セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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163話 神子柴との激突

時女の集落

 

 翼達は結界の主の悪鬼がどこにいるのか探していたが…。

 

静香「それで、集落を巡ってみてどうだった…?」

 

翼「私達は手掛かりなしだ」

 

ちはる「私の方は相変わらず神社の方がにおうなーって思ったぐらい」

 

すなお「私は神子柴の家に行きましたけど、特にこれといった変化は何も…」

 

静香「実は私も同じよ。安否確認と合わせて巡ったものの、これいった収穫はなかったわ…。みんな、本当に何も感じなかったの…?」

 

調「悪鬼の反応はある」

 

すなお「ただ、なんといえばいいのか…、フラットというか平坦というか…。わずかな変化はあるんですけど、反応の強さが変わらないんです…」

 

ちはる「それ、私達も同じかも。あんまり変わんないなーって思いながら、みんなをさがしてた」

 

調「静香達は?」

 

静香「残念だけど同じだったわ…」

 

翼「近づいたり離れたり、変化があってもおかしくないはずだが…」

 

ちはる「ずっと同じ距離を保ったまま移動してるとか…」

 

清十郎「それはあり得んな。そうだとしても、いつかは俺達に追いつかれて反応に大きな変化が出るぞ」

 

ちはる「んー、そだね…」

 

調「どこかに隠れてて、反応に変化がないとか…」

 

ちはる「隠れてる…隠してる…。んー、なんかいい感じかも」

 

清十郎「それがどうした?」

 

ちはる「こういう時はね、等々力耕一に聞いてみるんだよ」

 

静香「誰?」

 

すなお「あ、ドラマに出てる人ですね?」

 

ちはる「すなおちゃん知ってる!?」

 

すなお「名前ぐらいしか知らないです」

 

ちはる「そっか…」

 

翼「その等々力さんがどうするんだ?」

 

ちはる「事件を解決する等々力さんの気持ちになって聞いてみるんだよ」

 

清十郎「等々力の気持ちになって、か…」

 

ちはる「等々力さん、どれだけ移動しても反応が変わらないんだけど、こういう時はどうすればいい!?」

 

『犯人が近くに潜伏している。それが確実だと思うなら、一度、頭の中から地図を消してみるといい。平面的に捉えていた世界が、実は山も空もある立体的な構造だという事がわかるはずだ。それを踏まえた上で考えてみたまえ。今の世の中、真実っていうものは案外、近いところに転がっているよ』

 

ちはる「ふう…等々力さんはこう言ってるよ」

 

清十郎「おいおい、完全にお前の自演じゃねえか」

 

ちはる「なりきると頭がよくなった感じがするんだよぅ」

 

すなお「でも、確かに今までになかった視点があると思います…。平面と立体の話で考えると…」

 

翼「思うところがあるのか…?」

 

すなお「はい。率直に言うと、私は地下だと思いました」

 

静香「地下…?」

 

すなお「平面的に考えれば本来、悪鬼との距離が近づいていずれ0mになると思います。でも、もしも200mといった深いところにいれば…、反応の差に変化はあっても、そこまで大きくはなりません」

 

ちはる「空には何もなさそうだし、あるとしたら地下なのかもねっ」

 

調「地下はある意味盲点」

 

静香「でも、この集落に地下なんて…」

 

 その時、静香はある事に気付いた。

 

清十郎「心当たりはあるようだな」

 

静香「ええ…一か所だけ知ってる…!大神殿よ…」

 

ちはる「それってどこにあるの?」

 

静香「ちゃるが入った神楽舞台の奥、あの古い神殿があるところよ…」

 

ちはる「におうところだ…」

 

翼「最初から広江は何かを感じていたのだろうな…」

 

清十郎「真実っていうのは案外、近いところに転がっているからな」

 

ちはる「その通り!」

 

すなお「じゃあ、行きましょう」

 

調「もう時間もないし、大神殿に急ごう!」

 

 神社の大神殿へ向かおうとした一同だが、そこへ悪鬼が10体以上で、そして子分も群れで出てきた。

 

清十郎「どうやら、こいつらは俺達を神社へ向かわせないつもりらしい」

 

翼「ならば」

 

清十郎「この場は俺に任せて、お前達は先に行け!」

 

静香「で、でも…」

 

