セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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179話 夕暮れに舞う巫女

調神社

 

 翌日。

 

セレナ「ごはんですよー、どうぞ」

 

ウサギ「……♪」

 

 ウサギは宮司手作りのキッシュを食べに来た。

 

切歌「食べてるみたいデスね」

 

調「そうだね。このウサギさん達、やっぱり宮司さんのキッシュだけは食べるみたい」

 

切歌「キッシュがおいしいのは確かデスけど、飽きたりしないんデスかね?」

 

セレナ「癖になっているのかも知れませんね」

 

調「すごく助けられてるし、もっとたくさんあげよう」

 

切歌「このウサギさんは、できるウサギさんデース」

 

セレナ「それに可愛いですし、フワフワが……」

 

調「ずっと撫でていたい…」

 

切歌「1日に1回は触らないと、我慢できなくなりそうデース…」

 

セレナ「この子達って、この神社の守り神か何かなんでしょうか?前に宮司さんが言ってましたけど…」

 

切歌「どうなんデスかね?すごい力があるのは確かデスけど」

 

調「この神社はウサギが神使だから、そうかも…」

 

切歌「えっ!?ウサギが紳士なんデスか!?」

 

調「うん、そうだよ。だからあちこちにウサギの像とかがあるんだし」

 

切歌「紳士だとあちこちに像が建てられるんデスね…」

 

調「……?」

 

切歌「…あれ?でもこのウサギさん達、片方はメスデスよ。なのに紳士なんデスか?」

 

調「神使にオスメスは関係ないよ?」

 

切歌「えええええっ!?そうなんデスか!?紳士は性別の枠まで超えるんデスね…」

 

セレナ「何だか、かみ合っているようでかみ合ってない気がします…」

 

調「あ、像といえば入口の狛兎って、どうなったんだろう?」

 

切歌「そういえばそうデスね。…このウサギさん達が元は狛兎だったりして。なんたってジェントルマンデスし」

 

調「なんでジェントルマン…?でも、いなくなってた狛兎も2羽だったよね…?」

 

切歌「…数も合ってるデスね」

 

調「…狛兎が本物のウサギになって、神社を守ってる?」

 

切歌「まさかとは思うデスけど…」

 

調「もしかして、哲学兵装なのかも……」

 

切歌「なるほどデス!今回の異常も哲学兵装の呪いって言ってたデスし」

 

調「うん…」

 

切歌「でも、そうしたら、なんでこのウサギさん達だけ、敵にならないんデスかね?」

 

セレナ「きっと、よい想いがたくさん込められた哲学兵装なんですよ!」

 

調「よい想い…、そういえば、このウサギさん達からは何だかとても懐かしい感じがする…」

 

切歌「そうデスか?あたしは何も感じないデスけど」

 

セレナ「私も特には…、でも、可愛いから何でもいいです!」

 

切歌「そうデスね。可愛いは正義デース」

 

調「…そうだね」

 

 少ししてから…。

 

調「あ、宮司さん。少しいいですか?」

 

宮司「おや、どうなされましたかな?」

 

調「あの、盗難にあった狛兎って、何か謂れのあるものだったんですか?」

 

宮司「いえ、特別謂れがある、といったわけではありません。ただ、この調神社ではウサギは神の使いとされてましてな、神社建立から多くの像が作られましたが、あの狛兎は一番古くから伝わっていたものなのですよ。…娘夫婦が暮らしていた頃は毎日のように磨いてくれておりましてね。この神社の守り神だから、大事にしたいと」

 

調「守り神…(もしかして、本当に狛兎があるのウサギさん達に?守り神、という認識が哲学として定義されたんじゃ…)」

 

 離れた場所でシャカも宮司と調の話を聞いていた。

 

宮司「しかし、やはり言い伝えは正しかったですな。まさかこの神社のピンチに、本当に神の使いのウサギが現れるとは。おお、そうだ。今日も供物としてキッシュを焼かなければ。それにしても、神の使いまで虜にするとは、私のキッシュも罪作りですな」

 

調「はぁ…」

 

宮司「時によかったら今度、私の特訓を受けてみるつもりはありませんか?」

 

調「特訓って…巫女修業とかですか?」

 

宮司「違いますよ。私のフレンチの技術です。特にキッシュの焼き方を重点的に。聞けば、あなたはなかなかの料理の腕をお持ちだとか。ならば、ぜひともそちらも伝授したいと思いましてな。私のキッシュを会得すれば、あのウサギ達もきっと食べてくれますぞ?」

