セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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126話 声を失ったアイドル

S.O.N.G潜水艦

 

 ある日、ブラックジャックは定期的な装者達のメディカルチェックに呼ばれ、本部に来ていたのであった。

 

ブラックジャック「診察でわざわざ私を本部まで呼んだだと?」

 

響「はい。診察のためにブラックジャックさんに来てもらったんです!」

 

ブラックジャック「あのな、診察なら別に私を呼ばなくてもよかったんじゃないのか?」

 

未来「メディカルチェックにはブラックジャックさんにも付き合ってもらいたいと弦十郎さんが言ってました」

 

クリス「ブラックジャックなら、他の医者では気付かねえとこにも気付けるってオッサンも言ってたしな」

 

翼「シンフォギア装者は戦うためにも歌を唄う必要があります」

 

マリア「そして、私と翼はアーティストとしても活動しているから、喉に異常が出たら死活問題になるわ」

 

ブラックジャック「確かにな」

 

切歌「わかったなら、すぐに診察デス!」

 

調「嫌とは言わせないよ」

 

ブラックジャック「わかった。今からメディカルチェックだ」

 

 ブラックジャックはS.O.N.Gの医療スタッフと共にメディカルチェックを開始し、7人の診察を終えた。

 

ブラックジャック「診察の結果だが、全員に異常はない」

 

翼「診察、ありがとうございます」

 

沙織「料金は私がお支払いします」

 

ブラックジャック「診察代は1人1万円でいい」

 

 沙織は7万円渡した。

 

慎次「翼さん、今日は予定は何も入っていませんよ」

 

翼「確かにな…」

 

マリア「奇遇ね。私も予定が入ってないの」

 

 そこへ、沙織のスマートフォンへ電話が入った。

 

沙織「はい、沙織です。はい、わかりました」

 

 沙織は電話を切った。

 

響「どうしましたか?」

 

沙織「奏さんが来ていますが、今日は今後の予定がない翼さんとマリアさんはどうしますか?」

 

翼「せっかくなので、奏も一緒に転校した後輩の様子を見に行こうと思いまして…」

 

マリア「転校した後輩…?」

 

 

 

車内

 

 奏も一緒に翼達はある高校へ向かっていた。

 

奏「まさか、リディアンから転校した翼の後輩がいたなんてな」

 

翼「そうだよ。名前は朝戸レイ、とても私を慕ってて、成績も優秀でリディアンに在学していた頃は学級委員を務め、歌の方でも一流歌手としての将来を有望視されているんだ。もっとも、ルナアタック事変の後で親の都合もあって別の高校へ転校してしまったよ」

 

マリア「その朝戸レイにとって、翼は憧れの人であり、よき先輩と思っているのね」

 

翼「そうだ。立花と打ち解けた後は私を慕う朝戸ともっと話をしようとも思っていたが、その矢先に転校してしまってな。今回はちょうどよかったから、様子を見に行きたい」

 

 せっかくだから転校した後輩に会いたいと思う翼であった。

 

 

 

大穴高校

 

 ちょうどその時の大穴高校は登校時刻であり、翼の後輩のレイの放送が流れていた。

 

レイ『全校の皆さん、おはようございます。今日も一日、元気で楽しく頑張りましょう』

 

高校生A「お、レイちゃんの放送だぜ」

 

高校生B「我が校のアイドルにして、大穴高校の風鳴翼とも言われている朝戸レイだろう?俺、彼女の大ファンなんだ!」

 

高校生A「俺も!それに、レイちゃんは以前はリディアンに通ってて、風鳴翼とも面識があるそうなんだぜ」

 

高校生B「ほんとか!?レイちゃんってすげえな!」

 

高校生A「多分、あの声もリディアンで鍛えられたものだろうな」

 

 

 

市街地

 

 慎次が運転している車は大穴高校へ向かっていたが、そこへ大穴高校の女子生徒が大急ぎで向かっているのを目撃した。

 

奏「遅刻しそうだな。乗せてやるか?」

 

慎次「そうですね」

 

 慎次は女子生徒の方へ車を止めた。

 

慎次「僕達は大穴高校へ向かってますが、乗りますか?」

 

