セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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164話 時女の誇りと矜持

回想

 

 それは、神子柴の家のパソコンに記録されていた衝撃の音声データの内容だった。

 

すなお「これは…」

 

神子柴『ワシじゃ』

 

???『神秘を実現できる者についてですが、そろそろ準備は整いましたか?』

 

神子柴『後少しまたれよ。もう数日もすれば確保できるのでな』

 

???『急いでいただかないと困りますよ。うまくいけば政局を動かしかねない事件になるんですから』

 

神子柴『お主らの事情は承知しておる。今までどれだけの付き合いだと思うとるんじゃ?ワシらを利用したのは、初めてではあるまい。時代錯誤の思考故にお主らが煙たがっておった風鳴の長、訃堂のクソジジイを始末できたのは誰のお陰だと思うとる?』

 

???『それは存じておりますが、私は先生からあなたの連絡先を聞いただけ。本当に信頼できるかどうか判断するのは、今回の一件がどう転ぶか次第です。それに、近頃は潔癖ぶりと類稀なカリスマで幅広い層の人気を集めている上、この取引に関わったりしている議員や官僚をあの手この手で始末している七井議員がいるんですよ。我々も暴力団やマフィアを雇って暗殺しようにも、元ヤクザの支援者達や人間かどうか疑わしい七井議員のボディガードのせいでうまくいかず、逆にこちらの弱みを握られるなり、報復で生死問わず政界から抹殺される上、財産を根こそぎ奪われているんです。ただでさえ党内や各省庁では七井議員主導の老人狩りで『無能で国民のために尽くさない』という理由で多くのベテラン議員や役員に官僚が蹴落とされているんですから、早くしていただかないと、七井議員に嗅ぎつかれて先生の首が飛ぶ恐れがあります』

 

神子柴『本家を潰しても、分家が邪魔するのは不愉快じゃ…。お主の政敵も接触してきたが、お主が提示してきた対価の方が輝いておった。故に安心するがよい』

 

???『くれぐらも遅れのないように。願いの対価は支払い済みなのですから。それと、いつかは七井議員を始末するのもお願いしますよ』

 

神子柴『言うておろう、あと少しの辛抱じゃ。その時が来れば、支払った対価に満足する結果となり、お主も先生に感謝する事になるはずじゃ』

 

???『よろしくお願いしますよ』

 

神子柴『あと、わかったおると思うが、ワシらの会話は全て証拠として残る。お互い痛い腹を抱える事になるのじゃ。それは、ゆめゆめ忘れてはならぬぞ。お主の政治生命も断たれるでな。それと、しばらくしたら必ず七井議員の始末もやるからな』

 

???『無論です。できれば早めに七井議員の始末もお願いしますよ』

 

 そこで会話は終わった。

 

すなお「そんな…!」

 

弦十郎「何の会話なんだ?」

 

覇万「話すより、実際に聞いた方が理解が早いぞ」

 

 弦十郎も聞いたが、やはり衝撃的だった。

 

弦十郎「親父が目障りだったから巫の願い事を使って始末した…?こんな事がずっと前からあったとでもいうのか!?」

 

覇万「そうだ。清十郎からもたらされたCDにも今から十数年前までではあったが、似たような会話が記録されていた」

 

弦十郎「巫の命と願い事を売り飛ばして金を得ていた神子柴め、絶対に許さん!!」

 

 

 

 

 その内容は衝撃的だった。

 

ちはる「命の値段…?」

 

静香「それって、私とちはるの値段…?」

 

すなお「…そうです」

 

覇万「取引をしている議員の支援者と神子柴の会話が録音されていた。内容は巫になる時の願いについてだ」

 

翼「七井議員、その相手は…?」

 

覇万「恐らく、私の所属している民自党の老害議員の秘書辺りだろう。神子柴はそいつと願いの値段と時期について話していた」

 

静香「要は清十郎さんが言ってたように私達の願いは…命は売られていたって事ね…」

 

清十郎「ああ…。だからこそ、神子柴は俺の手で殺さなければ気が済まなかった…」

 

静香「はぁ…ごめん、自分て聞いておいて…思ったより堪えた…」

 

ちはる「…私達、日ノ本のために願ってたんじゃないの…?」

 

すなお「…それは変わらない…」

 

