セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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140話 だけどこの瞬間は変えられる

マンション さやかの部屋

 

 騒動が終わった後、さやかは家に帰ってきた。そして、帰ってきてから机にソウルジェムを放り投げ、いつの間にかいたキュゥべえを見据えた。

 

さやか「騙していたのね、あたし達を」

 

キュゥべえ「僕は魔法少女になってくれって、きちんとお願いしたはずだよ。実際の姿がどういうものか、説明を省略したけれど」

 

さやか「何で教えてくれなかったのよ!?」

 

キュゥべえ「聞かれなかったからさ。知らなければ知らないままで何の不都合もないからね。事実、あのマミでさえ気付かなかった。そもそも君達人間は魂の存在なんて最初から自覚できてないんだろう?そこは神経細胞の集まりでしかないし、そこは循環器系の中枢があるだけだ。そのくせ、生命が維持できなくなると人間は精神まで消滅してしまう。そうならないよう、僕は君達の魂を実体化し、手に取ってきちんと守れる形にしてあげた。少しでも安全に魔女と戦えるようにね」

 

さやか「大きなお世話よ!そんな余計な事!」

 

キュゥべえ「…君は戦いというのを甘く考え過ぎだよ。例えばお腹に槍が刺さった場合、肉体の痛覚がどれだけの刺激を受けるかっていうとね…」

 

 そう言いながらキュゥべえは机の上に乗り、さやかのソウルジェムに前足を置いた。すると、ソウルジェムから眩い光が出た他、さやかの腹部に何も言えないほどの激痛が走り。立てなくなってしまった。

 

キュゥべえ「君が杏子との戦いで最後まで立っていられたのは、強すぎる苦痛がセーブされていたからさ。君の意識が肉体と直結してないからこそ可能な事だ。お陰で君はあの戦闘を生き延びる事ができた」

 

 キュゥべえがソウルジェムから手を放すと光が消え、さやかを襲ったすさまじい激痛も消えた。

 

キュゥべえ「慣れてくれば完全に痛みを遮断する事もできるよ。もっとも、それはそれで動きが鈍るからあまりお勧めはしないけど」

 

さやか「何でよ…何であたし達をこんな目に……」

 

キュゥべえ「戦いの運命を受け入れてまで君には叶えたい望みがあったんだろう?それは間違いなく実現したじゃないか」

 

 キュゥべえの放つ正論にさやかは何も言えなかった。その光景を杳馬は窓から見ていた。

 

杳馬「ほんと、キュゥべえのダンナはつまらねえなぁ。そんな刺激のねえ事を淡々とやって何の楽しみがあるのやら…」

 

 人間と価値観が全く異なり、理解しようともしないキュゥべえであったが、杳馬もまた、愉快犯であるが故にキュゥべえをつまらない相手としか認識していなかった。

 

 

 

了子の家

 

 翌日の早朝、了子は響達からソウルジェムの真相について聞く事となった。

 

了子「魂を抜き取り、宝石に変えるねえ…。どうりで魔法少女はおかしかったわけだわ。あんな強さになるには相応の訓練と経験が必要よ」

 

弦十郎「年端もいかない少女が契約したてでもあれだけ戦えるのだからな。非人道的な処置を施されているという推測はできたが、魂を抜き取るというのは俺も予想外だった」

 

了子「とすれば、翼ちゃんが感じていた違和感は意識と身体が直結していないが故、切り傷を負った杏子ちゃんはあまり痛みを感じていなかったという事になるわ」

 

 魂を抜き取るという、キュゥべえが魔法少女に行った仕打ちに響達は怒っていた。

 

調「キュゥべえはほんとに人間とは相容れないケダモノ!」

 

切歌「可愛さ余って憎さ3千万倍なのデス!」

 

調「切ちゃん、憎さの倍率がブラックジャックのよく請求する金額になってる」

 

切歌「キュゥべえは可愛かったのに、あの顔であんな事をしてたなんて、腸が煮えくり返る程なのデス!」

 

マリア「でも、響がキュゥべえを殴って肉片にしたのだから、これで安心ね」

 

???「それはどうかな?」

 

