三ヶ月湾
夜の三ヶ月湾の海岸で、松葉杖を突いて立っている大学生ぐらいの少女は無垢な瞳で海を見ながら呟いていた。
少女「好きやとて、ジロどんは人間やした。家柄も網元の跡取り。好きはもうたくさんとナギは泣きやした。泣いて泣いて、目が潰れるほど泣きやした」
その少女の無垢な瞳は神の力の器として作られたオートスコアラー、ティキを超えるほど穢れのない純粋な心を象徴していたであった。
少女「それでも人魚のナギはジロどんを諦めきれなかった。もっと気を引こうと、贈り物をしようと海に入りよった。月夜の海に毎晩、毎晩」
三ヶ月市
とある日、ブラックジャックはピノコを連れて三ヶ月市を訪れていた。
ピノコ「ちぇんちぇ、どうしてみかじゅき市に来たの?」
ブラックジャック「別に。ただ、気まぐれで来てみたくなっただけさ」
ピノコ「でも、海もきれいで、来てよかった~!」
ブラックジャック「(本当は三ヶ月市は30年以上前に本間先生が三ヶ月病患者救済のために奔走していたと聞いた。だから、数十年経過して湾が元通りになった三ヶ月市に来てみたくなった。そして、三ヶ月病患者は今、どうしているのかも見てみたい)」
ブラックジャックが三ヶ月市に来た本当の理由は、自分の恩師であった今は亡き本間丈太郎が三ヶ月病患者の救済のために奔走していたと聞いたため、公害病にも興味があったために今の三ヶ月市を訪れてみたくなったのであった。
リディアン
その頃、響達は学校にいた。
響「未来、ブラックジャックさんは三ヶ月市に行ったんだって」
未来「三ヶ月市?三ヶ月市っていったら、三ヶ月病という公害病で有名な場所よ!」
響「公害病?」
切歌「それって、どんな病気なんデスか?」
調「全然知らない」
クリス「お前ら、公害病を知らねえのかよ!」
未来「小学校や中学でも習ったでしょ?」
響「あまり頭に入らなくて…」
未来「(そういえば、中学時代はそれどころじゃなかったわ…)」
中学時代、響は沙織が救済のために動き出すまでは誹謗中傷を受けていて、公害病の事が頭に入っていなかった。
クリス「簡単に言えば、公害病ってのは工場とかから出る重金属などの有害物質によって引き起こされる病気の事だ。高度経済成長期に発生した四大公害病が特に有名なんだよ」
調「有害物質による病気…」
切歌「それを発病したら、助かるのデスか?」
クリス「ダメだろうな。公害病を発症したら、死ななくても知的障害を患ったり、手足の異常が発生するなりして、生き地獄になったそうだ」
切歌「そんなに恐ろしい病気があったのデスか…!」
調「ブラックジャックやパルティータさんでも治せないの?」
未来「多分、ラピスや錬金術による治療ができるパルティータさんじゃないとダメだと思うよ。流石のブラックジャック先生でもこういったのは確実に治せる保証はないかも知れないし…」
響「そんな…!」
説明だけでも十分にわかる公害病の恐ろしさを知った響達であった。そこへ、通信が入った。
響「響です」
弦十郎『響君か。これから、未来君とクリス君と共に三日月市に向かってブラックジャック君と合流してほしい。詳しい説明は本部でするから、まずは本部に来てほしい』
響「わかりました!」
三ヶ月市
ピノコが三ヶ月湾を見てはしゃぐ中、ブラックジャックは海を眺めていた。そこへ、医者と思わしき50代後半ぐらいの男が来た。
ブラックジャック「これはフォックス先生じゃないですか」
フォックス「こちらこそ、この場でまたお会いできるとは思っていませんでした、ブラックジャック先生。何用で三ヶ月市に?」
ブラックジャック「この地はかつて本間先生が三ヶ月病患者救済のために力を尽くしたと聞いて、来てみたくなったんですよ」
フォックス「ええ。確かに本間先生は三ヶ月病患者の治療に全力を尽くしていました。当時、新米医師だった私もあの人の助手を務める事ができた事を光栄に思います。それから、私は三ヶ月病救済員会の嘱託医として三ヶ月病患者の救済をしています。しかし、いくら本間先生の手術を受けても全員が順調というわけではありませんでしたが…」
