セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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今小説は前の聖闘士星矢とシンフォギアの小説の続きとなります。
シンフォギアXDのオリジナルストーリーが面白かったのと、並行世界の設定を使えば聖闘士星矢のファンが誰もが思った展開や本編で死亡した聖闘士や敵を並行世界の同一人物として再登場させる事も可能と考え、執筆する事にしました。
なお、基本的にシンフォギアXDのオリジナルストーリーに加え、時折聖闘士メインの話も挟む予定です。


片翼の奏者編
1話 繋がる並行世界


市街地

 

 ルナアタック事変後に起きたフロンティア事変後、アテナの元にアテナの姉で月の女神アルテミスの従者、カリストが現れ、月が破壊された件でその責任を取らせる形でアテナに月の修復を手伝うよう伝えた。それを聞いたアテナは姉の元へ向かい、アテナとアルテミスの力で月は修復されたのであった。そしてその後に起こった魔法少女事変後、星矢達は響達に会いに来ていた。

 

ナレーション「二課の助っ人要請から星矢達と装者達の協力関係が築かれ、その絆はルナアタック事変の黒幕、フィーネの野望を打ち破った。それが終わったのも束の間、今度は武装組織フィーネによるフロンティア事変、そして錬金術師キャロルによる魔法少女事変が起こった。それらの大事件はシンフォギア装者達とルナアタック事変の際に協力関係を築いた星矢達によって解決した。なお、フロンティア事変後の二課は解体され、新たに国連直轄のタスクフォース『S.O.N.G』へと再編され、武装組織フィーネに所属していた装者3名も所属する事となった。だが、魔法少女事件が終わっても世界は装者達に安息を与えなかったのであった」

 

星矢「久しぶりだな、お前達」

 

響「はい!」

 

クリス「バカはむしろ、元気すぎるけどな」

 

瞬「二課と協力関係を築いてからもうだいぶ経つね」

 

クリス「そういや、あん時の星矢はゾッとする程、怒ってたからな…」

 

沙織「当然です。ウェル博士は星矢の逆鱗に触れまくってましたからね」

 

 

 

回想

 

 それは、フロンティア事変の黒幕のウェルは度々星矢の逆鱗に触れる行為をしたため、その度にボコボコにされたのであった。

 

星矢「クソ野郎が!お前のようなバカなんて英雄になる事も、なる資格もねえんだよ!ペガサス流星拳!!!」

 

ウェル「うぎゃあああっ!!!!!」

 

 ペガサス流星拳でウェルは顔も身体も歪み、虫の息になった。それから、ウェルは自分をボコボコにした星矢への逆襲も兼ねて星矢の女を殴れないという弱点を突くために未来の願いに付け込み、無茶な処置を施して装者に仕立て上げたため、更なる星矢の怒りを買ってしまった。しかも、ウェルはフィーネと違って聖闘士に関する知識が全くない上に星矢達聖闘士を装者と同じように聖遺物の力で戦っているというとんでもない勘違いをしてしまったため、対聖闘士用の切り札として期待した聖遺物を分解する神獣鏡の力は聖遺物の力を用いない聖闘士の前では無力だった。

 

星矢「ウェル、俺にボコボコにされて懲りないばかりか、未来を利用しやがって!!楽に死ねると思うな!!アトミックサンダーボルト!!」

 

ウェル「な、何で聖遺物を纏ってない奴にこんなパワーが~~~!!!!!」

 

 ウェルが死なないように加減はしたものの、本来であれば普通の人間は即死している光速拳を受けてウェルは顔はグチャグチャ、全身の骨を粉々にされた挙句、海の彼方まで吹っ飛んで世界一周し、盛大に頭から地面に激突したのであった。

 

 

 

 

 

未来「星矢さん、いくら何でもあれはやりすぎじゃ…」

 

響「そ、そうだよ…。光速拳を普通の人に放ったら死んじゃうよ…」

 

星矢「やり過ぎもクソもないだろ?未来にひどい事をしたあんなクソ野郎はボコボコにされて当然さ」

 

紫龍「ああいった奴はただ殺すだけでは罰にならん。まぁ、とっくに死んだ奴の事を言っても何にもならんが…」

 