 声の主はキュゥべえであり、どこからともなく現れた。

 

響「そんな!」

 

クリス「どうなってんだよ!?昨日、あのバカが殴り潰したはずじゃ!?」

 

キュゥべえ「代わりはいくらでもいるけど、無意味に潰されるのは困るんだよね。もったいないじゃないか」

 

弦十郎「いくらでも湧いてくるのなら、叩き潰せばいいだけの事だ!」

 

 そう言って弦十郎は発勁でキュゥべえをバラバラにした。

 

翼「いくら倒してもキリがない生物がこの世界にいたとは…!」

 

了子「ほんと、耳障りな事を言ってくるケダモノがまだまだいるってのを考えると、とんでもなく嫌ね。これじゃあ、ゴキブリの方がマシよ」

 

未来「私もキュゥべえはパッと見では可愛いとは思いますけど、今は不気味にしか見えません…」

 

了子「ま、気を取り直して魔女退治とキュゥべえの排除もやりましょ?」

 

未来「私と響は一度元の世界に帰って報告してから魔女退治をやります」

 

 

 

S.O.N.G潜水艦

 

 魔法少女の実態は沙織達も衝撃を受けていた。

 

沙織「魂を抜き取り、宝石に変えるですって!?」

 

 積尸気冥界波などの魂を体がら引きはがす技は知っていても、キュゥべえの所業は沙織達でも想像できなかった。

 

ブラックジャック「意識と身体が直結していないが故に痛覚がある程度遮断されていたから、杏子はあまり痛みを感じていなかったわけだ。医学的に考えても、それなら説得力がある」

 

弦十郎「だが、キュゥべえの所業が判明した以上、奴は異変に関わっている可能性も非常に高い」

 

エルフナイン「恐らく、あの魔女と推測される巨大な怪物もキュゥべえが何かしらの形で知っているのかも知れません」

 

沙織「いよいよ異変の謎も突き止められそうなところまで来ています。解明まであと一歩かも知れません」

 

響「では沙織さん、キュゥべえの企みをぶっ潰しに行ってきます!」

 

 報告を終え、また並行世界へ行こうとしたが…。

 

沙織「ちょっと待ってください。魔女のいる並行世界には何かキュゥべえとは別の黒幕がいるそうだと、向こうの司令がおっしゃっていたそうですね」

 

未来「はい」

 

沙織「もしかすると…その黒幕は杳馬かも知れません」

 

 その沙織の推測に一同は衝撃を受けた。

 

ブラックジャック「沙織お嬢様、杳馬というと、資料で見た限りでは並行世界を渡り歩く愉快犯だと聞いていますが…」

 

沙織「杳馬はオートマシンという機械が存在している並行世界での黒幕であり、パヴァリア光明結社の事件にも関与しています。しかも、絶大な強さを持ちながら、愉快犯であるが故に行動が読めないのです」

 

弦十郎「そいつがキュゥべえと手を組んでいるとなると……非常に厄介だな」

 

響「手を組んでいたとしても、どっちも叩き潰す!」

 

 実際はキュゥべえは感情もなく淡々とやっているのに対し、杳馬は愉快犯であるがためにより事態の混乱を望んでいる上に何も楽しもうとしないキュゥべえを内心見下しているため、表面上の協力関係でしかなかった。

 

沙織「では、再び並行世界に赴いてキュゥべえと杳馬の企みを阻止してください」

 

未来「わかりました!」

 

 

 

見滝原中学校

 

 翌日、さやかは学校を休んでおり、まどかは1人で学校へ来て、昼休みにマミと共にほむらを屋上に呼んだ。

 

まどか「ほむらちゃんは、知ってたの?」

 

 まどかの問いにほむらは頷いた。

 

まどか「どうして教えてくれなかったの?」

 

ほむら「前もって放しても、信じてくれた人は今まで1人もいなかったわ」

 

マミ「……確かに、もし言われたとしても、私も信じなかったわね」

 

まどか「キュゥべえはどうしてこんなひどい事をするの?」

 

ほむら「あいつはひどいとさえ思っていない。人間の価値観が通用しない生き物だから。何もかも奇跡の正当な代価だと、そう言い張るだけよ」

 

