セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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奇跡紡ぐ黒い医者編
119話 黒い医者


S.O.N.G潜水艦

 

 パヴァリア光明結社との戦いが終わって数日経過した後の事だった。

 

朔也「パヴァリア光明結社が潰れてから、もう大きな敵はいなくなりましたね」

 

弦十郎「いや、前回の戦いは上層部を倒しただけに過ぎん。まだパヴァリアの残党は世界のあちこちにいる。奴等を全員取り押さえてようやくパヴァリア光明結社の問題が完全解決するんだ」

 

慎次「まだ、紛争地域にアルカノイズが出回っていますからね」

 

マリア「あれ?響とクリスと未来はどうしたの?それに、星矢達は……」

 

弦十郎「響君達は沙織お嬢様の仕事に同行する形で沖縄の西表島に出没しているアルカノイズ討伐任務へ出した。そして、星矢は沙織お嬢様のボディーガードで、残りの3人は別の任務についている」

 

翼「なぜ、沙織お嬢様が西表島へ?」

 

弦十郎「沖縄でグラード財団の総帥としての仕事もあるが、何より西表島の開発推進派の代議士の中でも最も横暴な代議士の件で向かったそうだ」

 

切歌「沙織さんとその代議士に何の関係があるのデスか?」

 

弦十郎「厳密には沙織お嬢様ではなく、その祖父の光政翁と因縁があったんだ」

 

慎次「その代議士の横暴且つ自己中心的な態度や沖縄開発の件で対立し、他の企業と共に支援を打ち切って代議士が推し進めようとしていた乱暴な開発プランを潰した事が原因で、その代議士は光政翁を逆恨みしたんです」

 

調「そうなったのも、全部その代議士の自業自得」

 

翼「私利私欲のための開発を推し進めるとは…!人々のために尽くすべき代議士の風上にも置けぬ奴だ」

 

朔也「あのデブ代議士では、沙織お嬢様の足元にも及びませんよ」

 

あおい「沙織お嬢様は優しさと強さを併せ持った人ですからね」

 

 

 

沖縄

 

 沙織達は沖縄に到着した。

 

響「うっわー!沖縄はまだ夏真っ盛りだね!」

 

未来「海がきれい……」

 

沙織「沖縄の光景を気に入っていただけましたか?」

 

響「うん!とても気に入ったよ!」

 

クリス「2人共、レポートを忘れてないだろうな?」

 

 その言葉に響は固まった。

 

星矢「響、沙織さんが表向きの理由でリディアンから連れ出してしばらく沖縄に滞在する事になったけど、きちんとレポートを書くんだぞ」

 

響「はぁい……(いいなぁ、星矢さんはレポートとかがなくて……)」

 

美衣「では沙織様、沖縄に来てから最初のお仕事へ向かいましょう」

 

 それから色々な仕事をやり、何やら沙織は県庁へ向かい、そこへ美衣と共に入った。

 

響「あそこで何をしてるのかな?」

 

辰巳「お嬢様の大事な仕事だ。我々は戻ってくるのを待とう」

 

 そしてしばらく経つと、沙織が戻ってきた。

 

星矢「終わったのか?」

 

沙織「終わりました。では、次へ行きましょうか」

 

 

 

ホテル

 

 他の仕事も一通り終わった頃には夕方になり、ホテルで寝泊まりした。

 

響「沙織さんの仕事を色々とみる事ができたね!」

 

クリス「そうだな」

 

未来「でも、アルカノイズが出現しなかったけど、本当に出没してるのかな?」

 

クリス「出してからすぐに引っ込めてるんだろうな」

 

響「ところで、沙織さんは?」

 

 沙織は何やら電話をしていた。

 

沙織「秘書さん、田中代議士と面会したいのですが……」

 

秘書『申し訳ございません。田中先生は光政翁との一件以来、生前の光政翁はおろか、沙織お嬢様との面会さえ頑なに拒絶しているので……』

 

沙織「開発中止を求めた書類の返事はどうなのですか?」

 

秘書『それが…その書類が送られる度に激昂して破り捨てたのです。申し訳ありませんが、仕事等もあるのでこれで』

 

沙織「わかりました」

 

 そう言って電話を切った。

 

星矢「その田中とかいうデブ代議士ってのは相当なろくでなしだぜ。受け入れないなりの返事を出すどころか、沙織さんが送った書類を破り捨てるなんてよ」

 

美衣「はっきりいって、彼は西表島の住人はおろか、沖縄の人達からはほとんど支持されていません。比例代表でたまたま代議士になれただけなのです。それどころか、あまりにも横暴な態度に同じ開発推進派の代議士にさえ嫌われているほどです」

 

星矢「沙織さんが沖縄に来たのは、あのデブの態度に業を煮やしたからなのか?」

 

沙織「星矢の言う通りです。私自ら行かなければ、考えを改めないでしょう。それに、面会を拒絶し続けているのを逆手にとる事もできます」

 

星矢「逆手にとる?」

 

 

 

西表島

 

 西表島、そこは亜熱帯の自然に溢れていた。そんな自然の中で1匹のイリオモテヤマネコはカエルを捕食しようと飛びかかった。

 

イリオモテヤマネコ「ニャアアッ!?」

 

 しかし、そのカエル自体が罠であった。罠にかかったのを見た密猟者が茂みから出てきた。

 

密猟者「へへっ、2週間も野宿してやつを出し抜いた甲斐があったぜ。イリオモテヤマネコのダンナ」

 

 一方、眠っていた錬金術師が起きた。そして、何かに気付いた。

 

錬金術師「あのクソ野郎…!この俺を出し抜きやがって!!」

 

 怒り心頭の錬金術師は報復の準備をした。そしてその頃、沙織達は西表島で買い物をしていた。沙織は大騒ぎにならないように伊達メガネをかけて素性を隠していたが。

 

