セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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153話 共闘

市街地

 

 サンジェルマンがカルマノイズと融合して暴走した後に逃亡し、杳馬とアタバクも退いて響達だけがその場に残った。

 

切歌「助かった…デスか」

 

調「そうだね」

 

切歌「でも、あれはなんだったんデスか……?」

 

調「まさか、カルマノイズの力に囚われるなんて…」

 

パルティータ「とりあえず、本部に戻りましょう」

 

響「(私、また手が届かなかった…)」

 

星矢「響、落ち込んでいてもすぐに気持ちを切り替えるんだ。サンジェルマンは死んだわけじゃないし、次のチャンスもあるじゃねえか」

 

響「せ、星矢さん…」

 

シャカ「その通りだ。響よ、まだ終わったわけではないぞ。死なぬ限り、チャンスはいくらでもあるのだからな」

 

響「シャカさんも…(…2人の言う通りだよ。確かに、今回は手が届かなかった。だとしても…まだ終わったわけじゃない。カリオストロさん達の声は、心は、サンジェルマンさんに届いていた。だったら、助けられるはずだよ、絶対に)」

 

 ふと、パルティータはサンジェルマンのラピスを発見した。

 

パルティータ「これはサンジェルマンの…。私が修理しておく必要があるわね。待ってて、サンジェルマン。今度こそ、あなたを死なせないのだから…」

 

 

 

 

 一方、カリオストロとプレラーティはサンジェルマンを見失った。

 

カリオストロ「あーん、もう。サンジェルマン、見失ったじゃない……」

 

プレラーティ「アダムスフィアの反応も消えたワケダ…」

 

カリオストロ「カルマノイズの持つ力で異次元に移ったか、サンジェルマンが自分の術式で放射する魔力を隠蔽したかってとこかしらね……」

 

プレラーティ「おそらく、そんなところなワケダ」

 

 そんな時、電話が目の前に現れて鳴った。

 

カリオストロ「ひっ!?こ、こんな時に局長からの連絡!?」

 

プレラーティ「出ないわけにはいかないワケダ」

 

カリオストロ「わかったわよ。出ればいいんでしょ、出れば…」

 

 カリオストロは電話に出た。

 

カリオストロ「もしもし?なんの御用かしら?」

 

アダム『おや、君がでるとは。珍しいものだね、カリオストロ。どうしたんだね、サンジェルマンは?』

 

カリオストロ「サンジェルマンなら、今ちょっと、周囲の警戒に回っているだけよ」

 

アダム『なるほど。今尚続行中なのだね、例の作戦は』

 

カリオストロ「まあね」

 

アダム『それでどうだね、その後の進捗は?』

 

カリオストロ「万事順調よ。ご心配なく」

 

プレラーティ「(何ッ!?)」

 

アダム『心強いね。期待しているよ、よい報告を』

 

カリオストロ「わかってるわよ。けど、作戦の邪魔になるからあまり頻繁にかけてこないでほしいんだけど。これから大事なところなんだから」

 

アダム『つれないね、なんとも。まあ、いい。寝て待つとしよう、果報をね』

 

 電話は終わった。

 

カリオストロ「ふう…何とか誤魔化せたかしらね……」

 

プレラーティ「どうして嘘を報告したワケダ?」

 

カリオストロ「サンジェルマンがカルマノイズに囚われた、なんて言えるわけないでしょ?もし協会から討伐指令でも出たらどうするのよ?」

 

プレラーティ「それは…。確かに言えないワケダが……」

 

カリオストロ「それに、普段からあーし達の事を煙たがってる連中もいるわ。失態を演じたと聞いたら、喜び勇んでサンジェルマンの地位も何もかも奪おうとしてくる可能性だって……」

 

プレラーティ「私達だけで何とかするしかないワケダね」

 

カリオストロ「問題はどうやって、協会に頼らずラピスを修復するかだわ……」

 

プレラーティ「そうだな。流石の私でも、相応の設備なしでは骨が折れるワケダ……」

 

カリオストロ「あれ?そういえば…あの時、サンジェルマン、ラピスを落としてなかった?」

 

プレラーティ「損傷した時か?そういえば、確かに……」

 