まどか「全然釣り合ってないよ!あんな身体にされちゃうなんて…。さやかちゃんは瀕死の仁美ちゃんを助けたかっただけなのに…」

 

ほむら「奇跡である事に違いはないわ。不可能を可能にしたんだから。本来であれば、どうやっても演奏できるようにならなかった上条恭介を再び演奏できるようにした得体の知れない名医のブラックジャックでも助けられないほどの重傷を負った志筑仁美は助からなかったし、契約がなければ事故で命を落としそうだった巴マミが助かる事もなかった。奇跡はね、本来なら人の命であがなえるものじゃないのよ。それは売って歩いているのが、あいつ」

 

まどか「さやかちゃんは…元の暮らしに戻れないの?」

 

ほむら「前にも言ったわよね。美樹さやかの事は諦めてって」

 

???「諦めが早すぎるわよぉん」

 

 その場の雰囲気に合わない声を出して現れたのは了子であった。

 

マミ「了子さん!?」

 

ほむら「あなた、何の用でここに来たのかは知らないわ。はっきり言ってあげるけど、元の暮らしに戻れた魔法少女は見た事がないわ。そんな方法を」

 

了子「もう、暗い子ねえ。今はその方法がないのは百も承知よ。けど、最初からあきらめちゃったら元も子もないじゃない」

 

 ほむらの淡々という事実についても承知の上で了子はほむらの話を遮った。

 

了子「科学がここまで進歩してきたのは、あんな機械を作りたい、こんなものを開発したい、という人々の願望が不可能を可能にしてきたのよぉん。科学者をはじめとした人々のチャレンジ精神があるからこそ、今までできなかった事がどんどんできるようになりつつあるの。最初から諦めちゃうとできない事はず~っとできないのよ」

 

ほむら「……櫻井了子、あなたも楽観的な考えをする大人のようね。あなた達大人の話は立花響と同じで聞いてるだけで虫唾が走るのよ!!」

 

了子「あらあら、怒らせちゃったわね。けど、14歳の乙女1人だけで出来る事なんてほんの一握りよ。どうにもならない時こそ、友達や大人を頼らないといけないんじゃないかしらぁ…?」

 

ほむら「…何ですって!?」

 

 ほむらの言葉をきっちり聞きつつ、前向きに考えるべきと諭す了子の大人の貫禄と余裕にほむらは逆ギレに近い感情を向けた。

 

まどか「…ほむらちゃん、どうしていつも冷たいの?」

 

ほむら「そうね…。きっともう人間じゃないから、かもね」

 

了子「そうかしらぁ?それにあなたの言葉って、まどかちゃんへの執着心と響ちゃんへの憎悪以外は心のこもってない空っぽの言葉にしか聞こえないのよねぇ」

 

 図星を突かれたのか、話をしたくないほむらはさっさと帰ってしまった。

 

まどか「ほむらちゃん…」

 

了子「あの子の心の闇はとてつもなく深いわね。ところでマミちゃん、あなたはもう大丈夫なの?」

 

マミ「大丈夫…とは言えませんが…」

 

了子「やっぱり、ベテランの魔法少女である事が発狂せずに済んだ理由みたいね。さやかちゃんみたいな新人の頃にその真相を知ったらダメだったでしょ?」

 

マミ「おっしゃる通りです…。でも、それでも人を助ける事はできますし、その事で塞ぎ込んでいたらやりたい事もできなくなるので」

 

了子「それじゃ、私はこの辺で帰るわね」

 

まどか「どうしたんですか?」

 

了子「ちょ~っと用があってクリスちゃんと翼ちゃんを連れてあの子の所へ行きたいの」

 

 

 

車内

 

 了子は翼とクリスを連れてある場所へ向かっていた。

 

クリス「どこへ向かってるんだ?」

 

了子「決まってるでしょ?翼ちゃんが戦った相手、杏子ちゃんのところよ」

 

翼「彼女は風見野の出身だと聞いているが…」

 

了子「念のため、身元も調べておいたの。あの子、家はある宗教のメンバーだったみたいよ」

 

翼「メンバー…だった?」

 

