セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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177話 2羽のウサギと災禍の魔物

調神社

 

 シャカが感じていたのは、不思議な力を持つウサギの事であった。そのウサギは調にとても懐いていた。

 

調「…よしよし」

 

ウサギ「……」

 

切歌「おおっ、すごく調に懐いているデス。全く離れないデスよ」

 

セレナ「こうして見ていると、普通のウサギさんですよね。…モフモフしてて可愛いです!」

 

マリア「ええ。でもさっき調を守った不思議な力…。見た目通りの動物でないのは確かね。超常的な生き物だし、危険があるかも知れないわ。一度、S.O.N.Gで検査をした方が」

 

切歌「調、あたしも撫でてみたいデス!」

 

セレナ「私もお願いします」

 

 切歌とセレナもウサギに触ってみた。

 

セレナ「わー、思った通りフワフワです……!」

 

マリア「…あなた達、不用意に触れたら危ないかも知れないでしょ!」

 

セレナ「そんな事ないよ。ほら、姉さんも。フワフワしててすごく手触りもいいよ?」

 

マリア「……そ、そんなに?それなら、少しだけ…」

 

 恐る恐るウサギに触ったマリアだが…。

 

マリア「…これは!?」

 

ウサギ「………?」

 

マリア「た、確かにフワフワ、モコモコで癖になる!?」

 

切歌「マリアも虜デスね」

 

宮司「皆さん、よかった。無事だったのですね」

 

調「あ、宮司さん」

 

切歌「そっちも無事で何よりデス」

 

宮司「ありがとうございました。皆さんのお陰で、参拝客の被害もほとんどありませんでした」

 

セレナ「そうですか、それはよかったです」

 

 ふと、宮司はウサギに視線が行った。

 

宮司「しかし、そのウサギは……?」

 

調「さっき、戦いの時に不思議な力で私を助けてくれたんです」

 

マリア「見た目通りの動物ではないので、こちらで保護しようかと」

 

宮司「ええ、それがいいかと思います」

 

マリア「ありがとうございます。では、一度この子達を連れてS.O.N.Gの方へ」

 

 ウサギを本部へ連れて行こうとしたマリア達であったが、ウサギは逃げ出した。

 

マリア「あっ!?」

 

切歌「ウサギがマリアから逃げたデス!」

 

マリア「ど、どうしてなの!?」

 

調「それなら私が…」

 

 調が連れて行こうとしても、動こうとしなかった。

 

セレナ「動きませんね…?神社にいたいのかな?」

 

調「入口の方に連れて行こうとすると逃げるみたい。どうしてだろう?」

 

???「その訳はわからんが、今はウサギを外に連れて行こうとしない方がいい事に変わりはない」

 

 そこへ、シャカが来た。

 

マリア「シャカ…」

 

シャカ「宮司よ、このウサギが外へ行きたがらない理由に心当たりは?」

 

宮司「わかりませんが、この調神社は神の使いとしてウサギを祀っております。このウサギたちは、神社を守るために神様が遣わしてくれたのかも知れませんな…」

 

シャカ「神、か……」

 

 ちょうど入口の狛兎が消えている事とこのウサギの出現にシャカは何らかの関係があると思っていた。

 

切歌「この神社を守るために、神社から出たくないって事デスか」

 

セレナ「でも、それじゃあ調べてもらう事もできないですね…」

 

シャカ「ウサギがこの様子では仕方あるまい。アテナと弦十郎に伝え、その後について検討した方がいいだろう」

 

マリア「そうね。ところでシャカ、あなたはどうしてここに?」

 

シャカ「年末にこの神社の方向に不思議な力を感じ、今回はそれに似た気配を辿ってここに来たら、君達がいたのだよ」

 

 マリアは沙織とS.O.N.Gに連絡を入れた。

 

マリア「…はい、わかりました。とりあえず、このウサギについては保留って事になったわ。下手に動かした方が危ないかもって判断みたい」

 

シャカ「賢明な判断だな」

 

