セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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165話 神浜市へ

時女の集落

 

 ユラユラサマを解放してしばらく、集落の中ではあわただしく時間が過ぎていった。時女と神子柴の歴史について、集落の人々に伝え、神子柴の家を捜索してこれまでの背景を調べる必要があったためでもあった。

 

ちはる「すなおちゃんのお家は大丈夫?」

 

すなお「うん、私の方は全然平気で、護衛の人もいてくれて助かりました。パパとママには前以上に謝られちゃいました」

 

翼「本当によかったな…」

 

静香「これで神子柴の呪縛も解けて、晴れて自由の身ね」

 

すなお「はい」

 

ちはる「でも、これからも一緒にいてくれるんだよね?」

 

すなお「当然じゃないですか」

 

調「でも、私と翼さんは明日には帰らないといけない」

 

静香「帰る…?」

 

翼「今まで話していなかった事を話す。私と月読、そして土岐の両親の護衛を務めた星矢と紫龍は…並行世界から来た人間だ」

 

 並行世界という、聞きなれない言葉を聞き、静香たちは衝撃を受けた。

 

静香「へ、並行世界!?何なの!?」

 

ちはる「私に聞かれても…」

 

調「簡単に言えば、そっくりだけどどこか違う世界。そこから、私達はやってきた」

 

すなお「そっくりだけど、どこか違う世界…」

 

静香「とすると、翼さんは…」

 

翼「この世界では私は生まれていない。素性を隠すために養子だと言ったが、本当は風鳴本家の血を引いて生まれた」

 

静香「翼さんが養子どころか、風鳴本家の人間だなんて…。時女本家の巫の私と巡り会ったのも、何かの縁かしら…?」

 

翼「さあな。だが、生まれた世界は違っても、お前も私も日ノ本のために戦っている事に変わりはない」

 

静香「そうですね」

 

 一方、大人達は…。

 

静香の母「あー、疲れた疲れた…」

 

ちはるの母「でも、これで一段落って感じですね」

 

静香の母「ほんと、誰も彼も現代社会に疎すぎて、広江さんや七井議員達がいなかったらなーんにもわからなかったわ」

 

覇万「だが、私にとっては老害共と無駄な時間を過ごすよりは有意義な時間だったぞ」

 

 ちょうどちはる達のところへ来た。

 

ちはる「お帰り、お母さん」

 

静香「お疲れ様」

 

静香の母「今回の神子柴の一件だけど、ようやく線で繋がったわ」

 

翼「何がわかったのですか?」

 

覇万「私が説明しよう。今回の事件の根っこには集落のしきたりがあったのだが、引き金になったのは神子柴が抱える負債だったらしい。巨額の投資に失敗してから資金繰りに困ってたようで、巫を急いで利用してたみたいだ」

 

清十郎「借金返済のために人の子を利用するとは、最後までロクでもないババアだ。ま、死んで当然だがな」

 

ちはる「清十郎さん…」

 

ちはるの母「娘の前で言いたくないけれど、末代まで恨むってこんな気持ちよ。現に家族を殺された清十郎さんはきっと、こんな気持ちで神子柴を殺したのでしょうね…」

 

静香の母「それで言うと、広江さんところが今は末代じゃないの?」

 

ちはるの母「揚げ足をとらないの」

 

すなお「じゃあ、わざわざ外の私やちゃるにまで手を出したのは…」

 

ちはるの母「すなおちゃんが巫だったのは、神子柴にとって想定外だったはず。だからうちにお鉢が回ってきて、清十郎さんが力をつけて集落に帰ってきたのもそれに連なり、想定外の連鎖に繋がったのよ」

 

すなお「じゃあ、私が巫になってなければちゃるは何も背負わずに」

 

ちはる「そーいうのなし!もう、3人でって決めたからウジウジしないで!」

 

すなお「う、うん、わかった…」

 

調「何だか、集落の人達はずっと落ち着かないみたいだけど…」

 

覇万「結局はこの集落も巫の恩恵に与っていたわけだ。自分達の農作物だけ作り、楽をして生きてきたのだからな」

 

静香の母「つまり大人達は資金源を喪って、これからが不安で仕方ないのよ。当然、私もだけど…」

 

静香「あっけらかんと言わないでほしい…」

 

静香の母「神子柴が焦ったのも、集落を維持する資金があるからそう考えられなくもないわね」

 