カリオストロ「ま、まさか。そのまま置いてきちゃった……?」

 

プレラーティ「回収に戻るワケダ!」

 

 

 

市街地

 

 慌ててカリオストロとプレラーティはサンジェルマンがラピスを落とした場所に来た。

 

カリオストロ「どこにも落ちてないわよ!」

 

プレラーティ「まさか、そのまま二課に回収された!?」

 

カリオストロ「どうすんのよ、それってヤバくない?」

 

プレラーティ「錬金術の秘奥たるラピス・フィロソフィカスを錬金術師以外の手に渡るなど…それこそ大失態なワケダ……」

 

カリオストロ「あーん。これじゃ、本気で協会に戻れなくなったじゃない!」

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 翌日、響達は集まっていた。

 

弦十郎「君達、昨日は大変ご苦労だった。こうして集まってもらったのは他でもない。錯綜著しい現在の状況を、いったん整理したいと思う」

 

切歌「お願いするデス。次から次に敵が現れて、何がなんだか、こんがらがっていたデスよ」

 

弦十郎「うむ。だが、その前にいいニュースが一つある」

 

調「いいニュース?」

 

星矢「何だ?」

 

弦十郎「奏の意識が無事回復し、復帰する目処がたった」

 

星矢「本当か?」

 

シャカ「よかったな」

 

弦十郎「今日も呼んでいる。彼女が来次第、ブリーフィングを開始しよう」

 

 そう言ってると、奏が来た。

 

弦十郎「噂をすれば、だな」

 

奏「おう。待たせたみたいだな」

 

弦十郎「何、今集まったばかりだ」

 

調「奏さん、ご無事でよかったです」

 

奏「ああ、サンキュー。寝てる間に随分と面倒かけたみたいだな」

 

切歌「元気そうで何よりデス!」

 

奏「へっ、あれくらいどうって事ないさ」

 

星矢「久しぶりだな、奏」

 

奏「お前らも来たのか」

 

響「あ、はい。お久しぶりです、奏さん」

 

奏「……らしくない顔をしてるな」

 

星矢「少し錬金術師の事でな。それについては後で話す」

 

弦十郎「さて、全員揃ったところでブリーフィングを初めよう」

 

奏「ああ。あたしが寝てる間の事、ちゃんと教えてもらえるか?」

 

 弦十郎は奏が意識を失っている間の事を話した。

 

弦十郎「というわけで、アルカノイズを駆使する錬金術師集団と、女錬金術師達は対立関係にあり、共にアダムスフィアと呼ばれる球体を狙って、争っている。ここまでは理解できてるな?」

 

奏「ああ、それはあたしもしってる。なにしろ、目の前で争ってたからな」

 

弦十郎「2グループの錬金術師達が、あのアダムスフィアを用いて何を行おうとしていたかは、目下のところ不明だ」

 

奏「そのアダムスフィアってのは、あの後どこに?」

 

弦十郎「あれがカルマノイズに吸収されたところまでは覚えているか?」

 

奏「ああ、お陰でカルマノイズが急に強くなりやがった」

 

弦十郎「その後、再びカルマノイズが出現した際に、響君達に出動してもらったのだが」

 

響「その戦いの中で、サンジェルマンさんがカルマノイズの瘴気に囚われて、同化してしまったんです……」

 

奏「何だって?サンジェルマンってのは、あの上から目線の女錬金術師のリーダーだっけ?銀髪の」

 

調「はい、その通りです」

 

切歌「真っ黒なカルマノイズと合体モードになって仲間の錬金術師も襲い始めた上、最後には逃げていったデスよ」

 

調「残り2人の仲間の錬金術師も後を追って消えました。けど、その後の情報は私達も聞いていません」

 

弦十郎「残念ながら、そちらの行方も調査中だ」

 

奏「なら、もう1グループの錬金術師達は?」

 

弦十郎「アルカノイズを駆使していた錬金術師グループであの場にいた者は、カルマノイズに殲滅されたようだ」

 

響「はい。カルマノイズに分解されて…」

 

奏「その組織に他のメンバーがいる可能性は?」

 