ちはる「でも、オババはお金をもらって願わせてたんだよね…。私…、神様に命を献げたんじゃない…。知らないおじさんに命を売られただけなんだ…。私の願い…、何だったの…」

 

静香「確かに、売られたかも知れない。それでも…それでも、ちゃる…。確かにちゃるの願いは叶って、正義に巣くう悪を挫いたわ…」

 

ちはる「静香ちゃん…」

 

静香「だから、意味はあった…。あったんだよ…ちゃる…!」

 

ちはる「うん…。ちはみにすなおちゃん、私は」

 

清十郎「それ以上は言うな!」

 

 清十郎の一喝に場の空気が変わった。

 

ちはる「せ、清十郎さん…?」

 

清十郎「人の命に値段なんかあるか!俺や覇万はそういったのが許せんから、値段をつけて売り飛ばした神子柴とその取引相手の老害議員や官僚共を全身不随なり、ぶっ殺すなりして始末してきたんだ!もっとも、きちんと反省の色を見せた奴は二度と政界に関わらないのを条件に議員をやめさせ、老後の生活を保障するという情けはかけたがな」

 

ちはる「大声で怒鳴らなくても…」

 

すなお「清十郎さんの言う通り、値段なんてないですよ」

 

調「友達や家族はお金では絶対に買えない、かけがえのないもの。お金で買える友達や家族は偽物でしかない」

 

すなお「ちゃるも静香も、翼さんも調も、清十郎さん達も変わりはない、最高の人ですから」

 

調「値段なんか、ありはしない…!」

 

ちはる「すなおちゃぁん…、調ちゃぁん…」

 

 すなおはもちろん、F.I.Sにいた頃にナスターシャやマリアにセレナ、切歌との家族としての絆を育んでいたため、本当の家族や友達は絶対にお金では買えないという調の言葉はちはるにとても響いた。

 

翼「(血の繋がりはなくても、マリアとセレナに暁、そしてナスターシャ教授と本当の家族の絆を育んだ月読らしいな…)」

 

静香「すなお…、抱え込ませてごめんね…。あなたも最高の人よ…」

 

すなお「殺そうとしたのに…?」

 

静香「勿論よ」

 

 しばらくして落ち着いた後…。

 

静香「結局、神子柴は全てを知っていて、悪鬼も操っていた…。そして、この集落は古くから命を売る集落だったのね…」

 

清十郎「早とちりするのはよくないぞ。ここは時女の集落、神子柴が来る前はわからんが、神子柴が巫の命を売り始めたのは数十年ぐらい前からだと思っている」

 

覇万「聞こうにも死人に口なし。もっとも、神子柴は生きていたとしても、絶対に話さんだろうがな」

 

 そんな中、ちはるは…。

 

ちはる「ぐすっ…。こうなったら…こうなったら、とことんだ…!」

 

 ちはるは神子柴の遺体を漁っていた。

 

ちはるの母「ちゃる、何してるの!?よしなさい!」

 

静香の母「お母さんの言う通り、いくらクズでも」

 

清十郎「やらせろ」

 

静香の母「昴、あなたは正気なの!?」

 

清十郎「ちはるは意外な視点で意外な事実を見つけてるんだ。何か手掛かりが見つかるかも知れんぞ」

 

 その言葉に反論はできなかった。

 

弦十郎「どうしてなんだ、ちはる君」

 

ちはる「まだにおうもん!オババ、死んでるのにまだ悪人のにおいがしてる!」

 

ちはるの母「だからって、何ができるの?」

 

ちはる「真実っていうものは案外、近くにあるんだよ。すなおちゃん達が見つけたパソコンの中身が残ってたなら、本当に大切なものは持ってるかも知れないでしょ?」

 

弦十郎「子供のやりたい事を支えてやるのが、大人ってもんだろ?」

 

ちはるの母「弦十郎さん…。わかった、私が調べてみるから…」

 

清十郎「言っておくが、あのババアの遺体を調べるのには何の遠慮もいらんぞ」

 

 清十郎にそう言われても、そんな極端な事はできなかった。そしてしばらくして…。

 

ちはる「何かない…?」

 

ちはるの母「懐の中に何か…」

 

 神子柴の遺体の懐に何かがあった。

 

ちはる「あった…」

 