マリア「それと私達だけど…。あの、宮司さん」

 

宮司「はい、何ですか?」

 

マリア「さっきの魔物の件ですが、ここだけじゃなくて、周辺の神社群で同じような事が起きていたみたいなんです」

 

宮司「なんとッ!これは由々しき事態ですな…」

 

シャカ「いかにも」

 

マリア「それで、異変が収まるまで民間人の神社参拝は控えてもらえないでしょうか?」

 

宮司「…いたし方ないでしょうね。危険に巻き込むわけにはいきません」

 

マリア「ありがとうございます。それと、できれば宮司さんもその間は避難してもらいたいんですが…」

 

宮司「すみませんが、それはお断りします。この神社を守るのが私の役目ですからな」

 

マリア「…神社本庁からの要請があっても、ですか?」

 

宮司「ええ。どちらにしても老い先短いこの身です。誰に言われようと、曲げるつもりはありません」

 

マリア「…仕方ないですね。どちらにしても、当分は警戒が必要ですし、私達がなるべくここに来るようにします」

 

宮司「…申し訳ありませんな」

 

マリア「いえ、大切な場所を守りたいという気持ちはわからないでもないですから」

 

切歌「それじゃ当分神社に通うデスか?」

 

シャカ「そうだな」

 

切歌「それならまたウサギに会えるデース!」

 

調「うん、そうだね」

 

セレナ「わあー…。私、ご飯をあげてみたいです!」

 

マリア「もう、あなた達は…」

 

宮司「ご飯といえば、お茶も途中になりましたし、そろそろ夕方、せっかくなら夕食もどうですかな?」

 

マリア「えっ!?」

 

宮司「大したお礼もできませんが、この神社を守ってくれたお礼にぜひ、自慢のキッシュをご馳走しますぞ」

 

切歌「おおっ、またあれが食べられるんデスか!?」

 

調「宮司さんのキッシュ、確かにおいしかったね」

 

セレナ「そんなにおいしいんですか?」

 

マリア「ええ。…それならごちそうになります」

 

宮司「みなさん気に入っていただけていたようで、これは宮司冥利につきますな」

 

調「宮司はお料理がメインのお仕事じゃないと思う…」

 

シャカ「インドにもごく少数だが、私のような風貌の者もいるぞ。細かい事は気にせずに宮司の出す食事を食べたまえ」

 

調「細かい事って…」

 

マリア「(全くいないって事はないけど、インドでシャカみたいな色白で金髪で青目の人なんて聞いた事がないわ。聖闘士って、武器を使わず、私闘さえしなければどんな宗教を信じている人でもなれてしまうほど非常に大雑把なのね…。それに、話がかみ合ってないのだけど…)」

 

 実質的な掟は武器の使用や私闘の禁止ぐらいで、装者以上に行動の自由が許されている聖闘士の中でも仏教徒という異端の存在であるシャカにはマリアは思わず装者よりも大雑把な上、常人には考えが3割程度しか理解できない電波だと思っていた。

 

 

 

S.O.N.G潜水艦

 

 翌日、魔物について、エルフナインは調べていた。

 

エルフナイン「…。これは…」

 

弦十郎「何かわかったのか?」

 

エルフナイン「はい、先程の敵ですが、これの出現数に大きな差異があったようです。周辺カメラからの映像と自衛隊撮影の核神社の様子、さらに聞き込みなども併せて分布について確認できたのですが…、敵の出現数について、装者や聖闘士が迎撃にあたった場所が突出して多いようなんです」

 

弦十郎「敵が装者や聖闘士を狙った、という事か?」」

 

沙織「私は現場にいたのですが、聖闘士や参拝客関係なく襲っていたようでした」

 

エルフナイン「各部のカメラ映像などから見る限り、当初の出現数はほぼ同じだったようなのですが、時間が経つにつれて、マリアさん達のいた調神社に特に敵が集中して出現していたようです」

 

朔也「同じように他の装者や聖闘士が迎撃した神社も周囲と比べると、時間単位の出現数の増加がみられたようです」

 