和登「あ、ありがとう!僕は和登、よろしくね!」

 

 和登は車に乗った。

 

翼「和登と言ったな。立花達から写楽の姉だと聞いている」

 

和登「まさかあなた、風鳴翼さん!?」

 

翼「そうだ」

 

和登「マリアさんに奏さん…のそっくりさんまで!?まさか、大穴高校へ訪問に来るなんて…」

 

マリア「今日は予定がないから、翼が行きたいって言ってね」

 

奏「あたしらも行く事にしたのさ」

 

和登「超有名人が乗ってる車に乗せてもらったなんて…超ラッキー!!」

 

 

 

大穴高校

 

 そして、大穴高校に到着した。

 

教師「何だ?あの車…」

 

 車から和登が降りてきた。

 

教師「和登、誰かに乗せてもらったのか?」

 

和登「そういう事。しかも、超有名人が乗ってるよ!」

 

 そう言って和登は校舎へ向かった。和登の後に翼達が降りてきた。

 

慎次「突然の訪問で失礼します」

 

教師「ま、まさか…風鳴翼が大穴高校に訪問だとぉ!?」

 

 和登は登校を急いでいたためにパンを口にくわえたまま登校していたため、それをレイが見つけた。

 

レイ「ちょっと和登さん、廊下は食べ歩き禁止です!」

 

和登「いやぁ、朝食食べ損なって、超有名人の訪問のついでに送ってもらっちゃって…」

 

レイ「剣道部の主将ともあろう人が、随分とだらしないわね。リディアンに通っていた頃の先輩を見習ってほしいわ」

 

和登「それとこれとは」

 

レイ「とにかく、今後注意してください」

 

 そう言ってレイはどこかへ行った。

 

和登「へいへい、わかりましたよ、リディアンから来た生徒会長さん」

 

???「ねえ、風鳴翼が来てるって本当!?」

 

 そこへ、別の女子生徒が来た。

 

和登「ほんとだよ、久美子。途中で僕を送迎してくれたんだ。しかも、3年前に亡くなった天羽奏さんのそっくりさんや、マリア・カデンツァヴナ・イヴまで来てるんだ。天羽奏さんのそっくりさん、不思議な事に苗字が違うだけで名前は同じ奏なんだってさ」

 

久美子「まさか、風鳴翼だけでなく、天羽奏のそっくりさんやマリア・カデンツァヴナ・イヴまでもこの学校に来るなんて…!」

 

 この少女はブラックジャックの恩師の本間丈太郎の娘、本間久美子であった。翼達の訪問に高校生達はざわついていた。

 

高校生A「おい、あの風鳴翼が来ているぞ!」

 

高校生B「それに、奏さんのそっくりさんやマリアさんまで来ているわ!」

 

レイ「翼先輩が…?」

 

???「朝戸のいる教室はここか?」

 

 翼達が来ると、その場の雰囲気が変わった。

 

レイ「先輩、お久しぶりです!」

 

翼「久しぶりだな、朝戸。元気にしてて何よりだ」

 

高校生B「え~っ!?レイちゃんは風鳴翼さんと先輩後輩の関係なの!?」

 

高校生C「何を寝ぼけた事を言ってるんだ?レイちゃんはリディアンに通ってた時期があったんだぞ。翼さんが先輩でもおかしくないだろ?」

 

マリア「随分と翼の後輩は人気者なのね」

 

高校生B「そうですよ、マリアさん。レイちゃんは生徒会長を務めながら、放送部、合唱部でも活躍してて、歌手にスカウトされちゃうなんて…」

 

奏「へえー、結構活躍してるじゃねえか」

 

レイ「そんなに煽てないでくださいよ」

 

 そんな時、レイは咳をした。

 

翼「朝戸、大丈夫か?」

 

レイ「すみません、先輩。ちょっと、むせて…」

 

マリア「…ただ、むせただけとは思えないわね……」

 

奏「ああ、そうだな…」

 

 喉に何かあると死活問題になるが故、喉の調子に敏感で診察も定期的に受ける翼達は直感でレイの喉に何か異変が起きているのではと察したのであった。そして、

 