ちはるの母「これは…」

 

 見つけた物は、本であった。

 

静香「本…?何…この変な文字…」

 

清十郎「裏奥義の秘伝書とは違う文字だな。こりゃ、俺や覇万でも読む事はできねえ」

 

ちはる「これって…」

 

 

 

回想

 

 ちはるは集落に行く前の事を思い出していた。

 

ちはるの母「等々力さんになるなら、頭脳も必要よ。約束の勉強、ちゃんと古典も学ばないとね」

 

ちはる「んぅ、なんでよりによって古典なのさぁ」

 

ちはるの母「仕方ないでしょ。それが広江家の伝統なんだから」

 

ちはる「私の代で変えてやる…」

 

 

 

ちはる「お母さん…」

 

ちはるの母「私達…、読めます…!」

 

静香「うそっ…」

 

ちはる「うちではずっとこの文字を覚えておくルールがあるんだよ…」

 

ちはるの母「まさか、こんなところで目にするなんて思わなかった…」

 

翼「解読できるか?」

 

ちはる「多分…!」

 

静香の母「では、2人には解読を任せるわ。私達はみんなに声をかけるわよ」

 

覇万「そう言えば、まだ集落の人間は避難したままだったな。醜い老婆の遺体も安置させなくては」

 

すなお「わかりました」

 

清十郎「それじゃあちはる、頼むぞ」

 

ちはる「うん、頑張ってみる。お母さん、読んでみよう」

 

ちはるの母「ええ、今日は徹夜になりそうね…」

 

 

 

時女の集落

 

 人々に集落を覆う悪鬼は倒した事を伝えるために向かう一同であった。

 

覇万「清十郎、なぜあれほど憎んでいた神子柴を刀の刃で一刀両断しなかった?暴力団やマフィアをけしかけて私を暗殺しようとし、一切の反省の色も見せなかった老害議員や官僚に対してはそうしてきたはずだが…」

 

清十郎「そりゃあ…、例えぶっ殺したかった神子柴が相手でも、静香たちの目の前で真っ二つや微塵斬りなどで極悪人を無残に殺す姿を見せたくなかったからさ…」

 

弦十郎「それが清十郎なりの配慮だったのか…」

 

翼「七井さんは自分のやり方が正しいと思っているのでしょうか…?」

 

清十郎「…国会議員共の大半は自分達の事しか考えていない。だから反省の色も見せないばかりか、逆ギレして先に手を出した老害共は生死問わず政界から抹殺すると決めたんだ。だが、救い様のない悪党が相手とはいえ、俺や覇万のやり方も決して正しいとは言えないだろう」

 

調「清十郎さん…」

 

清十郎「……俺は悪鬼や老害の抹殺ぐらいしかできない男だ…。全員ではないだろうが、生死問わず俺が抹殺した悪党の家族や友人が俺を恨んで当然だろうな…」

 

翼「…いえ、清十郎さんは私よりも器用な人です。家事や料理をこなし、素性まで隠して私達を鍛え、見守ってきた人が不器用なわけがありません」

 

清十郎「翼にはそう見えるのか…。だが、これだけは言っておく。修羅にも仏にもなるなよ……」

 

翼「修羅はおろか、仏にも……?」

 

 清十郎らは寝る事にした。

 

 

 

 そして翌朝…。

 

静香「あの…清十郎さん、昨日は言いづらかったんですけど、復讐を終えたら…」

 

清十郎「いや、神子柴への復讐は通過点に過ぎん。復讐を遂げても虚しいだけというのは前から承知していた。今の俺がやらねばならん事は悪鬼や老害共から人々、特に未来ある子供達を守る事だ」

 

すなお「清十郎さんは子供好きという事は…」

 

清十郎「言っておくが、俺はどっかのタキシードを着たロリコン変態仮面と違ってロリコンじゃねえし、ショタコンでもねえぞ。単に子供好きなだけだ」

 

静香「ロリコン変態仮面…?」

 

すなお「世の中には知らない方がいいものもありますよ、静香」

 

 清十郎の言う『ロリコン変態仮面』とは何なのか、気になる翼と調であった。そこへちはる達が来たが、ちはるは顔色が悪かった。

 

翼「お疲れだな、広江」

 

調「でも、顔色が悪い…」

 

