セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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132話 女の意地をかけた戦い

ブラックジャックの家

 

 ある日の事であった。ブラックジャックの家に一本の電話が入った。

 

ブラックジャック「はい」

 

???『ブラックジャック先生ですか?私です』

 

ブラックジャック「如月先生か。船医をやっていたのでは…?」

 

恵『船の点検等もあって、2週間ほど港に停泊する事になりました』

 

ブラックジャック「ならば、これから私の指定するレストランでどうです?」

 

恵『わかりました。アルバムも持ってきてください』

 

 そう言って、恵は電話を切った。その会話はピノコも聞いていた。

 

ピノコ「どうちたの?」

 

ブラックジャック「これから、昔の友人に会いに行くんだ」

 

ピノコ「なんか、あやちい…!」|

 

 ピノコが察していたため、ブラックジャックは冷や汗をかいた。

 

 

 

レストラン

 

 そして、ブラックジャックはピノコを連れ、恵と出会った。

 

恵「お久しぶりです、ブラックジャック先生」

 

ブラックジャック「如月先生もお変わりない様子で…」

 

ピノコ「その人、何なのよしゃ?」

 

恵「ああ、自己紹介がまだだったね。私は如月(けい)っていうんだ」

 

ピノコ「にゃ~んか男っぽいけど、女の感じがするのよしゃ…」

 

 ピノコの女の勘にブラックジャックも冷や汗をかいていた。

 

恵「ブラックジャック先生、遂に妻子持ちになったんですか?」

 

ピノコ「しょんな訳ないのよしゃ!ピノコはちぇんちぇの助手でおくたんなの!しっけいしちゃうわのね!」

 

 その言葉に恵も衝撃を受けた。

 

恵「奥さん…。随分歳が離れてるね」

 

ピノコ「ピノコは子供じゃなくて、レレイなの!」

 

ブラックジャック「ピノコ、周りの人に迷惑だ!ピノコがお騒がせしてすみません、如月先生は2週間、どうしますか?」

 

恵「それは」

 

???「ブラックジャック先生、ちょうどいいところにいましたか」

 

 声をかけてきたのは、緑郎であった。近くにこのみもいたのであった。

 

ブラックジャック「桑田先生の彼氏か」

 

緑郎「この前はお世話になりました。ブラックジャック先生、お願いがあるんです」

 

ブラックジャック「お願い?」

 

緑郎「実は」

 

このみ「緑郎、余計な事を言わないで!」

 

ブラックジャック「何かあったようですな」

 

恵「桑田先生、でしたっけ」

 

このみ「ええ。私は桑田このみだけど…」

 

恵「私は如月恵と言います。2人で話をしませんか?」

 

 このみと恵は2人で話をする事にした。恵を警戒していたピノコも後を追った。

 

ブラックジャック「緑郎、そのお願いって何だ?」

 

緑郎「ブラックジャック先生にこのみの手助けに来てほしいんです」

 

ブラックジャック「何かあったのか?」

 

緑郎「ブラックジャック先生はスウェーデンから来た難病患者のイングリッドちゃんをご存知ですか?」

 

ブラックジャック「ニュースでも取り上げられているから、知ってるぞ。それと何か関係でも?」

 

緑郎「実は…」

 

 

 

回想

 

 それは、数日前の事であった。

 

緑郎『あれは、このみと僕が休暇中の時でした』

 

このみ「緑郎、今日はどこで昼食をとろうか?」

 

緑郎「迷っちゃうなぁ…。このみもせっかくの休暇だし…」

 

 そう言ってどこで昼食をとろうか悩んでいると、A大学病院の前に座り込んでいる親子を見つけた。

 

このみ「どうなされましたか?」

 

山田「私は山田と申します。この子の病気を治してもらいにこの病院の板台教授を頼って九州からここにまいりました」

 

このみ「板台教授…、腕のいい外科の女医だと聞いているわ。その人に頼ってきたという事は、相当な難病とみて間違いないわね」

 