静香「…私達も巫のこれからについて色々と悩むように…、集落のみんなもこれからいろいろと悩むのね」

 

静香の母「そうね」

 

覇万「だが、当面の間の資金は何とかなる」

 

 その言葉と同時に秘書はキャッシュケースをいくつか用意していた。

 

秘書「これは神子柴との取引に関わった老害議員や官僚から根こそぎ奪い取った資金です。集落の維持費としてお使いください」

 

静香の母「こんな大金を!?」

 

覇万「命の売買をした愚か者への制裁として財産を根こそぎ奪い取り、時女の集落に渡そうと思っていた。新しい商売等などを考案するまでのつなぎにはなるだろう」

 

静香の母「七井議員、わざわざありがとうございます…」

 

覇万「礼には及ばん。私は翌日には国会議員の仕事へ戻らねばならないが、例のCDを証拠に神子柴の取引に関わった人間全てに制裁を下し、賠償金を請求する予定だ。他にも何かあれば時女一族の力になりたい」

 

ちはるの母「わざわざありがとうございます…」

 

静香「あとは何も出てこなかったの?」

 

清十郎「そうだな…、面白そうなものでいえば、時女の家系図ぐらいだろうな。俺の家にもあったが、時女一族は各地に血脈を広げていたみたいで、他の山奥とか海辺とか、いろんな地域に一族の血を引く奴等がいるようだ」

 

静香「へぇー」

 

翼「私達は明日には帰るが、肝心のお前達はどうする?」

 

ちはる「私達の気持ちははっきりとしてるよ。何を胸に戦って、何を目指して生きて行くのかも!」

 

清十郎「ん?随分と頼もしいじゃねえか。じゃあ、その第一歩は?」

 

ちはる「まずは、久兵衛様に話を聞いてくるよ!」

 

静香の母「久兵衛様に?」

 

 キュゥべえの事には翼と調は眉を動かすほど反応した。

 

すなお「はい、私達が悪鬼になるのを避ける方法をご存知かも知れませんので」

 

静香「それ次第でこれからの身の振り方を考えるつもりよ」

 

調「少なくとも、これからも3人は一緒なんだね?」

 

ちはる「うん!巫としての運命を変えなくちゃいけないから!」

 

清十郎「そうか。それなら、俺はお前達の師匠兼外に出る際の保護者になろう」

 

静香「保護者に…?」

 

清十郎「技は確かに伝授したが、実力はまだまだだからな。色んな悪鬼と戦うためにもっと力をつけるべく、俺が正式な師匠になろう」

 

静香「清十郎さん…。よろしくお願いします!」

 

 そしてその晩…。

 

すなお「舞人の人達がいなくても呼び出せるんですか?」

 

清十郎「ああ。現に俺とせいらが呼んだ時はちゃんと出てきてくれたぞ」

 

ちはる「じゃあ、大きな声で呼んでみよう!」

 

静香「いいわよ」

 

静香達「きゅーーーべーーーさまーーーー!」

 

 しかし、返事はなかった。

 

静香「…やっぱり、無理…?」

 

???「やぁ、僕を呼んだのは君達だね?」

 

 遅れてキュゥべえが来た。

 

ちはる「来ちゃった!」

 

調「舞の意味は何だったのかな…?」

 

すなお「荘厳な感じにするための演出かも知れませんね…」

 

キュゥべえ「用がないのに呼んだのかい?」

 

静香「あー、違います!聞きたい事があるんです!」

 

キュゥべえ「僕に答えられる事なら、何でも答えてあげるよ。それで、静香は僕に何を聞きたいんだい?」

 

静香「えっと…、私達は悪鬼になるって聞いたんです。それでなんですけど、逃れる方法って知りませんか?私達がずっと巫としていられる方法です」

 

翼「(逃れる方法、か…。残念だが、逃れる方法は…)」

 

静香「日ノ本のために戦う存在なのに、みんなを苦しめたくないんです!」

 

キュゥべえ「君達には悪いけれど、僕は期待に添う事ができない」

 

ちはる「知らないの…?」

 

キュゥべえ「少なくとも僕は回避する方法は知らないし、これまで成功してきた事例もあまり見た事がないんだ」

 

清十郎「(成功した事例…?もしかすると、あそこの……)」

 