ちはる「徹夜して起き続けるなんて、初めてだよぅ…」

 

すなお「それは私達も同じですよ」

 

ちはる「ずっと大変だったの?」

 

すなお「神子柴が清十郎さんに斬り殺されましたからね…」

 

静香「その上、舞人達も斬られて死んでいたから大騒ぎよ…。ひょっとして…」

 

清十郎「俺が皆殺しにした。あいつらも悪鬼や子分を操っていた上、連絡のとれなくなった舞人はすなおの暗殺が失敗した時点ですなおの両親を殺そうとしてたから、俺はすぐに行動し、斬り殺したのさ。もっとも、下見の際に悪鬼や子分と交戦した際にわかったが、操っている悪鬼や子分を倒したら舞人も死ぬみたいだったがな」

 

調「清十郎さんが皆殺しに…」

 

静香「巫に絡む人達だけが、真相を知っていたのかもね…」

 

清十郎「舞人は神子柴の後を継ぐために養子縁組されるそうだ」

 

翼「という事は…、神子柴もかつては舞人だったという事になる…」

 

 私利私欲にまみれた醜い老婆の神子柴がかつては美しい舞人ではないかと想像したが、どういった美しい姿なのか想像もできなかった。

 

すなお「それで、ちゃるの方はどうでしたか?」

 

ちはる「うん、細かいところまでは読めてないけど、説明はできる」

 

ちはるの母「ほとんどお母さんが読んだものだけどね…」

 

ちはる「うぅ…、ちゃんと勉強するよぅ…」

 

調「でも、どうしてここに?」

 

ちはる「この神社が時女のルーツなら、ここがいいかなって。っていうのは嘘で、ユラユラサマが近いからだよ」

 

静香「どうしてユラユラサマ?」

 

ちはる「それは、聞けばわかるよ」

 

静香の母「それじゃあ、聞かせてもらっていい?」

 

覇万「変に焦らされるのももどかしいからな」

 

ちはるの母「はい、話は大きく分けて2編でした」

 

ちはる「ひとつは神子柴の話、もう一つは時女の話です。まずは神子柴の話だけどね、元は時女を守るために遣わされた武士で、後に国防関連を牛耳るようになった風鳴一族とは敵対関係にあったっぽくて、ちょうど集落に巫がいなかった時代に権力を握ったみたい。それから神子柴は色々とルールを変えて、國兵衛神楽、巫の儀、裳着の儀っていう儀式を作った上に、集落の少女に願いを叶えさせて悪鬼を操る力を手に入れた。そして、集落を結界の中に隠したんだって。つまり神子柴は風鳴に対抗し、お金になる巫を作れる集落を結界で隠して、それを独占するために巫を殺して、情報が漏れないようにしていたんだね」

 

静香「私が神子柴にされた事…」

 

翼「時女に災いをもたらす存在として風鳴を敵視していた事…」

 

ちはる「昔から守ってたみたい…」

 

弦十郎「風鳴と因縁があったのは時女ではなく、神子柴の方だったのか…」

 

清十郎「なるほど。今の神子柴に悪鬼を操る力があったのは、代々その力を得るようにって願わせたんだろう」

 

静香「じゃあ、私達が悪鬼になるのは」

 

清十郎「本当だ。集落の外であちこちの悪鬼と戦っていた際に俺は巫が悪鬼に変わる瞬間を目の当たりにした」

 

静香「そんな…」

 

清十郎「裏奥義について書いてあったか?」

 

ちはるの母「はい。もともと時女一心流裏奥義を編み出したのは時女ではなく、流浪人であったとある剣客によって伝えられたそうです。その剣客が扱う剣術は、飛翔御剣流だったと言われています」

 

清十郎「飛翔御剣流だと!?俺の愛読している漫画の剣術じゃねえか!」

 

翼「まさか、裏奥義の正体が実在していた剣術だったとは…!」

 

ちはるの母「ですが、当時の巫達では九頭蛇閃までは会得できても最終奥義の龍閃天翔は会得できず、御剣流の負荷に耐えられる体格ではないが故、時女の里に来た時には既に御剣流の大きな負荷で体がボロボロになっていて余命も残り少なかった流浪人はいつか裏奥義を必要とする巫が現れる事を信じて秘伝書を書き、後世に残したとあります。すぐにその秘伝書は神子柴のものとなったものの、やはり神子柴の者でも裏奥義を会得できた人はいなかったそうです」

