神社
翼と調は般若武者の事についてキュゥべえに聞く事にした。
調「やはり、舞などをしなくても呼べば来たみたい」
キュゥべえ「風鳴翼に月読調か。君達と会うのは見滝原以来だね」
翼「そんな前置きはどうでもいい。お前に聞きたい事がある。曖昧な言葉は使わず、はっきりと答えろ」
キュゥべえ「答えるのに困らないのなら、そうするよ」
翼「最近、この辺りでは般若武者が出没している。般若武者が使う時女一心流はこの集落不出の剣術のはず。それなのに、なぜ般若武者は使えるんだ?そして、般若武者が使う技は時女一心流のものなのか?」
キュゥべえ「般若武者がなぜ時女一心流を使えるのかはわからないけど、その般若武者が使う技は恐らく、時女一心流裏奥義というべき技だと思うよ」
調「裏…奥義……」
翼「時女一心流裏奥義について、教えてくれ」
キュゥべえ「迂闊に裏奥義を知ろうとしない方がいいよ。第一、僕も時女一心流裏奥義を全て知っているわけじゃないし、裏奥義を会得しようとした巫とかはみんな死んだよ。だから」
翼「だとしても、私達は裏奥義などについて知りたい。今回は裏奥義の存在を知る事ができた。後は私達が調べ上げるだけだ」
そう言って翼と調は神社を出た。
キュゥべえ「やれやれ、話はちゃんと最後まで聞いてほしいよ。安易に真実に首を突っ込むと、死んじゃうのに」
最後まで自分の話を聞かず、真実に首を突っ込もうとする翼達に呆れるキュゥべえであった。
時女の集落
それから1週間、ちはるは静香の母親や清十郎に稽古をつけてもらっていた。1週間後の早朝…。
清十郎「ちはる、巫の力に頼り過ぎるのも大概にすべきだ」
ちはる「はい!」
次は清十郎に振るいまくったが、清十郎にはかすりもしなかった。
ちはる「くっそー!」
清十郎「おいおい、頭に血が上ると真っ直ぐにしか動いてないぞ。そんなんじゃ俺とかにはもちろん、悪鬼にだって動きを読まれるぜ」
ちはる「うりゃあっ!」
今度は全力でやったが、シンフォギアや巫はおろか、悪鬼とも生身で真っ向から戦える清十郎にはビクともせず、簡単に竹刀で受け止められた。
清十郎「あははははっ、お前の本気はこの程度か?」
ちはる「と、とんでもない力持ち…!」
生身の人間であるのにも関わらず、巫相手でも普通に稽古の相手ができる清十郎は本当に人間なのかと静香たちも疑っていた。
静香「母様、あの人は本当に人間なの?」
静香の母「さあ、巫相手でも普通に稽古をつけられる人間なんて、信じられないわ」
翼「私の叔父も七井さん程ではないにしろ、恐ろしく強い人です」
調「私達の仲間も含めて7人で挑んでも、勝てなかった……」
静香「巫より強い人間は他にもいたの!?」
すなお「世の中、どうなっているのでしょうか……?」
信じられない視線で時女の面々は清十郎を見つめていた。
清十郎「何だ何だ、俺を人間扱いしていないような目つきだな」
翼「その…あまりにも強すぎるので……」
静香「でも、ちゃるは1週間みっちり稽古して、動きもよくなってきたわね」
すなお「元々センスもいいですしね」
静香の母「そう言って、あなた達3人で遊んでばっかりいるじゃない」
翼「そうだ。きちんと鍛錬を積まねば強くはなれんぞ」
静香「ぐっ…」
ちはる「清十郎さんは自分の事を剣術の超天才って言ってるけど、どれだけ才能があるの!?」
清十郎「いいかお前ら、世界の偉人の言葉にもあるけど、天才ってのは優れた才能だけでなく、努力とひらめきの両方を高いレベルでこなしてきた人間の事を言うんだ。努力だけでも、ひらめきだけでも壁にぶち当たっちまう。その壁をぶっ壊すためには両方が大事なのさ」
翼「(努力とひらめき…。あのトーマス・エジソンの言葉にもあったな…)」
ちはる「釣りも教えてもらったし、花の名前も教えてもらったよ」