清十郎「このまま悪鬼共を倒すのでグズグズしてたら、あっという間に夜になっちまうぞ!こいつらを倒し終わったら俺も向かう!自分のやるべき事を優先しろ!」

 

 言葉通り時間もないため、一同はこの場を清十郎に任せて先へ進んだ。

 

清十郎「さて、これで心置きなく戦える」

 

 清十郎は殺気を放って刀を抜き、悪鬼たちに向かっていった。

 

 

 

神社

 

 一同は神社に到着した。

 

ちはる「やっぱり前よりにおいて強くなってる…」

 

翼「広江の言ってるにおいは事件絡みなのか?」

 

静香「例えば、悪鬼から感じる力とか、そういうものてゃ関係ない?」

 

ちはる「うん…なんか、力とかそういうのじゃなくて、悪い事が起きそうな感じ。いやーな感じで胸がムカムカする」

 

翼「ずっとここから感じ取っていたのか…」

 

すなお「行ってみない事には正体はわかりそうにないですね…」

 

調「うん」

 

ちはる「ちなみに、静香ちゃんが言ってた大神殿って何…?」

 

静香「大神殿は神様を祀っているところよ。願いを叶えてくださる久兵衛様や、日ノ本のために戦ってきたこれまでの巫をね」

 

調「そんな神聖な場所なんだ…」

 

すなお「静香は入った事あります?」

 

静香「ううん…。舞人になる人が呼ばれる事はあるけど、ほとんどの人が入った事がないと思うわ」

 

調「私に舞を教える時もそこには行かなかった…」

 

静香「緊急避難場所になっているけど、今日までそんな日はなかったし…」

 

すなお「そうですか…」

 

翼「こうなれば、進むしかない」

 

 ところが、ちはるの様子がおかしくなった。

 

静香「ちゃる?」

 

ちはる「ぅぇ…、気持ち悪い…」

 

翼「大丈夫か?」

 

ちはる「ごめんね…。少ししたら慣れてくると思うけど…」

 

調「どうしてなのか、ちはるはわかる?」

 

ちはる「わかんない…。なんだろこれ…。これ、悪意かも」

 

すなお「悪意?」

 

ちはる「なんか悪い事をする人って、見てたら嫌な気分になるでしょ?なんかね、そんな感じかも…」

 

翼「悪鬼に反応していないのなら、御用すべき相手という事になるな…」

 

調「悪鬼だけじゃなくて、神子柴もいるかも知れない…」

 

ちはる「…大丈夫、落ち着いてきた」

 

すなお「それじゃあ、降りますよ…?」

 

ちはる「うん…」

 

 階段を前にした途端、反応があった。

 

静香「階段を前にした途端にこの反応…」

 

ちはる「やった、当たりだね…」

 

翼「さぁ、階段を下って悪鬼と神子柴を倒すぞ!」

 

 一同は階段を下っていった。

 

 

 

大神殿

 

 しかし、どこまで降りるのかわからないほど長い階段であった。

 

調「どこまで下って行くのかな…?」

 

静香「わからない…。私だって入るのは初めてなんだから…」

 

すなお「裏奥義の存在もそうでしたけど、時女の本家でも知らない事は多いんですね…」

 

静香「むしろすべてを知ってるのは神子柴ぐらいしかいないわ…」

 

ちはる「そのオババを操ってるかも知れないんだから、きっと強敵だよね」

 

翼「そうだな、各自覚悟をしておけ(だが、七井さんのあの怒り方を見たら神子柴は自分の意思で悪事を働いている可能性もないわけではない…。答えは本人と対峙しなければわからないか…)」

 

静香「私達が死ねば、全ては闇に葬られる…。生きて帰った時には、全てを明るみに出さないと」

 

ちはる「…明かりが見える」

 

 視線の先に明かりがあった。

 

調「反応も強い…」

 

翼「そこに待つのは諸悪の根源だ。この戦は時女の未来と命運をかけた合戦なり!気を引き締めて行くぞ!」

 

 一同が明かりのある場所にくると、そこには立派な建物があった。

 

ちはる「……なに、ここ…?」

 

静香「こんな立派な場所が…、知らない間に築かれていたのね…」

 

翼「ここにいたか、神子柴!」

 

