セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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143話 これは私のワガママなのです

病院

 

 病院へ着くと、既に医師達がブラックジャック達を待っていた。そして、ブラックジャックはさやかを抱えて看護師達が持ってきた搬送のためのベッドに寝かせた。

 

看護師「お待ちしておりました、ブラックジャック先生!」

 

ブラックジャック「ご協力、感謝します」

 

医師A「しかし、これはひどい怪我だ…」

 

医師B「この子、上条恭介君のお見舞いに来ていた子だ」

 

看護師「今度はこの子がひどい怪我をしたなんて…」

 

ブラックジャック「無駄話はここまでだ。急いで手術を行うぞ!」

 

 そこへマリア達や弦十郎達が来て、まどかはマミや合流した杏子と共にさやかに駆け寄った。

 

まどか「さやかちゃん!」

 

マミ「美樹さんがこれほどひどい怪我をしたなんて…」

 

ブラックジャック「今から手術室へ搬送する」

 

杏子「ちょっと待て!」

 

 急いでさやかの手術をしなければならないため、さやかは看護師達が手術室へ搬送した。その後、ブラックジャックは響達の前に来た。

 

ブラックジャック「さやかの傷は深い上、皮膚や血液の提供も必要だ。意識があれば本人の回復魔法でどうにかなるそうだが、意識が戻らない以上、私が手術しなければならん。この中の誰かから皮膚や血の提供をしてほしいのだが…」

 

弦十郎「皮膚や血の提供か…」

 

まどか「私にやらせてください!」

 

響「まどかちゃん…?」

 

まどか「私、今まで見てるだけで何の役にも立ってなくて……」

 

 自分は何も役に立ててないと思い、まどかは自分の皮膚と血を提供しようとしたが…。

 

ブラックジャック「皮膚はともかく、お前さんの血液型はさやかと違う。残念だが、血の方は提供できん」

 

まどか「そんな……」

 

弦十郎「まどか君の気持ちはわかるが、今はブラックジャック君の言う通りにするんだ…」

 

杏子「だったら、さやかにはあたしが」

 

マミ「それこそ、私の」

 

 提供者になろうとしたマミと杏子であったが、仁美が2人を制止した。

 

仁美「私が血と皮膚の提供者になります」

 

まどか「仁美ちゃん…?」

 

仁美「幸い、私はさやかさんと血液型が同じです。それに、私はさやかさんの願い事で助けてもらったので、その恩返しで血と皮膚を提供したいんです。これは他の誰にも絶対に譲る事はできません!」

 

 さやかに皮膚と血を提供する事を絶対に譲らないと語る仁美の気持ちにマミと杏子は身を引く事にした。

 

杏子「……あんたには負けたよ。ただの育ちがいいだけのお嬢様じゃねえみたいだ」

 

マミ「私もよ。志筑さん、頼むわね」

 

仁美「わかりました」

 

ブラックジャック「(皮膚と血の提供者になるのを自ら志願するほど大切に思ってくれる先輩や友人達がいるなんて、さやかは恵まれてるな…。それに、タカシから皮膚をもらった俺が今度は本間先生と同じ立場になったのも、何かの縁なのかもな…)」

 

 幼い頃、爆発事故に遭った際に今は亡きかけがえのない友、タカシの皮膚をもらったブラックジャックは今度は自分が今は亡き恩師の本間と同じ立場になり、仁美が重傷を負ったさやかに血はおろか、皮膚まで提供すると言った事に感慨深く思っていた。

 

切歌「何をボサッとしているのデスか、ブラックジャック!」

 

ブラックジャック「ああ、すまん。昔を思い出してな」

 

仁美「それではブラックジャック先生、頼みます!」

 

 仁美はブラックジャックと共に手術室に向かった。ブラックジャックは白衣に着替え、仁美の皮膚を切り取る作業に入った。

 

ブラックジャック「背中の皮膚を切り取る」

 

 ブラックジャックは速く、的確なメス捌きで仁美の背中の皮膚を切り取った。

 

ブラックジャック「患者への血液供給は?」

 

医師「できてます」

 

ブラックジャック「これより、オペを開始する!」

 

 助手の医師や看護師の協力の元、ブラックジャックは手術を開始した。一同は手術室の前で待っていたが、そこへ恭介が松葉杖をつきながらも慌てて来た。

 

まどか「上条君!」

 

恭介「さやかが事故に遭って搬送されたと聞いて!」

 

