セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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171話 少女の咆哮は闇に呑まれて

市街地

 

 弓美達はヘリで急行していたが…。

 

大二「少し用事ができた。私はこの辺で降りるよ」

 

詩織「どうしましたか?」

 

大二「色々とやらなくちゃいけない事でね」

 

 近くで大二はヘリを降り、残りの面々は再び急行した。

 

大二「さて、行かねば…」

 

 そう言って、大二はどこかへ向かった。

 

 

 

 響達は本部へ急いでいた。

 

すなお「あの、私達はこの世界に来たばかりで知らない事が多いのですが、教えていただけませんか?」

 

翼「そうだな」

 

 翼はこれまでの事を教えた。

 

ちはる「なるほど、翼さん達はそのシンフォギアっていう鎧のデータを盗んだエンブリヲっていう仮面の男のせいでこの世界に来てしまって、メックヴァラヌスという鎧を纏った女の子たちと一緒にノイズという化け物と戦ってたんだね?」

 

翼「そうだ」

 

静香「翼さん、こんな形だけど私達を助けてくれた恩をここで返す事ができてうれしいわ!」

 

翼「だったら尚更の事、共に頑張らねばな!」

 

 ちょうど、パルティータがやってきた。

 

すなお「あの人は?」

 

響「あの人はパルティータさんで、すっごく強い上にお医者さんもやってるから、とっても頼りになるんだよ!パルティータさん、何かわかったんですか?」

 

パルティータ「ええ、通信が途中で途切れてしまったけど、司令代行から色々と聞かされたわ。それに、竜姫の子達が言っていた大蛇の正体が判明したの!」

 

クリス「そいつは何なんだ!?」

 

パルティータ「大蛇は」

 

 説明しようとした矢先、ヤマタノオロチが姿を現した。

 

清十郎「こいつ、頭が八つある上にとても大きいぞ!」

 

パルティータ「あの特徴、間違いなくヤマタノオロチ!あの子達を助けた先代竜姫を食い殺した張本人よ!」

 

クリス「何だって!?」

 

響「あの大蛇が!?」

 

翼「だが、竜姫達の話では引き裂かれたと言っていたが…」

 

パルティータ「少し気になって写真を見せてもらったところ、喰いちぎられたような痕跡がたくさん見つかって、先代竜姫は何者かに食い殺された思ったの!」

 

清十郎「そして、それを裏付ける犯人がヤマタノオロチというわけか…!」

 

パルティータ「この場は私に任せて、みんなは先に本部に行って!」

 

清十郎「ああ、この状況ではそうする他ないな!」

 

 ヤマタノオロチの事はパルティータに任せ、響達は本部へ急いだ。

 

パルティータ「さて、ヤマタノオロチを速攻で片づけないとね!」

 

ヤマタノオロチ「グオオオン!」

 

 先手を打ったのはヤマタノオロチで、ビームを乱射したものの、光速で動けるパルティータにはかすりさえしなかった。

 

パルティータ「甘いわよ!」

 

 反撃の光速拳の乱打を放ってヤマタノオロチの頭を全部潰すと共に胴体も吹っ飛ばし、パルティータはあっさりとヤマタノオロチを片付けた。

 

パルティータ「思ったよりも弱かったわね。さて、みんなと」

 

 ところが、パルティータにとって想定外の事が起こった。なんと、ヤマタノオロチはすぐに元通りに復活してしまったのであった。

 

パルティータ「復活した!?神の力は使われていないし、ヤマタノオロチにはそんな伝承はないはずなのに…?」

 

 力では圧倒的に上でも、神の力とは復活の原理が根本的に異なるヤマタノオロチの不死身ぶりに驚きを隠せないパルティータであった。

 

 

 

仰陽館女学院

 

 本部に向かった響達を待っていたのは、殺された黒服のエージェント達であった。

 

ちはる「ひどい…」

 

クリス「黒服の、エージェント達が……」

 

翼「ノイズの仕業ではない…。何か、鋭利な刃物によって斬られた痕跡から察するに…」

 

響「みんな、あそこにまだ…」

 

 まだ生きている黒服の元へ向かった。

 

黒服「…ううっ、ううぅ……」

 