 予想通り、大神殿に神子柴がいた。

 

神子柴「小娘ども…、ようここだとわかったのぉ…」

 

静香「ちゃるはずっとにおうって思ってたみたいだけど」

 

神子柴「厄介厄介。風鳴とそれに連なる者と従者と共に殺せなかったのは失策じゃわい」

 

翼「警戒していたが、やはり貴様が黒幕であり、最初から私達を殺そうとしていたのか!」

 

調「偽善者がそんな口を叩く資格はない!」

 

静香「教えてもらうわよ、今までの事を洗いざらい!」

 

神子柴「お主らに言われずとも冥土の土産に教えてやるわい。どれ、悪鬼と戯れながら会話に花を咲かせようではないか。そして、ここに土足で踏み入った風鳴の人間は八つ裂きにしてくれようぞ!」

 

 神子柴は今まで隠していた悪意と翼達への殺意を露わにし、それと同時に悪鬼も現れた。

 

すなお「悪鬼!静香、ちゃる、翼さん、調!神子柴の後ろです!」

 

 神子柴の後ろに高い椅子に座って水を浴び続けている悪鬼、イキガミの悪鬼がいた。

 

神子柴「悪鬼よ、葬っておやり。その次はこやつらの親と風鳴に連なる者の番よ」

 

調「やっぱり、悪鬼の子分が静香のお母さんとちはるのお母さんを狙っていたのはこのためだったんだ!」

 

 悪鬼は視線を翼達に向けた。

 

ちはる「オババ、悪鬼を操ってるの…!?」

 

すなお「そう見えますけど、悪鬼を操るなんて芸当…」

 

静香「相手は時女の神官よ。巫がいるのなら、できてもおかしくないわ」

 

ちはる「けど…、まだ操られてる可能性もある」

 

翼「操っているか、操られているかを考えるのは後回しだ!悪鬼が来るぞ!」

 

神子柴「ほれ、やっておしまい!」

 

 悪鬼は高水圧の放水を放ってきた。その威力はかなりのもので、戦い慣れしててスピードタイプの戦闘を得意とする翼と調はかわしたが、静香たちはふっとばされた。

 

翼「時女!」

 

静香「ぐっ…、さすがは集落を包み込む悪鬼…。でも、私には清十郎さんに教えてもらった裏奥義がある!時女一心流、九頭蛇閃!」

 

 静香はイキガミの悪鬼目掛けて九頭蛇閃を放ったが…。

 

静香「そ、そんな…!裏奥義が……」

 

翼「伏兵か!」

 

 なんと、伏兵として15体もの鎧武者の悪鬼が現れ、悪鬼の刀とかち合った際に静香の刀が折れてしまった。それに驚いた静香は慌てて新しい刀を出した。

 

すなお「まだ悪鬼が…!」

 

神子柴「フォッフォッフォッ、こんな事もあろうかと用意しておった裏奥義対策の剣砕きはどうじゃ?」

 

静香「剣砕き?」

 

翼「まさか、あの悪鬼が持っている剣はソードブレイカーだというのか!」

 

すなお「あれを知っているのですか?」

 

翼「ああ、あれは剣であればどれだけ頑丈でも簡単に破壊できる哲学兵装だ。前に私もソードブレイカーを持った相手と戦った事がある。ここでは神子柴の言う通り、剣砕きというべきか」

 

静香「と、すると…」

 

調「あれは剣の使い手の天敵」

 

ちはる「えーっ!剣を砕く武器で不意討ちなんてずるいよ!」

 

神子柴「フォッフォッフォッ、戦いに汚いきれいはないのじゃ。そして、長年しつけてきた悪鬼と貴様ら経験の浅い小娘共では年季の違いというものがある。まとめて切り刻み、溶かしておやり…」

 

 翼達の息の根を止めて遺体を溶かして証拠隠滅をはかるため、鎧武者の悪鬼達が襲い掛かってきた。数のものを言わせた悪鬼達の攻撃に翼達は大苦戦していた。

 

すなお「数が多すぎる…!」

 

ちはる「これじゃあ、攻撃どころじゃないよ!」

 

静香「翼さんはあの剣砕きを持った敵と戦った事があるようですけど、その時はどうやって剣砕きを破ったんですか!?」

 