ブラックジャック「(やはり、重金属系有害物質による公害病は数十年経過した今でも未知の領域が多いのか…)」
フォックス「三ヶ月市に来る前、本間先生は他の地域の公害病患者も救済していましたが、晦日市市という街ではヨーコという晦日市病の患者を助けられず、その事を悔やんでいると私に話してくれました…」
ブラックジャック「晦日市…。確か、晦日市病患者の対応の件で問題になったという…」
フォックス「そうです。本間先生が助けられなかった少女のヨーコさんは晦日市病による知的障害で字が書けず、話が通じないのを理由に市役所が見捨てたのが問題となり、その市役所の職員は全員解雇という厳しい処分が下されました。以降、どこの役所もこの問題を教訓にし、知的障害者についてもきちんとした救済が行われるようになったのです」
ブラックジャック「(本間先生が遺した日記にも、それについての記述があったな…。本間先生の心境はとてもやるせない想いでいっぱいだったのだろう…)」
フォックス「ブラックジャック先生。近頃、この三ヶ月市に妙な噂がある事をご存知ですか?」
ブラックジャック「そういった事は聞いておりませんが…」
フォックス「近頃の三ヶ月市の海岸では、かなり凶悪な魚人が出没しているそうです。夜は浜に出歩かないようにとの警告が出ています」
ブラックジャック「魚人?」
フォックス「はい。もっとも、どういった姿なのかは目撃者の話でもよくわからないので、市役所はS.O.N.Gに調査、及び排除を依頼したとの事です」
ブラックジャック「(S.O.N.Gが動き出す事態になるとは…。これは厄介な事になりそうだ…)」
???「ブラックジャックさ~~ん!」
声をかけてきたのは、響達であった。
ブラックジャック「お前達か」
フォックス「皆さんがS.O.N.Gの装者なのですね?」
響「わわっ!私達の事を!?」
フォックス「安心してください。私はS.O.N.Gの装者事は知っていますが、誰にも話していませんから」
クリス「なら、安心だな」
未来「私達は…」
回想
それは、三ヶ月市に来る前に本部に立ち寄っていた時だった。
未来「魚人…ですか」
沙織「はい。三ヶ月湾の海岸に魚人が出没していて、被害が出る前に調査、及び排除の依頼がS.O.N.Gに入ってきました」
響「並行世界で出た魚人なのですか?」
弦十郎「いや、そうではないらしい。そもそも、出没したのは夜だったから、どういった姿なのか目撃者もよくわからないそうだ」
クリス「姿がわかんねえのか…」
弦十郎「残りの装者には別の視点で調査を行ってもらう。だから、響君達はちょうど三ヶ月市へ向かったブラックジャック君と合流し、調査と場合によっては排除にあたってくれ」
自分達は三ヶ月湾で魚人が出没しているため、その調査に来たとフォックスとブラックジャックに伝えた。
ブラックジャック「だから、三ヶ月市に…」
響「なので、よろしくお願いします!」
そんな中、フォックスが持つ医療器具に影響を与えない特製携帯電話に電話が入った。
フォックス「はい。わかりました」
連絡を聞き、フォックスは電話を切った。
ブラックジャック「どうしましたか?」
フォックス「三ヶ月病患者の1人が長年の苦痛に耐えられず、ドクターキリコに安楽死をしてもらったそうです」
ブラックジャック「キリコだと!?」
響「さっき、ブラックジャックさんがキリコって言葉に反応してたけど…」
クリス「キリコだって!?かなりやばい奴がこの三ヶ月市に来たみたいだぞ!」
連絡にあった三ヶ月病患者の自宅へ向かうと、白い長い髪と左目に眼帯をし、こけた頬などが特徴的な不気味な男がいた。
響「あ、あなたは…」