すなお「大丈夫ですか?」

 

清十郎「(残念だが、この傷では…)」

 

黒服「…本部に、侵入者…、風鳴…」

 

翼「ああ、その情報のお陰でみんなを守る事ができる。ありがとう」

 

 情報を伝えた後、黒服は息途絶えた。

 

静香「この人…、今にも死にそうだったのに、誰かに伝えるために、ずっと我慢して……」

 

クリス「だけど、確かに受け取った。後は、あたしらの仕事だ」

 

静香「そもそも、あの人達を殺したのは風鳴って言ってたけど…」

 

ちはる「!!におう、強い悪意を持つ人がこっちにくるよ!」

 

 強い悪意を持つ者の接近に自分の能力でちはるは先に気付いた。その強い悪意を持つ者は、エンブリヲによって解放された訃堂であった。しかし、エンブリヲの度重なる拷問で体はボロボロになって心は擦り減りきってしまい、理性はほとんどなかった。

 

翼「お爺様、生きておられたのですか!?」

 

訃堂「ううっ……、いえきの手先え~~!おろいてある!!!!」

 

 エンブリヲの能力のせいでまともに言葉を喋る事もできず、死にも勝る屈辱とエンブリヲの拷問によって心に余裕は全くなく、最早、訃堂は全ての人間を『夷荻の手下』とみなし、目に入ったものを手あたり次第に殺すだけの鬼と化していた。響達を見た訃堂は愛刀である群蜘蛛を抜き、襲い掛かってきた。

 

響「うわっ!」

 

すなお「いきなり襲い掛かってきましたわ!」

 

翼「お爺様、あなたの殺した人達は」

 

訃堂「たまえ~~っ!!」

 

 話を聞こうともせず、訃堂は全てを敵とみなして襲い掛かるだけであった。

 

静香「全然話が通じないわ!」

 

ちはる「オババにも匹敵するぐらいのにおいだよ!」

 

清十郎「だったら、クソジジイは俺がぶちのめす!体力を温存するためにお前達は下がってろ」

 

 清十郎は訃堂に一騎打ちの勝負を挑む事にした。

 

清十郎「ジジイ、お前って奴はどの世界でも最低最悪で、人間と呼ぶのもおこがましい人の皮を被ったケダモノのようだな。未来ある子供達を守るため、ここで息の根を止めてやる!!」

 

訃堂「たあけ~~~、こおしてある!!!」

 

 清十郎の守り刀と訃堂の群蜘蛛はぶつかり合った。装者を超える強者同士の激突は装者や魔法少女の戦闘よりも激しく、その戦闘余波まで超えていた。

 

響「翼さんのお爺さんって、師匠ぐらい強いの!?」

 

翼「私はよくわからないが…」

 

静香「だけど、それでも私達の師匠の清十郎さんには遠く及ばないわ!」

 

クリス「何で断言できるんだ?」

 

ちはる「だって、私達の師匠の清十郎には今でも私達は全く歯が立たないんだよ。でも、訃堂なら私達が力を合わせれば勝てるっ!」

 

すなお「それに、清十郎さんは本気なんて出しておりません」

 

響「あれで本気じゃない!?」

 

翼「そうだ。あの上着にはとてつもない重量の重りや筋肉を鍛えるためのギプスがついていて、普段の力を抑えるとともに日頃からのトレーニングにもなっているんだ」

 

静香「元々は華奢な体格だったそうだけど、高校生ぐらいの時にその上着を着続けて、今の体格になったと聞いているわ」

 

クリス「ウソだろ!?」

 

 その事実はクリスと響には信じがたい事であった。清十郎と訃堂の戦いの方は一見すると互角に見えるものの、度重なる拷問と凄まじい屈辱に受けた事により、訃堂はまともに考える知性を失ってただただ力任せに刀を振るう事しかできず、重りをつけたままという手加減状態の清十郎には軽々と見切られていた。

 

訃堂「うあああっ、しねえええええっ!!!!」

 

清十郎「ふっ、どこ見て刀を振り回してやがる?俺はこっちだ、クソジジイ!」

 

訃堂「おおれ~~~っ!!!」

 