静香「余計な事言わないで」
ちはる「そういえば話してて思ったんだけど、静香ちゃんって集落の外は何も知らないんだね」
静香「えっ?ま、まぁ…」
すなお「静香の場合はテレビも見ないですし、外は空想のようなものですよね」
静香「うん、車は見た事あるけど、電車は絵でしか見た事ないしね。この集落の人はみんなそうじゃないの?」
すなお「そもそも、私が特別ですからね」
翼「そうだな。見た限りでは、外から来てる人間は見当たらない」
清十郎「いや、前は仕事でこの集落と外を行き来していた時女の分家もあったぞ」
その言葉に衝撃が走った。
静香「集落と外を行き来していた時女の分家…?本当にあったの?」
清十郎「ああ。その家は大君家という家で、時女の分家の中でも相当な発言力を有していたんだ。けど、お前達が生まれる前に事故でみんな死んじまったがな…」
調「そうだったんですか…」
ちはる「そーなんだね。不便じゃないの?」
静香「ぜーんぜん。集落の中じゃ必要にならないもの」
静香の母「ずいぶん昔の話だけど、村との交流が断たれる前はそこまで文明の剥離はなかったみたいだけれどね」
静香「初めて聞いた、それっていつ?」
清十郎「さあ、もう数百年も前の事じゃない?」
静香「信憑性がない…」
静香の母「それに、現代の技術も集落にないわけじゃないからね。そのあたりの線引きは母様にもわからないけど」
清十郎「おい、お前達は般若武者の九頭蛇閃みたいな技にやられたそうだな」
翼「はい…」
清十郎「だったら、俺が九頭蛇閃みたいな技を破り、そいつに1発叩き込むための秘訣を教えてやろう」
一同は変身して清十郎に般若武者の九頭蛇閃を破り、1発叩き込むための秘訣を教えてもらう事となった。
清十郎「お前達は剣術における斬撃の事はわかっているな?」
静香「はい。唐竹、袈裟斬り、逆袈裟、左薙、右薙、左切上、右切上、逆風、そして突きです」
清十郎「ご名答。どの流派のいかなる技であれ、斬撃そのものはこの九つ以外になく、防御の型もこの九つに対応して展開される。だが…」
清十郎は刀を抜き、凄いスピードで静香を通り過ぎていった。通り過ぎた後、静香の服に九つの斬られた痕ができた。
清十郎「とてつもないスピードを最大限に発揮し、この九つの斬撃を同時に打ち込む故、防御回避ともに不可能。これが時女一心流、九頭蛇閃。俺が最も得意とする技だ」
静香「凄い…!」
静香の母「(九頭蛇閃…?そんな技、時女一心流にあったのかしら…?書物を読んで確かめる必要があるみたい…)」
翼「(確かに、前に九頭蛇閃を受けた時は防御も回避もできなかった…。だが、今回は七井さんがわざとスピードを落としてくれたのか、斬撃そのものは見えた)」
ちはる「これが般若武者の必殺技なんだね?」
すなお「はい、私達ではどうにもなりませんでした…」
清十郎「じゃあ、この九頭蛇閃はどうやって破ればいい?」
静香「破り方は簡単よ。防御も回避もできないのなら、こっちも九頭蛇閃で対抗すればいい!幸い、さっきので九頭蛇閃は覚えたわ!」
清十郎「それが正解かどうか…、本気で打ち込んでこい!」
静香「はい!時女一心流、九頭蛇閃!」
静香は九頭蛇閃を放った。ところが、清十郎の九頭蛇閃に競り負けてしまった。
ちはる「そんな!」
調「同じ九頭蛇閃なのに、どうして?静香の九頭蛇閃は完全じゃなかったの?」
清十郎「いや、静香の九頭蛇閃は完璧だった。だが、お前らは大きな見落としをしている。同じ技でも使い手が違えば、威力も変わる。つまり、パワーと体格で般若武者に負けているお前達が九頭蛇閃を習得したところで、奴の九頭蛇閃を打ち破る事はできん」
静香「私のは不正解って事……」
清十郎「同じ九頭蛇閃がダメなら、どうする?」
