市街地
ほむらの登場に場の雰囲気が変わった。
まどか「ほむら…ちゃん……」
杏子「何しに来やがったんだてめえ!」
影縫いが解け、槍を向けた杏子であったが、ほむらはその場にはいなかった。その状況に混乱していると、背後にほむらの気配がして振り向くとほむらがいて、思わず杏子は後ずさった。
杏子「そうか…。あんたが魔法少女の方のイレギュラーって奴か。妙な技を使いやがる…」
翼「暁美が…イレギュラーだと?」
杏子「ああ。こいつはキュゥべえと契約した魔法少女のはずなのに、そのキュゥべえですら正体を掴み切れていない魔法少女……。要するに、あんたらと同じイレギュラーって事だよ」
マミ「暁美さんが…?」
実際は正体は掴めてないものの、これからの行動は杳馬の予知で結構筒抜けになっていた。
杏子「で、あんたは何しに来たわけ? こいつらの味方しに来たの?」
ほむら「違うわ。だけど……これ以上あなたが無駄な争いをする気なら、私はあなたを力づくでも止めるわ。佐倉杏子」
会った事もないのに自分の名前を知っているほむらに杏子は驚いた。
杏子「どこかで…会ったか?」
ほむら「さぁ」
2人は見つめ合っていたが…。
杏子「手札がまるで見えないとあっちゃね…。今日のところは降りさせてもらうよ」
ほむら「賢明ね」
槍の矛先を収め、杏子はその場から退散した。それと同時に赤い鎖の壁も消え、まどかは響達の元に駆け寄った。
まどか「助けて…くれたの?」
ほむら「一体何度忠告させるの?どこまであなたは愚かなの?あなたは関わり合いを持つべきじゃないと、もうさんざん言って聞かせたわよね?」
まどか「…私は……」
ほむら「愚か者が相手なら、私は手段を選ばない。そして……」
急にほむらの姿が消えたかと思うと、響の目の前に来た。
ほむら「立花響、あなたの仲間が杏子と戦ったせいでまどかは契約しそうになったのよ!まどかを巻き込んだあなたの存在はもう許せない!この場で殺す!」
憎悪を剥き出しにし、ほむらは響目掛けて拳銃の引き金を引き、銃弾を放った。
まどか「響さん!!」
しかし、ほむらは驚愕した。なぜなら、響はシンフォギアを纏っている状態であるため、銃弾が全く通じなかったのであった。
ほむら「銃弾が…全く効かない…?」
響「ほむらちゃんは何で私に憎しみを向けるの?何でまどかちゃんが大切なのにまどかちゃんの言う事に耳を貸そうとしないの!?」
ほむら「黙りなさい!」
拳銃の銃弾が通じないのなら、今度はバズーカ辺りで攻撃しようとしたが、動けなくなった。
ほむら「これは…風鳴翼と佐倉杏子のうごきを封じた…」
翼「影縫いだ!」
ほむらが響への憎悪で冷静さを欠いていたため、翼がほむらの影に剣を突き刺して動きを封じていた事に気付いていなかった。そして、クリスと未来とマミも構えていた。
クリス「てめえ、あのバカを逆恨みしてんじゃねえ!」
未来「これ以上響を傷つけるのなら、ほむらちゃんとも戦うわ!」
5対1で著しく不利だと判断したほむらが諦めた様子になったため、その様子を見た翼は剣を影から抜いて影縫いを解除し、動けるようになったほむらは背を向けて去って行った。
ほむら「(何で…何で立花響の仲間達はあそこまであの女を信頼できるの!?しかも、まどかや巴マミ達まで信頼している。あの能天気な女のどこが頼りになるのよ…!)」
翼達が響と強い絆で結ばれている事がほむらには信じられない事であった。そして、一同は変身を解除した。
さやか「ああ、もう!何であの転校生は響にあんな憎しみを向けるのか理解できない!今度会ったらぶっ飛ばしてやる!」
翼「落ち着け、美樹。それより、使い魔を追わないといけないな」
慎次「それでしたら、さっきマリアさん達が倒してくれたと連絡をくれました」
そう言って慎次はスマホの着信履歴を見せた。
さやか「それはよかった…」
マミ「それじゃあ、みんな帰って休みましょうか。休んでおけるときに休まないと、戦いに支障が出ますから」