 清十郎の挑発にも簡単に引っかかり、完全に清十郎に翻弄されていた。

 

清十郎「まともな知性さえ失い、ただのパワーバカになってしまったようだな。これでは、名実ともに人間未満のケダモノだぜ」

 

訃堂「うおおおおおっ!!」

 

 斬りかかった訃堂だが、清十郎はそれより先に一太刀入れ、訃堂の左腕を斬り落とした。

 

訃堂「ぬああああああっ!!!」

 

清十郎「いつまでもジジイに付き合ってられんからな。ここで勝負を着ける!喰らえ、時女一心流裏奥義、九頭蛇閃!!」

 

訃堂「ぬおおおっ!!」

 

 清十郎の九頭蛇閃と訃堂の『風林火山何するものぞ』がぶつかり合ったが、九頭蛇閃が風林火山を破った。

 

訃堂「ぬああああああっ!!!」

 

 九頭蛇閃をまともに受けた訃堂は群蜘蛛をへし折られ、残る右腕と両足をも斬られ、深い斬り傷を複数受けた後、地に伏した。

 

ちはる「清十郎さんが勝った!」

 

清十郎「両腕両足を斬り落とした以上、止めを刺すだけだ」

 

訃堂「む、群蜘蛛がぁあああっ!!おおえ~~っ、おのれ~~~~~~っ!!!!!」 

 

 自分の命も同然の群蜘蛛を跡形もなくへし折られ、夷荻に対して地に伏した事で訃堂の怒りは最高潮に達した。それと同時に、訃堂の身体に異変が起こった。

 

訃堂「う、うああああああっ!!!」

 

響「これで終わりじゃないの!?」

 

クリス「先輩、何だかあのジジイの様子、バカの暴走と似てねえか?」

 

翼「確かに、似ているが……」

 

 訃堂は体が黒くなった後、清十郎に斬り落とされた両腕両足が再生し、身体のあちこちに目ができながら巨大化していった。

 

静香「ど、どんどん大きくなっていくわ!」

 

ちはる「特撮の怪物みたいにやられると巨大化なんて、どうなってるの!?」

 

 誰にも気付かれないほどの上空でエンブリヲは訃堂が異質な姿となり、巨大化するのを見ていた。

 

エンブリヲ「心が折れて訃堂と融合した聖遺物が暴走したか。まぁ、実験動物として片っ端から色々な聖遺物の欠片を注入するなりしていたのだが、このような現象を目の当たりにするとは」

 

 用があるのか、エンブリヲはその場を離れた。巨大化を終えた訃堂は黒い体とあちこちに目玉、そして股間から生えている長い管とそこにも目玉があちこちにあるという、感情移入が一切できない異様な姿に変貌した。

 

訃堂「ぬおおおっ!!!ご、ごれがるが ホンバナだっ!!!」

 

翼「あれが…、お爺様の変わり果てた姿…」

 

静香「見てるだけでとても気持ち悪い…」

 

クリス「すっげぇキモい姿だな!」

 

清十郎「まさに、歩く18禁を体現しているな。いるだけで大迷惑だ」

 

訃堂「うああああああっ!!!」

 

 早速、訃堂は口からビームを発射したものの、清十郎にはあっさりとかわされた。かわされた事に怒った訃堂は腕を刃物に変化させて振り下ろしたが、その威力は余波が発生するほどの尋常なものではなかった。

 

クリス「何て威力なんだ!?」

 

響「清十郎さん!」

 

すなお「心配はいらないわ。清十郎さんは無事よ!」

 

 心配していない静香達の言う通り、清十郎は訃堂の刃物の腕を刀で受け止めていた。

 

クリス「あんなバカデカイ刃物を刀一本で受け止めやがった…!」

 

静香「違うわ。清十郎さんの使う刀は守り刀という哲学兵装で結界を張る力を持って、結界を刀に被せて切れ味と強度を高めているの。そして、巫だった今は亡き妹さんの意思と力も込められているから、その結界の強度は尋常ではないわ」

 

響「哲学兵装!?」

 

クリス「つまり、結界を刀にコーティングしてあの一撃さえも受け止められるようにしたっていうのか!?」

 

ちはる「そうだよ!」

 

