セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

123 / 198
123話 奇跡の腕

市街地

 

 ある日の学校帰り、響達はたまたま奏と遭遇した。

 

響「あ、奏さん!」

 

奏「こんなところで会えるとはな」

 

未来「その様子だと、翼さんは仕事でいないようですね」

 

奏「まあ、割り切ってはいたけど、どう過ごそうか悩んでてな」

 

 そこへ、高級車が来た。

 

沙織「それでしたら、響さん達と一緒においしいものを食べに行きませんか?」

 

奏「おいしいもの?」

 

響「ふらわーですか?」

 

紫龍「いや、ある意味ではふらわーよりおいしいかも知れん」

 

 

 

能すし

 

 そこは、寿司屋であった。

 

沙織「タクさん、ダンナさん、団体で来ました」

 

タク「へい、らっしゃい!」

 

ダンナ「お、今日は沙織お嬢様が来たじゃねえか!」

 

奏「へえ~、寿司屋か!」

 

星矢「タクの握る寿司は天下一品だぜ」

 

タク「星矢、そんなにおだてないでくれよ」

 

星矢「ほんとの事じゃねえか」

 

紫龍「食べてみるといい」

 

 早速、奏はマグロなどを食べてみる事にした。

 

奏「これ、とんでもなくうまいぞ!魚もエビも貝もイカも口の中でとろけるようだ!」

 

響「おいしくてどんどん食べたくなるよ!」

 

切歌「どんどん進むデス!」

 

調「このおいしいお寿司、流石に再現できないかも…」

 

 響の隣にはブラックジャックとピノコがいた。

 

ブラックジャック「おいおい、響は食べすぎじゃないのか?」

 

響「全然!」

 

未来「響がご飯を食べる時は三杯は確定なので、これでは足りないんですよ」

 

クリス「全く、バカの胃袋はどうなってんだよ!」

 

奏「気にしたって食は進まないぞ。ま、今は寿司をおいしく食べなきゃな」

 

 結局、響はかなり食べたのであった。

 

響「あ~、食べた食べた!」

 

タク「この店の大食い記録を更新した…」

 

ダンナ「こりゃ、嬉しい悲鳴を出したいぐらいだ…」

 

 寿司ネタの在庫の半分近くが食欲旺盛な響をはじめとした一同の胃袋に入ってしまったのであった。

 

奏「あ~、食った食った!こんなにうまいなら、翼にも紹介してまた食べに行こうっと!」

 

ピノコ「ごちつぉうちゃまでちた!」

 

 響達は食べ終わってお代を払い、帰ったのであった。

 

タク「(あの人、ツヴァイウイングの天羽奏さんなのかな?けど、天羽奏さんは3年前に亡くなっているし…)」

 

客「随分と風変わりな客もいたな」

 

タク「あの人は天才的な腕を持つお医者さんなんですよ」

 

客「医者?」

 

タク「うちのダンナさんはずいぶん昔、先生の手術のお陰で助かったんですよ。きっと、日本一の名医ですよ」

 

 実際は世界一とも称されているのであった。そして客が帰った後…。

 

タク「ダンナさん、実はお願いがあるのですが…」

 

ダンナ「何だ?」

 

タク「休みをもらえませんか?くにに帰ろうと思いまして」

 

ダンナ「遂にその気になったか」

 

タク「はい。やっと…」

 

ダンナ「あれから10年、長かったな…」

 

 

 

回想

 

 それは、タクがまだ来たばかりの事であった。

 

タク「1人前になるまで、くにには帰りません!僕はおっかさんと約束したんです。帰る時は、日本一うまい寿司を食べさせるって!」

 

 

 

ダンナ「目の見えないおふくろさんへの想いが、お前を支えたのかも知れんな…。お前は寝ずの修業を続け…、人が10年かかるところを数年で終わらせた…。優秀な弟子を持てたのは、わしの誇りだ。帰って親孝行をしてあげな」

 

タク「ダンナさん、ありがとうございます!」

 

 

 

市街地

 

 そして休みの日、星矢達の不在時に街中でアルカノイズが広範囲で出現したため、装者達は散開して迎撃していた。

 

マリア「広い範囲でアルカノイズが出現するなんて、嫌なものね!」

 

翼「遊びに来ただけなのに、奏にも協力してもらって済まない…」

 

奏「いいって。向こうにも助っ人がいるし、ノイズを見て見ぬふりなんてできねえしな!翼に紹介したい寿司屋もあるから、ちゃちゃっと片付けるぞ!」

 

