セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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138話 後悔なんて、あるわけない

病院

 

 ブラックジャックでも仁美を助けられる保証はないというのを聞いたさやかは屋上へ向かった。

 

さやか「本当にどんな願いでも叶えられるんだね?」

 

キュゥべえ「大丈夫。君の祈りは間違いなく遂げられる。じゃあ、いいんだね?」

 

さやか「時間がないの。すぐにやって!」

 

 さやかが契約する様子を杳馬は上空から見ていた。

 

杳馬「んはははははっ!作戦は大成功だ!さぁ、ここからどのような物語が始まるのかなぁ?」

 

 邪悪な笑みでさやかの方を見る杳馬であった。

 

 一方、仁美の手術を行おうとしていたブラックジャックは駆け付けた医師から告げられた事実に驚愕していた。

 

ブラックジャック「何だと!?それは本当なのか!?」

 

医師「信じがたい話ですが…」

 

仁美の父親「あの…何を話しているのでしょうか?」

 

ブラックジャック「オペは中止だ。手術代を払う必要はなくなった」

 

仁美の母親「まさか、仁美が……」

 

医師「死んでいません。信じられない話なのですが、先程娘さんが奇跡的な回復を遂げたのです」

 

仁美の父親「仁美が…助かったのですね!?」

 

仁美の母親「よかった…!」

 

 仁美が助かった事に両親は涙を流したのであった。

 

ブラックジャック「ですが、当面の間は検査入院で精密検査を受ける事となります。そこはご了承ください」

 

 当面はどうするのかを伝えた後、ブラックジャックは部屋を出た。

 

ブラックジャック「(オペをしていないのに患者が奇跡的な回復を遂げただと?なぜなんだ…?)」

 

 

 

了子の家

 

 その後、ブラックジャックは仁美の奇跡的な回復の原因を突き止めようと了子と弦十郎に会った。

 

弦十郎「交通事故に遭って瀕死の重体となった仁美君が奇跡の回復を遂げただと!?」

 

ブラックジャック「だからこそ、その原因を突き止めたい」

 

了子「ブラックジャック君、その仁美ちゃんが奇跡的に回復した理由は至って簡単、さっき連絡があったけど、さやかちゃんの契約によるものよ」

 

ブラックジャック「契約?願い事を叶えてもらうという魔法少女の契約か!」

 

了子「かなり厄介な状況でさやかちゃんは契約してしまったみたいね」

 

ブラックジャック「だが、今回はさやかのやった事が一番確実だったと言わざるを得ない…」

 

弦十郎「確かに…。ブラックジャック君でも治せる確率が3%程度なら、さやか君が契約に走ってもおかしくない」

 

ブラックジャック「俺は明日は検査等があるからもう寝るぞ」

 

 そう言ってブラックジャックは寝室へ向かった。

 

了子「(さっきニュースでもあったけど、仁美ちゃんがはねられた交通事故はただの事故とは思えないのよね。はねたホストの奴等も誰かが仁美ちゃんを突き飛ばしたという供述をしてたってニュースであったし…。きっと、そいつがこの事故を仕組み、さやかちゃんが契約せざるを得ない状況を作ったに違いないわ)」

 

 黒幕の存在に気付く了子であった。そして、了子を通して弦十郎も魔女の事件の黒幕を突き止めようとしていた。

 

 

 

病院

 

 翌日、ブラックジャックが検査等もあるために朝早くに病院に来た際、さやかの契約によって奇跡的な回復を遂げた仁美は目を覚ました。

 

仁美「……ここは、どこなのですか?」

 

ブラックジャック「病院だ」

 

仁美「あなたはブラックジャック先生ですね。上条君のお見舞いの際にあなたの事は病院の方々から伺っています。確か、私は車にはねられて…」

 

ブラックジャック「私が手術しようとしたのだが、奇跡的に回復したんだ」

 

仁美「奇跡的に…ですか?」

 

ブラックジャック「お前さんは当分の間、精密検査等のために検査入院してもらう。身体が動かせるならちょっといいか?お前さんに奇跡の回復の真実を告げたい」

 

仁美「はい」

 

 自分の回復の真実を知るため、仁美はブラックジャックについていき、真実を告げられた。

 

仁美「まさか…、そんな事が…」

 