瞬「(そう言えば、フロンティア事変では気になる事があったな。麻森博士の報告では未来の受けた非人道的な処置はウェルだけでは到底できないような精神操作の痕跡があったようだし、僕達がフロンティアに入り込んだ際に発見したウェルは大火傷を負っていた上に精神崩壊した状態で見つかったけど、誰がそんな事をしたんだろう…?)」

 

 響達とは実力の次元が違う上、同情の余地のない悪党には全く容赦のない星矢達に響達装者一同や未来は苦笑いしていた。そして、瞬はフロンティア事変の時に麻森博士からの報告やフロンティアに突入した際に精神崩壊し、大火傷を負ったウェルの姿を疑問に思っていた。

 

調「切ちゃん、あの人達を本気で敵に回さなくてよかったね…。一番弱いと思っていた瞬さんにさえマリアと切ちゃんと3人がかりで挑んでも一瞬で鎖に縛られて負けたから…」

 

切歌「そうデス…、光の速さの攻撃なんてかわせないし、聖闘士相手だといくら命があっても足りないのデス…!」

 

マリア「(瞬が一輝の弟だと知った時は驚いたわ…。一輝は威圧感に溢れているのに、瞬は顔も似てない上にそんな威圧感が全くないもの…)」

 

 星矢達の中で一番温和で弱そうに見える瞬が一輝の弟であり、実力も性格の問題でなかなか全力を出せないだけでかなりのものである事を知った当初のマリア達は衝撃を受けていたのであった。

 

クリス「当然だぜ。あたしらなんか、黄金聖衣4つをネフシュタンの鎧に取り込ませてパワーアップしたフィーネの光速拳でボコボコにされて五感をぶっ壊された挙句、心肺停止に追い込まれて死にかけたんだからな…」

 

切歌「ええっ!?フィーネが黄金聖闘士クラスの強敵!?」

 

調「クリス先輩達がそんな化け物と戦ったなんて…」

 

クリス「あん時は黄金聖衣が来て、フィーネも知らねえ未知のすげえ小宇宙に目覚めなかったらどうにもならなかった程の大激戦だったからな…。お陰でネフィリムもキャロルもあいつに比べたら雑魚に見えちまう」

 

 ルナアタック事変の際に響達だけ次元の違う戦いを経験した事にマリア達はゾッとしていた。

 

マリア「(ネフィリムやキャロルが雑魚だなんて…。でも、一輝の威圧感もネフィリムが赤子同然に思える程だったし、瞬には軽くあしらわれてたし、間違っていないのは事実…)」

 

氷河「翼はどうした?」

 

マリア「翼なら、そろそろ来るわ」

 

 氷河が何か考え事をしている事にマリアは気付いた。

 

マリア「氷河こそ何を考えていたの?お母さんの事?」

 

氷河「マーマの事じゃない、アイザックの事だ」

 

マリア「アイザック?」

 

星矢「氷河がシベリアで修行していた頃の兄弟子さ」

 

氷河「俺を助けてくれた際に行方不明になった後、海将軍となって立ちはだかり、俺との戦いで死んだ…」

 

マリア「…亡くなった兄弟子が気になるの…?」

 

氷河「…俺はフィーネとの戦いで水瓶座の黄金聖衣に宿る我が師カミュの魂から認められ、水瓶座の黄金聖闘士となった。水晶聖闘士が今の俺を見ていたら、カミュと同じように俺を褒めてくれると思うが…、アイザックはどうだろうなって思ってな…」

 

響「きっと褒めてくれますよ!」

 

氷河「…そうだな」

 

未来「氷河さんはアイザックさんにもう一度会いたいんですか?」

 

氷河「いや、アイザックが今の俺を見ていたらどう思うのかって思っただけさ。死んだ人間は神の力以外では生き返らないし、時の神以外は時間を巻き戻せない。だから、もう会えないからそれでいいんだ…」

 

 口ではきっぱりもう会えないからいいと言ってはいたものの、心の中ではカミュやアイザックにもう一度会えたら、今の自分を見たらどう言うのかと思う氷河であった。

 

響「紫龍さんも兄弟弟子がいるんですか?」

 