 そして放課後…。

 

翼「なるほど。和登は剣道部の主将なのか」

 

和登「翼さんは剣道に興味があるんですか?」

 

翼「幼き日より、私は剣の鍛錬に励んできた。せっかくだから、私がお前達を指導してやろう」

 

和登「あの翼さんが剣道を…?……ありがとうございます!」

 

 和登が剣道部の主将である事を知り、翼の防人魂に火がついた。

 

奏「翼の心に火がついたようだな」

 

マリア「一度ああなると、もう止められないわね…」

 

 そこへ、合唱部のメンバーが来たが…。

 

レイ「剣道部の皆さん、体育館は合唱部のみんなが使うと」

 

剣道部員「メェーーーン!!」

 

翼「甘い!」

 

 翼の剣術には全く歯が立たず、翼に挑んだ剣道部員は派手に車田飛びしたのであった。

 

翼「そんな半端な動きでは相手に一太刀も入れられず、逆に一太刀入れてくださいと言っているようなものだ!もっと動きの無駄をなくせ!」

 

剣道部員「あ、ありがとうございます!」

 

 次々と剣道部員は指導を頼んだが、翼の技量は圧倒的であった。歌手としての顔しか知らないレイ達にとって、剣道部に指導を行っている翼の姿は今まで想像もつかなかった。

 

合唱部員A「あ、あの風鳴翼さんが剣術をやっていたなんて…」

 

合唱部員B「想像もつかなかった…」

 

レイ「(凄い…!私がまだ知らない先輩の顔があったなんて…)」

 

 翼の姿にレイや合唱部のメンバーは心を奪われていて、合唱部が体育館を使うと言えなかった。

 

和登「最後は僕の指導を頼むよ、翼さん!」

 

翼「かかってこい!」

 

和登「とああああっ!」

 

 和登は主将とだけあって、他の部員より善戦していた。

 

翼「筋はいいな。だが…!!」

 

 しかし、隙を突かれて翼に負けたのであった。

 

和登「あ、ありがとうございます!」

 

翼「和登、お前の筋は悪くない。もっと鍛錬に励めば、強くなれる」

 

和登「お、お褒めの言葉に感謝します!」

 

奏「翼、ちょうどいい時間だ。これから、体育館を合唱部に使わせよう」

 

マリア「今日の剣道部は普段の鍛錬よりも身に染みる翼の指導を受けたのだからね」

 

翼「そうだな」

 

和登「ほんとはもっと指導してほしかったけどなぁ…」

 

翼「仕方あるまい。だが、私もいい汗をかく事ができた。朝戸、使っていいぞ」

 

レイ「ありがとうございます、先輩」

 

ギャラリーA「ずるいわよ、弱小剣道部があの風鳴翼さんに指導してもらえるなんて…」

 

ギャラリーB「そうだそうだ!」

 

和登「何だと!?翼さんは」

 

 翼が剣道部を指導し、合唱部の指導をしてくれない事にギャラリーは不満であった。そこへ、翼が来た。

 

翼「迷惑行為はやめてもらおうか。剣道部や合唱部の練習の邪魔になる。それができないのであれば、帰ってもらおう!」

 

 翼に一喝され、自分達が何をやろうとしていたのかを理解したギャラリー達は帰ったのであった。

 

レイ「今日は色々とすみません、先輩」

 

翼「いや、この騒動の原因を作ったのは私だ。剣道部を見て私の防人としての魂に火が付いてしまい、血が騒いでしまった…」

 

マリア「じゃあ、私達が歌い方の指導をしようかしら?」

 

奏「そうだな。せっかくだし、指導をしてやるか!」

 

レイ「私達合唱部の指導をしてくださって、ありがとうございます!」

 

 マリアと奏にお礼を言うレイであったが、もともとレイが気に入らない和登は体育館を出て行き、翼はそれを見つめていた。

 

レイ「ゴホッ、ゴホッ…!」

 

 また咳をしたレイに翼達は何か異常があるのではと思った。そして下校時…。

 

和登「ほんと嫌な奴!偉そうに何でもできますって顔して…あったまきちゃう!」

 