 

弦十郎「だから、裏奥義の秘伝書は清十郎の親が奪い取るまで神子柴の家がずっと保管していたのか…」

 

調「続きは?」

 

ちはる「うん。続けて書いてあったのが、ユラユラサマの事。あれは捨てられた巫の悪鬼で、外に出る事もできず、隠された集落に帰る事もできずに漂うだけの存在。そのユラユラサマは神子柴と悪鬼の巫が消えた時、集落に帰ってきて、この集落を呑み込んだ挙句に巫の証拠を全て消し去るって書いてあった」

 

弦十郎「何だとォ!?」

 

清十郎「クソババアの祖先は余計な置き土産を残しやがったのさ…」

 

覇万「誰にも時女を渡さない執念を感じるな…」

 

静香「待ってよ…。じゃあ、この集落には既に結界がないから…!」

 

翼「ああ、恐らくユラユラサマは帰ってくる…」

 

ちはる「その時は、私達で倒さなくちゃいけない」

 

すなお「ご先祖様の帰りを私達が迎え撃つんですね…」

 

ちはる「違うよ…。ずっと苦しんでいた時女の巫達を解放するんだよ…。神子柴のルールを私達が潰したんだから…!」

 

清十郎「だが、長い年月をかけて成長してきたユラユラサマは半端な悪鬼じゃねえ」

 

翼「では、あの時近づけさせなかったのは…」

 

清十郎「そう、あの時点ではお前達では歯が立たないのもあって、ちはるの暗殺阻止も兼ねて妨害したのさ」

 

静香「私達3人で倒せるのかしら…?やるしかないのはわかってるけど」

 

調「私と翼さんもいるよ」

 

 そう言ってると、揺れとともに何か反応があった。

 

ちはる「この反応…、ユラユラサマだ…」

 

静香「わざわざここに陣取った意味がわかった。ここで迎え撃つのね」

 

静香の母「そんな時に悪いけど、みんなで家に帰っていい…?」

 

静香「母様!?」

 

清十郎「ユラユラサマ用の切り札があるのさ」

 

静香の母「昨晩言ってた刀の話、移動しながら伝えるわ。ふっ、年甲斐もなく胸が躍ってるわ」

 

 一同は清十郎の言う切り札を取りに向かった。

 

静香「それで、伝える事って何?」

 

静香の母「まず、広江の家は神子柴の末裔に間違いないわ」

 

弦十郎「何だとォ!?」

 

ちはる「へ…神子柴って、オババの神子柴?」

 

静香の母「そうよ」

 

ちはる「なんで、どうして!?」

 

静香の母「あの文字が読めるのは神子柴の人達だけなのよ」

 

ちはる「時女の集落から出てきたって、お母さんから聞いてたけど」

 

ちはるの母「まさか、神子柴だったのね…」

 

ちはる「複雑…」

 

静香の母「そう言わないで。だって私達時女はあなた達を待っていたんだから」

 

ちはる「私は、そんなつもりで会いに来たんじゃないよ?」

 

静香の母「私だって、昨日の夜までは気付きもしなかったわ。でも、時女に伝わる話の意味がようやくわかった…」

 

翼「どういう事ですか?」

 

静香の母「神子柴の文字が読める者が現れた時、神子柴は潰える。その潰える時が来るまで、失われし技を蘇らせ、巫によって一振りの刀を鍛えろ。時女にはそういう言い伝えがあったのよ」

 

覇万「失われし技…。裏奥義の事か」

 

清十郎「ふっ、どうやら親父はその言い伝えに従い、神子柴から秘伝書を取り戻して俺に託したというわけか…」

 

静香「今回は集落の状況が見えてから本を解読する事になったけど、確かに最初から本を読めていれば計画の全てが見えてくる…。そして計画が無になれば、ユラユラサマとの戦いになる…」

 

調「静香とちはるの家が過去に協力していたのかな?」

 

すなお「それがバレて追い出されて、外で広江として生きてきて…」

 

静香「私の家では刀を鍛え続け…」

 

ちはる「私の家では神子柴の文字を伝え続けてた…」

 

