セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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125話 新しい命

海岸

 

 夕方の浜辺で以前、ルナルナがいた動物園の園長は不満いっぱいの表情で海を見ていた。

 

園長「くそう!水族館に客をとられる原因を作ったのは全部あのヤブ医者だ!」

 

???「キュイー!」

 

 そう言ってると、何かがジャンプして再び海に入った際の凄まじい水しぶきを園長はまともに浴びてしまった。

 

園長「ええいっ!このデカブツめ!私は海の生き物が大っ嫌いだ!!っつ、ハーーックション!!!」

 

 水族館とブラックジャックへの恨み節を言った園長は罰が当たったかのように風邪をひいたのであった。

 

 

 

ブラックジャックの家

 

 ブラックジャックはピノコやラルゴ、そして遊びに来ていたセレナと調と切歌と共にテレビを見ていた。

 

ニュースキャスター『次のニュースです。N国の沖合で捕鯨船と反捕鯨団体の船の衝突があり、その後に漁師と反捕鯨団体のメンバーの乱闘がありました』

 

ピノコ「ちぇんちぇ、どうちてクジラの事でちょうとつつるの?」

 

ブラックジャック「日本にはクジラを食する習慣があるのだが、反捕鯨団体はそれと相容れなくてな。それで、このような衝突が起こるんだ」

 

セレナ「クジラさんの事でこんな争いをするなんて…」

 

ブラックジャック「イルカやクジラは子供には人気者なのだが、漁師からは基本的に嫌われ者として扱われているんだ。何しろ、漁の邪魔になったり、魚を食べたりして漁獲量が減る原因を作ったりしている。それで、私の友人のシャチであるトリトンも色々な事が重なり、他のシャチに濡れ衣を着せられてしまった事がある」

 

切歌「大人は気持ち的にも立場的にも複雑なのデスね…」

 

調「私が漁師さんだったら、イルカやクジラを嫌っていたかも…」

 

ブラックジャック「大人の問題は複雑で、解決の糸口が見えないものも多いのさ…」

 

 そう言ってると、電話が鳴った。

 

ブラックジャック「はい」

 

ナナミ『ブラックジャック先生、私は水族館で飼育員をしているナナミと言います!あなたにシャチのティコを診てもらいたいんです!』

 

ブラックジャック「おいおい、私の専門は人間だ。他の獣医に診てもらえばいいだろう?」

 

ナナミ『これはブラックジャック先生でないとダメなんです!お願いです、数千万もの治療費は用意しますので、ティコを診てください!』

 

ブラックジャック「…仕方ない、どこの水族館か確認をお願いしますよ」

 

 どこの水族館か確認をとった後、電話を切った。

 

ピノコ「ちぇんちぇ、ティコを診に行くの!?」

 

ブラックジャック「ああ」

 

ピノコ「ピノコも行く!」

 

セレナ「私達も!」

 

ブラックジャック「やれやれ…」

 

 ピノコ達も水族館に行きたいため、ブラックジャックはため息をついた。

 

 

 

水族館

 

 水族館は以前にルナルナのいた動物園からそう離れていない場所にあった。

 

ピノコ「ルナルナのいた動物園からちょう離れてないだわしゃ」

 

調「その動物園よりこっちの方がお客さんがたくさん来てる」

 

切歌「あの無責任園長に罰が当たったのデス!」

 

 進んでいると、オレンジの髪の女性が待っていた。

 

セレナ「あの人がナナミさんじゃないですか?」

 

ナナミ「ブラックジャック先生、こっちです!」

 

 ナナミに案内されて進んでいった。

 

ブラックジャック「なぜ、私でないとダメなんだ?」

 

ナナミ「いつもはティコが不調になったら、腕利きの海洋生物の獣医さんの海藤先生に頼んで診てもらっていたのですが…今回は海藤先生の予定が色々と入っていて診に行く事ができないので、仕方なく他の獣医さんに診てもらおうと思ったんですけど、そうしたらティコは診察すら嫌がるので、もう最後の頼みの綱として過去にシャチに治療歴があるブラックジャック先生しか頼めなかったんです」

 

ブラックジャック「その海藤先生以外の獣医の治療はおろか、診察すら受けないとは、とんだワガママなシャチだな。そんなシャチだと、私の診察さえ受け付けない可能性もあるぞ」

 