弦十郎「それも目下、情報部が調査中だが…。おそらくあれだけという事はあるまい」

 

奏「ま、だろうな。つまり、現状はカルマノイズと同化したサンジェルマンって奴が、アダムスフィアを持っていて、サンジェルマンとアダムスフィアを取り戻そうと、もう2人の女錬金術師が後を追っている。そしておそらくは、別の錬金術師集団も、未だに狙ってると」

 

弦十郎「ああ、そういう事だな」

 

奏「けど、星矢達がいれば楽勝なはずなのに、何をしてたんだ?」

 

星矢「俺達は厄介な邪魔者に邪魔されて、響達の助けに行けなかったんだ」

 

奏「厄介な邪魔者?」

 

シャカ「私達は冥闘士の杳馬とアタバクに阻まれてしまったのだ。君は冥闘士についてよく知らないだろうから簡単に説明するが、冥闘士は冥王ハーデス配下の戦士の事だ」

 

奏「冥闘士?確か、アイザック達の話だと全滅したはずだぞ」

 

星矢「全滅したのは俺達の世界と奏達の世界の冥闘士だ。並行世界には冥闘士がまだ生き残っている世界もある」

 

奏「他の世界の冥闘士だって?だとすりゃ、かなり厄介な事になるな……」

 

星矢「杳馬に至っては、俺達の世界にも来て色々と邪魔してたしな」

 

弦十郎「並行世界を股にかける悪党が現れたとなると、かなり厄介な事になるぞ……」

 

 杳馬の厄介さは奏が生き残った世界の弦十郎も知る事となった。

 

了子「そのサンジェルマンという錬金術師に関連して報告があるわ」

 

響「サンジェルマンさんについて…ですか?」

 

了子「ええ。正確に言うと、パルティータが拾ってきた、彼女が落としたとみられる宝石についてね」

 

響「ああ、あの宝石…」

 

了子「パルティータの持つ現物と前回の事件で北極基地から回収した錬金術に関するデータから照合してみたんだけど…やはり、この宝石こそが、前に響ちゃん達が言っていた賢者の石とみて間違いないわね」

 

響「やっぱり、あれが、賢者の石……」

 

切歌「えーと、ラピス・フィロソフィカス、デスね?」

 

調「うん」

 

奏「あのなんとかローブを起動するカギだっけか」

 

星矢「ああ。ファウストローブって言うんだぜ」

 

了子「錬金術師達の秘奥中の秘奥…これを私達の手元に残したまま、彼女達が引き下がるとは思えないわ」

 

弦十郎「アダムスフィアとサンジェルマンの追跡とは別に、ここに対して奪還作戦を仕掛けてくる可能性も充分考えられる。いずれにせよ、抜かりなく準備を進めておいてくれ」

 

シャカ「任せたまえ」

 

調「それにしても、アダムスフィアって……」

 

切歌「何だかとっても不吉な名前デスね……」

 

 その後、装者達は訓練をした。

 

奏「ふう…こんなところにしとくか。悪いな、トレーニングに付き合ってもらっちゃって。病み上がりだから身体を慣らしておきたくてさ」

 

響「いえ。私も身体を動かしたかったからちょうどよかったです」

 

切歌「病み上がりといっても、動きキレキレだったデスよ」

 

調「流石です」

 

奏「おいおい、褒めたって何もでないぞ?で…どうなんだ。暴れて少しは悩み、吹っ切れたか?」

 

響「え……」

 

奏「聞かせてくれよ。例の錬金術師達と何があったかを、さ」

 

星矢「母さんとサンジェルマンの関係についても話さなきゃならねえしな。響、話すぞ」

 

響「はい」

 

 響や星矢と共に話す事にした。

 

奏「なるほど、な…。あの女錬金術師達、お前達の世界では顔見知りで、しかも命の恩人だったってわけか……」

 

星矢「そして、母さんとサンジェルマンは親子同然の師弟関係にあったんだ」

 

 星矢が話した言葉に奏は驚愕した。

 

奏「何ッ!?パルティータさんがあの女錬金術師のリーダー格の親みたいな存在だったって!?」

 