紫龍「ああ。兄弟弟子に王虎がいたが、もう死んでしまった…。(氷河は今は亡き兄弟子や師に会えたらと思っているのか…。そう言えば、俺も兄弟弟子の王虎や大恩ある老師にもう一度会えたらって思った事が何度もあったな…)」

 

 やはり紫龍にも兄弟弟子の王虎や師の童虎にまた会えたらという想いがあった。

 

 

 

ライブ会場

 

 ライブを終え、翼は移動していた。

 

慎次「何を考えているのですか?」

 

翼「いや、何でもない」

 

 そう言ったが、翼が考えていたのは今は亡き相棒、奏の事であった。

 

翼「(…あの運命のライブの日を私は今でも夢に見る。奏は思いっきり唄い、戦い、その命を燃やし尽くし、そして散っていった…。あの日から私は、奏を救えなかった後悔だけを胸に、ひたすら剣として生きてきた…。しかし、星矢達や立花をはじめとするみんなのお陰で、今は剣としてだけではなく、片翼の翼としても夢に向かい羽ばたく事ができている。今の私を奏に見てもらいたいと思う。私自身が誇れるようになった私を…)」

 

 奏の事を思い出し、そして叶わぬ願いを思っていたのであった。

 

翼「(…奏は、今の私を見たら何って言うのだろう。褒めてくれるだろうか…?…無理なのはわかってる。だけど、もし、例え夢でも遇えたなら…。)」

 

 しかし、それは叶わないと翼自身も思っていた。

 

翼「(夢で逢えたら…か。全く、我ながら女々しいものだ…。私は強くなれたのだろうか?奏が私を引っ張ってくれたように立花や雪音、みんなを引っ張っていけているのだろうか…?奏のように…か。思えば奏は私に意地悪だったな。泣き虫、弱虫だなんてよく言われたが、今の私はあの頃の奏から見たら、強くなったように見えるのだろうか…?奏…今、思い出してもこんなにも胸が痛い…。奏がいない、奏に会えない事が苦しい…。奏と2人、いつまでも一緒だと思っていた。もっと話したい事があった。聞きたい事があった。もっと、2人で唄いたかった…。奏に会いたい…)」

 

 そう思ってても奏は3年前に死亡して会えないため、現実は非情であった。

 

翼「(…いけない。私はもう泣き虫ではいられないのだから。こんな様では、奏に笑われてしまうかも知れないな…奏と唄う事はもうできない。だけど、まだ私は、片翼だけでも唄う事ができている…。奏と育てた、ツヴァイウイングの片翼を羽ばたかせる事ができる…。だから…私の歌、私達の歌が世界中に人に届いたら、きっと奏の所にも届くよね…?…だから、見守っていてほしい。どこまでだって、飛んでみせるから…)」

 

 もう奏とは一緒に唄えないと思っていた翼だが、悲しみに囚われず、前向きに進む決心は既にできていた。だが、その翼の奏にまた会いたいという願いは意外な形で実現しようとしていたのであった。

 

 

 

S.O.N.G潜水艦

 

 翼がライブを終え、S.O.N.Gの潜水艦に到着したのと時を同じくして異変が起こった。

 

朔也「艦内聖遺物保管区域より、高質量のエネルギー反応!」

 

弦十郎「なんだとっ!すぐに波形を照合しろっ!」

 

 その反応はある完全聖遺物のものだった。

 

あおい「この反応は…まさかっ!?」

 

弦十郎「ギャラルホルン…だとっ。なぜ、このタイミングで…」

 

 弦十郎は装者達とちょうど来ていた星矢達に緊急招集をかけた。

 

弦十郎「みんな、よく集まってくれた」

 

響「師匠ー、今日は一体どうしたんですか?」

 

クリス「朝っぱらから緊急招集って、どっか事故か何かでも起きたってのか?」

 

エルフナイン「…事故はこれから起こるのかも知れません」

 

マリア「これから…?それは一体」

 

 そんな中、もう出てこないはずの通常のノイズ出現の警報が鳴った。

 

弦十郎「…やはり、来たかっ!」

 

瞬「通常のノイズがなぜ!?」

 