ナナミ「そこは承知しています」

 

切歌「どうしてブラックジャックがシャチを治療した事があるのを知ってるのデスか?」

 

ナナミ「ここの館長の弟さんは漁師をやってまして、漁師の情報網を通じて10年前に既に知っていたんです」

 

調「弟さん経由なんだ」

 

ピノコ「早くティコに会いたいだわしゃ!」

 

セレナ「私達もティコを見てみたいです!」

 

 ティコに会えるためにはしゃぐピノコ達であった。そして、ティコのいるところに来た。

 

ナナミ「館長、ブラックジャック先生を連れてきました!」

 

館長「ご苦労、ナナミ」

 

切歌「水族館の館長さん、結構美形デス」

 

調「てっきり、ルナルナの飼育をしていたおじさんのような人だと思ってた」

 

館長「僕も1年前に先代の館長から館長の座を譲り渡されたようなものでして、ペーペーの新人館長なんですよ。で、弟がこんな姿です」

 

 館長は弟の写真を見せたが、弟は兄とは正反対で体格もガッチリしており、ごつい顔をしていた。

 

ピノコ「似てないのよしゃ…」

 

切歌「兄弟なのか疑わしいのデス…」

 

館長「まあ、よく言われますよ」

 

 ピノコ達はティコの視線が行った。

 

ピノコ「ティコ、可愛いのよしゃ!」

 

セレナ「触ってみたい…」

 

ナナミ「まずはブラックジャック先生の診察が先よ」

 

 今まで海藤以外の獣医の診察さえ受けようとしなかったティコであったため、ブラックジャックの診察すら受け付けないのではと館長とナナミは不安になっていた。ブラックジャックは診察を行おうとし、ティコはしばらく見つめていたが……。

 

ティコ「キュイー」

 

ブラックジャック「私の診察はきちんと受けてくれるのか。よし、いい子だ」

 

 ブラックジャックの診察はきちんと受けてくれたため、館長とナナミは安心した。

 

ナナミ「ふう、安心した」

 

館長「ブラックジャック先生がダメならもうお手上げだったから、これならいける」

 

ナナミ「でも、何でティコはブラックジャック先生の診察を受けてくれたのかな?海藤先生以外の獣医さんの診察は決して受けようとしなかったのに…」

 

 そこが疑問に思うナナミと館長であった。そして、診察は終わった。

 

切歌「どうなのデスか?」

 

ナナミ「もしかして、深刻な病気……」

 

ブラックジャック「安心しろ。ティコは妊娠していてお腹の中に子供がいるから、人間でいうつわりであの様子になってたんだ」

 

調「妊娠…!」

 

ピノコ「アッチョンブリケ!!」

 

 今までティコは海藤以外の獣医の診察を受け付けなかったため、妊娠が発覚して一同は衝撃を受けた。

 

ブラックジャック「だが、出産後に調子が悪い場合は手術も検討している。手術する場合は3千万円だが、診察だけの場合になった時については後で考える。この様子だと、出産はあと1週間ぐらいだろうから、今は落ち着いた環境にいさせてあげるのがいい」

 

ナナミ「先生…ありがとうございます!」

 

館長「せっかく来られたので、そのまま帰るよりこの子達と一緒に水族館を回ってみてはいかがですか?」

 

 ピノコ達は目をキラキラさせていたためにブラックジャックも断る事ができず、ナナミの案内で水族館を回る事にした。回る前、ブラックジャックはティコのいるプールに海へと繋がっている水路を見つけた。

 

切歌「おぉ!お魚さん達が泳いでいるのデス!」

 

調「ウミガメもいるよ!」

 

セレナ「色んなお魚さんやエビさんにカニさんなどがいますね」

 

 色んな生き物がいる水族館にピノコ達は感心していた。

 

ナナミ「どう?水族館も面白いでしょ?」

 

ピノコ「おもちろい!」

 

調「お魚さん達の餌はどうしているの?」

 

ナナミ「漁師さん達が獲ってきた魚のうち、市場に出せないものを譲ってもらってます」

 

ブラックジャック「なるほどな。館長の弟が漁師をやってるから、それもうまくいってるようだ」

 

ナナミ「えへへ」

 

 そこへ、落ち着いた雰囲気の美女がやってきた。

 

ナナミ「海藤先生、予定が終わったのですか!?」

 

セレナ「ナナミさん、あの人が…」

 

