セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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121話 六等星の男

病院

 

 グラード財団の病院では、医者志願の瞬は勉強のため、手術に立ち会っていた。

 

医者A「あの瞬って少年、下手な医大の生徒よりもかなり勉強熱心だな」

 

医者B「学力も申し分ないレベルだし、聖闘士の修業は学力を養うのもあるのかしら?」

 

 そして瞬が立ち会っていた手術が終わり、手術室から出てきた。そこには星矢が待っていた。

 

星矢「以前からそうだが、医者の勉強に熱心だなぁ、瞬」

 

瞬「元から医者になりたいと思っていたけど、星矢のお母さんが医者だから、その気持ちがさらに強くなってね」

 

星矢「瞬、お前は医者に向いてるぞ。聖闘士の修業をしていた時のように頑張れよ」

 

瞬「うん」

 

 そこへ、奏とセレナが来た。

 

瞬「奏さんにセレナじゃないか」

 

奏「あたしとセレナはこの世界に来てみたけど、翼とマリアは仕事でいなくてな。瞬、あんまり勉強に熱中しすぎると体調を崩すぞ。休む時は休まないと。あたしらと気分転換にでも行くか?」

 

瞬「そうするよ」

 

 

 

神社

 

 瞬達が外を出歩いていると、準備している屋台を見つけた。

 

セレナ「天羽さん、あれは何ですか?」

 

奏「あれは屋台といって、今はお祭りの準備をしているところなんだ」

 

セレナ「お祭り?」

 

 そして、はしゃいでいるピノコと額に絆創膏を貼っている少年を見つけた。

 

星矢「元気にはしゃいでるな、ピノコ。こいつは誰だ?」

 

ピノコ「犬持写楽といって、重い病気になった時にちぇんちぇにおしぇわになったのよしゃ」

 

瞬「そうなんだ。写楽、僕は」

 

写楽「瞬さんに星矢さんだよね。僕、2年前のギャラクシアンウォーズはテレビで見てたんだ!」

 

ピノコ「ぎゃらくちあんうぉーじゅ?」

 

 ピノコは生い立ちにある事情があったため、ギャラクシアンウォーズを知らなかった。

 

写楽「知らないの?ギャラクシアンウォーズは聖闘士による格闘技なんだ!あの時は世界中が熱狂の渦に包まれて、グラードコロッセオも凄い事になってたんだ!」

 

ピノコ「しゅごい!!」

 

奏「へえ~、あたしはあん時は気にも留めなかったけど、そっちでも凄かったんだ…」

 

 セレナは屋台の準備をしている人達が気になった。

 

セレナ「あの、屋台というのが並んでいるのはお祭りの準備中なんですか?」

 

おじさん「ああ、秋祭りの準備だよ」

 

セレナ「お祭りでは何をするんですか?」

 

おじさん「いっぱい屋台が出るんだよ、たこ焼きにわたあめ、りんご飴にチョコバナナ、ヨーヨーに花火もあるんだよ!」

 

セレナ「凄い!マリア姉さん達と一緒に来てみたい!」

 

ピノコ「花火!?アッチョンブリケ!!」

 

奏「よし、祭りの日時さえわかればあたしらも祭りに来るぞ!」

 

 

 

城戸邸

 

 奏とセレナはそれぞれの世界へ帰り、星矢と瞬も城戸邸に戻っていた。

 

星矢「お祭りか。響達が聞いたら大はしゃぎ確定だろうな」

 

瞬「そうだね。特に響と切歌ははしゃぐと思うよ」

 

 瞬は新聞を見てると、ある記事を見つけた。

 

星矢「どうした?」

 

瞬「真中病院の院長が亡くなったそうだって」

 

星矢「真中病院?」

 

瞬「勉強中にグラード財団の医療機関の先生達が言ってたけど、あの病院の先生は自分の気に入った医者しか目にかけない人達が多いそうなんだって」

 

星矢「その病院、あんまりいいとことはいえねえ感じがするぜ…」

 

 

 

真中病院

 

 夕方、病院では会議が開かれていた。

 

医師A「病院長が突然亡くなられたので、新院長を決めなければならん。病院の中の人物から選ぼうと思うのですが…」 

 

 その提案に異議はなかった。

 

医師B「この病院の内部にも、優秀な先生が大勢おられますからなぁ」

 