了子「それで、その宗教の当時の同僚の人に連絡をとったんだけど、数年前に破門されたみたい」

 

クリス「何でだ?」

 

了子「私もあの子の身元にしか興味がなかったから、それ以上は聞かなかったわ。ただ、教会の所在は教えてくれたの」

 

クリス「あの大食いの家族に一体、何があったんだ…?」

 

 

 

教会

 

 そして、一同は風見野の教会に到着した。といっても、既に教会はボロボロになっていて、廃墟と言った方が正しいが。車から降りてみると、さやかと杏子が教会へ入って行くのを目撃した。

 

了子「いたわ、杏子ちゃん」

 

クリス「あたしらも行くぞ」

 

 了子達も後を追って教会に入った。

 

さやか「翼さん達まで!?」

 

杏子「あんたら、ついてきたのか?」

 

了子「まあね。杏子ちゃんには色々と聞きたい事があるからよ」

 

杏子「だから来たのか。ほんと、あんたらはおかしいよな。あの大食いは戦いの場で食い物の事を言ってたりしてたしさ」

 

翼「立花は食べるのが好きだからな」

 

杏子「そうかい。とりあえず、食うかい?」

 

 そう言って杏子は4人に林檎を投げ渡した。

 

翼「林檎か」

 

了子「ありがとう、杏子ちゃん」

 

クリス「もらっておくぞ」

 

 きちんともらった了子達に対し、さやかは床に捨てたために杏子は怒り、さやかの首を絞めた。

 

杏子「食い物を粗末にするんじゃねえ…殺すぞ」

 

クリス「そこまでにしとけ。その林檎はあたし達がもらっとく」

 

 クリスが制止をかけ、林檎をもらったのであった。

 

杏子「ここはね、あたしの親父の教会だった。正直過ぎて、優し過ぎる人だった。毎朝、新聞を読むたびに涙を浮かべて……真剣に悩んでるような人でさ」

 

クリス「いい親だったんだな…」

 

杏子「ああ、本当にそうだったよ……。『新しい時代を救うには、新しい信仰が必要だ』って、それが親父の言い分だった。だからある時、教義に無い事まで信者に説教するようになった。勿論、信者の足はぱったり途絶えたよ。本部からも破門されて、誰も親父の話を聞こうとしなかった……。当然だよね。傍から見れば、胡散臭い新興宗教さ。どんなに正しい事を、当り前の事を話そうとしても、世間にはただの鼻つまみ者さ」

 

了子「(それが、破門された原因だったのね…)」

 

杏子「あたし達は一家揃って、食う物にも事欠く有様だった。……納得できなかったよ。親父は間違った事なんて言ってなかった。ただ、人と違う事を話しただけだ。五分で良い、ちゃんと耳を傾けてくれれば、正しい事を言ってるって誰にでも分かったはずなんだ。なのに、誰も相手をしてくれなかった。悔しかった、許せなかった。誰もあの人の事を分かってくれないのが、あたしには我慢できなかった。だから、キュゥべえに頼んだんだよ。皆が親父の話を真面目に聞いてくれますようにって」

 

翼「その願いで佐倉は魔法少女になったのか…」

 

杏子「翌朝には、親父の教会は押しかける人々でごった返していた。毎日おっかなくなる程の勢いで、信者は増えていった。あたしはあたしで、晴れて魔法少女の仲間入りさ。いくら親父の説教が正しくったって、それで魔女が退治できるわけじゃない。だからここは、あたしの出番だって、馬鹿みたいに意気込んでいたよ……。あたしと親父で、表と裏からこの世界を救うんだって」

 

クリス「マミと会ったのも、その頃だな?」

 

杏子「ああ。あいつが戦う理由はあたしと同じだったから。だからあいつに弟子入りしたんだ。バカみたいに聞こえるけど…あの頃のあたしには、マミは輝いて見えた」

 

さやか「あんたにもマミさんが…輝いて見えていた…?」

 

 杏子の利己的な一面しか知らなかったさやかにとって、その言葉は信じがたいものであった。

 