みなみ「ええ。私は海藤みなみ。イルカをはじめとした海洋生物の獣医をやっているわ。ティコの不調を聞いて、急いで予定を済ませてきたのだけど…」

 

ブラックジャック「すみません、海藤先生。依頼があって、私がティコを診察しました」

 

みなみ「あなた、あのブラックジャック先生なのでは!?」

 

ブラックジャック「そうですが…」

 

みなみ「あなたのような人に会えたのは光栄です。無免許なのはいけませんが、普通の医者では治す事ができない患者を治し、果てには動物の治療までできてしまうその腕前は私も尊敬に値するほどです」

 

ブラックジャック「そんなにおだてないでくださいよ。海洋生物の治療に関してはあなたの方が腕前は上です。私はせいぜいシャチの怪我の治療をしたぐらいなものでして…」

 

 互いに腕前を認め合うブラックジャックとみなみであった。

 

ピノコ「ちぇんちぇ、美人2人と一緒にいるのはゆるちまちぇん!!」

 

ナナミ「あの子、先生の娘さん?」

 

ピノコ「違うのよしゃ!ピノコはちぇんちぇの奥たんなのしゃ」

 

 それにナナミとみなみは固まった。

 

みなみ「とりあえずピノコさん、よろしくお願いします」

 

 ふと、ナナミはある事に気付いた。

 

ナナミ「あ!今から館長の弟さんをはじめとした漁師さん達のところへ行く時間だった!」

 

ブラックジャック「私達も一緒に行きますよ」

 

 

 

 

 市場に出せない魚を譲ってもらうために港に来たナナミであったが、ブラックジャック達も同行した。

 

みなみ「そういえば、ブラックジャック先生はティコの診察をしたそうですけど、診察を受け入れてくれたんですか?」

 

ブラックジャック「はい。受け入れてくれましたよ。ティコがなぜあなた以外の獣医の治療や診察を受け入れないのかが気になりましてね…」

 

セレナ「私達も気になります。ティコとの出会いも一緒に教えてくれませんか?」

 

ナナミ「じゃあ、教えるね。あれは、3年ぐらい前かなぁ…」

 

 

 

回想

 

 その当時、ナナミは水族館に就職し、入社式当日を迎えたため、水族館へ向かっていた。。

 

ナナミ『あれは、入社式当日だったわ』

 

ナナミ「私の夢だった水族館に就職だぁ!イルカさん達のお世話を」

 

 ワクワクさせ、水族館を目指すナナミであったが、その道中に浜辺で傷ついているシャチを見つけ、駆け付けた。

 

ナナミ「シャチがひどい怪我を…!あなた、大丈夫!?」

 

シャチ「キシャアッ!!」

 

 心配するナナミであったが、シャチは威嚇してきた。

 

ナナミ「暴れないで!暴れたら傷がもっと開いちゃうよ!えっと……こういった時は……」

 

 どうすればいいのかわからないナナミであったが、偶然通りかかったみなみが駆け付けた。

 

みなみ「あなた、そのシャチはどうしたの?」

 

ナナミ「このシャチは私が通りかかった際にこの浜辺で発見したんです。ひどい怪我をしてて…」

 

みなみ「大丈夫、私は海の生き物のお医者さんよ。今からこのシャチの応急処置を行うわ」

 

 みなみにも威嚇してきたシャチであったが、やはり傷のせいで痛がっていた。

 

みなみ「安心して。私はあなたの傷を治しに来たの。といっても、これほど傷が深いのなら、当面は身を隠せるほどの場所が必要ね…」

 

ナナミ「身を隠せる…?あります、ありますよ!」

 

 その身を隠せる場所とは、ナナミが就職した水族館であった。早速、当時の館長にナナミは怒られていた。

 

先代館長「全く、入社式早々に遅刻をするとはどういう事かね!?」

 

ナナミ「申し訳ありません!ひどい怪我をしたシャチを見つけて…」

 

先代館長「だが、あのシャチの怪我はあのまま放っておいたら死んでた程だ。シャチの命を救ったから大目に見てやろう」

 

ナナミ「ありがとうございます!」

 

みなみ「こちらの水族館にあのシャチを匿わせてもらってすみません」

 

 そして、みなみはシャチの治療を行った。

 

みなみ「これで大丈夫よ。あとはあのシャチが激しい運動をしなければ、自然と治るわ」

 

