セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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142話 あたしって、ほんとバカ

S.O.N.G潜水艦

 

 マリアは弦十郎らに報告した。

 

弦十郎「何だとぉ!?魔女の正体は魔法少女だというのか!?」

 

マリア「ええ。私達はこの目で黒く濁り切ったソウルジェムがグリーフシードに変わり、魔女が生まれるのを見たの」

 

エルフナイン「このような事が……!」

 

沙織「となれば、キュゥべえが黒幕で間違いないようですね。キュゥべえと共に暗躍している杳馬の牽制のために任務から戻り次第、星矢とパルティータを向かわせます」

 

マリア「では、私は再び並行世界へ行くわ」

 

 再びマリアは並行世界へ向かった。

 

朔也「あの怪物が魔女だとすれば、キュゥべえとかいう奴のせいでこんな事態になってしまったのか……」

 

弦十郎「それだけとは言えん。あのギャラルホルンに干渉した奴もいるはずだ」

 

 

 

ほむらの家

 

 夜中に杏子とマミはほむらの家に呼ばれた。だが、ほむらの家はとても一般的なものとは思えないほどの構造であった。マミと杏子はソファーで座っていてマミはいつものようにべべを肩に乗せ、杏子はカップ麺を食べていた。

 

マミ「夜食は良くないわよ」

 

杏子「良いじゃん別に」

 

マミ「それで暁美さん。話って何かしら?」

 

ほむら「数日後に来る、ワルプルギスの夜についてよ」

 

 その言葉を聞いたマミの反応が顔に現れていた。

 

マミ「…佐倉さんから聞いていたけど、どうやら本当らしいわね(立花さん達の世界の怪物もワルプルギスの夜で間違いなさそうだわ…)」

 

 杏子からワルプルギスの夜の話を聞いたマミは今まで半信半疑であった響達の世界に現れた超巨大な怪物がワルプルギスの夜ではないかと確信し始めた。そして、ほむらは地図の一部分を指差して説明し始めた。

 

ほむら「ワルプルギスの夜の出現予測は、この範囲」

 

マミ「根拠は何かしら? さすがにでたらめで言っているとは思えないんだけど……」

 

ほむら「統計よ」

 

杏子「統計?以前にもこの街にワルプルギスが来たなんて話は聞いてねえぞ」

 

マミ「そうね。それに私はこの街に長く住んでるけど、ワルプルギスの夜が来た事なんて一度も無かったわ。そもそも来てたら私は今この場所にはいないし……。…一体何をどうやって統計したの?」

 

 2人に聞かれてもほむらは答えなかった。

 

杏子「あんたがあたし達の事を信頼していないのは分かってるけどさ、もうちょっと手の内を見せてくれてもいいんじゃない? こんなんじゃ、倒せるものも倒せないよ」

 

???「それは僕からもぜひお願いしたいね、暁美ほむら」

 

 声の主はキュゥべえであり、キュゥべえはいつの間にかいた。キュゥべえが現れてから、べべは威嚇するなりして警戒した。

 

べべ「グルルルル…!」

 

杏子「どの面下げて出て来やがった、てめぇ」

 

 杏子はソウルジェムから固定化されていない槍を出し、キュゥべえに突き付けた。マミの方も何かあればすぐに変身し、銃弾を叩き込もうとしていた。

 

キュゥべえ「やれやれ、招かねざる客ってわけかい?」

 

マミ「当たり前でしょ。私達があなたにされた事を考えればね」

 

 今までキュゥべえと親しかったマミだったが、ソウルジェムの秘密を知ってからはキュゥべえに対する態度が冷たくなり、べべと共に警戒するようになった。

 

キュゥべえ「今夜は君達にとって、重要なはずの情報を知らせに来たんだけどね」

 

杏子「はぁ?」

 

キュゥべえ「美樹さやかの消耗が予想以上に早い。魔力を使うだけでなく、彼女自身が呪いを生み始めた」

 

マミ「全部あなたのせいなのに、まるで他人事ね」

 

キュゥべえ「このままだと、ワルプルギスの夜が来るより先に、厄介な事になるかもしれない。注意しといた方が良いよ」

 

杏子「何だそりゃ? どういう事だ?」

 