ブラックジャック「信じられないだろうが、私でも3%程度でしか助けられない重傷を負ったのに後遺症もなく、奇跡的に回復できたのはそれしか理由がないだろう?」

 

仁美「そうですね。ブラックジャック先生は嘘をつかれる方ではございませんし…」

 

ブラックジャック「この事は私や弦十郎に了子の許可があるまでは事情を知らない人間はもちろん、さやか達にも絶対に告げてはならないぞ。いいな?」

 

仁美「はい」

 

 

 

了子の家

 

 同じ頃、了子はまたしてもある事を考えていた。

 

了子「(響ちゃん達から聞いた話では、さやかちゃんは魔法少女になったばかりなのに結構戦えていたそうね。でも…それってあり得るのかしら?)」

 

響「了子さん、何を考えているんですか?」

 

了子「色々とね。ところで、響ちゃん達はシンフォギアを纏った際、最初はまともに戦えた?」

 

響「えっと…まともに戦えませんでした。私も含め、みんな訓練や様々な事を通して今の強さを得たんです」

 

了子「やっぱりね。契約したての魔法少女があれだけ戦えるのはおかしいと思っていたのよ。何か、キュゥべえに非人道的な処置を施されてるんじゃないかしら?」

 

響「非人道的な処置?」

 

了子「具体的に何をされたのかは今の時点では不明よ。けど、何かされた可能性が高い事は確かね」

 

響「キュゥべえがそのような事を…」

 

了子「キュゥべえには気を付けておきなさい。じゃ、魔女が出没してないか見回りに行ってね」

 

 了子は自分の思っている事を響達に教えてから見回りに出した。

 

 

 

市街地

 

 その日は授業が午前中までであったために学校が終わった後、まどか達3人は帰り道の途中にある土手の芝生にいた。さやかは芝生の上で横になっており、まどかとマミは座っていた。

 

さやか「んっん~!久々に気分いいわぁ。爽快爽快!」

 

まどか「…さやかちゃんはさ、怖くはないの?」

 

さやか「ん?そりゃあ、ちょっとは怖いけど…、まぁ、昨日のやつにはあっさり勝てたし」

 

マミ「魔女退治は昨日みたいにはいかない事だって多いのよ。調子に乗ってると魔女に食べられそうになった私のように足元をすくわれるわよ」

 

べべ「ジュジュベ!」

 

 マミに同意するようにべべも鞄から出てきた。

 

さやか「わかってますって、マミさん。でも、昨日はもしかしたら仁美が助からなかっただけじゃなくて、マミさん達とまどかも失くしていたかもしれないって…。そっちの方がよっぽど怖いよね」

 

マミ「気持ちは嬉しいけど…」

 

さやか「だ~か~ら!!自信?安心感?ちょっと自分を褒めちゃいたい気分っつーかね。まぁ、舞い上がっちゃってますね、あたし!これから見滝原の平和はこの魔法少女さやかちゃん達がガンガン守りまくっちゃいますからねー!」

 

マミ「こらこら、調子に乗らない!そんな心構えで魔女退治に行ったら命がいくらあっても足りないわよ?」

 

さやか「わかってますって」

 

 マミとさやかのやりとりは先輩後輩というより、母親とイタズラ娘という感じであった。

 

まどか「後悔とか…全然ないの?」

 

さやか「後悔ね…。う~ん、マミさんが死にそうになった時ぐらいかな。まぁ、あの時は弦十郎先生達がいてくれたから何とかなったし、仁美が元気になってくれたから、あたしは嬉しいし」

 

マミ「ちゃんと戦う決意はできているようね。悩んだりしたら私や弦十郎先生達に相談するのよ」

 

 さやかとマミ、響達の戦う姿を見てきたまどかは劣等感を感じ、悩んでいた。そんなまどかの頬を、さやかがつついた

 

さやか「さては、何か変な事考えてるの?」

 

まどか「私…、私だって…」

 

さやか「なっちゃった後だから言えるの。こういう事は。あたしはさ、なるべきして魔法少女になったわけ」

 

まどか「さやかちゃん…」

 

さやか「願い事……見つけたんだもの。命がけで戦う羽目になったって構わないって、そう思えるだけの理由があったの。だから、引け目なんて感じなくていいんだよ。マミさんも現にこうして生きている訳だし、まどかが魔法少女にならなくてすんだっていう、ただそれだけの事なんだから」

 

 そこへ、響達が来た。

 