一同は帰る事にしたが…。
まどか「ほむらちゃん、何であそこまで響さんを敵視しているんだろう…?」
翼「気になるな。なぜあそこまで鹿目に執着し、立花に憎悪を抱いているのか」
まどか「それに、私が魔法少女になろうとしたせいでほむらちゃんを怒らせて、響さん達とほむらちゃんが戦いかけて…」
クリス「気にすんな。全てあの気取った女が悪いんだ」
慎次「ほむらさんの言ってる事も間違ってはいませんが、明らかに響さんへの憎悪は異常です」
まどか「ほむらちゃんと響さん達は手を取り合えないのかな…?」
不安なまどかの手を響は握った。
響「まどかちゃん、手を取り合うのを諦めたら、ずっと分かり合えないんだよ」
まどか「響さん…」
未来「まどかちゃん、一時の感情で契約してしまったら、後で後悔する事になるよ。だから、マミちゃんの言う通りに願い事をよく考えてね」
響「それじゃあ、私達は帰るね」
響達は帰る支度をした。
クリス「マミ、明日はあの大食いについて教えてくれねえか?」
マミ「佐倉さんの事ね。そうしようと思っていたけど、どうして?」
クリス「ちょっとな…」
さやかの家
その後、さやかは自宅に帰って自分の部屋のベッドに腰かけていた。隣にキュゥべえがいる中、自身のソウルジェムの穢れをグリーフシードに移していた。
キュゥべえ「これでまたしばらくは大丈夫だ」
さやか「うわー…、真っ黒……」
キュゥべえ「もう危険だね。これ以上の穢れを吸ったら、魔女が孵化するかも知れない」
さやか「ええ?」
キュゥべえ「大丈夫。貸して」
さやかからグリーフシードを受け取った後、キュゥべえは尻尾をから頭に乗せ、うまく頭を動かしてから再び打ち上げ、背中の蓋の中に収納した。
キュゥべえ「きゅっぷい。これでもう安全だ」
さやか「た、食べちゃったの?」
キュゥべえ「これもまた、僕の役目の一つだからね」
それから、さやかは部屋の照明を点けた。
キュゥべえ「でも、また次にソウルジェムを浄化するためには早く新しいグリーフシードを手に入れないと…」
さやか「響達や弦十郎先生達が魔女をたくさんやっつけてるし、マミさん以外は使わないから、焦らなくてもストックは結構あるよ。あと、これを綺麗にしておくのって、そんなにも大切な事なの?」
キュゥべえ「佐倉杏子は強かっただろう?」
その名を聞いたさやかは杏子に全く歯が立たず、シンフォギア装者の翼相手でも劣勢ではあったが、それなりに渡り合えたほどの圧倒的な強さを思い出した。
キュゥべえ「余分なグリーフシードがあれば、魔法を出し惜しみせずに無駄遣いする事だってできる。それが杏子の強みだ」
さやか「だからって…グリーフシードのために他の人を犠牲にするなんて…」
キュゥべえ「魔力を使えば使うほど、ソウルジェムには穢れが溜まるんだ。さやか、君がグリーフシードを集められない限り、杏子と戦っても勝ち目はないと思ってもいい」
さやか「なんだかなー。…あ」
きつい事を言われ、気が抜けたさやかだが、ある事に気付いた。
さやか「マミさんだって響達が来る前は充分なグリーフシードを持っていたわけじゃないんでしょ?でも、ちゃんと戦えてたよね?やっぱあれ?才能の違いとか努力の差とかあるの?」
キュゥべえ「確かにそれは事実だね。現にマミも杏子もこれまでの経験や努力を積み重ねて今の実力になったんだ」
さやか「ずるーい!不公平だー!」
キュゥべえ「こればっかりは仕方ないよ。杏子は資質がある上にベテランだし。彼女と渡り合えるのは、恐らくシンフォギア装者達か風鳴弦十郎に緒川慎次、暁美ほむらぐらいだ」
さやか「マミさんは?」
キュゥべえ「マミと杏子じゃ相性が悪い。距離を詰められたら一気に杏子が有利になる。距離を離していても、杏子のスピードなら問題ないだろうしね。それは君が体験済みだろう?」
さやか「むぅ…。それじゃ、転校生と響達は?翼さんは見たから、外してね」