響「おおっ!西表島ならではのグッズがいっぱいだ!」

 

未来「可愛い猫ちゃんのアクセサリーとかもあるよ!」

 

クリス「先輩や後輩達のお土産にもってこいだな」

 

未来「どうして猫のアクセサリーが?」

 

辰巳「この島には絶滅危惧種であるイリオモテヤマネコが生息しているのだからな。それにちなんだグッズも多い」

 

響「へえー」

 

辰巳「それよりお嬢様、なんで自分が荷物持ちを……?」

 

沙織「ごめんなさい、辰巳。星矢は護衛なので荷物をあまり持たせられないんです」

 

星矢「頑張れよ、辰巳」

 

 買い物をしていると、赤ちゃんを抱いている女性と買おうとしているものを同時に触った。

 

母親「あら、同時に同じものに触れましたね」

 

沙織「あなたに譲るので、どうぞ」

 

 沙織は自ら譲ったのであった。

 

母親「あなた、もしかして…?」

 

沙織「私は沙織と申します。うみねこ丸にご乗船なされるのですか?」

 

母親「ええ(あの人、城戸沙織に見えるのだけど、気のせいかしら…?)」

 

沙織「でしたら、乗船時間まで一緒にお買い物しませんか?」

 

 その女性と共に買い物をする事にした。

 

響「うわー、可愛い!」

 

未来「時間があるので、この子を抱いてもいいですか?」

 

母親「あなた達にも懐いているようなので、いいですよ」

 

 早速、未来は赤ちゃんを抱いてみた。

 

未来「まるで、お母さんになったみたい……」

 

星矢「響と一緒にいたら、本当の子持ち夫婦のように見えるぞ」

 

未来「えっ!?」

 

響「そう見えるんですか!?」

 

母親「私もそう見えるわ。あなたが男の子だったら、子持ち夫婦そのものよ」

 

未来「次はクリスが抱いてみる?」

 

クリス「あたしが!?」

 

 次はクリスが抱く事になったが、クリスの胸が柔らかくて気持ちいいのか、赤ちゃんはスヤスヤ寝てしまった。

 

クリス「寝ちまったぞ」

 

響「クリスちゃんの大きな胸が気持ちいいクッションになっているんだよ」

 

クリス「あたしの胸が!?」

 

 驚きつつもクリスは赤ちゃんを撫でて、しばらく抱いてから刺激して起こさないよう、そっと母親に抱かせたのであった。その頃、黒いコートの男と三等身の少女が船で西表島に向かっていた。

 

少女「はあ、あちゅいのよしゃ!ちぇんちぇ、あちゅくないの?」

 

男「別に。平気だ」

 

少女「ええーっ!あややややっ!」

 

 そして、西表島に着いた。

 

少女「ちぇんちぇのしまもあちゅいけど、にいおもてじまもあちゅいのよしゃ」

 

男「西表島だ」

 

少女「ちぇんちぇ、本当にあちゅくないの?」

 

男「ああ」

 

 アナウンスが流れ、うみねこ丸の乗船が始まり、沙織達と黒い服の男は列に並び、隣同士になった。

 

響「あれ?あの人、真っ黒なコートを着てて暑くないのかな?」

 

未来「私や響だったら、汗ダラダラで着てられないよ」

 

少女「あちゅくなんかないのよしゃ!」

 

クリス「チビ、お前はその黒コートの奴の子供なのか?」

 

ピノコ「子供じゃにゃいだわしゃ!ピノコは18ちゃいでちぇんちぇの奥たんなのよしゃ!」

 

クリス「はぁ!?どう見たってガキじゃねえか!何かの間違いじゃねえのか?チビ!」

 

ピノコ「ほんとだわしゃ!巨乳自慢のおっぱいオバケにチビと言われたくないだわしゃ!」

 

クリス「おっぱいオバケ!?胸の事を言いやがって、この自称大人のチビが!」

 

ピノコ「おっぱいオバケが!」

 

男「ピノコ!」

 

沙織「クリスさん!」

 

 男と沙織に言われ、双方とも黙った。

 

沙織「申し訳ありません、ブラックジャック先生。クリスさんとピノコさんの衝突を招いてしまって…」

 

ブラックジャック「いえ。こちらもこんな事態は想定外だ」

 

クリス「(あいつが…パパやママが言ってた…!)ブラックジャック!?」

 

 沙織が黒いコートの男をブラックジャックと言った事にクリスが反応した。

 

響「うわあっ、びっくりした!」

 

未来「クリス、隣の黒いコートの人をブラックジャックって言ったけど…」

 

クリス「ああ。あたしも直接会ったのは初めてだが、あいつは間違いなくブラックジャックだ」

 

響「そのブラックジャックさんって、どういった人?」

 

クリス「噂も聞いた事がねえのか?あいつはな」

 

 そんな中、太った男が並ばずにうみねこ丸に乗ろうとしていた。そこへ、沙織達が立ちはだかった。

 

沙織「田中代議士、きちんと列に並んで乗船してください!」

 

田中「何!?ワシに列に並べと言うのか!?」

 

秘書「ちょっとそこのお嬢さん、田中先生に向かって」

 

 しかし、田中の秘書は沙織を見て、急に怯えた様子になった。

 

秘書「(あの方が遂に業を煮やして…!!)先生、この人の言う通りに並びましょうか…」

 

田中「何だとォ!?偉そうな小娘の言う事を聞けというのか!?」

 

クリス「並ばないなんてみっともねえぜ、オッサン!」

 

田中「オッサン!?」

 

未来「代議士であっても、急ぎの用がないのなら、きちんと並ぶべきです!」

 

響「他の人が迷惑します!」

 

田中「小娘共がワシに向かって口答えしおって…!口の利き方のなってない小娘共は」

 