 訃堂の刃物の腕を弾いた後、清十郎は巨大化した訃堂では捉えられないスピードで動き、訃堂の右腕を切り落とした。

 

訃堂「うああああああっ!!!」

 

清十郎「巨大化した事で、理性や知性はおろか、剣術の心得さえもなくした力任せの完全な大バカになっちまったようだな。クソジジイはとんだ老害で救い様のない悪党だが、せめてもの俺の情けだ。化け物になって苦しんでいるのなら、楽にしてやる!」

 

 清十郎は重りである上着を脱いだ。

 

翼「重りを脱ぎ捨てた?」

 

静香「本気を出すつもりよ!」

 

 脱いだ後に抜刀術の構えをとった。対する訃堂は残った左腕で殴ろうと迫ってきた。

 

清十郎「これで引導を渡してやるぞ、クソジジイ!時女一心流最終奥義、龍閃天翔!!」

 

 訃堂よりも先に清十郎は最終奥義、龍閃天翔を叩き込んだ。

 

清十郎「………」

 

訃堂「…ぬわあああっ!!!!夷荻たるエンブリヲを殺して、護国を……!!」

 

 無言で清十郎が刀を鞘に収めた後、訃堂は微塵切りにされ、巨体の中から出てきた訃堂本体も原型を留めないほどの微塵切りになったのであった。

 

 

 

市街地

 

 移動していた弓美達は、訃堂が微塵切りにされる光景に衝撃を受けた。

 

創世「ユミ、今のって……」

 

弓美「…間違いない…、殺されたのはお爺ちゃんよ!」

 

 一方、パルティータの方はヤマタノオロチが倒しても倒してもすぐに元通りになって復活する事に手を焼いていた。

 

パルティータ「どうなっているの!?まさか、あの蛇の怪物と」

 

???「そんな小細工はしていないよ」

 

 声のした方には、エンブリヲが空に浮かんでいた。

 

パルティータ「エンブリヲ!」

 

エンブリヲ「アングィスマシリアスと違って、ヤマタノオロチがフォニックゲインを吸収するには直接その人間を食べないといけないんだ」

 

パルティータ「じゃあ、ヤマタノオロチの不死身のからくりは一体、何なの!?」

 

エンブリヲ「そんなものはないよ。だって、ヤマタノオロチは正真正銘、不死身の怪物なのさ」

 

パルティータ「正真正銘の…不死身…?」

 

エンブリヲ「向こうの方は訃堂を使った罠に引っかかるだろうし、そろそろヤマタノオロチも食事の時間だから、ここは退かせてもらうよ」

 

 エンブリヲはヤマタノオロチと共に消えた。

 

パルティータ「訃堂を使った罠…。ヤマタノオロチの食事……。まさか!?」

 

 

 

仰陽館女学院

 

 人でなしな上に人外の存在になり果てた挙句、清十郎に殺されたこの世界の訃堂の最期は翼にとっては複雑であった。

 

翼「お爺様……」

 

響「……こうするしか、なかったのかな……?」

 

すなお「元に戻せないので、清十郎さんも殺すという方法しかなかったのでしょう…」

 

清十郎「感傷に浸っている暇はないぞ。さっさと残りの敵を」

 

 ところが、そんな時に攻撃がきた。

 

???「行かせない!」

 

 立ちはだかったのは、竜姫達であった。

 

響「…板場、さん……?」

 

創世「疑いたくはないけれど、この状況は…」

 

詩織「信じたくはありませんが…」

 

弓美「怪しい連中とグルになっていた上に黒服のみんなに加え、今まで失踪していたお爺ちゃんを殺したなんて……許さない!!」

 

響「翼さんのお爺ちゃんはともかく、他のみんなは違うよ!だから、話を聞いて」

 

 今度は爆発が起こった。

 

ちはる「爆発!?」

 

クリス「立ち昇る火柱…火元は地下!?だとしたら、代行のオッサンが!?」

 

創世「仰陽館女学院の校舎が…、燃えていく……」

 

詩織「大切な時間を過ごした校舎が…、みんなとの想い出が」

 

弓美「みんな……。…もしも、校舎にみんなが残っていたなら……」

 

響「話をすれば」

 