キュゥべえ「僕じゃなくて、彼女に聞いてみたらどうだい? 君ならすでに、知っているんじゃないかな? 暁美ほむら」

 

 キュゥべえの言った事に対し、ほむらは何も言わなかった。

 

キュゥべえ「やっぱりね…。どこでその知識を手に入れたのか、僕はとても興味深い。シンフォギア」

 

 言い終わる前にべべが口から本体を出し、キュゥべえを捕食した。

 

べべ「マジョマジョ~!」

 

杏子「食べちまいやがった…!」

 

ほむら「いくら殺しても、捕食しても、奴はまた現れるわ」

 

マミ「そうね……。それより、今は美樹さんの事だわ。キュゥべえの言ってた厄介事って一体何なの?」

 

ほむら「……彼女のソウルジェムは、穢れを溜めこみすぎたのよ。早く浄化しないと、取り返しのつかない事になる」

 

杏子「ところで、何で能天気な大食いとその仲間達を呼ばなかったんだ?」

 

 杏子の言う大食いは響の事であり、それを聞いたほむらは嫌悪の感情が顔に現れた。

 

マミ「立花さん達や弦十郎先生達をどうして呼ばなかったの?もしかして、暁美さんは立花さんに強い憎悪を抱いているのではないでしょうね…?」

 

ほむら「あの女の名も苗字も言わないで!」

 

 キュゥべえの言葉にも動じなかったほむらは響の事となると激昂した。

 

杏子「あいつらはあたしと向き合って、救ってくれたんだぞ」

 

マミ「私もあの人達や鹿目さん達に出会って救われたの。なのに、あなたはどうして?」

 

ほむら「あなた達に言う必要はないわ。話はここまでよ。ワルプルギスの夜の話は、美樹さやかの一件が終わってからあの女達に話しなさい。今は美樹さやかの方をなんとかするのが先なのだから」

 

 話は切り上げられ、2人は不満が解消されないまま仕方なく帰る事にした。

 

 

 

了子の家

 

 翌朝、響達は魔女の正体を知って驚愕した。

 

切歌「魔女の正体が魔法少女デスと!?」

 

翼「私達はソウルジェムがグリーフシードに変貌するのを目の当たりにした」

 

調「じゃあ、私達が今まで戦ってきた魔女は……!」

 

クリス「……思っている通りだろうな」

 

マリア「だけど、魔女と化した魔法少女には言葉は通じないから、躊躇は無用よ」

 

調「そうだね。今までの魔女は私達を殺そうとするのに何の躊躇いもなかったから、そうしないと…」

 

切歌「だけど、魔女からみんなを護るために戦った魔法少女のなれの果てが魔女なのはムシャクシャするのデス!あれもこれも全てキュゥべえのせいなのデス!」

 

 響達も魔女の正体を知り、魔法少女がやがて魔女になるという事実にやるせない想いであった。

 

了子「さやかちゃんのソウルジェムを早く浄化しないと魔女になってしまうわよ」

 

未来「でも、魔女化する直前だったら……」

 

了子「ソウルジェムがグリーフシードに変わる前に浄化すれば大丈夫よ。変わる直前であっても、魔を祓う力で穢れを消し飛ばしちゃえるんじゃないかしら?」

 

未来「魔を祓う…。ひょっとして……!」

 

了子「そう、神獣鏡の光でソウルジェムの穢れを浄化するの。でも、下手をするとソウルジェムまでも砕けてしまいかねないから、賭けになるわ。気を付けるのよ」

 

未来「はい!」

 

 

 

市街地

 

 同じ頃、この世界に来たブラックジャックはソウルジェム最後の秘密も聞き、恭介や仁美の様子を見に来た。

 

ブラックジャック「(まさか、魔女の正体が魔法少女のなれの果てだったとは…!)」

 

 一方、仁美は登校していたが、いつもさやかが待っている場所にさやかの姿はなかった。

 

仁美「(さやかさん、やはり昨日の件で…)」

 

 そこへ恭介が通りかかった。

 

恭介「志筑さん?」

 

仁美「上条君、さやかさんを見ませんでしたか?」

 

恭介「見てないよ。僕も久しぶりにさやかと一緒に行きたかったけど、さやかの両親も昨日の夜から帰ってきてないって言ってた上に見かけなくて…」

 