 キュゥべえの言う『成功してきた事例』に清十郎は心当たりがあった。

 

ちはる「今、あまりって言ったよね!?じゃあ、久兵衛様が知らないだけで、方法があるって事だよね!?」

 

すなお「でも、久兵衛様にはわからないんですよね…?」

 

キュゥべえ「そうだね。僕の口から伝えるのは難しい。でも、君達がその様子を見て手に入れる事はできるよ」

 

すなお「手に入れる…?」

 

キュゥべえ「君達は神浜市という場所を知らないかい?」

 

ちはる「知らない…」

 

静香「私も…」

 

すなお「こういう時は…」

 

清十郎「俺に聞くのか。安心しろ、俺は神浜に行った事も何度かある」

 

キュゥべえ「その神浜市には、自動浄化システムがあるんだ。だから、君達がそれを手に入れる事ができれば、悪鬼になるのは回避できると思う」

 

翼「(自動浄化システム…?そういえば、神浜とかいう街には小さいキュゥべえが出没していると聞いた。それと、何か関係でも…?)」

 

キュゥべえ「当然、確信があるとまでは言えないけどね」

 

静香「それだけでも構わない…!一気に希望が溢れてきた…!行こう、みんなで!神浜市に!」

 

清十郎「だな。俺は何度も神浜に行った事があるから、案内は俺に任せろ」

 

ちはる「私とすなおちゃんは静香ちゃんに現代社会を色々説明する!」

 

すなお「ええ。他にも、ICカードの扱いや大都会に慣れておく必要もあります」

 

キュゥべえ「神浜に行く気なら、いくつか説明しておくよ。まず、神浜市には君達と同じような少女が何十人といる事を覚えておいた方がいい。それに、色々な呼称が違うという事もね」

 

ちはる「呼称…?」

 

清十郎「外ではお前達のような少女は巫とは呼ばれず、魔法少女って呼ばれてるのさ」

 

 その事実は特に静香が衝撃を受けた。

 

静香「ま、魔法少女…?」

 

翼「ああ。外の世界ではそう呼ばれている」

 

清十郎「他にも悪鬼やその子分に宝石、悪鬼の魂魄の呼び方も違うから、そこんところは明日、説明する。明日は早朝に出発するからすぐに寝るぞ」

 

ちはる「あの、私達も翼さん達の見送りに行っていいですか?」

 

清十郎「そうだな、ちょうど見滝原へ今後のお前達の活動に必要な品を取りに行く予定だから、一緒に行くか!」

 

 

 

 

 

見滝原

 

 早朝に一行は出発し、午前中に見滝原に到着した。

 

星矢「翼、調、長い時女の集落での戦いが終わったな…」

 

調「はい。神子柴は許せなかったけど、舞を教わったりして貴重な経験ができた」

 

翼「私も七井さんから時女の最終奥義を教わったりして、元の世界ではできなかった経験を積めた。時女、天羽々斬はこれからはお前が使うといい」

 

静香「私が…ですか?」

 

翼「本音は持って帰りたいのだが、そういうわけにもいかない。だからこそ、この世界の住人の時女が使ってほしい」

 

静香「わかりました。翼さん、元の世界でも元気でいてください」

 

翼「ああ、立花達にも時女の集落での経験を色々と」

 

 ところが、元の世界へ帰るムードを吹っ飛ばすかのように爆発音がした。

 

調「何!?」

 

すなお「これは、魔法少女の反応です!」

 

弦十郎「何だとォ!?」

 

 一同が車から降りて現場へ向かうと、柄の悪い魔法少女の集団同士での争いがあり、まどか達もそれに巻き込まれていた。

 

さやか「あんた達、ここがどこなのかわかった上で暴れるつもりなの!?」

 

まどか「何で私達の街で大暴れするの!?こんな所で暴れたら、街の人達も巻き込まれて怪我するよ!」

 

樹里「はん、この大庭樹里様に向かって口答えするとは、いい度胸だな!」

 

まどか「街中で魔法少女同士が戦うなんて、こんなの絶対おかしいよ!」

 

樹里「おかしい?殺し合いに否定的なお前らがおかしいだろ!そもそも、二木では魔女が枯渇したから、他の街で魔女を狩ろうと思ったけど……まさか紅葉結奈達も来ていたとはな…!」

 