パルティータ「事実よ。女だから年齢は自慢じゃないけど、私は数千年は生きてて、あの子も見た目と違って数百年は生きているわ」

 

 パルティータの年齢にまたしても奏は驚愕した。

 

奏「す、数千年!?」

 

パルティータ「本当に数千年も生きてきたわ」

 

星矢「話を戻すけど、サンジェルマン達は根っからの悪人じゃなかったんだ。やり方は結構過激だったけど、あいつらなりに世界を平和にしようとしてたのさ。それと、世界を平和にするやり方の件で母さんとの仲がこじれたんだけど、最終的には仲直りできて、母さんや俺達を救ってくれたんだ…」

 

奏「気持ちはわかるよ。アリシアの奴も、似たようなものだったしな…。こっちのアリシアも、向こうのアリシアも心から悪い奴じゃなかった。むしろ、優しすぎたからこそ、反動で道を誤った…」

 

響「アリシアさん…」

 

奏「けど今の連中の企んでる計画も『間違った方法』だとしたら?その実行を黙って見過ごすわけにはいかないだろう?」

 

星矢「ああ、そうだな…」

 

響「星矢さん、サンジェルマンさん達と」

 

星矢「響の言いたい事もわかるが、企んでいる計画がとんでもない事なら、阻止しなきゃならねえ」

 

パルティータ「分かり合いたい事も大事だけど、まずはその計画を止めてからよ」

 

響「パルティータさん…。確かに、そういう事も、ちゃんと考えないといけないと思います」

 

星矢「あいつらは俺達の知るサンジェルマン達じゃねえ事もな」

 

響「でも…ですね」

 

奏「でも?」

 

響「この世界のサンジェルマンさんも、この間の戦いの中で、避難してる人を庇っていたように見えたんです」

 

奏「偶然とかじゃなくてか?」

 

響「はい、カルマノイズがビームみたいな攻撃を使った時、避けられたはずなのに、確かにその場にとどまって…その先には民間の人達を誘導していた調ちゃんや切歌ちゃん達もいたんです」

 

調「そういえば、あの時…」

 

切歌「ピカッと光ったのに、こっちには飛んでこなかったデスね……」

 

響「でしょ?あれは絶対、偶然なんかじゃないよ。他の2人も、カルマノイズに呑み込まれたサンジェルマンさんを心配して、必死に助けようとしてましたし……」

 

奏「悪人だって、仲間なら助けようとするとは思うけどな」

 

響「そうかも知れません…。でも、それでも!私は…、信じたいです。サンジェルマンさん達の心を。この世界でもきっと、分かり合えるって……」

 

奏「やれやれ。人の心って奴が目に見えたら、こんな風に悩まなくてすむんだけどな……」

 

調「それはそれで苦しい時もあると思います」

 

奏「まあ、そうかも知れないけどね。とにかく、連中が実際に何を考えてるかわからない以上、あたしらはまだ信用できない…って事だけはわかってくれ」

 

星矢「それもそうだな…」

 

切歌「ここは奏さん達の世界デスから……」

 

調「うん。私達もお手伝いはしてるけど…。世界の行方を決めるのは、この世界の人の意志じゃないと」

 

奏「(だが、確かにただの敵としちゃおかしなところもある。あの時、余裕であたしに止めを刺せる状況にあったのに、刺さなかったのも事実だ……。ったく、なんだってんだ。こっちにちょttかいをかけてきたと思ったら助けたり。意味わからないっての……。本当に、あいつらが腹の底で何を考えてるのかがわかれば、こんなに悩まずに済むんだけどな……。いや、そいつは所詮、ない物ねだりってやつか……)」

 

 ふと、奏はある事に気付いた。

 

奏「あれ?シャカとかいう奴はどこ行った?」

 

星矢「シャカなら、ある場所の防衛に向かったぜ」

 

奏「ある場所?」

 

 その頃、カリオストロとプレラーティは二課に潜入していた。

 

カリオストロ「なんであーし達が、こんなコソ泥みたいな真似しないといけないのよ?」

 

プレラーティ「詐欺師とコソ泥、大して違いはないワケダ」

 