 

調「…うん、教えてほしい」

 

宮司「それはよかった。では後ほど、楽しみにしていますよ」

 

 

 

神社

 

 そして夕方、巫女型ギアに変化させた調達は大活躍し、災禍の魔物を次々と倒していった。

 

調「ふう、大体は片付いたかな」

 

切歌「デスね。この巫女型ギアのお陰っで敵の数も減ってきたし、この分なら災禍の魔物が出なくなる日も近いかもデース」

 

調「うん」

 

 そこへ、通信が入った。

 

調「あ、マリアから通信だ」

 

マリア『調、そっちはどう?』

 

調「片付いたよ。そんなに数も多くなかった」

 

マリア『そう。私とセレナの方も終わったわ。あとは翼達のところだけど、そこは次になりそうね』

 

調「うん。でも私達のギアで倒した場所は敵の数も減るから」

 

マリア『そうね状況次第では2人チームじゃなくて4人バラバラで動いてもいいかも』

 

 今度は弦十郎から通信が入った。

 

弦十郎『マリア君、調君聞こえるか!?セレナ君と切歌君もいるな?』

 

マリア『はい』

 

弦十郎『厄介なのが現れた。前に調神社で一度現れた、大型の災禍の魔物だ』

 

調「舞の練習中に現れた!?」

 

弦十郎『氷河が凍らせて動きを止めてくれている。急いで向かってくれ』

 

マリア『わかった。調、向こうで合流しましょう』

 

調「うん、また後で」

 

 調は通信を切った。

 

調「切ちゃん」

 

切歌「聞こえてたデス。あいつをやっつけるチャンスデスね!」

 

調「うん、凍っている間に行こう!」

 

 その頃、大型の災禍の魔物は氷河の凍結拳で凍り付いていた。

 

クリス「あたしら、出番がねえな…」

 

翼「仕方あるまい。私達の攻撃は効きにくい上、迂闊に星矢達が倒すわけにもいかないからな」

 

氷河「俺達にできる事といったら、調達が来るまで動きを封じるのみ!」

 

 凍り付いた災禍の魔物が今にも暴れて氷を砕こうとする中、マリア達が来た。

 

マリア「3人とも無事みたいね」

 

セレナ「遅れてすみません」

 

翼「来てくれたか。」

 

 今度は調と切歌も来た。

 

クリス「お、こっちも来たな」

 

切歌「クリス先輩、無事デスか?」

 

クリス「氷河が凍らせたから、何にもしてねえ。後は任せていいんだな?」

 

調「はい、任せてください」

 

氷河「ならば、頼んだぞ。助けが必要な時は言ってくれ」

 

 氷河達は少し離れた。

 

マリア「さあ、調、切歌、セレナも。あの厄介な魔物を倒しましょうか」

 

セレナ「うん、頑張るね」

 

切歌「この前とは一味違うデス」

 

調「そうだね」

 

 なんと、ウサギも一緒に来ていた。

 

ウサギ「……」

 

切歌「えええっ!?ウサギさん達が来てるデスよ!」

 

調「どうして…ここは調神社じゃないのに」

 

セレナ「私達…ううん、月読さんが心配でついてきちゃったんでしょうか?」

 

マリア「いいじゃない。なんにしても加勢してくれるなら心強いわ」

 

調「そうだね…。よろしくね?」

 

ウサギ「……」

 

 じっとウサギは調を見つめていた。

 

切歌「…何か調に訴えてるような感じがするデスね」

 

調「何だろう…」

 

 そんな時、氷を砕いて災禍の魔物が動き出した。

 

マリア「来るわよ!」

 

 構える中、ウサギは敵の攻撃を防いだ。

 

マリア「えっ!?」

 

ウサギ「……!!」

 

調「凄い…。え?」

 

 ウサギは何かを伝えようとしていた。

 

ウサギ「……」

 

セレナ「撫でてほしい…とかじゃないですよね?」

 

調「…もしかして。マリア、切ちゃん、セレナ!少しだけ時間を稼いで!」

 

マリア「わかったわ」

 

 マリア達は時間を稼ぐ事にした。

 

調「…舞えって言ってくれてるんだよね?やってみる」

 