医師A「そう、そこで推薦させていただきたい。この病院勤続20年の長老、徳川先生!」

 

医師C「異議あり!勤続年数なら同じ20年の先輩、柴田先生がおられます!」

 

医師A「しかし、徳川先生は人望人格、全ての点に置いて院長として申し分ありませんぞ」

 

医師C「柴田先生はテレビの健康相談番組に出てて、知ってる人ならだれでも知ってますぞ!」

 

医師A「そんなら、徳川先生だって書いた健康本がベストセラー!」

 

 会議が紛糾している中、緊急の知らせが入った。

 

看護師「会議中失礼します!交通事故の重傷患者です!」

 

医師A「な、何だって!?」

 

看護師「早期手術が必要なため、交通事故の現場に偶然居合わせたパルティータ女医が直ちに執刀を開始するそうです!」

 

医師C「ならば、我々からも助手の先生を出さねば!」

 

医師A「会議は一時中断とします!」

 

 すぐに手術の準備に取り掛かった。

 

パルティータ「今回は時間がないから、私が指名するわ」

 

徳川「これは世界的名医のパルティータ先生が真中病院で手術をしてくれるのは光栄です!ぜひ、この徳川を助手に」

 

柴田「いえ、柴田を」

 

 パルティータに指名してもらい、アピールしようと目論む徳川と柴田は睨み合った。

 

パルティータ「助手は椎茸君を指名します!」

 

 あまりにも意外な人選に2人共固まったのであった。

 

医師D「あ、いるよ。椎茸先生。すっかり忘れていたなぁ」

 

医師E「色んな先生に助手のように使われてるから。まさかパルティータ先生に指名されるとは…」

 

医師D「でも、どうしてパルティータ先生は椎茸先生を君付けしたんだ?」

 

 そして、椎茸と共にパルティータは手術を始めた。パルティータの手術のやり方に椎茸はある事に気付いた。そして、あっという間に手術を終えた。

 

椎茸「ご苦労様です、パルティータ先生」

 

パルティータ「こっちこそ助手を務めてくれてありがとう、椎茸君。それじゃあ、私は帰るわね(椎茸君以外は私の事を忘れていたけど、好都合ね)」

 

 用が済んだため、パルティータは帰った。そんなパルティータの姿に椎茸はある確信を得た。

 

椎茸「(パルティータ先生の手術の癖…、やはり彼女は私と同じ20年前に真中病院に来た…)」

 

 それから、再開された会議では次の会議の時に選挙で新院長を選ぶ事になり、一通りの仕事を終えて椎茸は帰路に着いたのであった。

 

 

 

市街地

 

 それから翌日、パルティータはオフであったため、星矢と瞬に加え、またしても仕事で不在のマリアに代わってセレナを買い物に連れていた。

 

星矢「母さん、昨日は交通事故の現場に居合わせた上に重傷患者の手術まであって大変だったなぁ」

 

パルティータ「大した事じゃないわ。戦いに比べれば物凄くデリケートな作業だけど、疲れはしないもの」

 

 街中を回っていると、セレナは浴衣を見て、興味津々になった。

 

セレナ「わあっ、私も浴衣を着てみたい!」

 

 ちょうどそこへブラックジャックとピノコの2人と鉢合わせした。

 

瞬「これはブラックジャック先生、どの用件で?」

 

ブラックジャック「買い物でな。その、どこかマリアに似た少女は?」

 

セレナ「私はマリア姉さんの妹のセレナと言います。ブラックジャックさん、よろしくお願いします」

 

ブラックジャック「セレナ?確か…」

 

 死んだはずの人間が目の前に現れた事に困惑したブラックジャックであったが、民間協力者になる際にギャラルホルンの事を聞いていたため、その事を思い出した。

 

ブラックジャック「(そうか、目の前にいるセレナは並行世界の…。だが、マリアとは結構歳が離れているようだな…)」

 

ピノコ「ちぇんちぇ、ピノコも背の高いおっぱいオバケみたいなないちゅばでぃになりたい!」

 

ブラックジャック「そういう願い事は私にではなく、流れ星にでもするんだな」

 

ピノコ「ながれぼち?」

 

 ところが、そんな雰囲気を壊すかのように崩落事故が発生した。

 

ピノコ「何なの!?」

 

パルティータ「事故みたいね」

 