 すぐに頭に血が上り、暴力を振るおうとした田中だったが、秘書は必死で止めようとした。

 

秘書「いけません!暴力沙汰になったら、ただでさえ騒がしい先生への批判の声がさらに騒がしくなりますよ!」

 

 不満ながらも、その場は並ぶ事にした田中であった。

 

ピノコ「じゅる入りに口答えしたにょはしゅごいだわしゃ!」

 

沙織「凄い事はしていません。ただ、人としてやるべき事をやっただけです」

 

星矢「さ、俺達も乗ろうぜ」

 

ブラックジャック「(流石は沙織お嬢様だ。光政翁の志を受け継いでいる…)」

 

 

 

うみねこ丸

 

 そして、うみねこ丸は出航しようとしていたが、船員があるものを見た。

 

船員「(段ボールがあるな…。いつの間に…)」

 

???「待ってくれ、俺も乗る!俺も乗る!」

 

船員「ああ、危ないですよ!」

 

 密猟者も船に乗った。

 

船員「お客さん、困りますよ!」

 

密猟者「へへ、悪い悪い」

 

船員「全く…」

 

 ふと、船員はいつの間にか段ボールがなくなっている事に気付いた。

 

船員「段ボールが消えている…。段ボールがあったのは気のせいだったのか?」

 

 船員が見た段ボールの方はいつの間にか密猟者の近くにあった。そして、沙織達はブラックジャックのところに来た。

 

ブラックジャック「君達は?」

 

響「自己紹介が遅れました、ブラックジャックさん!私は立花響といいます!」

 

未来「私は響の幼馴染の小日向未来です」

 

クリス「あたしは雪音クリスだ。あいつらは」

 

ブラックジャック「沙織お嬢様達の事は既に知っている」

 

響「既に知ってたんですか」

 

ブラックジャック「まあ、色々と付き合いもあってな」

 

響「ブラックジャックさんって、西表島が好きなんですか?」

 

ブラックジャック「そんなところだ。西表島は山と熱帯樹林の自然境で、天然記念物に満ちた美しい島だ。昭和47年には、島の大部分が国立公園に指定されている」

 

ピノコ「こつりつ公園?」

 

未来「簡単に言えば、国によって自然が保護されている場所なんだよ」

 

ブラックジャック「だが、その指定を外そうとしている輩がいる」

 

星矢「代表的な奴があのデブさ」

 

ピノコ「じゅる入りしようとした人!?しょんなの、ダメなのよしゃ!」

 

沙織「ですが、それを阻止している人達によって今でも西表島は国立公園のままなのです」

 

ピノコ「その人って…?」

 

美衣「西表島の自然保護を保護している有力者の1人が、沙織様なのです」

 

ピノコ「アッチョンブリケ!!」

 

 それから、沙織達は船の中に入った。

 

記者「田中先生、西表島のリゾート開発は本当に行われるのですか?」

 

田中「ははははっ、任せておけ!ワシはこの島の観光開発に命をかけとる!まあ、今に見ておれ。西表島は最高のリゾート地となるはずじゃ!」

 

記者「だけど先生、自然保護はどうなるのですか?同じ開発推進派からももっと慎重になれと言われてるようですし、グラード財団の」

 

田中「あの開発中止の書類をよこしてくる奴の名前を言うな!誰かが言ったり、その名を聞いたりするだけで腹が立ってくる!うんとアオカビを落とそうとしているのに、そのグラード財団の総帥は何を考えとる!」

 

記者「お顔の方は…」

 

田中「あの正義の味方ぶった光政の孫娘の顔など知らんし、どういった顔なのか知りたくもないわ!わしは正義の味方が死ぬほど大っ嫌いだ!!」

 

秘書「(先生、沙織様は近くにいるんですよ…!)」

 

 田中が最も嫌っている沙織がすぐ傍にいる事は田中の代わりに何度も沙織本人に会っている秘書は知っているものの、沙織の顔を知らない田中は知る由もなかった。

 

田中「喉が渇いた…。何か飲み物を…」

 

秘書「お水をお持ちします」

 

田中「いや、ワインだ!ワインを持ってこい!」

 

 秘書はワインを用意した。その田中の様子を響達は見ていた。

 

響「あの人、沙織さんをとても嫌っているみたい…」

 

クリス「でも、顔を知らないみたいだぞ。まさか、嫌っている奴が近くにいるなんて、考えもしてないだろうな」

 

星矢「ああ。デブは私欲だけしか頭にないバカだ」

 

沙織「面会を拒絶し続けているのはこうやって逆手にもとれるんですよ」

 

響「なるほど!」

 

 そして、田中は秘書にワインをグラスに注いでもらった。

 

カメラマン「それじゃあ先生、撮りますよ」

 

 カメラのフラッシュに赤ちゃんは泣きだしてしまった。

 

未来「赤ちゃんが!」

 

美衣「あのフラッシュのせいでしょう!」

 

 田中は赤ちゃんの泣き声に反応した。

 

田中「ん?何だ!?雰囲気が台無しではないか!」

 

秘書「取材中ですので」

 

沙織「お黙りなさい!」

 

 沙織の一喝で秘書は怯え、周囲の雰囲気を一気に塗り替えた。

 

沙織「赤ちゃんが泣いたのは、あなた達の配慮のなさが原因です!フラッシュをしなければ、こうはならないのですよ!」

 

田中「またあの小娘か…!邪魔ばかりしおって…!」

 

沙織「あなたが横暴な真似をする限り、私は何度でも邪魔しますよ」

 

田中「ふざけおって、この生意気な小娘が!!」

 

 怒った田中は秘書の制止を振り切って沙織を殴ろうとしたが、星矢が代わりに殴られた。が、とても頑丈なために微動だにしなかった。

 

星矢「女の人に暴力を振るうなんてみっともないぜ、デブ!」

 

