セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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100話 融合症例の少女

宿泊所

 

 宿泊所で響達は一晩ゆっくり寝たのであった。

 

クリス「ふわぁ~。よく寝た。あれ?あのバカは?」

 

翼「何でもあの子のメディカルチェックがあるとかで、朝早くから二課へ付き添いに行ったようだ」

 

クリス「メディカルチェック?何かあるのか?」

 

翼「わからないから調べているのだろう」

 

クリス「そっか。で、身元の方は?」

 

翼「二課が身辺調査を行ったようだが、この国の戸籍にも渡航情報にも該当するものはないようだ」

 

クリス「そんな正体不明の子供がどうしてあんな所に、あんな格好でいたんだろうな」

 

翼「さあな。オートマシンに狙われている理由にも関係するのかも知れないが……」

 

クリス「何もわからないってか。本人に聞けばいいんじゃないのか?」

 

翼「それができれば早いのだがな……」

 

クリス「やっぱり、喋れないのか……」

 

翼「そのようだ。こちらの言葉は理解できているようなのだが……」

 

クリス「そっか……。とりあえず、あのチビの事はひとまず置いとくとしてもだ。これから先、こっちでどうする?」

 

翼「この世界に現実的な脅威としてカルマノイズ、それにあのオートマシンが確認できている。ギャラルホルンのアラートはカルマノイズの存在に起因していると思われるが……それだけではなく、オートマシンの存在も影響しているのかも知れないな。とにかく、今は判断材料が不足している。当面はこちらの二課に協力してもらいつつ、情報を集めなくては」

 

クリス「ま、結局、それしかないか……」

 

 話していると、通信が入った。

 

クリス「お?噂をすれば……」

 

翼「どうした、立花?」

 

響『す、すみません、二人とも。至急二課に来てください!』

 

翼「何だかよくわからないが…」

 

クリス「急いだほうが良さそうだな」

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 2人は急いで二課に来た。

 

響「あ、二人とも」

 

翼「何があった?」

 

響「あの子のメディカルチェックの結果が出たんですけど……。えっと、その、とにかく大変なんです!」

 

クリス「落ち着いて話せ!」

 

響「そ、それが落ち着いてなんか!」

 

翼「何があったのですか?」

 

八紘「それがだ……。あの少女の体内から、聖遺物の反応が確認できたのだ」

 

翼「何ですって?」

 

クリス「おい、それって、まさか……」

 

翼「聖遺物との……融合症例……?」

 

響「……そうみたいなんです」

 

八紘「反応のパターンをデータベースに照合したところ、該当する聖遺物があった」

 

翼「それは一体……」

 

八紘「ヤントラ・サルヴァスパだ。かなり前に研究のため、F.I.Sへ、貸与した物なのだが……」

 

響「それって、どこかで聞いたような……?」

 

翼「深淵の竜宮に保管されていた聖遺物だ。私達の世界では、チフォージュ・シャトーを完成させるカギとしてキャロルに狙われた」

 

クリス「確か、あらゆる機械を制御できるという聖遺物だったな」

 

響「そうでしたね……」

 

八紘「しかし、我々日本が発見した際、風化が激しくとても使用できる代物ではなかった」

 

翼「貸与後の研究については?」

 

八紘「F.I.S側の機密のために内容は一切知らされてなかったが……。まさかこんな研究を行っていたとは……」

 

響「それじゃあ、あの子は……」

 

八紘「うむ。十中八九、F.I.Sの被験者だろう」

 

クリス「人体実験かよ…。胸糞悪いな……」

 

翼「そのような境遇の子供が、なぜ1人であの森の中を彷徨っていたんでしょうか?」

 

八紘「そこまではわからん」

 

響「あの子はこの後、どうするんですか?」

 

八紘「状況がわからぬ以上、F.I.Sに送り返すわけにもいかない。当面は我々で保護するしかあるまいな」

 

翼「ノイズにカルマノイズ、オートマシン、そしてその子の謎……。現在の二課には対応しなければならない事が多すぎます。微力ながら、私達もしばしこちらに留まり、お力になれればと思いますが、いかがでしょう?」

 

八紘「そうしてもらえるなら、こちらとしてもありがたい」

 

クリス「あのチビもこいつに懐いているみたいだしな」

 