 事故により、瓦礫に2人挟まれて出られない状況になっていた。そんな現場へ通り合わせた椎茸は急いで来て、パルティータ達も来た。

 

椎茸「大丈夫だ、わしらは医者だよ」

 

ブラックジャック「意識ははっきりしていますね」

 

椎茸「君も医者かね?」

 

ブラックジャック「まあ…」

 

椎茸「では、そちらを頼む。右脛骨の骨折だけとは思うが…」

 

ブラックジャック「私が、ですか?」

 

椎茸「骨折は専門外かね?」

 

ブラックジャック「いえ」

 

椎茸「では、よろしく頼む」

 

ブラックジャック「…とんだただ働きだ」

 

パルティータ「そんな事言わないの、ブラックジャック君。星矢、瞬、瓦礫をどかしてちょうだい」

 

星矢「力仕事は任せてくれよ、母さん!」 

 

 早速、星矢と瞬は瓦礫をどかし始めた。

 

ブラックジャック「そっちはどうなんです?」

 

椎茸「右腕が完全にやられている。何にせよ…」

 

瞬「それだったら、僕達が動かします」

 

 そう言って瞬は普通の人間では動かせない瓦礫を簡単に動かした。

 

椎茸「何という怪力だ…。お陰で動かせるようになったよ」

 

 ちょうど救急車も来た。

 

救急隊員A「大丈夫ですか?」

 

椎茸「わしらは医者だよ。痛みが激しいらしい。和らげてやらんと、ショックの危険がある」

 

救急隊員B「すみません、レスキュー隊の到着には」

 

星矢「俺達が瓦礫を動かしてるから、問題ないぜ」

 

 星矢と瞬が挟まれた人を助けるため、瓦礫をどかしている姿に救急隊員は驚いた。

 

救急隊員A「少年が容易く瓦礫を動かしている!?」

 

瞬「瓦礫はどかしましたが、まだ痛みが激しいようです」

 

椎茸「キシロカインはあるかね?」

 

救急隊員B「は、はい!」

 

 救急隊員はキシロカインを取りに行った。

 

ブラックジャック「こっちは終わりましたよ」

 

椎茸「えっ?」

 

ブラックジャック「後は病院でやってもらいましょう」

 

椎茸「手早いねえ、君」

 

 救急隊員がキシロカインを持ってきた。

 

救急隊員B「キシロカインになります」

 

椎茸「あ、ああ」

 

 すぐに椎茸は注射器にキシロカインを詰めた。

 

椎茸「すぐに痛みを和らげてあげるよ」

 

 瞬が瓦礫をどかして助け出した人へすぐに麻酔注射を行い、痛みを和らげた。その手腕をブラックジャック達は目撃した。

 

椎茸「力持ちの君達が協力してくれて感謝するよ」

 

瞬「いえ、僕達は当然の事をしただけです」

 

 お礼を言った後、椎茸は救急隊員の方へ視線を向けた。

 

椎茸「まず、輸血を。腕は上膊から切断しなければならんでしょうな」

 

 次にどうすべきか言った後、椎茸はその場から帰ろうとした。

 

救急隊員A「先生、もう少し立ち会っていただけませんか?」

 

椎茸「いや、後は病院にお任せした方がいいだろう。私はほんの行き付きだしね」

 

 椎茸は帰っていった。その後をパルティータ達も追った。

 

ピノコ「あっ!行っちゃったのよ。ちぇんちぇはどうするの?」

 

 いつの間にかブラックジャックもいなくなっていた。

 

ピノコ「あれ?いない。ちぇんちぇ、どこ!?」

 

 パルティータは橋で椎茸と話をしていた。

 

パルティータ「何年ぶりかしら?椎茸君」

 

椎茸「5年ぶりぐらいでしょうな、闇音先生。何年経っても若さが衰えませんね」

 

パルティータ「うふふっ、できれば若さを維持したいのが女の性ってものなのよ」

 

椎茸「確かにそうですな、はははっ!」

 

 親し気に語り合うパルティータと椎茸であった。

 

星矢「椎茸のオッサン、やけに母さんと親しいな」

 

瞬「ちょっと星矢、椎茸先生にそんな呼び方は」

 

椎茸「構わんよ。私ももうおじさんなのだからね。ところで、そこの少年は闇音先生を母さんと言ったが…」

 

パルティータ「星矢は私の息子です」

 