カリオストロ「大いにあるわよ!いい?詐欺ってのは全知力を駆使した高等な駆け引きなわけ。手札を相手に堂々と晒して、こちらの意図した結果を相手に自ら選ばせる…いわば知識の決闘というところね。コソコソ隠れて人の物を盗み取る卑劣なコソ泥なんかと一緒にされたら心外だわ」

 

プレラーティ「シーッ。大声出したら見つかるワケダ」

 

カリオストロ「プレラーティがくだらない事言うからでしょ?」

 

プレラーティ「続きがあるなら後でじっくりと聞くワケダ。今は錬金術の秘奥たるラピス・フィロソフィカスの奪還が最重要事項。やすやすと敵の手に渡す事など絶対に許されないワケダ」

 

カリオストロ「そりゃ、そうだけど…。でも、やっぱり先にサンジェルマンを助けた方が良くないかしら?サンジェルマンが帰ってこなければ、ラピスの使い手もいないわけだし。あれが何かなんて、二課の連中だって、そうすぐに解析できないんじゃないの?」

 

プレラーティ「二課の手に落ちた事、それ自体を局長や他の者達に気付かれたらどうするワケダ?それに、サンジェルマンがお母さんと言っていた女の存在もある。不安要素は潰すに越した事はないワケダ。ただでさえサンジェルマンがアダムスフィアと共に逐電している。これ以上、反主流派に餌をやるわけにはいかないワケダ」

 

カリオストロ「もう…。ただでさえ戦力が足らないのに、面倒な事になったわね」

 

プレラーティ「ぼやいても何も事態は好転しないワケダ」

 

カリオストロ「はいはい、そんな事わかってるわよ!だからこうして敵地に乗り込んで」

 

???「どこへ向かっているのだね?君達」

 

 突然、誰かが声をかけてきたために振り向くと、そこにはシャカがいた。そして、警報まで鳴った。

 

プレラーティ「黄金聖闘士!?」

 

カリオストロ「いつの間に現れたのよ!って、黄金聖闘士は冥王ハーデスとの戦いで全滅したはずじゃない!」

 

シャカ「そんな事はどうでもよかろう。君達はこれからどうするのだね?」

 

カリオストロ「(よりにもよって、黄金聖闘士の中でも、超ヤバイ奴が道を塞いでいるなんて…!)」

 

プレラーティ「(強行突破しようにも、力では太刀打ちできないし、局長からも聖闘士に手を出すなと言われているワケダ…)」

 

シャカ「どうやら君達は賢者の石を取り戻しに来たようだが、取り戻す方法は二つある。一つは、争わずに素直に私達と話し合い、平和的に取り戻す方法。もう一つは、力づくで取り戻す方法だ。さあ、君達はどっちを選ぶのだね?」

 

 選択権は相手に選ばせる方針のシャカではあったが、その二択はカリオストロとプレラーティにとって、とても厳しいものであった。

 

プレラーティ「(話し合うか、力づく……)」

 

カリオストロ「(あ~ん、もう!あのシャカって男、上から目線というのが気に食わないのよ~!そんな選択肢を与えるなんて、何様のつもりなの!?)」

 

 話し合うという手段は自分達に合わない上、力づくという手段に出てもシャカには全く太刀打ちできない事は戦わなくても理解できるため、どうすべきか悩むカリオストロとプレラーティであった。そして、装者達も来た。

 

奏「お前ら、二課に来やがったか!」

 

切歌「黄金聖闘士2人と黄金クラスの星矢のお母さんがいるのデス!観念して大人しくお縄についてもらうデスよ!」

 

シャカ「君達、今は私が交渉しているのだ。無用な手出しはしないでもらいたい」

 

響「シャカさん…」

 

 響の思っている事をシャカは汲み取り、今にも戦う気満々の奏達を制止した。

 

シャカ「君達は話し合うか、力づくか、答えは出たのかね?」

 

カリオストロ「(もう、シャカは自分の絶大な実力を盾にしているのが悔しいわ!)」

 

プレラーティ「(戦っても勝ち目はないから…)仕方ないから、話し合って返してもらうワケダ…」

 

シャカ「賢明な判断だ。朗報だが、サンジェルマンが持っていたラピスは既にパルティータが修復してくれたぞ」

 