田中「ワシをデブだと!?って、痛~~~~い!!!!」

 

 星矢を殴った田中は逆に手が真っ赤に腫れたのであった。

 

星矢「生憎、俺はデブと違って死線を何度も潜る修行を数年間もしてきたからな。頑丈さには自信があるんだぜ。それに、てめえのような奴をデブと言って何が悪い?」

 

田中「おのれ…、ワシをデブ呼ばわりしおって!!」

 

 また沙織を殴ろうとした田中だったが、今度は美衣に腕を掴まれ、止められた。

 

美衣「沙織様への暴行は許しませんよ、田中代議士!」

 

田中「どいつもこいつも…!」

 

 星矢達には及ばないものの、美衣も力が常人よりとても強いために田中は振り払うために動かす事さえできなかった。

 

田中「あんな奴と一緒だと腹が立ってくる!場所を変えるぞ!」

 

 沙織の近くにいたくない田中は席を変えた。

 

母親「ありがとうございます、沙織さん」

 

沙織「いえ、当然の事をしたまでです」

 

 代議士の田中に堂々と啖呵を切った沙織に周囲は凄いと思ったのであった。

 

ピノコ「しゃおりはしゅごいのよしゃ!」

 

響「だよね、ピノコちゃん!」

 

 一方、いつの間にか移動していた段ボールから錬金術師が出てきた。

 

錬金術師「よーし、ここなら抜け駆けしたあいつは逃げられねえ!」

 

 そう言って錬金術師は結晶を投げ、うみねこ丸の近くにアルカノイズを召喚した。アルカノイズの出現に船員たちは衝撃を受けた。

 

船員「船長、うみねこ丸の近くにノイズが出現しました!」

 

船長「ノイズだと!?」

 

 響達の方にも本部から連絡が来た。

 

弦十郎『響君達、近くにアルカノイズが出現した!このままだとうみねこ丸は乗客共々海の藻屑となる!直ちに迎撃してほしい!』

 

響「わかりました!」

 

未来「行こう!」

 

クリス「ああ!」

 

 響達は席を離れた。そこへ、アナウンスが放送された。

 

船長『乗客の皆さん!たった今、うみねこ丸の近くにノイズが出現しました!ノイズから振り切るために船の速度を上げますので、むやみに立ち歩かないでください!』

 

乗客A「ノイズ!?」

 

乗客B「こんな場所でノイズだなんて…!」

 

 ノイズの出現に動揺する乗客たちをよそに、響達は船の外に出た。

 

美衣「皆さん、絶対にアルカノイズを船に近づけてはいけません!」

 

星矢「念のため、俺と美衣さんは船に近づいてきた奴を迎撃するけど、近づけさせるなよ!」

 

未来「わかりました!」

 

クリス「あたしらに任しとけ!」

 

星矢「よし、行くぞ!」

 

 星矢と美衣は手の上に響達を乗せた後、バレーのレシーブの要領で3人を空高く飛ばした。

 

響「Balwisyall nescell gungnir tron」

 

クリス「Killter Ichaival tron」

 

未来「Rei shen shou jing rei zizzl」

 

 それから、3人はギアを纏い、クリスのミサイルに乗ってアルカノイズの方へ向かった。

 

ブラックジャック「あれは…!」

 

 響達の様子を窓から見たブラックジャックは反応した。

 

クリス「いいか!今回は海上で戦うから、バカはあたしのミサイルに乗って戦いな!」

 

響「ありがとう、クリスちゃん!」

 

未来「1匹たりとも逃がしちゃダメだよ!」

 

 響達3人にとって最早、アルカノイズは強敵ではなかった。星矢と美衣の視線が外へ向けられる中、段ボールが近づいて来て、動いている密猟者の荷物を横取りしようとした際に密猟者は起きた。

 

密猟者「段ボールが動いてるだと!?」

 

 そして、段ボールから錬金術師が出てきた。

 

錬金術師「てめえ、俺を出し抜くとはいい度胸じゃねえか!」

 

密猟者「こ、これは渡さねえ!」

 

錬金術師「山分けする約束を破りやがって、許さねえ!」

 

 突然の錬金術師の登場に乗客たちは衝撃を受け、錬金術師と密猟者は荷物の取り合いになった。だが、そんな時に大きな波による揺れで二人とも荷物を落としてしまい、箱が壊れて中からイリオモテヤマネコが出てきた。

 

辰巳「猫!?」

 

沙織「あの猫は…!」

 

 そうしている間にイリオモテヤマネコは暴れ出した。

 

田中「く、来るぞ!」

 

 そのままイリオモテヤマネコはうみねこ丸の船長に飛びついた。

 

秘書「早く後ろの席へ!」

 

 田中が秘書と一緒に移動している間にも急にイリオモテヤマネコが飛びついたせいで船長は船の舵を大きく切ってしまい、船が大きく揺れてしまった。

 

ブラックジャック「ピノコ!」

 

辰巳「お嬢様!」

 

 沙織とピノコはそれぞれ傍にいた辰巳とブラックジャックにより、難を逃れたが、田中の持っていたグラスが割れて破片が赤ちゃんの腕に刺さり、田中は転がって箱の破片に刺さってしまった。そして、船がポールがある岩にぶつかってしまい、ポールが船に入ってきてイリオモテヤマネコに直撃してしまった。ちょうどその時、響達はアルカノイズを倒し終わった。

 

響「うみねこ丸が!」

 

クリス「一体、中で何があったんだよ!」

 

未来「戻ろう!」

 

 3人はうみねこ丸へ戻った。

 

船員「船長、猫は…?」

 

船長「し、知らん。それより、無線で連絡を」

 

 しかし、防水仕様でなかったため、海水を被って使えなかった。ちょうどその時に響達が来た。

 

響「何があったんですか!?」

 