椎茸「まさか、息子さんがいたとは…驚きでしたよ」

 

セレナ「あの、パルティータさんと椎茸さんはお知り合いなのでしょうか?」

 

椎茸「その通りだよ、お嬢さん」

 

パルティータ「私は真倉闇音という偽名で真中病院に勤務していた時期があってね、椎茸君はその時の同期で親しい間柄なの」

 

 パルティータは真中病院に勤務していた頃の写真を見せた。その時の姿は眼鏡をかけており、髪も三つ編みにしていた。

 

瞬「だから、椎茸先生はパルティータさんを闇音先生と言ってたんですね」

 

椎茸「元々の影の薄さもあって、闇音先生が転勤してからは亡くなった院長を始めとした多くの人達はすっかり闇音先生の事を忘れたようですが、私はあなたと一緒に仕事をした日々の事をしっかり覚えていましたよ。昨日のオペは見事なものでした。その時のオペの癖で私はパルティータ先生が闇音先生と同一人物だと確信しました」

 

パルティータ「ありがとう、椎茸君」

 

???「先生!」

 

 そこへ、ブラックジャックが来た。

 

ブラックジャック「先生は」

 

セレナ「椎茸さんは真中病院に勤めているそうです」

 

ブラックジャック「真中病院っていうと、あの病院長が亡くなられた…?じゃあ、先生はその新院長ですか?」

 

椎茸「とんでもない!ヒラの医局員ですよ」

 

ブラックジャック「信じられない。さっき、先生の注射を拝見していましたが…たった3秒で上腕神経叢に麻酔注射をなさった。いやぁ、並の熟練ではああもスピーディーにやれるものではありませんよ」

 

瞬「医者の勉強をしている最中の僕から見ても、椎茸先生の腕前は見事なものです」

 

椎茸「それはどうも。長年、下働きをやってきただけですよ」

 

ブラックジャック「そんな。なぜ、先生のような方が下働きなんですか?もっと上のポジションについて然るべきだ」

 

椎茸「ははっ、医者は欲が優先してはおしまいでしょう」

 

星矢「だけど、欲は欲でも食欲は例外だろ?」

 

 人間、誰もが持っている食欲に関しては椎茸も否定せず、笑ったのであった。

 

椎茸「では、これで」

 

 椎茸は帰った。その姿をブラックジャックは見つめていた。そこへ、ピノコが来た。

 

ピノコ「ちぇんちぇ!もう、ピノコを1人にちないで!」

 

ブラックジャック「そうだったな」

 

パルティータ「それじゃあ、ピノコちゃんとセレナちゃんの浴衣、買ってあげなきゃね」

 

ピノコ「やった~!」

 

セレナ「どんな浴衣を選ぼうかなぁ…」

 

 そこへ、たまたま八紘が通りかかった。

 

八紘「話を傍で聞いていたが、翼が同じぐらいの年頃の時に着ていた浴衣でどうだ?」

 

星矢「翼の親父じゃねえか!けど、いいのか?」

 

八紘「構わない。ずっとタンスに入っているよりはマシだろう」

 

パルティータ「思わぬ経費節約になったわね…」

 

 八紘の勧めもあり、セレナは思わぬ形で浴衣を用意できた。そして帰り際、パルティータは写真を落とした。

 

ブラックジャック「写真を落としたのか…」

 

 その写真を見たブラックジャックは驚愕した。

 

ブラックジャック「そ、そんなバカな…!パルティータ先生が今と変わらない状態で若い頃の本間先生と一緒に写っているだと!?」

 

 信じられない写真にブラックジャックは驚愕したのであった。

 

 

 

市街地(並行世界)

 

 奏の方も自分で浴衣を選んでいた。

 

奏「さあてと、あたしも浴衣を買わなきゃな。えっと…」

 

 祭りに着ていく浴衣を何にしようか、奏は悩んでいた。

 

 

 

ブラックジャックの家

 

 そしてその晩、流れ星が見えていたが、ピノコは願い事を言いきれなかった。

 

ピノコ「ちぇんちぇ!」

 

ブラックジャック「ピノコ、何をやってる?」

 

ピノコ「もう、流れ星にお願いちろっていったのはちぇんちぇなのよ」

 

ブラックジャック「ああ、あれか」

 

ピノコ「でも、流れ星って速いから3回願い事は言えないのよねぇ」

 

