだったが、対抗戦がコレとはまったくの別方向で荒れることになるとは微塵にも思っていなかった
パーティーの中に詰め込んじゃいました。パーティーの日にちが違うのは前の話を書いたときに素で忘れてただけです