船長「ノイズを倒してくれてありがとう。ところで君達、その恰好は……」

 

 船長たちから見たらシンフォギアを纏った響達の恰好は破廉恥であるため、思わずクリスの巨乳に視線が行き、顔を赤くしてしまった。

 

クリス「オッサン達、あたしの胸をガン見しやがったな!」

 

船長「も、申し訳ない!それより、船の無線が使えない上、航行できなくなってしまった!君達は無線を持っているか?」

 

未来「はい、あります!」

 

 そこへ、沙織達が来た。

 

美衣「まずは状況確認が先決です!怪我人が出ています!」

 

 響達が来ると、怪我をしたのが田中と赤ちゃんである事がわかった。

 

秘書「先生、大丈夫ですか!?」

 

田中「い、痛い…。死ぬ~~っ!!」

 

母親「たかし…」

 

クリス「とんでもねえ事になってるぞ…!」

 

 急いで未来は通信機で連絡をとった。

 

未来「弦十郎さん、大変です!うみねこ丸がノイズに襲われ、撃退したのですが…事故で航行不能になって怪我人が出たんです!」

 

弦十郎『怪我人だとぉ!?』

 

未来「船の無線も使えず、航行もできないので急いで救助艇の手配をお願いします!」

 

弦十郎『わかった。だが、距離の関係で到着に1時間半はがかかる。そこは了承してくれ』

 

未来「わかりました」

 

 本部との通信を終えた。

 

船長「大丈夫ですか?」

 

秘書「何をしているんだ!?早く病院へ連れていけ!」

 

船長「それが、航行不能でして…」

 

秘書「じゃあ、助けはいつ来る!?」

 

響「私達が連絡を入れたのですが、ノイズから逃げた関係で到着には時間がかかるそうです」

 

秘書「ふざけるな!先生が怪我をしているのだぞ!」

 

船長「お客様の中に、お医者様はおられますか?」

 

 仕方なく、乗客に医者がいるかどうか確かめる事にした。

 

未来「星矢さん、パルティータさんを呼ばないと…」

 

星矢「いや、母さんは今日は難しい手術が入ってて、呼べそうにない」

 

クリス「こういった時に呼べねえなんて…」

 

ピノコ「ちぇんちぇ、呼んでるわよ。ちぇんちぇってば!おいちゃちゃまを呼んでるのよちゃ」

 

船長「どなたかいませんか?看護師の方でもいいんです」

 

ピノコ「はーい!ここにいまーちゅ、ここでーちゅ!」

 

ブラックジャック「ピノコ、余計な事を言うな」

 

ピノコ「困っている人がいないのに、助けない気?」

 

ブラックジャック「面倒な騒動に巻き込まれたくないんでね」

 

 ブラックジャックのところへ船長と秘書が来た。響はブラックジャックが医者だと知って驚いた。

 

響「ブラックジャックさんって、お医者さんですか!?」

 

沙織「そうですよ。彼は神の手を持つといわれている世界一の腕を持つ外科医なのです」

 

響「凄い!」

 

 喜ぶ響であったが、視線の先にイリオモテヤマネコを見つけた。その言葉は船長と秘書にも聞こえていた。

 

秘書「よかった!外科の先生、それも世界一の先生であれば直ちに手当してください」

 

ブラックジャック「…俺は、正規の医者じゃない」

 

秘書「というと…ひょっとして、モグリ?」

 

船長「で、でもこの際、モグリだろうがモグラだろうが」

 

秘書「そ、そうだな。お願いです、先生。助けてください」

 

 騒動に巻き込まれ、ブラックジャックは重い腰を上げた。

 

ブラックジャック「怪我人はどこだ?」

 

 ブラックジャックは案内された。

 

船長「怪我人は2人です。1歳になる赤ちゃんと、代議士の田中先生です」

 

ピノコ「あっ、じゅる入りの人!」

 

秘書「救助が来るまで、何とか応急処置を!」

 

 ブラックジャックは怪我人を診た。

 

母親「先生、何とかこの子をお救いください!」

 

田中「君、ワシを、ワシを先に治さんか!金なら」

 

クリス「オッサンは待ってろ!赤ちゃんが先だ!」

 

田中「何だとォ!?」

 

クリス「小さい頃の大怪我や病気は障害に繋がる危険があるから、赤ちゃんが先だ!」

 

田中「ふざけおって、この」

 

響「ブラックジャックさん、猫ちゃんがひどい怪我をしています!」

 

 響は見つけたイリオモテヤマネコを抱えて来た。

 

ブラックジャック「これは…イリオモテヤマネコではないか!誰がこの船にイリオモテヤマネコを持ち込んだんだ!?」

 

星矢「こいつらだぜ」

 

 星矢は騒動の間にタコ殴りにして取り押さえた密猟者と錬金術師に指差した。

 

ブラックジャック「お前さん、密猟者だな?こいつがレッドマークアニマルだと知って捕まえたんだろ?」

 

田中「おい、何をしている?猫などどうでもいい、早くワシを治さんか!」

 

母親「先生!この子をお願いします!」

 

 この状況は響が医者であったら、誰が先か選べない状況であった。

 

ブラックジャック「…私の治療費は高いですぜ。いいんですか?」

 

田中「だから、金ならいくらでも払うと言ってる!」

 

ブラックジャック「そうですか。なら代議士の先生、応急処置で1千万いただきましょう」

 

田中「い、1千万!?」

 

ブラックジャック「そっちの赤ん坊も、1千万だ」

 

母親「そ、そんな…!」

 

 この桁違いの治療費に響達も衝撃を受けた。

 

クリス「噂通り数千万単位できたか…!」

 

響「ブラックジャックさん、いくら何でも治療費が高すぎます!こんなに高い治療費は普通の人は払えません!」

 