 調は舞を行った。すると、大型の災禍の魔物の動きが鈍くなったのであった。

 

マリア「動きが鈍くなってる…。調の神楽舞の効果なの!?」

 

 遂には動きが止まった。

 

マリア「動きの止まった今がチャンスよ!調の神楽舞が効いている間に仕掛けましょう!」

 

 災禍の魔物が動けなくなった隙にマリア達は攻撃を仕掛け続けた。

 

マリア「いけるわ!一気に止めよ!攻撃を集中!!」

 

切歌「行くデース!」

 

セレナ「えーーいっ!」

 

 舞の締めとして、調が止めを刺して大型の災禍の魔物を倒したのであった。

 

マリア「他の魔物と同じね。霧が空に消えて行く…」

 

セレナ「やりましたね」

 

切歌「さっすが調デス!もう怖いものなしデスよ!」

 

調「うん…あなた達もありがとう…って、あれ?」

 

 ウサギ達はいつの間にかいなくなっていた。

 

切歌「調、どうしたのデスか?」

 

調「うん、ウサギさん達がいなくなってる。さっきまでいたのに…」

 

セレナ「きっと調神社に戻ったんですよ。あとでたっくさん、撫でてあげましょうね」

 

調「うん、そうしよう」

 

 調達は戻る事にしたが。その戦いの一部始終をシャカは見つめていた。

 

シャカ「……何か不吉な予感だな…」

 

 

 

S.O.N.G潜水艦

 

 本部の方でも災禍の魔物の撃破を確認した。

 

弦十郎「これで、魔物の出現が落ち着くといいが…」

 

朔也「そうですね。けれど、また大物が出ても巫女型ギアなら対処できるとわかりましたし、心配いらないのでは?」

 

あおお「そうやって油断するのはよくないわよ。まだ完全に解決したわけじゃないんだから…」

 

弦十郎「そうだな。だが、今は今日の勝利を喜ぼう」

 

朔也「はい!」

 

 そんな中、エルフナインは気になる事があった。

 

あおい「エルフナインちゃん?」

 

エルフナイン「え、ああ。すみません」

 

弦十郎「何か気になる事でもあるのか?」

 

エルフナイン「…その、あの災禍の魔物を倒した後の霧が気になって」

 

朔也「霧?浄化されて消えただけじゃないのかい?」

 

エルフナイン「そうかも知れません。だけど、そうじゃないのかも…。すみません、漠然とした感覚なのですが、引っかかって…。気にしないでください。多分、前の天のオリオン座の事もあって、僕がきにしすぎなだけだと思いますから」

 

沙織「いえ、気になるようでしたら調べて結構です。調査部にも調べさせましょう」

 

美衣「何もなければそれでいいのですが、何かあってからでは遅いのですから」

 

 

 

調神社

 

 次の日、見回りなどは星矢達に任せて響達は調神社に来た。

 

宮司「これはこれは…満員御礼ですね。結構結構」

 

翼「すみません、こんな大人数で…」

 

響「巫女さんの修業、よろしくお願いします!」

 

宮司「いやはや、こうして娘さんがたくさん集まっているのを見ると、亡くなった孫娘の誕生会を思い出しますな」

 

クリス「だからあんたの孫は一体何歳なんだよ……」

 

響「あーっ、ウサギさんがいる!」

 

未来「本当だ。不思議なウサギってあの子達かな?」

 

 響達もウサギを見つけた。

 

調「私達の仲間です」

 

切歌「そうなんデスよ。何度もあたし達を守ってくれた、大事な戦友なのデス」

 

セレナ「すっごくフワフワなんですよ」

 

響「本当!?だったら触らせて!」

 

 響はウサギに触ってみた。

 

響「お、おおおー、こ、これは凄い…」

 

未来「え、そんなに…?ちょ、ちょっといいかな…?」

 

 未来もウサギに触った。

 

未来「これは、本当に凄いね…」

 

響「ああー、このままずっと撫で続けていたい……」

 

未来「それにすごく大人しいね。何だか落ち着いてるみたい」

 

クリス「…な、なあ、本当に手触りいいのか…?」

 

響「フワフワ、モコモコで最高だよー。顔をうずめてぐりぐりしたいくらい」

 

未来「うん。なんか、癖になりそう…」

 

クリス「そ、そうなのか…」

 

翼「ほら、そろそろ行くぞ。今日はウサギを愛でに来たわけではないのだからな」

 

