セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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185話 ヴァンパイアハンター

 

 大声でヴラドを挑発した輝火は迫る狼やコウモリを赤子の手をひねるかの如く黒炎で焼き尽くしていった。ある程度敵を焼き尽くしていると、輝火の挑発に乗ってヴラド本人が来た。

 

輝火「やっと来たか。てっきり、俺に恐れをなしたのかと思ったぞ」

 

ヴラド「人間の分際で我をここまで侮辱したのはお前が初めてだ。このヴァンパイアを統べる我の恐ろしさを知らんようだな」

 

輝火「ふん、惰弱な吸血鬼の恐ろしさなど知らん。貴様はハーデス様が降臨なされる際の邪魔になる。とっとと俺の炎に焼かれて燃え尽きてしまえ!!」

 

ヴラド「大した自信だな。ならば、その自信を打ち砕き、我を侮辱した罰としてヴァンパイアの恐怖を存分に叩き込んだ上で貴様を八つ裂きにしてくれようぞ!!」

 

 輝火とヴラドは激突した。ヴラドは装者を圧倒したその実力で輝火を倒そうとしたが、輝火には全く攻撃が当たらなかった。

 

ヴラド「我の攻撃が…かわされた?」

 

輝火「……とんだノロマだな。やはり、貴様は惰弱な吸血鬼だ。何がヴァンパイアの恐怖だ?この俺からすればただの薄汚い図体がでかいだけの吸血コウモリではないか!」

 

 ヴラドを罵倒し、輝火は強烈な膝蹴りを叩き込んだ。

 

ヴラド「ぐはっ!」

 

輝火「貴様は所詮、惰弱な人間しか相手にした事がない惰弱な吸血鬼だ!上には上がいる事を全く知らなかったようだな」

 

ヴラド「薄汚い図体がでかいだけのコウモリ…?上には上だと!?このヴァンパイアを統べる我を超える人間がいるものか!!人間は我らの眷属になるか、血を捧げるか、八つ裂きにされる他ないのだ!!鎧を装備しただけの小僧にコケにされるこのような現実を認めてたまるものか!!!」

 

 輝火に『薄汚い図体がでかいだけの吸血コウモリ』と罵倒され、プライドを傷つけられたヴラドは激昂して再び襲い掛かったが、またしても輝火の猛攻に遭い、今度は頭を掴まれてしまった。

 

ヴラド「うぅっ…!」

 

輝火「これで終わりか?」

 

ヴラド「…これ程の強さならば、我が眷属となるがいい!!」

 

 掴まれたのをチャンスとみたヴラドは輝火に鮮血の針を刺したが、冥衣に阻まれて折れてしまい、刺さらなかった。

 

ヴラド「な、何ッ!?」

 

輝火「そんなチンケな針で俺を吸血鬼にできると思うな!もっとも、冥闘士もある意味では貴様ら吸血鬼と似た不死者なのだから刺さっても効果はないがな」

 

ヴラド「そ、そんな…!」

 

 この時、ヴラドは今まで殺戮の対象としてきた人間相手に初めて恐怖心を抱き、怯えていた。

 

輝火「惰弱な吸血鬼である貴様など、俺の黒炎で燃え尽きてしまえ!!」

 

ヴラド「ああああああああっ!!熱い、熱い、熱い~~~~ッ!!!」

 

 輝火は掴んでいるヴラドを黒炎で燃やした。燃やされたヴラドは慌てて頭の一部を切断し、大勢の狼とコウモリを残して逃げたのであった。

 

輝火「こんな数の雑魚を置いて逃げるとは、所詮は惰弱な吸血鬼か…!」

 

 狼とコウモリの大群を一瞬で焼き尽くした後、輝火はそのまま野宿し、眠りについた。眠りについている間、ヴラドの手下の狼とコウモリは輝火に恐れをなし、襲う事はなかった。

 

 

 

荒野

 

 翌朝、戦い続きで疲れ、寝ていた切歌は起きてヴラドの本拠地を目指していた。

 

切歌「(夜が明けて進んでいたら、黒焦げの狼やコウモリがあちこちに転がってたデス…。あの冥闘士はあたし達の味方じゃないけど、ヴァンパイアの味方でもないから、そこは安心したデス…)」

 

 そんな中、通信機に履歴があった。

 

切歌「あれ?寝てる間にマムから通信があったデス!こちら切歌。マム、応答してほしいデス」

 

