セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

40 / 198
40話 二課潜入

隠れ家

 

 そして、フィーネは眠りから覚めた。

 

フィーネ「…眠っていたのは、十数分ほどか(装者と黄金聖闘士達は順次、発生したノイズとの交戦中。その他、現状目立って警戒せねばならない動きはない。懐かしい夢を見た…私が積み重ねてきた記憶の総量から考えれば、懐かしいと感ずるほどの過去ではないのだろうが。何しろ…無茶苦茶な男だった…。記憶の大きな部分を占めるのも無理はないか)ふう…今どこで何をしているのか(二課の全員を家族と言っておきながら、今、その大事な家族が人質として囚われているのよ。監視下に置いておかねばならない私からも目を離して、何をしているのかしら。この緊急事態を全て私と来訪者たちに処理させるつもり?)少しは…かっこいい所を見せて見なさいよ」

 

 それから、一同は帰ってきた。

 

調「思ったよりもジークフリートさんは傷の治りが早いんですね」

 

ジークフリート「いつまでも寝ているわけにはいかないからな」

 

フィーネ「あなたの回復力でもあと二日は安静にしてなさい。さて、あなた達装者と黄金聖闘士のお陰で街に溢れていたノイズの反応はほぼ消えたわ」

 

ウェル「意図的に僕を外してますね…。この僕の英雄的活躍がそんなに妬ましいのでしょうかね」

 

響「相手は何でノイズを出すのをやめたんでしょう?」

 

翼「こちらに捕捉手段がある事を悟ったのだろう」

 

フィーネ「その通り。下手にソロモンの杖を濫用すれば位置がバレる。もっと迂闊なバカが相手なら容易かったのだけど」

 

ウェル「流石に彼等も軍人としては、一応のプロですからね。さっきまでのノイズは撹乱と時間稼ぎって所でしょう」

 

紫龍「何より、俺達が出ていながら神闘士を出さなかったのもそれを証拠付けているのかも知れんな」

 

フィーネ「つまり、反撃の機会としては好都合なのだけれど」

 

翼「時間稼ぎが必要という事は、敵は今現在、脆弱な急所を抱えているという事か…」

 

ウェル「僕のような英雄に予想外の攻撃を受けたので、縮こまって増援でも待ってるに違いないですよ」

 

星矢「そうとは思えねえな」

 

響「反撃っていっても、向こうは二課本部だから中の造りは当然わかりますけど…」

 

調「敵のリーダーとソロモンの杖の所在、それにヒルダさんや人質がどこに囚われているかがわからないと」

 

フィーネ「そうね…でも、ここまでの情報を整理すれば、見えてくるものもあるわ」

 

フィーネ「交戦した相手の人数や最重要レベルのはずの装者を捕らえた際に見張りの少なさ、これらから見て敵の数は多くない。だからこそ、その戦力不足を補うために神闘士を雇ったのでしょうね。敵の指揮官の所在は…今の所は不明ね。ただ、二課本部の機能を十全に活用するなら、発令所が最有力でしょう」

 

翼「指揮官はF.I.Sの手の者なら何か、誰か心当たりは…?」

 

フィーネ「くだらない軍人の名前なんて覚えている訳がないでしょう?」

 

ウェル「天才の脳の記憶容量をそんな無駄なデータに割くのはもったいないですからね」

 

星矢「(そういうお前こそ、無駄なデータを記憶容量に入れ過ぎだろ)」

 

調「似た反応…」

 

ウェル「実力ある者の当然の回答ですよ」

 

フィーネ「あなたと一緒にされたくはないのだけれど。…まあいいわ。それよりも敵が少数である事から、人質は恐らく食堂かどこか、人の多くは入れる場所にまとめて監禁されている可能性が高いわね」

 

響「ふんふん、なるほど!」

 

ジークフリート「ヒルダ様もそこに?」

 

フィーネ「ヒルダはアスガルドの最重要人物だから、二課の人間と一緒にいるとは限らないわよ。そして、風鳴弦十郎の留守を狙った以上は内通者がいたか、あるいは…」

 

紫龍「司令のスケジュールを知れる立場の人間が敵方についているだろうな…」

 

翼「もしくは、司令を留守にさせた事自体、向こうの企みの内かも知れないな」

 

響「なるほど…で、そういう話だとどういう話になるんですか?」

 

ウェル「敵の方がこちらの動きを細かく知れる公算が大きいという事ですよ」

 

響「うーん、師匠の動きまで察知してるぐらいだからって事ですね…」

 

フィーネ「そう言えば以前もあの男を師匠と言ってたわね。あなたの世界ではそうなの?」

 

響「はい、司令は私の師匠なんです!」

 

フィーネ「…なるほどね。ともかく、軽はずみな動きは相手を利する事になりかねない。かといって手をこまねいていては状況は悪化する…」

 