弓美「話をする前にぶん殴る流儀なんだろ!シンフォギアってのはあああああっ!!」

 

 弓美達が襲い掛かったが、静香達が立ちはだかった。

 

すなお「翼さん達はあの人達との戦いに躊躇いがあると思うので、無関係な私達が引き受けます!」

 

弓美「邪魔をするな!」

 

静香「頭を冷やしなさい!大切な場所を荒らされて感情的になるのはわかるけど、この状況の時こそ、頭を冷やして話を聞き、情報を整理しなきゃいけないでしょ!?」

 

詩織「あなた方も立ちはだかるのですね!?」

 

すなお「その通りです!翼さん達は私達の大切な人達ですから!」

 

ちはる「だから、響ちゃんの話を聞いてよ!」

 

清十郎「それに、訃堂のクソジジイは悪党だ!お前らはそいつに騙されていたんだ!」

 

弓美「色々と楽しい話にも応じてくれて、大好きだったお爺ちゃんをクソジジイと言った上に殺した奴等の言葉が信じられるかぁあああっ!!」

 

 静香達が応戦して説得にあたったが、訃堂を目の前で殺されて頭に血が上っていた弓美達には届かなかった。

 

清十郎「(竜姫の3人はあのクソジジイに思想面で洗脳でもされたのか?厄介な事態になりやがった…!ん?)」

 

 ふと、清十郎はある事に気付いた。

 

清十郎「俺達はとんでもない罠に嵌められたかも知れん…」

 

翼「罠、ですか?」

 

清十郎「俺と静香達は来たばかりだから事情はよく知らんが、竜姫の3人に対してクソジジイは裏の顔を見せずにいい奴として振る舞っていたのかも知れない。黒幕はそれを利用し、クソジジイを俺達に殺させる事で俺達と竜姫の敵対を狙ったのだろう!」

 

クリス「何ッ!?それだったら、あたしらはとんでもない罠に引っかかっちまったじゃねえか!」

 

 時女一族の魔法少女と竜姫の戦いは清十郎が静香達の正式な師匠になった事もあり、さらに実力をつけていた静香達が押していた。

 

弓美「ぐはっ!な、何て強さなの……!?」

 

創世「(あの子達、シンフォギアと同じかそれ以上に強いかも知れない。やっぱり、今のままでは…)」

 

詩織「(シンフォギアとその助っ人に勝てません…)」

 

響「板場さん!」

 

弓美「…来るな…、何で、よその世界から来たんだよ…。あたし達の世界をメチャクチャにするために来やがって…」

 

静香「逆よ!翼さん達も私達も、似て異なる日ノ本の危機を救うために」

 

弓美「得体の知れない連中が気安く日ノ本を語るな!!」

 

 そんな時、校舎が崩落する際に創世は何かを見た。

 

創世「ユミ、生徒会室の辺り!」

 

詩織「灰島さんが!」

 

弓美「灰島友鈴?あの子が生徒会室に!?」

 

 さらに校舎は崩れていった。

 

創世「校舎が崩れて…、見知った顔を、呑み込んで…」

 

詩織「いやあああああっ、あああ……」

 

弓美「……背負ってやる、竜姫の宿命、背負ってやる!これ以上、何も喪わないために!みんなの明日を喪わせやしないために、あたしがっ、デヴァステイターモジュールをおおおおーっ!!」

 

清十郎「お前ら、奴等は何か仕掛けてくるぞ!」

 

クリス「巷で噂のDモジュールって奴か!?」

 

 しかし、大二から聞かされたDモジュールの実態に弓美は恐怖していた。

 

響「板場…さん…?」

 

すなお「何もしてきませんね」

 

弓美「(怖い…、怖いよ……。みんなを守るために、みんなと一緒でいられない怪物になるなんて……。怖いよ、誰か……)」

 

 恐怖している弓美に創世は駆け寄った。

 

創世「それは私がやるよ」

 

弓美「え?」

 

創世「Dモジュールの使用制限を解いてもらったのは、ユミ1人じゃないから」

 

弓美「なん、で……?」

 

創世「人一倍怖がりなくせに、カッコつけたがるんだよね、ユミは。私の怪我じゃ、ここから離脱してもどの道追いつかれてしまうから、テラジをお願い」

 