クリス「あいつは…安楽死を請け負うロクでもない医者、ドクターキリコだ!」
その言葉に響と未来は衝撃を受けた。
未来「安楽死を…請け負う……?」
キリコ「そこのお嬢さんは初対面なのに、よく俺の事を知っていたな」
クリス「あたしはパパとママが戦争に巻き込まれて死ぬまでは世界のあちこちを回ってたからな、あんたの噂もそん時に耳にした」
キリコ「だから、俺を知っていたのか」
ブラックジャック「キリコ、公害病の患者にまで安楽死をするようになったのか!」
キリコ「その三ヶ月病患者が死にたがっていて、治療の見込みもなかったから安楽死させた。ただ、それだけだ…」
いつもと違ってキリコは目を伏せ、安楽死させた患者の自宅を後にした。
ブラックジャック「あの男め…!」
フォックス「ブラックジャック先生、私も初めてドクターキリコが三ヶ月病患者を安楽死させたところを見た時は憤りを覚えました。ですが、その後にとても悲しそうな顔をしていたのです…」
ブラックジャック「キリコが悲しい表情を?」
フォックス「その様子を見た私は聞いたところ、『俺は公害病が許せない!公害病にかかってしまった人は本来の寿命を縮められ、生きる希望と意志さえ失って俺に安楽死させてくれと願うまでになってしまった。そんな治療できず、安楽死させるしかない人を人為的に生み出してしまった公害を俺は許せない!』と憤っていました…。実際、ドクターキリコが安楽死させた患者は公害病の人も多く含まれていたのです」
ブラックジャック「あのキリコが公害病に憤りを覚えていたとは…」
ブラックジャック自身も公害と公害病に強い憤りを覚えていたが、キリコも同様に公害病に強い憤りを覚えていた事に驚いていた。
ピノコ「ちぇんちぇ、宿はどうつるの?」
ブラックジャック「これから探す。響達も一緒にな」
ピノコ「おっぱいオバケと同じ部屋なんてごめんだわしゃ!」
クリス「あたしこそ、チビと一緒の部屋なんてごめんだな!」
ピノコとクリスはまたしても互いに『チビ』、『おっぱいオバケ』と言い合っていた。そして、偶然遭遇したタクシーに5人は乗った。
ブラックジャック「三ヶ月温泉の満月館」
運転手「へい、満月館」
運転手は満月館へタクシーを走らせた。その際にピノコは寝てしまった。
運転手「よくお休みですねえ、小さいお嬢さん。三ヶ月温泉、よく来られるんですか?」
響「私達、三ヶ月市に来たばかりなんです」
運転手「ああ、満月館とおっしゃったもんで。知る人ぞ知る旅館ですけど、その分、浜の景色がいいんですよ」
未来「そうなんだ」
クリス「それを知ってて選んだのか?」
ブラックジャック「いや、たまたま選んだだけだ」
そして進んでいると、トイレ休憩も兼ねて神社に来た。
クリス「ここって、神社か?」
運転手「そうっす。三ヶ月八幡。地元では、人魚神社って呼ばれてます」
響「人魚?」
運転手「三ヶ月浜の人魚伝説といって、昔は有名だったっす。今じゃ神社もさびれちまって、有名なのは30年以上前に世間を騒がせた公害病ですけど」
響達は神社を見た。
未来「人魚伝説はどういったものなのですか?」
運転手「まあ、だいたいは人魚姫と似たようなもんで、人間の男に恋をした人魚の悲恋を描いたもんっす」
響「……幸せな結末を迎える人魚の話って、ないのかな…?」
運転手「それなんっすけど、実は人魚伝説にはもう一つの話があるっすよ。きっと、人魚伝説が悲しいものばかりなら、幸せな結末を迎える人魚伝説を作りたいと作者は思ったんでしょうな」
響「そうでしょうね、運転手さん!」
未来「一流の悲劇より三流の喜劇って言葉があるぐらいだから」
クリス「どういった話なんだ?」
運転手「えっと、途中まではだいたい人魚伝説と一緒なんっすけど…はて?もう子供の頃に読んだきりで、忘れてしまったっす」
クリス「覚えてねえのかよ!」
運転手「まあ、幸せな結末を迎える人魚伝説がある事は事実なんで、そろそろ行くっすよ」
