セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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129話 ブラッククイーン

ブラックジャックの家

 

 ブラックジャックとピノコが寝ている時、音もなく杳馬が忍び込んだ。

 

杳馬「ぬふふふっ…、こいつがブラックジャックか…。よーし、引っ掻き回すためにこいつにもある事をできるようにしとかなきゃな」

 

 そう言って杳馬はブラックジャックの母親の形見であるペンダントに目をつけ、握ってから何かの処置を施した。

 

杳馬「よし、これでオッケーだ。後は思う存分、引っ掻き回してくれよ」

 

 杳馬は消えた。

 

 

 

S.O.N.G潜水艦

 

 翌日、ブラックジャックは弦十郎に呼ばれ、聖遺物保管庫に来ていた。

 

ブラックジャック「これがギャラルホルンか…」

 

弦十郎「ああ、そうだ。響君達はゲートを通って並行世界を巡れるんだ」

 

ピノコ「にゃんか、貝みたい!ピノコも並行世界に行きたい!」

 

 そう言ってピノコはゲートに飛び込んだが、すり抜けてしまった。

 

ピノコ「はいれにゃいのよしゃ!」

 

エルフナイン「ピノコさん、このゲートはシンフォギア装者と聖闘士ぐらいしか通る事ができません」

 

ピノコ「ああっ、ピノコも並行世界に行きたいのよしゃ!!」

 

ブラックジャック「ピノコが入れないんじゃ、私もダメだろうな」

 

 そう言いつつも並行世界に興味があるブラックジャックはゲートを通ろうとすると、ゲートに入れたのであった。

 

ピノコ「ちぇんちぇが入った!」

 

エルフナイン「そ、そんな事が発生するなんて…!」

 

ブラックジャック「まさか、私が入れたとは…。これは誤算だな」

 

弦十郎「意外な事実が明らかになったものだな」

 

ブラックジャック「並行世界へ行けるのなら、並行世界にいる患者の手術でもやりたくなってきた」

 

弦十郎「そして、払えるのであれば手術費を巻き上げる。ほんと、ブレないな」

 

ブラックジャック「(それに、死んだ母さんや友人達が生きている世界があるのかも知れない。といっても、20年近く経過して年老いた母さんはどんな姿なのだろうな)」

 

 並行世界に自分の母がまだ生きていれば会いたいと思うブラックジャックであった。

 

 

 

市街地

 

 今日もまた、アルカノイズが出現して装者達は応戦していた。

 

響「せっかく昼ご飯の時間だったというのに~~!」

 

未来「響、早くアルカノイズを倒さないと被害が広がるし、お昼ご飯を食べるのも遅くなっちゃうよ」

 

響「だったら、すぐに全滅させてご飯にする!」

 

 食べ物が絡んでいるため、いつも以上に響の戦意は高く、切歌と調は同感という顔をしていたが、クリスは呆れていた。

 

 

 

S.O.N.G潜水艦

 

 本部では戦いの様子に加え、避難の状況も見ていた。

 

あおい「みんなは順調にアルカノイズを倒しています」

 

朔也「これなら、大した被害も出ずに済みますよ」

 

沙織「ですが、避難の状況も見なくてはなりません。ノイズやアルカノイズは一般市民には恐怖の存在なので」

 

 その言葉を遮るように、とんでもない事が起こった。

 

あおい「司令、避難の際に交通事故が発生しました!」

 

弦十郎「何だとォ!?救急隊に連絡して、近くの病院に運ぶんだ!」

 

 

 

病院

 

 すぐにその連絡は近くの病院に入った。

 

医師「何、重傷患者!?ノイズ出現による避難の際の交通事故、全身打撲、意識混濁…。はい…、わかりました」

 

 急患が来た事で医師達は緊迫していた。

 

医師A「外科医は、外科の桑田先生はいるか!?」

 

 看護師の1人が桑田このみという美人女医のところに来た。

 

看護師「桑田先生!交通事故の重傷患者です!」

 

このみ「わかったわ、すぐ行く」

 

 早速、このみは患者の様子を診た。

 

医師B「交通事故です。全身打撲、意識混濁、血圧80-50.脈拍110…」

 

このみ「膝の関節が粉々になっている。整復は不可能ね。大腿骨下部で切断の用意」

 

 そして、このみは白衣を身に付けてオペを開始した。

 

このみ「大腿骨ろしゅつ、軟部挙上器どうぞ。のこぎり」

 

看護師「はい!」

 