 年長者3人は次々とアルカノイズを蹴散らしていった。その頃、タクは故郷へ帰ろうとしていた。

 

タク「(急に帰ったら、おっかさん驚くだろうな…。本当はもう一つの夢も叶えたかったけど、もう叶わなくなったからなぁ…)」

 

 

 

回想

 

 タクは修業へ行く前の時を思い出していた。

 

タク「おっかさん、今度帰ってきたら、必ず最高の寿司を食べさせてあげるから」

 

おっかさん「信じてるよ、お前は立派な寿司職人になるって。待ってるよ」

 

 

 

 そのまま進んでいたタクであったが、突如として街中にアルカノイズが出現し、人々はパニックになっていた。

 

市民「ノイズだ!ノイズが出たぞ!!」

 

タク「ノイズだって!?」

 

 故郷へ帰ろうとしていた時にアルカノイズが出現したため、タクは信号機が青になった事もあって急いで渡ろうとした。一方、アルカノイズは次々と自動車の車を分解器官でタイヤなどを分解して交通事故を発生させ、通ってきた大型トラックのタイヤを分解してしまった。

 

運転手「うわああああっ!!」

 

 アルカノイズにタイヤとブレーキを分解されてしまい、ブレーキとハンドルがきかなくなった大型トラックはタクをはねてしまい、トラックの方も建物にぶつかって運転手が怪我をしてしまった。その後、アルカノイズを倒し終わったものの、二次被害に翼達は言葉を失った。

 

マリア「トラップ形式で出現するアルカノイズを見落としてしまったなんて…!」

 

奏「二次被害が…!」

 

翼「全て…私達の不始末だ…!」

 

 

 

病院

 

 運転手が目を覚ました先は、病院であった。そこには私服姿の警官もいた。

 

運転手「ここは…」

 

警官「気がついたか。ここは病院だ」

 

運転手「病院…。そう言えば、ブレーキがきかなくなってはねてしまって…」

 

警官「有馬明、職業はトラック運転手。無事故無違反の模範運転手。過去に特異災害に遭遇し、生還したともあるな」

 

明「あの人は、被害者の人はどうなりました?」

 

警官「命は助かったが、両腕を切断した」

 

明「両腕を切断…!?」

 

警官「損傷がひどくてな、どうする事もできなかったらしい」

 

明「両腕を、切断…!」

 

警官「被害者は腕のいい寿司職人だったそうだ。運が悪かったな…」

 

明「でしたら…自分を逮捕してください!取り返しのつかない事をしたんです!」

 

警官「今回はノイズによる特異災害で、一般の交通事故とは事情が違う。我々もどうすべきか検討しているところだ。まずは、体の完治を優先するんだ」

 

 その後、女性が病室に入ってきた。

 

明「律子か…」

 

律子「あなたが無事でよかった…」

 

明「…俺はとんでもない事を……」

 

律子「聞いたわ。でも、そんなに苦しまないで」

 

明「例えノイズが絡んだ事故だとしても、俺は1人の人生を台無しにした、台無しにしたんだ!!」

 

 アルカノイズ絡みの事故であっても、明は自分を責めていた。

 

 

 

S.O.N.G潜水艦

 

 二次被害の交通事故の被害者リストを見た奏は衝撃を受けていた。

 

奏「おい…被害者リストにタクの名前があるぞ!」

 

翼「知り合いなの?奏」

 

奏「ああ。翼に紹介しようと思っていた寿司屋で働いている寿司職人なんだ。しかも、両腕をなくしてしまったなんて…!」

 

翼「…全て、私達の不始末だ…!」

 

 二次被害によってタクが両腕を失い、寿司を握れなくなってしまった原因を作ったとして、翼は落ち込んでいた。

 

マリア「翼、もう起こってしまったのは仕方ないわ…。これからの事を考えないと」

 

 暗い雰囲気になったが、翼はある事を閃いた。

 

翼「腕を失ったのなら、パルティータ女医に頼んでタクさんの腕を再生してもらえばいい!」

 

クリス「再生…!そうだ、その手があった!」

 

奏「おい、再生って…」

 

マリア「グラード財団にはパルティータという聖闘士であり、錬金術師でもある人がいて、彼女は医者をやっているの。彼女の錬金術医療は失った手足さえ再生させる事ができるのよ」

 

クリス「前にあたしの知り合いが足を失った際、失った足を再生させた事があったからな」

 