翼「流石は米国、確実な勝機を見たからこそ動いたのだろうな」

 

星矢「だが、奴等の最大の誤算は俺と紫龍だがな」

 

フィーネ「その通りね。神闘士は風鳴弦十郎を倒すために雇ったのでしょうけど、あの男を遥かに超越した実力を持つ黄金聖闘士の出現で奴等も迂闊には出られなくなったかも知れないわ」

 

調「でもどう攻めればいいか」

 

星矢「決まってるだろ?乗り込んでからドルバル派の神闘士やF.I.Sの奴等を全員ぶっ飛ばして、ヒルダと二課の奴等を助け出せばいいんじゃねえのか」

 

紫龍「直接乗り込むか…」

 

翼「星矢、お前と紫龍は確かに神闘士を簡単に退ける事ができるが…」

 

フィーネ「案外悪くないかも知れないわよ」

 

 

 

市街地(並行世界)

 

 次の日、市街地では響と調、星矢が囮としてノイズと応戦していた。

 

響「やっぱり数は少ないね。うまくいくのかな?」

 

調「監視衛星の映像には細工をしていると言っていたので、翼さんと紫龍さんがない事は気づかれてないはずです」

 

響「でも、ノイズの反応まではごまかせないから…。はあっ!」

 

調「こうして私達が戦っていれば!」

 

 星矢達はノイズを蹴散らしていた。

 

響「翼さん達、大丈夫かな」

 

星矢「大丈夫さ。元は俺の思いつきだけど、ジークフリートがドルバルを倒すための秘策がないかヒルダに聞くために紫龍は承諾してくれたんだ。だったら、俺達は囮にならなきゃならねえだろ!」

 

調「行きましょう!」

 

 ノイズを片付けている星矢達であったが、思わぬ乱入者が現れた。

 

星矢「神闘士か…!」

 

ロキ「黄金の戦士よ、貴様は我々にとんだ屈辱を与えてくれたな!」

 

ルング「それこそオーディーンに屈辱を与えたのと同じ!よって、貴様は謝っても許さんぞ!」

 

星矢「お前ら悪党の許しなんて、いらねえぜ。さっさと俺が返り討ちにしてやらあ!」

 

 ロキとルングは同時に襲い掛かったが、十二宮の戦いや海底神殿、ハーデスとの聖戦を潜り抜け、フィーネとの戦いでセブンセンシズに常時目覚めて黄金聖闘士となった星矢には全く歯が立たなかった。

 

調「星矢さん、1人で神闘士2人を圧倒してる…」

 

響「星矢さんに負けずに私達も行こう、調ちゃん!」

 

 星矢の活躍に負けじと、響と調はノイズを次々と蹴散らしていった。一方、星矢は完全に光速の動きでロキとルングを翻弄していた。

 

ロキ「な、何て素早さなんだ!?」

 

ルング「動きを捉えられない!」

 

星矢「お前達の攻撃はそれで終わりか?今度は俺の番だ!アトミックサンダーボルト!!」

 

ロキ「うわあああああっ!!」

 

ルング「うぎゃああああああっ!!」

 

 アトミックサンダーボルトをまともに受けたロキとルングはそのまま大きく吹っ飛ばされて戦場から遠く離れていった。

 

調「たった1発の技で神闘士2人を倒しちゃった…」

 

響「光ってから、何が起こったんだろう…?」

 

 その光景に響と調は唖然としていたのであった。

 

特異災害対策機動部二課

 

 響と調と星矢が戦っている間、紫龍と翼とウェルとフィーネは二課へ潜入した。

 

翼「潜入は成功したな。まさか、紫龍が潜入に志願するとは…」

 

紫龍「翼達は神闘士に太刀打ちできない上、星矢は潜入には向かないからな。まずは敵司令の位置を確認しなくては」

 

ウェル「他愛もないですねえ!先鋭部隊を送り込んでおいてこんな」

 

 ウェルはフィーネに口を塞がれた。

 

フィーネ「静かにしなさい。何のための陽動だと思っているの」

 

ウェル「こそこそと忍び込んで、こんなの全く英雄らしくない…。僕はキッチンのネズミじゃないんですよ…!」

 

部隊隊員B「我慢してください博士。神闘士にドンパチされたら紫龍以外では勝ち目はないんですから」

 

ウェル「わかっていますよ。だけど、せっかく力を手に入れた僕が敵陣に乗り込んだというのに!あまりにも…むぐっ!?」

 

部隊隊員B「だから静かにしてくださいって、博士。…俺達、もしかしてこのために連れてこられたのか…?」

 

翼「剣の刃を渡るような勘所、無用の戦いは避けたい。ご協力感謝します」

 

 一方、敵の方は…。

 

黒服A「こちら、異常なし。上官殿は随分苛ついてるみたいだが…状況はどうなんだ?」

 