響達はタクシーに乗った。
満月館
そして、三ヶ月湾に面した満月館に到着した。
主人「いらっしゃいませ。満月館へようこそ」
そして、他の従業員と共にブラックジャック達を部屋に案内した。その道中、キリコと遭遇した。
ブラックジャック「お前も満月館に来ていたのか…!」
キリコ「奇遇だな」
しばらく睨み合った後、ブラックジャックは響達の後を追いかけた。
主人「温泉は露天でやして、24時間お入りになれやす。お食事は後先、どちらにしましょう?」
ピノコ「おんしぇん先!」
主人「かしこまりました。温泉だけに、ご湯っくりどうぞ!」
主人のオヤジギャグに響達はずっこけた。
主人「なんちゃって!」
そんな主人にピノコは拳骨した。
ピノコ「ゆーかげんにしろー!」
主人「なぁっ!これは秀逸!」
ピノコのギャグに主人は大笑いし、ピノコも笑った。
クリス「何を変なオヤジギャグを飛ばしてやがる!」
響「でもこのギャグ、面白いよ!」
未来「この旅館の主人さん、とっても親しみやすいし!」
オヤジギャグにクリスは不満げだが、響と未来は笑っていた。
クリス「よくこんなギャグを飛ばすな、オッサン」
主人「何しろ、先代の主人はギャグの達人で、一番ギャグを飛ばせる奴にしかこの旅館の主人の座を継がせないっていうもんで、一番ギャグがうまかった自分が主人の座をもらったんすよ!」
クリス「どういう神経してんだよ、先代の主人は…」
主人「さっき、旅館に来た人はギャグに応えてくれなかったもんで、ギャグに応えてくれるお客さんが来て大助かりですよ」
ブラックジャック「そいつはキリコだな」
ギャグに応えなかった人はキリコだと響達は思った。温泉にはブラックジャックが先に入り、響達はキリコの部屋に来た。
キリコ「お前達か」
響「キリコさん…なんでキリコさんは患者さんを死なせるんですか…?ひどいじゃないですか!」
キリコ「勘違いするな。俺は治せる患者は治す。救える命を粗末にはしない。俺が安楽死させる患者はどうしようもないほどの重体で、生きる意志もない患者だけだ。今日、安楽死させた患者も長年の苦痛と治療できない障害で生きる意志がなかったから、安楽死させたんだ」
未来「その患者さんはブラックジャック先生やパルティータさんなら助かるかも知れないんですよ!あなたが今日、安楽死させた患者さんだって、二人に診てもらえば…」
キリコ「…俺から聞きたい事がある。もし、お前達がブラックジャックやパルティータでも治せない不治の病にかかり、凄まじい苦しみを味わう事になったとしよう。それでもお前達は生きる事を望むのか?」
キリコからの凄まじく残酷な質問に響達は戦慄し、答えられなかった。
クリス「おい、それって…」
キリコ「残酷すぎて答えられないか。まあ、答えられなくてもいい」
響「どうして、キリコさんは安楽死をするようになったんですか……?」
キリコ「それも話すとしよう。俺は昔は軍医でな、軍医だった頃はブラックジャックのようにどんな命でも救おうとバカになっていた。だが…意気投合した人が俺の手ではどうにもならない病にかかって安楽死させざるを得なくなった。そして、戦場で身体の半分を吹っ飛ばされて、それでも死ねない怪我人をうんざりする程見てきた。そういう人間を穏やかに死なせてやると…みんなすごく喜ぶんだ。『ああ、楽になります』ってね。誰も彼も俺に心から感謝して死んでいったよ。それ以来、俺はどうにもならない患者は苦しませるより、静かに息を引き取らせた方がいいと思うようになったのさ…」
安楽死を請け負うようになったキリコの過去にまたしても響達は戦慄した。
クリス「あのオッサン、あんたが公害病に強く憤っていたって言ってたけど、本当なのか?」
キリコ「当たり前だ!重金属系のの有害物質を始めとした公害病のせいで、本来ならばまだ安楽死させるのには早すぎる人達を安楽死させざるを得なくなってしまったのだぞ!俺は治療の見込みと生きようとする意志のない奴の安楽死に抵抗はない。だが、公害病はとても憎い!」