翼「和登にはそう見えるかも知れないが、朝戸は模範的な優等生だと思うぞ」

 

久美子「優しくていい子で。翼さん、レイちゃんがリディアンに在学していた時もあんな感じだったんですか?」

 

翼「ああ、今と変わらなかった。とても私を慕ってて、いつか私のような歌手になって同じステージに立ちたいと夢を語っていた」

 

奏「だったらあいつ、和登と友達になれるんじゃねえか?」

 

和登「ええっ!?僕と?ない!そんな事、絶対ない!」

 

マリア「そうかしら?」

 

???「久美子~~!」

 

 レイが呼んできたため、一同は足を止めた。

 

久美子「どうしたの?レイちゃん」

 

レイ「実は、久美子に相談が…」

 

和登「あっ、そっ!僕、先に帰る!ごゆっくり」

 

 もともとレイに不満のある和登は帰った。

 

久美子「あっ、和登さん!」

 

慎次「それで、レイさんの相談とは、何でしょうか?」

 

 突然、慎次が背後から声をかけたため、レイは驚いた。

 

レイ「お、脅かさないで!」

 

慎次「すみません、僕の家系は忍の一族なので…」

 

久美子「翼さんのマネージャーさんは忍者なの!?」

 

 その事実に久美子は驚いた。

 

 

 

TOM

 

 喫茶店TOMで翼達はレイの相談を聞いていた。

 

久美子「相談って、何?」

 

レイ「あの…あなたのお父様って、有名なお医者様だよね?確か、本間丈太郎先生って」

 

久美子「うん…。でも、今はいないの。3年前に亡くなったから…」

 

レイ「そうだったの。ごめん…」

 

久美子「ううん、気にしないで」

 

翼「朝戸、そんな事を聞くのはお前は何か病気にかかっているからなのか?私も力になりたいから、正直に話してほしい」

 

 後輩の力になりたい翼であった。レイは突然、泣き出した。

 

マリア「どうしたの?」

 

奏「レイ、何かあったのか?」

 

レイ「久美子…、先輩…、マリアさん…、奏さん…。声が…私の声が……私の声が消えてしまう!」

 

久美子「レイちゃん!?」

 

翼「朝戸の声が、消えるだと…?」

 

 ちょうどTOMに来ていたブラックジャックはその会話を聞いていた。

 

 

 

ブラックジャックの家

 

 レイは診察を受ける事となった。

 

レイ「4か月前から、喉がイガイガして、最近では声を出すのが苦しくて…」

 

ブラックジャック「病院では診てもらったのかね?」

 

レイ「はい…。でも、元の声が出なくなる可能性があるって」

 

久美子「そんな…」

 

レイ「もう声が出なくなったら、私…」

 

ブラックジャック「お前さんのは声帯ポリープだよ。まあ、少し厄介な場所にできているが、心配する事はない」

 

レイ「じゃあ、治るんですね?」

 

ブラックジャック「いや、そうは言ってない。今のままでも喉を酷使しなければ、そう危険な代物じゃない。声がかすれる程度でね」

 

レイ「そんな!私、元の声に戻れないなら死んだほうがマシです!」

 

ブラックジャック「死んだほうがマシ、か…。なら、手術するしか手はないな。厄介だが、切っちまうしかない」

 

レイ「喉を…切るんですか?」

 

ブラックジャック「怖いのかい?」

 

レイ「怖くなんか…」

 

 そこへ、翼達が手を置いてくれた。

 

翼「大丈夫だ、朝戸」

 

奏「ブラックジャックのダンナは途方もない名医なんだぞ」

 

マリア「私も以前、ブラックジャック先生に命を救われた経験があるの。だから、ちゃんと治してくれるわ」

 

レイ「先輩、奏さん、マリアさん……」

 

???「一億円!」

 

 割り込んで来たのはピノコであった。

 

ピノコ「一億円いただきまちゅ!うちのちぇんちぇの手術費は高いのよ!特に女の子にはね!」

 

ブラックジャック「ピノコ、高すぎる…。とにかく、私が手術する条件は一つだ。治るまで絶対に私の指示に従う事。わかったかね?」

 

レイ「……わかりました。お願いします」

 