響「うん…(F.I.Sの被検者…聖遺物の融合症例……。助けてあげなきゃ、絶対に!)」

 

 そんな中、警報が鳴った。

 

朔也「ノイズの反応を検知!」

 

クリス「早速お出ましか」

 

翼「ここは、私達が」

 

八紘「すまない、頼んだぞ」

 

翼「はい」

 

 響達は出撃した。

 

 

 

宿泊所

 

 そして、ノイズを倒し終わって宿泊所に戻ってきた。

 

響「ただいまーっ!」

 

クリス「やれやれ……手伝うって言ったそばから現れるとか、いくら何でも空気読み過ぎだろ」

 

翼「だが、この世界には装者がいないのだ。いられる間はできるだけ力にならなければな」

 

響「あれ?あの子は……」

 

クリス「何だ、いないのか?」

 

響「たたた大変!どこか行っちゃったのかも!出かけないように言ったんだけど」

 

翼「落ち着け。玄関のカギは閉まっていた。部屋の中にいるんじゃないのか?」

 

クリス「窓から出られる身長でもないしな」

 

響「そっか……カギを持ってないなら玄関のカギを閉めて出られないですもんね」

 

翼「そういう事だ」

 

響「おーい。帰ってきたよー。かくれんぼしてないでおいで~!」

 

 響に呼ばれ、少女が出てきた。

 

響「あ、いたいた」

 

少女「……」

 

響「ただいま。どうしたの、そんな所で」

 

少女「……」

 

 少女の様子をクリスはやるせない感じで見ていた。

 

響「え、クリスちゃん?」

 

少女「…!?」

 

クリス「んなとこいないで、こっちこいって」

 

 少女は響の傍に来た。

 

クリス「そいつと一緒にいてやれ」

 

響「え?クリス……ちゃん?」

 

クリス「そいつ、自分がどこにいればいいのかわからないんだよ」

 

少女「……」

 

クリス「部屋のものに勝手に触っていいのかも、何が許されて、何が許されないのかも……。だから、隅でじっとしているだけなんだ……」

 

翼「雪音……?」

 

クリス「……ちょっと外へ出てくる」

 

 そう言ってクリスは外へ出た。

 

響「クリスちゃん……」

 

少女「……」

 

翼「雪音の様子を見てくる。後は頼む」

 

響「あ、はい。お願いします(そっか。クリスちゃんも、昔、似たような……)」

 

 翼も外へ出たのであった。

 

 

 

市街地

 

 クリスは市街地にいた。

 

翼「雪音!」

 

クリス「なんだ、先輩か」

 

翼「……大丈夫か?」

 

クリス「……ああ。ただ、少しだけ昔の事を思い出しただけだ……」

 

翼「似てるのか、昔の己自身と……」

 

クリス「ああ。ロクな記憶じゃないけど…」

 

翼「そうか……」

 

クリス「あたしはあんな風に、話せなかったわけじゃないけどな。多分、あいつもあたしや死んだアリシアと同じような目に……」

 

翼「……」

 

クリス「あの頃のあたしは、近くの大人の顔色ばっかり窺って、どうしたら怒られないかってばっかり考えてた。部屋の隅に縮こまって、ただ息を殺して、誰の邪魔にもならないようにって……。アリシアも一輝の幻魔拳を受けた様子を見た限りじゃ、ブリル協会に捕まっていた頃はあたしと同じように怯えていたのかもな……」

 

翼「……そうか。あの少女、助けてやりたいな…」

 

クリス「ああ、そうだな……」

 

翼「では、立花の所へ戻ろう」

 

クリス「なあ、先輩の方はどうなんだ?」

 

翼「私…?」

 

クリス「親父さんの事だよ。並行世界とはいえ、気にならないのか?こっちの世界の先輩が今どうしているのか、とか」

 

翼「…あまり話したくないようだ」

 

クリス「それでいいのか?」

 

翼「私達の世界とは事情が違うんだ。聞かれたくない事もあるだろう」

 

クリス「まあ、先輩がそう言うなら…」

 

翼「(日本にはシンフォギア装者はいないと言っていた。それはつまり……そういう事なのだろう)」

 

 2人は宿泊所へ戻った。

 

 

 

宿泊所

 

 響は少女と2人でいた。

 