 このみは眉一つ動かさず、整復不可能な患者の足を切断したのであった。そして手術は終わり、患者の母親と対面した。

 

このみ「生命維持を優先するために切断しました」

 

母親「足を…?うぅ…あの子はサッカー留学するはずだったんです…。小さい頃からの夢だったのに……」

 

このみ「お気を落とさずに。命が助かったんです。リハビリすれば、社会生活を営む事もできますわ」

 

 患者の母親が悲しんでも、このみは淡々と事実を語ったのであった。そして、その後…。

 

院長「まだ若い患者だったなぁ。可哀想に」

 

このみ「でもまず、命を助ける事が先決ですから」

 

院長「お母さん、悲しんでいたなぁ…」

 

このみ「いくら悩んでも結論が同じなら、決断は早いに越した事はありません。この前、いらした新しい医師連盟の理事長もそういう考えの方です。そうでしょう?」

 

院長「いや、もちろん君の言う事は正しいよ。私が知る限り君はいつも正しいし、新しい理事長も前の理事長に比べて非常に柔軟な考えと手腕を持つ方だ」

 

このみ「当然ですわ。人の命を預かっているんですから。医師連盟の理事長も今の理事長でなければ救える命も救えません。現に前の理事長は見栄を張った結果、患者を死なせてその親族からの報復によって息子さんが危篤状態になり、ブラックジャック先生に泣きついたと聞いています」

 

 そう言ってこのみは席を立ち、部屋を後にした。

 

院長「確かにそうだな。だが、今の理事長は前の理事長を無能と言って徹底的に罵倒して蹴落とし、理事長の座に着いたなどの悪い噂が目立つ人でもあるのだがな…」

 

 病院内では医師や看護師たちがこのみの陰口を言っていた。

 

医師A「桑田先生、今日も手術早かったなぁ」

 

医師B「早いだけじゃない、正確さもだ」

 

医師C「でもなぁ…切った足を大根みたいにデーンと置いた時にはドキッとしたよ」

 

医師D「美人だけどなぁ…。正直、願い下げだ」

 

医師E「心配するな。お前は相手にされないさ」

 

 外でも陰口を叩く看護師たちがいた。ちょうどこのみが帰る際にS.O.N.G本部からこの病院に来たブラックジャックとピノコが通りかかった。

 

看護師A「手術の鬼とはあの人の事よね」

 

看護師B「眉一つ動かさずゴリゴリやるんですもの」

 

看護師A「恋人はいるのかしらね?」

 

看護師B「さーね?想像できないわ。女ブラックジャックの彼氏なんてね」

 

 その会話はブラックジャックとピノコにも聞こえていた。

 

ピノコ「今、女ブラックジャックってゆった?そんな女がこの病院にいゆの?」

 

ブラックジャック「関係ない。行くぞ」

 

ピノコ「んん~、気になゆ」

 

 

 

市街地

 

 そして夜になり、このみは待ち合わせのレストランに来た。

 

このみ「待った?」

 

男「ああ」

 

このみ「会いたかったわ」

 

男「この前、会ったばかりじゃないか」

 

このみ「でも、毎日会いたいもの」

 

 それから、男はこのみに小さな箱をあげた。

 

このみ「何、これ?」

 

男「開けてみて」

 

 開けると、綺麗な指輪が入っていた。

 

このみ「綺麗…。素晴らしいわ。でも、これって…まさか」

 

男「結婚してくれ」

 

このみ「はあぁ…」

 

男「嫌かい?」

 

このみ「はっ、嫌だなんてとんでもない…。嬉しいわ」

 

 早速、このみは指輪をつけた。

 

このみ「ほんとに綺麗ね」

 

男「君の方がずっと綺麗さ…。乾杯しよう、僕達の未来に」

 

 2人は乾杯した後、料理を食べ始めた。

 

男「相変わらず忙しいの?毎日手術かい?」

 

このみ「ええ…まあ」

 

男「しかし、手を切ったり足を切ったりした後でよく食事ができるもんだねえ」

 

このみ「そんな言い方やめて」

 

男「あ、ごめん…。そんなつもりじゃなかったんだ…。実はね…今日は言うのよそうと思ってたんだけど…。いや、やっぱりやめよう」

 

このみ「なあに?気になるわ。言いかけたなら言っちゃって」

 

男「気を悪くしないでくれよ。実はこの前、病院を訪ねていった時、君の噂を聞いたんだ」

 

このみ「どんな?」

 