山田「はい…。あっしの娘はスウェーデンから来たイングリッドちゃんと同じ病なんでやんすが、手術してもらえなくて…」

 

このみ「……板台教授に抗議してきます」

 

 A大学病院に入るこのみの姿に山田はある事を思い出した。

 

山田「そう言えば、あの人は女ブラックジャックのようだったでござんす。あの人ならば…」

 

 このみは見た目はゲバイおばさんの板台教授に抗議しに行った。

 

このみ「板台教授、なぜあの子を手術しないのですか!?」

 

板台「随分生意気な小娘だね。あんな普通の一般市民の娘を治したところで、何の得があるというの?イングリッドははるばるスウェーデンからあたしを頼ってきたのよ。世界中の目が今やあたしとイングリッドに向けられている。世界一の女医になるチャンスを放っておくぐらいなら、大した事じゃないわ」

 

このみ「あなたはそれでも医者なのですか!?例え腕はよくても、そんな腐った性根の医者を私は認めません!」

 

板台「認めない?小娘が粋がるんじゃないよ!」

 

???「まあまあ、この場は落ち着いて」

 

 そこへ、影斗が来た。

 

このみ「影斗理事長!」

 

影斗「このまま言い合っても埒が明きません。なので、ここは公平に勝負といきませんか?板台教授がイングリッドちゃんを、桑田君が山田さんの娘を手術するという事で」

 

このみ「確かにそうですね」

 

影斗「負けた方は…」

 

板台「医者をやめる、というのでどう?ま、あたしの勝利は確定したようなものだから、どうでもいいけど」

 

このみ「いいでしょう!」

 

 

 

緑郎「このみは負けたら医者をやめるという勝負を引き受けたんだ。でも、僕はこのみに勝負に勝ってほしい。だから、ブラックジャック先生の手助けを」

 

ブラックジャック「それはできませんな」

 

緑郎「どうしてなんですか?」

 

ブラックジャック「実は、私は同じ医師の板台教授の夫と男の意地をかけた勝負をした事がありましてね、だから、桑田先生と板台教授の女の意地をかけた戦いには手を出さない事にしました」

 

緑郎「そんな!それじゃあ、このみは絶対に負けますよ!」

 

ブラックジャック「だからこそ、桑田先生に女医の助っ人を呼んでいいかどうか聞くんだ」

 

 一方、このみは恵と2人で話をしていた。

 

恵「桑田先生はブラックジャック先生とお知り合いですか?」

 

このみ「ええ。バーとか緑郎の手術で知り合ったのだけど…」

 

 このみは恵の顔を見て、ある事に気付いた。

 

このみ「あなた、ブラックジャック先生の恋人に似てますが…」

 

恵「なぜ、気付いたのですか?」

 

このみ「ちょっと、ブラックジャック先生がアルバムを落とした際にその写真を見てしまって…」

 

恵「そうだったんですか…。実を言うと、あの写真は私の過去の姿なんです」

 

このみ「過去の…姿…?」

 

恵「私は元は女で名前の呼び方はめぐみでした。ブラックジャック先生とは同じ大学の先輩後輩で、医大だったので同じ医局に入って勉強していたんです。初めは先生を怖がっていたのですが、様々な事を経て、先生も私も互いを深く愛し合うようになりました…」

 

このみ「それで、今の姿になった理由は何なの?」

 

恵「ブラックジャック先生に想いを寄せていった私ですが……、子宮ガンに侵されたのです…。ブラックジャック先生はその事を私に伝えてくれて、その日から診察と治療を1人で引き受けたのです。そして、あの人は私の子宮を摘出して命を救ってくれました…」

 

このみ「(ブラックジャック先生が恋人であっても手や足を切ると言ったのは、この経験故だったのね…)」

 

 緑郎が重傷を負った際、ブラックジャックが例え恋人であっても切断しなければならないのであれば、躊躇いなく手足を切断すると言ったのがこの経験故であった事をこのみは理解した。

 

恵「そして、私は呼び方をけいと改め、男として生きる事にしたのです」

 