マリア「そうよ。また後にしておきなさい。心象訓練の舞の修業のために集まったんだから」

 

響「わかりました。ううー、名残り惜しいけどまた後でね、ウサギちゃん!」

 

未来「そうだね。行こう、響」

 

 一同は神社へ向かったが、ウサギはクリスを見つめていた。

 

ウサギ「……」

 

クリス「……」

 

ウサギ「……?」

 

クリス「…ほら、来い来い。撫でてやるから…な?」

 

 ウサギはクリスに近寄った。

 

クリス「よ、よし、あと少し」

 

響「クリスちゃーん、もう始まるよー!」

 

 響が大声を出したため、ウサギは逃げた。

 

クリス「…くっ!この、バカーッ!」

 

響「えええっ!?な、何で!?」

 

 響達も舞の練習を行ったが、苦戦していた。

 

翼「ここでこう…なかなか難しいものだな」

 

響「私、足がこんがらがりそうです。震脚とかならできるのに…」

 

未来「それをやったら、床が抜けちゃうんじゃないかな…?」

 

クリス「うわっ!」

 

 クリスは転んでしまった。

 

クリス「あーもうっ!何なんだよこれは!こんなのできるか!」

 

切歌「クリス先輩、根性デスよ!」

 

調「最初はみんな転びますから」

 

切歌「あたしでもできたから大丈夫デス!」

 

クリス「それはなかなかの説得力だな」

 

宮司「皆さん、よかったら見本を見せてあげてもらえませんか?」

 

 響達は調達の舞の見る事となり、色々と時間が過ぎた後…。

 

宮司「さて、始めますぞ」

 

調「よろしくお願いします」

 

宮司「皆さんは舞の練習中ですし、差し入れとしてキッシュ作りから始めましょうか。ウサギさんにもご飯を用意しませんとな」

 

切歌「楽しみデース!」

 

宮司「では、作り始めましょうか」

 

調「はい」

 

宮司「まずはこれを。これがこの家に伝わる秘伝のキッシュの作り方です」

 

調「すごい細かく書いてある…」

 

切歌「…秘伝なのに教えてもらってもいいんデスか?」

 

宮司「いいのです。むしろ秘伝だからこそ、誰かにこの味を継いで伝えていってほしいんです」

 

切歌「おお、歴史の重みを感じるデース」

 

宮司「そうでしょう、そうでしょう。何しろこれでも、50年の重みがありますからな」

 

切歌「流石デース!」

 

調「…あれ?50年?」

 

切歌「調、どうしたデスか?」

 

調「…このキッシュのレシピって誰が作ったんですか?」

 

宮司「もちろん私ですぞ。これでも若い頃は料理にハマっていましてな」

 

切歌「前言撤回デース…。何の歴史もなかったデス……」

 

 早速、調はキッシュを作ってみた。

 

宮司「これで出来上がりです。どうです?上手く焼き上がりましたか?」

 

切歌「あ、ウサギさん達が来たデス」

 

調「本当だ。これ、食べるかな…?」

 

切歌「ちょっとあげてみるデス」

 

 試しにあげてみたが、ウサギは食べなかった。

 

切歌「…ダメみたいデス…」

 

調「やっぱり…。宮司さんのとちょっと違う気がしてた…」

 

 宮司が味見してみた。

 

宮司「どれどれ…ふむ、そうですな。パイ生地が少しだけ固かったようですね」

 

調「…それだけかな?」

 

宮司「さあ、どうでしょうな。こうして一つずつ直す事で、覚えていくんですよ」

 

調「むー…」

 

切歌「という事は失敗作デスね!あたしが食べるデース!」

 

 また調はキッシュを作ってみた。

 

調「今度はどうだろう?」

 

 結果はさっきと同じであった。

 

切歌「ダメみたいデスね。こんなにおいしいのに…」

 

宮司「何事も経験ですぞ。さあ、もう一度やってみましょうか」

 

 何度も挑戦したが、隠し味の加減ができてなかったりしてなかなかうまくいかず、失敗作のキッシュは切歌が無理をして食べていた。そして……。

 

調「…できた!」

 

 会心の出来のキッシュをウサギにあげると、ウサギは食べ始めた。

 

調「食べてくれた!」

 

宮司「よく、頑張りましたな。免許皆伝ですぞ」

 