 肝心のさやかはなんと、人目がつかないところでたまたま仁美と恭介が会話するのを目撃していた。しかも、今度は直感で並行世界に来たブラックジャックもその場に現れた。

 

恭介「ブラックジャック先生!」

 

ブラックジャック「元気そうだな。ところで、さやかはどうした?」

 

仁美「それが、上条君の話によると、昨日の夜から家に帰ってきていないとさやかさんの両親がおっしゃっていました…。私がさやかさんの気に障る事を言ってしまったせいだと……」

 

 詳しい話の内容はさやかには聞こえていなかった。

 

さやか「(仁美が…恭介に告白しちゃった…!)」

 

 実際はさやかを見てないか話していたのだが、さやかは仁美がもう待ちきれずに恭介に告白したと勘違いし、泣いて逃げて行った。誰かがいたのを仁美とブラックジャックは察した。

 

さやか「(あたしの体がゾンビじゃなかったら、ブラックジャック先生を連れてきた事を)」

 

 しかし、ある事をさやかは自覚してしまった。

 

さやか「(!?見返りなんて求めないと決めたのに、響達に頼んでブラックジャック先生を連れてきた事を盾に恭介と付き合おうとしていた!あたし、契約する前から正義の味方失格だ!!)」

 

 一方、仁美達の方は…。

 

仁美「上条君、先に行ってくれませんか?」

 

恭介「いいけど…、今日の夕方は」

 

仁美「少し用があるんです。夕方の用事は学校で話します」

 

 とりあえず、恭介は先に学校へ行った。恭介と入れ替わるようにまどかが来た。

 

まどか「おはよう、仁美ちゃん!」

 

仁美「まどかさん、昨日、さやかさんに何かありましたか?」

 

まどか「え、えっと…」

 

仁美「無理に魔法少女の事を隠す必要はありません。既にブラックジャック先生からお聞きしたので」

 

まどか「ブラックジャック先生から!?(ブラックジャック先生を見るの、初めて…!)」

 

ブラックジャック「ああ、そうだ。私が治った理由として仁美に教えた。変に隠す必要もないぞ」

 

まどか「実は…」

 

 隠す必要がなくなった事でまどかはさやかに起こった出来事を全て話した。

 

仁美「そうだったのですか…。だから、さやかさんを見かけなかったのですね……」

 

まどか「うん…」

 

ブラックジャック「このままだと、さやかは魔女化して大変な事になるぞ…!」

 

まどか「えっ!?さやかちゃんが魔女に!?」

 

ブラックジャック「詳しい説明は後で話す」

 

仁美「……ブラックジャック先生、私は決心しました。魔法少女になります」

 

 その言葉にまどかは驚愕し、ブラックジャックも驚いた。

 

まどか「仁美ちゃん、ダメだよ!」

 

ブラックジャック「……魔女化等のリスクも考慮の上で本気で言っているんだな?」

 

仁美「本気です!」

 

 仁美の視線の先にはキュゥべえがいた。

 

 

 

見滝原中学校

 

 ブラックジャックと杏子も加えて響達はさやかを捜索したが、見つからなかった。そして昼休み、一同は魔女化を伝えるのも兼ねてやってきた。マミと杏子は魔女の正体とその変貌の原因に凄まじいショックをうけていた。

 

杏子「嘘…だろ……!?」

 

マミ「魔女の正体が……魔法少女……!?」

 

未来「マミちゃんも杏子ちゃんも正体がわかったからって、自殺しないで!」

 

響「魔女になってしまうのはソウルジェムが黒く濁り切った時だから、きちんとソウルジェムを綺麗にしていれば魔女になんてならないよ!」

 

マミ「頭の中ではわかってても…ね……」

 

 今まで倒してきた魔女が魔法少女のなれの果ての姿であり、しかも自分達も魔女になってしまう可能性を知ったマミと杏子はソウルジェムさえ綺麗にしていれば魔女化しないと頭の中でわかっていても、ショックは抜け切らなかった。

 

杏子「それより、さやかを早く探さねえと取り返しがつかねえ事になるぞ!」

 

まどか「響さん達に言いたい事があるんです」

 