翼「美樹、時間は空いてるか?」

 

さやか「翼さん、急にどうしたんですか?」

 

翼「いいから来い」

 

 その後、さやかは翼から剣の使い方などを身に付けるための訓練を受ける羽目になった。

 

さやか「って、何でこんな事をしなきゃいけないの!?」

 

翼「決まっているであろう、鍛錬を積まねば強くはなれん!そして、戦場に立つ心構えももっと磨かねばならん!」

 

さやか「その…剣の訓練よりマミさんとの魔法の訓練の方が…」

 

マミ「私も色々と戦い方を磨き上げて今に至るのよ。魔法の訓練よりまずは風鳴さんとの剣の訓練を積んだ方がいいと思うわ」

 

さやか「そんな、マミさんまで~!」

 

翼「さあ、始めるぞ!」

 

 翼との訓練が始まったが、一般人のさやかにとっては過酷であった。

 

翼「どうした?そんな程度では魔女はおろか、他の街の魔法少女が来た際の戦闘にさえ勝てないぞ!」

 

さやか「や、休ませて……。き、きつい……」

 

翼「まだお前の用事の時間はおろか、休憩時間にさえなっていない。どんどん行くぞ!」

 

さやか「(お、鬼~~!!)」

 

 さやかの様子を響達は見ていた。

 

まどか「さやかちゃん、可愛そう…」

 

クリス「戦い方を身に付ける上では仕方ねーんじゃねえか?」

 

未来「そうだね」

 

響「さやかちゃん、私達は応援してるからね!」

 

さやか「(た、助けて~~!)」

 

 助けを求める表情でさやかは響達を見つめていた。

 

 

 

病院

 

 同じ頃、魔女の被害がないか見回りをしているマリア達は病院でブラックジャックと話をしていた。

 

ブラックジャック「何?仁美の交通事故を仕組み、さやかを契約に走らせた黒幕がいるだと?」

 

マリア「櫻井了子の見解ではそうなっているわ」

 

ブラックジャック「確かに、さやかの親友が私の手術でも確実に助かるという保証がない状態ならば、確実にさやかを契約に走らせる事ができる」

 

調「それに、まだ詳細はわかってないんですけど、魔法少女はキュゥべえに何か非人道的な処置をされたんじゃないかっても言ってました」

 

ブラックジャック「非人道的な処置?」

 

マリア「さやかが契約したてなのにかなり戦えてたから、櫻井了子がそう推測したの」

 

ブラックジャック「医者である俺の観点からでもその可能性は十分に高い」

 

切歌「それじゃあ、あたし達は見回りに行くのデス!」

 

 マリア達は見回りに行った。

 

 

 

ショッピングモール

 

 まどかとマミはほむらと話をしていた。

 

ほむら「話って何?」

 

まどか「あのね…さやかちゃんの事なんだけど…。あ、あの子はね、思い込みが激しくて意地っ張りで、結構すぐ人と喧嘩しちゃったり…でもね、すっごくいい子なの!優しくて勇気があって、誰かのためと思ったら頑張り過ぎちゃって」

 

ほむら「魔法少女としては、致命的ね」

 

まどか「そう…なの…」

 

ほむら「巴マミ、それはあなたもよくわかってるでしょ?」

 

マミ「…否定はしないわ」

 

ほむら「度を越した優しさは甘さに繋がるし、蛮勇は油断になる。そして、どんな献身にも見返りなんてない。それを弁えていなければ、魔法少女は務まらない。巴マミも風鳴弦十郎達がいなければ本当は死んでいたのよ」

 

まどか「そんな言い方…!」

 

マミ「鹿目さん!」

 

 取り乱したまどかをマミは制止した。

 

まどか「そう…さやかちゃん、自分では平気だって言ってるけど、もしもさやかちゃんが死んじゃうような事になったらって思うと…、私、どうしたら…」

 

ほむら「美樹さやかの事が心配なのね」

 

まどか「私じゃ、もうさやかちゃんの力になってあげられないから…だから、ほむらちゃんにお願いしたいの。さやかと仲良くしてあげて。マミさんや響さん達とも。マミさんの時みたいに喧嘩しないで。魔女をやっつける時も、みんなで協力して戦えばずっと安全なはずだよね?」

 

マミ「鹿目さんの言う通り力を貸して。温泉旅館では力を貸してくれたから、できるはずよ」

 