ナナミ「ありがとうございます!」

 

 時間がある時はいつもナナミはティオに付きっきりになってある程度過ぎ、傷が塞がった。

 

みなみ「これなら、もう大丈夫よ」

 

ナナミ「これでお別れだね…」

 

 しかし、シャチは出て行かなかった。

 

みなみ「あの海に繋がる水路から出て行かないわね…」

 

ナナミ「もしかして、水族館に住みたいんじゃ…?」

 

 それにシャチは頷いた。

 

先代館長「ほう。そのまま住み着くのか。なら、名前が必要だな」

 

ナナミ「名前…えっと…」

 

 ふと、そのシャチの名前が思いついた。

 

ナナミ「決めた!あなたの名前はティコよ!」

 

 そのシャチの名前はティコに決まった。

 

 

 

ナナミ「ってな感じでティコと出会ってティコは水族館に住み着いたの」

 

ブラックジャック「(まるで、私とトリトンの出会いのようだな。あの事件がなければ、私とトリトンはナナミとティコのようにいられたのかも知れん…)」

 

 ナナミとティコの姿は自分とトリトンにあり得たかもしれない、もう一つの未来である事をブラックジャックは悟った。

 

みなみ「ナナミさんからの提案で1週間に1回はティコを外の海で自由に泳がせてストレスを発散させているの。無論、ナナミさんも同伴でね」

 

切歌「犬の散歩と同じようなものデス!」

 

調「ルナルナはストレスで病気になったから、賢明な判断」

 

 漁船も帰ってきたため、早速ナナミは市場に出せない魚をもらいに来た。

 

館長の弟「ナナミ、いつも兄貴が世話になってるな。そして餌もらいもご苦労さん」

 

ナナミ「いえいえ、いつもの事なので」

 

ブラックジャック「(私もトリトンと交流があった時は毎朝来ていたからな。昔を思い出す…)」

 

 ナナミが魚をもらっているところを見たブラックジャックは昔の事を思い出していた。そこへ、何やら沖で何かあるのを見た。

 

ブラックジャック「望遠鏡はありますか?」

 

館長の弟「あるが…あれを見るのか?」

 

 望遠鏡で見てみると、何やらクジラがシャチに襲われているのが見えた。

 

ブラックジャック「クジラがシャチに襲われているな」

 

ピノコ「アッチョンブリケ!!」

 

調「クジラさんが可哀想…」

 

切歌「助けに行くのデス!」

 

館長の弟「待ちな、あのシャチの群れはこの辺りの海に来たクジラを食べているんだ。邪魔をしたらただじゃすまねえ」

 

調「だけど…」

 

セレナ「食べられてしまうクジラさんが可哀想で…」

 

みなみ「これも自然の食物連鎖なのよ。クジラやイルカは海の生態系の中でもかなりの上位に君臨していて、そのクジラやイルカを捕食する天敵で、海の生態系の頂点に君臨するのがシャチなの。もしもシャチがいなければ、クジラやイルカが増え続けて、魚の数が大きく減るわ」

 

ブラックジャック「それに、人間はクジラやイルカ本来の天敵ではないしな」

 

 そう言っている間にシャチの群れに襲われたクジラは呼吸の穴を塞がれて窒息死し、シャチの群れに食べられたのであった。

 

ブラックジャック「あのシャチの群れはいつ頃から?」

 

館長の弟「ああ、あのシャチの群れが来たのは3年前だ。それまではこの辺りの海はイルカやサメが多くいた上、クジラもしょっちょう来るから、魚がほとんど獲れなかったんだ。サメもたくさんいるから、漁も命がけだったし、大変だったよ…。あまりに困ったものだから、反捕鯨団体の抗議も覚悟の上でイルカやサメにクジラを退治しようとしたのさ」

 

切歌「イルカさんはともかく、サメがたくさんいるのを聞くと、ゾッとするデス…」

 

ピノコ「ちゅみもないイルカしゃんやクジラしゃんを殺すのはダメなのしゃ!」

 

館長の弟「だが、3年前にシャチの群れがやってきて、イルカやサメを捕食し、クジラまでも食べるなり、追い払うなりしてくれたんだ。お陰で俺達は以前より魚を多く獲れるようになって、本当にあのシャチの群れには感謝してるのさ」

 