キュゥべえ「暁美ほむらはまだ何とも言えないけど、シンフォギア装者の方は戦い方は装者によって様々だけど、たぶん勝てるんじゃないかな。風鳴弦十郎と緒川慎次は勝てるのは確定だよ」
さやか「弦十郎先生は素手で魔女を圧倒したんだし、緒川先生も動きは忍者だから速いし、影縫いとかも使えるから当然だよね…。って、響達はどうやって魔法少女並かそれ以上の力を出してるのかな?」
キュゥべえ「僕にもよくわからないけど、歌じゃないかな?」
さやか「歌…?」
シンフォギア装者は戦う際は必ずといっていい程、唄っていた事に気付いた。
さやか「了子さんのシンフォギアの解説でも歌の力がどうとかって言ってたけど、歌であんな力を引き出せる鎧を持ってるなんて羨ましいなぁ…」
キュゥべえ「あと、まったく経験がなくても才能だけで杏子やマミ以上の魔法少女になれる天才だっている」
さやか「え?誰よそれ?」
キュゥべえ「鹿目まどかさ」
その意外な事にさやかは信じられなかった。
さやか「え…まどかが…?それ、本当?」
キュゥべえ「ああ。杏子に対する戦力はシンフォギア装者達に大人達と十分すぎるほど集まっているけど、念には念っていうなら、いっそまどかに頼んでみるってのもいいんじゃないかな?彼女が僕と契約すれば…」
さやか「ううん、ダメ!これはあたしの戦いなんだ。まどかを巻き込むわけにはいかない。それに、響達も。今日はあたしが弱かったせいで翼さんが戦う事になったんだ。だから、今よりももっと強くなる。そして、次はあたしが絶対に勝ってみせる」
了子の家
装者達は集合していて、了子は翼が杏子との戦闘中に気になっていた事を話した。
了子「なるほどね。その杏子って子は痛みをあまり感じていないような素振りを見せていたと」
翼「はい」
ブラックジャック「現場には行ってないが、医者の俺の観点から見ても異常だな。やはり、魔法少女はキュゥべえに非人道的な処置をされているのは確実だ」
弦十郎「今日はもう遅いからゆっくり寝て、次の日に備えて体を休めよう」
一同は寝たが、了子はある事が気になっていた。
了子「(そう言えば、数日前から私も変な夢を見るのよねぇ。古代ローマ帝国や絶対王政の頃のヨーロッパなどで色々な光景を目の当たりにするのを。それに、私が魔女と戦ってたり、ソウルジェムが壊れて何かが出てくるのまであったけど、何を意味してるのかしら…?場合によっては、あれが必要になりそうだわ…)」
変な夢を不思議に思う了子であった。そして、その視線の先にはこの世界ではまだ起動していない完全聖遺物、デュランダルがあった。
市街地
翌日の昼間、見回りをしていたマリア達は意外な敵に襲われていた。
マリア「まさか、佐倉杏子以外の他の街の魔法少女までやってきたなんて!」
魔法少女A「確か、見滝原は魔女がたくさん出没してるって言ってたよね?」
魔法少女B「そうそう。で、魔法少女がたくさんいるのも聞いた。あの2人はともかく、20代の魔法少女なんて恥ずかしいったらありゃしないわ!」
魔法少女C「巴マミ以上の巨乳をブルンブルンさせたり、自分のスタイルを見せつけるような恰好だったり、歳を考えろっての!魔法少女といえるのか疑わしい神浜にいる超ベテランの七海やちよみたいでさ!」
マリア「………何ですって!!?」
大激怒したマリアに魔法少女は怯えていた。
切歌「マリアを侮辱するのは許さないのデス!」
調「……徹底的にやっつける!」
マリア「それと覚えておきなさい、私達は魔法少女ではないって事を!」
怒りのマリア達の前に魔法少女達は全く歯が立たず、ボコボコにされた。
魔法少女A「魔法熟女がいい気になりやがって、覚えてなさい!!」
マリア「魔法熟女とは何よ!!」
捨て台詞を吐いて魔法少女達は逃げ出した。
キュゥべえ「やれやれ、念のため杏子以外の魔法少女も呼んだけど、やっぱり普通の魔法少女ではシンフォギア装者に敵わないみたいだ」