カリオストロ「何ですって!?」

 

プレラーティ「凄いワケダ…」

 

星矢「何しろ、母さんはサンジェルマンの師匠だからな。母さんの手にかかれば、ラピスの修復なんて30分程度ですむほど簡単なものだぜ」

 

 そんな星矢が言うのと同じくして、パルティータが了子と共に現れた。

 

プレラーティ「サンジェルマンの母親であり、師匠…。そして、櫻井理論の提唱者、櫻井了子…」

 

了子「あなたのお探しのものは返すわ」

 

 了子は修復されたサンジェルマンのラピスを返した。

 

プレラーティ「確かに、修復されている…」

 

カリオストロ「サンジェルマンの師匠とだけあって、凄すぎるワケダ…」

 

シャカ「では、この場は君達に譲ろう」

 

パルティータ「ありがとう。あなた達の目的が、アダムスフィアという高エネルギー体の奪還である事は承知しているわ」

 

了子「あれがただの不活性状態にあるならまだしも、今はとても危険な状態にある事は、あなた達も承知してるでしょう?」

 

プレラーティ「だから、どうだというワケダ?」

 

了子「足の引っ張り合いを続けてたら、このままアダムスフィアの、あなた達の仲間だったサンジェルマンの暴走を許すばかりよ」

 

カリオストロ「サンジェルマン…」

 

パルティータ「それは私達としても、あなた達としても決して望むところではない。違うかしら?」

 

カリオストロ「…確かに、その通りよ」

 

了子「ならば、ここはひとまず情報交換といかない?」

 

カリオストロ「情報交換?あーし達と?」

 

了子「ええ。その上で、お互い妥協できるところは妥協して最悪の事態を避けるための協力を模索した、そう考えてるわ」

 

奏「こいつらと協力だって!?本気か!?」

 

了子「本気よ。弦十郎君の合意も一応得てるわ」

 

響「わ、私も賛成です!話し合って手を取り合えるなら、その方が絶対いいに決まってます!」

 

カリオストロ「手を取り合うって…。簡単に言ってくれちゃうわね、もう」

 

パルティータ「もちろん口先だけで信用してくれると思っていないわ。あなた達のラピスを私が修復するというのでどう?」

 

 自分達のラピスを修復してくれるというパルティータの提案はどの道、ラピスを修復しなければならなかった2人にとってはありがたいものであった。

 

プレラーティ「私達のラピスを修復してくれるのはありがたいワケダ」

 

カリオストロ「仕方ないわね…。乗ってやろうじゃない、その提案に。ただし、今約束できるのは情報交換だけ。本当に手を組むかどうかはその後に判断させてもらうわよ?」

 

パルティータ「ええ、それでいいわ」

 

響「了子さん、パルティータさん、ありがとうございます!あと、シャカさんも!」

 

シャカ「ふふふっ、君が話し合いたいと思っていたから、私はそのテーブルにつかせただけなのだよ」

 

パルティータ「それに、これが最善なのだからね」

 

響「ありがとうございます!話し合いのきっかけを作ってくれて!」

 

奏「(本当にこれが最善の道だといいがな…)」

 

 不安な奏の肩に星矢は手を置いた。

 

星矢「大丈夫さ。母さんはあいつらの事はよく知ってるしな。それに、協力関係を築けなくても、敵が減っていいだろ?」

 

奏「そりゃ、そうだけどな……」

 

 そして、情報交換に入った。

 

弦十郎「なるほど、な。一連の事件は、君達錬金術師協会内からの離反者が、アダムスフィアを強奪し、逃亡したのが発端というわけか……」

 

カリオストロ「ええ、そう」

 

プレラーティ「ずっと追い続けてきたが、奴等が逃げ込んだ先がこの日本だったというワケダ」

 

弦十郎「彼等の残党はまだ残っているのか?」

 

カリオストロ「この間カルマノイズの攻撃で蒸発した連中の他にも、まだいると思うわよ」

 

プレラーティ「どこかに散ってはいるだろうが、連中の目的が変わる事はないワケダ」

 