ブラックジャック「驚いた…。私の住んでいるところの海にいるシャチは邪魔者扱いされていたんですよ。邪魔だと思わないんですか?」

 

館長の弟「思わねえよ。むしろ、あいつらのお陰で魚が獲れるようになったようなもんだからな。あいつらも魚を食べないわけじゃねえが、だいたいの魚は俺達に譲ってくれてるから、俺達もあいつらがクジラやイルカを食うのを邪魔しないようにしてる。まるで、あいつらは恩があってこの漁場を護っているような気がするみたいだ」

 

セレナ「恩、ですか…」

 

調「鶴の恩返しならぬ、シャチの恩返し…」

 

 それから、一同は戻る事にした。

 

ブラックジャック「ナナミ、お前さんがティコに会ったのは3年前と言ってたな」

 

ナナミ「はい」

 

ブラックジャック「あのシャチの群れがこの海に住み着いたのも3年前。ただの偶然にしてはおかしいと思うが…」

 

みなみ「実は、あのシャチの群れはティコの仲間なんです」

 

切歌「ななな、なんデスと!?」

 

調「クジラさんを食べるあのシャチの群れがティコの仲間だなんて…」

 

ナナミ「最初は驚いちゃったけど、ティコと一緒に外の海に出た際にティコの仲間と知り合いになったんだ」

 

セレナ「シャチさんの群れと知り合いに!?」

 

ピノコ「ピノコもお友達になりたいだわしゃ!」

 

ブラックジャック「ピノコ、セレナ達もそろそろ帰るぞ。当面の間はティコの様子を見る事にする」

 

ピノコ「やったぁ!」

 

切歌「ティコにまた会えるのデス!」

 

ブラックジャック「今日はここで」

 

 ブラックジャックはピノコ達と一緒に帰ろうとしたが、みなみはある事を思い出した。

 

みなみ「ブラックジャック先生、初めてティコに会った際に気になる事があったのを思い出しました」

 

ブラックジャック「気になる事?」

 

みなみ「ティコの応急処置をしている際に別のシャチが私達の様子を見ていたような気がします。確か、そのシャチの背びれは三ヶ月模様があったような…」

 

ブラックジャック「そのシャチ、本当に背びれに三ヶ月模様があったのか!?」

 

みなみ「あったかも知れないだけで、詳しくはわかりません。無駄な話で止めてしまって失礼します」

 

 そのままブラックジャックは帰った。

 

ブラックジャック「(背びれに三ヶ月模様…まさかな…)」

 

 

 

水族館

 

 翌日、今度は朝早くにブラックジャックはピノコ達を連れて水族館でティコの様子を見ていた。みなみも一緒に。

 

みなみ「とりあえず、今日も異常はないわね」

 

ブラックジャック「それじゃあ、私達はまたナナミの餌もらいに同行するので、何かあったら知らせてください」

 

館長「わかりました」

 

 何かあったら知らせるようにと館長とナナミの先輩達に頼み、ブラックジャック達は港へ向かった。

 

 

 

 

 またブラックジャック達は港に来た。

 

館長の弟「おおっ、今日は早いねえ」

 

ナナミ「はい。今日も市場に出せないお魚をもらいに来ました!」

 

館長の弟「ご苦労さん、それじゃ」

 

 ふと、ブラックジャック達はある程度岸から離れた場所で二つの船がぶつかるのを見つけた。

 

ブラックジャック「あの船、故意にぶつけたように見えましたが…」

 

館長の弟「あいつらめ、またやらかしやがったな!」

 

セレナ「やらかしたって、何なのですか?」

 

館長の弟「隣町の漁師と外国の反捕鯨団体の衝突さ。場所も時間も弁えずにやってるから、こっちも迷惑してるんだ!」

 

ナナミ「最近では、銃まで持ち出しているんです!」

 

切歌「それは大変デス!」

 

調「止めないと!」

 

 ブラックジャック達は館長の弟達が乗っている漁船に乗せてもらい、現場へ向かった。

 

漁師A「だから、俺達のところにはクジラを食う文化があるんだ!」

 

団体員A「クジラは保護しなきゃいけない動物なんだ!そんな文化自体、捨てちまえ!」

 

漁師B「うるせえ!てめえらのワガママにその文化を捨てられるかよ!」

 

団体員B「俺達の活動をワガママと言いやがって!」

 