奏「こりゃ、すげえな!」

 

響「これで、タクさんのお寿司をまた食べる事ができますよ!」

 

 早速、電話でパルティータに再生治療の依頼をした。

 

パルティータ『なるほど。アルカノイズ絡みの事故で腕を失った寿司職人の腕を再生してほしいのね』

 

奏「できるか?」

 

パルティータ『できるけど、本人がそれを望んでいるのか確認をとって。本人が望まない治療をしたって、本人のためにならないから』

 

奏「わかった」

 

 奏は電話を切った。

 

 

 

病院

 

 入院しているタクは外を見ていた。そこへ、律子が来た。

 

律子「有馬の家内です。この度は何と言ってお詫びしていいのか…。主人も入院していて、来る事ができません。ですが、この先できるだけの事を」

 

タク「帰ってください」

 

律子「ですが…」

 

タク「話す事など何もありません。帰って…ください!」

 

律子「わかりました…。また日を改めてまいります…」

 

 タクに追い返され、律子は帰った。

 

タク「くっ…今更何だってんだ!?返せ、返してくれ、僕の腕を!腕を……!」

 

 両腕を失い、落ち込むタクであったが、自分が言った言葉にある事を閃いた。

 

タク「腕…。そうだ、腕だ…!」

 

 その後、別の病室にいた明の元へ警官が来た。

 

警官「有馬明、我々はお前を逮捕しない事にした」

 

明「なぜですか!?自分は」

 

警官「被害者は告訴を取り下げた上、逮捕しないでほしいと頼んだ。特異災害絡みとはいえ、こんな事は初めてだ。ちょうど病室に来ているが、どうする?」

 

明「はい!是非…是非、会わせてください」

 

 警官が扉を開け、タクが入ってきた。両腕を失ったタクの姿に明は衝撃を受けた。

 

タク「僕は寿司職人でしてね…。僕の夢は、いつか自分の手で握った寿司をくにのおっかさんに食べさせる事でした。約束したんですよ、おっかさんと。何年も修業して、その約束を果たせると思った時、腕を失った…。事情は知っているし、別にあんたを恨んじゃいない。僕は、このままじゃどうしても気が済まないんだ」

 

明「俺は…一体、どうすれば…?」

 

タク「僕の…手になってほしい」

 

明「あなたの、手に…?」

 

タク「頼む!退院したら僕が付きっきりで教える!僕の手になって、僕の寿司を作り、それをおっかさんに食べさせてほしいんだ!どうか、頼む…!」

 

 タクの頼みに明は決断した。

 

明「わかりました。こんな手でよかったら、使ってやってください。今からこの手は、あなたの手です」

 

 そこへ、翼達が来た。

 

翼「タクさんですね?あなたが両腕を失ったと聞いて、両腕を失う原因を作ったお詫びと共に腕を」

 

タク「義手をつけてもらう気はありません。仮に普通の手のように動かせる義手でも寿司職人の僕には合いませんし、これからどうするのか、もう決めたのですから」

 

翼「ですが」

 

明「風鳴翼さん、これは俺達が決めた事です」

 

タク「その決めた事に訂正はありません」

 

 タクに腕の再生治療を受けてもらおうと思っていた翼はその答えに不満だった。

 

マリア「翼、あの2人がそう決めたのなら、そうさせましょう」

 

奏「パルティータさんも言ってたじゃねえか、『本人が望まない治療をしたって、本人のためにならない』って」

 

翼「……タクさん、いつか私はあなたにお詫びをします。今日はこれで…」

 

 翼達は帰った。そして、タクと明は夜空を見上げていた。

 

タク「明は前にもノイズの被害に遭って生還したって聞いたんだが…」

 

明「本当だ。あれは、数年前になるな…」

 

 

 

回想

 

 その当時、ノイズが街中に現れて人々はパニックになり、我先にと逃げ惑っていた。そんな中、明は足を挫いて逃げ遅れた女性を見つけ、駆け付けた。

 

明「君、大丈夫か!?」

 

 その女性こそ、後の妻となる律子であった。

 

律子「どうして、私を?」

 

明「怪我をしている人を見捨てて逃げる事なんて俺にはできない!今から俺が抱えて」

 

 ところが、ノイズが現れた事でパニックになった人々が交通事故を起こし、その際に発生した爆発で明は律子共々吹き飛ばされた。

 

明「うわあああっ!!」

 

 明は律子と共に激しく地面に叩きつけられた。

 