エルフナイン「迎撃が遅れた神社は出現数が増加しなかったので、被害が少なくて済んだようですが…」

 

沙織「なぜ、そういった状況になったのか、という事ですか」

 

あおい「何者かの作為でしょうか?」

 

朔也「装者や聖闘士に戦力を集中したって事は、それだけ装者を排除したかったという事でしょうか?」

 

弦十郎「…いや、それでは理屈が通らない」

 

エルフナイン「僕もそう思います。そもそもあの敵が神社群から出現した理由は何なのか…。それ次第ではないでしょうか」

 

弦十郎「ああ。装者や聖闘士の妨害はイレギュラーだった。しかし、出現後すぐに迎撃が行われた神社はたった二つに過ぎない。何らかの目的があったとして、妨害のある二つよりも他を優先する方が理にはかなっている。もちろん、妨害のあった二つの神社が偶然より重要度の高い場所だった可能性はなくもないが…」

 

沙織「ですが、私達が参拝に来て、あの魔物と遭遇した神社にはこれといった重要なものはありませんでした」

 

エルフナイン「そして、最初の出現数と理屈が合いません」

 

弦十郎「そういう事だ。むしろこの前の状況は砂糖に群がるアリのような、思考ではなく本能的な反応を感じる」

 

朔也「敵が装者や聖闘士に群がった、という事か…」

 

エルフナイン「はい。何者かの思考が介在したというより、思考ではない、本能的、自動的な反応ではないでしょうか」

 

弦十郎「黒幕や操っている者がいないとまだ決まったわけではないが、何らかの事故や不測の事態がきっかけという可能性もある。些細な情報も見逃さず、続けて情報の収集に努めてくれ」

 

あおい「了解」

 

 

 

神社

 

 その日にも魔物が出現したため、装者や聖闘士は迎撃に向かった。

 

沙織『星矢、わかっていますね?』

 

星矢「わかってるさ、こいつらをぶっ飛ばせばいいんだろ?」

 

 光速拳で次々と敵をなぎ倒していった。

 

紫龍「星矢の方も応戦しているようだ。早く敵を倒さねばならんな!(だが、この前よりも敵の数が少ない…。どうなっている…?ただ暴れ回るだけで対処は簡単なのが幸いだが…)」

 

 違和感を抱く紫龍であった。残りの面々も散開して魔物の迎撃にあたっていた。

 

氷河「ほとんど魔物がいないぞ。やはり、調神社の方に…」

 

 

 

調神社

 

 大量の魔物が調神社に押し寄せていた。

 

シャカ「滅せよ、邪悪なる魔物よ!天魔降伏!!」

 

 気配が気になって残っていたシャカは圧倒的な力で魔物を一掃していった。

 

切歌「あ、あんなにいた敵が一瞬でやられたのデス…!」

 

マリア「乙女座のシャカ…、敵だとあんなに恐ろしかった分、味方だとこんなにも頼もしいとはね…」

 

調「私達は大技を使っても数を減らす事ができないのに、シャカの攻撃でようやく数が減っているのが実感できるなんて…」

 

マリア「それだけ、シャカの実力が途方もない証拠よ。下手をしたら、黄金聖闘士の中でも五本の指に入るほどじゃないかしら?」

 

セレナ「あのインドのお坊さんがそんなに強いなんて…」

 

マリア「(S.O.N.Gによるとここに敵が集まっているって話だけど…。まさかあのウサギを狙って?いえ、違うわね…。敵の動きを見ても、ウサギを狙っているようには見えない。ならどうして…?)」

 

 敵の大半はシャカが片付けていたが、シャカが敵を倒す際に調はある事に気付いた。

 

調「あれ?」

 

マリア「どうしたの、調?」

 

調「あの敵を倒すと、黒い霧みたいになるよね?」

 

マリア「ええ、そうね」

 

調「…気のせいかも知れないけど、その霧が地面に染み込みながら、向こうへ流れていったような…」

 