このみ「そうだったのね…」

 

???「うぅぅっ…、あああ~~ん!!」

 

 その事をピノコは泣いていたのであった。

 

恵「ま、まさか私達の話を聞いてたの?」

 

ピノコ「恵とちぇんちぇの悲恋はかなちいのよしゃ~~!」

 

 そこへ、ブラックジャックが来た。

 

このみ「ブラックジャック先生!」

 

ブラックジャック「桑田先生、彼氏から話は聞きましたよ。医師失格の女医である板台教授と負けたら医師をやめる勝負をするそうですね。何か、手術以外で私に手伝える事はありますか?例えば…助っ人の女医を呼ぶとか」

 

このみ「助っ人…。ええ、助っ人を連れて来てください。山田さんの娘さんの手術を引き受けた時から、私だけではどうにもならないと思っていたので、助っ人を呼ぼうと思っていました」

 

恵「助っ人?だったら、私を助手として使ってください」

 

このみ「如月先生?」

 

恵「男として生きていく事にしたのですが、さっきの話を聞いて一度だけ女として手術に臨みたくなりました」

 

ブラックジャック「だが、整形はすぐにはできないんだぞ」

 

恵「パルティータ女医はその場で整形が可能だと聞いていますので、彼女に頼もうと思います」

 

ブラックジャック「そうか…」

 

ピノコ「ピノコも手伝うのよしゃ!」

 

ブラックジャック「あと何人必要ですか?」

 

このみ「あと2人は必要です」

 

ブラックジャック「2人か…」

 

 

 

城戸邸

 

 翌日、沙織に電話がかかった。

 

沙織「ブラックジャック先生ですか」

 

ブラックジャック『沙織お嬢様、パルティータ先生を桑田先生の助っ人に行かせてもらえないでしょうか?』

 

沙織「ここ数日はパルティータが必要なほどの患者は来ていないので、大丈夫です」

 

ブラックジャック『ありがとうございます』

 

 そう言って、ブラックジャックは電話を切った。

 

瞬「沙織さん、パルティータさんを助っ人に行かせるお願いをブラックジャック先生がするなんて…」

 

 そういう時に影斗が通信を入れてきた。

 

影斗『それは、桑田君が板台教授と負けたら医師をやめる勝負をする事にしたからです』

 

星矢「新しい医師会の理事長か!」

 

沙織「影斗理事長はどうされますか?」

 

影斗『私は理事長でして、立場の関係で中立でなくてはなりません。では』

 

 影斗は通信を切った。

 

 

 

東西大学附属病院

 

 今度はブラックジャックが直接東西大学附属病院に赴いた。

 

泰彦「何?史子君を回生病院の桑田先生の助っ人に回してほしいだと!?別に助っ人の医師は男でもいいではないか!」

 

ブラックジャック「お前さん、女の意地をかけた戦いの怖さを知らんようだな。女同士の戦いに男が口を挟むのはやめた方が身のためですぜ」

 

泰彦「それでも、今後数日間に入っている予定の手術では史子君が助手として携わる事になっているんだ!急に助っ人に向かわせる事はできない!」

 

 言い合っている間に史子が来た。

 

史子「白拍子先生、私も桑田先生の助っ人に行きます!」

 

泰彦「だが、今後の予定が」

 

史子「私も女医として板台教授を許すわけにはいきません!それに、私の代わりにブラックジャック先生を助手にすれば他の先生方への負担を増やさずに済むではないですか!」

 

 その言葉に泰彦も納得したのであった。

 

泰彦「確かに、そうした方が負荷を増やさずに済む。ブラックジャック、無免許医を助手にするのは気が進まないが、史子君が戻ってくるまで私の助手を務めてもらおう」

 

ブラックジャック「俺もそうしようと思っていたところだ」

 

泰彦「その代わり条件がある。私の助手を務めている間は患者に法外な手術費を請求しない事、これが史子君を助っ人に行かせる絶対条件だ!」

 