男「あんまりいい噂じゃなかった。冷酷なメスの女王様だって」

 

このみ「いいじゃないの。言わせておけば」

 

男「もっとひどい事も言ってた…。女ブラックジャック。ブラッククイーンだって」

 

 その言葉には、流石のこのみも動揺した。

 

男「ブラックジャックっていう、冷酷なメスの鬼がいるんだってね。ねえ、君はそんな男に例えられてるんだよ!汚名だよ!」

 

 実際はブラックジャックは余程の事がなければ切断するケースは少ないため、むしろ逆であった。

 

男「ねえ、君。結婚したら僕の収入があるんだし、外科医をやめたら?」

 

このみ「あなた…、私に医者をやめろっておっしゃるの!?」

 

男「いや、手術をやめるだけでいいんだよ。内科医に転向するとか…」

 

このみ「緑郎、私にあなたか仕事かどちらかをとれっておっしゃるの?仕事をとるかあなたをとるかって言われたら、私は仕事をとるわ!」

 

緑郎「このみ…」

 

このみ「帰るわ、さよなら」

 

緑郎「このみ、待って!」

 

 怒ったこのみはそのままレストランを出ていった。

 

 

 

バー

 

 一方、弦十郎はブラックジャックと共にバーに来ていた。

 

ブラックジャック「避難中に起きた交通事故の被害者の足が切断された?」

 

弦十郎「ああ。運び込まれた病院には優秀な外科医がいるそうだが、切断する際は眉一つ動かさずに手足を切断するから、評判は良くないらしい。ある意味ではお前と同類だな」

 

ブラックジャック「そうだな…」

 

弦十郎「付き合わせてすまないな。それなりに付き合いのあるお前とも飲み交わしたくなってな」

 

ブラックジャック「定期的に依頼をしてくれるから、俺としても助かる」

 

 大人同士で話をしていると、このみが酔っ払った様子で来た。

 

弦十郎「だいぶ酔っ払っているようだな…」

 

このみ「いい?私はブラッククイーンなのよ!女ブラックジャックなのよ、わかる?」

 

店員「ブラックジャックって先生なら、うちのお客さんですよ。風鳴弦十郎って人とも一緒に来る事もありますよ」

 

このみ「えっ?」

 

店員「ほら、そこに」

 

 このみはブラックジャックと弦十郎の存在に気付いた。

 

このみ「あれが…?あの人が…?ふーん…」

 

店員「あ、お客さん?」

 

 ふらふらになっているこのみはブラックジャックの近くに来た。

 

このみ「先生がブラックジャック?初めまして、私ね…桑田このみ。あなたの名前をあだ名に付けられたのよ。どう思う?名誉でしょ?」

 

弦十郎「あんた、随分と酔っ払っているようだな。何かショックな事でもあってヤケ飲みでもしたのか?」

 

このみ「大男は黙ってなさい。あなたって冷酷でメスの鬼で、吸血鬼で、フランケンシュタインで、ロボットで氷人間。そうなの?」

 

ブラックジャック「ああ…そうかもな」

 

このみ「うふふ、あははははh…。あー、おかしい!私と同類ね!」

 

 酔っ払っているためか、このみは指輪を外してしまった。

 

このみ「握手しましょうよ!あなたと私は同類!」

 

ブラックジャック「どうでもいいが、あんたどうしてそんなに飲んでるんだ?オペでミスでもしたのかね」

 

このみ「何言ってんのよ!生まれて一度だってミスなんかした事ないんだから!失礼な事言わないでよ!」

 

ブラックジャック「じゃあ、何でそんなに荒れてるんだ?」

 

このみ「荒れてる?誰が?私が?はん、冗談じゃないわ!私はいつも通りクールな女よ!メスの女王よ!」

 

ブラックジャック「悪い事言わないからさっさと帰って休んだらどうだ?明日二日酔いで仕事にならんぞ」

 

このみ「言われなくても帰ろうと思ってたところよ!バイバーイ!」

 

 そのままこのみは帰った。

 

店員「どこの病院の先生ですかね?」

 

弦十郎「さあな。ん?あの酔っ払ってた女医さんが忘れ物をしたようだ」

 

 弦十郎はこのみが忘れていった指輪に気付いた。

 

弦十郎「あの女医さん、今日が初めてか?」

 

店員「ええ。今日初めてのお客さんで…。困ったなぁ…。これ、随分と高そうな指輪ですよねぇ…」

 

ブラックジャック「やれやれ…」

 