清十郎「そして、俺の家では秘伝書を取り戻すチャンスを狙い続けていた…。何という因果だろうな…」

 

翼「では、行きましょう!」

 

 

 

 

 静香は刀を受け取りに向かっていた。

 

静香の母「静香、受け取りなさい!時女の巫達が力を込め続けたとっておきの一振りよ。百年、二百年、三百年詰まりきった力と」

 

清十郎「俺が蘇らせ、授けた裏奥義の力を使ってユラユラサマを解放してやりな」

 

静香「しかと、受け取ったわ」

 

静香の母「それと、翼ちゃんにはこれを!」

 

 翼にもある刀を渡した。

 

翼「これは…?」

 

静香の母「これは天羽々斬。かつて、神子柴と風鳴が戦争していた際に風鳴の家宝であったこの刀を奪い取り、宝物としていたそうよ。巫の力を込めてないのに不思議な力を秘めているから、風鳴の人間であるあなたが使いなさい」

 

翼「(天羽々斬…。この世界では完全聖遺物であるとは…)では、お借りします!」

 

清十郎「ここからは時女の解放をかけた、あの子達の戦いだ。行ってこい!」

 

翼「では、行ってきます!」

 

 清十郎は静香達を送り出した。

 

弦十郎「本当は、俺達がユラユラサマと戦いたかったが…」

 

覇万「これはあの子達の将来のための戦いでもある。私達大人が手出ししては、成長につながらない」

 

清十郎「だが、待ってるだけってのも退屈だな…」

 

 そう言って、清十郎は外へ出た。

 

 

 

時女の集落

 

 一同は集まっていた。

 

翼「お前達、この戦は天下分け目の戦だ!」

 

ちはる「きっと、この刀に想いを詰めた人もユラユラサマとして彷徨っている」

 

静香「返してあげよう、かつて持っていた明るい気持ちを」

 

ちはる「何百年の時の果てに!」

 

 一同が神社の近くで待っていると、ユラユラサマの気配が大きくなってきた。

 

ちはる「ユラユラサマがかなり近づいてきてる…」

 

すなお「いえ、まだ距離は遠いです…」

 

ちはる「集落を見つけて興奮してるのかな?」

 

静香「何百年も彷徨い続けて、ようやく見つけた故郷よ…」

 

調「もう、巫の時の人格は失われてただの悪鬼になってるけど…」

 

静香「それでも、ようやく見つけた居場所なら、喜びでいっぱいでしょうね」

 

翼「だが、喜んで帰りたいと思っても、今となっては人に仇為す悪鬼でしかない」

 

すなお「居場所として時女の集落を渡してあげるわけにはいきませんね」

 

静香「だからこそ、私達の手で解放してあげるんでしょう?」

 

ちはる「うん、そうだよ!本当の行き先は極楽浄土だからね」

 

翼「時女の問題に関わった縁だ、私達も共に打ち倒すぞ!」

 

 そのまま一同は結界に入った。

 

 

 

結界

 

 結界に入ると、子分達が立ちはだかっていた。

 

調「普通の悪鬼と同じように子分が邪魔してくる…!」

 

ちはる「一番槍じゃなくて、一番十手はいただいたー!」

 

 真っ先に子分の群れに切りこんだのはちはるであった。残る翼達もちはるに続いた。完全聖遺物の天羽々斬の威力は扱う翼自身も驚いていた。

 

翼「(これが、天羽々斬本来の力…。やはり、シンフォギアに使われている破片とは比べ物にならないほどの力がある……)このまま親分のところに行かせてもらうぞ!」

 

調「この勢いで一気に奥へ!」

 

 翼達も子分の群れをなぎ倒していき、どんどん奥へと進んでいった。

 

ちはる「ふぅ…ふぅ…。ねえ、静香ちゃん」

 

静香「何?ちゃる」

 

ちはる「ユラユラサマを解放したらさ、その後はどうしようか!」

 

すなお「気が早い話ですね」

 

静香「まだわからないけど、まずは集落を立て直して今までの事を説明しないといけないわ。きっとみんな驚いて、昨日みたいに大変だと思うのよ」

 

ちはる「そうじゃなくてー!」

 

静香「えっ!?」

 

ちはる「巫として私達はどうしていこうかって!」

 

静香「それは、どうかな…?倒してみてからじゃないとわからないわね」

 