星矢「確か、ノイズが造られてる場所はもう閉じちまったんだろ?まさか、また開いたのか!?」

 

紫龍「それとも、新たな敵によるものか…?」

 

弦十郎「説明は後だ!とにかく、ノイズの迎撃を頼むぞ!」

 

響「はい!」

 

星矢「さっさと片付けるぞ!」

 

 星矢達もいたためにあっという間にノイズを殲滅し、星矢達は戻ってきた。

 

クリス「さぁ、せつ」

 

沙織「司令、星矢達が帰ってきたのでフロンティア事変の後はもう通常のノイズが出現しなくなったのに、またノイズが出現したのかを説明していただきます」

 

 沙織が割り込んだため、クリスは話すのをやめた。

 

弦十郎「ああ、もちろんだ…。エルフナイン君」

 

エルフナイン「はい…。まず、あのノイズはこの世界のものではありません」

 

翼「この世界のものではない?」

 

星矢「じゃあ、天界とか冥界から来たのか?」

 

美衣「それこそあり得ないですよ。冥界は冥王ハーデスの死によって崩壊しましたし、天界にノイズ製造工場なんてありません」

 

エルフナイン「脱線してるので、話を戻します。この世界のバビロニアの宝物庫は閉じています。しかし、それでもノイズが現れたのはあのノイズがこの世界のものではなく、並行世界のノイズだからです」

 

マリア「どういう事?」

 

響「へ、へいこう…せかい…?」

 

星矢「海底神殿や冥界には行ったが、並行世界なんて行った事も聞いた事がないぞ」

 

 頭が悪い響と星矢は並行世界に首を傾げたのであった。

 

未来「パラレルワールドって聞いた事がない?この世界と凄く似てる別の世界の事だよ」

 

星矢「すまんすまん、俺達は並行世界とかそんな事は一切学んでいないんだ」

 

沙織「聖闘士の世界でも並行世界は聞きなれない言葉なので、並行世界を知らないのも無理はないでしょう」

 

未来「でも…、そんな世界が本当に…」

 

クリス「ああっ!?へーこー世界だか何だか知らねーが、結局何でノイズが出てきたんだよっ!簡潔に言え!」

 

弦十郎「…この事態を引き起こしているのは聖遺物ギャラルホルン。異なる世界を繋ぐ、完全聖遺物だ」

 

 それに装者はもちろん、星矢達でさえ衝撃を受けた。

 

調「異なる世界を…」

 

切歌「繋ぐ…デスか!?」

 

翼「待ってください。そんなもの…一体いつ発見されたんですか?」

 

弦十郎「ギャラルホルンを発見したのは、当時発掘チームを率いていた了子君だ。この聖遺物は発見当初から既に起動状態だった」

 

響「了子さんが!?」

 

星矢「またあいつの仕業じゃないだろうな!?」

 

 身勝手な嫉妬でフィーネにボコボコにされた星矢にとって、フィーネに関する事は嫌な思い出だった。

 

エルフナイン「ギャラルホルンについてはずっと機密扱いで、一部の人物にしか知らされていなかったようです。僕も今朝、レポートを見せてもらって初めて知りました」

 

弦十郎「ギャラルホルンはあまりにも特殊で危険な聖遺物だ。そのため、一部の者のみで極秘に実験と解析を進めていた。その結果わかった事は、並行世界に異変が起こった際にこちらの世界と並行世界を繋げる特性があるという事だ」

 

エルフナイン「平行世界…それはこの世界と同じような世界が広がり、同じような歴史を辿っています。しかし、それでありながら、必ずこちらの世界とは違う所も同時に発生します。この世界の歴史とは川の流れのように、遥か昔の上流から現代という下流まで流れ続けています。しかし、歴史とは大きな転換点において、必ず支流が発生するものなのです」

 

星矢「話がよくわかんねえけど、要は似てるけど違う世界って事だな?」

 

紫龍「その考えでいい。例えば…十二宮での戦いで俺達が間に合わずに沙織さんが死亡してサガが勝利した世界とか、ポセイドンが勝利した世界、ハーデスが勝利した世界などといったのがエルフナインのいう並行世界だ」

 

氷河「俺達が下手をしたらこの世界も紫龍が想像したような並行世界になっていたのか…」

 