響「静かになっちゃったね」

 

少女「……」

 

響「テレビでも見よっか?」

 

 少女は首を横に振った。

 

響「それじゃお菓子食べる?これ美味しいよ?」

 

 また少女は首を横に振った。

 

響「なら他に何かほしいものとかある?」

 

 またしても少女は横に振った。

 

響「そっか…。何かやりたい事とか、欲しい物とか思いついたら、その時は教えてね」

 

少女「……」

 

響「じゃあ、しばらくこうしてよっか」

 

 響の言った事に少女は頷いた。

 

響「(融合症例…被検体……。それってつまり、この子に無理矢理、聖遺物を埋め込んだって事だよね……。あんな辛い想い……。こんな小さい子にさせるわけにはいかないよ)」

 

少女「……?」

 

響「ああ、何でもないよ。ちょっと考え事をね。あははは……(いけない。私が怖い顔してたら、この子が余計に怖がっちゃうよね)」

 

 そこへ、通信が入った。

 

響「二課からの通信?はい、こちら立花響です」

 

八紘『近郊にオートマシンが出現したようだ。……対応をお願いできないだろうか』

 

響「はい、勿論です!」

 

八紘『助かる。そちらにヘリを向かわせている。合流でき次第、それに乗ってくれ』

 

響「わかりました!」

 

 翼とクリスも同じタイミングで来た。

 

翼「立花、連絡は入ってるな?」

 

響「はい、今さっき」

 

クリス「ならさっさと行くぞ!」

 

響「うん!」

 

 ところが、少女が抱き付いてきた。

 

響「あ……。大丈夫。ここにいれば全然怖くないから。安心して。ね?」

 

 少女は不安そうに首を振った。

 

響「すぐにちゃんと戻ってくるから」

 

 響の言葉に少女は頷き、離れてくれた。

 

響「……ありがとう。それじゃ、ちょっとだけ行ってくるね」

 

クリス「急げ!外に迎えのヘリが来てるぞ!」

 

響「はい!」

 

 

 

市街地

 

 3人はヘリに乗り、現場に到着してからオートマシンと交戦した。

 

翼「はあーーっ!」

 

 翼はオートマシンに斬りかかったが、斬れなかった。

 

翼「どういう事だ、刃が通らない?」

 

 クリスが放った銃弾も効かなかった。

 

クリス「弾もほとんど装甲で弾かれる。前より堅くなってないか?」

 

響「やっぱり…、この前より強い!」

 

翼「しかし、幸いにして動きは単調だ。小手先の技が効かぬというなら」

 

クリス「ああ。でっかいのを1発お見舞いするだけだ!」

 

 大きな一撃をオートマシンにぶつけ、撃破したのであった。

 

クリス「はっ。どんなもんだ」

 

翼「何とか片付いたな」

 

クリス「だけど、まさかこの後も更に強くなるんじゃないだろうな?」

 

翼「……可能性としてはあり得るだろうな。何者かが適宣強化改良しているのか、自律的に強化されるのか……なんにしても難敵だな」

 

響「それじゃ、どうやって戦えば……」

 

翼「私達の手に負えなくなる前に、敵の正体を突き止めるしかないだろうな」

 

響「敵の正体……」

 

翼「二課で聞いた話だと、かなり前から出現しているようだ。容易にはいかないだろうが……。ともあれ、本部に撤収しよう」

 

クリス「あのチビも待ってるだろ。早く引き上げるぞ」

 

響「うん、そうだね」

 

 響達は撤収した。

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 響達は二課本部に来た。

 

八紘「あのオートマシンに対抗できるとは、流石はシンフォギア装者だな。何はともあれ、我々の世界のために身を賭して戦ってくれた事、心より感謝する」

 

翼「いえ、そんな。私達は……当然の事をしたまでで……」

 

クリス「それはいいんだけど、これまでノイズやオートマシンが出た時はどうしていたんだ?」

 

響「あ、私も気になってました」

 

八紘「以前話したように、米国でシンフォギアの運用が行われた事はあるが……現状、それ以外ではノイズに有効な手段はない。そして、オートマシンに対しても同様だ」

 

クリス「それじゃ、やっぱり……」

 

八紘「ああ……今の我々にできる事は避難誘導と、そのための時間稼ぎぐらいに過ぎん」

 