翼「う~む……」
すなお「困りましたね…」
ちはる「だったら、九頭蛇閃が放たれる前に攻撃を打ち込めばいい!」
静香「ちゃる、そんな事ができたら苦労なんかしないのよ!そんな無茶な事は」
清十郎「いいや、ちはるの言ってる事は正解だ」
ちはるの無鉄砲な言葉が正解だとわかった事に一同は開いた口が塞がらなかった。
静香「う、ウソでしょ!?」
翼「無鉄砲な広江らしいが、理屈的には九頭蛇閃を破る方法は広江の言った通りだ」
清十郎「あと、お前達にもう一つの秘訣を言っておく。九頭蛇閃を破るには、それを上回る速さの抜刀術でなければならん。そして、命を投げ出すという捨て身の覚悟では絶対にそれを実現させる事はできんぞ。それをよーく覚えておけ」
翼「捨て身ではダメだというのか…」
清十郎「そうだ。九頭蛇閃を超える抜刀術をやるには、強い生きようとする意志でなくてはならん。そんじゃ、俺は飯にうってつけの魚でも釣ってくる」
アドバイスをした後、清十郎は釣りの準備をしてどこかへ行こうとしたが…。
ちはる「におう…」
静香「ちょっと、私じゃないわよ!?」
ちはる「じゃなくて、なんか事件の香りが…!」
静香「ええ…?ちゃる、巫になってから毎日のように言ってるじゃない」
ちはる「嘘じゃないよぅ、なんかザワザワするんだよ」
すなお「ちゃるの武器は十手ですし、警察や探偵みたいな力を得たとか」
ちはるの言葉に清十郎はちはるを凝視し、釣りの準備に行った。
調「もしそうだとしたら、集落内での色々な悪意に反応していると思う」
ちはる「ほんと、変な感じがするなー…」
静香の母「ま、考えても仕方ないよ」
翼「七井さんのお陰でいい訓練になった。一休みしてから、悪鬼を探して倒そう」
一休みした後…。
翼「では、今日は悪鬼を探して倒すまでを一通りやるぞ」
ちはる「はーい!前に2人が倒した奴を今日は5人で倒すんだね」
すなお「そうですよ。ちゃるも頑張ってくださいね」
ちはる「もちろん、清十郎さんと静香母様に目一杯鍛えられたもんね」
翼「時女、武器の都合上、七井さんのいう秘訣はわかっているな?といっても、私もできるわけではないのだが…」
静香「九頭蛇閃よりも速く叩き込む。けど、本当にそれができるのか…」
翼「半信半疑なのは私達も同じだが、七井さんの言う事だ。きっと、般若武者に攻撃を叩き込むための秘策なのかも知れない」
九頭蛇閃よりも先に攻撃を叩き込む抜刀術には一同は半信半疑であった。
森
その後、一同は森を進んでいった。
ちはる「あのさ、静香ちゃんってずっとこの集落にいるでしょ?」
静香「うん、生まれも育ちもずっとこの集落よ」
ちはる「これからもずーーーっとここで巫として戦うの?」
静香「これからかぁ。…それはないと思うわ」
調「どうして?」
静香「もちろん集落の周りの悪鬼を倒すのが私の使命だけど、本来、日ノ本中の悪鬼を倒すのが巫としての使命よ。だから、集落で戦ってるうちはね、私達は未熟なままなの。いずれは、外には出て行くわ」
ちはる「そっか、静香ちゃんが…」
静香「どうして不安そうにするのよ」
ちはる「だって外の事、ぜーんぜん知らないんだもん」
すなお「ふふっ」
静香「ちょっとすなお、笑わないで」
すなお「ごめんなさい、想像したらちょっと面白くなっちゃって」
調「私にもそれ、わかる」
静香「翼さんに調まで…。ふんだ…、確かに世間知らずよ。だけどね、すなお、ちゃる、私は本当に出ていくわよ。それも近いうちに。周辺の悪鬼もだいぶ減ったから…」
翼「土岐もか?」
すなお「私は村の出身なので、縛りはそんなに強くないんです。それはちゃるも同じですよ」
ちはる「でも、せっかく仲良くなれたのに離れ離れになっちゃうんだ…」
調「それは残念…」