 そして、帰る事となった。

 

レイ「久美子、喉の事は言わないで」

 

久美子「どうして?」

 

レイ「怖いの…。私、いつも人一倍努力してる。今の自分を作ってきた。放送部でも、合唱部でも、生徒会でも、それが壊れるのが怖い…」

 

久美子「レイちゃん…」

 

レイ「その事が学校に知られたら、コンクールに出られない」

 

翼「だが朝戸、人は時として、生き恥を晒さねばならぬ時もある。最悪の場合は喉の事を伝える。くれぐれもブラックジャック先生の言う事を絶対に守るんだ」

 

レイ「先輩……」

 

奏「あたしらはしょっちょう来れるわけじゃねえから久美子、レイの事を頼んだぞ」

 

久美子「はい!」

 

マリア「ちゃんと喉の療養に専念して、コンクールの練習に参加するのよ」

 

 そう言って翼達は帰った。その後、レイは手術を受ける事となった。

 

ブラックジャック「ピノコ、何を唸ってるんだ?機嫌が悪そうだな」

 

ピノコ「だって、ちぇんちぇは女の子だけは丁寧なんだもん!」

 

ブラックジャック「バカいえ、患者に女も男もあるか。始めるぞ」

 

 ブラックジャックは手術を始めた。

 

 

 

ライブ会場

 

 それから、翼はライブやアルカノイズとの戦闘があるため、電話でブラックジャックに連絡をとっていた。

 

翼「ブラックジャック先生、朝戸の様子はどうなんですか?」

 

ブラックジャック『2、3日で退院できる。それと、今日から2週間は声を出すなと言っておいた』

 

翼「シンフォギア装者として戦う立花達はもちろん、歌手でもある私や奏にマリアにとって、喉の調子は生命線です。きっと、レイもそれをわかっているでしょう」

 

ブラックジャック『お前さん、後輩想いだな』

 

翼「否定はしません。では」

 

 翼は電話を切った。

 

慎次「翼さん、予定が空いていれば、レイさんの様子を見に行きますか?」

 

翼「そうします、緒川さん」

 

 

 

大穴高校

 

 再びスケジュールに空きができたため、翼達は大穴高校へ来た。

 

翼「朝戸は大丈夫だろうか…?」

 

マリア「そんなに大穴高校へ転校した後輩が心配なの?」

 

奏「大丈夫だって。きっとレイはブラックジャックのダンナの言う事を聞いてるさ」

 

 ところが、騒がしい声を聞いた。

 

慎次「やけに騒がしいですね」

 

 ふと、屋上にレイがいる事に翼は気付いた。

 

翼「どうしたんだ?」

 

 翼達は屋上へ向かうと、そこには今までの声を失い、錯乱しているレイとそれを止めている久美子がいた。

 

翼「朝戸、何があったんだ!?その声はなんだ!?」

 

久美子「実は…」

 

 レイが約束を破って声を出してしまったために声を失った事を知り、翼は激怒してしまった。

 

翼「この大馬鹿が!朝戸、お前は約束を破って声を出した挙句、元の声を失ったというのか!?」

 

 慕っている先輩である翼に説教され、レイは泣き出してしまった。

 

翼「このような事態を招いたのはお前が下らん見栄を張ったのと病気に対する認識の甘さが原因だ!この学校のみんなに喉の事を伝えるぞ!」

 

 遂にレイが恐れていた事を翼がやろうとしたため、レイは喉の事を伝えるのをやめてほしかったが…。

 

翼「言ったはずだ、最悪の事態になったら喉の事を伝えると。もうコンクールは諦めて療養に専念しろ!仮に治ったとしても、練習が足りないお前は足手まといだ!」

 

 ここまで厳しく言われてはもう耐えられないレイは逃げ出してしまった。

 

久美子「翼さん、いくら何でも…」

 

翼「このような事態になったのは、約束を守らなかった朝戸の自業自得だ。失礼する」

 

 そう言って翼は先に戻った。

 

マリア「久美子、翼は不器用だからあんな言い方になってしまうの。あんなに言ったのも、後輩であるレイの夢を応援しているからこそなのよ。レイが恐れていた喉の事を伝える事にしたのも、レイを誤解で苦しませたくない翼の優しさなの」