 互いの活動を理解せず、エゴをぶつけ合う双方であった。そこへ、ブラックジャック達が来た。

 

館長の弟「てめえら、いい加減にこんな海のど真ん中でドンパチやってんじゃねえ!俺らの仕事の邪魔だ!」

 

漁師A「何だとぉ!?」

 

セレナ「皆さんが迷惑しています!」

 

ナナミ「あなた達の考えはどちらも理解できます!だからこそ、話し合って折り合いをつけるべきではできないのですか!?」

 

漁師A「あんなワガママな連中と話し合えるものか!」

 

団体員A「ワガママだと!?俺達のクジラ保護の活動は決してワガママなんかじゃねえ!お前らのクジラを食う文化こそがワガママだ!」

 

漁師A「ふざけやがって!!」

 

 双方とも相手の意見を聞き入れられず、遂には銃を向け合った。

 

ナナミ「やめて~~~!!」

 

 ナナミの制止も聞かず、双方とも銃を撃った。

 

ナナミ「ああっ!!」

 

 しかし、銃弾は双方に当たらず、止めようとしたナナミに当たり、ナナミは重傷を負った。

 

調「ナナミさん!」

 

漁師A「お、お前が悪いんだ!」

 

団体員A「何だと!?悪いのは」

 

???「キシャアッ!!」

 

 誤ってナナミを撃ってしまった事に双方とも責任を擦り付け合った。そこへ、シャチの群れが現れた。

 

切歌「ティコの仲間デス!」

 

館長の弟「だが、異様に殺気立っている!」

 

ピノコ「いちゅもより怖いのよしゃ…!」

 

 シャチの群れはいつもと違って異様に殺気立っており、すぐにでも人を襲いそうな雰囲気であった。

 

漁師A「ひ、ひいっ!」

 

 殺気に怯え、双方とも銃をシャチに向けたが…。

 

みなみ「やめなさい!シャチを撃ってはダメ!」

 

 しかし、撃つ前にブラックジャックがメスを投げ、発射を阻止したのであった。

 

ブラックジャック「お前達、自分達が何をしようとしているのかわかっているのか!?」

 

団体員A「な、何って…」

 

みなみ「シャチはとても復讐心が強い生き物よ。あのままあなた達が撃ったら、ますますシャチの群れを怒らせるだけよ!」

 

漁師B「だけど、俺達は仲間を殺すどころか傷つけてすらいねえ!」

 

団体員B「ほんとだから、信じてくれ!」

 

ブラックジャック「その言葉は本当のようだな」

 

みなみ「でも、仲間を傷つけられていないのに何であんなにティコの仲間が怒りだすなんて…?仲間……?」

 

 ティコの仲間が異様に怒りだした原因を考えていたみなみはある推測に辿り着いた。

 

みなみ「もしかすると、ティコの仲間はナナミさんを自分達の仲間と認識していて、ナナミさんが撃たれたのが原因で怒りだしたのかも知れないわ!」

 

切歌「ななな、なんデスと!?」

 

ピノコ「アッチョンブリケ!!」

 

ブラックジャック「お前達、ナナミは何とか私が死なせないから、怒りを鎮めるんだ!」

 

ティコの仲間「キシャアッ!!」

 

 何とかブラックジャックがティコの仲間を説得していたが、ナナミが撃たれた事で頭に血が上っていたティコの仲間の1匹が襲い掛かろうとしたが、背びれに三ヶ月模様があるシャチが現れた。

 

調「新手!?」

 

みなみ「あのシャチ、初めてティコと会った時に…!」

 

ブラックジャック「トリトン、トリトンだな!」

 

 まさかのトリトンとの再会にブラックジャックは喜んだのであった。

 

トリトン「キュイー、キュイキュイキュイー!」

 

セレナ「トリトン、どうしているの?」

 

 トリトンの鳴き声にティコの仲間達も怒りを鎮めてくれた。

 

みなみ「まさか、トリトンはティコの仲間を説得してくれたのでは…?」

 

ブラックジャック「ありがとう、トリトン!お前のお陰で最悪の事態は避けられた」

 

トリトン「キュイー!」

 

ブラックジャック「ピノコ、急いで応急処置だ!港に着いたらオペを始めるぞ!」

 

ピノコ「アロマンチュ!」

 

 急いでナナミの応急処置を行った。

 