ナスターシャ『よかった、無事でしたか。連絡がとれなかったので心配しましたよ』

 

切歌「ご、ごめんデス。ちょっとだけ寝てたデスよ」

 

ナスターシャ『いえ、あなたが無事ならばいいのです』

 

切歌「(マムの声を聞いて少し落ち着いたデス…)」

 

ナスターシャ『そちらの状況は?怪我などはありませんか?』

 

切歌「何にも問題ないデスよ。ただ、雑魚の狼やコウモリも、夜になったら強くなって大変だったデス。おまけに、冥闘士がやったと思う爆発音も何度かしたデス」

 

ナスターシャ『確かに、主であるヴァンパイアの特性を考えると、あり得る話ですね。爆発についても、こちらでも反応がありました。なるべくなら、弱体化した昼に退治したいところですが…』

 

切歌「あたしもそう思ってたところデス」

 

ナスターシャ『向こうは逆に昼の遭遇は避けてくるかも知れません。今のうちにアジトまで進んだ方がいいですね』

 

切歌「わかったデス。ところで、マリア達の手術はどうなんデスか?」

 

ナスターシャ『まだ終わる様子がありません。相当な大手術を行っているのでしょう…』

 

切歌「そうデスか…。ところで、狼とかは来たデスか?」

 

ナスターシャ『いえ、来ておりません。恐らく、切歌とあの冥闘士を警戒しているのでしょう』

 

切歌「なら、あの戦いも無駄ではなかったデスね。ところで、増援は来たデスか…?」

 

ナスターシャ『まだ来ておりません…』

 

切歌「そうデスか…」

 

ナスターシャ『切歌…大丈夫ですか?』

 

切歌「だ、大丈夫デスよ。昼のうちに少しでも進むデス。それじゃ、また」

 

ナスターシャ『ええ。気を付けるのですよ』

 

 切歌は通信を切った。

 

切歌「はぁ…。…さあ、今日こそケリをつけるデスよ!」

 

 切歌は前進した。

 

 

 

???

 

 命からがら逃げ帰ったヴラドは不死であるのにも関わらず、輝火になすすべもなく敗北したショックが抜けていなかった。

 

ヴラド「なぜだ…?なぜ、ヴァンパイアを統べる我があのような人間になすすべもなく敗れたというのか…?不死たる我に死の恐怖を抱かせたあの小僧は、何者なのだ…?」

 

 ヴラドはオリンポス十二神や天闘士などといった自分を遥かに凌駕する戦士の存在を知らないため、輝火になすすべもなく敗れた事で不死たる自分こそが最強というプライドを打ち砕かれてしまったのであった。

 

ヴラド「何なのだ…?眷属となりゆく者達の脈動が感じられなくなっていく…。なぜだ?なぜなのだ!?こうなれば…、鎌の対処も大事だが、何としても我に屈辱を味あわせたあの黒炎の不死鳥は我の誇りを踏み躙った!そんな奴の存在など許さぬ!必ずや倒してくれようぞ!!」

 

 輝火という、自分以上の実力を持つ存在が出現した事などが重なり、ヴラドに余裕はなくなっていた。

 

 

 

 

 一方、切歌は深い森に入った。

 

切歌「ずいぶんと鬱陶しい森デスね…(まだ昼なのに、薄暗くてムチャクチャ不気味デス。この奥にあいつの本拠地があるっていうのも、確かに納得の雰囲気デスよ)」

 

 既に輝火が先を行っていたせいか、コウモリや狼はほとんど出なかった。

 

切歌「ほとんど狼やコウモリが出てこないデス…。もしかして、あの冥闘士があたしの代わりにヴァンパイアを倒しに行ってくれた…わけないデスよね…。これなら、すぐにあいつを」

 

???「あいつとは我の事かな?」

 

切歌「そ、その声は…?」

 

 声の主はヴラドであった。しかし、輝火との戦闘の際の火傷や傷があちこちにあった。

 

切歌「(あの傷と火傷…、もしかして…)」

 

ヴラド「見つけてどうするつもりだ?」

 

切歌「ヴァンパイア、わざわざねぐらから出てきたデスか!(って、あれ?今は昼デスよね…。まさか、ヴァンパイアは日の光に弱いっていうのは、嘘だったデスか?いや、ここは日の光があまり入らないから平気って事デスかね?…どちらにしても、向こうからやってきてくれて、手間が省けるデス)」