すなお「大丈夫ですよ。離れ離れになっても日ノ本の悪鬼を相手にする限り、私達はまた会えますから」
ちはる「うん」
翼「(巫は一人前になるとこの集落を出て行くのか…。なんか怪しいから七井さんに聞きたかったが、肝心の七井さんは出かけているからな…)」
静香「それよりも今は一人前になれるかどうかでしょ?」
ちはる「そうだね、変な事気にしちゃった」
翼と調はギアを纏って巫3人と共に悪鬼がいないか探っていると、センサーに反応があり、静香とすなおも気配に気付いた。
調「この反応は…」
すなお「そうですね…。場所を変えた方がいいかも知れません」
ちはる「見つけた!」
一同の中でちはるが一足先に悪鬼の居場所を突き止めた。
調「悪鬼がいるのを感じたの?」
ちはる「うん、静香ちゃん達と違う反応。多分、悪鬼だと思う」
静香「その反応、どこから感じた?」
ちはる「この奥から」
ちはるが指差した方向を見た静香とすなおは乗り気でない態度になった。
静香「だったら、今回はやめておこう」
すなお「ですね、他でもう一度悪鬼を探しましょう」
ちはる「なんでさ!?せっかく見つけたのに」
翼「理由を聞かせてもらおうか。でなければ、私も納得できない」
静香「向こうにいるのはね、ユラユラサマなのよ…」
ちはる「ユラユラサマァ…?それって悪鬼じゃないの…?」
すなお「悪鬼ですよ。ただ、私達が手を出してはいけない存在です」
ちはる「ええ…変なの…」
静香「昔からの言い伝えにあるさまよえる悪鬼。唯一の神聖な存在なのよ」
調「だけど、納得できない…」
静香「一応、確認だけしておきましょう。ちゃるや翼さん達も知っておいた方がいいわ」
一同はユラユラサマの様子を見に行った。
ちはる「これが…」
すなお「そう、他に行く事もなく、集落の周りを漂う不思議な悪鬼。時女の守り神とも言われています」
ちはる「悪鬼なのに?」
すなお「そう、だから手を出しちゃいけませんよ」
ちはる「う~ん…」
手を出そうか悩むちはるであったが、そんな時に殺気を感じ取った。
調「この殺気…!」
殺気の主は般若武者であった。
翼「般若武者!」
静香「また現れたわね!でも、あなたの必殺技、九頭蛇閃を破る秘策を教えてもらったわ!今度こそ、あなたを倒してみせるわよ!」
ちはる「(あれ?凄い殺気を発しているのにこの人からは何も匂わない…)」
ちはるは翼と調とは違う視点で般若武者に違和感を感じていた。静香たちは変身して戦闘の構えに入った一同だったが、般若武者は左足を踏み出し、目にも止まらぬ速さの抜刀術で全員蹴散らしてしまった。
すなお「きゃあっ!」
ちはる「あの般若武者、メチャクチャ強いよ…!もしかすると、ユラユラサマより強いんじゃない…?」
静香「それこそあり得ないわよ!他の悪鬼ならともかく、ユラユラサマより強い人間なんて…」
再び立ち上がった一同だが、いつの間にか般若武者はいなくなっていた。
翼「煙のように姿を消してしまった…(だが、あの物凄い速さの抜刀術、あれは一体…)」
般若武者の抜刀術を受ける直前、般若武者が放った異様なスピードの抜刀術を翼は疑問に思った。
ちはる「そもそも、般若武者は何で現れたのかな?」
すなお「もしかすると、ユラユラサマに近づかせないためだったのかも知れません」
ちはる「はぁ…。あんなに強い般若武者が来るとなれば、諦めるしかないか…」
般若武者が妨害してきたため、ちはるはユラユラサマに手を出すのを諦めるしかなかった。その後、歩き続けてようやく悪鬼の結界を発見した。
翼「やっと見つけたな」
調「あんなに歩き続けなければ見つからないという事は、平和な証拠なのかも知れない」
ちはる「よしっ、じゃあ気合を入れてもっと平和にする!」
すなお「その意気ですよ」