響「伝えたい事?」

 

 それは、仁美がキュゥべえと契約し、魔法少女になった事であった。

 

切歌「な、何デスと!?」

 

調「ブラックジャック、どうして止めなかったの!?」

 

ブラックジャック「止めようにも、『私は抜け駆けして上条君の心を射止めたくありません!それに、お詫びも兼ねて瀕死の私を助けてくれた恩返しをしたいんです!』と言って契約したのさ。リスクも全て承知の上でな」

 

マミ「新しい後輩ができたのは、今となっては複雑ね……」

 

未来「仁美ちゃんはどこに?」

 

まどか「弦十郎先生とちょっとね……」

 

 

 

結界

 

 そして下校時刻ちょうどの事、さやかは使い魔の結界の中で狂戦士のように剣を乱暴に振り回して使い魔を倒していた。しかも、ソウルジェムは黒く濁っていた。

 

さやか「うわあああああっ!!」

 

 やり場のない怒りと悲しみをぶつけるかのようにさやかは使い魔を蹴散らしていた。

 

 

 

建物

 

 使い魔が全滅すると、結界が消滅し、さやかの変身も解けた。体力や魔力のペース配分も考えずに力任せに戦った結果、さやかの息は荒かった。そこへ、ほむらが来た。

 

ほむら「どうして分からないの。ただでさえ余裕がないのだから、魔女だけを狙いなさい」

 

さやか「うるさい……大きなお世話よ」

 

ほむら「もうソウルジェムも限界のはずよ。今すぐ浄化しないと……。使いなさい」

 

 ほむらはさやかにグリーフシードを放り投げた。しかし、さやかは受け取らなかったばかりか、靴のかかとで足元に落ちたグリーフシードを蹴り飛ばした。その行動にほむらは苛立った。

 

さやか「こんどは何を企んでるのさ?」

 

ほむら「……いい加減にして。もう人を疑ってる場合じゃないでしょ? そんなに人に助けられるのが嫌なの?」

 

さやか「あんた達とは違う魔法少女になる……あたしはそう決めたんだ。誰かを見捨てるのも、利用するのも、そんな事をする奴らとつるむのもやだ。見返りなんていらない。あたしだけは絶対に自分のために魔法を使ったりしない」

 

 実際はさやかは自分が見返りを求めていた事を自覚してしまい、自暴自棄になっていたのであった。

 

ほむら「……あなた、死ぬわよ」

 

さやか「あたしが死ぬとしたら……、それは魔女を殺せなくなった時だけだよ。それってつまり用済みって事じゃん。なら良いんだよ……」

 

 疲労が溜まっているせいか、さやかは膝をついた。

 

さやか「魔女を倒せないあたしなんて、この世界にいらないよ……」

 

ほむら「ねぇ、どうして?あなたを助けたいだけなの。どうして信じてくれないの?」

 

さやか「どうしてかなぁ……。ただ何となく分かっちゃうんだよねぇ……、あんたが嘘つきだって事。あんた、何もかも諦めた目をしてる。いつも空っぽの言葉を話してる。今だってそう。あたしのためとか言いながら、本当は全然別の事を考えてるんでしょ?本当に響達と正反対だよ、あんた嫌いなんじゃないの?明るくて、諦めがとても悪くて、真っ直ぐな目をしてて、心の底から思った事を話す響は自分と正反対で、おまけにまどかと同じ声をしているからすぐに殺したくなるほど嫌う。違う?誤魔化せるもんじゃないよ、そういうの」

 

 響の名を聞いたほむらは苛立った。

 

ほむら「あの女の名前を言うな!そうやって、あなたはますますまどかを苦しめるのね!」

 

さやか「まどかは……関係ないでしょ」

 

ほむら「いいえ、何もかもあの子のためよ」

 

 そう言ってほむらは魔法少女の姿に変身した。

 

ほむら「あなたって鋭いわ。ええ、図星よ。私はあなたを助けたいわけじゃない。あなたが破滅していく姿を、まどかに見せたくないだけ。ここで私を拒むなら、どうせあなたは死ぬしかない。これ以上、まどかを苦しめるくらいなら、いっそ私がこの手で、今すぐ殺してあげるわ、美樹さやか……!」