 

 

ブラックジャックの家

 

 それから、ブラックジャックは家に帰ってきた。

 

ピノコ「ちぇんちぇ!お帰んなちゃい…」

 

 しかし、ピノコはある匂いに気付いた。

 

ピノコ「匂い、匂うじょ!にゃんら?にゃんら?にゃにゃにゃにゃ~!香水の匂いがしゅる!」

 

ブラックジャック「ええ?気のせいだろ?」

 

ピノコ「そーかちら…?」

 

ブラックジャック「それよりピノコ、この前女ブラックジャックって噂してたの、どこの病院だったか覚えてるか?」

 

ピノコ「ああ、あえ…?あえは隣町の回生病院って…はっ!にゃんでそんな事ちりたいの?」

 

ブラックジャック「何でって…、忘れ物を届けたいんだよ。隣町の病院だったな。ありがとう」

 

ピノコ「あやちい…。飲み屋で酔いつぶえた女が忘れた指輪を持ってるんじゃ?」

 

 それにブラックジャックは冷や汗をかいた。

 

 

 

リディアン

 

 翌日、ピノコはその事を響達に教えていた。

 

切歌「女ブラックジャックデスか…」

 

調「その人、ブラックジャックと同じような顔をしてるのかな…?」

 

 ピノコから女ブラックジャックこと桑田このみの話を聞いていた響達はまだ本人と対面していないため、ブラックジャックのような手術の痕が顔にある女だと思い込んでいた。

 

クリス「ブラックジャックはちゃんと落とし物を返そうとしてるから、気にしなくてもいいんじゃねーか?」

 

ピノコ「気になるのよしゃ!」

 

 嫉妬深いピノコは装者達の言葉にさえ耳を傾けなかった。

 

 

 

市街地

 

 一方、夕方になって弦十郎はこのみが酔いつぶれていた原因を考えていた。

 

弦十郎「あの女医はまさかの女ブラックジャックという通り名で知られていたとは…。酔いつぶれていた原因は…」

 

 そんな時、何かの音がして、弦十郎が駆け付けると、事故の現場に遭遇した。

 

弦十郎「おい、大丈夫か!?しっかりしろ!」

 

 

 

回生病院

 

 その日の夕方、このみは屋上にいた。

 

このみ「(緑郎、あなたが悪いのよ。あなたが私の事を理解してくれないから…)」

 

 そして、ようやくこのみは指輪を置いてきてしまった事に気付いた。

 

このみ「(指輪…婚約指輪がないわ…。昨日どこかで酔っぱらって置いてきてしまったんだわ。はぁ、どうしよう…)」

 

 そんな中、看護師が来た。

 

看護師「桑田先生、手術の時間です」

 

このみ「わかりました。すぐに行きます」

 

 このみに恋人がいる事は病院でも知られていた。

 

看護師A「ね、ちょっと。ブラッククイーン先生、恋人がいるんですってよ」

 

看護師B「えー、ほんとに!?超意外!」

 

看護師A「ふうん。いたとしてもさー、うまく行かないと思うなー」

 

看護師B「そうよねー」

 

医師A「いずれあの冷酷さに我慢できず、男の方が逃げちまうんじゃないか」

 

 手術の時間になった。

 

医師B「そうとは言っても、医者としては一流なんだよな…」

 

医師C「自分の彼女にするのは嫌だけど」

 

 そう言ってる間に手術が始まった。

 

このみ「術式開始!右手指3本切除!」

 

医師D「えっ?」

 

このみ「何か?」

 

医師E「利き手なのに」

 

このみ「残せる物なら残すわ。今ここで迷っていても結論は一緒でしょ?時間の無駄よ」

 

医師D「確かに…」

 

 そんな中、看護師が慌てて来た。

 

看護師「先生、緊急のお電話です!」

 

このみ「オペ中よ!」

 

看護師「ええ。でも緊急だと」

 

 緊急であったため、このみは電話に出た。

 

このみ「もしもし」

 

弦十郎『桑田先生、緑郎という青年が事故に巻き込まれて重傷を負った!』

 

このみ「ええっ!緑郎が重傷!?」

 

弦十郎『工事現場でクレーンに挟まれたんだ!』

 

 その事実にこのみはショックを受けた。

 

このみ「と、とにかく…すぐにこの病院に連れて来て!」

 

 緑郎は回生病院に搬送され、現場に遭遇した弦十郎も同行する事となった。

 