杏子「でもね、ある時からくりが親父にバレた。大勢の信者がただ信仰のためじゃなく、魔法の力で集まって来たんだと知った時、親父はブチ切れたよ。娘のあたしを人の心を惑わす魔女だって、罵った。笑っちゃうよね。あたしは毎晩、本物の魔女と戦い続けてたってのに……それで親父は壊れちまった。最期は惨めだったよ。酒に溺れて、頭がイカれて……とうとう家族を道連れに無理心中さ……。あたし一人を置き去りにしてね」

 

クリス「(バカが家族の事を言った際、暗くなったのはそれが理由だったのか…)」

 

杏子「あたしの祈りが、家族を壊しちまったんだ。他人の都合を知りもせず、勝手な願い事をした所為で、結局誰もが不幸になった……。その時、心に誓ったんだよ。もう二度と他人のために魔法を使ったりしない、この力は全て自分のためだけに使い切るって」

 

翼「だから、巴と決別したのか」

 

杏子「ああ。奇跡ってのはただじゃないんだ。希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が撒き散らされる。そうやって差引をゼロにして、世の中のバランスは成り立ってるんだって」

 

 衝撃的な杏子の過去にさやかは返す言葉もなく、了子達は冷静に聞いていた。

 

さやか「何で…そんな話を私に?」

 

杏子「あんたも開き直って好き勝手やればいい…。自業自得の人生をさ」

 

さやか「それって変じゃない?あんたは自分の事だけ考えて生きているはずなのに、私の心配してくれるわけ?」

 

杏子「あんたもあたしと同じ間違いから始まった。これ以上後悔する生き方を続けるべきじゃない。あんたはもう、対価としては高過ぎるもんを支払っちまってるんだ。だからさ、これからは釣銭を取り戻す事を考えなよ」

 

さやか「……あんたみたいに?」

 

杏子「そうさ。あたしはそれを弁えてるが、あんたは今も間違い続けてる。見てられないんだよ、そいつは」

 

さやか「……あんたの事、いろいろと誤解してた。その事はごめん、謝るよ。でも、私は人のために祈った事を後悔してない。その気持ちを嘘にしないために、後悔だけはしないって決めたの。これからも……」

 

翼「美樹……」

 

さやか「私はね、高過ぎる物を支払ったなんて思ってない……。この力は、使い方次第でいくらでも素晴らしいものに出来る筈だから」

 

 そして、さやかは杏子の持っている林檎に視線を向けた。

 

さやか「それからさ、あんた。そのリンゴは、どうやって手に入れたの?お店で払ったお金はどうしたの?」

 

杏子「なっ……!!」

 

了子「言えないみたいね」

 

さやか「そっか…。なら、私はその林檎は食べられない。もらっても嬉しくない」

 

杏子「馬鹿野郎!!あたし達は魔法少女なんだぞ!!他に同類なんていないんだぞ!!」

 

さやか「……あたしはあたしのやり方で、戦い続けるよ。それがあんたの邪魔になるなら、また殺しに来ればいい。あたしは負けないし、もう……恨んだりもしないよ」

 

 そう言ってさやかは自宅へ帰った。

 

杏子「さやかはダメだったけど、一緒に話を聞いてたあんた達はどうなんだ?そのシンフォギアって力、自分のためだけに使いなよ」

 

翼「残念だが、私も雪音達もこの力を自分のためだけに使う気は全くない」

 

杏子「……何でだよ?」

 

翼「私達は人々を護りたいからこそ、この力を振るって人々を襲う敵と戦っている。それと、私達はこの世界の人間ではなく、ある事情があって並行世界からやってきた人間だ」

 

杏子「並行……世界…?」

 

クリス「それによ、あたしもあんたのいうクソみたいな人生を歩んで来た上、良かれと思った事が裏目に出ちまった事はたくさんある。戦争をなくそうとしたのに余計に犠牲を出したり、知人の弟の足を失う原因を作ったり、色んな想いをしてきた……」

 

杏子「だったら尚更、誰かのために使うんじゃねえ!余計に誰かが傷つくかも知れねえんだぞ!?」

 

了子「それはキュゥべえの願い事のせいじゃないかしら?」

 

 了子の言葉に杏子は衝撃を受けた。

 