 

 ほむらはさやかを殺すため、何かを取り出そうとしたが、ほむらは杏子の多節棍状の槍で拘束され、動きを封じられた。

 

杏子「おい、早く逃げろ!」

 

 逃げるように言われてさやかは重い足取りながらも逃げた。

 

杏子「正気かよてめぇ? あいつを助けるんじゃなかったのかよ?」

 

ほむら「……離して」

 

 ほむらが何もしてこない事に杏子は笑みを浮かべた。

 

杏子「ふぅん、なるほどね。こんな風にとっ捕まったままだと、あの妙な技も使えないってわけか」

 

 もう勝てると思い込んだ杏子であったが、ほむらは手から手榴弾を落とした。

 

杏子「なっ……!」

 

 杏子は驚き、ほむらは左手で手榴弾を掴んでから口で安全ピンを引き抜いた。爆発に巻き込まれると思った杏子が後ろに下がると、手榴弾から強烈な閃光が放たれた。杏子は伏せて閃光を見ないようにした。閃光が収まると、そこにはほむらはいなかった。

 

杏子「くそ……」

 

 

 

魔女の結界

 

 何とかほむらから逃げる事ができたさやかであったが、今度は魔女の結界に入り込んでしまった。

 

さやか「はは…ははははっ…。ここが…、あたしの死に場所か……」

 

 頭がアフロのような毛におおわれている犬みたいな魔女や先程倒した使い魔と同じ姿の使い魔を見かけ、さやかはここが自分の死に場所と判断して変身した。

 

 犬の魔女ウアマン。その性質は渇望。 誰からも誰よりも愛されたくてしょうがない犬の姿をした魔女。その結界内に入った人間はこの魔女に関心を抱かざるを得ない。

 

さやか「やあああああっ!!」

 

 剣を構えてさやかは向かっていったが、ただでさえ疲労がたまり、ソウルジェムの穢れもかなり溜め込んでいる状態ではウアマンに全く敵わず、ウアマンの前足で簡単に吹っ飛ばされた。

 

さやか「うわあああああっ!!」

 

 さやかを吹っ飛ばした後、即座にウアマンはさやかに襲い掛かり、鋭い爪を突き立ててさやかの身体を引き裂いた。

 

さやか「がはっ!うわあああああっ!!」

 

 疲労で痛みの遮断すらできない状態で身体を鋭い爪で引き裂かれたため、さやかは深い傷と出血による凄まじい痛みで苦しむ事となり、ソウルジェムの濁りがひどくなっているせいで回復もとても遅くなっていた。

 

さやか「(あたし、ここまでかな…?結局あたしは一体何が大切で、何を護ろうとしてたのか……もう何もかも、わけ分かんなくなった。杏子が言ってた希望と絶望のバランスは差し引きゼロだって……、今ならよく分かるよ。あたしは何人か救いもしたけど、だけどその分心には恨みや妬みが溜まって…、一番大切な友達まで傷つけて……誰かの幸せを祈った分、他の誰かを呪わずにはいられない。あたし達魔法少女って、そういう仕組みだったんだね。あたしって…ほんと……)」

 

 今までの楽しかった思い出、そして魔法少女になった事を後悔して自分はここで魔女に殺されて死ぬのだとさやかは悟り、涙を流していた。ウアマンの方は動けなくなったさやかを捕食しようと迫り、鋭い牙でさやかを喰いちぎって食べようとした。ところが……、鎌や丸鋸が急に飛んできてウアマンに当たった後、鎌鼬のような突風でウアマンが切り裂かれ、痛がった。

 

さやか「何……?」

 

 次は誰かがウアマンを殴り飛ばした。

 

???A「さやかちゃん!」

 

???B「さやかさん!」

 

さやか「まどか…仁美……?」

 

 聞き覚えのある声にさやかは反応したが、そこで意識を失い、深い傷はそのままに変身が解除された。ウアマンを殴り飛ばしたのは響と仁美であり、未来達もいた。仁美の方は和装の魔法少女の姿となっていて、扇を武器にしていた。

 

響「間に合ったみたいだね!」

 

仁美「ブラックジャック先生、未来さん、さやかさんをお願いします!」

 