 

ヴラド「招かれざる来訪者が近づいていると、我が下僕どもが騒がしくてね。それに、今の我はとても機嫌が悪いのだよ!さっさと我が同胞になるか、八つ裂きになりたいか、どちらが望みだ!?」

 

切歌「デデデッ、物凄く怒っているデスよ…!(やっぱり、ヴラドはあの冥闘士にやられて機嫌が悪くなっているのデスか…?)」

 

 ヴラドの機嫌が悪く、殺気立っているために切歌はギアを装着し、戦闘に臨んだ。

 

ヴラド「我が名はヴラド、ワラキア公ヴラド三世、ヴァンパイアにして、夜を統べる王なり。君が選ばないというのなら、我がどうするのか決めるぞ!!」

 

 輝火に負けてプライドをズタズタにされたために機嫌が悪かったため、ヴラドの攻撃は激しく、切歌1人ではとても勝ち目はなかった。

 

ヴラド「まだまだ黒炎の不死鳥にやられた我の苛立ちは収まらんぞ!」

 

切歌「(うぅ…、あいつの機嫌が悪いという、最悪の事態なのデス…。本当に、あたし1人でこいつを倒せるデスか…?…いや、あたしがやらなきゃ、調達が…。それだけはダメデス)絶対に…絶対に、みんなを助けるデス!(どうにか隙を作って、この銃を…)」

 

ヴラド「うおおおおおっ!!」

 

 ヴラドの猛攻は続いたが、火傷に注目した。

 

切歌「火傷…、いちかばちかでやるデス!」

 

 冷静さを欠き、輝火との戦闘でできた火傷を負っていたヴラドに対し、切歌は火傷した箇所を攻撃した。

 

ヴラド「ぬあああっ!!」

 

 切歌の考え通り、ヴラドは火傷した箇所を攻撃された苦しんだ。

 

切歌「今デス!」

 

ヴラド「その銃…。ま、まさかそれは!?」

 

切歌「喰らうデス!」

 

 銃の引き金を引いた切歌だが、ヴラドにかわされてしまった。

 

切歌「かわされた!?」

 

ヴラド「あんなものに当たってなるものか!」

 

 そのままヴラドは切歌の背後に回った。

 

切歌「後ろ?いつの間に?」

 

ヴラド「やはり、あの時の銀の弾丸か。前にも増して忌々しい!頼みの切り札も無駄に終わったようだな」

 

切歌「あ、ああ…(あたし達の最後の希望を…。あたしは、無駄にしてしまったデスか…。)」

 

ヴラド「さあ、下僕にしてやるぞ!そうすれば、家族とやらと一緒に過ごせるのだからな」

 

切歌「まだ…まだデス!(こうなったら、イガリマの絶唱しかないデス!でも…、絶唱を使ったら、あたしは…。それにエンブリヲというトンデモみたいにすぐ蘇る可能性も否定できないデス…)」

 

ヴラド「ふん、何かあるようだが、我はそれを受け止めてみせようぞ!」

 

切歌「あたしを…イガリマを舐めないでほしいデス!そんなに両断されたいなら、見せてやるデスよ…(あたしが死んでも、こいつを倒せばみんなは助かるデス。…それなら、みんなのためなら、やってやるデスよ!さよならデスよ…、みんな…)」

 

 そんな時、何かが現れた。

 

ヴラド「むっ!?何だと!?」

 

切歌「誰デスか!?」

 

ヴラド「き、貴様は……クルースニク!?おのれ、我をコケにした黒炎の不死鳥に続いて忌まわしきヴァンパイアハンターめが!なぜ蘇ったかはわからぬが、今一度その息の根を止めてやろう!」

 

 クルースニクに攻撃したヴラドであったが、すり抜けてしまった。

 

ヴラド「攻撃が当たらぬ、だと…?ああ、そういう事か。わかったぞ。ミイラ取りがミイラならぬ、ヴァンパイアハンターが亡霊になり果てるとは、とんだお笑いぐさではないか」

 

切歌「亡霊…?」

 

ヴラド「先程外した弾丸の思念体といったところだろう」

 

 その問いにクルースニクは図星ともいうべき反応を見せた。

 

ヴラド「図星のようだな。だが、今回は我は非常に機嫌が悪い!その小娘共々、叩きのめしてくれようぞ!!」

 