 自分達の世界でもその時の行動を間違えていたら紫龍が想像したような並行世界になっていた事に星矢達はゾッとしていた。

 

エルフナイン「紫龍さんのおっしゃる通り、双子座のサガや海王ポセイドン、冥王ハーデスが勝利した世界などといったこちらの世界からこぼれた可能性が産んだ異なる世界が並行世界になります。」

 

翼「こちらではこぼれた可能性を内包した世界…」

 

弦十郎「…とにかく、今回の件はギャラルホルンがまたどこかの並行世界とこの世界を繋いだために起きた異変で間違いない」

 

マリア「…また、と言いましたね。では以前にも同じような事が?」

 

弦十郎「…ああ。ギャラルホルンが並行世界を繋げると、異なる世界同士が混じり合う影響か、大量のノイズの出現が観測される。前回は、バビロニアの宝物庫が閉じられていなかったため、推測の域だったが、今回の事ではっきりした。そして、この発生した異変は並行世界側の異常を解決する事で解消される」

 

エルフナイン「記録には2度、並行世界とつながった事があると記されています。最初の発生では、天羽奏さんが解決してくれたようです」

 

響「か、奏さんが!?」

 

翼「…奏が?一体いつだっ!そんな事、私は知らないっ!」

 

 その事実に響と翼に衝撃が走った。

 

弦十郎「落ち着け、翼。ギャラルホルンは完全聖遺物でありながら、一切の制御も干渉も受け付けない、まさにパンドラの箱だ。そんな怪しげなものに唯一の完全適合者であるお前を使う事は許可が下りなかった」

 

翼「だから…奏を人柱にしたって事ですか!」

 

紫龍「落ち着け、翼。奏が死んだのはネフシュタンの起動実験の際だから、その時は無事に帰ってこられたんだろう?」

 

 その事実を思い出し、翼は落ち着いた。

 

弦十郎「結果論で済まないが、事故や怪我もなかった。そして、お陰でギャラルホルンについて知る事もできた」

 

翼「ですが…」

 

マリア「繋がったのは2度と言ったわね?」

 

エルフナイン「はい。2度目は3年前のツヴァイウイングライブ、ネフシュタンの起動実験の時です」

 

翼「なっ!!」

 

 その事実にまたしても翼に衝撃が走った。

 

弦十郎「ネフシュタンの暴走と重なり、とても対処できる状況ではなかったため、収まるのを待つ他なかった…」

 

クリス「なんだ、だったら別に並行世界に行かなくても収まるのを待てばいいじゃねーか」

 

美衣「クリスさん、そうしたらノイズの被害が拡大するのですよ。安易に収まるのをまってはいけません」

 

 地獄のテーブルマナー教育を行った美衣にはクリスも逆らえなかった。

 

弦十郎「それから…この聖遺物は装者にしか反応しないんだ」

 

調「装者にしか…?」

 

エルフナイン「詳しい理由についてはまだわかっていませんが…、ギャラルホルンが並行世界側の異変を治めるため、必要な能力を持った人物だけを選別しているとも考えられます」

 

切歌「なんだかよくわからないデスけど、並行世界に行けるのはあたし達だけって事デスか?」

 

弦十郎「ああ、そういう事だ」

 

星矢「聖闘士はどうなんだ?」

 

弦十郎「聖闘士か…?流石に聖闘士は並行世界に行けるかどうかまではやってみなければわからん」

 

星矢「だったら、やってみる価値はあると思うぜ。何しろ、俺達はアテナの加護を受けた聖衣で別次元にあるエリシオンに行った経験があるからな」

 

紫龍「確かに、あの時俺達はアテナの血で修復され、加護を受けた青銅聖衣でエリシオンへ行けた。俺達の纏う黄金聖衣はタナトスに破壊された後、沙織さんの血で修復されたから、案外次元を超えて並行世界へ行けるかも知れないな」

 

 エリシオンへ行った経験もあり、星矢達は自分達や沙織も行けるのではないかと思っていた。

 

沙織「では司令、まだ行けると確定したわけではありませんが、響さん達と一緒に星矢達も異変の調査に向かわせてください」

 

弦十郎「そうだな」

 