調「ありがとうございます。切ちゃん、やったよ!」

 

切歌「…うぷっ!よ、よかったデース……」

 

調「き、切ちゃん!そのお腹…」

 

 キッシュを食べすぎたせいで、切歌の腹は膨れていた。

 

切歌「もう、思い残す事は…ない、デス…。キッシュ…ご馳走、さまデース……」

 

 そう言って、切歌は倒れた。

 

調「切ちゃん!」

 

 災禍の魔物が出現する時間帯になり、装者達は外に出た。

 

調「かなり少なくなったね」

 

切歌「そうデスね。この分だと、もう何日かで全部いなくなるかもデス」

 

クリス「なんだよ、それじゃあたしらが心象訓練やる意味あんのか?」

 

翼「ないという事もないだろう。ギアの可能性を引き出す事に繋がる。それに、今後同じような特性を備えた敵が現れないとも限らないからな」

 

クリス「…確かに、足止めマインってのはどうも性に合わないな」

 

翼「そうは言っても、これも重要な役目だぞ」

 

クリス「わかってるって」

 

響「私達も巫女型ギアに変わればいいんだよ!」

 

クリス「それが簡単にいかないから言ってるんだ」

 

未来「それにしても、本当にこのウサギ、不思議な力があるんだね…」

 

切歌「そうなんデス。何度も守ってくれたデス」

 

セレナ「この子達がいなかったら、危ない事もありました」

 

 隙あらばウサギは調に寄り添って、撫でられていた。

 

ウサギ「……♪」

 

調「よしよし…」

 

響「やっぱり調ちゃんに一番懐いてるね…」

 

切歌「最初からこうだったデスよ。ウサギさん達は調の魅力にメロメロデス」

 

 ウサギは災禍の魔物の気配を感じ取り、警戒した。

 

マリア「どうやら新手が出てきたみたいね」

 

翼「わかるのか?」

 

マリア「私じゃなくてあの子達がね。災禍の魔物が出ると、誰よりも早く反応するの」

 

翼「そんな能力もあるのか…」

 

マリア「とにかく、まだ終わってないわ。急ぎましょう」

 

 調達は災禍の魔物を全滅させたが、少し離れた場所でシャカはその戦いを見ていた。

 

シャカ「……やはり、宮司が鎮めた時と少し違うな…。何事もなければいいが…」

 

 そして夜になり…。

 

宮司「さあ、皆さんどうぞ。たくさん焼きましたので」

 

響「いただきまーす!」

 

 真っ先に響がキッシュを食べた。

 

響「んーーっ、おいしいーっ!」

 

未来「本当…こんなにおいしいの初めて食べた…」

 

マリア「相変わらずおいしい…。自分でも不思議だけど、全く飽きないわ」

 

セレナ「うん。何だか逆に食べないと調子崩しそう」

 

クリス「ふぉんなもんか?んぐっ…はあ。確かにうまいけどよ」

 

翼「私達は2回目だな。あの時はあまり味わう余裕もなかったが…。ん、おいしいな」

 

宮司「それが実はですな…。今日のキッシュの半分は私が作ったものではないのです。半分は月読さんが手伝ってくれましてな。どうですか?」

 

響「どれがどっちかわからないけど、とにかくおいしいです!」

 

マリア「そうなの?それなら今度からは調に頼めば、このキッシュをいつでも食べられるのね」

 

セレナ「よかったね、マリア姉さん」

 

翼「流石は月読だな。ここまで完璧に同じ味に仕上げられるとは…」

 

調「宮司さんが教えてくれたから…」

 

宮司「何を言いますか。それでも1日でここまで完成するとは脱帽ですぞ」

 

響「はあ…おいしいーっ!おかわりありますか!?」

 

未来「…ああの、今度私も教えてもらえませんか?焼けるようになりたいなって…」

 

宮司「もちろん構いませんよ。ただキッシュに関してはもう月読さんも完璧ですからな。そちらに教わるのもいいかも知れません」

 

調「…そ、そんな事はないです」

 

クリス「…なあ、ところでさっきから気になってるんだけどよ」

 

切歌「…なんデスか?」

 

クリス「どうしてお前だけそんな離れた所で違うもん食べてるんだよ?ついでに、えらく質素だな」

 

切歌「これは調が用意してくれた和食御膳デス。…あげないデスよ?」

 