 『響』という言葉を聞いたほむらは一瞬ではあるものの、かなりの苛立ちを見せた後、元の無表情に戻った。

 

ほむら「私は嘘をつきたくないし、出来もしない約束もしたくない。だから、美樹さやかの事は諦めて」

 

まどか「…どうしてなの?」

 

ほむら「あの子は契約すべきじゃなかった。これは私のミスよ。私もあなただけでなく、彼女もきちんと監視しておくべきだった」

 

まどか「なら…」

 

ほむら「でも、責任を認めた上で言わせてもらうわ。今となってはどうやっても償いきれないミスなの。死んでしまった人が帰ってこないのと同じ事。一度魔法少女になってしまったら、もう救われる望みなんてない。あの契約はたった一つの契約と引き換えにすべてを諦めるって事だから…。そうでしょ?巴マミ」

 

マミ「その通りね…」

 

まどか「だから、ほむらちゃんも諦めちゃってるの?自分の事も、他の子の事も、全部?」

 

ほむら「ええ。罪滅ぼしなんて言い訳はしないわ。私の戦いを続けなければなれない。時間を無駄にさせたわね。ごめんなさい」

 

???「それは早すぎるんじゃないか?」

 

 声をかけたのは弦十郎であった。

 

マミ「弦十郎先生!」

 

弦十郎「ほむら君、何が原因で響君を憎んだり、全てを諦めているのかは俺にもわからん。そして1人の力ではできない事も多い。だがな、心を通わせ、友や仲間と力を合わせれば不可能も可能になる!さやか君が助からないと決めつけるのは早すぎるのではないのか?」

 

ほむら「魔女や魔法少女を知ったぐらいで大人が偉そうな事を言わないで!美樹さやかはもう助からない!これは変えようのない運命なのよ!」

 

弦十郎「最初から諦めては何も始まらん!それに、仁美君を事故に巻き込ませ、さやか君を契約に走らせたキュゥべえとは別の黒幕がいる。ほむら君はそいつに気付いていないのか?」

 

ほむら「黒幕?黒幕はキュゥべえだけよ!そんな奴がいるはずがない!」

 

 激怒したほむらは弦十郎の話を聞かず、そのまま帰った。

 

まどか「ほむらちゃん…」

 

弦十郎「ほむら君があそこまで響君を憎み、誰かと協力しないのは過去に裏切られたか、誰にも信じてもらえなかったからなのだろうな…」

 

マミ「暁美さんと少し話をしただけでそこまで見抜いたなんて…」

 

弦十郎「大人は子供より長く生きてるから、人生経験というのもあるだろう」

 

 

 

病院

 

 そして夕方、さやかは病院に来た。

 

さやか「へー、恭介と違って後遺症もないんだ」

 

仁美「ええ。瀕死の重体になったはずなのに急に治ったのかがよくわかっていないのです。なので、もうしばらく検査入院しなければなりませんの」

 

さやか「仁美も大変だね」

 

仁美「習い事の先生達にもご迷惑をかけたので、退院したら謝らなければなりません」

 

さやか「いいっていいって。事故は仁美が悪いわけじゃないし、習い事の先生達だって仁美の回復を喜んでいるはずだよ」

 

仁美「それもそうですね。それよりさやかさん、どちらへ?」

 

さやか「ちょっと外の空気を吸おうと思ってね」

 

 さやかは仁美と共にエレベーターで屋上に向かった。

 

仁美「屋上なんかに何の用ですか?」

 

さやか「いいからいいから」

 

 やがて屋上に着き、外に出てみるとそこには恭介と恭介の担当の医師と看護師にブラックジャック、恭介の両親と仁美の両親が待っていて、拍手を送った。

 

仁美「皆さん…」

 

さやか「ちょうど仁美の奇跡的な回復と恭介の手のリハビリの終了が重なっちゃって、こういったサプライズをする事になったの」

 

恭介「ブラックジャック先生が提示した手術費を1千万円値引きする条件でもあったんだけどね」

 

ブラックジャック「恭介、お前さんのバイオリンの音色を聴かせてくれないか?お見舞いに来てくれた2人にも聴かせてやってくれ」

 

恭介「はい!」

 

 一同が見守る中、恭介はバイオリンの演奏を始めた。その演奏は聴く人々の心に響く美しいものであった。

 