律子「もう、ダメ……!」

 

明「ここで終わるのか……?」

 

 ノイズが迫ってくる危機的状況の上に意識が薄れゆく中、もう終わるのかと2人は諦めようとしていた。ところが…。

 

???「生きるのを諦めるな!!」

 

 その言葉と共にノイズが切り裂かれた。

 

明「な、何だ……?」

 

 意識が朦朧とする中、明の目に槍を持った赤毛の少女の姿が飛び込んだ。

 

 

 

明「それから俺は意識を失い、律子共々奇跡的に生還して後で結婚したんだ」

 

タク「『生きるのを諦めるな』と言った槍を持つ赤毛の少女か…」

 

明「わかっているのはその槍と赤い髪ぐらいで、顔はよく見えなかった。だけど、あの子の言葉は俺が挫けそうになった時の心の支えになっているんだ」

 

タク「明を助けた赤毛の少女、どうしているんだろうな…」

 

 

 

能寿司

 

 そして2人共退院した後、明の寿司修業が始まった。

 

タク「うまい寿司を作るのに近道はない。調味料、ネタ、シャリの一つ一つを最高の状態で使う事。後は、腕を磨く事だけだ」

 

明「へい…」

 

タク「返事ははっきりと!」

 

明「はい!」

 

 酢を入れる量、握り方、ネタの切り方などといった寿司の修業はスパルタ形式であった。その様子をこっそり奏達は見ていた。

 

翼「寿司も剣術も極めるのは困難な道である事に変わりないな…」

 

奏「そうだな。でも、なんだかあの2人はあたしらに似てねえか?」

 

翼「そうかも知れない…」

 

奏「きっとあの2人、あたしらに負けねえコンビになりそうだな」

 

 それからしばらくして、ブラックジャックは奏達と共に来た。

 

タク「へい、らっしゃい!」

 

ダンナ「まいど!」

 

ブラックジャック「大変だったな」

 

タク「へへっ、この通りっすよ」

 

ブラックジャック「私かパルティータ先生に手術させれば何とかしたのに」

 

タク「しょうがないっすよ」

 

ブラックジャック「そっちの人は?」

 

タク「見習いです。日本一の腕にしようと思いましてね。明、ブラックジャック先生だ。天才的な腕を持つお医者さんだよ」

 

明「あ、どうも…」

 

ブラックジャック「タクの寿司は絶品だった。あの寿司を作れるようになるには、生半可な努力じゃすまないぞ」

 

奏「あたしらはいつかタクさんの寿司みたいにうまい寿司を食べる事ができる日を待ってるからな」

 

 

 

明の自宅

 

 寿司の修業は夜遅くまでやり、自宅に帰った時はくたびれた様子になった。

 

律子「あなた」

 

明「律子…」

 

律子「あなた、体がどうかなってしまうわ。何日もまともに寝てないなんて…」

 

明「どうしてもあの人の役に立ちたいんだ。この頃、自信がついてきたんだよ。ほら、手つきがよくなってきただろう?」

 

 明は寿司を握る動作をした。

 

明「この手が日本一の寿司を握って、あの人のおっかさんに食べさせるんだ」

 

 律子は明の手に自分の手を添えた。

 

律子「あなたの手、大きくて優しい手。私、あなたの手が大好きよ」

 

明「寿司の匂いがするだろう?」

 

律子「ううん、あなたの匂いよ」

 

 明は律子を抱きしめた。

 

明「すまん、寂しい想いをさせているのはわかっているんだ。もう少しだ、待っててくれ」

 

律子「ええ」

 

明「あの曲でも聴こうか」

 

律子「もう生では聴く事のできない、ツヴァイウイングの歌を」

 

 明と律子はツヴァイウイングの歌、『逆光のフリューゲル』を聴いた。

 

明「この歌だ、俺は挫けそうになった時はいつもあの赤毛の少女の言葉とツヴァイウイングの歌に励まされた」

 

 

 

マンション

 

 同じ頃、元の世界にいた奏はある曲を考えていた。

 

奏「明さんも頑張ってる事だし、あたしも頑張ってる2人のために翼と一緒に唄う新しい曲でも考えるとするか!」

 

 そして、ある程度月日が経ってから曲が完成した。

 

奏「やっと完成したな。この歌を聴かせれば、お詫びになるんじゃねえか?」

 

翼「歌か……。確かに、歌ならきちんとしたお詫びになるかも知れない!」

 