 

久美子「そうなんですか…。翼さんって、何でもできるイメージがあったのに…」

 

奏「それは歌手としての翼の姿しか知らないからさ。翼はな、部屋の片付けはできないし、何かと不器用なんだ」

 

久美子「ええっ!?片付けができない!?」

 

マリア「それに、翼も家のしきたりに囚われず、夢に向かってほしいと思っているパパさんに似たような事を言われたのよ。翼のパパさんも不器用だから、その当時の翼に想いは伝わらなかったけど」

 

久美子「そうだったんですか…」

 

 

 

TOM

 

 その後、翼は和登と話をしていた。

 

和登「翼さん、僕に話って何なの?」

 

翼「和登、お前に朝戸の事を頼みたい」

 

和登「あいつの事を?」

 

翼「私はいつでもここに来れるわけじゃない。本間にも先に言ったが、普段から朝戸の事を頼めるのはお前と本間しかいないんだ」

 

和登「翼さんに指導してもらったから、その頼み、引き受けるよ」

 

翼「ありがとう」

 

 普段のレイの事を和登に頼み、翼は慎次が止めている車に乗り、その場を後にした。

 

 

 

大穴高校

 

 レイが約束を破って最悪の事態を招いてしまったために翼はレイの喉の事を伝えた上、ブラックジャックにも約束を破った事で怒られてしまい、3か月も声を出す事を禁じられてコンクールへの参加を断たれたレイはショックを受けていた。

 

高校生A「レイちゃん、喉の病気だなんて…」

 

高校生B「翼さんが言ってた事は本当っぽいし、もうレイちゃんの声、聞けないのかなぁ…?」

 

高校生C「仕方ないだろ。俺達にできる事は、レイちゃんの喉の病気が治るまで見守ってやる事だけさ…」

 

 そんな時、レイが通りかかった。

 

高校生A「レイちゃん、俺達はレイちゃんの声を聞ける日を待っているから、ちゃんと声を出さずに療養に専念するんだぞ」

 

 レイの事情を知ったため、クラスメイト達も声を出せないレイの事を心配し、見守る事しかできなかった。

 

 

 

市街地

 

 アルカノイズが現れたため、装者は現場へ向かった。アルカノイズとの戦闘が終わった際、響達は翼の様子に気付いた。

 

響「翼さん、何かあったんですか?」

 

翼「朝戸の事でな…」

 

未来「確か、レイさんは喉の病気で…」

 

クリス「やっぱ、転校した奴がコンクールを諦めて喉の療養に専念しなきゃならねえ事に落ち込んでいるのが気になるのか?」

 

翼「ああ。朝戸も楽しみにしていたが、将来の夢を溝に捨てるような真似だけはしてほしくなかったから、喉の事を同級生たちに伝え、目先の事であるコンクールは諦めろと言った…」

 

 マリアが言った通り、約束を破ったレイに対する厳しい言い方と喉の事情を教えた事は不器用ではあるものの、事情を知らない事による誤解でレイを苦しませたくないのと、将来の夢を絶たせないためであった。

 

切歌「声を出せなくなったら、とっても辛いのデス…」

 

調「私達だと、耐えられなくなりそう…」

 

 

 

大穴高校

 

 和登もレイの喉の事を知る事となった。

 

和登「翼さんから聞いたけど、朝戸さん、喉が…」

 

久美子「他の人達にも翼さんは伝えたの。誤解を招きたくないからって」

 

和登「確かに、知らせた方が変な誤解をしなくていいと思うよ」

 

 音楽室へ来ると、掃除をしているレイがいた。

 

久美子「ああやって毎日、放課後にみんなが帰ってから1人で雑用しているの。床や楽器を磨いたり、譜面を揃えたり…。レイちゃん、唄うのが好きなの声を出すのが好きな子なの。わかってあげて、和登さん」

 

和登「わかったよ」

 

 そんな時、竹刀を落としてしまい、拾うために音楽室へ入った。

 

和登「いや、あの、その…」

 

 レイは逃げ出してしまった。

 

久美子「レイちゃん!」

 