黒服B「しょうがないだろ。次から次へと想定外の敵が現れて。あの金色の鎧の奴に至っては、魔術めいた攻撃で触れずに倒したり、銃弾さえ受け止める化け物なんだぞ」

 

黒服A「ちっ…神闘士なんかいう怪しげな奴等を雇ったり、研究チームなんか連れて来ず、実働部隊にもっと人員を割きゃよかったんだ」

 

黒服B「俺達は上官殿に従って待機するだけだ。そもそも、神闘士を雇ったのは日本の最終兵器、風鳴弦十郎を倒すためでもある。きっとそのうち増援がビールと一緒にやってくるさ」

 

 見張りの様子を紫龍達は見ていた。

 

翼「(…想定よりも見張りの警戒は緩いな)」

 

紫龍「(それに、神闘士も見当たらない)」

 

 そして、見張りは通り過ぎた。

 

紫龍「通り過ぎた。今ならいける」

 

部隊隊員A「了解」

 

 その頃、司令官は…。

 

司令官「何?アンチノイズプロテクターは存在しないだと!では我々が戦っているあれは何だというんだ!」

 

黒服「し、しかし本国諜報部の調査では、現状の研究進歩からはまだ絶対に完成し得ないと…。それに、あの金色の鎧はどういったものなのかさえ全くわかりません!」

 

司令官「風鳴弦十郎を倒すために雇った神闘士と起動したソロモンの杖さえあれば容易いはずの任務で、どうしてこんな…忌々しい!せっかく雇った神闘士も全く役に立たないではないか!ボラ吹きドルバルめ!」

 

 不機嫌な様子で司令官はその場を離れた。

 

フィーネ「あれが司令官ね。確かあの男は…」

 

紫龍「F.I.Sの連中の親玉のようだな」

 

 ウェルとフィーネは名前を思い出そうとしたが、思い出せなかった。

 

紫龍「(あの男は神闘士を役立たずと言っていたが、自分達の方へ牙を向くとどうなるかがわかっていないようだな)」

 

フィーネ「これでソロモンの杖の所在もわかったわ」

 

ウェル「…あんな凡俗に持たせておくには過ぎたものですが、今は預けておくとしましょうか」

 

翼「次は、食堂か。人質の位置を確認すれば、本番での動きやすさも大きく変わるはず…」

 

部隊隊員A「我々が先行します!」

 

紫龍「俺はヒルダの小宇宙を探って、どこにいるのか確かめてみる」

 

 紫龍はヒルダの小宇宙を探りながら回った。

 

紫龍「(食堂の方には感じられなかったな…。ヒルダはどこに…?)」

 

 すると、ヒルダの小宇宙を感じたため、紫龍はヒルダのいる部屋に来た。扉が開いているのが紫龍は気になったものの、ヒルダの様子を見ておく事にして部屋に入った。

 

ヒルダ「ドルバル配下の者ではないようですね。あなたは…」

 

紫龍「今は説明している暇はないが、ジークフリートの仲間だ。ヒルダ、今のままではジークフリートは敵の力を100分の1に低下させてしまう結界のせいでドルバルを倒す事ができない。その結界を無力化するために必要な神の加護を持った物は何か……」

 

ヒルダ「神の加護…?それならば、これを持って行ってください」

 

 ヒルダは指輪を渡した。

 

紫龍「これは…?」

 

ヒルダ「これはオーディーンの加護がある指輪です。あなたの言う結界を無力化できるかどうかはわかりませんが、ないよりはあった方がいいと思います。そして、この傷薬も」

 

 更に、ヒルダは傷薬を渡した。

 

ヒルダ「今の私は黒いオーディーンサファイアが埋め込まれた手錠によって小宇宙を使うと電撃が流れるようになってて、小宇宙を使う事ができません。なので、あなたが私の無事を伝えてください」

 

 ヒルダの頼みに紫龍は頷き、部屋を出た。しばらく歩いた後、紫龍は立ち止まった。

 

紫龍「後をつけているのはわかっているぞ」

 

 密かに紫龍の後をつけていたのはウルとファフナーであった。

 

ウル「よく気付く事ができたな」

 

紫龍「ヒルダを監禁している部屋の電子ロックがかかっていなかった時点でおかしいと思っていたさ。これは罠だと」

 

ファフナー「罠だと気付いておきながら、なぜ自分から罠にかかった?」

 

紫龍「お前達、『虎穴に入らずんば虎子を得ず』という言葉を知っているか?」

 

ファフナー「知らんな。そんな言葉を知って何になる?」

 

紫龍「今から教えてやろう。『虎穴に入らずんば虎子を得ず』とは、危険を冒さなければ大きな成功はできない事だ。つまり、俺は最初から罠だという事を知ってた上でヒルダに接触した。そして、用件も済んだ以上、お前達に構っている暇などない!」