 空を見上げたピノコは光っている星を見つけた。

 

ピノコ「ねえ、あれは何って星?」

 

ブラックジャック「あれはベガさ」

 

ピノコ「じゃあ、あっちは?」

 

ブラックジャック「白鳥座のデネブだろう」

 

ピノコ「それじゃあ、あの消えそうなのは?」

 

ブラックジャック「あんなの知らん」

 

ピノコ「ふーん。あんなちっちゃいの、消えたってわかんないよね」

 

ブラックジャック「人の目で見える一番暗い星を六等星と呼んでいる。その100倍明るい星が一等星だ。一等星はあのでかい星だ。六等星はほとんど目に見えないくらいかすかな星だ。だがな…ちっちゃな星に見えるけど、あれは遠くにあるからだよ」

 

ピノコ「遠く?」

 

ブラックジャック「電気の光も近い方が明るく見えるだろう?本当は一等星よりももっと輝いていても、地球から遠く離れててわずかな光しか届かない星もある。一等星よりも輝いている星でも、地球から遠く離れているというだけで六等星として扱われる。今日、会った先生もその口かな」

 

ピノコ「人間の六等星なの?」

 

ブラックジャック「ああ。腕は確かな人だが、真中病院の院長としては選ばれたりしないだろうな」

 

ピノコ「どうしてなのしゃ?お医者ちゃまの腕だけじゃダメなの?」

 

ブラックジャック「お金集めとか人付き合いとか、そういう事が得意な人の方がああいうところでは一等星に見えるのさ」

 

ピノコ「ふん!そんなのおかしいのよしゃ!」

 

 

 

城戸邸

 

 同じ頃、星矢達も夜空を見上げていた。

 

星矢「椎茸のオッサンが六等星ねえ…」

 

沙織「聖闘士は実力や人格が重視されますが、病院とかでは腕だけではダメですから…」

 

瞬「僕達からすれば、ある意味では不公平だよ」

 

パルティータ「仕方ないわ。あの病院は特にその傾向が強いもの」

 

美衣「調査部の方でも徳川医師と柴田医師はかなり強欲な人だという調査結果が出ています」

 

パルティータ「あの2人、絶対にやらかすに違いないわ…」

 

 以前から徳川と柴田の性格を知っている上に成り行きで交通事故の重傷患者を真中病院で手術した際、徳川と柴田の態度にパルティータは何かやらかすと予測していた。

 

 

 

真中病院

 

 パルティータの予測は当たり、徳川はキャッシュケースに入れた大量のお金を他の医師に見せていた。

 

医師A「と、徳川先生、そのお金は?」

 

徳川「新しい検査機械を導入する予定だろう?その資金だ」

 

医師B「じゃ、じゃあこのお金は病院のお金って事ですか…?」

 

医師A「下手したら横領ですよ…」

 

徳川「バカを言うんじゃない!院長の権限ならこのくらいのお金は動かせるはずだろう…?これで内科全部はワシに票を入れる。柴田なんぞに負けるもんか!」

 

医師B「では…」

 

 結局、その医師は金を受け取った。一方、柴田の方は…?

 

医師C「つまり、これは病院の運転資金ですか!?」

 

柴田「ワシが院長になれば、こんな金はどうにでもなる。これで、12票」

 

医師D「では、お任せを」

 

???「お呼びですか?」

 

 椎茸がノックしてきたため、柴田達は慌ててお金を隠し、隠し終わった際に椎茸が入ってきた。

 

柴田「いやいや、椎茸先生。この間、街中で事故の被害者を助けたそうだが、人気取りかね?」

 

椎茸「人気取りとは?」

 

柴田「君も人目を引いて院長になろうっていうのかね?世界的名医のパルティータ先生と一緒に手術した事をアピールするのだろう?」

 

椎茸「そんなつもりは全然」

 

柴田「では、ワシに投票したまえ」

 

椎茸「私は、自分で人を選びますから」

 

柴田「とかなんとか言って、徳川に票を入れるんだな!?」

 

椎茸「投票日まで考えます」

 

 自分の考えを貫き、椎茸は部屋を出た。

 

柴田「何ッ!?」

 

医師C「いやいや、椎茸先生なんていいじゃないですか!」

 

医師C「それより、有力な先生を抱き込みましょう」

 

 徳川と柴田は横領した金で買収を始めた。

 