ブラックジャック「(この音色は楽しみに待ってて正解だったな)」

 

さやか「(マミさん…まどか…みんな…。あたしの願い、叶ったよ。後悔なんて、あるわけない。あたし今、最高に幸せだよ)」

 

 優しい演奏を聴きながらさやかは心からそう思った。後の地獄への入り口に入ってしまったとも知らずに。

 

 

 

市街地

 

 その光景を見つめている者がいた。その者、佐倉杏子はあるビルの屋上の展望台から一般的な望遠鏡のデザインとは思えない望遠鏡でさやかの様子を見ていた。なお、この望遠鏡は杏子の魔力で見える距離を伸ばしているものだった。

 

杏子「ふーん、あれがこの街の新しい魔法少女ねぇ…」

 

キュゥべえ「本当に彼女と事を構える気かい?」

 

杏子「だってチョロそうじゃん。瞬殺っしょ、あんな奴。それとも何?文句あるっての?あんた」

 

 見終わった後、杏子は強化した望遠鏡から魔力を戻した。

 

キュゥべえ「全て君の思い通りにいくとは限らないよ」

 

杏子「それって前に言ってたシンフォギア装者と大人達の事よね。どういった奴等かは知らないし、会った事もないけど、負ける気はないね」

 

キュゥべえ「シンフォギア装者と大人達だけじゃない。この街には君が見てた魔法少女とマミ以外にもう1人、魔法少女がいるからね」

 

杏子「何者なの?そいつ」

 

キュゥべえ「僕にもよくわからないんだ」

 

杏子「はぁ?どういう事さ?そいつだってあんたと契約して魔法少女になったんでしょ?」

 

キュゥべえ「そうとも言えるし、違うとも言える。あの子はシンフォギア装者と大人達と同じ、極めつけのイレギュラーだ。どういう行動に出るか、僕にも予想できない」

 

杏子「…ふん、上等じゃない。退屈過ぎても何だしさ、ちっとは面白味もないとね」

 

キュゥべえ「(本当は杳馬の予知で暁美ほむらの行動はある程度予測できるけど、予知通りにならないとも言えるね。どうするんだい?杳馬の未来予知にも出てこない上、どういった行動をとるかわからないシンフォギア装者、そして規格外の大人達…)」

 

 

 

 そして夕方、あるマンションでさやかが来るのをまどかは待っていた。

 

さやか「まどか?」

 

まどか「さやかちゃん、これから…その…」

 

さやか「そう、悪い魔女を探してパトロール。これからマミさんに電話で伝えようと思ってたんだ。これも正義の味方の務めだからね」

 

 スマホを取り出し、マミに電話をかけた。

 

さやか「もしもし」

 

マミ『美樹さん、どうしたの?』

 

さやか「これから悪い魔女がいないかパトロールに行ってきま~す」

 

マミ『わかったわ。でも、まだ美樹さんは新人だから、危なくなったら私や弦十郎先生達に連絡するのよ』

 

 そう言ってマミは通話を切った。

 

まどか「さやかちゃんは1人で平気なの?」

 

さやか「平気平気!マミさんだってそうしてきたんだし、後輩としてそのくらいはね。一応、危なくなったらマミさんや弦十郎先生達を呼べって言われてるし」

 

まどか「あの…私、何もできないし…足手まといにしかならないってわかってるんだけど…でも…、邪魔にならない所まででいいの。行ける所まで、一緒に連れてってもらえたらって…」

 

さやか「頑張りすぎじゃない?」

 

まどか「ごめん…ダメだよね。迷惑だってのはわかってたんだろうけど…」

 

さやか「ううん、すっごく嬉しい!」

 

 不安そうなまどかの手をさやかは握った。

 

さやか「ねえ、わかる?手が震えちゃってさ…さっきから、止まらないの。情けないよね…もう魔法少女だってのに…1人だと心細いなんてさ」

 

まどか「さやかちゃん…」

 

さやか「邪魔なんかじゃない…凄く嬉しい。誰かが一緒にいてくれるだけで、すっごく心強いよ。それこそ、百人力って感じ」

 

まどか「私…」

 

さやか「必ず守るよ。だから安心して私の後についてきて。一緒に魔女をやっつけよう!」

 

 

 

 それから、さやかとまどかは見滝原のパトロールを始めた。話をしながら街中を歩いていると、さやかのソウルジェムが反応した。

 