 

 

 

 

能寿司

 

 妻の律子とツヴァイウイングの歌に励まされ、明の修業の日々は続いた。月日は流れて明の腕前は上がっていき、遂にダンナが試食してみるまでに上達したのであった。

 

ダンナ「うまい!タクやんの握った寿司と同じぐらいうまいよ!」

 

タク「ダンナさんもそう思いますか!?」

 

ダンナ「ああ!これならうちの寿司として、お客さんに出しても恥ずかしくないよ」

 

タク「やったぜ、相棒!」

 

明「やったっす!」

 

 スパルタ修業を乗り越え、遂に明はタクと同じぐらいうまい寿司を握れるようになり、互いに笑い合った。それから、再び沙織達が食べに来た。

 

響「とってもおいしい!」

 

未来「このお寿司、タクさんのお寿司と同じぐらいおいしいよ!」

 

翼「信じられない…。これが、寿司だというのか!?」

 

 明の寿司のおいしさに翼は衝撃を受けた。

 

奏「次はトロを握ってくれよ」

 

明「この手はタクやんの手ですからね、そっちへ言ってください」

 

マリア「タクさん、私はイカを頼むわ」

 

タク「へい!トロ一丁!イカ一丁!」

 

明「へい!トロ一丁!イカ一丁!」

 

奏「何だか、あたしらと同じぐらい面白いコンビになったな」

 

タク「コンビじゃないっす、2人で1人なんっす!」

 

明「そういうこっです」

 

切歌「まるで、あたしと調みたいでもあるデス!」

 

調「私と切ちゃんも2人で1人だから…」

 

 自分達と似たようなコンビである事を主張する切歌と調にタクと明も笑ったのであった。

 

翼「タクさん、明さん、タクさんのお母さんに寿司を食べさせる日になったら、私達も一緒にいいですか?」

 

タク「翼さんが?」

 

 

 

タクの家

 

 タクの母親に寿司を食べさせる日、奏達も同行する事になった。

 

タク「なるほど、僕のおっかさんにツヴァイウイングの歌を聴かせたいから、一緒に来たのか…」

 

慎次「はい。そうするのが自分にできるあなたへのお詫びだと、翼さんは考えたんです」

 

翼「迷惑だったでしょうか…?」

 

タク「実を言うと、僕も修行していた時から挫けそうになった時はツヴァイウイングの歌に励まされてて、いつかツヴァイウイングのライブをおっかさんに聴かせたいって思ってたんですよ。でも、天羽奏さんが亡くなって、それが永久に叶わなくなってしまって…」

 

明「何ッ!?タクやんもツヴァイウイングのファンで、ツヴァイウイングの歌に励まされていたのか!?」

 

タク「明もツヴァイウイングのファンだというのは驚きだぞ!」

 

マリア「類は友を呼ぶっていうけど、タクさんと明さんがツヴァイウイングのファン同士という意外なつながりがあったなんて…」

 

明「何にせよ、声も姿も天羽奏さんにそっくりな人が見つかって、ツヴァイウイングの生の歌声を再現できるのはよかったな、タクやん」

 

タク「頼みますよ!」

 

奏「ああ、任しとけ!」

 

 実際は並行世界の天羽奏本人なのだが、並行世界の事情を話せない一般人に対しては天羽奏のそっくりさんという事で誤魔化していた。そして、タクの母親に寿司を食べさせるため、明は寿司を握った。

 

タク「待たせたね、おっかさん。僕の握った寿司を、食べてください」

 

 タクの母親は寿司を食べた。

 

おっかさん「おいしい、おいしいよ…!これが日本一おいしいお寿司だよ…。よく頑張ったね、タク…」

 

タク「おっかさん…。それとおっかさん、もう一つサプライズを仕込んでいるんだ」

 

おっかさん「サプライズ…?」

 

タク「それは、僕達が独占して聴けるツヴァイウイングのライブだ!」

 

 慎次が曲を流し、ライブ衣装に着替えた奏と翼が出てきた。

 

翼と奏「♪~♪~~♪」

 

 逆光のフリューゲルやORBITAL BEATはその場を盛り上げ、タクの母親も年甲斐もなくはしゃいだ。

 

おっかさん「この歌、とても元気が出てくるよ!」

 

タク「だよね、おっかさん!僕もこの歌に励まされて今まで修業を頑張って来れたんだ!」

 

奏「盛り上がってるかい!?」

 