和登「朝戸さん!」

 

 

 

道路

 

 声を出せず、レイは失意のうちに帰っている中、不良が通りかかった。

 

不良A「よぉよぉ、彼女。どこ行くの?送ってやるよ」

 

不良B「いいとこ行こうぜ」

 

 声を出せないため、そのままレイは帰ろうとしたが、不良達は道を塞いだ。

 

不良C「こんな夜遅くは危ねえって」

 

不良A「安心しなよ、俺達は優しいから。おい、待てよ、!まあ、そう慌てんな」

 

 不良はレイが喋らない事に気付いた。

 

不良A「こいつ、何もしゃべらねえぞ」

 

不良B「都合がいいぜ」

 

 そのままレイを連れて行こうとする不良達であったが、鞄が飛んできた。

 

不良B「誰だ!?」

 

???「てあああああっ!!」

 

 不良に竹刀を叩き込んだのは和登であった。

 

不良C「何だ!?てめえ!」

 

 何も気付かずに不良が楽譜を踏んだ事に和登は激怒した。

 

和登「お前ら、レイの大切な楽譜を!」

 

 翼から教えられた剣術で次は2人目の不良を撃破した。

 

不良A「何だ?こいつ!」

 

和登「たあああああっ!!」

 

 3人目の不良を叩きのめそうとした和登であったが、3人目は竹刀を受け止めたものの、即座に和登はキックで撃破した。

 

不良A「つ、強ええ野郎だ……!」

 

 その後、明るい場所に着いた後、和登は楽譜を渡した。

 

和登「朝戸さん。これ、汚しちゃって…。僕って、ほんとダメな奴だよね?」

 

 しかし、レイはスマホを操作して伝えたいメッセージを見せた。

 

『そんな事ない。私、勘違いしてた。和登さんの事』

 

 

 

回想

 

 それは、翼の後輩である響達がレイの事を心配して訪ねてきた時であった。

 

響「レイさん、翼さんから話は聞きました。声を出す事を禁じられてて、とても辛い想いをしてるって」

 

未来「紙に書いて伝えたい事を伝えているようですけど、私達がより手軽に伝える方法を教えます」

 

 未来はかつて音に反応するノイズに襲われた際、声を出さずに響と伝え合う方法としてスマホを使っており、スマホを使って伝える事をレイに教えた。そして、レイは早速スマホで感謝の気持ちを伝えた。

 

『これなら、あなた達の言った通りに手軽に文字を打って伝える事ができる』

 

響「役に立って何よりです!」

 

未来「だけど、スマホで伝えるのは学校の外での話で、学校では紙に書いて伝えたい事を伝えてください」

 

 

 

和登「そんな…。僕だってあなたの事を偉そうで、嫌な奴だと思ってた…ごめん!」

 

 和登が謝ると、レイはスマホで伝えたい言葉を打ち、それを見せた。

 

久美子「レイちゃん…」

 

 そして、レイは自宅に帰った。

 

 

 

ブラックジャックの家

 

 そして約束の日、翼は奏とマリアと共にブラックジャックの家に来ていた。ちょうど和登と久美子も来ていたのであった。

 

翼「あれから3か月か。和登、朝戸は一切声は出していないのか?」

 

和登「もっちろん!」

 

久美子「学校のみんなもレイちゃんを気遣ってくれているので、大丈夫です」

 

翼「それはよかった…」

 

奏「なあ、それはそうとして、レイの声を出せるようにしてくれないか?」

 

ブラックジャック「私は約束を守ったら、手術を考えていいと言っただけだ」

 

マリア「あの子はきちんと約束を守った。だから、そうすべきです」

 

翼「先生、朝戸が声を出せるようになる日を学校のみんなも、私も待ち望んでいるのです。どうか、お願いします!」

 

 ちょうど来ていたレイは翼の言った事が聞こえていた。

 

レイ「(先輩…先輩も私の声を聞ける日を待ち望んでいたなんて…)」

 

 実は、3か月前にブラックジャックは人口声帯を付けるとレイに言っていた。そして、人口声帯と言った代物を手に取ったが…。

 