切歌「向こう…って、敵が多い方向デスよ?」

 

セレナ「どういう事ですか?」

 

シャカ「敵を全滅させ、確認するとしよう。オーム!!」

 

 結局、敵の大半はシャカが片付けたのであった。霧が地面に吸い込まれるのを一同は目の当たりにした。

 

シャカ「やはりか…」

 

切歌「霧が…。調の言う通り地面に吸い込まれるデス!」

 

セレナ「向こうに何が…」

 

マリア「確かめるわよ!」

 

調「うん、行こう!」

 

 一同が向かった先にあったものは…。

 

調「これ…!?」

 

マリア「どうやら、魔物はここから現れていた…、いえ、循環していたのかも知れないわ」

 

切歌「倒した魔物が復活してたって事デスか!?」

 

シャカ「復活の瞬間は目の当たりにしていないが、そう考えるべきだろう」

 

セレナ「姉さん、これって…」

 

マリア「『要石』よ。文字通り、この国の龍脈の要…」

 

シャカ「要石…、これは厄介な事になりそうだ……」

 

 

 

S.O.N.G潜水艦

 

 直ちにマリアは本部に報告した。

 

弦十郎「要石…だとぉっ!?」

 

マリア『ええ、倒した敵は恐らくだけど龍脈に戻り、要石から魔物として出現していたのかも知れない。…今は落ち着いたけど、またいつ現れるかわからないわ』

 

弦十郎「わかった。すぐに調査部を動かす。マリア君達は引き続き調神社の警護にあたってくれ」

 

 ここで報告が終わった。

 

朔也「まさかここで龍脈とは……」

 

沙織「パヴァリア光明結社との戦い以降、魔物の出現以前から様々な異変があったという報告が神社本庁より寄せられていました」

 

弦十郎「パヴァリア光明結社との戦いの後、魔物の出現以前からだと!?」

 

あおい「場所の照合、官僚しました。敵の発見報告と要石のある神社は確かにリンクしています。…ですが、関東近辺以外での魔物の出現報告はありません。私達が気付いていないだけでしょうか……?」

 

弦十郎「確かに、地方にはカメラネットワークの足りない場所もあるが…どうだろうな」

 

エルフナイン「!?これは…!」

 

 エルフナインは何かに気付いた。

 

弦十郎「どうした?」

 

エルフナイン「ここと…ここ、それにこの場所!やっぱり!オリオン座です!敵が出現したのは以前、パヴァリア光明結社との戦いの時、要石を発動させた範囲内の神社なんです!『神いずる門』として龍脈を操作された氷川神社群にだけ、あの敵が現れているんです!」

 

弦十郎「あの時の…だとっ!?」

 

沙織「やはり、あの時に龍脈を操作したしっぺ返しが今になって来たのではないでしょうか?」

 

弦十郎「くっ、すぐに神社本庁にも確認をとるんだ!龍脈の監視状況についても問い合わせろ!」

 

 しばらくして、調査部と神社本庁からの報告がきた。

 

弦十郎「調査部かrなお報告書、それに神社本庁からの回答が届いた。やはり…龍脈の異常が見られるとの事だ」

 

朔也「それは人為的なものって事ですか?まさかまた錬金術師とか…」

 

慎次「いえ、それらしき報告はあがっていません。それより、この現象について気になる事が。装者や聖闘士の皆さん、特に複数の神社の討伐にあたった星矢さん達8名になりますが…『だんだんと敵が弱くなっているように感じる』と報告があったんです」

 

弦十郎「弱くなっている?マリア君達からはそんな報告はなかったが…」

 

慎次「はい。それでこちらでも詳しく核神社と今回の異変について調べてみたところ…被害の多さ、それに弱く感じたという敵の出現した神社の位置、龍脈の乱れの収まり、これらが一致したんです」

 

弦十郎「それは…まさか敵が暴れ、被害が出た場所ほど龍脈が正常化しているという事か!?」

 

あおい「そんな…」

 