フォックスが言った通り、キリコは公害に憤っていた。
キリコ「…俺としたことが、つい熱くなってしまった。気分転換に露天風呂にでも入ったらどうだ?」
響達は先に出たブラックジャックと入れ替わるように露天風呂に入った。
響「私達…知ってはいけない世界を知ってしまったのかな…?」
未来「…わからない…」
クリス「あ~!気分が転換できねえ!」
露天風呂に入っても気分転換できなかった。そこへ、クリスの胸を鷲掴みにする手があった。
クリス「ひゃっ!あたしの胸を触んじゃねえ!」
ピノコ「おっぱいオバケの胸は大きしゅぎるから、ピノコに分けるのよしゃ!」
クリス「ふざけんな!あたしは胸は自慢じゃねえが、分けられるもんじゃねえんだよ、チビが!」
またしても2人は喧嘩になってしまった。
未来「また2人は喧嘩してるね…」
響「あはは…」
執拗にクリスの胸を揉むピノコに対し、クリスは引きはがそうとした。
三ヶ月湾
そして、響達はお風呂から出た後、浜を眺めていた。
響「夜の三ヶ月湾って、綺麗だね…」
ブラックジャック「30年近くかけてようやく元の三ヶ月湾に戻ったんだ。そりゃあ、綺麗だろうな」
すると、主人が外の出てきた。
ピノコ「しゅばらしゆーでありんした~!」
主人「サンキ、ユー。なんちゃって!」
そう言ってると、松葉杖突いている少女がやってきた。
少女「魚、魚はいらんかね!?」
主人「仕入れの時間だな、月子!それに、漁師を束ねてる船長!」
月子の後ろにいかつい男が来た。
船長「ああ。今日も魚が大量に獲れたもんで、お前さんの旅館へ仕入れに来たぜ」
月子「獲れたてでおいしいぞ!」
主人「ああ、月子も船長もいつもご苦労さん!いつもの値段で魚やエビなどを買うからな」
月子「まいど、どうも」
主人はお金を払った後、魚やエビなどの魚介類を受け取った。
響「あの月子ちゃんって子、不思議だね…」
クリス「確かにな。どういえばいいのやら…」
ブラックジャック「その月子という子は船長の娘さんですか?」
船長「いいや、月子は俺の娘じゃねえ。けど、俺ら海の男達を始めとした地元の人達はあの子を娘のようにかわいがってるのさ」
主人「あの子は魚介類を獲るのが好きで泳ぎが上手くてな、泳ぎや潜り自慢の海の男達でさえ及ばねえんだ」
船長「それに、月子は水の中でも息ができる特異体質で、海に何時間も潜っていられる」
未来「水の中で息が!?」
クリス「冗談だろ!?魚のエラでもなきゃ、そんなのできねえだろ!」
月子の特異体質に驚く響達であり、それにはブラックジャックも驚いていた。
ブラックジャック「(水の中でも息ができるだって?何かの冗談だろう。人の肺は水中の酸素を取り込めないんだ。どう先祖返りしたって、エラなんかができるはずがない)」
しかし、一同は月子が松葉杖を突いている事に気付いた。
ブラックジャック「その足、いつから?」
船長「気付いたか。月子は俺達と会った当初は普通に歩けてたんだが…2、3年ぐらい前からだんだんと足が悪くなってきてな…」
主人「まるで、三ヶ月病ではないかと思い始めてきて…」
ブラックジャック「三ヶ月病……」
そんな中、月子はブラックジャックと視線が合い、しばらく見つめていた。ところが、その雰囲気を壊す存在、魚人が出現したのであった。
ブラックジャック「あれは…!?」
響「まさか、魚人!?」
響達が並行世界で見た魚人とは異なり、この魚人は今まで見た魚人よりもさらに見た目がグロテスクであった。
未来「でも、これまで見た魚人とは見た目が全然違うよ!」
クリス「それに、敵意剥き出しみてえだ!」
そのまま魚人は船長を殴り飛ばし、月子にも襲い掛かって月子は階段から転げ落ちた。
主人「月子!」
響「ブラックジャックさん、この場は私達が戦うので、月子ちゃんを!」