ブラックジャック「任せろ!」

 

 医者であるため、ブラックジャックは危険を考慮の上で響達と共に結界に突入しており、さやかを安全な場所まで運んだ。

 

未来「ブラックジャック先生は応急処置をしてください。私は神獣鏡の光で穢れを消し飛ばします!」

 

 そう言って未来は神獣鏡の光を扇から出し、さやかのソウルジェムに光を当てた。神獣鏡の光での浄化は一歩間違うとさやかのソウルジェムを壊しかねない賭けであったが、結果は穢れを綺麗に消し飛ばす事に成功した。

 

未来「やった…!穢れを消し飛ばせた!」

 

ブラックジャック「これで魔女化の危機は去ったな」

 

 さやかの魔女化の回避が成功して未来とブラックジャックは微笑み、すぐにブラックジャックはさやかの応急処置を行った。

 

切歌「それにしても、さっきのは凄かったデス!」

 

仁美「これも、今までの習い事をしてきた事と、事前にDVDを見せて戦い方を伝授してくれた弦十郎先生のお陰ですわ」

 

 

 

回想

 

 それは、昼休みの事であった。仁美は魔法少女の姿で弦十郎と話をしていた。

 

弦十郎「さやか君への恩返しと同等の条件で恋の勝負に勝ちたいから、魔法少女になっただと?」

 

仁美「はい。私はまだなったばかりなので、何か戦い方を教えてもらえたらと…」

 

 強い仁美の決意を感じた弦十郎は何も苦言は言わなかった。

 

弦十郎「わかった。授業が始まる5分前まで俺が教えるとしよう」

 

 変身を解いた後、仁美は弦十郎と共にDVDプレーヤーのある部屋へ行き、弦十郎はアニメのDVDを取り出した。

 

弦十郎「君の武器は扇だ。だから、扇を武器にした人物が出ているアニメを見て、戦い方を学ぶんだ」

 

仁美「はい!」

 

 

 

調「こっちではアニメのDVDも見てるみたい…」

 

仁美「無駄話はここまでにして、早く魔女を片付けましょう!」

 

 使い魔は意志もなく、ただ回り続けるだけであったために対処は簡単であり、仁美が扇で起こした突風で全て吹き飛ばされた。

 

調「次は魔女の動きを封じる!」

 

仁美「まずは私にお任せを!」

 

 まず、仁美がウアマンに近づいて手をかざした。すると、ウアマンはまるでその場にいる全員の事を見失ったかのような行動をとった。その後、調はツインテール型の鋸でウアマンの足を切り裂き、続いて切歌がもう片方の足を切り裂いてウアマンを動けなくした。

 

調「仁美の記憶操作魔法、凄い…!」

 

仁美「まだまだ私は新人なので、戦闘の際は一時的に忘れさせるのが限界です」

 

未来「仁美ちゃん、力を合わせて一気に決めよう!」

 

仁美「そうさせていただきます、未来さん!」

 

 仁美と未来は互いの扇を合体させ、一つの大きな扇にして魔を祓うすさまじい風、『聖風』を起こした。その鎌鼬の如き暴風と魔を祓う力が組み合わさった風にはウアマンは抵抗する事すらできず、無残に切り刻まれて消滅した。

 

 

 

建物

 

 ウアマンが倒された事で結界は崩れ、グリーフシードを回収してから仁美達はブラックジャックのところに来た。

 

切歌「これで終わったのデス!」

 

仁美「ブラックジャック先生、さやかさんはどうなんですか?」

 

ブラックジャック「疲労やストレスで意識を失った他、鋭い爪による深い傷に失血、相当な重傷だ。いくらソウルジェムが無事でも意識が戻らない限り、私が手術する他あるまい」

 

響「だったら、急いで病院へ!」

 

 さやかを車に乗せ、ブラックジャック達は病院へ移動する事となった。その際、ブラックジャックは仁美のスマホで病院に連絡した。

 

ブラックジャック「もしもし、見滝原総合病院ですか?」

 

医師『ブラックジャック先生、どうなされたのですか?』

 

ブラックジャック「事故による重傷患者を発見した!そちらの病院に今から搬送するが、手術室は使えるか?」

 

医師『はい、今日はもう手術の予定はありません!』

 