翼「私が戦った時は『剣』としてではなく、『夢に向かって羽ばたく翼』として戦い、破る事ができた。だが、普通は剣を使わない仲間に任せるのが最善だ。どうしても剣士が戦うのであれば、持っている剣と剣砕きのぶつかり合いは厳禁だ!」

 

静香「ぶつかり合いが厳禁だなんて…!」

 

 あれこれ言っている間に悪鬼自体の強さと数の暴力で翼達は追い詰められていた。

 

調「悪鬼がこんな数で来たら、ノイズやアルカノイズよりもタチが悪い…!」

 

神子柴「フォッフォッフォッ、これで風鳴の者共々終わりじゃのぅ」

 

翼「終わりなものか…!私も月読も、時女達も人々を守る防人であり、夢に向かって羽ばたく翼なのだ!」

 

静香「日ノ本を守る巫として、こんな所で死ぬわけにはいかないの!」

 

神子柴「一丁前な口を叩きおって。じゃが、お主たちはここで死ぬ事に何ら変わりはない。」

 

 鎧武者の悪鬼のうちの1体が跳び上がり、ソードブレイカーを振り下ろそうとしたが…。

 

???「時女一心流、蛇昇閃!」

 

 間一髪で清十郎が駆け付け、ソードブレイカーごと鎧武者の悪鬼を粉砕した。

 

清十郎「遅くなってすまなかったな、俺を襲った悪鬼は全て片付けてきた」

 

静香「清十郎さん!」

 

 ソードブレイカーが破られた事に神子柴は衝撃を受けていた。

 

神子柴「な、何じゃと!?剣砕きが…!」

 

清十郎「バカめ、剣砕きごときで妹の形見でもある守り刀を破れるとでも思っていたのか?」

 

神子柴「ぬぅ……。お主、なぜ時女一心流裏奥義を使えるのじゃ…?あれはワシが闇に葬ったはず…」

 

清十郎「歳をとりすぎてボケちまったようだな、ババア!俺が誰だかわかるか?」

 

 清十郎の顔を凝視した途端、神子柴は驚愕した。

 

神子柴「まさかお主は…、葬ったはずの昴なのか!?なぜ生きておる!?」

 

清十郎「守り刀のお陰で何とか生き延びたのさ。クソババア、俺の家族を殺し、多くの未来ある巫の命を摘み、売り飛ばしてきたてめえは絶対に許さねえ!!」

 

神子柴「ひっ…!」

 

 尋常ではない清十郎の怒りに神子柴は威圧された。

 

ちはる「(私達も威圧されて動けない…)」

 

すなお「(清十郎さんが本気で怒ったらこんなにも威圧されるなんて…)」

 

清十郎「剣砕きを持っている悪鬼は俺が全て片付ける。だから、お前達は結界の主であるあの悪鬼を倒せ」

 

翼「七井さん、どうやって剣砕きを破ったのですか?」

 

清十郎「至って簡単だ、結界でコーティングし、直接剣砕きに触れないようにしてぶっ壊してやったのさ。あの親分は任せたぞ!」

 

 悪鬼が何体いても、清十郎には歯が立たなかった。

 

神子柴「ええい、大君の嫡男を仕留め損ねたばかりか、裏奥義を会得して帰ってきたとは!こうなれば、巫や風鳴の者共々溶かしてくれようぞ!」

 

 イキガミの悪鬼は水を出したが、その水はさっきのとは違っていた。

 

すなお「なに、あの水…!」

 

調「溶かしている…」

 

静香「みんな、下がって!」

 

 下がったが、押し寄せている事に変わりなかった。

 

ちはる「まだ、どんどん押し寄せてる!上にのぼれば…!」

 

翼「上か…。そうか、そういう事か!」

 

 ちはるが上に行ったのを見た翼は建物の上という安全地帯を見つけた。静香たちの方は壁際に追い込まれていた。

 

静香「壁際…」

 

すなお「壁を蹴って一気に悪鬼まで…」

 

静香「そんな事したら、落ちた瞬間に水に触れちゃうわ」

 

神子柴「鬱陶しかった小娘共の鳴く声は趣があって実によいのぉ」

 

 どうにかしようと思う間にも、水は迫っていた。

 

静香「くっ!ここは、私の能力で止める…。阻止!」

 