ブラックジャック「わかった!」
月子の事をブラックジャック達に任せ、響達は魚人と対峙した。
クリス「南の島の魚人よりもグロテスクで気色悪い姿をしてやがる!」
未来「でも、私達がどうにかしないと!」
響「2人共行くよ!」
3人はシンフォギアクリスタルを構えた。
響「Balwisyall nescell gungnir tron」
クリス「Killter Ichaival tron」
未来「Rei shen shou jing rei zizzl」
響達はシンフォギアを纏い、魚人に挑んだ。
クリス「今のところ、敵は遠距離攻撃手段を持ってねえようだな。撃ちまくってやるぞ!」
未来「うん!」
今の時点では魚人に遠距離攻撃の手段はないと判断し、クリスはガトリングやミサイルで、未来はビームで攻撃した。
未来「響!」
響「てりゃああああっ!!」
響のパンチやキックも魚人に効き、渾身の1発で魚人を吹っ飛ばした。
クリス「へっ、思ったよりも大した事ねえな」
しかし、魚人にできた傷はみるみる塞がっていった。
クリス「な、なんて再生力なんだ!?」
驚いている間に魚人は海へ逃げてしまった。
響「逃げちゃった…」
未来「あ、月子ちゃんはどうなったのか行かないと!」
誰も見ていないところでキリコは魚人を冷静に見ていた。一方、魚人に襲われて階段から転げ落ちた月子は立とうとしたが…。
ブラックジャック「動くな!じっとして…」
早速、ブラックジャックは診察を始めた。
ブラックジャック「どこを打った?痛みのあるところを言いなさい」
ピノコ「大丈夫よ。うちのちぇんちぇはドクターなんだかりゃ!」
ブラックジャック「肘はどうだ?少し血が出ているようだが…」
次は頸椎を診た。
ブラックジャック「頸椎は痛めてないようだな」
三ヶ月病ではないかと思ったブラックジャックは膝を診る事にした。
ブラックジャック「この膝、いつからだ?」
月子「膝?」
ブラックジャック「いつから痛むんだ?」
月子「先生、青真珠好きか?」
ブラックジャック「えっ?」
そこへ、響達も来た。
クリス「あいつ、話が通じてねえのか?」
満月館
月子を1人にするとまた魚人に襲われるのではないかと判断した船長は月子を満月館に泊めてもらう事にした。
船長「済まねえ、魚人がまた出てくるかも知れねえからな」
主人「いいっていいって。いつもこっちが世話になってるしな」
そんな一同を空からコウモリ女が見ていた。
コウモリ女「あいつ、のうのうと生きてやがる!ウチらは苦しい想いをずっとしてたっていうのに!!」
コウモリ女は月子に強烈な憎しみと嫉妬を向けていた。それから、一同は部屋に来た。
響「あの…青真珠って何ですか?」
主人「青真珠か。昔、三ヶ月湾で青真珠をもらった男はその女を嫁にしなければならない。女の愛の証ですぜ」
ピノコ「お、おんにゃの愛のあかち…」
主人「心配なく。今じゃそんなものはありっこねえし、とれっこねえ。ご心配なく、あはははっ!」
???「先生!」
そこへ、月子が来た。
ブラックジャック「月子か」
月子「月子、お風呂入る!だから、先生も入ろ!」
そう言って月子は人前であるのにも関わらず、恥ずかしがる事もなく堂々と服を脱いだのであった。その行動に一同は衝撃を受けた。
響「のぉおおおおおっ!!」
未来「そ、そんな!!」
クリス「恥ずかしくねえのかよ、このバカ!!」
他のみんなが寝る中、ブラックジャックは考え事をしていた。
ブラックジャック「(月子の足は明らかに本間先生の記録にあった三ヶ月病の症状だ。だが…船長の言っていた特異体質などといった奇妙な点も多い。これは病院で検査を行う必要があるようだ…)」
そして翌日、月子は帰る事となった。
主人「また泊まりに来てもいいぞ~!」
月子「うん!」
船長たちの元へ行く月子だが、その瞳はブラックジャックを見つめていた。その頃、キリコは自分の部屋で何やら薬の調合をしていて、それをブラックジャックは目撃した。