未来「あなたはそれでも医者なんですか!?」

 

 ブラックジャックの請求する治療費に響達は驚いたが、星矢達は平然としていた。

 

ブラックジャック「払えないのなら、お断りだ」

 

母親「いいです!主人と相談して、必ずお支払いします!だから、助けて!」

 

秘書「くそっ、足元を見やがって…!」

 

田中「払う、払うから…うっ!」

 

秘書「は、はい…」

 

ブラックジャック「じゃあ、やりましょう。ただし、条件がある。私のやり方に文句をつけない事。いいですね?」

 

 秘書は小切手を渡した。

 

秘書「わかった、すぐ初めてくれ!」

 

ブラックジャック「患者を前の座席へ、他の者は後部座席に移動してもらおう!」

 

 ブラックジャックはコートを脱ぎ、鞄に入っている医療器具を用意した。

 

ブラックジャック「その子の血液型は?」

 

母親「はい、O型です」

 

ブラックジャック「RHは?」

 

母親「+です」

 

ブラックジャック「船長、O型の輸血者を募ってくれ!」

 

船長「はい!」

 

 そして、ブラックジャックは注射を用意した。

 

ブラックジャック「奥さん、子供を押さえていてください。局部麻酔だ。これで痛みは治まる」

 

 ブラックジャックは赤ちゃんの怪我した方の腕に局部麻酔の注射をした。

 

田中「おい、さっさと」

 

星矢「てめえは黙っとけ、デブ」

 

田中「な、何だと…!?」

 

ブラックジャック「私の手は二本なんだぜ。この手をどう使うか、文句をつけてほしくないね」

 

田中「わ、ワシは小切手で1千万」

 

美衣「世の中には順番があるのですよ。傍若無人なあなたには理解できないでしょうが」

 

田中「何だとォ!?」

 

ピノコ「ちぇんちぇ、見つかったのよぉ!」

 

 ピノコと船長は密猟者を連れてきた。

 

船長「先生、O型はこいつだけです」

 

ブラックジャック「責任上、協力してもらおう。ピノコ、輸血の用意だ」

 

ピノコ「アロマンチュ!それ!」

 

 ピノコは輸血の準備に入った。

 

田中「おい、だったら2千万ならどうだ!?2千万なら先にやってくれるのか?」

 

ブラックジャック「ほう、2千万円?」

 

田中「おい、何をしている!?小切手だ!」

 

秘書「は、はぁ…」

 

田中「今すぐ金は…おい、何をする気だ!?」

 

 ブラックジャックはイリオモテヤマネコを応急処置を優先していた。

 

田中「猫をワシよりも先に手当てするというのか?貴様、人間よりもケダモノの命の方が大事だっていうのか!?気は確かなのか!?」

 

ブラックジャック「ギャーギャー騒ぐな!条件だと言ったはずだ。私のやり方にケチをつけるな!」

 

田中「ふざけるな!そんなケダモノは海に放り込め!今すぐワシを」

 

響「あなたは自分が助かるのなら、他の人がどうなってもいいと言うのですか!?」

 

未来「あなたよりもひどい怪我をしているのが猫ちゃんじゃなくて、あなたの家族や支援者などでもそんな事を言うのですか!?」

 

田中「当たり前だ!ワシ以外の人間やケダモノがどうなろうが知った事か!ワシに歯向かう奴はみんな訴えてやる!」

 

クリス「てめえ、どこまでも!」

 

 あまりにも自己中心的な田中の言葉に憤る響達であったが、沙織達は至って冷静であった。

 

星矢「これだけ騒げるのなら、大した怪我じゃねーな」

 

沙織「田中代議士、先程の言葉、後悔しても知りませんよ」

 

田中「誰が後悔するものか、目障りな小娘め!」

 

 沙織達に田中が悪口を言っている間にブラックジャックはイリオモテヤマネコの応急処置を進めていた。

 

ブラックジャック「大血管は破れていない。これなら何とかなる!」

 

 そして、イリオモテヤマネコの応急処置は終わった。

 

ブラックジャック「よし、これで大丈夫だ」

 

響「猫ちゃん、よかったね…」

 

ブラックジャック「元気だせよ。ピノコ、準備はいいか?」

 

ピノコ「オッケーなのしゃ!」

 

 次は赤ちゃんの方へ向かった。

 

秘書「お、おい!ちょ、ちょっと!」

 

田中「最初は猫、お次は赤ん坊か!代議士のワシが一番後回し…」

 

美衣「法律上は動物は物扱いなので、本来であればブラックジャック先生の対応はまずいでしょう」

 

田中「それなら、訴えて」

 

美衣「ですが、イリオモテヤマネコは天然記念物にして、絶滅危惧種の希少動物。今回のケースでは、特例措置が認められるはずですよ」

 

 美衣は法律上の話や特例を踏まえ、今回のケースではブラックジャックの行動が正しい事を突き付けた。

 

ブラックジャック「奥さん、貧血を起こすから見ない方がいい」

 

 不安そうに見る母親を沙織はそっと肩に手を置いた。

 

沙織「大丈夫です、ブラックジャック先生は必ず治してくれます」

 

母親「沙織さん…。先生、どうかたかしを助けて…」

 

クリス「頼むぞ…」

 

ブラックジャック「わかってる…」

 

 装者の中ではクリスが一番赤ちゃんを心配していた。

 

ブラックジャック「ピノコ、メス」

 

ピノコ「はいのよしゃ」

 

 早速、赤ちゃんの怪我をした腕を診た。

 

ブラックジャック「橈骨神経が切れている。こいつは厄介だ…」

 

ピノコ「どうしゅるの?」

 

ブラックジャック「神経を繋ぐしかあるまい。大きな揺れが来ない事を祈るしかない(頼む、揺れてくれるなよ…)」

 