静香「今回は巫になって初の実戦。心と体の準備はいいかしら?」
ちはる「おす…大丈夫!」
翼「では、戦場へ飛び込むぞ!」
一同は結界へ突入した。結界に突入してから一同は連携して悪鬼の子分や悪鬼を倒したのであった。
すなお「やった、倒しました!」
ちはる「イェーイ!完璧だったねー!」
静香「うん、ちゃるの拘束、すごくうまくいってたわよ。清十郎さんや母様と稽古した星華、ちゃんと出てるんじゃない?」
ちはる「かも!」
悪鬼の魂魄は静香が回収した。
静香「これ、ちゃるの初勝利祝い。もらっておいて」
ちはる「これは?」
翼「これこそが、悪鬼の魂魄だ」
ちはる「そんなのもらっても困るよぅ…」
静香「そうじゃなくてね、この魂魄を使う事で私達は力を回復できるのよ」
ちはる「どういう事?」
すなお「巫になった時に手に入れた宝石があると思うんですけど、その中に巫としての力が蓄えられているんです」
ちはる「……私の濁ってるけど」
翼「それは力を使ったために濁っている。浄化する必要があるぞ。それに使うのが、悪鬼の魂魄だ」
静香「凄い、翼さんと調はこういった事まで知っているのね」
調「私達は他の地域にいる巫とも一緒に戦った事があって、そういった知識も知ったの」
静香「そうだったの。ちゃる、こうやってすると…」
静香がちはるの宝石に悪鬼の魂魄を近づけると、宝石の濁りが魂魄の方へ行った。
ちはる「綺麗になった!」
静香「そういう事よ。あと1・2回は使えると思うから、持っていていいわよ」
ちはる「使えなくなったら?」
すなお「神子柴様に渡してください。あの方は神官ですので、綺麗に葬ってくれるはずです」
翼「(そうだとは思えないがな…)」
見滝原で使用済みのグリーフシードをばら撒いていたキュゥべえの事もあり、翼と調は疑っていた。
ちはる「わかった。ありがとうね、静香ちゃん、すなおちゃん。それに翼さん、調ちゃん」
翼「ああ」
調「あれ?静香も結構濁っているよ」
すなお「悪鬼も減っているのに、大丈夫ですか?」
静香「うん、まだ大丈夫だと思うわ。お気遣いありがとう」
すなお「そう言えば、こういった時に限って般若武者は悪鬼の魂魄をあげてましたね」
翼「(般若武者は時女達に襲い掛かる反面、助太刀や悪鬼の魂魄をくれる事もあると言ってたな。まさか、奴の狙いは…)」
ちはる「でも、濁りきったらどうなっちゃうんだろうね?」
静香「ん?」
ちはる「いや、戦えなくなっちゃうのかなーって」
翼「(そういうレベルの問題ではないのだがな…)」
本来であればすぐにでも真実を伝えたい翼と調であったが、迂闊に言うわけにもいかなかった。
ちはる「なんだかモヤモヤとする謎だねー…」
静香「そんなモヤモヤする話かしら…?」
すなお「あ、そうだ。今日から数日ほど村に戻るので、その間に魂魄を集めてきますよ。集落周辺の悪鬼はほとんど倒しましたけど、村まで下れば、私が不在の間に悪鬼が増えていると思いますので」
ちはる「それなら安心だね」
翼「だが、無理をしてはいけない」
すなお「ですね、1人になりますから」
宿泊所
そして翌日…。
清十郎「何?静香の宝石がかなり濁っているだと?」
翼「はい。ですが、迂闊に真実を言うわけにもいかなかったので…」
清十郎「まぁ、それもそうだな。悪鬼の魂魄なら、俺はいつも百個程度は持っている。タイミングを見計らって浄化するんだ」
調「百個は持ってるなんて、これまで何体の悪鬼を倒したんですか?」
清十郎「そうだなぁ…、もう5千体は倒しているだろう」
既に悪鬼を5千体も倒したと断言した清十郎に2人は衝撃を受けた。
清十郎「何だ?鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして。お前達だって悪鬼ぐらいヤバいノイズを数えきれないほど葬ってきたじゃねえか。とりあえず、お前達は悪鬼や般若武者がいないか見回ってみろ。俺も別行動で見回るからさ」