その戦いを見ていたキュゥべえは去って行った。
同じ頃、見滝原のゲームセンターで杏子は注意事項を無視してロッキーというチョコのお菓子をかじりながらダンスゲームをしていた。そんな杏子の元へ、ほむらが来た。
杏子「よぉ、今度は何の用さ?」
ほむら「この街をあなたに預けたい」
杏子「どういう風の吹き回しだ?」
ほむら「魔法少女にはあなたのような子が相応しいやわ。美樹さやかや巴まみ、ましてや立花響達には務まらない」
杏子「ふん!もとよりそのつもりだけど、あいつらどうする?放っておきゃ、また突っかかってくるよ」
ほむら「…なるべく穏便に済ませたい。あなたは手を出さないで。私が対処する」
そう言ってはいたが、ほむらの響への憎悪は途方もないものであり、血が出るほど拳を握りしめていた。
杏子「……まだ肝心なところを聞いてない。あんた、何者だ?何が狙いなのさ?」
ほむら「二週間後、この街にワルプルギスの夜が来る」
杏子「……なぜわかる?」
ほむら「それは秘密。とにかく、そいつさえ倒せたら私はこの街を出ていく。あとはあなたの好きにすればいい」
杏子「ふーん、ワルプルギスの夜ね…。確かに1人じゃ手強いが、2人がかりなら勝てるかもな」
ちょうどダンスゲームが終わったため、杏子はロッキーの箱をほむらに差し出した。
杏子「食うかい?」
ショッピングモール
学校が終わったマミは響達と共にショッピングモールで話をしていた。
マミ「昨日、言ってた佐倉さんの事ね」
クリス「ああ。お前はあいつと知り合いなんだろ?これからの事も考えてあいつの事を知っておきたい」
弦十郎「知っていた方が今後の事でも対応がしやすくなるからな」
マミ「わかりました。私が佐倉さんと初めて会ったのはもう随分昔の事になります…」
マミは杏子との出会いや弟子入りを頼まれてそれを認めた事、そしてともに過ごした日々や二度と他人のために魔法を使わないと言い出した事などを話した。
弦十郎「なるほど。杏子君とはそういう事があったのか…」
マミ「はい…」
未来「やっぱりあの子、響に言われた事に動揺してたみたいだよ」
マリア「私達は現場にいなかったけど、あの子の根は悪ではない事は確かね」
調「ほむらと違って完全に分かり合えないわけじゃない」
切歌「響さんのいつものやり方で分かり合えそうデス!」
クリス「いや、あの大食いとの対話はあたしにやらせてくれ」
響「クリスちゃん?」
クリス「どうもあいつを見てると、あたしが出なきゃならねえって気がしてな…」
マミ「私も、何となく雪音さんは佐倉さんとどこか似てるような気がします。なので、佐倉さんと話すのは雪音さんが一番でしょう」
翼「頼まれたからには頼むぞ、雪音」
クリス「ああ」
マミ「それと、昨日の戦闘を見て、気付いた事があります」
クリス「何だ?」
マミ「佐倉さんは自分の魔法を使っていないみたいなんです」
その言葉に一同は驚いた。
翼「…自分の魔法を、使ってない?」
響「じゃあ、杏子ちゃんは自分だけの魔法なしで翼さんと渡り合ってた事になるじゃないですか!」
マミ「私達が使う魔法は魔法少女になる時の願いに関係しているんです。例えば私のリボンは事故に遭った際の『生きたい』という願いによるもので、美樹さんは『瀕死の重体になった親友を治したい』という願いで契約したので、回復力は人一倍なんです」
慎次「魔法少女のベテランとだけあって、マミさんの言葉に説得力があります」
マミ「彼女が自分の魔法を使ってないのは、心を閉ざしているからだと思います」
クリス「だけど、その心を開いてやりゃ、また使えるかもな。だったら尚更の事、あたしがやらねえとな!」
切歌「それでこそクリス先輩なのデス!」
調「私達も応援してる」
クリスも後輩に慕われているところを見て、マミは自分と重ね合わせて微笑んだ。そこへ、まどかとさやかが来た。
さやか「みんな、何してるの?」