慎次「はい、そうです。そしてリュ脈の乱れの少ない場所ほど、敵の数、質ともに弱いものと思われます」

 

エルフナイン「それじゃあ、まさかこれは龍脈による自浄作用……。龍脈の操作と遮断によるストレスが、敵という形になって噴出した…?」

 

沙織「私もこの報告を聞いた際、パヴァリア光明結社との戦いの際の龍脈操作のしっぺ返しだと判断しました」

 

弦十郎「被害が出なくては終わらない、という事か!?そんなもの、容認できるわけないだろう!」

 

慎次「問題はそれだけで済みません。マリアさん達が重点的に守っていた調神社ですが、ここについては当初とは比べ物にならないほど、龍脈の乱れが大きくなっているようです」

 

弦十郎「なん…だと!?守った事で、より大きな異変の原因を作ってしまったというのか!?」

 

 この事実は衝撃的なものだった。

 

 

 

調神社

 

 この事実はマリア達にも伝えられた。

 

マリア「…という報告が入ったわ」

 

切歌「そんなのってないデスよ!ここ何日も、あたし達はこの調神社を必死に守ってきたデスよ!」

 

調「私達が戦った事で、より事態が深刻になるだなんて……」

 

セレナ「でも、今更守るのをやめたりしたら…」

 

マリア「…周辺に大きな被害が出るでしょうね。あの数の敵が街中に溢れる事になるわ」

 

切歌「そんなのダメデスよ!やっぱり守らないと!」

 

シャカ「私やアイオリア達がいるから現れてもあっという間に撃破できてはいるが、何かあの魔物を完全に倒す手段がなければ君達はおろか、私達黄金聖闘士ですら手に負えなくなるかも知れんな」

 

調「そうなったら、大変…」

 

マリア「聖闘士のお陰でいまはかなり楽だけれども、聖闘士が対処できる間に何か打開策を見つけなければ…」

 

セレナ「そんな…」

 

切歌「それじゃどうすればいいんデスか……」

 

 そんな中、宮司が来た。

 

宮司「さあ、みなさん。キッシュが焼き上がりましたぞ。今日のレシピも自信作です。…おや、暗い雰囲気ですが、何かありましたかな?」

 

マリア「…宮司さんも当事者ですものね。今の状況についてお話します…」

 

 今の状況をマリアは宮司に説明した。

 

宮司「…なるほど、そういった状況でしたか」

 

調「はい。だから、ごめんなさい…」

 

宮司「…頭を上げてください。あなた達は何も悪くありません。みなさんが守ってくれたおかげで私も生きておりますし、こうして調神社も健在。何を謝る事がありましょうか」

 

調「けれど、あの魔物が増えているのは私達が…」

 

宮司「そんな事はありません。ここまで被害がないのは紛れもなく、皆さんのお陰です。例え早くこの異変が収まるとしても、被害が出るという事は誰かが悲しむという事。それを是としてはいけません。今現在、あなた達の頑張りで被害が出ていないk十。これが大事なのです」

 

調「…ありがとう」

 

宮司「いいえ、私こそ本当にありがとうございます」

 

シャカ「だが、何か打開策を見つけなければ、君達はおろか、やがて私達でさえ手に負えなくなる。私達が楽に倒せる間にあの怪物を倒す秘策を見つけ出すのだ」

 

宮司「それなんですが…。少々待っていていただけますかな?」

 

セレナ「何だろう…?」

 

 しばらく待った後…。

 

宮司「お待たせしました。これを見ていただけますかな?」

 

 宮司が持ってきたのは古い本であった。

 

マリア「これは…、かなり古い本ですね?」

 

宮司「はい、この神社に伝わる、古文書の類ですよ」

 

切歌「み、ミミズが並んでて読めないデス…」

 

セレナ「なんて書いてあるんだろう…?」

 

調「…ま、マリアなら…」

 

マリア「ええっ!?わ、私だってこんなに達筆な文字、読んだ事ないわよ!?」

 