杏子「あいつの…せいだと?」

 

了子「奇跡っていうのはね、ギリギリまで頑張って、踏ん張ってようやく起こせるもの。しかも、確実に起きるわけじゃないわ。でも、キュゥべえの起こす奇跡は本当の奇跡とは思えないの。まるで、絶望という名の地獄へ落とすための餌じゃないかって、私はあなたの話を聞いて思ったわ」

 

杏子「じゃあ、差し引きゼロっていうのは…」

 

了子「キュゥべえの願い事はそうだけど、現実は必ずしもそうではないのよ。それにあなた、響ちゃんが言ったように悪い子じゃないから、迷っているから私達に自分の過去を話したんでしょ?今からでも遅くは」

 

杏子「もう遅いんだよ!あたしが昔のように人を助けたって、もう家族は帰ってこないんだ!もうあたし自身も疫病神なんだよ!それぐらいだったら」

 

 そのやりとりに水を差すかのように音がしたが、了子は聞き覚えがあった。

 

了子「これは…温泉旅館の時と同じ!」

 

 視線の先にはグリーフシードがあり、おまけに温泉旅館の時と同様に強く点滅していた。

 

杏子「グリーフシードだって!?どうしてこんな場所に!?」

 

 強い光が放たれ、一同は結界に引きずり込まれてしまった。

 

 

 

魔女の結界

 

 この魔女の結界はあらゆるおもちゃが散乱しているおもちゃ箱のような場所だった。クレヨンで描いたような使い魔達が飛び交っている中、寝そべって絵を描き、使い魔を次々と生み出している金髪の少女の姿をした魔女がいた。

 

 『落書き』の魔女、アルベルティーネ。その性質は『無知』。かくれんぼが大好きな魔女。彼女と遊びたいと思うならば、命を捨てる覚悟が必要になるだろう。

 

杏子「くそっ、こんな時に魔女かよ!」

 

翼「魔女の結界に引きずり込まれた以上、力を合わせて戦う他あるまい!櫻井女史は下がって!」

 

了子「わかったわ!」

 

 了子は翼達から離れた。

 

クリス「さっさと魔女を片付けるぞ、先輩!」

 

翼「ああ!」

 

 杏子はソウルジェムを、翼とクリスはペンダントを構えた。

 

翼「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

クリス「Killter Ichaival tron」

 

 翼とクリスはシンフォギアを纏い、杏子は変身して使い魔達に挑んだ。3人とも順調に使い魔を倒していたが、数が一向に減らない様子であった。

 

杏子「くそっ、数が多すぎる!」

 

翼「佐倉、力を合わせねばこの状況を打開できないぞ!」

 

杏子「だけどよ…、急にあんたらと力を合わせろって言われても、そんな事はできねえよ!」

 

 力を合わせる事が出来ないと言い張る杏子に対し、クリスは初めて響と翼と共に戦った時の事を思い出していた。

 

クリス「…お前、本当に昔のあたしみたいだな。あたしもこんな状況であのバカや先輩と協力するのを拒否してたしな」

 

杏子「何言ってんだよ!?」

 

クリス「けど、あのバカのお陰で力を合わせて戦う事ができるようになった。それに、お前に大事な事を言っておくぞ。失った命は、過去はどうしたって変えられない。だけどこの瞬間は変えられる」

 

杏子「何だよ、それ?」

 

クリス「あたしの知人の弟が言った言葉さ。過去に囚われていたあたしにそれを言って、発破をかけてくれたんだ。だから、お前もいつまでも自分が疫病神だとかそんな過去に囚われていないで、みんなを護るために、この瞬間を、未来を変えるために戦え!ほんとはお前も誰かのために戦っていた時の自分が大好きなんだろ!?」

 

 響達のお陰で歌が好きだった昔の自分を取り戻せたクリスは杏子に発破をかけた。そのクリスの言葉に自分と似た何かを感じた杏子は決心し、クリスと手を繋いだ。

 

杏子「お前ら…本当にあたしを疫病神扱いしないのか!?」

 