結奈「あらぁ?他の街で魔女狩りだなんて、あなたにしては随分と考えたものねぇ」

 

樹里「当然だろ?それに、見滝原の魔法少女は魔女にならない特別な魔法少女だと噂で聞いてるし、ムカつく事ばっかり言ってムカつくしな!結奈をぶっ潰すついでにここの魔法少女も一緒にぶちのめしてやらぁ!」

 

 まどかの叫びに耳を傾ける事なく、樹里の集団と結奈の集団はまどか達も攻撃対象にして戦闘を開始した。

 

静香「日ノ本を支える魔法少女同士で争っているなんて…」

 

翼「こうなれば…」

 

 止めに向かおうとした翼達であったが、清十郎が制止をかけた。

 

清十郎「待て、ここは俺が行く」

 

調「清十郎さんが?」

 

清十郎「連中は集落に行く前に言った、二木の奴等だ。奴等は人殺しに躊躇はない上、静香たちをこんな争いに巻き込みたくない。ここは俺に任せろ」

 

 戦場へは清十郎が向かう事となった。

 

まどか「みんなやめてよ!こんな事したって」

 

杏子「おい、今はそんな事をしてる時じゃねえだろ!戦わなきゃ、死ぬぞ!」

 

まどか「でも…」

 

仁美「まどかさん、ここは戦うしかありません…!」

 

ほむら「ここで私達が死んだら、誰がこの街を守るというの?」

 

マミ「鹿目さんの言いたい事もわかるけど、あの魔法少女の集団は佐倉さんと違って全く話が通じないわ。ここは戦うしかないわよ…!」

 

 まどか程ではないにしろ、マミ達も魔法少女相手ではできれば戦いたくはないのは一緒であった。しかし、二木の魔法少女達は最初から殺す気満々で襲っているため、力では勝っていても気持ち的に押され気味であった。

 

まどか「マミさん…。この子達、普通じゃない…!」

 

マミ「私もこんなに人殺しに躊躇いがない魔法少女と遭遇したのは初めてよ…!」

 

魔法少女A「あたしらのとこじゃ、殺すのは朝飯前さ!」

 

魔法少女B「力はある癖にいい子ぶっているのが気に食わねえんだよ!ぶっ殺してやる!」

 

???「お前ら、無駄な人殺しをして何になる?」

 

 戦いの場へ割って入ったのは、清十郎であった。

 

さやか「す、すごいマッチョなイケメン…?」

 

清十郎「この場は俺が引き受ける。お前達は下がってろ」

 

杏子「あ、ああ…」

 

 翼達と共にまどか達は下がる事にした。

 

まどか「翼さんに調ちゃん!来てたんですか!?」

 

翼「用があってな」

 

マミ「あの人、大丈夫かしら…?」

 

ちはる「大丈夫だよ!」

 

すなお「清十郎さんは私達の師匠なので、とっても強いんですよ」

 

ほむら「あなた達の…師匠……?」

 

杏子「あいつが魔法少女のあんたらの師匠だって!?オッサン並に強いのか!?」

 

 まどか達は静香たちが魔法少女だという事に気付いた上、清十郎が師匠である事に驚いた。

 

魔法少女A「はぁ?普通の人間が魔法少女の戦いに介入しようってのか!?」

 

魔法少女B「普通の人間が魔法少女に勝てるわけねぇだろ!?第一、マッチョは引き立てのための噛ませでしかねえんだよ!」

 

清十郎「ふっ、人を見た目だけで判断するのは間違いだぜ」

 

魔法少女A「生意気な口を叩きやがって!!」

 

 清十郎の余裕ある態度に怒った魔法少女の1人は曲刃のダガーを向け、清十郎に襲い掛かろうとした。しかし、その前に清十郎のパンチを受け、大きく吹っ飛ばされた。

 

魔法少女A「ぐはっ!」

 

魔法少女B「ふ…、普通の人間が魔法少女を……!?」

 

 清十郎に殴り飛ばされた魔法少女は殴られた箇所の骨が砕けている上にそのまま意識を失っており、清十郎が魔法少女をパンチ1発で倒した事は二木の魔法少女達に大きな衝撃を与えた。

 

魔法少女C「こ、これは夢だ…。普通の人間が魔法少女を倒せるはずがない!!」

 

清十郎「夢なものか。これは現実なんだぜ?」

 