さやか「ここだ!」

 

 発見と同時に周囲の景色が変わった。

 

キュゥべえ「この結界は多分、魔女じゃなくて使い魔のものだね」

 

さやか「楽に越した事はないよ。こっちはまだ初心者なんだし」

 

キュゥべえ「油断は禁物だよ」

 

さやか「わかってる」

 

 結界を進んでいると、飛行機に乗ったような使い魔がいた。

 

まどか「逃げるよ!」

 

さやか「任せて!」

 

 さやかは魔法少女の姿に変身し、使い魔を仕留めるべくマントを翻してから、周囲に召喚した剣を使い魔目掛けて投げつけた。ところが…、

 

???「ちょっとちょっと、何やってんのさ、あんた達」

 

 使い魔に当たりそうだったのに、何者かが剣を弾いた。使い魔はそのまま逃げていき、赤い衣装に槍を手にしている魔法少女、佐倉杏子が姿を現した。

 

 

 

 その頃、響達のチームは見回りをしていた。

 

響「ほむらちゃん、何であそこまで私を嫌うのだろう…?」

 

未来「まどかちゃんと同じ声をしている響に色々言われるのが嫌いだと思うし、あの子の心がすり減り切ってしまったようにも見えるの」

 

翼「彼女の協力が得られない以上、今のメンバーで最善の事をやるしかあるまい」

 

クリス「しかし、あの大食いはどうしてんだろうな?」

 

未来「クリスは杏子ちゃんが気になるの?」

 

クリス「まあな。しっかし、あのバカと同等の食いっぷりの」

 

 杏子の事を言ってると、電話が入ってきた。

 

響「まどかちゃんからだ」

 

まどか『響さん、すぐに来てください!』

 

響「何があったの!?」

 

まどか『さやかちゃんが魔法少女に!』

 

響「魔法少女!?」

 

まどか『すぐに駆け付けてください!』

 

響「今から急いで来るね!」

 

 電話が切れた後にマミが駆け付けた。

 

翼「巴、鹿目から連絡が来た!美樹が別の魔法少女に襲われていると!」

 

マミ「さっき、ソウルジェムに反応がありました!しかも、このパターンは私の知っている魔法少女です!急いで行かないと、二人が危険です!」

 

未来「緒川さん、頼みます!」

 

慎次「はい!」

 

 すぐに響達はシンフォギアを纏ってマミは変身し、慎次の運転する車に乗って現場の近くまで送ってもらい、その後は徒歩でその現場となっている路地裏に来た。すると、そこにはさやかと杏子が争い、赤い鎖で行く手を遮られていたまどかの姿があった。さやかは経験と技量の差で杏子に追い詰められていた。

 

杏子「ふーん、誰かからちょっと剣術を習ったみたいだけど、その程度じゃね」

 

さやか「このおっ!」

 

 さやかは響達の戦いを見てたため、翼の技の蒼ノ一閃を魔法で再現して放ったが、うまく杏子は受け流してさやかを吹っ飛ばした。

 

さやか「うわっ!」

 

杏子「大技も撃てるようだが、撃つタイミングや鋭さが足りねえんだよ!」

 

 そのまま杏子は槍でさやかを貫こうとしたが、槍が銃弾で弾かれた。

 

杏子「何っ!?」

 

 銃弾を撃ったのはマミであり、響達も駆け付けていた。

 

まどか「マミさん、みんな!」

 

 響達の登場にさやかとまどかは嬉しそうな様子になった。そんな中、マミは杏子を見て、驚いていた。

 

マミ「佐倉さん…」

 

杏子「…マミか。まさか結界を張らない魔女まで連れているとはな」

 

マミ「魔女かどうかはわからないけど、この子は私の大事なお友達よ」

 

 マミの肩に乗っているべべは杏子を威嚇していた。

 

未来「杏子ちゃんと知り合いなの?」

 

マミ「ええ。佐倉さんとは一時期活動を共にしていた事があったんです」

 

杏子「あんたら、マミと一緒に何しに」

 

 ふと、杏子は響達の事を思い出した。

 

杏子「あんたら、魔法少女だったのか!?」

 

クリス「魔法少女じゃねーよ。ギアが魔法少女っぽく変化してるだけだ」

 

杏子「ギア…?そうか、あんたらが噂のイレギュラー、シンフォギア装者だったのか」

 