ブラックジャック「だったら、私が今から搬送する患者の手術に使わせてほしい!患者は輸血と皮膚の移植が必要だ!」

 

医師『血液と皮膚のストックは』

 

ブラックジャック「既に私が提供者を見つけたから、その人に提供してもらう!」

 

医師『わかりました!直ちに手術の準備を行います!』

 

 連絡を終えた後、ブラックジャックは響達が同乗している車を走らせ、病院へ向かった。その様子を杳馬は見ていた。

 

杳馬「おうおう、何という運命の糸が絡み合った事によるサプライズ!本来であれば魔法少女とは無縁なはずだった仁美ちゃんが自分を助けてくれた親友への恩返しと同等の条件で恋の勝負に勝ちたいがために魔法少女になって戦いに身を投じるとは!これぞ、キュゥべえのダンナでは為し得なかった俺が起こした奇跡!」

 

 愉快犯であるが故に杳馬にとって、仁美が魔法少女になったのは素晴らしいサプライズだと思っていた。

 

杳馬「さやかちゃんの魔女化が回避されたか。ま、あのまま魔女化したって今度はマミちゃんが後輩達をぶっ殺してたからなぁ。これは何と言う展開、ぬはははははっ!!」

 

 

 

公園

 

 放課後、まどか達は手分けしてさやかを探していて、まどかはマミと共に行動していたが、疲れて公園で休んでいた。ちょうど時間帯も夕方になっていた。

 

まどか「さやかちゃん…」

 

マミ「ここで少し休みましょう。そうしてから」

 

???「君も僕の事を恨んでいるのかな?」

 

 声の主はキュゥべえであった。

 

まどか「あなたを恨んだら、さやかちゃんを元に戻してくれる……?」

 

キュゥべえ「無理だ。それは僕の力の及ぶ事じゃない」

 

マミ「随分と無責任なのね」

 

 何を言っても無駄であるため、マミはキュゥべえが何かしようとすればすぐにでも撃ち殺す気でいた。まどかはベンチに座った。

 

まどか「……ねぇ、いつか言ってた、私がすごい魔法少女になれるって話、あれは……本当なの?」

 

キュゥべえ「凄いなんていうのは控えめな表現だ。君は途方もない魔法少女になるよ。恐らくこの世界で最強の」

 

まどか「私が引き受けてたら、さやかちゃんは魔法少女にならずに済んだのかな?」

 

キュゥべえ「さやかは彼女の願いを遂げた。その点についてはまどかは何の関係もない」

 

まどか「………どうして私なんかが」

 

キュゥべえ「僕にも分からない。はっきり言って、君が秘めている潜在能力は理論的にはあり得ない規模のものだ。誰かに説明してほしいのは僕だって一緒さ」

 

まどか「そうなの?」

 

マミ「そんな素質が鹿目さんに…?」

 

キュゥべえ「君が力を解放すれば、奇跡を起こすどころか宇宙の法則を捻じ曲げる事だって可能だろう」

 

まどか「私は、自分なんて何の取り柄もない人間だと思ってた。ずっとこのまま、誰のためになる事も何の役に立つ事も出来ずに、最後までただ何となく生きていくだけなのかなって。それは悔しいし、寂しい事だけど、でも仕方ないよねって思ってたの」

 

キュゥべえ「現実は随分と違ったね。まどか、君は望むなら万能の神にだってなれるかもしれないよ」

 

まどか「……私なら、キュゥべえにできない事でも、私ならできるのかな?」

 

キュゥべえ「というと?」

 

まどか「私があなたと契約をしたら、さやかちゃんの体を元に戻せる?」

 

キュゥべえ「その程度、きっと造作もないだろうね。その願いは、君にとって魂を差し出すに足るものかい?」

 

まどか「さやかちゃんのためなら、いいよ」

 

マミ「早まらないで、鹿目さん!あなたも魔法少女の真実を知ったはずよ!」

 

まどか「マミさん、私は決めたんです。さやかちゃんに助けられたから、今度は私が」

 

 ところが、急にキュゥべえの身体が穴だらけになり、倒れた。

 

マミ「何が起こったの…?」

 

 撃ったのはほむらであった。

 