ブラックジャック「安楽死用の薬でも調合しているのか?」
キリコ「いや、普通の人間には効果はないが、ある特定の人間にだけ効果がある代物を調合している」
ブラックジャック「普通の人間に効果がなく、特定の人間にだけ効果があるだと?」
キリコ「ま、こいつは安楽死用ではなく、特定の人間にだけ効く護身用の毒薬というわけだ。俺もお前と同様に自分の身の危険には常に注意を払っている」
ブラックジャック「護身用の毒薬か…」
三ヶ月湾
月子は船長らと共に漁をしていた。水の中でも息ができる特異体質故、イセエビなどといった底物さえも息を気にせずにじっくり獲る事も可能であった。しかし、海から上がった際に船長ら漁師たちはある事に気付いた。
月子「痛い…、痛い……」
船長「月子、どうしたんだ?昨日より歩けなくなっているじゃねえか!」
月子「痛い…!」
漁師「やばいぞ、船長!」
船長「急いで連絡だ!」
満月館
急いで船長はピノコのスマホへ連絡を入れた。
船長『ブラックジャック先生、月子の足が一気に悪くなって歩けなくなっちまったんだ!』
ブラックジャック「何だと!?」
船長『頼む、急いで来てくれ!』
そう言って電話を切った。
響「月子ちゃんが歩けなくなったって…」
ブラックジャック「船長の口ぶりでは本当のようだ。ピノコ、行くぞ!」
ピノコ「はいなのしゃ!」
ブラックジャック「お前さん達は引き続き魚人の調査をしてくれ」
三ヶ月湾
ブラックジャックはピノコと共にタクシーで現場である港へ来た。
運転手「まいど、どうもっす!」
降りた先には、立てない月子と心配する漁師たちがいた。
月子「痛い…!」
船長「月子、ブラックジャック先生が来たぞ!」
月子「先生…先生が来た!」
ブラックジャックが来てくれて月子は喜んだ。
ブラックジャック「船長、月子はどっちの足も痛むのか?」
船長「ああ。昨日までは歩けてたんだが、今日は歩けなくなっちまってな。こんなに悪化が早いのも初めてだ」
月子「いい魚、いっぱい獲れた。きっとすぐに売れる。うふふっ!」
漁師「そうだな」
月子「行かなきゃ。お客さん、待ってる」
無理に立とうとしたために月子はブラックジャックの方へ倒れてしまい、ブラックジャックに抱き締められる形となった。
ピノコ「アッチョンブリケ!!」
月子「ごめんなさい…」
漁師「月子、今日は俺達が魚を売りに出すから、ブラックジャック先生にその足を診てもらいな」
船長「では先生、月子をお願いします」
ブラックジャック「ああ」
???「待ちな」
誰かが声をかけてきたためにそっちを向くと、そこにはコウモリ女がいた。
ブラックジャック「コウモリ女だと!?」
コウモリ女「コウモリとか言うな!ウチはそいつに用があって来たんだぜ!」
コウモリ女が指差したのは月子であった。
船長「コウモリ野郎!てめえの狙いは月子なのか!?」
コウモリ女「そうさ。失敗作のウチらはのうのうと生きているその女が許せないんだぜ!お前、ウチらの事は覚えとるだろ!?」
月子「誰…?」
コウモリ女「すっとぼけても無駄だぜ!失敗作のウチらはお前を殺さなきゃ気が済まないんだ!とっとと死にな!」
なぜコウモリ女に憎まれているのか月子にはわからず、コウモリ女は恨みで月子に襲い掛かり、ブラックジャック達はどうにかしようとした。そこへ、1発の銃声が鳴り響いた。
コウモリ女「がはっ…!」
ブラックジャック「お前は…!」
銃を撃ったのはキリコであり、コウモリ女には注射が撃ち込まれていた。
キリコ「危なかったな。だが、これで大丈夫だ」
コウモリ女「ウチを不意討ちして…ぐっ、ぐあああああっ!!」
注射を撃ち込まれたコウモリ女は苦しみだし、逃げてしまった。
ブラックジャック「キリコ、まさか人殺しのお前に救われるとはな」