クリス「まあ、あんな化け物相手に通常兵器だけじゃ、そうなるだろうな……」

 

八紘「だからこそ、君達の力は非常に助かる」

 

翼「今の我々には…という事は、将来的には何らかの対策の目算があるのでしょうか?」

 

八紘「……ある、とまだ現段階では断定できないが、可能性はある」

 

翼「それは一体?」

 

八紘「それについては機密事項だ。ずまないが聞かないでほしい」

 

クリス「おいおい。こっちは命張って協力してるのにか?」

 

翼「雪音!」

 

クリス「……わかったよ」

 

翼「すみません」

 

八紘「いや、こちらこそすまない。協力してもらっていながら開示できぬ事、許してほしい」

 

クリス「(ったく、親子そろって石頭だな。世界は違うけど、何親子で堅っ苦しい事やってんだか)そうだ、チビの所へ行く前に一度S.O.N.Gに戻るか。今の状況を伝えといたほうがいいだろうし」

 

響「……うん。融合症例の事も話したいし」

 

クリス「…よし。先輩もそれでいいか?」

 

翼「……そうだな、それが良いだろう」

 

響「すみません、あの子の事をお願いしてもいいですか?なるべく早く戻るようにするので」

 

八紘「ああ。構わない」

 

響「ありがとうございます。それでは失礼します!」

 

翼「それでは、私もこれで」

 

八紘「ああ。ご苦労だった」

 

響「あ、それと聞きたい事があります」

 

八紘「何だ?」

 

響「この世界に聖闘士っていう、星座モチーフの鎧を纏って戦う戦士はいますか?」

 

八紘「残念だが、そういった戦士は存在しない。いれば、とっくの昔に協力関係を築くために手を打っている」

 

響「そうですか……」

 

 発令所を後にする際、翼は八紘の態度が引っかかっていた。

 

翼「(お父様のあの顔……。何か、もっと重大な事を隠している?いや、考え過ぎか……)」

 

 一方、八紘の方は……。

 

八紘「あれの完成はもうすぐ……か。信じていいんだな、オズワルド……」

 

 

 

市街地

 

 その頃、マリア達はLiNKERが残り僅かなために無理をさせられず、未来が並行世界から現れたノイズと戦っていた。

 

未来「(響達は並行世界へ行ってて、マリアさん達はLiNKERが残り少なくなってきているから戦えない…。私が何とかしないと…!)」

 

 1人で戦う未来であったが、ノイズが大量に出てきて、とても1人で手に負える状況ではなかった。

 

未来「(こんなにノイズの数が多いなんて……!)」

 

???「ペガサス流星拳!」

 

 そんな時、閃光の如く星矢達がノイズを一掃したのであった。

 

未来「星矢さん、みんな!」

 

星矢「遅くなってすまん!」

 

紫龍「俺達が帰ってくるまで1人で戦ってくれて感謝する」

 

未来「いえ。私にできる事をしたまでですから…」

 

氷河「こんなになってまで戦ってくれたのか…」

 

瞬「さ、本部へ帰ろう」

 

 星矢達と一緒に未来は本部に帰還した。

 

 

 

S.O.N.G潜水艦

 

 同じ頃、響達も帰ってきていたのであった。

 

弦十郎「融合症例……まさか響君以外にもそんな事があるとはな」

 

マリア「珍しくふさぎ込んでるから何かと思ったけど……なるほどね」

 

切歌「それで、その子はどうしたんデスか?」

 

響「向こうの二課で詳しく検査しながら、今は私達と一緒に過ごしてるんだ」

 

クリス「検査か…、嫌な事されなきゃいいけどな……」

 

翼「並行世界とはいえ、お父様のやる事だ。そんな事はないだろう」

 

クリス「そうだな。ならまあ、いいんだけどさ……」

 

響「でも……あの子の事、どうすればいいんだろう…?」

 

翼「どう、とは?」

 

響「融合症例の事です。私の時は、未来の神獣鏡のお陰で助かりました」

 

翼「ああ、そうだな…」

 

響「あの時の私と同じように、未来も同行して助けてあげたりはできないのかなって……」

 

エルフナイン「以前の響さんの時とは大きく事情が異なるので、難しいかも知れません」

 

クリス「事情が異なる?まさか……」

 