宮司「おお、これは失礼いたしました。では、僭越ながら内容について説明いたしましょう。この書は龍脈について書かれたものでしてね」

 

シャカ「龍脈?」

 

宮司「ええ。『龍の気、乱れし刻、汚れ出現す。穢れ鎮まらざれば、大きな凶となり、災禍の魔、大地を穢す』とあります」

 

セレナ「そ、それって…」

 

宮司「龍脈の乱れ、魔物のような敵、まさに今の事態に合致している、そうは思いませんかな?」

 

 

 

S.O.N.G潜水艦

 

 その後、装者と聖闘士は本部に集合した。

 

弦十郎「よし、全員揃ったな。ブリーフィングを始めるぞ。内容は今現在問題になっている神社群に現れる、『災禍の魔物』についての話だ」

 

響「災禍の魔物…、ですか?」

 

弦十郎「ああ。今まではただ敵と呼称していたが、マリア君達から受け取った情報を元に、そう呼称する事とした」

 

エルフナイン「マリアさん達が調神社から借りてきてくれた古文書に、今回の異変と思われる内容の記述が見つかったんです。曰く、『龍の気、乱れし刻、穢れ出現す。穢れ鎮まらざれば、大きな凶となり、災禍の魔、大地を穢す』」

 

紫龍「そういう事か」

 

響「そういう事?」

 

未来「わからないなら、わからないって言った方がいいよ、響」

 

響「全然わかりません…」

 

星矢「俺にとっても難しいけど、要はパヴァリア光明結社との戦いの時に神の力出現を防ぐために龍脈の流れを遮断したりしたから、あんな化け物が出たんだろ?」

 

美衣「簡単に言えば、星矢さんの言う通りです」

 

沙織「星矢なりに考え、表現しましたね」

 

エルフナイン「龍の気、これはそのまま龍脈を表しています。それが乱れる、つまりは龍脈の乱れ。氷川神社群については、先のパヴァリア光明結社との戦いで、龍脈を操作され、地上のオリオン座として利用されました。それを防ぐために要石による龍脈遮断を行ったのですが、龍脈とは大地を流れる大きな力です」

 

氷河「その龍脈の流れをせき止めたりすると、そのまま乱れてしまうのか?」

 

エルフナイン「そうです。イメージとしては、溝を掘って川の流れを変えたり、川をせき止めたりしたようなものです」

 

響「わかったような、わからないような…」

 

クリス「お前、もう少し理解する努力をしろよな…」

 

エルフナイン「えっと、続けますね。次に穢れですが、これは恐らく、神社周辺での気の乱れによる不幸や病気だと思われます。実際に調神社でも、原因不明の体調不良に巫女さんが見舞われたりといった事もあったようです。これが進行すると、次に大きな凶である災禍の魔というものが発生します。これがあの敵という事でしょう」

 

響「あ、から災禍の魔物って呼び方になったんだ」

 

切歌「おお、確かにそうデスね」

 

調「もう、切ちゃん…」

 

未来「響…」

 

アイオリア「それで、最後の大地を穢すはどういう事なんだ?」

 

エルフナイン「これは災禍の魔物が蓄積する事で、何かが起きるという事かと思います」

 

クリス「何かって、何だ?」

 

瞬「今の時点ではわからないけど、何か恐ろしい事が起こると思うよ」

 

マリア「…そうでしょうね」

 

アイオリア「だが、魔物が何者であれ、俺達が叩き潰す!」

 

響「でも、結局、魔物って何なんですか?穢れとか、気の乱れとか、何だかふわふわしてるというか…」

 

弦十郎「魔物に関しては、神社に祀られているものが大きく影響していると考えている」

 

星矢「祀られているもの…?」

 

エルフナイン「神社では、多くの人が参拝し、祈りをささげています。特に災厄が起きた場合にそれを収めるようになど。つまり、神社に祀られているものには、多くの人の『想い』が込められているんです」

 

調「人の強い想い…、それって…」

 