 響達が来た事で視線を響達に向けていた杏子だが、蚊帳の外に置かれていたさやかが立ち上がった。

 

さやか「あんたの相手はあたしでしょ…!」

 

杏子「いい加減にしなよ」

 

 慎次とマミはさやかに駆け寄り、響達は前に出た。

 

未来「杏子ちゃん、どうしてさやかちゃんを襲ったの!?」

 

杏子「別にあたしの方から襲った訳じゃないよ。ただ、当たり前の事を言ったら向かってきたから返り討ちにしただけさ」

 

クリス「その当たり前の事は何だ?」

 

杏子「使い魔はグリーフシードを持ってないから、4,5人ぐらい人を喰って魔女になるまで待てって言ったのに、そのバカはキレてあたしに襲い掛かってきたんだよ。あんた達もそう思わない?」

 

翼「思わんな。私達は人々を護る防人。使い魔を放置するのが愚かだ」

 

杏子「は?あんた達もそこのバカと同じ勘違いをしてるようね。食物連鎖って知ってるよね?弱い人間を魔女が食う。その魔女をあたし達が食う。これが当たり前のルールでしょ?そういう強さの順番なんだから。あんたらには特に恨みはないからバカに止めを刺すのは邪魔しないでくれる?」

 

響「それはできないよ!さやかちゃんは私達の大事な友達だから!それに、杏子ちゃんは昨日は楽しく食事をしてて悪い人には見えない!使い魔がおいしい料理を作る人達を襲ったりしたら、美味しい料理が食べられなくなっちゃうんだよ!美味しい料理がたべられなくなるのも、使い魔を放置するのも杏子ちゃんだって心から望んでいないはずだよ!」

 

 響の言葉と真っ直ぐ見据える目に杏子は目を逸らし、苛立っていた。

 

杏子「ふ、ふざけんじゃねえ!うまい料理と使い魔は関係ねえだろ!!邪魔をするんだったら、てめえら全員ぶっ飛ばしてやる!!」

 

クリス「(あいつ、どこか昔のあたしと…!)」

 

 苛立って槍を向けた杏子ではあったが、動揺も見え隠れしていた。そんな杏子に対し、翼が前に出た。

 

翼「私が佐倉の相手をする。お前達は美樹を頼む」

 

未来「マミちゃんとクリスは接近戦が苦手だし、こういった接近戦は翼さんが最適だと思います」

 

響「お願いします、翼さん!」

 

 響達はさやかに駆け寄った。

 

さやか「翼さん、手を出さないで!そいつはあたしが…」

 

マミ「ダメよ、美樹さん。佐倉さんと直接戦ったあなたにもわかっているはずよ。今の新米のあなたでは勝てない事が」

 

さやか「くっ…!」

 

 翼と杏子は互いに剣と槍を向け、対峙していた。

 

杏子「あんた、防人とか言ってるけど、仲間達と同じ誰かとか、正義のために戦うバカってわけか?」

 

翼「ふっ、その事でバカと言われるのはむしろ誉め言葉だ。お前にも防人としての心得を叩き込み、そのねじ曲がった性根を叩き直してやろう!」

 

杏子「澄ました顔でそんな事を言うと腹が立つんだよ!」

 

 怒った杏子は先に動いて翼に斬りかかったが、さやか以上の剣の技量で翼は受け流しつつ、杏子の槍を止めた。

 

翼「(思った以上に佐倉はやるぞ!私も気を抜けるような相手ではない!)」

 

杏子「この剣捌き、あいつに剣の扱い方を教えたのはあんただな?」

 

翼「左様、まだ初歩的な段階ではあるがな」

 

杏子「それに、その歌は耳障りだ!戦いの最中に唄っているとあたしの気が散ってますます腹が立つじゃねえか!」

 

翼「シンフォギアはもともとそういう仕様だ!」

 

 そう言って翼は杏子を押し飛ばした。

 

杏子「野郎…!調子に乗ってんじゃねえぞ!」

 

 翼と杏子の戦いはさやかの時よりも激しく、速く剣と槍がぶつかり合うものとなっていた。

 

マミ「凄い…!佐倉さんとあれ程戦えるなんて…!」

 

さやか「これが…、翼さんの実力…」

 

 歌が耳障りでますます苛立っていた杏子は槍を多節棍状に変えて振るったが、即座に翼はそれに対応して適切に弾いて回避した。

 