徳川「いいからいいから取っときたまえ」

 

柴田「その代わり、ワシに一票な」

 

 しかし、その一連の行いは警察に逮捕されるという結末を迎えた。

 

 

 

城戸邸

 

 そのニュースは星矢達も知る事となった。

 

ニュースキャスター『真中病院ではかなりの医師がこの横領事件に絡んでおり、捜査当局は』

 

パルティータ「あ~あ、あのバカ2人はやらかしたわね」

 

星矢「ほんとだな」

 

瞬「椎茸先生が言った『医者は欲が優先してはおしまいでしょう』になってしまったよ」

 

星矢「けど、椎茸のオッサンは大丈夫だろうな」

 

パルティータ「ええ。恐ろしいほどにまで出世欲などがないのが椎茸君なのだから」

 

沙織「ですが、その輝きを真中病院の人達は知りません。輝きを知る事ができるか否かが、あの病院の存続にかかっているでしょう」

 

 

 

真中病院

 

 主だった医師が逮捕され、真中病院は混乱状態に陥っていた。そんな中でも椎茸はうろたえずに自分の職務を全うしていた。

 

患者A「あの、徳川先生は…?」

 

椎茸「術後の経過は良好だよ。抗生剤はもう少し続けましょう」

 

患者A「はい」

 

 そして、別の患者の診察に行った。

 

患者B「あの、柴田先生は…?」

 

椎茸「今日でドレン管を外します」

 

患者B「はい…」

 

 

 

河原

 

 そして、お祭り当日になり、装者達は並行世界にいる奏とセレナも加わって全員集合し、仕事が終わって沙織も浴衣に着替えて祭りへ行く事となった。

 

マリア「セレナ、浴衣をいつの間に用意したの!?」

 

セレナ「マリア姉さんが仕事でいない時に用意してもらったの」

 

翼「これは…私がセレナぐらいの頃に着ていた浴衣だ。お父様に許可をとったのか?」

 

セレナ「はい。あのままタンスにしまったままにするぐらいなら、着てほしいと言われました」

 

マリア「(な、なんて可愛さなの…!?浴衣を着たセレナはお人形さんのようにかわいい……!って、ダメよ!みんなも見てるんだし、ちゃんと姉らしくしないと…。だけど、まさか翼のパパさんが用意してくれたなんて思わなかったわ…)」

 

響「奏さんは自腹で浴衣を用意したんですか?」

 

奏「ああ。やっぱ、祭りは浴衣で行くのが一番だな!」

 

未来「私もみんなも浴衣を準備していました」

 

切歌「調、早速出店を回るのデス!」

 

調「うん」

 

クリス「お前ら、ちょっと待て!!」

 

 切歌と調はたこ焼きなどの匂いに我慢できず、先に出店を回り、他の装者達も回る事となった。一方の星矢達の方も沙織は浴衣に着替えており、響達の様子を見守っていた。

 

星矢「やっぱあいつら、はしゃいでるなぁ」

 

沙織「そうですね。私の浴衣姿は似合っているのでしょうか?」

 

美衣「似合っていますよ、沙織様」

 

 そこへ、ブラックジャックとピノコが通りかかった。

 

瞬「ブラックジャック先生にピノコじゃないか」

 

ピノコ「しぇいや達だわしゃ!」

 

パルティータ「せっかくだし、一緒に回りましょ」

 

 沙織達も出店を回る事となった。響と未来と奏はふらわーのおばちゃんが出店を出していた事に驚いていた。

 

響「うわあっ、ふらわーも出店を出してたんだ!」

 

おばちゃん「いつものでいいかい?」

 

響「はーい!未来と奏さんの分もお願いしまーす!」

 

未来「響ったら…」

 

奏「あたしらも遠慮なく食べるとするか!」

 

 そして、クリスと切歌と調は的当てに挑戦していて、クリスは戦闘スタイルと同じやり方というのもあり、次々と的に当てていった。

 

切歌「凄いデス!」

 

調「流石はクリス先輩…!」

 

クリス「よーし、景品ゲットだ!」

 

 翼とマリアとセレナも出店を回っていて、たこ焼きの出店に来ていた。

 

セレナ「とってもおいしい!」

 

翼「セレナは施設で育ったから、お祭りを知らなかったのか」

 