クリス「いや、欲しいとかそういう事じゃなくてな…。お前、キッシュ嫌いなのか?」

 

切歌「大好きデス!調の作ったものは最高のごちそうデス!」

 

クリス「いや、それなら何で…」

 

切歌「それでも限度ってものがあるデスよ…。今日1日は、あたしの体がもう受け付けないのデス…」

 

調「切ちゃん…ごめんね…」

 

切歌「調は悪くないデス!でも…でも、今日だけは違うものを食べさせてほしいデス……」

 

 パヴァリア光明結社との戦いの時のように調神社で寝泊まりする事となった。

 

宮司「皆さんが1部屋では狭いですからな。こちらの部屋も使ってください」

 

切歌「ありがとうデース!」

 

 ふと、調は着物を見つけた。

 

調「あれ?この着物って…、巫女服?」

 

宮司「あ、これは失礼、片付けの途中でしたな。今すぐどかすので、しばしお待ちを」

 

調「あ、待ってください!」

 

宮司「ん?どうかしましたかな」

 

切歌「どうしたデスか、調?」

 

調「あ、いえ、この巫女服…、何だかとても懐かしくて、安心する気が……」

 

 その言葉に宮司は驚いた様子になった。

 

切歌「確かに綺麗な巫女服デスけど、特に変わった感じはしないデスよ」

 

宮司「この巫女服は、昔、娘が着ていたものです。今はもう、着る者はいなくなってしまいましたが…」

 

調「そうなんだ…、あ、すみません、引き留めてしまって」

 

宮司「………」

 

調「宮司さん、どうしましたか?」

 

宮司「いやいや。少し考え事をしておりました。では皆さん、ごゆっくり。おやすみなさい」

 

マリア「…調、そんなにあの巫女服が気に入ったの?」

 

調「そう、なのかな…?」

 

切歌「それなら、お願いして着させてもらったらどうデス?」

 

調「ううん、大切なものだと言ってたからやめとく」

 

セレナ「娘さんが着ていたとか言ってましたね」

 

マリア「ええ、本人は神社ジョークだとか言ってたけど、昔、娘夫婦と孫がいたのは本当なんじゃないかしら」

 

切歌「何かあったんデスかね…」

 

マリア「あったのかもね。でも、私達が聞く事じゃないわ」

 

調「うん、そうだね…。でも、どんな人達だったのかな?」

 

セレナ「…きっと、いい人達だったんじゃないでしょうか?」

 

マリア「ええ、そうね」

 

調「うん」

 

 

 

S.O.N.G潜水艦

 

 ある事が気になっていたエルフナインは調べていた。

 

沙織「エルフナインさん、どうですか?」

 

エルフナイン「…はい、やっぱり少し違う気がするんです」

 

美衣「違う…のですか?」

 

エルフナイン「災禍の魔物の消え方です。確かに一見霧散しているように見えます。しかし…。少々不鮮明ではあるんですが、最初に宮司さんによる祝詞と舞で鎮めたと思われる魔物の消失がこれです」

 

 宮司が鎮めた魔物はその場で霧散していた。

 

沙織「…確かにその場で霧散していますね」

 

エルフナイン「それに対して、今、装者の皆さんが巫女型ギアの攻撃による鎮めで倒した魔物の消失がこちらです」

 

 巫女型ギアで倒した魔物は霧散しつつも、煙のように昇っているようだった。

 

美衣「霧に変わってから…霧散しながら煙のように空へ引かれていますね…」

 

エルフナイン「はい、そう見えるんです。指向性があるという事は、どこかにそれが集まっているのではと…」

 

弦十郎「この前の懸念から、改めて調査部も動かしたが、今のところは順調に龍脈の乱れは改善しているように見える」

 

沙織「それが龍脈以外のどこかに集まっている可能性ですか…」

 

エルフナイン「大地と天のオリオン座の鏡写し。今回の異変の原因が龍脈の操作にあるなら、天のオリオン座も警戒が必要かも知れません。ただ、あれは儀式や準備なしでこちらから干渉できるようなものではないので、見るしかできないのが歯がゆいですけど」

 

沙織「それでも、何かあった時にはすぐに動けるはずです。私達の方でも注意しておきましょう」

 

エルフナイン「ありがとうございます。…僕達は災禍を鎮める事について、専門家ではありません。もっと僕がそういった方面の知識もつけていれば」

 

美衣「今更、そう思っても何も始まりません」

 