翼「落ち着くんだ、上条。たった今、ブラックジャック先生が手術を開始したところだ」

 

マミ「美樹さんは皮膚の損傷がひどい上に血も大量に失っているから、志筑さんが血と皮膚を提供する事になったの」

 

恭介「志筑さんがさやかに血と皮膚を…」

 

 それでも心配そうにする恭介の肩に弦十郎は手を置いた。

 

恭介「弦十郎先生…」

 

弦十郎「安心しろ、恭介。ブラックジャック君は絶対にさやか君を救ってくれる。お前だって、ブラックジャック君のお陰でその左手が治ったじゃないか」

 

了子「だから、ここはブラックジャック君を信じて待ちましょ?」

 

 恭介も手術が終わるのを待つ事にした。そして1時間半ほどした後、手術室のランプが消灯し、ブラックジャックと仁美が出てきた。

 

まどか「どうなんですか?」

 

ブラックジャック「成功だ!」

 

 手術が成功した事に一同は喜んだ。

 

まどか「さやかちゃんは助かったんだ…」

 

響「よかったね、まどかちゃん!」

 

 喜んでいる一同の中でも、特に親友のまどかが一番喜んでいた。

 

クリス「一番のMVPは血と皮膚を提供した仁美だしな」

 

杏子「あたしもあんたには負けたよ」

 

仁美「いえ、私はさやかさんへの恩返しをしたかっただけなので」

 

 さやかが助かり、病室へ搬送された事に恭介も安心した。

 

ブラックジャック「恭介も来ていたのか。今日はもう遅いから、家に帰るんだ。そして、次の日に見舞いに来たらどうだ?」

 

恭介「はい。でも、さやかと立場が入れ替わっちゃった感じで…」

 

ブラックジャック「今度はお前さんがさやかを元気づけてやれよ」

 

 もう夜になったため、恭介は家に帰る事にした。

 

マミ「一時はどうなるかと思ったけど、これで一安心ね」

 

べべ「ジュジュベ!」

 

マリア「それじゃあ、私達も」

 

???「驚いたよ。まさか、グリーフシード以外でソウルジェムの穢れを浄化してしまう手段を君達が持っていたとは」

 

 突然、呑気で聞きたくない声が響いてきた。その声の主は病院に来たキュゥべえであった。

 

調「白いケダモノ!」

 

キュゥべえ「僕をケダモノ扱いしないでくれよ。全く、君達がここまで僕の計画を狂わせてくれるのは予想外だ」

 

弦十郎「お前には聞きたい事がある。キュゥべえ、お前はなぜ、必ず裏目に出る願い事を叶えていずれは魔女になる魔法少女を生み出したんだ!?事と次第によっちゃ、お前をこの街から見かけなくなるまで駆逐してやる!!」

 

キュゥべえ「勘違いしないでほしいんだが、僕らは君達人類に悪意を持っているわけじゃない。全ては、この宇宙の寿命を延ばすためなんだ」

 

マリア「宇宙の寿命……?」

 

 その言葉に了子以外は理解できなかった。

 

キュゥべえ「君達はエントロピーって言葉を知ってるかい?」

 

了子「私は知ってるわよ。簡単に例えるなら、焚き火で得られる熱エネルギーは木を育てる労力と釣り合わないって事でしょ?」

 

キュゥべえ「流石に天才は理解が早いね。エネルギーは形を変えるごとにロスが生じる。宇宙全体のエネルギーは目減りしていく一方なんだ」

 

ブラックジャック「それと魔法少女が何の関係がある?」

 

キュゥべえ「だから僕達は熱力学に縛られないエネルギーを探し求めてきた。そうして見つけたのが……、魔法少女の魔力だよ」

 

つばさ「何だと?」

 

キュゥべえ「僕達の文明は、知的生命体の感情を、エネルギーに変換するテクノロジーを発明した。ところが生憎、当の僕らが感情というものを持ち合わせていなかった。そこで、この宇宙の様々な一族を調査し、君達人類を見出したんだ」

 

まどか「どうして、人間を……?」

 

キュゥべえ「人類の個体数と繁殖をかんがみれば、一人の人間が生み出す感情エネルギーはその個体が誕生し成長するまでに要したエネルギーを凌駕する。君達の魂は、エントロピーを覆すエネルギー源たり得るんだよ。とりわけ最も効率がいいのは、第二次性徴期の少女の希望と絶望の相転移だ。ソウルジェムになった君達の魂は、燃え尽きてグリーフシードへと変わるその瞬間に莫大なエネルギーを発生させる。それを回収するのが僕達……インキュベーターの役割なんだ」