マリア「そうよ。私もお祭りに来たのはごく最近の事だし。セレナ、そろそろ花火が始まる時間よ」

 

セレナ「花火?」

 

 そして、花火が始まってお祭りに来た人達は花火に見とれていた。

 

セレナ「わあっ、これが花火なんだ!とっても綺麗!」

 

マリア「でしょ?セレナ」

 

セレナ「お祭りはとっても楽しいよ、姉さん!」

 

響「花火はいつ見ても凄いですよね?奏さん!」

 

奏「ああ。あたしも小さい頃、家族と一緒にお祭りに行った時を思い出すな」

 

未来「そうですよね」

 

 そして、ピノコはブラックジャックの耳元で何かを言う事にした。

 

ピノコ「ねえちぇんちぇ、あのね…」

 

 ところが、その楽しい雰囲気を壊すかのように花火の暴発事故が発生し、発射に携わっていた人が間近で巻き込まれてしまった。

 

ピノコ「どうちたの!?」

 

ブラックジャック「地上で花火が暴発したらしい!」

 

パルティータ「みんな、その場から離れて!」

 

 ブラックジャックと星矢達は暴発に巻き込まれた人のところへ向かい、装者達とピノコは急いでその場から離れた。そして、救急隊員も駆け付けた。

 

ブラックジャック「全身熱傷だ。超早期手術が必要だぞ」

 

救急隊員A「一番近いのは真中病院ですが…」

 

パルティータ「あそこね」

 

 ブラックジャック達も同行する形で救急車は真中病院へ向かった。

 

救急隊員B「しまった!真中病院には今、医師がいないんだった!」

 

救急隊員A「仕方がない!30分はかかるが、別の救急センターへ運び込もう」

 

ブラックジャック「いや、真中病院で大丈夫だ」

 

救急隊員B「でも、あそこは今、医師が!」

 

パルティータ「いない事はないわ。いなければ、私達がいる」

 

 そう言ってパルティータは眼鏡をかけ、髪を三つ編みにした。

 

 

 

真中病院

 

 横領事件で主だった医師がみんな逮捕され、混乱状態にある真中病院へ重傷患者が運ばれた事に病院の人間は衝撃を受けていた。

 

医師A「何だってこんな時にうちに来るんだ!?」

 

 そのまま救急隊員は患者を運び、病院の人間は患者の状態にただただ当惑するだけであった。

 

ブラックジャック「全身熱傷だ。骨折とショックもあるが、応急処置はしておいた」

 

医師A「しかしうちは今、主だった先生がみんな逮捕されてしまい…」

 

パルティータ「ベテランの先生がまだいるでしょ?」

 

 椎茸の名が出るのを期待したパルティータであったが、椎茸の名が出ない事に苛立っていた。

 

パルティータ「(全く、何で椎茸君の名前が出ないのよ!私を忘れてるならともかく、椎茸君を忘れてるなんて…!とんだバカの集まりね)」

 

看護師「ねえ、もしかしてあの人…」

 

医師B「あなた、ブラックジャック先生じゃないんですか?」

 

ブラックジャック「そうだが?」

 

 ブラックジャックが来た事にまたしても病院の人間は衝撃を受けた。

 

医師A「ブラックジャック先生は名医だとお聞きしています。手術をしてもらえないでしょうか…?」

 

ブラックジャック「引き受けても構わないが、手術料は5千万だぞ」

 

医師達「ご、5千万!!?」

 

パルティータ「病院の名誉を守ると思えば安いものでしょ?5千万払って私達に手術を頼むの?それとも、患者をよそへ回して病院の評判をさらに下げるの?」

 

???「どうしました?」

 

 そこへ、椎茸が来た。

 

医師A「あ、椎茸先生!」

 

医師C「あの人、外科の古株だった!」

 

医師D「しかし、執刀医やった事あるのか?」

 

医師B「多分ない。そんな人に任せていいのか?」

 

 病院の人間の声にパルティータとブラックジャックは苛立っていた。

 

椎茸「闇音先生とあの先生が来たとなると、何かあったようですね」

 

医師C「闇音先生?そんな先生って、いたのか…?」

 

椎茸「5年前に転勤した私の同期です。数日前にもこの人は来ましたよ」

 

医師B「数日前って…」

 

 パルティータは変装を解くために眼鏡を外し、髪をほどいて本来の顔と髪型を披露した。

 