弦十郎「杏子君の事について、これからどうするかみんなで話し合ってたんだ」
その言葉を聞いた途端、さやかの表情が変わった。
さやか「あいつがどうしたの?」
翼「昨日から思ってたんだが、佐倉はなぜ自分のために魔法を使うようになったのかを知りたくてな」
さやか「…理由なんてないよ。あいつは元々そういう奴なんだ。グリーフシードのためなら、人の命なんて見捨てていいと思ってる」
翼「美樹、佐倉は」
さやか「次はあたしが戦うよ、翼さん。あたしはあんな奴に絶対負けない。もっと強くなって、あいつをボコボコにしてやる」
まどか「ねえ…さやかちゃん」
さやか「何?」
まどか「あのさ、もしかしたらあの子にも何か理由があるんじゃないかな?もしそうなら、あの子と戦うんじゃなくて、ちゃんと話をしておくべきじゃないかな…?でないと、また喧嘩の続きになっちゃうよ」
さやか「喧嘩ね…。まどかには昨日のあれがただの喧嘩に見えたの?あれはね、正真正銘殺し合いだったよ。お互い舐めてかかってたのは最初だけ。途中からはあたしもあいつも本気で終わらせようとしてた。翼さんはあいつを殺さないで無力化しようとしてたけど、あいつはお構いなしに翼さんを殺そうとしてた」
翼「戦った私も思ったが、あの戦いは命をかけた戦いだ。喧嘩の次元ではない」
まどか「…そんなの、なおさらダメだよ」
さやか「だから話し合えって?バカ言わないで!相手はグリーフシードのために人間を餌にしようって奴なんだよ?どうやって折り合いをつけろっていうの?」
まどか「さやかちゃんは魔女をやっつけるために魔法少女になったんでしょ?あの子は魔女じゃない、同じ魔法少女なんだよ?探せばきっと、仲良くする方法だってあると思うの。やり方は違ってても、魔女を退治したい気持ちは同じでしょ?昨日の子も、あとほむらちゃんも。きっと話し合えば、私達と一緒に戦ってくれ」
さやか「そんなわけない!あいつがあたし達と一緒に魔女を倒した事がある?温泉旅館の時以外は戦いが終わった時じゃない!きっとあたし達がやられてから魔女を倒して、グリーフシードを横取りするつもりだったんだよ!それに、響に容赦なく銃弾を撃ったじゃない!」
怒りで我を忘れているさやかにまどかは声を出せず、今にも泣きそうであった。
さやか「あの転校生も昨日の杏子って奴と同類なんだ。自分の都合しか考えてない!…今ならわかるよ、マミさんだけが特別なんだ。他の魔法少女なんて、あんな奴等ばっかりなんだよ!」
まどか「そんな…」
マリア「(みんなって訳じゃないけど、さやかの言うような魔法少女が多いのは事実ね)」
正午ごろに他の街の魔法少女と戦ったマリアはさやかの言った事も理解していた。
さやか「昨日マリアさん達が倒してくれた使い魔は小物だったけど、それでも人を殺すんだよ。次にあいつが狙ってたのはまどかのママやパパかも知れない。タッ君かも知れないんだよ!?それでもまどかは平気なの?放っとこうとする奴を許せるの?…あたしはね、ただ魔女と戦うためじゃなくて、大切な人を護るためにこの力を望んだの。だから、もし魔女より悪い人間がいれば…あたしは戦うよ。たとえそれが、魔法少女でも」
まどか「さやかちゃん…」
遂にまどかが泣いたため、響達も黙っていられなくなった。
響「さやかちゃん、言い過ぎだよ!まどかちゃんの言う事も聞いてあげて!」
さやか「響達まであいつと話し合えって言うの?」
翼「お前の言う通り、他の魔法少女が襲ってきた時は応戦しなければならないだろう。だが、事情も知らずに完全に悪と決めつけるのは早すぎる。それに、今のお前は少しおかしいぞ」
さやか「おかしくなんてないよ!おかしいのは翼さん達でしょ!?翼さん達だって使い魔以上に人を簡単に殺せるノイズと戦ってきたのに、使い魔を放っとくあいつと話し合う?頭がおかしいよ!」
クリス「あたしらも初めから仲間同士だったわけじゃねえんだ!」
クリスが言った事にさやかは思わず黙ってしまった。