 静香の力で水の流れが止まった。

 

調「水の流れが止まった…!」

 

静香「すなお、調、今のうちに上に逃げて!」

 

すなお「でも、静香が身動きをとれないじゃないですか!」

 

静香「止めてるうちに上に逃げて!」

 

???「静香ちゃん、すなおちゃん、調ちゃん!」

 

 3人の体に縄が巻き付いた。

 

調「体に縄が巻き付いて…」

 

静香「先に十手…」

 

 縄の先には、ちはると翼がいた。

 

ちはる「引っ張るよーーー!!やっ!」

 

 翼と一緒にちはるは十手の先の縄を引っ張り、3人を引き上げた。

 

調「うぅっ!」

 

すなお「きゃっ!」

 

ちはる「成功!」

 

静香「ありがとう、助かったわ」

 

すなお「あんな気転の利かせ方があるなんて」

 

ちはる「えへへ…」

 

神子柴「ちょこざいな真似を…」

 

翼「私達の戦う場所はここだ!」

 

ちはる「この神殿の上に陣取れば、迫る水なんて怖くない!」

 

すなお「ですね。ここから攻撃を仕掛けましょう!」

 

静香「九死に一生を得たわ」

 

神子柴「逃げ回ったところで無駄よ。悪鬼よ、神殿が崩れるのは構わぬ。必ずや仕留めよ」

 

 イキガミの悪鬼は命令通り、神殿を崩すのもためらわずに攻撃を開始した。

 

神子柴「さて、いくら裏奥義を会得したとはいえ、普通の人間たる昴など悪鬼の数を揃えれば」

 

清十郎「揃えれば、どうなんだ?クソババア」

 

 声がした方を向くと、何事もなかったかのように余裕な清十郎の姿があり、鎧武者の悪鬼は全滅していた。

 

神子柴「な、何じゃと!?普通の人間がこの数の悪鬼を…!?」

 

清十郎「ババアの常識は古すぎなんだよ!俺は剣術や努力の天才だからこそ、裏奥義を完璧に使いこなせるほどにまで鍛え上げる事ができたんだ!そして、世の中には男でも悪鬼を容易く倒せる奴はいるにはいるんだぜ!」

 

神子柴「ぐぬぬぬっ…!」

 

清十郎「それに、俺は本気なんて出しちゃいねえのさ。おまけにババア自慢の悪鬼も押されてるぜ」

 

 清十郎の言う通り、イキガミの悪鬼は静香たちに押されていた。

 

ちはる「神妙にお縄につけ!」

 

 ちはるの十手についている縄で、調はヨーヨーで悪鬼を拘束して動きを封じた。

 

調「敵の動きは封じた」

 

静香「ありがとう、ちゃる、調!」

 

翼「次は私達だ、時女!」

 

静香「時女一心流裏奥義、九頭蛇閃!!」

 

 翼は蒼ノ一閃で、静香は九頭蛇閃で悪鬼を吹っ飛ばした。

 

静香「最後お願い、すなお!」

 

すなお「あなたが私達を溶かすなら、こちらは浄化します!この光で!」

 

 水晶からのビームは悪鬼に直撃し、大ダメージを受けた。

 

神子柴「ぐぬぬぬっ…。これ、動かぬか!貴様はその程度の悪鬼か!底力を見せんかい!!」

 

 清十郎に鎧武者の悪鬼を全滅させられ、イキガミの悪鬼も追い詰められている状況に神子柴は業を煮やしていた。

 

ちはる「そんなに怒ってたら、頭の血管切れちゃうよ」

 

神子柴「忌々しい…、広江の娘め…」

 

静香「…オババ、目を覚まして。本当は悪鬼なんて操ってない、逆に操られてるかも知れないわよ。もしそうだとしたら、オババは無駄な殺生をしてる…」

 

神子柴「時女の娘よ、バカげた事をぬかすでない!操られてなどあるものか、全ては神子柴のしきたりに則った行動にすぎん。すべては真実よ。ワシが悪鬼を操る姿も、貴様らがその悪鬼となるのも、そして…外に出る者を捨て、風鳴の者や外から来る者を殺すのも…、集落に必要な事であるがゆえ…それ以上もそれ以下もない。日ノ本の影であるためには必要な事なのじゃ」

 