 

マリア「インキュベーター……。それがあなた達の種族の名前って事?」

 

キュゥべえ「そう解釈してもらって構わないよ」

 

クリス「じゃあ、魔女っていうのは……」

 

キュゥべえ「この国では、成長途中の女性の事を少女って呼ぶんだろう?だったら」

 

了子「いずれは魔女になる少女…。やっぱり、私の予感は的中してたわね」

 

キュゥべえ「僕が正体を言ってないのに、僕の言った事をヒントに早い段階で魔女の正体を突き止めるなんて、君は本当の天才だよ、櫻井了子」

 

了子「あなたに褒められてもうれしくないわよ、詐欺師のお手本にもなるほどのケダモノ」

 

キュゥべえ「だから、僕をケダモノ扱いしないでほしいよ。嘘を言ってないのに詐欺師と言われるのも理解できない」

 

 流石のキュゥべえもケダモノや詐欺師扱いは嫌いなようであった。

 

杏子「ふざけんな! あたし達は消耗品か!?てめぇらの勝手な都合のために死ねって言うのかよ!!」

 

キュゥべえ「この宇宙にどれだけの文明がひしめき合い、一瞬ごとにどれほどのエネルギーを消耗しているか分かるかい?君達人間だって、いずれはこの星を離れて僕達の仲間入りをするだろう。その時になって枯れ果てた宇宙を引き渡されても困るよね?長い目で見れば、これは君達にとっても得になる取引のはずだよ」

 

未来「それのどこが得になるのよ!」

 

響「お前のやってる事は全て得になんかならない!」

 

 そう言って響はキュゥべえを殴った。

 

了子「あなた、弦が高校生ぐらいの時に病気でくたばって死んだ弦の親父さんに思考が随分とそっくりね。森を見て木を見ずって言葉を知ってるかしら?」

 

キュゥべえ「風鳴訃堂と僕の思考を同じだと言われるのは心外だなぁ」

 

了子「知らないのね。宇宙の寿命を延ばすために女の子を犠牲にするあなたは国を護る事に固執して人を護る事を軽視していた弦の親父さんと思考が一緒なのよ。あなた達なら、もっと犠牲を出さない方法も編み出せたはずじゃないかしらぁ?とても無責任なケダモノ君」

 

キュゥべえ「君達の価値感で無責任と言われてもなぁ。僕達はあくまで君達の合意を前提に契約しているんだよ。それだけでも充分に良心的なはずなんだが」

 

マミ「何が契約よ。みんなあなたに騙されてただけじゃない!!」

 

キュゥべえ「騙すという行為自体、僕達には理解できない。認識の相違から生じた判断ミスを後悔する時、何故か人間は他者を憎悪するんだよね。どうして僕が詐欺師と言われるのか理解に苦しむよ」

 

まどか「……私、あなたの言ってる事、ついていけない。全然納得できない」

 

キュゥべえ「君達人類の価値基準こそ、僕らは理解に苦しむなぁ。今現在で六十九億人、しかも四秒に十人ずつ増え続けている君達が、どうして単一個体の生き死に」

 

 話を終える前にブラックジャックはメスを数本キュゥべえ目掛けて投げ、キュゥべえの息の根を止めた。

 

ブラックジャック「命の価値がわからんお前さんの話は聞くだけ無駄だ!」

 

 しかし、またしてもキュゥべえが出てきた。

 

ブラックジャック「どうなっているんだ!?」

 

キュゥべえ「君達は僕に会うたびに僕を殺すよね。代わりはいくらでもいるけど、勿体ないじゃないか」

 

ブラックジャック「そのもったいないと言うのを人の命を大事にするという精神に繋げてくれればいいのだがな、人命軽視のケダモノが」

 

キュゥべえ「これでもちゃんと説明してるつもりなんだよ。君達の犠牲がどれだけ素晴らしいものをもたらすか、理解してもらいたかったんだが……どうやら無理みたいだね」

 

杏子「理解したくもねぇよ」

 

 キュゥべえはまどかへ視線を向けた。

 

キュゥべえ「まどか、僕が何回も君に接触したのは、君が僕達が今まで見てきた魔法少女達の中で最高の資質を持っていたからだ。君が魔法少女になれば、同時に君は最悪の魔女になる。その時僕らはかつてないほど大量のエネルギーを手に入れられるはずなんだ」