 大きな揺れが来てほしくないと祈りつつ作業を続け、遂に赤ちゃんの腕の橈骨神経を繋ぎ終わった。

 

ブラックジャック「これで腕の麻痺は残らないだろう」

 

母親「先生…」

 

ブラックジャック「ただし、これは港に着くまでの応急処置だ。すぐに入院をして、再手術を」

 

母親「ありがとうございます…!」

 

 赤ちゃんの応急処置が終わり、母親だけでなく響達もほっとした。そして、ブラックジャックは田中の方へ向かった。

 

ブラックジャック「さあ、代議士のダンナ。今度はお前さんの番ですぜ」

 

 次は田中の応急処置を行った。

 

田中「なぜ猫を先にした?」

 

ブラックジャック「こいつは天然記念物、しかも絶滅危惧種ですからね。その一方、お前さんは絶滅危惧種じゃない」

 

田中「ワシは1千万渡したんだ。それに引き換え、猫は」

 

ブラックジャック「猫に1千万払えると思いますかい?お前さんのは軽い軽い、腹の腹直筋まで切れただけだ。腹の脂が多いから助かったんだよ。不幸中の幸いって奴だ」

 

 そんな時、ブラックジャックは何かに気付いた。

 

田中「幸いだと?」

 

ブラックジャック「まあ、あんまり騒ぐとみっともないですぜ」

 

船長『お客様に申し上げます。間もなく救助艇が到着します』

 

田中「くそう、モグリ医者め、思い知らせてやる…!」

 

沙織「それは私が許しません!あなたは恩を仇で返すのですか!?」

 

 沙織は厳しい言葉を放ち、田中の方へ来た。

 

田中「ワシの邪魔ばかりする小娘め、それならワシに歯向かった貴様ら全員訴えてやる!!」

 

秘書「いけません、先生!あの医者はともかく、あの方を訴えるのは非常に危険です!」

 

田中「貴様までワシに歯向かうのか!?なら、クビにしてやる!!ワシこそが絶対なのだ!!」

 

 どこまでも自己中な田中に沙織は完全に怒ったのであった。

 

沙織「何を言っても考えを改めないようですね、田中代議士!」

 

星矢「そろそろ正体を明かしたらどうだい?沙織さん」

 

沙織「そうですね。大騒ぎを避けたかったのですが、やむを得ないでしょう」

 

田中「正体だとぉ!?」

 

美衣「こちらにおられるお方こそ、現グラード財団の総帥であらせられる城戸沙織様なのです!」

 

 美衣の紹介と共に沙織は伊達メガネを外し、素顔を見せた。沙織の姿に客や船員は衝撃を受けた。

 

母親「あの人が…!」

 

船長「城戸…沙織様…!どうりで見覚えがあると思ったら、本人だったのか」

 

田中「小娘が…城戸の孫娘だとぉ!?」

 

 正体を明かした後、沙織は前に出た。

 

沙織「田中代議士、あなたが行った目に余る横暴の数々、見させていただきましたよ。それでもあなたは代議士なのですか!?」

 

田中「だ、だからどうした!?光政の孫だと知ってワシが怯むとでも」

 

秘書「だから言ったじゃないですが!沙織様を訴えるのは危険だと!あの方は世界有数の実業家、ニクラ氏相手でも何の工作もせずに裁判で勝った程なんです!」

 

田中「何を言うか!あんな小娘なんぞに」

 

 徹底抗戦の構えを見せた田中であったが、沙織の凛とした態度と凄まじいプレッシャーにより、途方もない恐怖に駆られていた。

 

沙織「どうしましたか?私に恐れをなしたのですか?」

 

田中「だ、誰が小娘に恐れをなすものか!貴様なぞ」

 

 ところが、秘書のスマホに電話が鳴った。

 

秘書「はい…はい…。先生、支援者から抗議の電話が来ています!」

 

田中「何ッ!?」

 

秘書「しかも、他の代議士や一般人からの抗議やクレームまで来てるんですよ!!」

 

田中「抗議だと!?小娘、ワシを陥れたな!?」

 

沙織「私は陥れてなどいませんよ。ただ、あなたが勝手に自分の墓穴を掘り、自滅しただけです」

 

星矢「自業自得って奴だな」

 

 田中の横暴を知らせたのは取り押さえられた錬金術師であり、田中が気に入らなかったため、スマホを使って横暴ぶりをSNSに投稿した。

 

沙織「彼等からの抗議にどう対処しますか?」

 

田中「う、う……!」

 

 沙織に支援者や他の代議士、一般人からの抗議とクレームの嵐に田中は四面楚歌になった。

 

沙織「代議士にしてくれた有権者への感謝の気持ちを忘れ、横暴の限りを尽くした結果がこの有様なのですよ。どうしても私が気に入らないのであれば、いつでも訴えて構いません。私は逃げも隠れもしませんから」

 

田中「う、う、う……うわああああっ!!!」

 

 横暴の限りを尽くした田中の心を完膚無きにまでへし折り、沙織は一同と共に救助艇へ向かった。

 

 

 

ブラックジャックの家

 

 それから1週間後、イリオモテヤマネコはグラード財団が預かって怪我が治り次第、西表島へ帰す事になった。響達がブラックジャックに呼ばれた事もあり、沙織はうみねこ丸に乗船したメンバーと治療費の支払いの件で母親と赤ちゃんを連れてブラックジャックの診療所に来た。

 

ブラックジャック「この前は助かりましたよ、沙織お嬢様。そのお礼であなたが肩代わりする赤ん坊の応急処置代は50万円に値引きしましょう」

 

沙織「いえ、あの状況であなたがいてくれたのが幸いでした。では、50万円を受け取ってください」

 

 美衣はブラックジャックに50万円渡した。

 

星矢「お互い様って奴だな」

 

ブラックジャック「それより、響達には話したい事がある。少しいいか?」

 