魔法少女B「生意気な口を叩きやがって、ぶっ殺してやる!!」

 

 底知れない恐怖に駆られた二木の魔法少女達は蛮勇で清十郎に挑んだ。しかし、清十郎は目にも止まらぬ圧倒的なスピードとパワーで守り刀を振るい、チェーンソーやダガーなどといった武器を破壊し、魔法少女達は峰打ちで倒したのであった。

 

魔法少女達「うわああああっ!!」

 

 峰打ちでやられた魔法少女達は車田飛びした後、車田落ちして気を失った。

 

樹里「な、何がどうなってんだよ!?刀を持ったマッチョ1人に魔法少女の集団が全滅させられた!?」

 

清十郎「あいつらは峰打ちによる骨折と意識不明で殺してはいない。こんなつまらん殺し合いはやめて、さっさと自分達の街に戻れ!」

 

樹里「つまらん殺し合いだと!?ふざけんじゃねえ!」

 

結奈「そういえばあなた、もしかすると私の先輩が言ってた『赤い台風』なのかしらぁ?」

 

清十郎「ほう、お前は俺を知っているようだな」

 

結奈「ええ。先輩はもう半年も前に魔女になったけど、数年前に二木に魔法少女がどんなに人数を揃えて襲っても軽く一蹴した男の存在を聞かされたわぁ」

 

清十郎「お前ら、もうこんな無駄な争いをしても何の得にもならん。とっとと帰れ!」

 

樹里「この野郎!無駄な争いだと勝手に決めつけやがって!結奈共々ぶっ潰してやる!」

 

結奈「それはこっちのセリフよぉ!」

 

 清十郎を巻き添えにする形で結奈と樹里はぶつかろうとした。ところが、清十郎の圧倒的なスピードとパワーの差で樹里と結奈は共に瞬殺され、車田落ちした。

 

樹里「うわあああっ!!」

 

結奈「あああああっ!!」

 

清十郎「これでわかっただろ?俺には勝てない事が」

 

樹里「てめえ…、どうやって…この力を……?」

 

清十郎「決まってるだろ?鍛えに鍛え続けてきた努力の賜物さ!」

 

結奈「努力…?」

 

樹里「努力でだと!?何かの間違いだろ!?」

 

清十郎「間違いなものか。鍛錬という名の努力の方が調整屋による調整などという方法よりも確実に強くなれるし、強くなれる実感が湧くぞ。もう殺し合いなんかやめて真っ当に生きろ。まだお前らはやり直しもきくし、終わった後の事を見据えていない復讐や殺し合いなんて、最後に残るのは空しさだけだ」

 

樹里「大人が偉そうに説教してんじゃねえ!」

 

???「はーい、ここで争いはストップよぉ!」

 

 声をかけてその場の雰囲気を一変させたのは、了子であった。

 

翼「櫻井女史…?」

 

樹里「オバサンが何の用で来たんだ!?」

 

了子「お、おば……?お姉さんでしょ…?」

 

 オバサン呼ばわりは了子もショックを受けていた。そして、了子は結奈と樹里から事情を聞いていた。

 

了子「なるほど、あなた達の街の魔女がほとんどいなくなっちゃったから、この街に来て戦闘になったのね」

 

結奈「ええ」

 

了子「魔女不足で争いが起こったのなら、私の発明したソウルジェム浄化装置を持っていきなさいな」

 

 ソウルジェム浄化装置という言葉に結奈と樹里は反応した。

 

結奈「ソウルジェム…」

 

樹里「浄化装置だって!?」

 

了子「そうよ。見滝原での一件が終わった後、私は魔法少女のためにソウルジェムを浄化する装置を開発しててね、ちょうど完成品ができたのよ」

 

樹里「本当だろうな?」

 

了子「本当よ。百聞は一見に如かずっていうのから、騙されたと思ってこの装置を使ってみなさい」

 

 半信半疑ながらも、樹里と結奈はソウルジェム浄化装置を使ってみた。すると、了子が言った通りにソウルジェムが浄化された。

 

樹里「オバサンの言った通りだ…」

 

結奈「本当に浄化されたわね…」

 

了子「この装置は家庭用のコンセントの電力で起動できるわ。3つあなた達にあげるから、みんなで仲良く使って無駄な争いはやめなさいよ」

 

結奈「ありがとう…」

 