 ヴラドに全く余裕がない事にクルースニクは違和感を抱き、切歌の傍に来た。

 

切歌「(こ、こっち向いたデス…)」

 

クルースニク「そこの少女に問おう」

 

切歌「あ、あたしに…、デスか…?」

 

クルースニク「俺達ヴァンパイアハンターの使命はヴァンパイアを討ち滅ぼす事」

 

切歌「ヴァンパイアハンター…?」

 

クルースニク「お前は、その使命を受け継ぐ意志と覚悟はあるか?」

 

切歌「受け継ぐ…意志と覚悟…?」

 

クルースニク「あるならば、俺はお前に力を貸そう。忌まわしきヴァンパイアを討ち滅ぼすための力を」

 

切歌「それは、命に代えても…って事デスか?」

 

 その問いにクルースニクは答えなかった。

 

切歌「(ごめんデス…、マム…。命に代えても…なんて軽々しく言っちゃいけないの、わかってるデスよ。でも、やっぱりあたしは…。この命に代えてでも、守りたいものがあるんデス。マリア、調。それに、この世界で生きてたセレナとマム…。あたしに残された大切な家族を!みんながいなくなったら、あたしだけ残っても意味がないデスから…)…あいつを倒せるなら、何だってやってやるデス!」

 

クルースニク「ならば、授けよう。俺達の知識と力と、そして想いを」

 

 クルースニクは銃を切歌に向けた。

 

切歌「(あの銃を、あたしに…)な、何を?」

 

 クルースニクが引き金を引いて銃弾が切歌に当たると、切歌は不思議な光景を目の当たりにした。

 

切歌「(何デス、これは…記憶?)」

 

 

 

???

 

 そこは、ヴァンパイアの本拠地と思わしき場所だった。

 

クルースニク『(十字架を背負いし者、クルースニク。ヴァンパイアハンターの宿命を持って、俺は生まれた)』

 

ヴラド「まさか、ここまで追ってくるとはな」

 

クルースニク「地の果てだろうが探し出すさ。それが我が一族の天命なのだから」

 

クルースニク『(そう。我々は主の教えに背き呪われた存在。ヴァンパイアを狩る事を、その天命としていた)』

 

ヴラド「あの時磨り潰したはずの一族に貴様のような生き残りがいようとは…。抜かったわ」

 

クルースニク『(我が一族は、奴との大戦を繰り広げ、そして奴と奴の眷属によって皆殺しにされてしまった。ただ、俺一人を残して…。俺は奴の足跡を追い続けた。何年も、何年も…。そして、遂に辿り着いた。奴のこの根城まで)』

 

ヴラド「だが、その因縁もここまで。今宵、この城が貴様の墓標となる」

 

クルースニク「それは…、こっちのセリフだ!」

 

クルースニク『(仕留めなければならない。最後のヴァンパイアハンターとして残してはならない。後世に、ヴァンパイアの痕跡を、その一片たりとも。そう…例え、俺のこの命を引き換えにしてでも)』

 

 それは、クルースニクとヴラドの戦いの光景であった。

 

切歌「これが、ヴァンパイアハンターの戦い…。これがヴァンパイアハンター達の…、この人の想いなんデスか?」

 

クルースニク「そうだ、異境の娘よ。俺達は待ってた。我らの力、我らの想いを、受け継ぐ者が再び現れる日を」

 

切歌「わかったデス…。その想い、あたしが受け継ぐデスよ!」

 

 

 

 

 ヴラドからしたら、何をしているのかわからなかった。

 

ヴラド「ええい、何をしているのかわからぬが、すぐにでも八つ裂きにしてやらねば気が済まぬ!来たれ、我が忠実なる下僕どもよ!」

 

 呼ばれると、手下の狼とコウモリがやってきた。

 

ヴラド「さっさと狼共の餌になるか、我が眷属になるかを選べ!」

 

 そんな時、眩い光が放たれた。

 

ヴラド「なっ!?何だ、この忌まわしい光は…?」

 

 狼とコウモリ達はあっという間に倒されてしまった。

 

ヴラド「我が下僕達が一瞬で…?」

 

 今度は鮮血の針を放ったものの、輝火の冥衣に阻まれて刺さらなかった時のように、針が弾かれてしまった。

 

ヴラド「しかも、我が針をも弾いただと!?この懐かしくも忌まわしい気配…。まさかヴァンパイアハンターの!?」

 