静香「それじゃあ、あの話は本当…?願いを叶えた私達は出がらしだって。もう用済みだから殺すって、それが集落のしきたり?」

 

神子柴「さよう。故に貴様らは風鳴の者共々葬らねばならんのだよ。時女の存在が白日の下にさらされぬようにな!」

 

清十郎「貴様のエゴでどれだけ多くの巫の未来を奪ったと思っている!?この私利私欲にまみれたクソババアが!!」

 

 今までずっと抑えていた神子柴への怒りで清十郎は峰打ちで神子柴を吹っ飛ばした。

 

神子柴「ぬわあああああっ!!」

 

 吹っ飛ばされた神子柴は壁に激突した。

 

神子柴「うっ、うぅっ……」

 

翼「七井さん…」

 

清十郎「お前ら、あのババアには何を言っても無駄だ」

 

静香「そうね…。でも希望は持つ。悪鬼を討てば元に戻るって…」

 

翼「私としても、奴の本音を聞きたい。操られているのかどうかをな」

 

清十郎「だが、希望は持たん方がいいぞ。あのクソババアは中身が腐り切った人でなしなのだからな」

 

静香「…ほんとに一纏の望みだけよ」

 

神子柴「…悪鬼よ、これで最後じゃ…。今度はしくじるでない…」

 

 悪鬼は次の一撃を放とうとしたが…。

 

清十郎「お前達が力を合わせれば、あの悪鬼を倒せる!」

 

翼「はい!月読、時女、土岐、広江、次でとどめだ!」

 

静香「はい!」

 

 翼と静香は身構え、ちはると調はそれぞれ十手とヨーヨーで悪鬼を拘束した。

 

すなお「今です!」

 

翼と静香「時女一心流最終奥義、龍閃天翔!!」

 

 すなおの攻撃と翼と静香の龍閃天翔をまともに受けた悪鬼は吹っ飛ばされた後、空中分解のように微塵切りとなり、消滅した。

 

ちはる「た、倒したぁ…。しょうりぃ…」

 

すなお「だいぶ消費しましたけど…」

 

清十郎「だが、その見返りとなる魂魄はこんなにも大量に手に入ったぞ。これで当面の間は大丈夫だ」

 

 清十郎が倒した分も含め、20個近くもの悪鬼の魂魄が手に入った。

 

調「神子柴は…」

 

 神子柴はそのまま倒れてしまった。

 

静香「まさか…」

 

清十郎「安心しろ、あのババアは気絶しているようだ」

 

翼「神子柴には聞きたい事が山ほどある。連れて行くぞ」

 

 翼達は神子柴を連れて行く事にした。

 

 

 

時女の集落

 

 翼達が帰ってくると、弦十郎達が待っていた。

 

静香「母様!」

 

翼「叔父様!」

 

弦十郎「おおっ、無事に帰ってきたか、お前達!悪鬼は倒せたようだな」

 

静香の母「急に子分が消えたから、そうじゃないかtって思ったのよ」

 

ちはる「すっごく手強かったし、たくさんいたけど、5人で頑張って倒せたんだよ!」

 

すなお「清十郎さんも一緒に戦ってくれた上、よいチームワークでしたよね」

 

静香「そうね」

 

ちはるの母「清十郎さんがいてくれたから、ちはる達は…」

 

清十郎「いや、俺は可能な限り静香たちの成長を促すために必要な戦いには加わらなかった。生きて帰れたのは、あいつら自身の頑張りと強ささ」

 

静香「ところで、母様たちの方は?」

 

静香の母「1人を除いては見ての通りボロボロよ…。刀も残り一振りだったわ…。おまけに、子分だけでなく悪鬼まで出てきた事だし…」

 

調「悪鬼まで…。1人を除いてって、もしかして…」

 

静香の母「そう、弦十郎は子分はおろか、悪鬼相手でも無双状態だったわ。全く、本当に人間なのか疑わしいわ……!」

 

弦十郎「俺はれっきとした人間だぞ」

 

 この世界の弦十郎も人間かどうか疑われていた。

 

静香「でも、間に合ってよかった…」

 

静香の母「それで、神子柴様だけれど、悪鬼と一緒にいたの…?」

 

すなお「悪鬼を操っていました…」

 

静香の母「つまり、結託していた…?」

 