 

響「じゃあ、だからまどかちゃんを…!」

 

キュゥべえ「そう。全てが上手くいけばまどか以外の魔法少女は全員消え、まどかは最高の魔法少女になるはずだった……。だけど、途中で計算外の事が起こってしまった。一つが、暁美ほむら。彼女は僕と契約した覚えのない魔法少女だ。契約した覚えのない魔法少女なんて今まで一人もいなかったら、最初は僕も警戒してた。でも、確かに彼女は極めつけのイレギュラーではあるけれど、杳馬の未来予知のお陰で行動も予測できたから、僕達の計画を大きく狂わせるほどではなかった。実際に彼女はまどか以外の魔法少女に関しては非常に無関心だった事が分かったしね。だから僕は彼女に対してそこまで危険視してなかったんだ」

 

クリス「やっぱり、あの愉快犯が関わっていたのか!」

 

キュゥべえ「そうだよ。彼の未来予知のお陰で僕は未来を知る事ができて、暁美ほむらへの対策や魔法少女達の結末を知る事ができたんだ」

 

マミ「キュゥべえは私達が辿る末路を知っていたというの!?」

 

 自分達がどうなるかという未来を杳馬経由でキュゥべえが知っていた事にまどか達は驚愕した。

 

まどか「じゃあ、マミさん達の本来の末路は……」

 

キュゥべえ「マミはお菓子の魔女に食べられて死に、さやかは僕と契約して上条恭介の左手を治した後に絶望して魔女になり、仁美は何も知らないまま上条恭介と結ばれ、杏子は魔女になったさやかと共に死んだ。これが杳馬が見せてくれた未来予知による、君達が辿るはずだった末路なんだ」

 

仁美「それが…私達の辿るはずだった未来…」

 

杏子「けど、お前が見た予知通りにならなかったじゃねえか!」

 

キュゥべえ「そう。予知通りにならず、僕が本当に危険視していたのは君達だよ、並行世界からシンフォギア装者達とブラックジャック、そして大人達。シンフォギア装者と風鳴弦十郎と緒川慎次は魔法少女を超える力を持っている上、櫻井了子は優れた頭脳で魔女の正体を突き止め、ブラックジャックはこの世界の医者を超越した腕前を持っていた。そんな君達は杳馬の未来予知に出てこなかったから、僕の計画が大きく狂う原因になったんだよ」

 

弦十郎「なるほど、シンフォギア装者と俺達の介入によってマミ君と杏子君は生き残り、さやか君の魔女化が阻止された上、さやか君を契約させる内容が変わったのが原因で契約させる予定のなかった仁美君が契約する事となり、まどか君の契約ができなかったという事か」

 

キュゥべえ「そうだよ。君達の頭脳ともいえる櫻井了子には特に消えてほしかった。だから、グリーフシードを使って櫻井了子を消そうとしたんだけど、そういった時に限ってシンフォギア装者達とマミや杏子が傍にいて、魔女は倒されてしまった」

 

 了子はその事を予測していたため、動揺しなかった。

 

了子「なるほど、やはりあなたの仕業だったのね」

 

キュゥべえ「念のために魔女が生まれそうなグリーフシードをいくつか持っておいて良かったよ。まぁ、あの魔女達でもマミ達に阻まれて君を暗殺する事はできなかったけどね」

 

マミ「でもあなた、あれは魔女の活発化のせいかもって……」

 

キュゥべえ「活発化の原因は言ってないだろう? 答えは単純さ。僕と杳馬がグリーフシードを放ってたからだ」

 

杏子「……このゲス野郎が!!」

 

了子「私が狙いなのはわかってたけど、ただ頭がいいだけじゃないでしょう?」

 

キュゥべえ「そうだよ。君は聖遺物研究をしていたから、フィーネの人格が目覚めていた可能性があったんだ」

 

 キュゥべえが『フィーネ』という言葉を言った事に装者一同は驚いた。

 

マリア「キュゥべえが…フィーネの事を…?」

 

クリス「てめえ、なぜフィーネを知っている!?」

 

キュゥべえ「至って簡単だよ、古来から僕とフィーネは争い続けていたのだからね」

 

響「了子さんと…キュゥべえが……!?」

 

 その事実は響達に衝撃を与えた。

 