杏子「な、なんて奴だ!?」

 

翼「そのような技、マリアとの戦闘訓練で似たような攻撃を見切っている!」

 

 それから、翼は小刀を投げたが、杏子に当たらなかった。

 

杏子「狙いが甘いんだよ!どこ見てんだ!?」

 

 反撃のために動こうとした杏子であったが、体が動かなかった。

 

杏子「う、動けねえ!どうなってんだ!?」

 

 後ろを見ると、自分の影に小刀が刺さっていた。

 

杏子「最初から狙いはあたしを動けなくする事だったのか!」

 

翼「ご名答!」

 

 そう言って翼は蒼ノ一閃を放ち、杏子を吹っ飛ばした。

 

杏子「ぐああああっ!!」

 

 吹っ飛ばされたが、多少の出血はあったものの、すぐに杏子は起き上がった。

 

杏子「てめえ、さっきの攻撃はわざと急所を外していたな…。何のつもりだ!?」

 

翼「佐倉、お前が使い魔を放置するようになった経緯を聞かせてもらうためだ」

 

杏子「ふざけんじゃねえ!ぶっ殺してやる!!」

 

翼「(妙だ。急所を外したとはいえ、私達があれ程の怪我をすればそれ相応の痛みを感じるはず。なのに、なぜ佐倉は痛みをさほど感じていないようなそぶりを見せているんだ…?)」

 

 激怒する杏子とは逆に翼は杏子の様子に違和感を感じていた。そして、激突は再開された。

 

未来「杏子ちゃん、翼さんとあそこまで激しく渡り合えるなんて…」

 

マミ「キュゥべえ、どっちが優勢なの?」

 

キュゥべえ「君達は互角だと思えるけど、今は翼の方が優勢だ。シンフォギアは魔力の制限がないから体力が続く限り戦えるようだし、スタミナは翼の方が圧倒的に有利だ。だけど、翼は杏子の急所を外しているから杏子が有利になってもおかしくない」

 

まどか「どうして……?魔女じゃないのに、どうして味方同士で戦わなきゃならないの!?」

 

キュゥべえ「戦いをやめるように言っても無駄だよ。翼はともかく、杏子は頭に血が上りすぎている」

 

まどか「お願い、キュゥべえ。止めさせて…こんなのってないよ!」

 

キュゥべえ「僕にはどうしようもない…でも、どうしても力尽くでも止めたいのなら、方法がないわけじゃないよ。あの戦いに割り込むには同じ魔法少女でなきゃダメだ。でも、君にならその資格がある。本当にそれを望むならね」

 

まどか「(そうだ…、私が契約すれば…)」

 

響「待って、まどかちゃん!マミちゃんが言ったはずだよ、じっくり願い事を考えて契約してって!」

 

クリス「いざってなりゃ、あたしらが行く!」

 

 そうしている間にも翼と杏子は決着を着けようとした。

 

杏子「決着を着けてやる!!」

 

翼「そう来たか!」

 

 杏子は巨大な槍を出し、翼も剣を巨大化させてから放つ技、天ノ逆鱗を放った。

 

キュゥべえ「早く契約を!このままじゃ、双方共無事では済まなくなる!」

 

未来「まどかちゃん、ここで契約しちゃダメ!」

 

まどか「わ、私…!」

 

 しかし、翼も杏子も動けなくなり、攻撃が止まった。

 

杏子「また動けなくなっちまったぞ!」

 

翼「…緒川さん!」

 

 2人の動きを封じ、最悪の事態を回避したのは、クナイを投げて影縫いをした慎次であった。

 

慎次「セーフでしたね」

 

???「それには」

 

 そして、遅れる形でほむらが現れた。しかし、慎次が影縫いで両者の激突を止めてしまった事態にほむらは衝撃を受けていた。




これで今回の話は終わりです。
今回は杏子の襲撃と翼と杏子のぶつかり合いを描きました。
魔法少女とシンフォギアのぶつかり合いが今回の話で描かれましたが、力関係に関しては単純な攻撃力や防御力、持続力に関してはシンフォギアが魔法少女より上であるものの、魔法少女の方は拘束や分身など、固有魔法等を有効活用すればシンフォギアに勝てないわけではないという風に解釈して描いています。
次の話はソウルジェムの秘密が明らかになります。

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