翼「当たり前だ。お前は疫病神などではない、魔女の魔の手から人々を護る防人だ!だから、共に戦おう!そして、立花が一緒に食事をしたくて待っているぞ!」

 

杏子「……ああ!」

 

 使い魔達は一向に数が減らず、3人は背中を合わせる状況になった。

 

杏子「全く数が減らねえぞ!」

 

翼「こうなれば、一気に魔女まで接近し、強烈な一撃を叩き込むしかあるまい!」

 

クリス「あたしがミサイルで一気に魔女の懐まで送ってやる。行くぞ、先輩!」

 

 ミサイルの通り道を作るために翼は千ノ落涙や蒼ノ一閃を放ち、クリスはガトリングやボウガンで次々と使い魔を蹴散らし、道を作った。

 

クリス「さあ、ミサイルに乗っていきな!」

 

杏子「じゃ、遠慮なく乗るぞ!」

 

 クリスの発射したミサイルに乗り、魔女へ一気に接近した。

 

杏子「(ほんと、シンフォギア装者達はおかしな連中の集まりだ。けど…、誰かを護るのために…うまいもんを食べるために…あの魔女をぶっ潰す!!)」

 

 再び誰かのために魔法を使う決心をしたため、杏子本来の魔法が再び使えるようになった。

 

杏子「ロッソ・ファンタズマ!!」

 

 杏子と同じ姿の分身が複数現れ、次々と魔女に攻撃を仕掛け、凄まじい速さで魔女にダメージが蓄積していった。

 

杏子「これで……終わりだぁあああっ!!」

 

 一斉に槍に貫かれ、アルベルティーネは四散し、魔女の結界は消滅した。

 

 

 

教会

 

 そして元の景色に戻り、グリーフシードが落ちたのであった。

 

翼「私達はグリーフシードはいらないから、佐倉が使うといい」

 

杏子「ああ」

 

 杏子はソウルジェムの穢れをとった。

 

了子「これで一件落着だけど、これからどうするの?」

 

杏子「ここで一緒に戦ったのも何かの縁だ。力を貸す事にする。けど、勘違いするなよ。あんたらと縁ができたから力を貸すだけだ」

 

クリス「全く、大食いは素直じゃねえな」

 

杏子「てめえに言われたくねえよ、デカチチ!」

 

クリス「んだとぉ!?」

 

 早速、クリスと杏子は喧嘩になった。

 

翼「櫻井女史、2人は…」

 

了子「喧嘩させときなさい。あの子達、結構似た者同士だから喧嘩するほど仲がいいのよ」

 

翼「そ、そうなのですか…?」

 

了子「2人共、そろそろ見滝原へ向かうわよ!杏子ちゃんも当面の間はマミちゃんのとこにいなさい!」

 

杏子「わかってるよ!」

 

 一同は車に乗り、見滝原へ帰った。その様子をキュゥべえと杳馬が見ていた。

 

キュゥべえ「再び櫻井了子を抹殺しようと思ったけど、やっぱり2度目も失敗したようだ。おまけに杏子も仲間になったし、予知とは違う出来事が起き続けて計画が大きく狂いそうだなぁ…」

 

杳馬「そもそも、響ちゃん達も魔法少女だったらそれなりにエネルギー回収は期待できたんだろ?」

 

キュゥべえ「そうだね。だけど、さやかももうすぐ絶望し、魔女になる。そうなればこれまでの失敗を取り戻せるほど僕の計画も進むはずさ。そして、まどかが契約すれば、完了だよ」

 

 ただ、計画が進む事を最優先に考えるキュゥべえと異なり、杳馬はある事を優先させていた。

 

杳馬「(さあて、本来の歴史と違う願い事で魔法少女になったさやかちゃんはどうなっちゃうのかなぁ?そのまま魔女になっちゃうのか、もしくは……)」

 

 小宇宙によるモニターで杳馬は仁美の姿を見つめ、ニヤけたのであった。




これで今回の話は終わりです。
今回はクリスと翼が杏子と会話し、味方に引き入れるのを描きました。
二度も了子の暗殺を目論んだキュゥべえですが、次の次の話でなぜなのかが明らかになります。
次の話はさやかが壊れてしまう話になります。
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