詩織「1人で戦えます、お願いなんか…されたくありません!」

 

弓美「だ、だめ…」

 

創世「親友のために…。咆哮っ、デヴァステイターッ!!!」

 

弓美「だめえええええええええっ!!!」

 

 誰も気づいていない場所でこの戦いを見ていたエンブリヲは、創世がデヴァステイターを使った事に笑みを浮かべていた。

 

翼「エネルギーが急速に膨れ上がって…」

 

クリス「人が、人の形のまま爆弾みたいに!」

 

響「安藤さん!」

 

 デヴァステイターを使った創世に異変が起こった。この異変は響達はもちろん、時女一族や竜姫も衝撃を受けていた。

 

ちはる「どうなってるの!?」

 

すなお「まだ私達は見ていませんが、まるで魔法少女が魔女になるような……!」

 

弓美「あんた、あたしにあだ名を考えるって!待ってるんだから、こんな事してる場合じゃないでしょ!」

 

創世「ゴめん、……だばジ、もヴ……ユみにビっだりの、あダナ、ガンガえ、らレゾウに…。ごめん、ね……」

 

 その言葉を遺し、創世は怪物に変貌した。

 

弓美「…炎を纏い、四つの脚で地を踏みしめて…大きな爪を振るう、あれは……、あの姿は…」

 

詩織「大きな翼や鱗こそありませんが、あの日に私達を引き裂いた怪物によく似ていますわ」

 

弓美「あたし達を守るために先代の竜姫は、本当に…デヴァステイターに取り込まれて怪物になったの……?」

 

詩織「私達の纏うメックヴァラヌスは…Dモジュールとは、明日を救える力なのでしょうか……?」

 

弓美「……救うべき明日なんて、もう、どこにも……」

 

 怪物化した創世が襲い掛かってきたが、突然の出来事であるが故に静香達はかわす一方であった。

 

静香「メックヴァラヌスを纏う竜姫が私達と同じように怪物になってしまう宿命を背負っていたなんて!」

 

ちはる「怪物化したあの子、どうやって助けるの!?」

 

すなお「救えるのでしたら、殺したくはありませんね…!」

 

 そこへ、パルティータが駆け付けた。

 

パルティータ「遅かったみたいね…」

 

響「パルティータさん、遅かったって…?」

 

パルティータ「これまでの調査を通して、エンブリヲの企んでいた事がわかったの。エンブリヲは歴代竜姫にデヴァステイターを使わせて怪物化させた後、ヤマタノオロチに食わせていたのよ!」

 

翼「ヤマタノオロチに!?」

 

クリス「ってなりゃ、仰陽館女学院はヤマタノオロチの餌を育てるための場所になるじゃねーか!!」

 

 そんな事を言ってると、ヤマタノオロチが出現した。

 

ヤマタノオロチ「グオオオン!!」

 

弓美「あ、あの時の…大蛇まで……」

 

パルティータ「このままだと、あの子はヤマタノオロチに食われるわ!」

 

清十郎「わかった!この俺が吹っ飛ばしてやる!でりゃあああっ!!」

 

 清十郎は峰打ちで怪物化した創世を吹っ飛ばした。

 

怪物「ガアアアアアアッ!!」

 

パルティータ「みんな、行くわよ!」

 

 響達はパルティータのテレポートでその場から離脱した。

 

弓美「ああ、大切な友達が、手の届かないところに…」

 

詩織「私達も追いかけましょう!」

 

 弓美と詩織も後を追った。その場に餌がいなくなったため、エンブリヲはヤマタノオロチと共に姿を消した。誰もいなくなった現場に訃堂だった肉片が残されたが、その肉片はわずかながら動いていた。

 

 

 

道路

 

 テレポートの先は、吹っ飛んだ創世がいる場所だった。

 

クリス「吹っ飛ばしたのはいいが…」

 

翼「問題はここからだ」

 

響「私に考えがあります!」

 

静香「考え?」

 

 一同は響の考えを聞いた。

 

すなお「そういう事ですか」

 

クリス「だが、どうやって動きを止めるんだよ!?それに」

 