翼「まだ詳細はわからないので、神子柴本人に聞きだしてみなければなりません」

 

ちはるの母「じゃあ、ひとまずうちに戻りましょう…」

 

静香の母「広江さんが借りてる家に行ってもいいかしら?」

 

ちはるの母「時女さんの家、だいぶ壊れましたからね…」

 

静香「えっ…」

 

清十郎「俺達の借りてる家には覇万や支援者達を入れなきゃな。そんじゃ、戻るぞ」

 

 

 

 

 神子柴から聞き出すために一同は待ち続けていた。そして、しばらくしてから神子柴は目を覚ました。

 

神子柴「む…ぅう…」

 

静香「ようやく目を覚ましたわね…」

 

ちはる「オババ、大丈夫…?」

 

神子柴「…お主らは巫の」

 

ちはるの母「怪我は戦闘の際に清十郎さんが峰打ちで強く殴打したぐらいですけど、気持ち悪いところはないですか?」

 

弦十郎「そんなに気を遣う必要もないぞ」

 

神子柴「時女と広江に風鳴の者達まで…。そうか、ワシは何か怪我をして眠っておったのか」

 

調「何も覚えてないの…?」

 

神子柴「すまんのぉ…、ここ最近の記憶があいまいでな…」

 

 神子柴の様子にちはるは驚いていたが、清十郎達は凝視していた。

 

ちはる「えぇ…こんな事ってあるの…?」

 

静香「悪鬼の樹陰を受けた人は覚えていない事もあるわ…」

 

神子柴「ワシが悪鬼にじゃと…?」

 

すなお「…ただ、むしろ悪鬼の方を操っているようでしたけれど…」

 

神子柴「記憶にないな…、すまん…。じゃが、助けてくれたのは本当じゃろうて。例を言うぞ、3人の巫と風鳴の者達よ。ありがとう」

 

清十郎「とぼけても無駄だぜ、ババア。てめえには色々と聞きたい事がある」

 

神子柴「ワシに聞きたい事じゃと?」

 

清十郎「そう…、てめえの悪事を全てな!」

 

 そう言って、清十郎は神子柴の胸ぐらを掴んだ

 

翼「な、七井さん!?」

 

清十郎「ババア、てめえは私利私欲で俺の家族を殺したばかりか、多くの巫の命を売り飛ばし、未来を奪ってきたじゃねえか!嫌とは言わせんぞ!」

 

 清十郎の凄まじい怒りに覇万以外は押されていた。

 

神子柴「な、何を言っておるのじゃ……?ワシは何も知らん…」

 

ちはる「…清十郎さんの言ってる通りだ…。オババ、ウソついてる」

 

神子柴「困ったのぉ…」

 

清十郎「それが俺の家族や多くの巫を殺し、すなおを苦しめたてめえの言う事か!その邪な目は十数年前と同じだ!悪鬼に操られていた人の目はそんな目なんかしてねえ!」

 

 怒っている清十郎は神子柴を殴った。

 

神子柴「うぅっ…」

 

弦十郎「よせ、清十郎!神子柴を殺す気か!?」

 

覇万「弦、清十郎のあの老婆に対する怒りは相当なものだ。『罪を憎んで人を憎まず』の姿勢はわかるが、今の清十郎に下手な手出しは禁物だぞ」

 

弦十郎「ぬぅ…」

 

 清十郎を止めたい弦十郎であったが、覇万の言う事も嫌という程わかるが故、もどかしかった。

 

清十郎「さぁ、言え!十数年前から今に至るまで、何人の巫の命と未来を売り飛ばしてきた!?俺に嘘は通じんぞ!」

 

静香「せ、清十郎さんは言ってるの…?」

 

翼「(そう言えば、戦いの時も七井さんはそういった事を言ってた…)」

 

すなお「(あの人は神子柴の悪事を既に知っているから、私の代わりに…)」

 

神子柴「ワ、ワシは何も…」

 

 とぼけたため、今度は何発も清十郎に殴られた。

 

覇万「どうとぼけても無駄だ。私達は貴様の家から『例の取引』の決定的証拠となる音声データを押収したのだからな」

 

翼「例の取引だと?」

 

神子柴「…そうか、聞いてしもうたか…」

 