マミ「響さん達は…最初から仲間同士だったわけじゃない……?」
マリア「まだ言ってなかったけど、私達は最初から仲間同士じゃなかったの。クリスも、私と調と切歌も、初めは目的のために翼達と敵対していたのよ」
クリス「そんなあたしらと手を取り合い、仲間同士にしたのがあのバカさ」
装者達がこうして仲間同士で共に戦う事ができるようになったのは響の存在が大きかった。
クリス「あたしも大食いと似たような事をやってたからな。だから、あいつの事が昔のあたしと重なって見えちまう」
さやか「だけど!」
弦十郎「落ち着くんだ、さやか君!」
大人の仲裁が入っては、さやかも言葉が続かなかった。
弦十郎「今の君は頭に血が上り過ぎている。そんな君が魔女や杏子君と戦っても殺されるだけだ。当分の間、魔女退治は休め!」
さやか「なっ…!?」
弦十郎「グリーフシードはちゃんとわける。だから、頭を冷やすんだ」
弦十郎の説教にさやかは何も反論できず、弦十郎達を睨み付けた後、走り去っていった。
まどか「さやかちゃん…」
弦十郎「まどか君、時には厳しい事も言わなければならないんだ…」
マミ「ええ。弦十郎先生が言わなければ佐倉さんと戦い…、そして殺されてしまいます」
キュゥべえ「確かにそうかも知れないけど、さやかの性格上、素直に従うとは思えない」
調「じゃあ、どうすれば…」
慎次「でしたら、放課後のさやかさんの様子を僕が見ておきましょう」
切歌「緒川さん、頼むデス!」
一同は帰る事となった。
了子の家
帰ってきた響達の様子を了子は察していた。
了子「弦、何かあったようね」
弦十郎「まぁ、さやか君と色々ともめてな」
了子「あの子、結構意地っ張りで思い込みも激しい子だから、魔法少女には向いてなかったのかも知れないわよ」
弦十郎「そうだろうな。緒川が言った、ほむら君の言う絶望の闇に堕ちるというのも決して間違いではないのかも知れない。だが、そんな子供達を支え、導くのが大人の役目だ!」
了子「それでこそ、弦よ!そして、子供のうちに色々と間違っておくっていうのが詢子の言葉よ」
弦十郎「詢子君も人生経験がなかなかある大人だからな」
そこへ、ブラックジャックが来た。
弦十郎「ブラックジャック君か。恭介と仁美君はどうだ?」
ブラックジャック「仁美はもう今日の段階で退院させた。恭介は明日ぐらいが退院の目処だろう」
弦十郎「ま、2人が元気になってくれて何よりだ」
ブラックジャック「弦十郎、仁美には治った理由などを教えておいた。それを明かすべき時が来たら、その許可を下すんだ。それじゃ、俺は元の世界に帰るからな。何かあったら響達に俺を呼ぶように言ってくれ」
弦十郎「わかった」
ブラックジャックは元の世界に帰った。
市街地
そして翌朝、まどかは検査入院を終えて退院した仁美と共に登校していた。
まどか「後遺症も全くないんだ」
仁美「ええ。私にはとても信じられませんの」
まどか「よかったね、仁美ちゃん。さやかちゃんは?」
仁美「見かけておりません。上条君は今日、退院する予定だというのを教えたかったのですが…」
さやかは先に学校にいたものの、まともな会話はできなかった。
一方、今日は響、未来、クリスのチームと残りのマリア達のチームに分かれて見回りをしていたが、マリア達のチームがまたしても魔法少女と遭遇した。
マリア「今日は別の街の魔法少女が来たみたいね」
魔法少女A「あんたが噂の魔法熟女か。いい歳してそんな恰好なんて、相当イカれた神経してるみたい」
魔法少女B「私達じゃ恥ずかしくてできな~い!」
その言葉に昨日と同様、マリアは激怒したのであった。
マリア「もう、何で私は魔法熟女とかと言われるのよ~~!!」
マリアは嘆きの言葉と共に魔法少女を徹底的に叩きのめしたのであった。
翼「マリアの暴れぶり、凄まじいな……」
3人は開いた口が塞がらなかった。
了子の家
そして夜、一同は帰ってきた。