弦十郎「やはりか…。しかし、君達がそうまでして争うアダムスフィアの正体とは、一体何なのだ?彼等も君達も、何のためにあれを手に入れようとしている?」

 

カリオストロ「流石にそれは言えないわね」

 

プレラーティ「賢者の石に匹敵する秘中の秘。おいそれと明かすわけにはいかないワケダ」

 

弦十郎「……そうか。ならいい。ともかく君達は、アダムスフィアを吸収したカルマノイズと融合したサンジェルマンを救いたい、というわけだな」

 

カリオストロ「ええ、そうよ」

 

プレラーティ「ここで彼女を喪うわけにはいかないワケダ」

 

カリオストロ「組織としても、何より、あーし達個人としても、ね……」

 

了子「その、カルマノイズとの融合に関連して、ひとつ質問だけど。あなた達の賢者の石。あれは、あらゆる穢れを、魔を滅する力を秘めた存在なのでしょう?」

 

プレラーティ「なぜ、それを知っているワケダ?」

 

了子「人を完全たる存在に至らしめるのが、錬金術師の真の目的だという事は、世間でも雑学として知られているわ。まさか錬金術師が実在して、賢者の石を造り上げてただなんて、誰も夢にも思わないでしょうけどね」

 

カリオストロ「何が言いたいの?それが本当だったら?」

 

了子「賢者の石が完全な力を発揮していたら、おそらくサンジェルマンはカルマノイズに囚われる事はなかったんじゃないかしら?」

 

プレラーティ「賢者の石が、完全だったら?つまり失敗作だといいたいワケダな?」

 

カリオストロ「あーし達のラピスは完璧よ、失礼ね」

 

パルティータ「(改良すべき点はまだ多いけどね)」

 

 サンジェルマン達のラピスはパルティータからすれば改良すべき点が多いものであった。

 

了子「いいえ、そうじゃないわ。その時にラピスは、既にその状態だったのでしょう?」

 

プレラーティ「そうか、損傷していた事が問題、というワケダね」

 

カリオストロ「あ、確かにあの時、サンジェルマンのラピスは戦闘中に壊れちゃってたんだっけ……」

 

響「それって、避難者や切歌ちゃん達を庇った時の……」

 

切歌「そ、それは…」

 

調「私達のせいで?」

 

星矢「いや、お前達のせいじゃないさ。調も切歌もサンジェルマンも、みんなを護るのに必死だというのが横目で見えてたぜ」

 

カリオストロ「(サンジェルマンが?)」

 

プレラーティ「(…奴ならば、あり得なくはないワケダが)」

 

響「今度はみんなでサンジェルマンさんを救い出しましょう!私達も力を貸しますから!」

 

カリオストロ「それは…受けられないわね」

 

響「どうしてですか?」

 

プレラーティ「あくまでこれは我々錬金術師の問題なワケダ」

 

響「そんな事、言ってる場合じゃないですよ!」

 

カリオストロ「ラピスを返してもらったお礼に、あなた達と今すぐ敵対するつもりはないわ」

 

プレラーティ「だが、アダムスフィアを取り戻すのが、私達の本来の目的なワケダ」

 

カリオストロ「あれを取り返さないと、局長にどやされちゃうしね」

 

プレラーティ「いかにサンジェルマンのためとはいえ、本来の任務から逸脱するわけにはいかないワケダ」

 

パルティータ「それなら、サンジェルマンを救うまでの間だけの期間限定の共闘関係は可能なの?」

 

カリオストロ「期間限定?」

 

了子「ええ。アダムスフィアの処遇については一時棚上げにして、サンジェルマンの救出とアダムスフィアの奪還を優先するの」

 

カリオストロ「ねえ、どうする?」

 

プレラーティ「いや、やはり答えは同じなワケダ」

 

パルティータ「提案に乗ってくれるなら、今すぐにラピスを修復するわ」

 

カリオストロ「う~ん…」

 

プレラーティ「本来の任務遂行のためにも、ラピスの機能回復は優先なワケダが…」

 

カリオストロ「そうね……」

 

プレラーティ「…いいだろう。取引成立というワケダ」

 

カリオストロ「だからって、完全に信用したわけじゃないんだからね?」

 

パルティータ「そこはわかってるわ」

 

響「カリオストロさん、プレラーティさん、ありがとうございます!」

 

プレラーティ「べ、別にお礼を言われる事じゃないワケダ!」

 

カリオストロ「ほんと、調子の狂う子ね…」

 

 

 

???