弦十郎「1人ではできない事をやるために、S.O.N.Gが…俺達があるんだ」

 

エルフナイン「はい」

 

 

 

調神社

 

 同じ頃、みんなが寝付いた頃にシャカはある気配を感じ取っていた。

 

シャカ「(この気配…、私が感じたのはこの気配だ。どうやら、夜にならねばこの気配は出てこないようだ…)」

 

???『ふふふ、わらわの存在に気付く人間がおるとはな…』

 

シャカ「私は年末の時から薄々ではあるが気付いていたぞ。君は何者なのかね?」

 

???『それはまだ秘密じゃ。それにしても、お主は普通の人間とは違う…。まるで、輪廻の輪から外れたはずの仏陀の生まれ変わりのようじゃ』

 

シャカ「周りにもよくそう言われている。そして、私は幼き頃より、神仏と会話してきた神に最も近い男、シャカなのだからな」

 

???『神に最も近い男か…。シャカよ、その名は覚えておこう』

 

シャカ「君と調神社に現れたウサギは関わりはあるのかね?」

 

???『それはお主の想像通りという事にしておこう。シャカよ、この事態が終わればお主の気が向いた時に話をしようではないか』

 

 何者かは話を終える際、気が向いたらまた話をする約束をした。そして翌日…。

 

宮司「さて、今日の修業ですが、せっかくですから精神修養をメインに行いましょうか。舞の動きを学ぶ事も大事ですが、舞とは神にささげるもの、未熟な精神では舞にはなりませんからな」

 

マリア「それはいいですね。私達も参加できますし」

 

調「うん」

 

切歌「はい、特訓の提案があるデス!」

 

宮司「おや、名案がおありですかな?」

 

切歌「みんなで座って、板でバチン!ってやるのをやってみたいデス!」

 

翼「坐禅の馨策の事か?あれは」

 

シャカ「翼よ、日本の宗教は基本的にごちゃまぜなのだ。細かい事は気にせずにやってみたまえ」

 

響「ごちゃまぜって…どういう事?」

 

宮司「お寺は仏教、神社は神道になりますな。崇め奉るものが違うのですよ。ですが、シャカさんの言う通り、神と仏を同じ存在とみなす考えなどは日本の宗教がごちゃまぜだというわかりやすい証なのですぞ」

 

未来「そういえば、神様と仏様は同じ存在だという考え方は今でも多くの人に染みついているよ」

 

シャカ「だから切歌よ、細かい事は気にせずに座禅をやりたければやってみたまえ」

 

宮司「シャカさんのお言葉に甘えて、やってみましょうか」

 

未来「いいんですか!?」

 

切歌「シャカに宮司さん、話がわかるデース!」

 

宮司「神社での精神修養となれば、本来は瞑想になりますが、形の問題をのぞけば座禅も瞑想も同じようなものです」

 

シャカ「現に私も普段は瞑想をしているのだからな」

 

宮司「雑念を捨て、精神を穏やかに保つ。そして集中が乱れた際は、最終ちゅうの区切りとして警策で叩く。…しかしここは神社。警策は流石においてありませんでな。代わりに、こんなものではどうですかな?」

 

 宮司が用意したのは意外なものだった。

 

切歌「な、なんデスと!?それはお笑い御用達の!?」

 

調「ハリセン……どうしてそんなものが?」

 

宮司「いや、以前に社務所に置く商品の検討をしていた事がありましてな。その時サンプルで作ったのですよ」

 

マリア「何を作ろうとしていたのよ…」

 

宮司「いやあ、それにしてもこれが役に立つ日が来るとは。私も興奮を禁じ得ませんぞ」

 

 早速、始める事となった。

 

宮司「それでは1人が警策役という事でいかがですか?流石に私がみなさんを叩くのは、気が引けますので」

 

切歌「…はいはい、あたしがやるデース!」

 

マリア「…ちゃんと真面目にやるのよ?」

 

切歌「もちろんデス!」

 

シャカ「せっかくだから、私も参加しよう」

 

 シャカも参加して精神修養が始まった。しばらく沈黙していたが…。

 

響「…ぷっ!くくっ…」

 

切歌「デース!」

 

 響が最初に叩かれた。

 

響「あいたっ!うう、こういう沈黙苦手なんだよね…」

 

切歌「問答無用デース!」

 