キュゥべえ「先史文明の巫女であったフィーネはあるカストディアンから使命を与えられて、自分の子孫にアウフヴァッヘン波形によって代々のフィーネの記憶を引き継いだ人格が目覚めるようにセットしたリインカーネーションで何度も蘇り、僕を阻んできたんだ。けど、リインカーネーションは不完全でね、人格が目覚めずに記憶だけが引き継がれるケースもあったんだ」

 

了子「なるほど、あの変な夢の正体は不完全なリインカーネーションによってフィーネの人格が目覚めないまま、歴代フィーネの記憶を受け継いだからだったのね。あなたが私の暗殺を目論んだのは、アウシュヴァッヘン波形に日頃から触れている私は既にフィーネの人格が目覚めているのではと思ったからね?」

 

キュゥべえ「そうだよ。どうやら、今回はフィーネの人格は目覚めなかったようだ」

 

 この世界の了子がフィーネに目覚めていないのはリインカーネーションが不完全であった事を響達は知った。

 

キュゥべえ「君達の介入のせいでせいでマミやさやか、杏子は生き残り、契約する予定のなかった仁美が契約して魔法少女になり、まどかはまだ魔法少女になってない。…だけど、もうすぐこの街をワルプルギスの夜が襲う。いかに強力な力を持つ君達でも」

 

 言い終わる前にまたしてもキュゥべえはブラックジャックにメスを何本も投げられてぶっ刺さり、息の根を止められた。

 

ブラックジャック「もうお前さんの話は終わりだ」

 

まどか「ワルプルギスの夜…」

 

仁美「それ程恐ろしい魔女がこの街に来るのですね…」

 

響「だけど、私達が力を合わせれば勝てるはずだよ!」

 

弦十郎「そうだ!最初からあきらめていたら、勝てる戦にも勝てんしな!さ、もう今日は遅いから帰ろう」

 

まどか「仁美ちゃんは入院しないの?」

 

仁美「確か、魔法少女はありったけ血を抜かれたりしてもソウルジェムが砕かれたりしない限り、死なないとキュゥべえは言ってましたね?」

 

まどか「そうだけど…」

 

仁美「魔力で皮膚を元通りにしたので、私は大丈夫です。では、帰りましょう」

 

 もう遅いため、一同は帰る事となった。その様子を空から杳馬が見ていた。

 

杳馬「ダンナの奴、ワルプルギスの夜が来る事を言いやがった。だけど、肝心のワルプルギスが来るだけじゃつまらねえしな…。何か盛り上がる事でも考えよっと!」

 

 もっと盛り上げたいと思う杳馬は悪だくみする事にした。

 

 

 

 そして翌日、疲労や痛みで意識を失っていたさやかは病室で起きた。

 

さやか「ううっ……、ここは……どこ…?」

 

 自分がいる場所が病院である事にさやかは気付いた。そして、ソウルジェムも綺麗になっていた。

 

さやか「病院?何であたしは生きてるの?一体、誰があたしのソウルジェムを浄化したの…?」

 

???「気が付いたようですね、さやかさん」

 

 声がした方には、仁美達がいた。

 

まどか「よかった…!」

 

未来「私が神獣鏡の光で穢れを浄化した後にブラックジャックさんが手術してくれたから、さやかちゃんは助かったんだよ」

 

 しかし、さやかは喜んでいるどころか、逆であった。

 

さやか「何で…あたしをあそこで死なせてくれなかったの…?あたしは魔女を殺す事しか能がない石ころなのよ!恭介を取られ、まどか達にひどい事を言ったりしたあたしに生きる価値なんてないんだよ!いっその事、死んでしまった方が」

 

 絶望しているさやかをブラックジャックはひっぱたいた。

 

ブラックジャック「甘ったれるな!!私がいる前での自殺は絶対に許さん!お前さんがソウルジェムの穢れをとらず、生きるのを諦めようとしたせいでどれほどまどか達に迷惑をかけたのかわかっているのか!?あのままだったら、普通に死ぬ以上にまどか達に迷惑をかけていたのだぞ!」

 

まどか「ブラックジャック先生、さやかちゃんにそんな事をしなくても」

 

ブラックジャック「ああいった思い込みの強い患者にはこうでもせんとわからん!」

 

さやか「魔女を倒せないぐらいなら、死んだ方が」

 

ブラックジャック「何も知らんお前さんに教えるとしよう。もしも、発見が遅れていれば、お前さんのソウルジェムはグリーフシードに変わり、魔女になっていたのだからな!」

 