 

 その頃、サンジェルマンは1人、誰もいない場所にいた。

 

サンジェルマン「はぁ、はぁ、はぁ……(一帯、ここは、どこなんだ……?)」

 

 

 

回想

 

  サンジェルマンは昔の事を思い出していた。

 

サンジェルマン「お母さんを助けてください!ずっと熱が下がらなくて、苦しそうで…お願いだから、助けて!お父さん!」

 

サンジェルマンの父「奴隷が私にすり寄るな!粉吹く虫の分際で!慰みを与えて女の落とし子だ。つけあがらせるな。奴隷根性を躾けておけ」

 

サンジェルマン『(そう、この男は、かつて私の父だった男だ。あくまでも生物学上のではあるけども。血の繋がったはずの父でさえ、これなのだ。他の誰に縋ったところで助けてくれる者がいるはずもない)』

 

 結局、父親からの助けは得られず、サンジェルマンは母親の元に戻った。

 

サンジェルマン「ごめん、お母さん。今日も食べ物を手に入れられなくて……。でも、昨日のパンがまだ残っているから…」

 

 しかし、サンジェルマンの母親は息絶えていた。

 

サンジェルマン「お母さん? お母さん!?」

 

サンジェルマン『(そして…母は、間もなく息を引き取った。力なき者は搾取され、利用価値がなくなれば、このように打ち棄てられるのが、この世界の常だ)』

 

 

 

サンジェルマン「(これがこの世界の姿。無限に続く牢獄だ。力ある者が弱き者を縛り虐げる世界…)」

 

 

 

回想

 

 

 

サンジェルマンの父「うわああああっ!!」

 

 間もなくして、サンジェルマンを虐げていた父親は従者共々何者かに殺され、サンジェルマンが閉じ込められている牢を開けたのであった。

 

???「あなたはもう自由よ」

 

サンジェルマン「……お母…さん……?」

 

 その女性はローブと黒髪が特徴で、サンジェルマンの母親とは全く似ていなかったのだが、サンジェルマンにはその女性が母親とそっくりに見えたのであった。

 

サンジェルマン『(そのすぐ後、もう1人の母ともいうべき人が父を初めとした者達を殺し、私を救った。そして師と共に世界を渡り歩きながら、あの人は叡智を授けてくれた。しかし、その人は冥闘士との戦いの際、私を護って死んでいった…)』

 

 

 

サンジェルマン「その後も私は権力を憎み、身分制度を憎み、国を、体制を、政治を…千年以上もの長い年月を生き、それらに抗ってきた。だが、未だ世界は変わらぬままだ。誰も変革など求めていないかのように。くっ、頭が割れる……!)」

 

 再びサンジェルマンは苦しみだした。

 

サンジェルマン「グッ、ガアアァ……。(憎い…憎い憎い憎い!あらゆる人間が憎い!人間の利己心が、傲慢さが、不作為が。支配しようとする者だけではない。虐げられるまま甘んじる弱き者共も。誰も信じられるものか。誰も救えるものか。誰も認めるものか。矮小な目的で私に追従してきた、あの者達すらも…。愚かなる人間達と、もろともに消し去って)」

 

 しかし、サンジェルマンはある事に気付いた。

 

サンジェルマン「(違う…違う!私は、そんな事を望んでは…。お母さん…カリオストロ…プレラーティ……。私、は…あなた達と共に……)」




これで今回の話は終わりです。
今回はカリオストロとプレラーティがラピス奪還のために二課に入り込み、その過程で装者達ととりあえずの協力関係を築くのを描きました。
今回は杳馬とアタバクは出てこなかったのですが、きっと何やら悪だくみをしている上、響達が動けば邪魔しに来る事でしょう。
次の話は響達がカリオストロとプレラーティと共に出撃する事になりますが、ろくでなしのアダムも動き出します。

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