ブラックジャック「わかりましたよ」

 

 

 

A大学病院

 

 手術日が迫っている中、板台は準備をしていた。その様子を他の医師達はこっそり話していたのであった。

 

医師A「板台教授って、ロクでもない女だよな?」

 

医師B「ああ。とにかく、手柄を独り占めして自分のお陰だと言い張るからな。旦那さんもまともとは言えない医者だったし、後にわかった事だけど、自分の手術が失敗し、ブラックジャックがその手術を成功させた事で面子を潰されてしまったそうだしな」

 

医師C「そのせいで教授に色々言われて医師をやめちまったし。ほんと、板台教授は欲望に手足がついたような悪女だよな。イングリッドちゃんだけでなく、山田さんの子供も同時に手術すればいいのに、それをせずにイングリッドちゃんを優先させるなんて、医師失格だよな」

 

 ひそひそ話が板台に聞こえたのであった。

 

板台「あんたら、そんな話をする暇があるのなら、さっさと準備しな!」

 

 板台に怒鳴られ、医師達は準備を進めた。

 

板台「(この手術は何としても成功させなければならないのよ…。そうしないと、あたしは世界一の女医になってあの女を見返す事ができない…!)」

 

 

 

回想

 

 板台は昔の事を思い出していた。

 

板台『そう、あの女は若い頃のあたしより美しかった上、いつまで経っても衰えない若さと美しさとあたし以上の手術の腕を持っていて憎たらしかった……!!』

 

 腕も良くて美しく、患者からの評判がいいパルティータに板台は若い頃から猛烈に嫉妬していた。そんな心境で手術を行っていた。

 

板台「あの女、あたしより美しくてちょっと腕がいいからって調子に乗って!あの女がやってる手術だって、あたしにも」

 

 パルティータがやっている手術は自分にもできると勝手に判断し、実行してみたが、結果は上手くいかなかった。

 

医師「ダメです、出血しています!」

 

板台「何であの女にできて、あたしにできないのよ!!」

 

 そこへパルティータが駆け付け、板台にビンタした。

 

パルティータ「あなた、自分の腕を過信して私がやる手術をするのは非常に危険よ!私達は患者の命を預かっている以上、つまらない意地を張らないで素直にできない時は協力を求めなさい!」

 

 そのままパルティータが手術を行い、成功させた。

 

板台「あの女……!!」

 

 何もかも自分より勝っていたパルティータに板台の屈辱と妬みは増すばかりであった。

 

 

 

板台「(世界一の女医はこのあたしよ!この手術にさえ成功すれば、世界一の女医だという賞賛を受けられる…。女ブラックジャックとか言われるあの小娘が勝てるはずもない!)」

 

 板台は欲に目が眩んでいた。

 

 

 

回生病院

 

 回生病院では、ブラックジャックが呼んだ女医たちが集まっていた。

 

史子「桑田先生、この度の手術は共に頑張りましょう」

 

このみ「ええ。みんな、私の助っ人に来てくれて嬉しいわ」

 

ピノコ「これだけいれば、あのおばちゃんをけちょんけちょんにできるのよしゃ!」

 

恵「そうね」

 

史子「でも、この手術は難しいので、この中で最も腕がよくてキャリアも長いパルティータ先生がメインでやった方がいいのではないでしょうか?」

 

パルティータ「私はあくまで助手、執刀医は桑田先生に任せるわ」

 

史子「ですけど…」

 

パルティータ「そもそも、この勝負を引き受けたのは桑田先生で、私達はあくまでも助っ人よ。それと如月先生、ちょっといい?」

 

 パルティータは恵と誰もいない部屋に来た。

 

パルティータ「確か、今回だけ女の頃の姿に戻してほしいって言ってたわね?」

 

恵「はい。船医をやって世界を回っていたので、錬金術の存在も知りました。桑田先生は山田さんの娘さんの手術の際は女性スタッフだけでやると言っていたので、私も女として手術に臨みたいんです」

 