 その事実はさやかには到底信じられなかった。

 

さやか「魔女に…なる……?う、嘘よ!魔法少女が魔女になってしまうなんて!!」

 

マリア「……これは事実よ。現に私達は魔法少女が魔女になるのを目撃したのだから」

 

仁美「私もです。今から私達が見た記憶をあなたに見せます」

 

 そう言って仁美は変身した。

 

さやか「仁美が……魔法少女に……?」

 

 仁美はさやかの頭に手を置き、自分が見た魔法少女が魔女になる瞬間を見せた。

 

さやか「そんな…こんな事って……」

 

仁美「これは作り物でもありません、事実なのです」

 

 その後、仁美は変身を解いた。

 

さやか「何で仁美まで魔法少女になっちゃったの!?そもそも、どうして仁美が魔法少女の事まで知ってるのよ!?」

 

仁美「さやかさんが魔法少女になって瀕死の重傷を負った私を助けてくれた事はブラックジャック先生が話してくれました」

 

さやか「ブラックジャック…先生が……?」

 

 

 

回想

 

 それは、さやかがエリーを倒した翌日の事であった。

 

仁美「さやかさんが…、魔法少女とやらになった際の願い事で私は助かったのですか?」

 

ブラックジャック「そうだ」

 

仁美「信じられません。魔法がこの世に実在するなんて…」

 

ブラックジャック「魔法の存在が信じられないのも無理はない。本来であれば私の手術でお前さんを助けられる確率は3%程度だった。だが、手術もなしで治ったとすれば…?」

 

仁美「まさか…、そんな事が…」

 

ブラックジャック「信じられないだろうが、私でも3%程度でしか助けられない重傷を負ったのに後遺症もなく、奇跡的に回復できたのはそれしか理由がないだろう?」

 

仁美「そうですね。ブラックジャック先生は嘘をつかれる方ではございませんし…」

 

ブラックジャック「この事は私や弦十郎に了子の許可があるまでは事情を知らない人間はもちろん、さやか達にも絶対に告げてはならないぞ。いいな?

 

仁美「はい」

 

 

 

さやか「仁美は最初から魔法少女の事を知ってて…」

 

ブラックジャック「響と未来は響がシンフォギア装者になった際に隠し事をして一時期こじれた事があってな、余計なトラブルを避けるために仁美にこの事を教える事にした。もっとも、仁美が魔法少女の身体の事を知ったのはお前さんに恋の相談をした後で、仁美にこの事を教えたのは吉と出るか凶と出るかの賭けだったがな」

 

さやか「響と未来が……?」

 

 さやかはいつも仲良しの響と未来が仲がこじれた時期があったのが意外だと思っていた。

 

さやか「仁美…あんた、体の事であたしに同情して魔法少女になったとでも言うの!?待ちきれずに恭介に告白したというのに!」

 

ブラックジャック「それはお前さんの勘違いだ。その時の仁美はお前さんがどこにいるのか恭介に聞いていたんだ。後、お前さんに同情して仁美は魔法少女になったんじゃない」

 

さやか「それって、どういう事よ!」

 

仁美「恋の相談をした際に言ったはずですよ、私は抜け駆けはしたくないと。さやかさんが自分の身体の事を気にしていると聞いた際、私は決心したんです。私も同等の条件であなたに勝たなければ上条君の心を射止めても意味がないと。これはあなたへの同情ではなく、同等の条件で勝ちたい私のワガママなのです」

 

 優等生の仁美が語る同等の条件で勝ちたい『ワガママ』にさやかは言葉を失った。ふと、さやかは魔力で怪我を治して包帯をとると、縫われている皮膚の部分があり、そこへ目を向けた。

 

さやか「この縫われている皮膚って…」

 

仁美「私の皮膚です。重傷を負った際のさやかさんは意識を失っててブラックジャック先生が手術した際、血をかなり失っていた上に皮膚の状態も悪かったため、私が血と皮膚を提供する事になりました」

 

さやか「どうして、あたしに…?」

 

仁美「私、検査入院していた際にブラックジャック先生の昔の話を聞いたのです」

 

 

 

回想

 

 検査入院していた時、仁美は気になっていた事をブラックジャックに聞いた。

 

仁美「その顔半分の皮膚はどうしたのですか?ブラックジャック先生の皮膚と色が違うようですが…」

 