翼と調は見回りに向かい、清十郎も別行動で見回りに行った。
時女の集落
同じ頃、ちはるは何かに気になっていた。
ちはる「くんくん、ふんっ…やっぱりにおうんだよなぁ…(静香ちゃん達にはあまり言わないようにしたけど、やっぱり巫になってから事件の香りがする…。どう思いますか、等々力さん)」
ちはるはハマっている番組の探偵のバッジに話しかけてみた。
『君の嗅覚は鋭いね、広江君。僕もこの集落には何かがある、そう思っていたところだよ。僕は優秀な助手が持てて嬉しい。』
ちはる「えへへ。というわけで、等々力さんの反応も良好なので、広江ちはるは探りに入ります」
ちはるが神社へ向かっているのを翼と調は目の当たりにした。
調「翼さん、ちはるが」
翼「広江の奴、何かとにおうと言っていたな。私達も広江の身に何かが起こらないように向かうとしよう」
翼と調もちはるの後を追った。そしてちはるは神社に来た。
ちはる「ん?(何だかにおいが強くなった気がする。どういう事だろ…)」
そんなちはるはある事が思いついた。
ちはる「もしかして、この集落には山賊とかヤバイ人がいるのかも…(前にニュースでやってたよ。山の中で草を育ててたら、捕まった人達の話!でも、これって奥に進んでもいいのかな?…ここで巫になったし…奥に神社の人がいれば濁りの話も聞けるかもだよね)うん、一石二鳥!飛ぶ鳥を落とす勢いで奥まで踏み込んでみよう!」
意気込んだちはるだが、ある違和感を感じた。
ちはる「く、うぇ…。何、急に気持ちわる…。凄い心臓が速く…。この奥、進もうとしたから…?うぅ、帰った方がいいのかも…」
帰ろうとしたちはるであったが…。
ちはる「(帰るなら今。でも、やっぱり気になる。早く引き返さないとマズいよ。でも、巫なんだからヤバイ事は確認しないと。すごく危険かも知れないのに…。でも、でも、でも…)」
そう思っているうちに奥へ来てしまった。
ちはる「でも、きちゃった…」
???「広江、何があった!?」
悩んでいると、翼と調が来た。
ちはる「翼さん、調ちゃん…」
調「具合が悪そうだね…」
翼「とりあえず、気分が落ち着く場所へ行こう」
???「来ちゃったじゃないわよ!」
今度は静香が来たのであった。
ちはる「わあああっ!し、静香ちゃん!?」
静香「近くにちゃるの反応があるからもしかしてって思ったけれど、本当に登ってるなんて…」
調「来ちゃいけない場所だったの?」
静香「ええ。これ以上、奥に進んだら大目玉を食らうところ」
ちはる「そうだったんだ…。で、でもね!すごくにおったんだよ。あの舞台の奥から気持ち悪くなるぐらい…」
翼「(だから、さっき具合が悪そうにしていたのか)」
静香「事件の香りが?」
ちはる「うん」
静香「だとしてもダメ。ここの神殿は大きな祭りや緊急事態以外では開かないの。郷に入っては郷に従え。集落のルールは守って?」
ちはる「…わかった」
静香「よし、えらいわ」
翼「だが、何か異常事態が起きれば話は別だ。それだけは覚えておいてくれ」
ちはる「異常事態が起きれば、か。でもね、ここで巫になったから秘密も知れるかもなって。宝石が濁り切ったらどうなるか…」
静香「私の事、心配してくれたの?」
ちはる「うん、少しだけ」
静香「少しか…。ふふっ、でも嬉しい。ありがとう。でも、それについては心配しないでいいわよ」
ちはる「え?」
静香「ちゃんとオババにどうなるのか聞いてきたから」
ちはる「それならよかった。心配な事が一つ減ったよ」
回想
それは、宝石が濁り切ったらどうなるのか気になった静香は神子柴に聞きに行った。