翼「次は私達が作曲した新しい歌をあなた達親子に独占して聴かせます!」

 

 そして、奏と翼は新しく作曲した歌、双翼のウィングビートを唄った。

 

タク「こ、この歌は……!」

 

おっかさん「今まで聴いた事もない歌だよ!」

 

明「(心に響く…。やはり、ツヴァイウイングの歌は最高だ。あの天羽奏さんに姿も声もそっくりな人は天羽奏さん本人じゃないのか?)」

 

 明は目の前にいるのは奏のそっくりさんではなく、奏本人ではないかと思い始めた。そして、帰る事となった。

 

明「よかったな、タクやん」

 

タク「ありがとう、本当に」

 

明「おっかさん、騙したみたいで少し気が」

 

タク「騙しちゃいない。明の握る寿司は僕の寿司なんだから」

 

明「そうだよな」

 

タク「これからも頼むよ、相棒!」

 

明「俺からもよろしく、相棒!」

 

 タクと明の様子を奏達は見守っていた。

 

奏「すっかりあたしらみたいなコンビになったな」

 

翼「そうだね。私も歌を聴かせてお詫びする事ができてよかったよ」

 

マリア「さ、私達も帰りましょう」

 

 

 

明の自宅

 

 目標が終わり、明も一段落した。

 

律子「よかったわね、タクさんのお母さんも喜んで」

 

明「お前にも心配かけたな」

 

律子「いいのよ。あなたが満足してくれて嬉しいわ」

 

明「律子、ありがとう。君がいたから頑張れた。本当にありがとう」

 

律子「あなた…」

 

明「これからはずっとそばにいる。いつまでも…」

 

 翌日…。

 

明「行ってくるぞ」

 

律子「行ってらっしゃい!」

 

 

 

市街地

 

 能寿司へ向かっていると、明は火災現場に遭遇した。

 

女性「ひろし、ひろし!!」

 

男性「ダメだ!行ってはダメだ!」

 

明「どうした!?」

 

女性「ひろしが、まだあの中に!」

 

 逃げ遅れた人を助けるため、明は火の手があがっている建物へ突入した。同じ頃、火災現場からある程度離れた場所でアルカノイズが出現し、翼達が迎撃にあたっていた。

 

翼「もうあの時のような不覚はとらんぞ!」

 

マリア「急いで片付けるわよ!」

 

 敵が散開する前に片付け、空へ逃げようとしたアルカノイズは奏が追った。

 

奏「これで終わりだぁ~~~っ!!」

 

 奏は槍でアルカノイズを貫いた。空中にいたアルカノイズを貫くためにジャンプしたため、ちょうど火災現場の方へ奏は落っこちてしまった。

 

奏「ここは火災現場!?アルカノイズのせいなのか!?」

 

朔也『いや、アルカノイズは関与していない』

 

あおい『アルカノイズが出現する前に火災があったようです』

 

女性「ひろし、ひろし~~っ!」

 

奏「一体、何があったんだ!?」

 

男性「私達の子供のひろしがまだあの中にいて、ひろしを助けるために男の人が…」

 

奏「何だって!?」

 

 急いで奏は火災現場に突入した。一方、明の方は赤ん坊の泣き声を頼りに逃げ遅れた赤ん坊を探していた。

 

明「ど、どこだ!?」

 

 見回していると、赤ん坊を見つけ、抱き上げた。

 

明「もう大丈夫だぞ!」

 

 赤ん坊を助けて安心した直後、明は倒れてきた燃えている柱に当たってしまった。

 

明「うわあああっ!!」

 

 火災現場であったため、様々な要因が重なって明の意識は朦朧とし始めた。

 

明「(俺は…ここで終わるのか……?)」

 

???「おい、死ぬな!」

 

 その言葉を言ったのは奏で、槍で燃えている柱を切り裂き、空いている手で明を支えてくれた。

 

奏「生きるのを諦めるな!」

 

明「き、君は……!!」

 

 かつて、律子を助ける際に槍を持つ赤毛の少女に言われた言葉と同じ言葉を聞いた明は奏の顔と声と姿、そして今まで思っていた事のピースが組み合わさって真実に辿り着いた。

 

明「(そうか…、あの時助けてくれた赤毛の少女は……天羽奏さんだったのか!)」

 

 死が近づいている時に助けてくれた少女が奏である事に気付いた。目の前の奏は並行世界の奏であり、数年前に明を助けた奏は既に死亡していたが。

 