まどか「ひ、酷いよ!何も殺さなくても……!」

 

ほむら「……あなたは、なんであなたは、いつだってそうやって自分を犠牲にして……」

 

まどか「え……?」

 

ほむら「役に立たないとか、意味がないとか……勝手に自分を粗末にしないで……!あなたを大切に思う人の事も考えて……!」

 

マミ「暁美さん…」

 

ほむら「いい加減にしてよ!あなたを失えば、それを悲しむ人がいるってどうして気付かないの!?あなたを護ろうとしてた人はどうなるの!?」

 

 ほむらはいつもと違って感情的であった。

 

マミ「(暁美さん…。あなたはなぜ、そこまで鹿目さんの事を大事にしているの……?)」

 

まどか「私達は……、どこかで……どこかで会った事があるの……?私と……」

 

ほむら「それは……」

 

 そこへ、マミのスマホに電話がかかり、マミは連絡を聞いた。

 

マミ「鹿目さん、ブラックジャック先生達が美樹さんを発見してソウルジェムを浄化したそうよ!」

 

まどか「という事は…さやかちゃんは助かったんですね!?」

 

マミ「ええ。だけど、意識が戻らないから、病院へ搬送してブラックジャック先生が手術を行うって言ってたわ。私達も病院へ行きましょう!」

 

まどか「はい!」

 

 さやかの魔女化が回避され、助かったという事実はほむらにまたしても衝撃を受けた。

 

ほむら「(美樹さやかが…助かった……!?グリーフシード以外でソウルジェムの穢れを浄化する方法があるとでもいうの…!?)」

 

まどか「ごめんね、ほむらちゃん。さやかちゃんが搬送された病院へ行かないと…!」

 

ほむら「待って、行かないで!まどかぁ!!」

 

 駐車場にマリアが乗った車が来て、まどかはマミと共に車に乗り、病院へ向かった。1人残されたほむらは泣き声を漏らしていた。

 

ほむら「う……ううぅ……!」

 

???「無駄な事だって知ってるくせに。懲りないんだなぁ、君も」

 

 声の主はほむらが撃ち殺したはずのキュゥべえであった。

 

キュゥべえ「代わりはいくらでもいるけど、無意味に潰されるのは困るんだよねぇ。勿体ないじゃないか」

 

 そのままキュゥべえは殺された個体のところに来て、死体を食べた。その光景は人間とはまるで価値観が違う事を痛感させられるものであった。

 

キュゥべえ「きゅっぴぃ!君に殺されるのはこれで二度目だけれど、おかげで攻撃の特性も見えてきた。時間操作の魔術だろう?さっきのは」

 

 からくりがばれたのか、ほむらの目に少し動揺が見えた。

 

キュゥべえ「やっぱりね。なんとなく察しはついてたけれど、君はこの時間軸の人間じゃないね?」

 

ほむら「……お前の正体も企みも、私は全て知ってるわ」

 

キュゥべえ「なるほどね……。だからこんなにしつこく僕の邪魔をするわけだ。そうまでして、鹿目まどかの運命を変えたいのかい?」

 

ほむら「ええ。絶対にお前の思い通りにはさせない、キュゥべえ……いいえ……インキュベーター!」

 

 孵卵器を意味するキュゥべえの本当の名前をほむらは忌々しい様子で言い放った。




これで今回の話は終わりです。
今回はまどかマギカ本編とは大きく異なる出来事である、仁美が契約して魔法少女になり、響達の協力もあってさやかの魔女化が回避される展開となっています。
神獣鏡の凶祓いは対聖遺物特攻や錬金術特攻、呪いのドールハウスにおける呪い特攻などといった最早何でもありと言わんばかりの万能性があるため、魔女特攻やソウルジェムの穢れにも効果的ではないかと解釈してさやかのソウルジェムを浄化して魔女化を阻止するという大きな見せ場を作りました。
契約した後に弦十郎のDVDを見せてもらった仁美ですが、アクション映画だけでなく、○ARUTOや○夜叉も含まれていたのかも知れません。
次はブラックジャックが意識が戻らないさやかの手術を行う事となりますが、原作では友よいずこ、アニメでは縫い目皮膚の提供者のオマージュシーンを入れます。

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