 再び沈黙が続いたが、ウサギが来て、クリスの足に触れた。

 

クリス「……うわっ!」

 

切歌「クリス先輩アウトデース!」

 

 次はクリスが叩かれた。

 

クリス「今のはあたしは悪くないだろ!このウサギ達が足に当たって」

 

切歌「何事も集中デース。集中していれば、気にならないはずデス。少しはシャカを見習うのデス!」

 

 シャカはいつものポーカーフェイスで瞑想していた。それから…。

 

切歌「マリア、動いたデス!」

 

 マリアが叩かれた。

 

切歌「あ、セレナ。服に蜘蛛が付いてるデスよ。…隙ありデス!!」

 

 セレナも叩かれた。

 

切歌「未来さんも動いたデース!」

 

 今度は未来が叩かれた。

 

切歌「ぐっ、例え調といえど、ここは手を抜くわけにはいかないデス!ゆるデス、調!」

 

 次は調が叩かれた。

 

調「あっ!」

 

切歌「そして、翼さんも何だかちょっと動いた気がするのでアウトデス!」

 

 翼も叩かれたのであった。

 

翼「な、なぜだ!?」

 

 シャカの方は、ウサギが来ても虫が止まっても全く動じなかったため、切歌も金縛りにあったかのように動けなかった。

 

切歌「ううっ……、シャカは全く隙がないのデス……」

 

 切歌も全く隙がないシャカを叩く事はできず、ただ立ち尽くす事しかできなかった。そうしているうちに昼が近くなった。

 

宮司「はい、これくらいにしましょうか。もうすぐお昼の時間になりますからな」

 

切歌「ああ、楽しかったデース…。こんな修業なら毎日やりたいデスねー」

 

 しかし、切歌はマリア達から睨まれていたが、それに気づいていなかった。

 

切歌「さて、お昼はなんデスかねー」

 

シャカ「待ちたまえ。まだ終わっていない」

 

切歌「……へ?」

 

マリア「そうね。全員で精神修養を行う予定だったわよね。…1人、まだやってないわよ?」

 

切歌「え?で、でも…」

 

響「うん、やっぱりみんなでやらないとね!」

 

翼「ああ、平等にやるべきだ」

 

セレナ「そうですよね。瞑想側はやったので、私そっちをやってみたいです」

 

切歌「ま、まさかーーー!?」

 

未来「宮司さん、ハリセンって他にもありますか?」

 

宮司「人数分ならちゃんと用意してありますよ」

 

切歌「デデデデース!?なんであるデスか!?」

 

シャカ「それでは始めようか。安心したまえ、私のようにきちんと瞑想していれば響達は叩いたりしない」

 

響「そうだよ!切歌ちゃんが集中してれば大丈夫!」

 

クリス「そうだな。でも、瞑想中にウサギ達が来たりするかもな?」

 

セレナ「虫さんとか付いたりもあるかも知れません」

 

未来「耳に息を吹きかけられたりとかも、ね?」

 

切歌「そ、それでも…動かなければいいだけデス!」

 

翼「そうだな。だが、本人が動いていないと思っていても、叩く側が動いたと思えばアウトになるからな」

 

 みんな笑顔で語っていたが、シャカ以外は明らかに怒っていた。

 

切歌「はっ!?デ、デース!!どうやっても叩かれるって事デスか!?」

 

調「切ちゃん、自業自得」

 

シャカ「私のように動かなければいいだけの事だ。もしも動けば…私はハリセンで叩かない代わりに技を繰り出すとしよう。技の中で天魔降伏と六道輪廻、天舞宝輪のうち、どの技を喰らいたいかは切歌に選ばせるとしよう」

 

切歌「どれも嫌デース!」

 

 結局、切歌は動いたために文字通りに袋叩きにされた。

 

切歌「ご、ごめんなさいデース!」




これで今回の話は終わりです。
今回は巫女型ギアによる反撃と調のキッシュ作り修業に巫女服が懐かしく感じた事、シャカが気配の元と会話するのと精神修養を描きました。
シャカが会話した主は今回はまだ正体不明なものの、ギャラルホルン編で再登場します。
精神修養ですが、精神修養で話の区切りをした方がキリがいいと判断して詰め込みました。シャカを今回の話に登場させたのは、メインは気配を辿って会話した何者かよりもこの精神修養に出したかったからです。
次の話で災禍の魔物との決着が着きます。

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