奏「こんな所で死んじまったら、タクさんと律子さんが悲しむんだぞ!」

 

 明を支え、奏は火災現場から出てきた。奏が明を連れて無事に出てきた事に後から来た翼とマリアも安心した。

 

女性「ひろし…無事でよかった…!」

 

奏「この人は重体なんだ!急いで救急車を!」

 

男性「わかった!」

 

 赤ん坊を助けてもらった夫婦は少しでもその恩に応えるべく、救急車を呼んだ。

 

 

 

病院

 

 病院に搬送された明は大火傷を負っており、手の施しようがなかった。

 

医師「ご主人は背中に三度以上の熱傷があり、手の施しようがありませんでした…」

 

律子「あなた…」

 

明「律子……。俺の手は……無事か……?」

 

律子「ええ。少し火傷してるけど…大丈夫よ…」

 

明「よかった…。俺が死んだら、この手を…タクやんに……」

 

律子「何を言ってるの?あなたが死ぬわけないでしょ!?」

 

明「そうか……」

 

 遺言を残し、明は息を引き取った。

 

律子「嫌……ずっと傍にいるって言ってたじゃない…!いつまでも一緒だって、言ったじゃない!!」

 

奏「明…さん……」

 

 明の死に律子は悲しみ、奏達も大切な人を失った時を思い出し、悲しんだ。そこへ、慌ててタクが来た。

 

タク「嘘だろ……?目を覚ましてくれよ…、僕の手、僕の相棒…!起きてくれ、ウソだと言ってくれよ!明~~~っ!!」

 

 その後、ブラックジャックとパルティータが来て、明の腕をタクに移植する手術が行われる事となった。

 

ブラックジャック「これより、両腕上腕部の移植手術を開始する。プロテイン注入!」

 

 

 

回想

 

 明の死後、律子と奏達はブラックジャックの元へ向かった。

 

律子「あの人の遺言なんです。ブラックジャック先生に頼んでくれって。どうか、どうか主人の手をタクさんに!」

 

ブラックジャック「他人の腕を付け替えるなんて、大変難しい手術だ。金はかかりますよ」

 

律子「お金はいくらかかっても、必ず働いて払います!どうか、主人の最後の頼みなんです…!」

 

翼「私達からもお願いします、ブラックジャック先生!」

 

奏「あたし達の大切な人は死ぬ際に目に見える生きた証を残せなかったんだ。だから、タクさんに明さんの生きた証を残してくれ!」

 

マリア「かつて私の命を救ってくれた神の手で、奇跡を起こして!」

 

ブラックジャック「お前達…!」

 

 ブラックジャックは決断したのであった。

 

 

 

 手術室のランプが点いた。

 

医師「両腕移植なんて」

 

奏「無茶なものか!」

 

マリア「手術を行うのは世界一と称される医者2人が行うのよ!」

 

翼「必ず奇跡が起こるはずだ!」

 

 手術の成功を信じる奏達は移植手術は無茶だという医師の言葉を否定した。律子の傍に星矢と紫龍、沙織が来た。

 

沙織「律子さん、ブラックジャック先生とパルティータは必ず奇跡を起こします」

 

律子「あなた達は…」

 

星矢「諦めなければ、奇跡は起きる!」

 

紫龍「あの2人ならば、それができる!」

 

 一方、手術室では…。

 

パルティータ「ブラックジャック、一気に行くわよ!」

 

ブラックジャック「ああ!」

 

 世界一の腕を持つブラックジャックとそれに匹敵するとされる女医であるパルティータ、2人の圧倒的な腕前に医師達は驚いていた。そして…移植手術は終わった。

 

ブラックジャック「術式終了…!」

 

 しばらく経ち、包帯をほどく日がやってきた。

 

看護師「終わりました」

 

 奇跡は起こり、明の腕は見事にタクと繋がっていた。

 

医師「ついた…!」

 

ダンナ「動くんですか?先生!」

 

ブラックジャック「少しずつリハビリすれば、動くようになるよ」

 

タク「先生…」

 

ブラックジャック「おっと、礼はその手の奥さんに言うんだな」

 

律子「あなた…あなた、ここにいるのね…。生きてるのね…。よかった、よかったわ…!」

 

奏「ほんと、奇跡だ…!」

 

翼「本当によかった……!」

 

 奏達も涙を流していた。

 

ブラックジャック「タク、手術代はうまい寿司を食わせる事で帳消しになったと奥さんに」

 

タク「先生…」

 