パルティータ「私の錬金術でなら失った子宮も再生可能だけど、どうするの?」

 

恵「それは必要ありません。ただ、昔の姿に戻してもらえればいいだけなので」

 

パルティータ「わかったわ」

 

 パルティータは錬金術で恵を昔の姿に整形したのであった。そして、パルティータは昔の姿に戻った恵を連れてきた。

 

このみ「如月先生が昔の頃の姿に戻っている…!」

 

ピノコ「生で見ると綺麗なのしゃ…!」

 

史子「錬金術で整形したのですか?」

 

パルティータ「そうよ」

 

このみ「錬金術?あの、アニメとかで出てくる…」

 

パルティータ「まぁ、そんなとこかしら?錬金術の存在は秘密って事で」

 

このみ「わかったわ。それに、そろそろ手術の時間だから、山田さんの娘さんを手術する前にチームワークを築く訓練の一環としてやりましょう」

 

 このみ達は手術に向かった。

 

医師「桑田先生、山田さんの娘さんの手術に男性スタッフは関わらせないなんて、気がおかしくなったのか?」

 

院長「そうかも知れないが、女は怒らせると怖いっていうからな…」

 

医師「そもそも、あの子の病気は桑田先生では手に負えないんですよ。そんな患者の手術を引き受けるなんて…」

 

院長「だからこそ、他の病院から助っ人を呼んだんじゃないのか?彼女は医者としての務めを果たそうとしているだけで、見栄なんてはっていないよ」

 

 

 

東西大学附属病院

 

 さらに翌日、遂に運命の日がやってきた。助っ人に行った史子の代理でブラックジャックは泰彦の助手として患者の手術をしていた。手術が終わった後…。

 

ブラックジャック「これで今日の予定の手術は終わったな」

 

泰彦「ああ。今日はいよいよ、板台教授と桑田先生の女の意地をかけた対決の日だな…」

 

 そこへ、響達が来た。

 

ブラックジャック「お前さん達か」

 

響「ブラックジャックさん、今日は女ブラックジャックと呼ばれている女医さんとおばさんの女医との女の対決の日だと沙織さんから聞きました!」

 

切歌「だから、この病院のテレビで観戦しに来たのデス!」

 

泰彦「テレビなら君達の家でも見れるじゃないか!」

 

調「でも、こっちの方が観戦してるって感じがするからいい」

 

未来「なので、お願いします」

 

 観戦しに来た響達を泰彦は追い返せなかった。

 

アナウンサー『イングリッドちゃんの手術が始まりました』

 

クリス「そろそろ始まるぞ…!」

 

泰彦「ブラックジャック、どっちが勝つんだ…?」

 

ブラックジャック「さあな」

 

 自分の同期が手術に参加しているために落ち着かない泰彦とは異なり、ピノコがこのみの手術に参加していても冷静に見守るブラックジャックであった。

 

 

 

回生病院

 

 回生病院でも手術の準備が終わっていた。

 

恵「始まったみたいよ」

 

ピノコ「こっちもやるのよしゃ!」

 

このみ「では…始めましょう!」

 

 この手術に臨むこのみ達は白衣を着用し、手術が始まった。

 

史子「心拍数、血圧、バイタル共に安定。いけます!」

 

このみ「術式開始!メス!」

 

ピノコ「はいよのしゃ!」

 

 ピノコはこのみにメスを渡した。恵も同時にパルティータにメスを渡し、作業を続けた。手術に参加できない男性スタッフ達は持ち場で手術が無事に終わるのを祈る事しかできなかった。

 

山田「女ブラックジャックとも呼ばれる桑田先生や助っ人の女医さん達は助けてくんなさるでしょうか…?」

 

院長「さあ、本来であればこの病院の医師では手に負えない難病の患者だ。ですが、案外なんとかなるかも知れません」

 

山田「自信がありあすね…」

 

院長「何しろ、グラード財団の医療機関からブラックジャック先生にも匹敵する腕を持つとされる女医に助っ人に来てもらっていますから」

 