このみ「緑郎!急いで、この患者は私が!」

 

 緑郎の容態は深刻であった。

 

医師「骨が砕けている上に神経も血管もメチャクチャ…。その上、空気栓塞の恐れも…」

 

このみ「ああっ……神様…!」

 

医師「整復できませんよ、これじゃあ…。切断するほかないですね」

 

このみ「…そうね」

 

医師「先生、一刻も早く処置しないと危険ですよ」

 

このみ「だめよ…」

 

医師「え?」

 

このみ「ダメ、ダメよ、そんな事ダメよ…。切るのはダメよ…」

 

 一刻も早く処置をしなければならない現実と緑郎の足を切りたくない気持ちで揺れ動くこのみであったが、そこに弦十郎が来た。

 

弦十郎「桑田先生、諦めるのはまだ早い!頼もしい助っ人を呼ぶんだ!」

 

このみ「助っ人…?」

 

 

 

ブラックジャックの家

 

 早速、弦十郎は連絡を入れた。

 

弦十郎『ブラックジャック君、直ちに来てくれ!』

 

ブラックジャック「弦十郎か。何かあったのか?」

 

弦十郎『桑田先生の恋人が重傷を負っていて、桑田先生は彼の足を切断できないでいるんだ!早く処置をしないと手遅れになる!急いでくれ!』

 

 ふと、ピノコはこのみがつけていた指輪を見つけた。

 

ピノコ「あたちの勘は当たっていたのよしゃ。ちぇんちぇったら、やっぱりこの指輪を…」

 

 弦十郎からの知らせを聞いたブラックジャックは指輪を持って扉を開けようとしたが、ピノコが扉を閉ざしていたため、開けられなかった。

 

ブラックジャック「ん?何だ?」

 

ピノコ「ピノコにはわかってるんらかや!」

 

ブラックジャック「わかってるって、何をだ?」

 

ピノコ「女ブラックジャックとか呼ばえてゆ美人の女医に忘れ物を届けゆとか言って、会いに行くつもりなのよしゃ!」

 

ブラックジャック「ふ、どうしてお前はそんな事までわかるんだ?」

 

ピノコ「ラ~ルゴ~!ちゃんちぇを見張ってて!」

 

ラルゴ「ワン!」

 

ブラックジャック「ふう、こんな一大事に…」

 

 しばらくして静かになったため、ピノコも気になった。

 

ピノコ「ん?やけに静かなのよしゃ…?」

 

 中に入ってみると、ブラックジャックがいなくなっていた。

 

ピノコ「ああ?ラルゴしかいない!?」

 

 ラルゴは骨をしゃぶってて、ピノコは窓からブラックジャックが外へ出た事に気付いた。

 

ピノコ「やられた!」

 

 

 

回生病院

 

 弦十郎はブラックジャックが来るのを待っていた。

 

医師A「先生、早く決断を…!」

 

弦十郎「俺は部外者だが、頼もしい助っ人を呼んでおいた。もう少し時間をくれないか?」

 

医師B「頼もしい助っ人…?」

 

弦十郎「少しだけ俺と桑田先生だけにしてくれないか?」

 

 その言葉に他の医師達は従って弦十郎とこのみだけにした。そして、その直後にブラックジャックが来た。

 

弦十郎「ちょうどいいところに来てくれた」

 

ブラックジャック「連絡をありがとう。桑田先生、弦十郎から話は聞いている。二日酔いは大丈夫かい?」

 

このみ「あなたは…?」

 

ブラックジャック「それと、忘れ物を届けに来ましたぜ」

 

 そう言ってブラックジャックはこのみが忘れていった指輪を渡した。

 

ブラックジャック「昨日の元気がないのは、恋人が重傷を負ったせいでしょうか?」

 

このみ「…そうね。先生、教えてくださいませんか?」

 

ブラックジャック「ん?」

 

このみ「失礼ですけど、あなたにもし恋人がおありでしたら、その恋人の命に関わる時、あなたは遠慮なく手でも足でもお切りになりますか?」

 

ブラックジャック「切りますね」

 

このみ「ご自分の命より大事な恋人の体でも?」

 

ブラックジャック「私は医者ですよ。医者の診断に恋人もイカの頭もありませんな」

 

 事実、ブラックジャックは過去に相思相愛の恋人、如月恵の子宮ガンを治すためだったとはいえ、恵の子宮を切除したのであった。

 

このみ「そうね…。ふふふ…やっぱり冷酷な方ね」

 