エルフナイン「同じであっても、経緯や要因が異なるので、一概に対処方法も同じ、とはならないかと思います」

 

響「そう、なんだ……」

 

エルフナイン「しかも、同じ融合症例でも助からずに死亡したアリシアのケースもあります。もし聖遺物自体が既に身体機能を維持する必須要素の一部となってしまっていたら……」

 

マリア「…下手に取り除けばアリシアのように死んでしまうかも知れない、そういう事ね」

 

響「それじゃ、治してあげる事はできないのかな……」

 

クリス「くそっ!助けられなかったアリシアの事を思い出しちまった…!」

 

エルフナイン「あ、すみません!あくまで可能性の一つです。ただ、今は侵食の進行速度に注意を払いながら、治療方法を探すしかないかと思います」

 

響「……」

 

沙織「そう落ち込まないでください、響さん。いざとなれば、聖闘士であり、最強の錬金術師であり、名医でもあるパルティータを向かわせます」

 

響「沙織さん……」

 

弦十郎「今、その少女にとっての一番の理解者は、おそらく響君だ。少女を救いたいと思うのならば、そんな顔をせず、必ず治ると信じて、笑って少女に接してあげるのが大切だろう」

 

響「治ると信じて……」

 

翼「確かに、立花がそんな顔をしていたら、余計にあの子を不安にさせてしまうな」

 

響「……わかりました。私、絶対に治るって信じます!だから今は、あの子に笑顔になってもらうために、私にできる事をしようと思います」

 

沙織「それでこそ、響さんです。それでは皆さん、また近いうちに向こうの世界に渡ってもらいます。ちょうど星矢達も帰ってきたので、次は未来さんも同行させますよ」

 

響「星矢さん達が帰ってきた上、未来も!?」

 

弦十郎「星矢達が帰ってきたのはちょっと前だ。それまで各自、英気を養っておいてくれ」

 

 

 

リディアン 寮

 

 響は帰ってきて、未来と話していた。

 

響「っていうわけでさ。その子、何を聞いてもじっと俯いたままで。私、何をしてげたらいいのかもわからなくて……」

 

未来「そうなんだ……」

 

響「せめて、あの子が何を考えてるのかがわかるといいんだけどね……。はぁ…。ほんと、どうすればいいんだろう……」

 

未来「それなら、筆談とかしてみたらどうかな?」

 

響「筆談って……あの、文字でお話しするやつ?」

 

未来「うん、そう。声が出せなくても、文字ならいけるかも知れないよ」

 

響「なるほど。そっかー。あ……でも。あの子、外国の子みたいだけど、日本語、書けるかな?まだ小さいし、なんかずっと施設に閉じ込められてたみたいなんだよね。そもそも文字が書けないかも……?」

 

未来「もう、響ってば。普段は大胆なのに、変なところで臆病なんだから」

 

響「未来……?」

 

未来「もし文字が書けなかったとしても、それを教える事でコミュニケーションをとる事ができるんじゃないの?」

 

響「そう、かな…?」

 

未来「ダメで元々でしょ?始める前から手を伸ばすのを諦めるなんて、響らしくない」

 

響「うん……そうだね。やってみるよ」

 

未来「それでこそ、響だよ」

 

響「ありがとうね、未来。いやー、やっぱり未来は頼りになるなー」

 

未来「ふふ……響の役に立てたなら、私も嬉しいな。でも……そうか。あの時の響やアシリアと同じ症状なんだね」

 

響「うん……」

 

未来「それは、心配だね……」

 

響「そうなんだよね…。それに、今も寂しがってないかな。あの子、他の人にはあまり懐いてないから」

 

未来「ふふ……なんだか響、お姉さんっていうか、お母さんみたい」

 

響「え?本当に?」

 

未来「うん。特に今のは初めてのお泊り保育に子供を出してオロオロしてる子離れできないお母さん、って感じかな」

 

響「え、なにその例え。すごい具体的」

 

未来「とにかく。心配するのはいいけど、ここで心配しすぎても意味ないよ?沙織さんにも、ちゃんと休むように言われたんでしょ?」

 

響「あ…うん」

 

未来「また向こうに行くまでの間に、身体も心もちゃんと休めておかないとダメなんだからね?」

 

響「そうだね…。ありがとう、未来」

 