エルフナイン「並行世界側はどうなっているかわかりません。危険は伴いますが…」

 

翼「…私が行きます」

 

弦十郎「翼…」

 

翼「奏の役割を引き継ぐのなら、私しかいない。それに、今はこれだけの装者と協力者の聖闘士もいる。私にもしもの事があっても」

 

響「そ、そんなのダメですっ!」

 

氷河「そんなに思い込むな」

 

翼「…すまない。だが、この役割は絶対に譲れない。これは、奏の片翼としての私の責務なんだ…」

 

弦十郎「…翼、お前の気持ちはわかった。だが、早とちりするな。お前ひとりを行かせるつもりはない」

 

エルフナイン「はい。こちらにもノイズが現れている事もあるので、戦力を二つに分けるのが最善だと思います」

 

未来「ここにいる装者は6人だから、3人ずつって事ですか?」

 

エルフナイン「そうです」

 

沙織「それに、この場には黄金聖闘士の星矢達とそれに匹敵する実力者の瞬、別行動をとっている一輝がいます。並行世界へ行かせるのは初めてなので、3人行かせて1人を残します」

 

美衣「沙織様、黄金聖闘士を3人も行かせるのは…」

 

沙織「聖闘士の使命は地上の愛と平和を守る事。並行世界で何が起こっているのかはわかりません。それで守れるのであれば、黄金聖闘士を数人行かせるのも躊躇いません」

 

エルフナイン「では、翼さんとあと2人の装者、そして3人の聖闘士を…」

 

マリア「そういう事なら、私も行くわ。翼が無茶しないように見ておかないとね」

 

紫龍「マリア…」

 

クリス「なら、残り1人はあたしが」

 

マリア「待って。あなたには調と切歌の事を頼みたいの」

 

切歌「デスっ?」

 

調「マリア…?」

 

クリス「こいつらの事を?」

 

マリア「ええ。だからできれば残りの1人は…」

 

 残りの1人は自然と響に確定した。

 

響「…あの、並行世界って結局よくわからないんですけど、向こうで困っている人がいるのは確かなんですよね?」

 

弦十郎「さっきも言ったようにギャラルホルンはまさにパンドラの箱。解明されていない部分が大半だ。だが、過去の結果を見るに、その可能性は非常に高い」

 

響「だったら私、行きます!」

 

未来「…もう、やっぱり」

 

響「えへへ、ごめんね、未来」

 

未来「いいよ、人助けだもんね」

 

響「うん!」

 

美衣「次は並行世界に向かわせる聖闘士ですね。誰が」

 

星矢「俺と紫龍と氷河に行かせてくれ」

 

沙織「もう決めていたのですか?」

 

紫龍「ああ。それに、俺も並行世界がどういうものか確かめたいし、突っ走る星矢や氷河、響に翼の事も見ておかなくてはな」

 

氷河「という訳で瞬、お留守番を頼むぞ」

 

瞬「うん。僕が3人と一緒にこの世界を守っておくよ」

 

 聖闘士の方は素早く決まったのであった。

 

弦十郎「…決まったな。では今回の調査は翼、マリア君、響君と星矢、紫龍、氷河の6名に頼む。決して無理はしないでくれ」

 

 響達はギアを、星矢達は聖衣を纏い、ギャラルホルンが保管されている場所に来た。

 

弦十郎「これが聖遺物ギャラルホルン、そして並行世界への扉だ」

 

エルフナイン「ギャラルホルンは、並行世界の異常を特殊な振動波で知らせるようです」

 

翼「…振動波、では、この聖遺物の輝きが…」

 

エルフナイン「はい、並行世界の異常を感知している状態です。皆さん、準備はいいですか?」

 

星矢「言われなくてもできてるぜ」

 

 星矢達は既に準備ができており、マリアも適合に必要なLiNKERを持った。

 

エルフナイン「向こうに渡ったら、その場所を確認してください。最初に転送された場所の付近に戻るためのゲートがあるはずです」

 

氷河「そうなれば、いざという時はいつでも帰還できるのか?」

 

エルフナイン「はい。レポートにはそう記載されています」

 

翼「なるほど。では、行くぞ!」

 