医師A「この人、パルティータ先生だ!」

 

医師B「あの世界的名医が15年間も真中病院に勤務していただって!?何かの冗談じゃないのか!?」

 

パルティータ「あなた達、『能ある鷹は爪を隠す』って言うでしょ?人の本質を見抜く目を養いなさいよ」

 

ブラックジャック「それに私達も忙しいんだ、さっさと決めてくれ。5千万払うのか、それともその椎茸先生にやってもらうのか」

 

 患者の状態を椎茸は確認した。

 

椎茸「私は今まで執刀責任者になった事はない」

 

医師B「やっぱり、理屈こねて断っちまうんだ」

 

医師D「怖気づいたんだ」

 

椎茸「やりましょう!」

 

 その言葉にまたしても病院の人間は驚いた。

 

椎茸「皆さんが、執刀に協力してくださるならやりましょう!では早速ですが、輸血管理を」

 

医師A「や、やってます」

 

椎茸「患者のご家族に、連絡は入っているのでしょうか?」

 

医師B「確認します!」

 

 椎茸は的確な指示を次々と出し、手術室に入って手術を行った。その冷静な判断力と手術の腕前は今までの椎茸への印象と見方を大きく変えるほどであった。

 

 

 

市街地

 

 そして、ブラックジャック達は病院の前で待っていた星矢と瞬と共に帰る事となった。

 

ピノコ「ちぇんちぇ、疲れた…」

 

ブラックジャック「ははっ」

 

 疲れたピノコはブラックジャックはおんぶした。

 

ブラックジャック「今頃病院の連中は目が覚めてるぜ。新院長を誰にするかって事にね」

 

パルティータ「それに正体を明かしてビックリさせたし、少しは私の言葉も身に染みたでしょう」

 

ピノコ「その代わり、ちぇんちぇ達は憎まれちゃってたのよしゃ…」

 

星矢「ピノコにはわからないんだよ」

 

瞬「人のためにする事がいつも好かれるとは限らないんだ」

 

ピノコ「ちぇんちぇってそうよね?いっつも1人ぼっちで人に嫌われて」

 

ブラックジャック「さあ、帰ろう。私達の出る幕はなさそうだ」

 

 

 

病院

 

 その頃、全身熱傷の手術は終わった。

 

椎茸「脚部の骨折の方も診なくてはな」

 

看護師「応急処置は済んでるとの事ですが…」

 

 脚部の状態を診た椎茸は衝撃を受けた。

 

椎茸「これは!応急処置のレベルじゃない、既に整復が済んでいる!闇音先生とあの先生か…!」

 

 既に患者の整復を済ませたパルティータとブラックジャックの腕前に椎茸も驚いた。

 

 

 

市街地

 

 ブラックジャックは帰路についていた。

 

ピノコ「星の光って見た目通りじゃないのよね?」

 

ブラックジャック「ああ、そうだ」

 

ピノコ「ねえ、ちぇんちぇ。あのずーっと離れて一人ぼっちで光っているのがちぇんちぇなのね?それで、ちぇんちぇの横でくっついて、小さく光ってるのがピノコなの」

 

ブラックジャック「お前、六等星でいいのか?」

 

ピノコ「ちっちゃく見えても、おっきな星が六等星でしょ?」

 

ブラックジャック「はははっ!」

 

パルティータ「それじゃ、私達は帰るわね」

 

星矢「またな!」

 

 星矢達は帰った。




これで今回の話は終わりです。
今回はブラックジャック原作の六等星、アニメでは六等星の男の話を描きました。
AXZ編が終わった事もあり、久しぶりに奏とセレナを登場させました。セレナが八紘から許可をもらって浴衣を着るのは、シンフォギアXDのメモリアにセレナが着物を着るのがあったからです。
パルティータの何千年も生きている設定にした事で、これは意外な事に使えると思い、今回は椎茸と同じ時期に真中病院に勤務していたというのを入れました。そして、真中病院に勤務していた時のパルティータが名乗っていた偽名、真倉闇音の由来はとてもシンプルで、真っ暗闇が由来です。
次からはシンフォギア装者は響と未来とクリスの年中組と翼と奏とマリアの年長組、セレナと調と切歌の年少組の3組のうちの1組がメインで出てくる装者のグループとなります。
次の話は白いライオンで、メインで出てくる装者はセレナ達年少組になります。

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