翼「3人とも、今はユラユラサマを倒すのが先だ!今後の事はユラユラサマを倒してから話し合えばいい」

 

静香「あ、そうだった!」

 

調「最深部に入るよ!」

 

ちはる「うん!」

 

 翼達が最深部に入ると、そこにはリュックサックに風見鶏のような物が刺さり、人間の顔と手と足が二対ずつある悪鬼がいた。

 

 流浪の悪鬼。その性質は望郷。自分の故郷を求めて探し回り、思い出を詰めて帰ろうとしている魔女。家に誰かがいる様子は何も気にならないが、家に入る瞬間の人を見かけると、一気に悲しさが溢れ出てきて対象を連れ去ってしまうことがある。

 

翼「あの悪鬼がユラユラサマと呼ばれている悪鬼なのか…!」

 

ちはる「悪鬼の力に押される…」

 

静香「存在そのものに…、気圧されてるみたい…」

 

 悪鬼の力に気圧されたのか、すなおはふらついて調に支えられた。

 

調「すなお!」

 

すなお「ごめんなさい、すごい力で急に気分が…」

 

ちはる「ほんと、頭が…グルグルしてきた…」

 

調「ちはるまで!」

 

静香「子分はしょせんハッタリ…?立つのがやっと、なんて…」

 

翼「3人とも気をしっかり持て!気持ちが押されていては、勝たねばならない戦に負けてしまうのだぞ!」

 

 静香たちと違ってこれまでの戦いの経験もあり、悪鬼の力に気圧されない翼と調であり、翼は3人を奮い立たせようとしたが、悪鬼の力で静香は苦しむ事になった。

 

『悪鬼になれば誰かを殺してしまう。日ノ本を救う存在になんてなれなかった。みんなに伝えたいけど、もう何もできない』

 

静香「はっ…。何よ、この声は…!」

 

『この身は巫といえど悪鬼であれば死したも同然。明日は1人を護れども、明後日は百人を殺す事になりかねない』

 

静香「(悪鬼…?)」

 

 静香は聞こえてきた声は悪鬼のものではないかと思った。

 

静香「見ないで…」

 

『汚れた穢れは不浄なり』

 

静香「やめて…言わないで…!」

 

『わが身は所詮、値踏みの存在』

 

静香「(これは…!)」

 

『一銀二銀一両二両と値札を掲げた店の物』

 

静香「(私の中から…)」

 

『我は己の命に非ず。飼われ売られ悪鬼となりて憎き此岸を穢すのみ』

 

静香「そう…そうよ…。この先の事なんてわからない。だって私達は将来、必ず悪鬼になる存在なんだから…。日ノ本のためになんてならない。だから殺す仕掛けがあった。命に値段を」

 

???「そっから先は言うんじゃねえ!!」

 

 悪鬼の攻撃が迫った途端、誰かが防いだのと同時に喝を入れるような声がしたために静香が我に返ると、目の前に悪鬼の攻撃を防いでいる清十郎がいた。

 

静香「せ、清十郎さん!?」

 

翼「まさか、後をついてきてたとは…!」

 

清十郎「もう一度そんな事を言ってみろ!値段とか、しきたりとか、クソババアの行い肯定する事自体、俺が許さん!」

 

静香「だ、だけど…」

 

調「これから先はどうなるかわからないからこそ、未来を求めて私達は足掻く」

 

翼「私もこれからどうなるのかは不安もある。だが、どうなるかわからない明日へ、夢へ向けて羽ばたかねば、望む未来を掴めはしない!」

 

静香「翼さん…」

 

すなお「そうよ!清十郎さんが言った通り、命に差なんてものはない!そんな静香が誇りを捨てずに全力であればいいじゃない!将来悪鬼になったとしても、それまで全力で日ノ本のために頑張ればいいじゃない!その間に私達の新しい道が見つかるかも知れないじゃないですか!一緒に見つけよう、静香!あなた達が私を許してくれた分、私があなたの心を癒やし続けます…!」

 

静香「すなお…」

 

清十郎「おっと、時女一族最強の人間である俺も忘れてもらっては困るぜ。俺は男だが、お前達の師匠でもあるのだからな」

 