弦十郎「ブラックジャック君、桑田先生と共に支度をしてすぐに緑郎の手術にあたってくれ!」

 

ブラックジャック「そうだな。桑田先生、そんならさっさとオペをやりゃいい。どんどんお切りなさい。遠慮はいらん!」

 

弦十郎「悪いな、こんな場に呼んでしまって…」

 

 恋人の足を切断できないこのみは悲しんでいた。そこへ、医師達が来た。

 

医師「桑田先生、そろそろオペを…」

 

このみ「わかってるわ…。一刻を争うのは…。でも…」

 

ブラックジャック「あんた、このままここでグズグズしているうちに恋人が死んでもいいのか!?」

 

このみ「いいえ!いいえ!そんな事」

 

ブラックジャック「とにかく、オペの準備だ!」

 

このみ「えっ?」

 

ブラックジャック「私が手伝ってやる。だからやるんだ」

 

弦十郎「頼んだぞ、2人とも…!」

 

 手術室の前で弦十郎が待つ中、ブラックジャックとこのみは白衣を装着し、手術に臨んだ。

 

このみ「術式開始します。大腿骨下部…切断します。メス」

 

 しかし、このみは緑郎の足を切断できなかった。

 

ブラックジャック「どうした?」

 

このみ「ダメ…やっぱりできない…。私には無理よ!」

 

ブラックジャック「仕方ない。代わって私が手術する。患部を切開、砕けた骨を整復した後、切れた神経を繋ぎ…切れた腱、筋肉も縫合して繋ぐ」

 

このみ「え!?切断しないの…?」

 

ブラックジャック「通常ならば切断する判断が正しい。普通の医者ならオペ中に空気塞栓を起こすからな…」

 

 ブラックジャックの神のごときメス捌きにより、緑郎の足を切断する事なく治す事に成功した。

 

医師A「切らずに残されたんですか!」

 

医師B「信じられません。奇跡です」

 

このみ「私じゃないの、先生が…」

 

ブラックジャック「あんたがやったんだろ?私は手伝っただけだ」

 

医師B「今日は、患者の誕生日なんですよね?」

 

医師A「素晴らしい贈り物になりましたねぇ」

 

 ちょうど緑郎も目を覚ました。

 

このみ「緑郎!」

 

緑郎「このみ…?」

 

このみ「緑郎!よかったわ、本当によかった…!」

 

 ブラックジャックは帰る事にしたが、その際にアルバムを落としてしまった。

 

このみ「ブラックジャック先生の落とし物かしら…?」

 

 失礼だと思いつつも中身を見てみると、それにはブラックジャックの初恋の人、如月恵の写真があった。

 

このみ「この人、もしかしてブラックジャック先生の恋人…?」

 

弦十郎「桑田先生、今度はあなたがそのアルバムをブラックジャック君に届けてやってほしい」

 

このみ「わかったわ(やはり、私はブラックジャック先生には敵わないわ。あの人は命を助けるために恋人の手や足を切断したか、臓器を切除した経験があったのかも知れない…)」

 

 直感ではあったものの、このみの勘は的中していた。

 

 

 

ブラックジャックの家

 

 一方、ブラックジャックは家の扉をピノコに塞がれ、家に入れなかった。そこへ、このみがアルバムを渡しに来た。

 

ブラックジャック「桑田先生!」

 

このみ「忘れ物よ」

 

 このみはアルバムをブラックジャックに渡した。

 

ブラックジャック「落とし物を渡してくれてありがとう」

 

このみ「そのアルバムにある写真の人が、先生の恋人かしら?」

 

ブラックジャック「そうだ。だが、もうその女性はこの世にはいない」

 

このみ「そうだったの…。これでお互いに忘れ物を返した事になるわ。先生、また機会があったら会いましょう」

 

 そう言ってこのみは帰ったのであった。




これで今回の話は終わりです。
今回は女ブラックジャックこと桑田このみが登場する話を描きました。
杳馬が何やら暗躍したり、ブラックジャックの初恋の人である如月恵の話題が出てくる以外はだいたいアニメと同じように描いています。
シンフォギアサイドは弦十郎がメインで、装者達の出番は少なくなっています。
最後にこのみがブラックジャックが忘れていったアルバムを渡したのは、次に再登場させる際に如月恵も登場させる前振りだと思ってください。
次の話はお坊ちゃん医師の白拍子が出てくる他、今回の話で話題だけ出てきた新しい医師連盟の理事長も出てきます。

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