響「え?なになに?」

 

シャカ「哲学兵装と同質のものだな」

 

エルフナイン「はい、今回の影れというのは、哲学兵装の呪いと同じものです」

 

マリア「それが、パヴァリア光明結社との戦いの影響を受けて、気が乱れ、出現した」

 

エルフナイン「はい」

 

響「なるほど…」

 

弦十郎「これで、災禍の魔物については理解してくれたと思う。次に対策についてだが…、基本的に普通に倒したのでは、数は減らないようだ。それどころか、浄化できずにより穢れとして蓄積する」

 

エルフナイン「実際に毎回魔物を迎撃していた調神社周辺のみ、他とは比べ物にならない数の災禍の魔物が確認されています」

 

沙織「逆に迎撃が間に合わず、被害のあった場所については穢れが浄化されたためか、魔物の出現も落ち着いています」

 

未来「あの…、それじゃあ…」

 

弦十郎「そうだ。被害を容認する、これが一つ目の解決法だ」

 

星矢「流石にそれは容認できねえな」

 

氷河「星矢の言う通りだ。人々を守るのが、俺達の役目!」

 

弦十郎「そうだ。だからこの解決法は選べない。だが、古文書には他の解決法についても記載があった。それが、『巫女神楽』だ」

 

切歌「巫女神楽、デスか…?」

 

星矢「ああいった怪物には母さんのラピスが効果的じゃねえのか?」

 

美衣「確かに絶大な効果が見込めると思います。ですが星矢さん、パルティータはここ数日、難病や重傷患者の手術の予定が入っていて戦いに行けないのです」

 

星矢「まいったなぁ。けど、母さんも仕事をほっぽりだすわけにもいかないしな」

 

 ふと、時女の集落で過ごしていた際に似たような言葉を調は思い出した。

 

調「巫女神楽って、私と翼さんが時女の集落に行った際に私が習った國兵衛神楽っぽい…」

 

弦十郎「魔法少女の世界にはあのキュゥべえに捧げる舞があるのか…?」

 

シャカ「弦十郎よ、脱線しているぞ」

 

弦十郎「おっと、つい反応してしまった。巫女神楽は八乙女舞とも云うが、要は神に捧げる舞の事だ。古文書によれば、巫女神楽で災禍の魔物は鎮められるらしい」

 

エルフナイン「ですが、災禍の魔物の性質を考えると、普通の人が舞を行おうとしても」

 

シャカ「そこは私に任せたまえ。私の小宇宙で舞の邪魔をする魔物は消し飛ばしてくれようぞ」

 

マリア「随分とシャカは積極的じゃない」

 

弦十郎「シャカや瞬といった、防御技が得意な奴がいないと舞は難しいだろう。だが、巫女神楽で鎮まるという事は、捧げものや祓い串など、神社関連の道具や作法で鎮める方法が他にもあるかも知れん」

 

エルフナイン「状況的に見れば、古文書の内容は現状と一致しています。なので、効果を見込める可能性は高いです」

 

弦十郎「ああ。そこで俺達は神社本庁とも協力して、『鎮める』事を目的とした道具や作法を調べようと思う」

 

沙織「その間、あなた達は引き続き神社の防衛を続けてください。たとえ普通に倒しても穢れが溜まるとわかっていても、被害は容認できません」

 

シャカ「承知した」




これで今回の話は終わりです。
今回は調神社に現れた不思議な力を持つ2羽のウサギと怪物の正体が古文書によって判明し、名前も災禍の魔物に決定したのを描きました。
シャカは調神社のウサギに何かを感じていますが、今小説ではよりギャラルホルン編との関係を意識するため、ある聖遺物に宿る意思が夕暮れに舞う巫女編の最後の辺りで出てくるかも知れません。
ちょうど深碧の巫編を経て調は時女の集落の舞人から國兵衛神楽を習ったために巫女神楽を聞いた際に國兵衛神楽っぽいと思うのを入れました。
次の話は調達が巫女神楽を習う事になります。

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