樹里「グリーフシードは手に入らなかったが、思わぬ収穫だ…」

 

了子「連絡先も教えるわ。装置が壊れたりしたら、すぐに私に連絡するのよ」

 

清十郎「もしも殺し合いをまたやったりしたら…、今度は一生寝たきりになるのを覚悟しておけ…」

 

 思わぬ収穫を手に入れた結奈と樹里は清十郎の殺気に恐怖し、それぞれの集団を率いて、二木市へ帰っていった。そこへ、翼達が来た。

 

弦十郎「さっきは凄かったぞ、了子」

 

了子「ええ。どの道、色々な街に浄化装置を配る予定だったけど、魔女不足でこの街に来たのは想定外だったわ」

 

清十郎「早速だが、ソウルジェム浄化装置はあるか?今後の活動で必要なんだ」

 

了子「あるわ」

 

 了子はソウルジェム浄化装置を渡した。

 

調「ソウルジェム浄化装置を発明するなんて…」

 

了子「未来ちゃんがさやかちゃんのソウルジェムを浄化した際のデータのお陰でこれを発明できたの。この装置があれば、よっぽどの事がない限り魔女にはならないわよぉん」

 

弦十郎「状況が落ち着いたところで、翼達を見送るとしよう」

 

 

 

 翼達はゲートがある場所に来た。

 

さやか「来たのならあたし達にも連絡をくれればよかったのに…」

 

まどか「仕方ないよ。だって、用事があって翼さんと調ちゃんは来たから…」

 

翼「私達は帰るぞ。いつになるのかはわからないが、またお前達と戦える日が来るといいな、時女」

 

静香「はい。翼さん、また風鳴と時女が一緒に戦える日が来るのを待っています!」

 

 翼達は元の世界に帰った。そして、静香達もソウルジェム浄化装置を受け取って帰ったのであった。

 

まどか「あの魔法少女の子達、とてもいい人達だったね」

 

さやか「うんうん。やっぱり魔法少女にも前の杏子をさらに極悪人にしたような二木のような奴もいれば、あの子達みたいないい人もいるんだね!」

 

杏子「は?あたしを引き合いに出すんじゃねえ!」

 

 些細な事でさやかと杏子は言い合いになってしまった。

 

マミ「弦十郎先生、今回襲撃してきた二木市の魔法少女は魔女が枯渇したから、見滝原を襲ってきたみたいです」

 

弦十郎「魔女の枯渇か…。見滝原でも魔女の出現が少なくなってるな」

 

ほむら「インキュベーターがこの街を去って以来、魔女は減少傾向にあるわ」

 

仁美「初めは私達の活躍で減ったのかと思っていたのですが、他の街でも魔女が減っているとなれば、何かあるようですね」

 

マミ「その事なんだけど、どうやら神浜市では魔女が急増しているようなのよ」

 

了子「神浜で…。もしかすると、何らかの原因で神浜市の周りの街の魔女が集められている可能性があるわ」

 

ほむら「私達はソウルジェムを作り替えられた事によって魔女になる運命から逸脱したから、魔女が減っても大した問題にならないけど、他の街では魔女の枯渇で深刻な状況になっているはずよ」

 

弦十郎「これは恐ろしい事になるのかも知れない…」

 

 戦いの一部始終をキャンピングカーで移動している女3人組は見ていた。

 

女A「リヴィア先生、あの清十郎という男は何者でしょうか…?」

 

リヴィア「私には何にもわからんで。確かなのは、魔法少女よりも圧倒的に強い事だけや。男やから調整とかでは強くなれへんし、どないしてあんなに強くなったんやろうな…?」

 

女B「ふごふご」

 

女A「先生、あの男に勝てる魔法少女はいるのでしょうか…?」

 

リヴィア「多分、おらんやろうな。どんなに調整しても、あのマッチョみたいな強さにはできへん。おっとたとしたら、神様ぐらいなもんやろ」

 

 

 

時女の集落

 

 そして、清十郎達は集落に戻ってきた。

 

すなお「巫」

 

静香「魔法少女!」

 

すなお「悪鬼」

 

静香「魔女!」

 

すなお「悪鬼の魂魄」

 

ちはる「んーっ、グリーフシード!」

 

すなお「宝石」

 

静香「ソウルジャム!」

 

清十郎「おいおい…」

 