 ブラックジャックは部屋を出た。

 

タク「奥さん、ありがとう…」

 

律子「時々、会いに行ってもいいですか?主人の、手に」

 

タク「もちろんです…。いつでも、来てください…」

 

 部屋を出たブラックジャックはパルティータと対面した。

 

ブラックジャック「お前さん、あの時は錬金術を使わずに最後まで己の腕前だけでやり遂げたな」

 

パルティータ「私は正体を隠すために錬金術医療は自分の手術の腕前ではどうにもならない時にしか使わない主義なのよ。それに、錬金術自体はあの手術の後に移植した腕に拒絶反応が起こらないように処置を施したの」

 

ブラックジャック「錬金術医療に頼りきりにならない上、意外と抜け目がないな」

 

パルティータ「私はあなたと同じで無駄な手術はしない主義なのよ」

 

ブラックジャック「そこも私と同じ主義か。私はお前さんと会ってから、世界一が脅かされる危機感と私と渡り合える腕前を持つ医者が見つかった喜びが入り混じっているよ」

 

 一緒に手術を行い、互いを認め合ってからパルティータは帰った。

 

 

 

能寿司

 

 それから後、再び響達はやってきた。

 

タク「へい、らっしゃい!あ、先生にみんな!」

 

ブラックジャック「どうだ?腕の調子は?」

 

タク「ええ。かなり昔の勘が戻ってきました」

 

響「じゃあ、エビ10貫にイカ10貫お願いしま~す!」

 

未来「頼み過ぎだよ、響!」

 

翼「タクさんはまだリハビリ中で」

 

ピノコ「ピノコは卵が食べたいだわしゃ!」

 

タク「いきなり大量か…」

 

ダンナ「タクやん、握ってやんな。復帰第一号として」

 

タク「いいんすか?」

 

ダンナ「ああ、その方がこちらの方も喜んでくださいる」

 

 その方とは、律子であった。

 

タク「へいへい、まずは響ちゃんからだよ!少々お待ちを!」

 

 タクは響の頼んだ数だけ握った。

 

響「いっただっきまーす!」

 

 響はあっという間に寿司を平らげてしまった。

 

響「とってもおいしい!」

 

ピノコ「しゅごい食欲だわしゃ!」

 

ダンナ「20貫の寿司をこんなに早くペロリと平らげちまいやがった……」

 

 20貫の寿司をあっという間に食べ尽した響の食欲にタクとダンナに律子や他のお客さんも驚いていた。

 

ブラックジャック「タク、腕の火傷の跡だが、消す事もできるぞ」

 

タク「いえ、これは明さんの勲章ですから。僕は明さんの生き様を背負って生きていきます」

 

奏「タクさん…」

 

タク「へい、お待ち!」

 

 まずはピノコが頼んだたまごを握ってあげた。

 

ピノコ「わあっ!」

 

 ピノコはたまごを食べた。

 

ピノコ「やっぱりおいちい!前よりもっとおいちくなったよ!」

 

タク「そりゃなんたって、2人分の心が入ってますからね。だからお代も2倍!」

 

ピノコ「たあぁあああっ!!」

 

ブラックジャック「やられたな、ピノコ」

 

ピノコ「高くちゅいたのしゃ…!」

 

タク「ははははっ、冗談ですよ、冗談!」

 

切歌「なら、あたしと調にはホタテを頼むデス!」

 

クリス「あたしにはアナゴ!」

 

マリア「私は鯛を頼むわ」

 

 他のメンバーも頼む中、律子と翼、奏、マリアには笑っているタクと一緒に笑う明の姿が見えた。その姿に律子は涙を流したのであった。




これで今回の話は終わりです。
今回は装者の方は奏達年長組が主役で、アニメのサブタイトルは奇跡の腕、原作では二つの愛の話を描きました。
交通事故にアルカノイズが関わっていたり、明がかつて本編世界の奏に助けられて特異災害から生還した過去があってその時に後の妻となる律子と出会ったり、タクと明がツヴァイウイングのファンである事以外はアニメと流れは同じです。
この話は年長組、年中組、年少組の中でどの組がいいのか考えた結果、年長組をメインにして、タクと明の2人に対し、奏と翼のコンビとの絡みを描きました。
次の話は原作題名は不死鳥、アニメのサブタイトルは火の鳥伝説で、装者よりも不老不死のパルティータやある事情で263年も生きている童虎、同じく263年生きているシオンが師であるムウがメインとなります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。