 重要な話であるせいか、ブラックジャックは響達3人だけを別の部屋に案内し、その部屋のドアを閉めた。

 

未来「何かあるんですか?」

 

ブラックジャック「お前さん達に聞きたい事がある。あの装備はシンフォギアだが…LiNKERを服用しているのか?」

 

 ブラックジャックがシンフォギアを知っていた事に響達は驚いた。

 

響「い、いえ。私は一度も使ってません」

 

クリス「あたしも」

 

未来「昔は使ってましたが、今は使ってません」

 

ブラックジャック「使ってないのか。なら、いい」

 

 話が終わり、4人とも部屋から出てきた。

 

ピノコ「ちぇんちぇ、何してたのだわしゃ!?」

 

ブラックジャック「ちょっと気になる事でな」

 

母親「先生、病院の先生に診せたらほとんどやる事がないと言われ、たかしも数日で退院できました」

 

クリス「病院へ連れてった時は驚いたな。応急処置って言ってた癖にもう治療そのものが終わってたなんてよ。よかったな、お前」

 

 赤ちゃんは母親以外ではクリスに一番懐いており、クリスが撫でると喜んだ。

 

母親「治療費の事ですが…」

 

ブラックジャック「それについてですが、既に優しいお金持ちの方があなたの支払いを肩代わりしてくれましたので、千円でいいですよ」

 

母親「優しいお金持ち?まさか…!」

 

 ブラックジャックの言葉に母親は沙織に視線が行った。

 

母親「沙織さん……、何から何までありがとうございます!」

 

沙織「どういたしまして」

 

 治療費を肩代わりした沙織の優しさに母親は嬉し涙を流した。

 

響「治療費を肩代わりしてくれる沙織さんって、優しい!」

 

未来「あの、ブラックジャック先生はどうして高額の治療費を…?」

 

沙織「ブラックジャック先生が高額の治療費を請求するのは、お金持ち相手であれば搾り取る思惑と治療する患者や依頼人の覚悟を確かめたいという真意があるからです。私が赤ちゃんの応急処置代を肩代わりしたのも、頼んだ人の覚悟を見て、肩代わりするのに値すると判断したからです」

 

クリス「なーんだ、金の亡者じゃねえのか。どうりで豪邸を建ててねえわけだ」

 

沙織「ブラックジャック先生、田中代議士の応急処置をした際に」

 

 そんな折、電話が鳴り、ブラックジャックが出た。

 

秘書『ブラックジャック先生、田中先生を助けてください!』

 

ブラックジャック「あの代議士の秘書か。どのようなご用件で?」

 

秘書『あれから1週間、先生は沙織お嬢様に心を完全にへし折られた後に激しいバッシングに遭い、鬱病と拒食症を患って入院しました…。そして、検査結果で腹膜と大腸にガンによる腫瘍が見つかりました!』

 

ブラックジャック「その病院の先生からお聞きしているはずですよ。そいつは厄介な症状で、ほとんど助からないと。私も1週間前に応急処置の際に腹膜を調べたところ、腫瘍を見つけました」

 

秘書『じゃ、じゃあ諦めろというのですか!?』

 

ブラックジャック「いや、私なら何とかなる」

 

 ブラックジャックは電話を沙織に代わった。

 

沙織「それに、グラード財団にはガン治療のスペシャリスト、パルティータもいます。お代はいりませんので、西表島の開発プランを私の提示するプランに変更していただけるなら、すぐに治療しましょう。詳しい話は現地でします」

 

秘書『あ、ありがとうございます、沙織様!』

 

 秘書は電話を切った。

 

響「沙織さん、プランというのは…」

 

沙織「沖縄に滞在していた際、県庁で開発推進派と環境保護派の両方の意見を聞き、双方とも納得のいく開発と環境保護を両立させたプランを作成したのです」

 

未来「県庁に行ったのはそれが理由だったんですね」

 

ブラックジャック「沙織お嬢様、私も世界一の女医と言われているパルティータ女医と対面したいので、行きましょうか」

 

沙織「わかりました」

 

 一同は田中が入院している病院へ向かった。

 

響『私達は沖縄で世界一のお医者さん、ブラックジャックさんに出会いました。そして、私達は彼と患者さんの命をめぐる物語を見ていく事になりそうです』




これで今回の話は終わりです。
今回はアニメブラックジャックの1話、オペの順番の話を描きました。
原作やアニメ通りにそのままイリオモテヤマネコが暴れて事故するのだけでは面白くないため、錬金術師が召喚したアルカノイズとの戦闘パートも入れました。錬金術師が段ボールに入って潜入しているのはアニメでのブラックジャック役の大塚明夫さんの代表作、メタルギアソリッドのスネークがネタになっています。
今回の話はピノコがクリスに向けておっぱいオバケと言ったり、うみねこ丸の船長がシンフォギアを纏っている状態のクリスの胸に視線が行って顔を赤くしたりと、なぜかいつにも増してクリスの胸のネタを入れてしまいました。
横暴な代議士は今小説では度々沙織に横暴な振る舞いを咎められた挙句、沙織に完全敗北して自身の暴言が招いたクレームの嵐によって自滅する羽目になりましたが、この展開は失言をして辞任などに追い込まれる現代の政治家を皮肉った展開として当初から考えていたもので、沙織が締めくくりに正体を明かすのは水戸黄門っぽくしました。
次の話はブラックジャックがなぜシンフォギアを知っているのかが明らかになります。
奇跡紡ぐ黒い医者編はブラックジャックの作風に合わせ、1話完結や前後編の話ばかりになりますので、どちらかといえばシンフォギアXDのメモリアストーリーっぽくなります。また、今までは戦闘ばかりでしたが、奇跡紡ぐ黒い医者編では戦闘のない話も出てきます。

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