 なんと、切歌のギアが変化していたのであった。

 

切歌「このギアは、一体…」

 

クルースニク『今お前に託したのは、俺達ヴァンパイアハンターが長年培ってきた対吸血鬼戦の知識や技術の結晶。つまり、俺達の力の一部だ』

 

切歌「それって、さっき夢みたいなので見た時にデスか?」

 

クルースニク『ああ…俺の残した想いを、記憶を、垣間見たのだろう。どうやら、それがお前の纏う装束に干渉したらしい』

 

切歌「想いが、ギアに干渉…もしかして心象変化デスか?」

 

ヴラド「何を1人でぶつぶつとつぶやいている?クルースニクの亡霊はどこに行った!」

 

切歌「お前こそうるさいデスよ!ヴァンパイアハンター達の残した想いと力、あの人に代わってあたしが見せてやるデス!」

 

ヴラド「クルースニクの想いと力、だと…?ええい、我を超える者の存在に仇敵たるハンターと再び相まみえるとは!この時代は一体、どうなっているのだ!?」

 

 癒えていない火傷の痕があったため、切歌はヴラドに着実にダメージを与え、倒す事に成功した。

 

ヴラド「ぬおおおおおっ!!」

 

切歌「やったデスか!?」

 

クルースニク『ああ、完全に捉えたはずだ。だが…待て、様子がおかしい』

 

ヴラド「ふふふ…、保険をかけておいて正解だった…。まだ、我の傷は癒えていないのだからな…」

 

 ヴラドは塵になり、消えたのであった。

 

切歌「塵になって消えた…倒したデスか?」

 

クルースニク『ちっ、どうやら分身だったみたいだな…』

 

切歌「分身デスか?それじゃあ…」

 

クルースニク『ああ、油断するな。奴の力はこんなものじゃない(日の高い時間に現れておかしいと思ったが…、そういう事か)』

 

切歌「倒したと思ったのに…」

 

クルースニク『だが、お前の力は確かに奴に通じていた。奴も分身を喪って多少なりとも力を削がれているはずだ』

 

切歌「だといいデスけど…」

 

クルースニク『聞きたい事がある。ヴラドに火傷の痕があったが、一体誰があれ程の火傷をヴラドに負わせたんだ?』

 

切歌「火傷…。あたしは見てないのデスけど、多分ベヌウの冥闘士の仕業なのデス…」

 

クルースニク『冥闘士?あんなに恐ろしかったヴラドを凌駕する奴がいるとでもいうのか!?』

 

切歌「いるのデス…」

 

クルースニク『こいつは厄介だな…。俺達を襲ってこないといいが…』

 

切歌「あっ、そういえば…」

 

クルースニク『どうした?』

 

切歌「さっき、あいつが投げてきた針を弾いたデス。確か、あっちの方に…」

 

 その方向に弾かれた鮮血の針があった。

 

切歌「あ、あそこにあるデス!」

 

 ところが、狼が咥えてしまった。

 

切歌「あ、狼が咥えて…」

 

 そのまま狼は逃げてしまった。

 

切歌「狼の癖にネコババデスか!待て、返すデスよ!うぅ…」

 

 疲労のせいか、切歌は動けなかった。

 

クルースニク『無理をするな。急に慣れぬ力を使ったのだ。少しは身体を休める必要があるだろう』

 

切歌「わかったデス…」

 

 やむなく、切歌は身体を休める事にした。

 

 

 

研究所

 

 その頃、丸一日近くかかっていたマリア達の手術がようやく終わったのであった。

 

ナスターシャ「マリア達はどうなのですか…?」

 

モノクルの男「………大成功ですよ!」

 

 手術が成功した事にナスターシャはほっとした。

 

ナスターシャ「という事は…、ヴァンパイアの眷属にならないという事ですね?」

 

モノクルの男「その通りです。手術は成功しました。ですが、何かしらの後遺症が残っている可能性はあると思います。今後は経過を見て、何かしらの異常がないかの検査を行ってください」

 

ナスターシャ「わかりました。ともあれ、マリア達が助かったのはあなたのお陰です」

 

モノクルの男「照れますねぇ、マリアちゃん達の寝顔も手術前よりもよくなって、気持ちよさそうに寝ていますよ」

 

 モノクルの男に変装している杳馬が言った通り、手術後のマリア達の熱は下がり、気持ちよさそうに寝ていた。

 