響「マリアさん達も魔法少女に襲われたんですか?」
マリア「ええ。どういう事か、私を魔法熟女とかいってくるのよ。だから、叩きのめしてやったわ!」
クリス「魔法熟女ねえ…」
切歌「それを言う魔法少女もどうかしてるのデス!」
未来「杏子ちゃんだけじゃなくて、他の街の魔法少女まで来てるなんて…」
調「とんでもない事になりそう…」
突如、スマホで慎次から連絡が入った。
弦十郎「緒川か」
慎次『皆さん、大変です!杏子さんがさやかさんと接触して挑発しました!現場のデータを送りますので、直ちに来てください!』
弦十郎「何だとォ!?」
了子「また大変な事になっちゃったわね!」
翼「急がねば!」
弦十郎「マミにも連絡を入れるんだ!」
市街地
響達は急いで慎次と合流し、現場の歩道橋へ向かっていた。
響「それで、杏子ちゃんは何を言ったんですか?」
慎次「『今すぐ乗り込んで、ボーヤの手も足も二度と使えないぐらい潰してやりな。あんた無しじゃ何もできない体にすればいい。そうすれば今度こそボーヤはあんたのものだ。身も心も、全部』と挑発してきました」
マリア「そんな事を言えば誰だって怒るわよ!」
弦十郎「面倒な事になってしまったな!」
ようやく響達は現場に到着したが、そこには既に変身している杏子と変身しようとしているさやかがいて、ちょうどその時にまどかとキュゥべえも来た。
まどか「待って、さやかちゃん!」
さやか「まどか…みんな……」
翼「美樹、この場は」
さやか「邪魔しないで!そもそもまどかと響達は関係ないんだから!」
まどか「ダメだよこんなの…絶対おかしいよ!」
弦十郎「子供同士の殺し合いを大人が黙って見ていられるか!」
さやか「弦十郎先生…!」
そして、マミが変身し、べべを肩に乗せた状態で降りてきた。
マミ「美樹さん、そこまでにして。今のあなたでは佐倉さんに勝てない」
さやか「マミさんは黙っててください!」
杏子「ウザイ奴にはウザイ仲間がいるもんだねえ」
???「じゃあ、あなたの仲間はどうなのかしら?」
どこからともなくほむらが杏子の後ろに現れた。
ほむら「話しが違うわ。美樹さやかには手を出すなと言ったはずよ」
杏子「あんたのやり方じゃ手ぬるすぎるんだよ!どのみち向こうはやる気だぜ?」
マリア「杏子、あなたが手を出さなければ私達は何もしないし、さやかにも戦わないように説得するから、退きなさい!」
さやか「マリアさん、あいつを野放しにしないで!」
響達が介入しても尚、杏子とさやかは戦おうとしていた。
まどか「さやかちゃん…ごめん!」
しかし、戦闘になるのを恐れたまどかはさやかが持っているソウルジェムを取り、橋の下に投げ捨てた。捨てられたソウルジェムは通りかかったトラックの荷台に乗り、そのまま通り過ぎていった。
ほむら「!!!」
一同はまどかの行動に驚いたが、ほむらだけはかなり焦った様子で動き出し、その場から消えた。
さやか「まどか、あんたなんて事…!!」
まどか「だって、こうしないと…」
ところが、衝撃の事態になった。なんと、まどかに寄りかかったさやかが糸の切れた人形のように倒れ込んだのであった。
まどか「さやかちゃん…?」
まどかが呼んでも返事はなかった。その様子に響達は駆け寄った。
切歌「な、何がどうなっているのデスか!?」
キュゥべえ「今のはまずかったよ、まどか。よりにもよって友達を放り投げるなんて、どうかしてるよ」
まどか「何?何なの?」
弦十郎「キュゥべえ、どういう事なのかきっちり説明しろ!」
まどか達が困惑する中、弦十郎はキュゥべえに説明を求めた。杏子も不審に思い、さやかに駆け寄って首の動脈を掴み、さやかの体を吊り上げた。
まどか「やめて…」
杏子「!!?」
しかし、杏子は目を見開いた。
弦十郎「どうした!?杏子君!」
杏子「……どういう事だ、おい………。こいつ、死んでるじゃねえか!!!」
弦十郎「何だとぉ!!?」