未来「星矢さん達が帰ってきてくれて今度は私も一緒に行くから、一緒に休もうね」

 

 響は未来と一緒に休んだのであった。

 

 

 

城戸邸

 

 夜になり、沙織は星矢達と共に自宅にいた。

 

星矢「今日も一日患者の治療でお疲れ様、母さん」

 

パルティータ「星矢も任務が終わって帰ってきたみたいね」

 

氷河「任務の途中でギャラルホルンのアラートが鳴ったのを聞いてな、急いで任務を終わらせて帰ってきた」

 

紫龍「それにしても、新たな並行世界にも装者や聖闘士がいないとは……。随分と歴史が違っているようだ」

 

沙織「向こうの世界の最初で最後の装者、ティナ・ウィートリー…」

 

瞬「一体、どんな人だったのかな…?F.I.Sの職員やレセプターチルドレンの名簿にその名前は記載されてませんでしたか?」

 

美衣「グラード財団が手に入れた名簿にそんな人物の名前はありませんでした。ただ……」

 

瞬「ただ……?」

 

パルティータ「おかしな事に、奇妙な症例で入院した幼い子供の母親の名前がティナ・ウィートリーだったのよ」

 

星矢「並行世界にティナがいて、こっちにもティナが…?何だって!?」

 

パルティータ「それ、私も向こうの最初で最後の装者の事を聞いた時は耳を疑ったわ。まさか、あの奇妙な症例の子の母親と同じ名前だったなんて」

 

沙織「私も驚きを隠せませんでした」

 

美衣「恐らく、こちらの世界の入院しているこの母親ティナと向こうの世界の最初で最後の装者ティナは歴史の分岐が生んだ同一人物なのかも知れません」

 

氷河「入院したあの子の名前は聞けたのか?」

 

パルティータ「母親のティナから聞けたわ。あの奇妙な症例の子の名前は……シャロンよ」

 

星矢「シャロン…?」

 

パルティータ「(2人のティナに融合症例の子、そして奇妙な症例の少女シャロン。これは、とんでもない事になりそうね……)」

 

 こちらの世界で奇妙な症例を発症して入院した少女、シャロンの母親ティナと並行世界の今は亡き装者ティナ、2人のティナが同一人物だとすれば、並行世界の方に同一人物のシャロンがいると思い始めた星矢達であった。

 

 

 

???

 

 今回、新たに繋がった並行世界では、誰も知らない所でシルクハットにスーツの男が並行世界に来た際の響達の様子を見ていたのであった。

 

男「あはははっ!並行世界とやらからやってきたあの女の子達はあの男よりも本当に面白いなぁ!ここのところ、ず~~っと刺激がなくてつまらなかったから、元気な女の子たちがやってきて刺激的になって大喜びだよ!これは、新たな神話の始まりなのかなぁ?」

 

 響達の戦いを見ていた男は響達の来訪を喜んでいた。

 

男「並行世界か…。もしかしたら、奴等やパルティータちゃんがまだ生きてる世界もあるのかなぁ…?いいや、パルティータちゃんはこの時代まで生きてたらもうとっくにお婆さんになってるか。でも、会ってみたいという気持ちもあって、ジレンマに悩まされちゃう。ぬははははははっ!」

 

 明るく笑う男だが、その笑みは邪悪そのものであった。




これで100話目となる今回の話は終わりです。
今回は響達が助けた少女が融合症例であり、しかもその聖遺物がヤントラ・サルヴァスパである事が判明し、並行世界での今は亡き装者ティナと元の世界で奇妙な症例の少女の母親のティナが並行世界の同一人物ではないかと推測される話となっています。
XD本編では未来は機械仕掛けの奇跡編では並行世界に行ってませんでしたが、今小説では響達と一緒に行く事になります。
当初、機械仕掛けの奇跡編では聖闘士星矢関連の人物を出す予定はなかったのですが、感想で星矢達の知ってる聖闘士、もしくは海将軍が出るのでは?との予想があったため、聖闘士ではないのですが、聖闘士星矢関連の人物で、しかもこれからしょっちゅう出てくる非常に厄介な敵を出す事にしました。その敵は一応、容姿やパルティータに関連する事でヒントを出しています。
次の話は未来も並行世界へ行く事になります。

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