 悪鬼は清十郎の力負けしていた。そんな中、翼は完全聖遺物の天羽々斬で放つ蒼ノ一閃で悪鬼を吹っ飛ばした。

 

ちはる「凄い!これが天羽々斬の力!?」

 

翼「ああ。私も我ながら、驚いている」

 

ちはる「ねえ、聞いて…。まだ時女の本の話、してなかったでしょう…?」

 

調「そうだった」

 

ちはる「神子柴が来るまでっていうのはね…、時女の人は自分達で国の事を考えて、自分の意思で叶える願いを決めてきたんだよ。戦争がひどくなって誰も信じられなくなって、巫がいなくなった時に神子柴に支配されちゃったみたいだけど、それまでは成人した人達はみんな、ちゃんと外に旅立っていたみたい」

 

翼「(そうか、広江が巫になる際に水害や飢饉を鎮めるという願いが多いとキュゥべえが言っていたのは、その時期があったからだったのか…!)」

 

ちはる「そして自分達と悪鬼の関係も知ってた。でも、時女の人はこう考えたんだって。『日ノ本の魂を献げたなら矜持は守れる。例え悪鬼になったとしても、為し得た事は潰えない』」

 

静香「それって…」

 

 それは、裳着の儀式の際に静香が言った事であった。

 

静香「私が神子柴に言った事…」

 

ちはる「だから、私思うんだ。静香ちゃんの中に神子柴はない、ずっと時女が生きてたんだって。だから、すなおちゃんの言う通り、一緒に見つけよう!」

 

すなお「静香…」

 

静香「ごめんなさい…。悪鬼の力にやられていたのは、私の方だったわね…」

 

清十郎「それじゃ、仕切り直しといったところだな」

 

静香「はい!」

 

翼「いざ、推して参る!」

 

 静香たちの成長のために清十郎は戦わず、静香達を見守っていた。

 

静香「すなおやちゃる、翼さんに調に清十郎さん達に出会えてよかった…」

 

翼「私も、風鳴以外の由緒正しき日ノ本を守る一族に出会えたのは何よりも喜ばしい事だ」

 

清十郎「俺もだ。お前達に出会えなければ、このまま老害共が支配する未来に絶望して希望を見出せなかっただろうな。さぁ、4人と共にユラユラサマをぶっ飛ばして未来への道を切り開け!」

 

静香「はい!だから…、一緒にご先祖様達が解放されるところを見届けて!そして、時女の刀と清十郎さんが授けた裏奥義よ…、私達に未来を!!」

 

 ワルプルギスの夜ほどではないにしろ、流浪の悪鬼はかなりの力を持つ悪鬼であったためにイキガミの悪鬼以上に苦戦した。しかし、3百年近くも魔力を込め続けた時女の刀と完全聖遺物たる天羽々斬が装者と巫の手元にあるため、一方的に押されているわけでもなかった。

 

静香「何百年も力を蓄えただけあって、とても強いわね…!」

 

翼「だが、私達には単なる力以外に絆という力がある!」

 

調「それは、幾多の困難を乗り越えてきたから強い!」

 

 すなおの攻撃で悪鬼は怯んだ。

 

すなお「ちゃる、調!」

 

ちはる「うん!」

 

 ちはるの十手の縄と調のヨーヨーで悪鬼は拘束された。

 

調「動きは封じた!」

 

翼「一気に決めるぞ、時女!」

 

静香「はい!時女一心流最終奥義、龍閃天翔!!」

 

 翼と静香の龍閃天翔を悪鬼はまともに受けた。しかも、翼は完全聖遺物の天羽々斬を、静香は300年近くも魔力を込め続けられた刀で放ったために威力はイキガミの悪鬼の時とは比べ物にならず、流浪の悪鬼を微塵切りにするほどの威力に膨れ上がっていた。龍閃天翔をまともに受けた流浪の悪鬼は消滅したのであった。




これで今回の話は終わりです。
今回は神子柴の悪事がどういったものか判明したのと、ユラユラサマとの決着で時女に巣食う闇が払しょくされるのを描きました。
次の話は静香たちが時女一族の集団を作る際にその道中の見滝原に寄って翼と調は元の世界へ帰る事になりますが、その際にある魔法少女の集団と小競り合いになってしまいます。その集団はマギアレコードの二部を見ればどの集団なのかは予想がつくはずです。
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