静香「私は動けなくなるのと引き換えに相手の動きを止められるの。だから、動きを止めるのは私に任せて!」

 

パルティータ「響ちゃんは後で私が治療するわ。今、あの子を止める方法はこれしかない!」

 

クリス「…確かにこれしかねえな…」

 

翼「そうだったな、時女。頼んだぞ!」

 

ちはる「私達は注意を逸らさないとね!」

 

 ちはる達は攻撃を仕掛け、怪物化した創世の注意を引き付けた。注意がちはる達に向いた隙を突き、静香が怪物化した創世の動きを止めた。

 

静香「今よ、響!」

 

響「ありがとう、静香ちゃん!」

 

 静香が動きを止めている隙に響は絶唱を唄った。

 

翼「後は、デヴァステイターのエネルギーを取り込めるかどうかだ…」

 

響「うおおおおおおっ!!」

 

クリス「引っぺがしたエネルギーをパージするんだ!ギアで抱えられる許容量を超える前に、早く!」

 

響「でやああああああっ!!」

 

 響はデヴァステイターのエネルギーを取り込んだ後、パージして創世を元に戻した。

 

響「やった、これで、何とか…」

 

パルティータ「次は私の出番ね」

 

 響を寝かせ、パルティータは錬金術による治療を行った。

 

クリス「ふう、パルティータがいてくれて助かったぞ…」

 

翼「(絶唱を口にして、この程度のバックアップに抑えられている…?神獣鏡の凶祓いにて融合症例を治癒して以来、立花が高い適合係数を獲得した理由…それは一体…)」

 

 翼が考えている間に響の治療は終わった。

 

パルティータ「これで、後はゆっくり休ませればいいわ。あなた達は魔法少女の世界へ行って、ゆっくり休んで体勢を立て直してくるのよ」

 

清十郎「そうさせてもらう。時女の集落に隠れておけば仮に俺達の世界に奴等が来たとしても、余程の事がない限り奴等は見つけられんしな」

 

静香「でも、パルティータさんは?」

 

パルティータ「私はこの世界に残って調べなければいけない事があるの。戦闘力に関しては申し分ないし、変装という武器もあるから大丈夫よ」

 

すなお「そうですか。では、私達は元の世界に戻ります」

 

ちはる「無事でいてね!」

 

 清十郎はデュプリケーターで静香達と共に元の世界へ戻り、パルティータは二課の医療スタッフに変装した。その後、エンブリヲはその現場を見た後、姿を消した。

 

 

 

???

 

 風鳴邸に大二が帰ってきた。

 

大二「(ふふふ…やってくれるよ、シンフォギアとその助っ人たる魔法少女は。デヴァステイターに取り込まれた竜姫を元に戻し、助け出すとは。その行動力、決断力、それでこそ妻にし甲斐があるものだ。まぁ、元に戻されても次の機会に餌にすればいい)」

 

 そこへ、七支刀の1人が来た。

 

七支刀「エンブリヲ様、どちらへ向かわれていたのですか?」

 

 大二の手元には、エンブリヲの仮面があり、大二の正体はエンブリヲであった。

 

エンブリヲ「少し竜姫の様子を見に行っててね。素晴らしいものだよ。竜姫が装者とこれまで築き上げた絆が、醜い本性を隠して竜姫と接していたため、竜姫から慕われていた訃堂を装者の助っ人が殺したが故にあっけなく崩れ、殺し合う関係に陥るのがね」

 

 訃堂の死にショックを受けるのと共に、絆が壊れるのを楽しむエンブリヲに七支刀は戦慄した。

 

七支刀「そんな…、訃堂様が……!?」

 

エンブリヲ「もう、君達に帰る場所は私の所しかないよ」

 

 本当は嫌いなエンブリヲに従わざるを得ない状況に、七支刀は拳を握り締めていた。

 

七支刀「エンブリヲ様、あなたは何を企んでいるのですか?せっかくシンフォギアのデータを手に入れたのに、これではまるで宝の持ち腐れじゃないですか!」

 

エンブリヲ「私には不死身で絶大な力を持つヤマタノオロチがいるから、シンフォギアを超える兵器なんて、造る気は全くないよ」

 