ブラックジャック「よし!後はお前さん達、お前さん達の争いのせいでナナミが重体になったんだぞ!責任を取ってもらう形で治療費は双方とも2千5百万円だ!」

 

漁師A「い、2千5百万円だと!?」

 

団体員A「こんな額を払えと言うのか!?」

 

ブラックジャック「そうだ!港に着いたらすぐに払え!びた一文たりともまけない!それとも、この場でシャチの群れに食われるか、殺人罪で投獄されたいのか!?」

 

 ティコの仲間達の怒りも代弁しているブラックジャックとティコの仲間達に見つめられ、漁師たちも反捕鯨団体のメンバーも観念した。

 

漁師A「…わかった、港に着いたらすぐに払う」

 

団体員A「我々もそうする」

 

ブラックジャック「すぐにでも手術が必要だ。港の市場にそのスペースをとらせてほしいのですが?」

 

館長の弟「構いません。ナナミの命がかかってますから」

 

漁師C「俺、船医やってます!手伝わせてください!」

 

団体員C「自分も」

 

ブラックジャック「協力に感謝する。そして、ナナミの輸血の必要な人も連れて行く。行くぞ、トリトン!」

 

トリトン「キュイー!」

 

 一足先にブラックジャックはナナミを抱えてトリトンに乗り、港へ向かった。ピノコと双方の船医とナナミに輸血してくれる双方のメンバーもティコの仲間達に乗せてもらって船にいる面々より先に港へ向かった。

 

 

 

 

 そして、港の市場で無菌室を展開し、ナナミの手術が始まった。

 

みなみ「凄い…。これが、ブラックジャック先生の手術…!」

 

切歌「ブラックジャックの高すぎる治療費は許せないのデスが、今回は妥当だと思うのデス!」

 

調「だって、隣町の漁師さんも反捕鯨団体の人も悪いから」

 

セレナ「トリトンやティコの仲間も見てます」

 

 港でトリトンとティコの仲間達も見守っていた。そして、双方の船医もブラックジャックの手術に驚いていた。

 

漁師C「凄い…!速い上に全ての動作にムダがない!」

 

団体員C「我々とは大違いだ…!」

 

 自分達とブラックジャックの腕前の差に双方の船医は驚いていた。そして、ナナミの手術は終わった。

 

ブラックジャック「術式終了!」

 

 それから、ブラックジャックは無菌室から出てきた。

 

ブラックジャック「安心しろ、ナナミはもう大丈夫だ!」

 

 その言葉にセレナ達はもちろん、トリトンやティコの仲間達は安心した。そして、隣町の漁師と反捕鯨団体のメンバーはブラックジャックにナナミの治療費を払った後、警察に逮捕された。

 

ブラックジャック「後はお前さんに任せますぜ、友引警部」

 

友引「ああ。人を撃っちまった以上、捕鯨する連中も反捕鯨団体も関係ねえからな。後は任せな」

 

 友引は犯人を連行し、パトカーでその場を後にした。

 

 

 

水族館

 

 そしてティコ出産当日、ブラックジャック達が立ち会っている他、トリトンやティコの仲間1匹も来ていた。

 

館長「ブラックジャック先生から海水に入るのは傷が完全に治ってからって言ってるだろう?」

 

ナナミ「それはわかってますよ。ただ、ティコの出産だけはどうしても見なければって思って…」

 

みなみ「ナナミさんが入院している間は水族館の人がティコのお世話をして、私とブラックジャック先生が経過を見ていたわ」

 

ブラックジャック「ティコの手術が必要になったら、海藤先生に頼んでください。私は診察代だけでいいですから」

 

館長「いくら請求なされますか?」

 

ブラックジャック「お金ではなく、この水族館のチケットを指定の枚数お願いします」

 

館長「はい、喜んで」

 

 風の噂を知っていたのか、館長はブラックジャックの指定通りの枚数のチケットを診察代として渡した。その際にティコの陣痛が起こった。

 

みなみ「いよいよ、ティコが出産するわ!」

 

調「動物の出産を間近で見るの、初めて…!」

 

 ティコは痛みに苦しみ、そしてティコのお腹から尾びれが出て、新しい命が出てこようとしていた。

 

切歌「ティコ、頑張るのデス!」

 

セレナ「ティコ!」

 

ナナミ「ティコ……痛みに耐えて……。新しい命が生まれようとしているのよ…!」

 