ちはる「でも、いい感じに覚えてきたね」

 

静香「私はちょっと古い方に親しみがありすぎて、切り替えがなかなか難しいわ…」

 

清十郎「わかるわかる。俺だって当初は切り替えが難しかったし、今でも古い方の言い方に親しみがあるぐらいだからな」

 

静香「そういえば、ちゃるはもう集落でにおいは感じなくなった?」

 

ちはる「うん、もう全然だよっ。呼吸が楽になるぐらいに」

 

すなお「え、それって本当ににおいだったんですか?」

 

ちはる「実際は違うよ。何だか勘が働いてるって感じ?」

 

清十郎「魔女とは関係ないところでも反応するし、本当に事件に特化した力だろうな」

 

ちはる「うん、そういう時の悪意を感じ取るのかも知れない」

 

すなお「何だか、この先も役立ちそうな力ですね」

 

ちはる「そうなるように頑張るよ!」

 

静香「心強いわ」

 

ちはる「でも、何だか不思議だね。私と静香ちゃんとすなおちゃん、出会ってまだ短いのに、3人揃って旅立つ事になるなんてね。おまけに、清十郎さんという私達の師匠もいる事だし」

 

すなお「振り返ると、全く想像できなかったですね」

 

ちはる「ドキドキワクワクだよね!?」

 

静香「ちゃるは魔法少女になってから日が浅いけれど、私にとってはすっごく急激な変化なのよ?」

 

すなお「静香は戸惑いの方が大きいですよね」

 

静香「いや、実はそんなに…」

 

すなお「そうなんですか?」

 

静香「自分でもよくわからないけどね、ようやく始まった気がするの。私の人生が」

 

清十郎「ははははっ、色んな経験はしておくもんだぞ。楽しい事だけでなく、挫折や失敗も自分を強くする上で大切な経験になるのだからな」

 

 神子柴のエゴで家族を殺されるという不幸から立ち上がり、今の強さを得た清十郎の言葉は重みがあった。

 

ちはる「いつか手に入れようね、魔女にならない方法を!」

 

すなお「そして戦いましょう、死ぬまで日ノ本のために」

 

静香「それが私達、時女一族が抱き続ける矜持だからね」

 

ちはる「そのためにはまず…?」

 

静香「もう考えてあるわ」

 

清十郎「流石だな、静香。そのお前の考えている事は?」

 

静香「神子柴の家にあった家系図を見て、時女とそこから分かれた家に連絡をとるの。参加してくれる人を募って、時女一族の集団を作りましょう」

 

ちはる「おおおっ!」

 

清十郎「なるほどな。神浜にはマギウスとかいう怪しい魔法少女集団もいるし、静香の考えは理にかなっているぞ」

 

すなお「清十郎さん、時女一族の集団を鍛え上げるのをお願いしますね」

 

清十郎「任せとけ。って、何だか俺はお前達の親みたいになったな…」

 

ちはる「うんうん、清十郎さんはお父さんみたいな人だよ!」

 

静香「そして準備が整ったら、あの景色の向こうに行こう」

 

すなお「そうですね。連なる山々を超えた先にある」

 

静香達「神浜市へ!」

 

 準備が整ったら、神浜へ向かう決意を固めた3人を清十郎は微笑んで見つめていた。




これで今回の話は終わりです。
今回は静香達がキュゥべえから自動浄化システムがほしいなら神浜市へ行くように言われるのと、翼達が帰る際にまどか達の街に二木市の魔法少女達が現れ、抗争に巻き込まれるのを描きました。
今回現れた二木市の魔法少女はマギアレコードの二部に出てくるプロミスド・ブラッドのメンバーで、まだ時系列的に結成前で抗争を続けている状態です。一応、今小説では二部に繋がらない展開にするために清十郎に成敗され、了子発明のソウルジェム浄化装置をもらって退く事になりました。
また、同じくマギレコ二部に出てくる魔法少女グループのピュエラ・ケアも顔見せ程度で出しています。
次の話は久しぶりにブラックジャックが出てくる番外編である依頼で神浜市に向かう事になりますが、動物はおろか、幽霊やら宇宙人までも手術してきたブラックジャックらしく、他の医療漫画ではありえないある患者の手術をする事になります。そして、マギレコのあるメインキャラの家族にとんでもない事をします。

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