山田「その人の名は?」

 

院長「今回は正体を隠したいという本人の意向で、言えないのです」

 

 

 

A大学病院

 

 イングリッドの手術をしている板台であったが、助手を務める医師達の行動の遅さに苛立っていた。

 

板台「遅い、遅い、遅すぎる!何度も動作が遅いって言ってるでしょ!?」

 

医師A「(遅い遅いって、あんたの傲慢な態度についていけるわけないだろ!)」

 

医師B「(俺達の事も考えずにただ、自分の事しか考えてない奴なんて…!)」

 

 板台の態度に助手を務めている医師達はかなり不満がたまっており、それが動作の遅さに繋がっていた。

 

板台「(何でこいつらはいつもいつも遅いのよ!)」

 

 助手たちが自分の思う通りに動いてくれない事に板台も不満であった。その日頃の行いとチームワークの悪さのせいなのか、結局は手術の甲斐なく、イングリッドは死亡したのであった。

 

板台「そ、そんな…!」

 

 手術がうまくいかなかった事に板台は落ち込んだのであった。

 

 

 

回生病院

 

 一方、このみ達の方は前の日にそのメンバーで手術を行い、チームワークを磨いていたために手術も順調であた。

 

恵「タイムリミットはあと5分です!」

 

このみ「縫合!」

 

パルティータ「これが最後の仕上げよ…!」

 

 遂に縫合も終わった。

 

このみ「術式終了…!」

 

ピノコ「終わった…」

 

 このみ達は手術室から出てきた。

 

山田「成功ですか?」

 

 その問いにしばし沈黙した後…。

 

このみ「成功よ!」

 

 成功した事に山田はもちろん、待っていた院長達も喜んだ。

 

史子「このチームでうまく行きましたね、桑田先生!」

 

このみ「ええ、山田さんの娘さんの病気は私だけではどうにもならなかったわ。この手術がうまくいったのは全て、あなた達と力を合わせ、患者を助けようとしたお陰よ」

 

恵「いい思い出になりました」

 

ピノコ「だけど…ちゅかれた…」

 

 この手術に携わったこのみ達は疲労により、パルティータ以外は寝てしまった。

 

パルティータ「成功して緊張の糸が切れて寝ちゃったみたい」

 

院長「今日はもう休ませておこう。大手術を終えたのだからな」

 

 寝ているこのみ達に院長達はそっと布団をかけてあげた。

 

 そして翌日、回生病院側の結果を聞きに板台が来た。

 

板台「向こうはどうなのかしら?ま、あたしが上手くいかなかったから、向こうも失敗してせいぜい引き分けって事になるわね」

 

 そこへ、このみが出てきた。

 

板台「小娘、そっちはどうなの?ま、手術の方が」

 

このみ「成功したわ」

 

 このみが放った言葉に板台は衝撃を受けた。

 

板台「せ、成功!?何かの間違いよ!あの難病患者の手術なんて小娘の技量ではできないはず!それこそ、ブラックジャックのレベルでなければ」

 

このみ「だからこそ、助っ人を呼んで手術に臨んだの。あなたのその様子では、手術は失敗したそうね」

 

 図星を突かれ、板台は言い返せなかった。

 

板台「(助っ人…?まさか、あの女を助っ人に!?)」

 

このみ「あなたが私との勝負に負けたのは、患者を救うためでなく、自分の欲を優先させたためよ。医者の使命は怪我をしたり、病気にかかった患者の命を助ける事。それを忘れていたから今回、あなたは助手とのチームワークが悪かったために患者を助ける事ができずに死なせてしまった。違うかしら?」

 

 これはこのみが言い放った板台が手術に失敗した原因を推測した皮肉ではあったものの、またしても板台は図星を突かれた。

 

板台「そんな!そんなそんな!世界一の女医という名声を得て、あの女を見返してやりたかったのに!!」

 

???「それがあなたの本性という事ですか」

 

 そこへ、影斗が現れた。

 

板台「トカゲ男、いつの間に!?」

 