神子柴「…ふむ、かなり濁りがひどくなっておるな」
静香「集落の周りから悪鬼の数も減ってきましたので…」
神子柴「という事は、お主もそろそろ独り立ちかのぉ。寂しくなる」
静香「え、独り立ち?」
神子柴「おぉ、すまんすまん。つまり、宝石の力が濁り切る時というのはな、巫にとっての裳着。成人を迎える事を意味する。すなわち、一人前の巫として外に出る時という事じゃよ」
静香「…母様から話は聞いてましたけど、本当だったんですね」
神子柴「そんなに以外だったのか?」
静香「遅からずその時を迎えるのは私も知っていました。ですが、それがこの宝石と密接な関係だと思わなかったので。それに、清十郎さんの九頭蛇閃を習得できたので、清十郎さんの時女一心流の技をもっと教えてもらおうと思います」
神子柴「う、裏奥義をじゃと!?」
静香「裏奥義…?」
神子柴「あ、いや、取り乱してしまったのぅ。さっきの事は忘れておくれ」
その場をとぼけて流した神子柴だったが、怪しい視線を静かに向けていた。
下る際、静香は神子柴から聞いた事をちはる達に話した。
静香「つまり、宝石が濁り切る事は巫にとって成人の象徴。今まで集落のためによくやったって事なんだって」
しかし、翼と調は魔女と魔法少女の真実を知っているため、険しい表情であった。
ちはる「でも、戦えなくなっちゃうし、そのまま巫は卒業って事…?それじゃあ日ノ本の悪鬼を倒せないよ!」
静香「力が出なくなるのは本当。だから、どこかで魂魄を手に入れる必要があるんだって。それに、旅立ちの前はオババが浄化してくれるみたいよ」
ちはる「そっか、よかったぁ。死んじゃった吏しないかって怖くなっちゃったよ」
調「(本当はそれ以上に恐ろしい事が待ってる…)」
静香「杞憂だったね」
ちはる「だけど、成人して出て行くなら…もうすぐお別れ?」
静香「前は何となくで言ったけど、本当にその日は近いみたい」
ちはる「…寂しいなぁ。短い間だったけれど、こんなに仲良くなれたから」
静香「それは私も同じよ、ちゃる。あなたと出会えてよかったわ。明るくて楽しくて」
ちはる「私もだよ」
静香「だけど安心して。裳着の儀式はもう少し先の話。まだしばらくは戦えるもの。だから、その時が来るまでよろしくね、ちゃる」
ちはる「うん、静香ちゃん」
静香「じゃあ、また」
言い終わろうとした途端、ちはると静香は悪鬼の子分の気配を感じた。
静香「この気配…!」
なんと、悪鬼の子分達が現れたのであった。
調「悪鬼の子分!」
ちはる「あれ、結界の中にいるんじゃ…」
静香「私に聞かれても…」
翼「かなりの数が来てるぞ!」
どんどん悪鬼の子分が集まってきた。
調「ここは戦うしかないよ!」
ちはる「うん、昨日はちゃんと戦えたんだ。行くぞ!」
翼「Imyuteus amenohabakiri tron」
調「Various shul shagana tron」
ちはると静香は変身し、翼と調はギアを纏った。
静香「私達の前では、どれだけいても」
しかし、戦闘の前に悪鬼の子分たちは切り刻まれ、消滅した。
ちはる「な、何が起こったの!?」
翼「広江、時女、奴が来たぞ!」
翼の言う奴とは般若武者の事だった。
静香「あなた、私達を襲ったり、悪鬼との戦いの助太刀をしたりしているけど、何を考えているの!?」
般若武者「至って簡単な事だ。お前達を鍛え上げ、途方もなく鍛え上げた後で叩き斬るためだ」
ちはる「喋れるんだ!」
般若武者「さっきの悪鬼の子分共は邪魔だったから消したまで。さぁ、お前達の実力、見せてみろ!」
ちはる「言われなくったって、やってやるぞ!」
翼「待て、広江!奴に迂闊に近づいては」
一番最初に突撃したのはちはるで、ちはるはワイヤーを出せる十手で般若武者を拘束しようとしたが、般若武者はワイヤーを腕に巻き付け、逆にちはるを引き寄せて峰打ちで吹っ飛ばした。