モノクルの男「それじゃあ、お大事に」

 

 研究所を出た後、杳馬は白衣やモノクルをとって元の服装に戻った。

 

杳馬「これでマリアちゃん達の吸血鬼化は回避されたぜ。だけど、とびっきりの仕掛けを仕込んでいるからな。マリアちゃん達の身体に刺さっていた針に細工した仕掛けがな。仮に賢者の石を使ってそれを解除したとしても…」

 

 不気味な笑みを浮かべ、杳馬はその場を去った。

 

 

 

 

 色々あった後、夜になった。

 

切歌「そうこうしている内に、また夜になってしまったデスよ…」

 

クルースニク「夜こそ奴等の本領だ。くれぐれも油断するな」

 

切歌「わかってるデス。あ。そういえば、紹介がまだだったデスね。あたしの名前は暁切歌です。改めてよろしくお願いするデス」

 

クルースニク「暁か…。まさにヴァンパイアを滅ぼすのにはふさわしい名だな」

 

切歌「そ、そうデスかね…」

 

クルースニク「ああ、実に良い名だ。これも運命か…。…俺は、ヴァンパイアハンターのクルースニクだ…。もっとも、俺の事は既にある程度承知だろうがな」

 

切歌「飛び飛びデスけど、記憶を見たデスからね」

 

クルースニク「お前は、その年齢で化け物を相手に戦っているのか?確かに若い戦士はいないわけではないが…」

 

切歌「まあ…昔からそうでしたからね。今ではこれが当たり前デス」

 

クルースニク「そうか。ならば、俺と似たようなものだのだな」

 

切歌「そうなんデスか?」

 

クルースニク「ああ。我らヴァンパイアハンターは、生まれた時からヴァンパイアと戦う宿命を負わされた者達だ」

 

切歌「例の一族とかいう…」

 

クルースニク「一族とはいっても、血縁とは限らない。ハンターとしての印を持って生まれた子供達を引き取って、戦士として育てるのだ」

 

切歌「それじゃ…ますますあたしと同じデスね(まるでフィーネの器として選ばれた、あたし達レセプターチルドレンみたいデス)」

 

クルースニク「そうか…だからこそ、お前の魂に共鳴したのかも知れないな」

 

切歌「ところで…」

 

クルースニク「どうした?」

 

切歌「なんか、さっきとはずいぶん印象が違うデスね。思ったより静かな感じデス」

 

クルースニク「いや…ヴァンパイアとの戦いとなると、どうにも激昂してしまってな…」

 

切歌「なるほどデス。それだけ想いが強かったんデスね…」

 

クルースニク「…かも知れん。だからこそ、その銀の弾丸に俺の意識が宿ったのだろう」

 

 切歌は回収した銀の弾丸を見つめた。

 

切歌「さっき、樹から回収した、この弾デスね…」

 

クルースニク「こうして話しているのが、俺自身の魂なのか、それともただの意識の残骸なのか、わからない。ともかく、こうして再び目覚めた以上は、今度こそ、どんな形ででも奴を完全に滅ぼすつもりだ。もっとも、身体もない今となっては、お前にわずかな助力をするぐらいしかできないがな」

 

切歌「そんな事ないデス。お陰で、何とかあいつと戦える自信がついたデスよ。でも…そもそも、あのヴァンパイアは何者なんデスか?」

 

クルースニク「奴の名は、ヴラド三世だ」

 

切歌「ああ、確かそんな名前を名乗ってたデスね」

 

クルースニク「まさか、その名を知らぬのか?」

 

切歌「…聞いた事ないデス」

 

クルースニク「この時代では忘れ去られた存在なおんかも知れないな…。俺が倒した事で、後世にその名が伝わらなかったのだろうか。まあいい。ともかく奴は、ある地方を治める貴族だった男だ。なぜ吸血鬼なんて怪物になったのか…。いや、最初からそうだったのか、詳しい事はわからない。己の領土に攻めてくる敵をはじめ、その内に同じ貴族や領民たちを残忍な方法で殺し、その様を楽しむようになった。それが人々の間に噂として広がり、奴は怪物だと恐れられるようになったのだ。何年たっても変わらぬ外見、およそ人の心を持つと思えぬ所業、いつの間にか領内に現れるようになった数多の化け物達…。奴は生き血を啜るヴァンパイアの王…。いつしか、そう呼ばれるようになっていた。そうして、遂に俺達ハンターに話が回ってきた。奴を滅ぼしてほしい、とな。だが、奴は俺達の予想以上に強かった。長い年月で大量の血を吸って力をつけた奴は、多くの眷属と下僕を率いて、俺達を迎え撃った。俺の仲間は1人、また1人と奴によって倒され、気付けば俺だけが残っていた…。俺は命を賭して最後の戦いを挑み、奴に銀の弾丸を撃ち込む事に成功した…。だが…」