 そして、遂にティコは赤ちゃんを出産し、無事に赤ちゃんシャチも初呼吸に成功した。

 

切歌「やったのデス!」

 

調「うん!」

 

ピノコ「やった~~!」

 

セレナ「私達、普段じゃ絶対に見られない光景を見たのかも……」

 

みなみ「そうね。新しい命の誕生というのはいつ見ても不思議で神秘的なものよ」

 

ナナミ「やったね、ティコ!よく頑張ったわ…!」

 

 新しい命の誕生に喜ぶ一同であった。ふと、ブラックジャックは赤ちゃんシャチの背びれの模様を見て、ある事を確信した。

 

ブラックジャック「(背びれに三ヶ月模様?まさか、あの子の父親は…!)」

 

 新しく生まれた赤ちゃんシャチの父親はトリトンであるとブラックジャックは悟り、ある結論に辿り着いた。

 

みなみ「どうしましたか?」

 

ブラックジャック「ティコが私の診察を受け入れてくれた理由がわかった。ティコとトリトンは夫婦で、ティコは私の事をトリトンから聞いていたから、私の診察を受け入れてくれたのだろう」

 

みなみ「ティコが私以外ではブラックジャック先生の診察を受け入れたのが、それだったなんて…!」

 

ブラックジャック「その決定的な証拠が、あの子の三ヶ月模様だ」

 

 赤ちゃんシャチの背びれの模様はトリトンと同じ三ヶ月模様であり、その事にみなみも気付いた。

 

ブラックジャック「私とトリトンの絆から始まった繋がりが、まさかこのような新しい繋がりを生み出すとは…!」

 

みなみ「世の中は不思議で、意外なところで繋がっているのかも知れないわ」

 

 

 

 そしてしばらく経ってティコの体調は大丈夫だとみなみは判断し、ナナミの傷も完全に塞がった後、ブラックジャック達は他の装者達も一緒に水族館に来た。

 

響「あのちっちゃいシャチがティコの子供なんだね?とっても可愛い!」

 

切歌「そうデス!名前の募集でヴァルナーと決まったのデス!」

 

未来「募集で決まったんだ」

 

調「そして、私達はヴァルナーの出産に立ち会ったの」

 

翼「な、何という愛くるしさだ……!」

 

クリス「テレビで見た獰猛なヤローとは思えねえほどだ……」

 

セレナ「姉さん、シャチはとっても可愛いよね?」

 

マリア「ええ。まるで、海のパンダみたい…!(はっ!?例えシャチがどれだけ可愛くても、セレナの方が一番に決まってるじゃない!でも……心を奪われちゃいそう…!)」

 

 ティコ親子の愛くるしさに一同は心を奪われていた。

 

ピノコ「ちぇんちぇ、もうちゅぐティコのショーが始まるのよしゃ!」

 

ブラックジャック「わかったわかった。今、行く」

 

沙織「シャチのショーが見物ですね」

 

 そして、ナナミとティコのショーが始まった。ナナミとティコの一心同体ともいえる動きは観客を魅了し、装者達やピノコも心を奪われる程であった。

 

トリトン「キュイー」

 

 そして、トリトンとティコの仲間達も鉄格子の隙間からナナミとティコのショーを見ていたのであった。

 

 




これで今回の話は終わりです。
今回はアニメのシャチのトリトンの話の続編ともいうべき話を描きました。
トリトンの話の続編にしたのは、トリトンの話を描くとそのまま回想が長くなって装者達の出番が少なくなってしまうので、その続編とし、命がテーマのブラックジャックならば死だけでなく、生命の誕生を描いてもいいのではと思い、ブラックジャックが装者達と共に赤ちゃんシャチが生まれるのを目の当たりにするのを描きました。
今回の患者となったナナミとティコはのモデルは世界名作劇場の七つの海のティコのナナミと親友のシャチであるティコで、海洋生物の獣医で今回の話の解説役となった海藤みなみは診る相手は違えど、ブラックジャックと共演させたくてプリンセスプリキュアから出演させました。
また、話の途中で捕鯨問題についても描きましたが、捕鯨問題は難しい問題なので、双方とも正義として描かない事にしました。
次の話はアニメのサブタイトルは声を失ったアイドルで、奇跡の腕での主役の装者は奏だったので、今回は翼が主役の装者となります。

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