響達は杏子の言葉に戦慄し、驚愕した。その中でマミが先に動き、さやかの手首から脈の確認をとったが、生きているはずなのに脈が感じられず、驚愕した。一同はさやかを歩道橋に横たわらせた。
まどか「さやかちゃん…ねえ、さやかちゃん!起きて、ねえ!!」
杏子「何がどうなってやがんだ…おい!!」
キュゥべえ「君達が体をコントロールできるのは、せいぜい100m圏内が限度だからね」
マミ「100m?一体何を言ってるの!?」
キュゥべえ「普段は当然肌身離さずに持ち歩いているんだから、こういう事故は滅多にある事じゃないんだけど」
まどか「何言ってるのよキュゥべえ!助けてよ、さやかちゃんを死なせないで!」
キュゥべえ「まどか、そっちはさやかじゃなくて、ただの抜け殻なんだって」
まどか「え……?」
キュゥべえ「さやかはさっき、君が投げ捨てちゃったじゃないか」
未来「まさか、ソウルジェムが……!?」
杏子「な…」
マミ「何ですって……?」
そのキュゥべえの言葉に響達はまたしても驚愕し、杏子とマミも自分達のソウルジェムに手を置いた。
キュゥべえ「ただの人間と同じ、壊れやすい体のままで魔女と戦ってくれなんて、とてもお願いできないよ。君達魔法少女にとって、元の身体なんて言うのは、外付けのハードウェアでしかないんだ。君達の本体としての魂には、魔力をより効率よく運用できる、コンパクトで安全な姿が与えられているんだ」
調「コンパクトな姿!?」
切歌「わけがわからないのデス!」
キュゥべえ「魔法少女との契約を取り結ぶ僕の役目はね、君達の魂を抜き取って、ソウルジェムに変える事なのさ」
キュゥべえが淡々と言った事に響達は大激怒し、先に杏子が動いてキュゥべえを掴んだ。
杏子「ふざけんじゃねえ!!それじゃああたし達、ゾンビにされたようなもんじゃないか!!」
キュゥべえ「むしろ便利だろう?心臓が破れても、ありったけの血を抜かれても、その体は魔力で修理すればすぐまた動くようになる。ソウルジェムさえ砕かれない限り、君達は無敵だよ。弱点だらけの人体よりも、よほど戦いでは有利じゃないか」
まどか「酷いよ……こんなの、あんまりだよ……!!」
マミ「キュゥべえ…あなた、私達を騙していたのね!!」
キュゥべえ「君達はいつもそうだね。事実をありのままに伝えると、決まって同じ反応をする。訳が分からないよ。どうして人間はそんなに」
言い終わる前にいつの間にか響と未来はギアを纏っていて、未来はキュゥべえを扇で殴り飛ばし、弦十郎に掴まれた。
キュゥべえ「どうして僕がこんな目に遭わないと」
未来「そんな目に遭わないといけないのよ!」
響「人の事を全く理解しようとしないお前にはわからない!!」
人と分かり合おうとも、理解しようともしないキュゥべえを響は完全に拒絶し、全力で殴ってキュゥべえを肉片の塊へと変えた。
弦十郎「キュゥべえがとんだケダモノだったとはな…」
そんな中、ほむらが何とかさやかのソウルジェムを回収してさやかの手に置き、さやかの身体の脈が鳴り、意識が戻ったのであった。その様子を上空で杳馬が見ていた。
杳馬「あ~りゃりゃ。ダンナの奴、対話大好きな響ちゃんをかなり怒らせた挙句、殴られて肉片になりやがった。ま、ダンナがあれで終わりだと思ったら、大間違いだぜ」
杳馬の肩に肉片になったはずのキュゥべえがいたのであった。
これで今回の話は終わりです。
今回は待ちに待った魔法少女の秘密が明らかになる話です。
度々ほむらは響に強い憎悪を向けていましたが、響に強い憎悪を抱いているが故、分かり合う事も他の魔法少女に比べてかなり難しいものとなっています。
話の途中であった了子の不思議な夢についてはまだ秘密です。
響は全く分かり合おうとしなかったアダムを容赦なく抹殺したため、人間の事を理解しようともしないキュゥべえに対しても殺すんじゃないかと思い、響の鉄拳制裁シーンを入れました。
次は杏子の過去が明らかになる話です。