ブラックジャック「残念だが、こいつはただのチューブでね、こいつが人口声帯なんていうのは全くのデタラメだ」

 

和登「そんな…!」

 

翼「いや、こういう時は」

 

 その事実に絶望したレイは悲しみ、出て行ってしまった。

 

翼「待て、朝戸!お前の声を元に戻せる医者がまだ」

 

レイ「(私の、私の声はもう二度と…)」

 

 ラルゴと散歩していたピノコはレイとすれ違った。

 

ピノコ「もう帰るの?あ、そっちは危ないわよ!」

 

 ピノコの警告も聞かず、足場の悪いところを通ったため、レイの足元が崩れ、崖から転落してしまった。

 

レイ「きゃあああああっ!!」

 

 そこへ慎次が海の上を歩いて駆け付け、レイを抱えて垂直に崖を走り、崖まで上がったのであった。

 

慎次「大丈夫ですか?レイさん、きちんと元の声が出ていますよ」

 

レイ「先輩のマネージャーさん…」

 

 和登と久美子は急いだものの、おいしい所を慎次に持っていかれてしまった。

 

和登「あの人、本当に人間なの…?」

 

久美子「海の上を走ったり、崖を垂直で走り登ったり……」

 

 そして、翼達も駆け付けた。

 

レイ「私、声が出せる…」

 

ブラックジャック「炎症さえ治れば声が出せる。別に不思議じゃない」

 

レイ「でも先生、先生はあの時は一生声が出ないって」

 

ブラックジャック「ああでも言わなければ、君は真剣に治そうとしなかっただろう?」

 

奏「それと、喉の事をみんなに伝えたのも、コンクールを諦めろって言ったのも、全てレイが療養に専念できるようにするための翼の不器用な配慮だったのさ」

 

マリア「翼は和登や久美子以上にあなたの事を心配していたの。将来が有望視されている大事な後輩だからね」

 

レイ「翼先輩…!」

 

 声を失った際に翼が厳しく言った事は不器用ではあったものの、自分への配慮であった事にレイは気付き、涙を流した。

 

ブラックジャック「あの時、『声が出なければ死んだほうがマシ』だと言った。だが病気に勝つには、本人が死ぬより辛い事を乗り越えなきゃならん事もある」

 

翼「それが、生き恥であってもだ」

 

レイ「はい…」

 

ブラックジャック「お前さんにはこんなに真剣に思ってくれる友達が2人、そして大物歌手の先輩とそのかけがえのない友人2人がいるんだ。それだけでも幸せさ」

 

 二コリと笑う奏と和登、そして微笑む久美子と翼とマリアであった。

 

慎次「よかったですね」

 

翼「ああ。朝戸、私は世界という舞台で待っている。いつか大物歌手になって、私と一緒に唄いに来てみろ!」

 

レイ「先輩…!」

 

奏「おいおい、あたしらも忘れるなよ」

 

マリア「待っているのは翼だけでなく、私と奏も一緒よ」

 

レイ「奏さん…マリアさん…。3人とも、いつは私はあなた達の立つステージに立って、一緒に唄いたいです!」

 

 その言葉を聞いた翼達は微笑み、その場を後にしたのであった。




これで今回の話は終わりです。
今回はアニメのサブタイトルは声を失ったアイドル、原作の題名は悲鳴の内容をやり、和登と久美子が初登場する流れとなりました。
レイを翼の後輩でリディアンから転校して来た設定にしたのは、声を失ったアイドルをやるなら、歌手である翼はレイと何か関わりがあった方がいいと思い、翼とレイを先輩後輩の関係にしました。
翼が大穴高校の剣道部員に指導するシーンはブラックジャックのOVAの7話、白い正義での白拍子が東西大学の剣道部員に稽古をつけるシーンが面白かったため、それをやってみようと思って挿入しました。剣道部員が車田飛びしているシーンは大袈裟にやった方が面白いと思ったからです。
次の話はOVA版のしずむ女にパヴァリア光明結社の改造人間の内容も加えた話で、ブラックジャックのライバル的存在、キリコが出てきます。
また、次の話は前後編に分け、キリコを初めとした主要なサブキャラが出る話が続く予定です。

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