キリコ「俺がこんな事をするのが想定外だったとでも言いたい顔をしてるな」
ブラックジャック「それよりも、あのコウモリ女に撃ち込んだ毒は朝に調合していた代物か?」
キリコ「そうだ。あの毒薬は血液中にあるパナケイア流体を破壊する代物でな、そいつを」
月子「先生や月子を助けてくれてありがとう」
話を遮ってお礼を言った月子にキリコは驚いた。
キリコ「何だ?この女は」
ブラックジャック「これから三ヶ月病かどうかの診察に連れて行くところだ。魚人やコウモリ女に襲撃された事もあって、今すぐ行く」
月子が魚人やコウモリ女に襲われたと聞き、キリコは思いがけない事を言った。
キリコ「ブラックジャック、俺も同行する」
ブラックジャック「珍しいな」
キリコ「その気になっただけにすぎん(あのコウモリ女や魚人に狙われたと聞くと、月子には何か秘密があるようだ…。それに……)」
邪な心がない、無垢な心の持ち主の月子の姿がキリコの目に焼き付いていたのであった。
月子「本当は優しいと、ナギはわかってやした。ジロどんが福知であると、ナギはわかってやした。だから、ジロどんのために笛をふきました。ピーヒョロピー、ピーヒョロロロ。それは見事な音色で、見事な踊りもご披露候!」
そう言って月子は踊り出した。突拍子もない月子の行動にブラックジャックもキリコもあっけにとられた。
月子「人魚の舞!ひーらりりりー、ひーらりりりー、ひーらららら」
ところが、月子は途中で痛がったのであった。
月子「痛い!」
キリコ「この症状は三ヶ月病!?」
ブラックジャック「まだ断定はできん!急いで総合病院へ!」
一同は総合病院へ向かう事となったが、その様子を魚人が見ていた。
魚人「ふふふ…ようやくあの子が心を奪われる男が見つかったか…」
そう言って魚人は海に潜った。
孤島
別の視点での調査で翼達は三ヶ月湾にある孤島に来た。
切歌「何もない島デスね」
翼「だが、魚人に関する手掛かりはあるはずだ」
???「うおおおん……」
そんな中、気味の悪い何かが聞こえた。
調「マリアにみんな、何か聞こえなかった?」
マリア「聞こえはしたけど…気味が悪いわ…」
翼「何かいるかも知れん。気を引き締めて」
そう言ってると、呻き声の主であるとてつもなくグロテスクな半魚人が現れた。
切歌「さ、魚の化け物デス!!」
調「並行世界の魚人よりも不気味で怖い…!」
翼「私達に牙を向けている上、こいつらが居住区に現れたら大変な事になるぞ!」
調「それはわかってる…」
マリア「片付ければ済む話、行くわよ!」
翼達は半魚人に向かっていった。しかし、半魚人はいくら斬っても再生するため、手を焼いていた。
翼「なんて再生力なんだ!?」
調「これじゃあ、キリがない…」
そうしている間にも似たような姿の半魚人が次々と現れた。
切歌「こんなに気色悪い化け物がたくさんいたら怖いデスよ!」
マリア「仕方ないわ。この場は一旦退いて作戦を立て直してからもう一度行きましょう!」
仕方なくマリア達は退く事にした。
これで今回の話は終わりです。
今回はブラックジャックのライバル的存在にしてアンチテーゼ的存在、ドクターキリコの登場と素性が謎に包まれた特異体質の少女、月子。まだ名前は出てないものの、ノーブルレッドのミラアルクの顔見せ的登場を描きました。
今回の話はブラックジャックのOVA版のしずむ女がベースですが、キリコの登場やシンフォギアの世界観と時代に合わせて公害発生から数十年が経過して三ヶ月市とそこに面し、元通りになった三ヶ月湾を舞台にしています。
また、原作版のしずむ女の話についても本間丈太郎がバリバリの現役医師で働いていた頃に起こった出来事として語られる描写を入れています。
今回登場したゲストヒロインの月子ですが、足の関節が痛む症状があるものの、三ヶ月病なのかは後で判明します。
次の話は月子の素性や秘密が明らかになります。そして、魚人も本格的に動きます。