ブラックジャック「これは私が幼い頃に爆発事故に遭った際、今は亡きかけがえのない友人、タカシがくれた皮膚なんだ」

 

仁美「ご友人からもらった皮膚なのですね?」

 

ブラックジャック「ああ。タカシの行為を無駄にしないために、私はリハビリを頑張ったが、退院した頃にはもうタカシは日本にいなくてな…、やがて医者になって年月が過ぎた時にようやくタカシに出会えた。だが、それが最後にタカシと過ごした時間になってしまったんだ…」

 

仁美「そうだったのですか…。私、あなたの話を聞いてある事を決めました」

 

ブラックジャック「何をだ?」

 

仁美「もしも、まどかさんかさやかさんが皮膚の移植が必要になった際、私が提供しようと思います」

 

ブラックジャック「そうなる事は多分ないとは思うが、その時は頼むぞ」

 

 

 

 かつて、ブラックジャックが友人から皮膚を提供してもらった事を聞いた仁美はもしも、まどかかさやかに何かあった時は自分が皮膚を提供すると決めた事を聞いたさやかは涙を流していた。

 

さやか「仁美…あんた……あんたってバカだよ…!あたしなんか、仁美を助けるために魔法少女にならなかったらよかったと思ったのに…、そんなあたしと張り合うために魔法少女になったばかりか、助けてくれたお礼として血や皮膚までくれたなんて……!あたしが生きる価値や救われる価値なんてないし、ゾンビにされたあたし達が恭介を愛していいわけがないよ!」

 

 涙を流すさやかに対し、仁美とまどかは手を置いた。

 

まどか「さやかちゃん、私も仁美ちゃんも今までたくさんさやかちゃんに助けてもらったんだよ。悩んだり、悲しんだりしている時はさやかちゃんは元気づけてくれた」

 

仁美「それに、ゾンビだとか、生きてる価値がないと早とちりするのは間違いですわ」

 

さやか「えっ……?」

 

ブラックジャック「手術の後で検査をしてみたが、魂が抜かれた事や魔力で強化できる点を除けば魔法少女も普通の人間だ。ソウルジェムを肌身離さず、穢れを溜め込まないようにすれば身体は成長するし、大人になれば出産もできるようになる。ゾンビだから愛していい権利がないというのは、ろくに私や弦十郎に相談しなかったお前さんの思い込みに過ぎん」

 

 ブラックジャックが出した検査結果をさやかに見せた。

 

弦十郎「本当のゾンビであれば、身体の温かさや脈を感じないはずだ。だが、さやか君は一般人と変わらない身体の温かさと脈があるではないか」

 

さやか「ブラックジャック先生、弦十郎先生……」

 

切歌「あたしや調だって喧嘩する事はよくあるのデス」

 

調「敵の策略によってかなり険悪になった事もあるけど、最終的には仲直りできた」

 

まどか「さやかちゃんは私や響さん達にひどい事を言ったり、仁美ちゃんを妬んだりしたけど…私達はそんな事でさやかちゃんを嫌いになったりしないよ」

 

仁美「その時のさやかさんはとても苦しんでいたはずです。普段のさやかさんは意地っ張りで思い込みが激しくても、そんな事を言う人ではありませんから」

 

まどか「ブラックジャック先生が検査でゾンビじゃなくて人間だって証明してくれたんだよ。それに私達、親友でしょ?」

 

 まどかと仁美はもう片方の手をさやかの手に置いた。

 

まどか「世の中は絶望だけじゃなく、希望もあるんだよ。またさやかちゃんが挫けそうになったら、私も支えるから」

 

さやか「まどか……」

 

仁美「さやかさん、これで互いに条件は同じです。言っておきますけど、上条君の事であなたに負けるつもりはありませんよ?」

 

さやか「あたしだって!」

 

 ブラックジャックによって魂を抜かれた事以外は普通の人間だとわかり、仁美も魔法少女になった事で条件は同じになり、さやかも仁美を妬む事はなくなった。仁美とさやかは口では張り合ってても、表情は互いに笑みを浮かべていた。

 

響「ブラックジャックさんのお陰でまどかちゃん達は仲直りできましたね!」

 

ブラックジャック「私は医者として治った理由を仁美に伝えただけだ。仲直りできたのは本人達がそれを望み、仲直りしようとした結果に過ぎん」

 

弦十郎「魔法少女の事でこじれるかも知れないと思ったから、伝えたんだろう?」

 