 そう言って翼が一番先にゲートに飛び込んだ。

 

クリス「…流石だが、思い切りよすぎじゃねえか…?」

 

マリア「それが風鳴翼よ。私も行ってくるわ」

 

調「マリア、気を付けて」

 

切歌「寂しかったらすぐ戻ってくるデスよ!」

 

マリア「さ、寂しかったらって…そんな事ないわよっ!あなた達こそ、しっかりね!」

 

 次にマリアがゲートに飛び込んだ。

 

響「それじゃ私も…って、未来?」

 

未来「響…大丈夫だよね?」

 

響「もう、心配性だなぁ、未来は。大丈夫、ちょーっと人助けしてくるから。待ってて?」

 

星矢「それに、俺達もいるんだ。だから安心してくれよ」

 

未来「うん。星矢さん、紫龍さん、氷河さん、響達の事をお願いします」

 

紫龍「任せろ」

 

氷河「瞬こそ、俺達不在の時の防衛をクリス達と一緒に頼むぞ」

 

瞬「わかったよ」

 

沙織「それと星矢、紫龍、氷河、これだけは絶対に守ってください。装者の皆さんと一緒に必ず生きて帰ってくる事を」

 

星矢「ああ。俺達は必ず生きて帰ってくるからな!それじゃあ、行くぜ!」

 

 響は星矢達と一緒にゲートに飛び込んだ。聖闘士がゲートに飛び込めるか一同は不安だったが、装者と同じく普通に飛び込めた。

 

未来「響…」

 

クリス「…行っちまったな。まぁ、心配するなって。星矢達もいるし、あのバカ達の帰りが遅かったら、あたしが連れ戻しに行ってやらぁ」

 

未来「クリス…ありがとう」

 

クリス「お、おう…」

 

切歌「いつでも戻ってくれるなら、ちょっとあたしも行ってみたいデスね…」

 

調「切ちゃんが行くなら私も…」

 

瞬「それは待ってほしい。僕達はこんな状況でもノイズが出現したら応戦しなきゃいけないんだ。行きたい気持ちはわかるけど、我慢するんだよ」

 

 瞬は調と同い年で切歌やクリスより年下のはずだが、とてもそうとは思えない大人びた風貌でみんなを引っ張っていた。そんな中、弦十郎はゲートを注視していた。

 

美衣「どうなされたのですか?司令」

 

弦十郎「並行世界、パラレルワールド…。それは何かが起きた、もしくは起きなかった世界だ…。こちらにノイズが現れているという事は、向こうのバビロニアの宝物庫は開いている…。だとすると、フロンティア事変やルナアタックは起きていない世界の可能性もある。近い世界といっても、あれだけ大きな事件がないとなると、どれだけ違いが現れているか、見当もつかん…」

 

クリス「…なぁ、ノイズがいるなら、向こうにも装者や聖闘士はいるのか?」

 

沙織「この場にいる私達にはわかりませんが、その可能性は十分にあります。それこそクリスさんや私達も存在しているかも知れません」

 

クリス「あたしもいるかもって、マジかよ。なんかとてつもなくでけー話だな…」

 

調「やっぱり、ちょっと行ってみたいかも…」

 

切歌「デスデスッ、向こうに調にも会いたいデスっ!」

 

美衣「いけませんよ。あなた達は」

 

 そんな時にノイズ出現の警報が鳴った。

 

未来「…ノイズの警報だ!」

 

瞬「みんな、急いでノイズを倒しに行こう!」

 

クリス「おう!」

 

弦十郎「エルフナイン君と未来君は俺と一緒に発令所に急ぐぞ!」

 

 残ったメンバーの中で最も強くて落ち着いている瞬がリーダーとしてクリス達装者3人を率いて現場へ向かった。

 

 

 

公園(並行世界)

 

 響達は並行世界に到着した。

 

マリア「着いたわね」

 

響「…ここが並行世界、ですか?」

 

星矢「海底神殿や冥界と違ってあんまり並行世界って実感が湧かないな…」

 

紫龍「ここは俺達の世界の公演とそっくりだ」

 

マリア「私は街の地理には詳しくないのだけれど、あなた達から見てどこか違いはないの?」

 