ちはる「うわあああっ!」
調「ちはる!」
即座に般若武者は残り3人を峰打ちで吹っ飛ばした。
調「ううっ!」
翼「力の差が大きすぎる…!」
静香「せっかく1発叩き込む秘訣を教えてもらったのに…!」
般若武者「何の秘訣かは知らんが、俺に1発ぶち込む事自体不可能だ。それに…お前達と遊ぶのも飽きてきた」
そう言って般若武者は刀を持ち換え、刃を向けた。
翼「本気で殺しに来るようだ…!」
般若武者「双蛇閃!」
般若武者は鞘で殴りかかってきたため、静香は七つの刃の刀で受け止めようとしたが…。
静香「あ、あれ、力が…」
力が入らない事に気付いた時には鞘での攻撃はフェイントであり、本命の刀での斬撃を静香はまともに受けてしまった。
静香「あああああっ!」
般若武者に斬られ、静香は斬り傷を負ってしまった。
ちはる「静香ちゃん!」
般若武者「そこのお前、宝石が濁って力が出ないのか。まあいい、お前はどの道、苦しんでから死ぬ運命にあるのだからな。ならばいっその事、俺が本気の技を繰り出して引導を渡してくれるっ!死ぬ前に死にたくないとかほざいて、生きる事に執着しながら死ぬという、無様な姿でもさらすんだな」
般若武者は重り付きマントを脱ぎ、ゆっくりと近づいてきた。
翼「(絶唱でも奴の攻撃が速くてできない…。このままだと私達は全滅だ…。どうすれば、般若武者に一撃を…?)」
ふと、清十郎の言葉が頭に過った。
清十郎『九頭蛇閃を超える抜刀術をやるには、強い生きようとする意志でなくてはならん』
般若武者『死ぬ前に死にたくないとかほざいて、生きる事に執着しながら死ぬという、無様な姿でもさらすんだな』
翼「(生きる事…。七井さんと奴の言葉が重なっている…!そして奴の太刀筋…!もしかすると、奴の正体は……!)」
静香「し、死にたくない…。死にたくない……!」
絶対的な死の恐怖を与える般若武者が近づいてくる恐怖に怯える静香に翼は駆け寄った。
翼「時女、死を恐れていいんだ!その恐怖を払拭するには、強い生きる事への執着心が必要だ!」
静香「生きる事への…執着……!」
翼「生きるのを諦めるな、時女!」
静香を奮い立たせるため、翼は奏の言葉、『生きるのを諦めるな』を言った。
静香「生きるのを…諦めるな……?」
般若武者「そんな言葉が力になるものか。これで引導を渡してくれるっ!」
般若武者は九頭蛇閃を放とうとしたが…
静香「……そうよ、私は巫として外に出て、日ノ本の悪鬼を倒さないといけないのよ!こんなところで死にたくなんかない!!」
翼「(何かあれば絶唱をやろうとする私が、こうも生きたいと執着するとはな…。それに、あの時の般若武者の目に見えぬ速さの抜刀術、あれならば…!)生きようとする意志は何よりも強い!捨て身ではなく、生きようとする意志でお前に1発叩き込んでやる!!」
静香と翼「やああああああああっ!!」
般若武者の本気の九頭蛇閃が放たれる前に静香と翼は『強い生きようとする意志』で左足で踏み込み、九頭蛇閃を上回る速さの抜刀術を般若武者に叩き込んだ。
般若武者「うわあああああっ!!」
抜刀術を受けた般若武者は大きく吹っ飛ばされたのであった。
これで今回の話は終わりです。
今回はユラユラサマや神殿の奥といった、怪しい場所があるのと、般若武者との決着を描きました。
清十郎の九頭蛇閃を教えるのでピンときた人は多いと思いますが、今回の話はちょうどユーチューブでるろうに剣心の奥義伝授の話が配信されていたため、それを参考にして執筆しました。
次の話はもう気付いた人は多いと思いますが、般若武者の正体が判明するのと同時に度々描写されていた神子柴の裏の顔が本格的に明らかとなります。