 聞かれた事にブラックジャックも否定しなかった。

 

杏子「ったく、あたしらも忘れるんじゃねえぞ。そもそも、さやかのお陰であたしは以前のように誰かのために戦っていた頃に戻れたからな」

 

マミ「それに、困っている後輩を助けるのは先輩の役目だもの」

 

さやか「杏子…、マミさん……」

 

翼「私達シンフォギア装者や支えてくれる大人達もいるんだ」

 

マリア「あなたは1人じゃないのよ」

 

さやか「みんな……」

 

ブラックジャック「今後、痛覚を遮断しての捨て身の戦法は一切禁止する。そんな戦法をとったら、あっという間に魔女になってしまうぞ。そして、グリーフシードという見返りぐらいは求めろ。無理に見返りを求める自分を偽って魔女になってしまっては元も子もないからな」

 

さやか「見返り、か……。ありがとう、みんな……」

 

 シンフォギア装者や大人達、まどか達の優しさにさやかは嬉し涙を流した。

 

了子「これにて一件落着ね」

 

ブラックジャック「ちょうどお前さんにとっての王子様も来たようだ」

 

 ブラックジャックのいう王子様とは、恭介の事であり、恭介がお見舞いに来た。

 

恭介「さやか、大丈夫?」

 

さやか「恭介、今までと立場が逆になっちゃったね…」

 

恭介「そうだね。僕も不思議に思ってたんだ」

 

さやか「恭介、聞きたい事があるけど……あたしと仁美のどっちが好き…?」

 

 急にどっちが好きかと聞かれ、恭介は困惑した。

 

恭介「え、えっと……」

 

仁美「はっきり言ってください、上条君。さやかさんは本気で聞いてるんです」

 

恭介「そんな事言われても……。やっぱり……、バイオリンのレッスンとかもあるし、選べないや」

 

 バイオリンのレッスンがあるためにどっちも選べないという恭介にさやかと仁美の表情は怒りの表情に変わった。

 

さやか「恭介、女の子をほったらかしにしてバイオリンを優先させるの!?この鈍感!!」

 

仁美「どっちが好きかというのも決めずに乙女の気持ちを踏み躙るなんて、相当な朴念仁ですわ!!」

 

 そのままさやかは立ち上がって恭介にコブラツイストをかけ、仁美は恭介の腹にパンチを打ち込みまくった。

 

恭介「うわあああああっ!!ブラックジャック先生、弦十郎先生、了子さん、僕を助けて~~!!」

 

了子「あらやだ、元はといえば乙女の純情を踏み躙った恭介君の自業自得でしょ?」

 

ブラックジャック「この事は俺が助ける理由にはならん。どうしてもというのなら、お前さん自身が何とかして2人を落ち着かせろ」

 

恭介「そ、そんな~~!!ひどいよ~~~!!」

 

 恭介の嘆きが木霊した。その様子を響達は手を出さない方針にした。

 

弦十郎「これが、恭介との用事の記憶を消した仁美君の願いのしっぺ返しか?」

 

了子「そうみたいね。でも、物事を忘れるというのは割とありがちな事だから、こんな些細なしっぺ返しで済んだみたいよ」

 

 そして、ほむらは病室を見ていた。

 

ほむら「美樹さやかが助かった上、今まで魔法少女と縁のなかった志筑仁美が契約して魔法少女になった?今まで彼女は一度も魔法少女になった事がないというのに……」

 

 その後、響達へ視線を向けた。

 

ほむら「あなた達は途方もないイレギュラーよ。私が変えられなかった運命を容易く変える極めつけのイレギュラー……!」

 

 血が出るほど拳を握り締め、響を恨めしそうに見つめながら、ほむらは去っていった。

 

 




これで今回の話は終わりです。
今回はブラックジャックがさやかの手術を行うのとキュゥべえの目的の判明、そして仁美とさやかの和解を描きました。
仁美が血と皮膚を提供する展開はブラックジャックの縫い目皮膚の提供者を見て、いい話であったためにこっちでもやってみようと思ったからです。
キュゥべえとフィーネの因縁も描かれましたが、リインカーネーションが不完全という事にしたのは、並行世界の中にはこういったケースだったあり得るのではないかと思い、リインカーネーションが不完全で今回はフィーネの人格が目覚めなかったという風にしました。
次はほむらの過去が明らかになります。また、本編の『もう誰にも頼らない』も回想という形でダイジェストでやります。

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