影斗「板台教授、あなたは医者の使命を忘れ、くだらない私怨を優先させ、欲に目が眩んだが故に負けたのです」

 

板台「くだらない私怨?あたしのあの女を見返してやりたい感情がくだらない私怨だと!?」

 

影斗「そうです。医療の現場でそんな私怨を持ち込んではいけません。そして、勝負に負けた以上、医師をやめてもらいますよ」

 

板台「そ、それはただのジョークよ!医者をやめるのはその…」

 

影斗「見苦しいですよ!前の理事長である無能は聞き入れてませんでしたが、あなたは医師にあるまじき態度をとっていて、A大学病院の医師からの苦情も寄せられていました。その上、負けたら医師をやめるルールを設けた勝負に負けたのにそこまでやめるのを拒むのであれば、理事長権限においてあなたの医師免許を剥奪します!」

 

板台「う、うわああああっ!!!!」

 

影斗「いくらわめいても決定は覆りませんよ!他人を恨むぐらいなら、下らない欲と私怨に溺れた自分を恨みなさい!」

 

 以前、ブラックジャックに負けた夫を罵倒した板台であったが、このみとの勝負に負けて醜態をさらし、理事長権限による医師免許剥奪という途方もない辱めを受けたのであった。

 

 

 

 

 そして恵が船医を務めている船が出航する日となった。

 

史子「もう行ってしまわれるのですね…」

 

恵「だけど、あの手術をみんなとやる事ができてよかったです」

 

ピノコ「ピノコもいい思い出になったのよしゃ!」

 

このみ「現在の姿に戻る前に写真撮影でもする?」

 

恵「はい。もうこのメンバーで手術する事はできないと思うので、やりたいです」

 

パルティータ「という事で白拍子君、写真を撮ってね」

 

泰彦「あ、ああ…(しかし、何で私が貧乏くじを引かされるんだ…?それに、ブラックジャックは女運が)」

 

ブラックジャック「私を妬んでいるようだが、お前さんだって美人の女医の婚約者に美人女医の同期がいて、女運がいいじゃないか」

 

泰彦「女性の事でも私をからかうお前という無免許医は!」

 

 その後、このみ達の写真が撮られたのであった。それから、恵はパルティータに現在の姿に戻してもらい、別れの時になった。

 

恵「さよなら、ブラックジャック先生!そして、一緒に手術をしたみんな!!」

 

ブラックジャック「元気でな、如月先生!」

 

このみ「連絡を入れてもいいのよ!!」

 

 船の出航をブラックジャック達は見守ったのであった。




これで今回の話は終わりです。
今回はブラックジャック原作の巡り会いと遥かなる国からの話を合わせ、桑田このみなどの女医キャラ大集合となる話としました。
原作では板台教授は男なのですが、今小説では女に変更したのは、ただ遥かなる国からをなぞっても面白くないと判断したため、いかにもかませ臭溢れるゲバイおばさんにし、原作の板台教授と違って直接このみと対面し、因縁ができあがる風にしました。
手術に臨む際のこのみ達の白衣装着シーンはアニメ版のブラックジャックであった変身シーンとも称される白衣装着シーンを5人それぞれが装着するのを想像してみてください。
それと、原作の板台教授は面子を潰されるという結末を迎えましたが、今小説の板台教授は以前に美しさでも医師としての技術でもパルティータに勝てず、手術に失敗してこのみ達に負けた挙句、これまでの行いの悪さが祟って影斗から医師免許をはく奪されるという末路にしました。
これで短編集ともいえる奇跡紡ぐ黒い医者編は終わりますが、ブラックジャックはそんなにしょっちゅうではないものの、これからも出てきますし、時々イベントクエストの話の後に番外編と称してブラックジャックの話を執筆する予定です。
次の話はマギアレコードのアニメ版放送や響や鹿目まどかの中の人が出ているヒーリングっど♡プリキュア放送と連動する形で魔法少女まどか☆マギカとのコラボの話である歌と魔法の物語編となります。

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