七支刀「じゃあ、何のために?」

 

エンブリヲ「餌の味を変えるためだよ」

 

七支刀「味を?」

 

エンブリヲ「訃堂は竜姫を使い捨ての消耗品扱いしてたけど、私はもっと意義のある扱い方をしているのだけどね。そう、ヤマタノオロチにとって、栄養価の高い餌として。そして…、シンフォギア装者を始めとしたあらゆる並行世界の美しき女性を私の花嫁にしてみたいものだ。翼を第一夫人としてね」

 

七支刀「(この男、何を考えているのか理解できない…!)」

 

 エンブリヲの考えは訃堂以上に常人の理解を遥かに超えていた。

 

 

 

道路

 

 その後、弓美と詩織が来た。

 

弓美「よかった!人の姿に戻れて…」

 

詩織「シンフォギア装者とその助っ人達はどこに…。まさか、デヴァステイターの力を使って彼女達を…」

 

医療スタッフ「わからない…。けど、私が来た時にはこの子は倒れていたの」

 

 この医療スタッフは、パルティータが変装していた。

 

詩織「大丈夫ですか!?」

 

医療スタッフ「安易に動かしてはダメ!」

 

弓美「だけど…」

 

 創世の意識が戻った。

 

創世「ごめん、2人とも……。私…」

 

医療スタッフ「今は動いては」

 

 医療スタッフの言った事を破ったため、創世は血を吐いて倒れた。

 

詩織「まさか、シンフォギアと助っ人にやられて…」

 

弓美「ああああっ、嫌あああああっ!!」

 

医療スタッフ「急いで医療施設に!」

 

 医療スタッフは創世を抱え、急いで医療施設のあるところへ向かった。

 

弓美『世界は、闇よりも昏き青に塗りつぶされていき、一面に広がった、抗いがたいまでの赤に帰結する…』

 

詩織「しっかりしてください!」

 

弓美「こんな結末…あたしは望んでいなかった……。…許せない、許さない……。許さんぞ、シンフォギアと助っ人!!ぶっ殺してやるッ!!!」

 

 エンブリヲの罠によってシンフォギアと魔法少女と敵対した挙句、怒りと憎しみに打ち震える弓美に医療スタッフに変装しているパルティータはやるせない想いだった。

 

エンブリヲ「あの醜い老人を奴等に殺させるだけでこうも上手く行くとは。さぁ、今度は怒りと憎しみでタガを外してデヴァステイターを使い、君達がヤマタノオロチの餌となってくれたまえ。そして、シンフォギアや魔法少女は私の花嫁に迎えよう」

 

 自分の策謀に踊る弓美達を嘲笑い、その様子を見ていたエンブリヲは姿を消した。




これで今回の話は終わりです。
今回は今小説のメックヴァラヌス編前半のラスボスである訃堂との戦いと訃堂を殺してしまった事で敵対した竜姫達との戦い、そして怪物化した創世を元に戻してから響達が並行世界を渡り、時女の集落へ逃げるのを描きました。
今小説の竜姫世界の訃堂はどのように処理しようか悩んでいたところ、清十郎に殺させてわかりやすく竜姫達と敵対してしまう展開に繋げられると思い、清十郎にぶった切られるのを描きました。ちはみに訃堂との戦いはシグマ戦とるろうに剣心の不二との戦いを参考にしていますが、武人の心があった上に名勝負を繰り広げて敗北した不二と違い、訃堂はエンブリヲに全てを奪われ、心も身体も怪物と化した後に清十郎によって無残に殺されるのを描きました。訃堂の巨大化形態は遊戯王のゾーグ・ネクロファデスがモデルですが、目玉をたくさんついていたりして徹底的に感情移入できない歩く18禁の怪物として描きました。
響達が時女の集落に逃げるという展開は響達が不利になりすぎないようにし、静かな場所で見つめ直す展開を入れてもいいと思ったからです。
今回は大二の正体がエンブリヲだと判明しましたが、エンブリヲは胎児という意味なので、大二→胎児→エンブリヲといった感じでよく考えると正体がわかるよう、表向きの名前を決めました。
次の話は敵の方で目立つ動きが多くなる予定です。

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