清十郎「さあ、観念して白状しろ、神子柴!そうすれば、正当な裁きを受けさせるために命だけは助けてやる」

 

神子柴「知らぬ方がよい事もあるじゃろて」

 

清十郎「そうか…。話さんのならもういい、俺の手にかかって死ね、神子柴ァ!てめえのエゴで殺された親父とおふくろ、そしてせいらの仇だぁあああっ!!」

 

 外へ神子柴を放り投げた後、清十郎はすぐに外へ出て刀の峰で蛇槌閃を放ち、神子柴の頭目掛けて強く叩きつけた。

 

神子柴「ぬわあああああっ!!」

 

 頭を強く殴打した神子柴は頭から血を大量に流した後、倒れた。現場へ来た翼達は衝撃を受けていた。

 

ちはる「オババ!」

 

静香「清十郎さん、どうして…オババを…?」

 

清十郎「クソババアは最初から真実を話す気はなかったのだからな。いざという時の自殺のための仕掛けも入れ歯に用意しているぐらいだ。ちはるのおふくろ、あんたなら仕掛けがわかるだろ?」

 

 殺した神子柴の入れ歯を見るようにちはるの母親に頼んだ。

 

調「どうなんですか?」

 

ちはるの母「…やはり、清十郎さんの言った通りよ。奥歯に毒が仕込んであったわ」

 

覇万「そうだろう。奴は最初から罪を償う気はないのだからな」

 

ちはる「そんな事しなくても…」

 

すなお「認めたからです…。自分の悪事を…」

 

ちはる「でも…でも…、どんな悪人だってやり直せるんだって言ってた…。等々力さんは、そう言ってたよ…」

 

清十郎「それはドラマではの話だ。現実は甘くはない。神子柴のようにやり直そうとせず、好きなだけ悪事を働い、死ぬなり、権力でもみ消すなりして闇に葬ろうと企む悪党なんて、腐るほどいる。そういった悪党は徹底的な苦痛を味わった上で死ぬべきだ。俺は今まで、悪事に対する反省の色もない腐り切った政治家や官僚を始めとした老人共を全身不随などで再起不能にするなり、殺すなりしてきた。あのような老害は未来を摘みとるから死ぬべきだ」

 

翼「悪人とはいえ、人を殺すなんて…」

 

 反省の色もない老人の悪党相手には特に容赦がない清十郎に翼達は戦慄していた。その後、清十郎は荒げていた態度を落ち着かせた。

 

清十郎「…悪いな、こんな事は言うべきではなかった」

 

すなお「(清十郎さん、私の気持ちを汲み取って……)」

 

弦十郎「静香君とちはる君は滝つぼに落とされたそうだが、骸はどれぐらいあった?」

 

静香「数年分じゃ通じない数だったわ」

 

清十郎「当然だ。あのババアはずっと、悪鬼に関係なく巫を殺していたんだ」

 

翼「…それで、土岐、お前は七井議員や叔父様と共に何を聞いた?」

 

すなお「…言いたくない」

 

調「静香とちはるに関係がある話だよね…。ちゃんと聞かせて」

 

覇万「言っておくが、この話を聞くと後悔するぞ」

 

静香「だけど、私達の事でしょ?それを抱えさせて墓場に持って行かせるのはひどい」

 

ちはる「私も自分の事なら聞きたい。だから、私も持っていくよ」

 

すなお「…私が、私が聞いたのは……命の値段…」

 

 その言葉に一同は衝撃を受けた。

 

調「命の…値段……!?」

 

翼「(そう言えば、七井さんも似たような事を神子柴に言っていた…)」

 

覇万「神子柴は文字通り、巫の命を腐った政治家共に売り飛ばしていたのだよ」

 

翼「売り飛ばしていった!?」

 

弦十郎「そう、俺も聞いた時は腸が煮えくり返るほどだった…!」

 

調「詳しく教えてください」

 

 すなおと覇万、弦十郎は詳しく教える事にした。

 

 

 

 




これで今回の話は終わりです。
今回は神子柴と悪鬼軍団との決着と清十郎が神子柴に復讐を果たすのを描きました。
清十郎の言っていた例の取引がどうなのかは明らかになりましたが、詳細は次に描きます。
次は取引の詳細が明らかになるのと、時女の集落での最後の戦いとなります。

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