響「違い…違い…。あっ、マリアさんの後ろっ!」

 

マリア「後ろって…!?」

 

 響に言われ、後ろにゲートがある事に気付いた。

 

マリア「これがエルフナインの言っていた…」

 

翼「ああ、ギャラルホルンによって作られた、元の世界とのゲートだろう」

 

氷河「そうなれば、ここがゲートの出入り口って事だけは間違いないようだな」

 

 響と翼は辺りを見回した。

 

響「公園や街並みはここから見る限りではほとんど同じに見えますよね…」

 

翼「思ったより並行世界と我々の世界は近いものなのかも知れないな。とにかく、色々と歩いてこちらの異変を」

 

星矢「その前にお邪魔虫を片付けようぜ」

 

 星矢のいうお邪魔虫とは、ノイズの事であった。

 

翼「なるほど。こちらはまだノイズが出るという事だったな」

 

マリア「そうね。これもまた異変の一つ、という事なのかしら」

 

翼「どうだろうな。違う可能性もある。しかし、放っておくわけにもいかないだろう」

 

響「ですよねっ!」

 

星矢「ちょっと下がってな。軽く俺が一掃する」

 

 星矢は指先を光らせると、光速拳でノイズを一掃した。

 

響「す、凄い…!」

 

マリア「手品のようにしか見えないわ…」

 

紫龍「行くあてはないが、とりあえず場所を」

 

???「お前らがノイズを一掃したのか?」

 

 突如として声がしたために響達がその方向を向くと、そこにはキグナスの聖衣を纏った男とドラゴンの聖衣を纏った男がいた。その男はそれぞれ紫龍と氷河には見覚えのある人物だった。

 

紫龍「お、お前は…王虎!!」

 

氷河「アイザック、アイザックじゃないか!!」

 

 まさかの並行世界で兄弟子と思わぬ再会を果たした紫龍と氷河であった。王虎は元の世界の王虎と何も違いはないものの、アイザックの方は左目は健在のままであった。

 

マリア「あの…キグナスの聖衣を纏っている男が氷河の兄弟弟子のアイザック!?」

 

翼「とすると、ドラゴンの聖衣を纏っている奴が紫龍の兄弟弟子の王虎のようだ」

 

響「2人共イケメンでかっこいいですよ!それに、並行世界で思わぬ再会をするなんてラッキーじゃないですか!」

 

 王虎とアイザックに会えた響はいきなり兄弟弟子同士の再会に感心して目を光らせていた。氷河も並行世界で兄弟子アイザックと再会できて喜んでいたが、アイザックの方は氷河を見た途端、怒りの表情に変わった。

 

アイザック「ダイヤモンドダストォ!!」

 

 突然の攻撃に氷河は動揺したが回避し、星矢と紫龍は慌てて響達を連れてその場を離れた。

 

星矢「いきなり攻撃しただと!?」

 

氷河「どうしたんだ?アイザック!俺だ、氷河だ!」

 

アイザック「そんなつまらん芝居をしてもこの俺の目は誤魔化せはせんぞ、氷河の偽者め!」

 

 元の世界のアイザックは再会した際は言葉を交わしてから攻撃を仕掛けたが、並行世界のアイザックは言葉も交わさずにいきなり攻撃を仕掛け、氷河を偽者呼ばわりした事に氷河は驚いていた。




これで今回の話は終わりです。
今回は星矢達が並行世界へ向かい、アイザックと王虎の2人と出会うまでを描きました。
冒頭の回想でフロンティア事変でウェルが星矢にボコボコにされたのが描かれていますが、同時に瞬が疑問に思っていたウェルと共に未来を洗脳し、ウェルを精神崩壊させてから大火傷を負わせた黒幕は後のエピソードで詳細が明らかになります。
星矢達が並行世界へ行けたのは、作中でも語られた通り、アテナの加護を受けた聖衣ならばギャラルホルンのゲートを通って並行世界へも行けるのでは?と思ったからです。
次はいきなり攻撃を仕掛けてきたアイザックと王虎の2人と戦う事になりますが、アイザックが氷河を偽者呼ばわりした理由は次で明らかになります。(すでに察している人もいると思いますがw)

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