 

切歌「だが、何デスか?」

 

クルースニク「いや…何でもない。それで俺は相打ちになり、さっき目覚めて、今に至るといったところだ」

 

切歌「そうだったんデスね…」

 

クルースニク「他に、何か知りたい事はあるか?」

 

切歌「さっきあいつを倒した時、分身とか言ってたデスけど…。確かなんデスか?」

 

クルースニク「その通りだ。あれは奴の本体じゃなかった」

 

切歌「でも、何で分身なんデスか?」

 

クルースニク「薄暗かったとはいえ、日中は奴の力は半減するからな。警戒したのだろう」

 

切歌「だから代わりに分身を…。やっぱり、ヴァンパイアは日の光に弱いんデスね。あ、分身って事は、あいつを倒しても鮮血の針の呪いは…」

 

 そんな時、通信が入った。

 

ナスターシャ『切歌、あのモノクルの医師の手術が終わってマリア達の容態が安定しました』

 

切歌「ほ、本当デスか!?」

 

ナスターシャ『ええ。ですが、まだ後遺症などが残っている可能性もあるので経過に注意が必要と言われましたので、ヴァンパイアを倒しておく必要はあるでしょう。気を付けるのですよ』

 

切歌「わかったデス!」

 

 切歌は通信を切った。

 

切歌「早くパルティータか瞬が来てほしいデス…」

 

クルースニク「どうした、あの針に刺された仲間でもいるのか?」

 

切歌「そうなんデス…。あたしの家族が…って、研究所の事は覚えてないデスか?」

 

クルースニク「ああ。俺自身が目覚めたのは、本当にさっきの事だからな」

 

切歌「銀の弾丸が起動した時じゃなかったんデスか…」

 

クルースニク「恐らくは弾丸としてヴァンパイア相手に使われた事で、眠っていた俺の思念が目覚める事ができたのだろうな」

 

切歌「そうだったんデスか…。やっぱり、あの針を持って行かれたのが悔やまれるデス…。でも、あのお医者さんのお陰で進行は止まったと思うから、大丈夫デスけどね。あとは賢者の石が来れば…」

 

クルースニク「見てないからどうこう言う権利は俺にはないが、その医者は信用できないな。賢者の石とやらがどんなものかは知らんが、奴を倒さねば呪いは完全には解けないのだからな」

 

切歌「賢者の石は使ってみなければヴァンパイアの呪いに効くかどうかわからないのデスか…」

 

クルースニク「俺から質問だが、ヴラドにあれ程の傷や火傷を負わせる事ができる戦士は本当にいるのか?」

 

切歌「勿論、いるデスよ。光速で動いたり、1秒間に1億発ものパンチを放ったり、絶対零度の冷気を放ったりする戦士が結構いるのデス」

 

クルースニク「1秒間に1億発や絶対零度の冷気だって!?……世の中、上には上がいるものだな…。もう質問がないなら、少しだけでも寝ておくがいい。その間は俺が見張っていよう」

 

切歌「それじゃ、お言葉に甘えてそうさせてもらうデス…」

 

 疲れた切歌は寝る事にした。

 

 




これで今回の話は終わりです。
今回は輝火とヴラドの対決と分身ヴラドとの戦闘の際に切歌のギアがヴァンパイアハンター型に変わるのを描きました。
今小説のヴラドは輝火に罵倒されてプライドをズタズタにされてフルボッコにされた挙句、怯えて逃げ出すという、非常に情けない役回りになっていますが、自分より圧倒的に強い奴にフルボッコにされたらヴラドはこんなに情けなくなるだろうと思ったためです。
丸一日かかった杳馬による手術が終わりましたが、手術を行ったのがあの杳馬なので、何かよくない仕掛けをしているのは間違いないでしょう。
次の話は響達がようやく到着します。そして、第三勢力である輝火の方も何かしらの動きがあります。
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