 

ウル「お前になくても俺達にはある。この前の屈辱、存分に返してやるぞ!」

 

 ウルはファフナーと共に紫龍に襲い掛かった。しかし、紫龍に一蹴されたのであった。

 

ファフナー「おのれ…、私とウルの2人がかりでも…!」

 

紫龍「そこで寝ていろ」

 

 敵を倒す事より、ヒルダからもらった指輪と傷薬をジークフリートに届けるのと翼達との合流を紫龍は優先したのであった。

 

ウル「一度ならず二度までも負けるとは…!」

 

ファフナー「だが、次こそはあれを使って…!」

 

 悔しさと共に今度は切り札を使って紫龍を倒そうと2人は考えていたのであった。その頃、翼達は人質の居場所を突き止めたものの、黒服達やノイズの襲撃に遭っていた。それに応戦していた翼達であったが…

 

ウェル「ん?あの女がいませんよ!」

 

翼「何!くっ…混戦のさなかにはぐれたか」

 

ウェル「お前達、あの女は!?」

 

部隊隊員A「俺達は自分の身を護るのが精一杯で!」

 

部隊隊員B「ノイズ相手に対抗手段のない我々では、これが限界です!」

 

 そう言ってると、紫龍が来た。

 

翼「紫龍!」

 

ウェル「遅い!今までどこを」

 

紫龍「ヒルダの監禁場所を探していた。さぁ、すぐに二課から逃げるぞ!」

 

 現れたノイズを紫龍は一蹴し、二課から脱出を開始したのであった。一方、フィーネもまた、いつの間にかはぐれていたのであった。

 

フィーネ「…ふむ、いつの間にか逸れたか。いや、ふふ…うまく混戦に乗じる事ができたようだな。二課本部に乗り込んだ機会を逃す手はない…。データハックにより、カ・ディンギルの建造が改めて進められている事はすでに突き止めていたが、やはりエレベーターシャフトを使ったか。あの男の警戒を躱すために放棄した計画が、よもや再利用されるとは…。現状、デュランダルのエネルギー利用を前提とした設計ではないようだが、基本設計が変わらない以上、改造は容易。ネフシュタン、デュランダルに続き、カ・ディンギルまでが私の手の内に転がり込んで来た…。ふふ、ははははっ!あらゆる事象が私を後押ししているようではないか!…まさかこんなチャンスがあるだなんて、日頃の行いかしらね。しかし…もう…約束は守れそうにないわね」

 

 一方の紫龍達はノイズを蹴散らしながら進んでいたが、ウェルの部隊の隊員がノイズに襲われそうになった。ところが、そこへフィーネが現れて隊員を助けた。

 

翼「フィーネ、一体今までどこに!」

 

ウェル「本部の隔壁が…!なんであんな見当違いの所を遮断しているのですか!?」

 

フィーネ「カメラの映像に細工して私達の現在地を誤魔化してきたわ」

 

翼「なるほど…」

 

ウェル「ハッキングですか…。やけに時間がかかったようですが…」

 

フィーネ「黄金聖闘士がいるとはいえ、これで多少は敵が減るはず、さっさと脱出しましょう」

 

紫龍「そうしよう。長居は無用だからな」

 

 

 

荒野

 

 一同は脱出に成功した。

 

部隊隊員A「はあ、はあ…!い、生きてるぞ!」

 

部隊隊員B「志願してF.I.Sから離反したものの…これじゃ命がいくつあっても足りない…!」

 

翼「窮地に伴わせて申し訳ありません。しかし、助かりました」

 

部隊隊員A「いえ、あなたに謝られる事では!」

 

部隊隊員B「博士も才能と指揮能力は悪くないんだが…、後はこういう人格さえ備わっていれば!」

 

紫龍「(確かに、言えてるな…)」

 

ウェル「誰がただの人格者を英雄と称えるものか。天才には才能だけあればいいんですよ!」

 

フィーネ「情報を握って脱出はできた。後はここで得た情報を元に、二課の奪還作戦を練りましょう」

 

翼「うむ、そうしよう」

 

ウェル「F.I.Sの下っ端ども!次に僕達が二課にやってくる時が君達の最後…むぐぐ!?」

 

 ウェルは口を塞がれた。

 

部隊隊員A「いらない挑発はやめてください!」

 

 

 

隠れ家

 

 そして、紫龍達は戻ってきてからジークフリートにヒルダが無事である事、ヒルダに託された指輪と傷薬の事を話した後、ジークフリートは響達に傷薬を塗ってもらった。

 

ジークフリート「そうか、ヒルダ様は無事なのだな!」

 

紫龍「ああ。ヒルダの部屋だけはロックが解除されていたが、それは敵の罠だった。もっとも、罠だとわかってもヒルダの無事を確かめるために俺は入った」

 

星矢「俺だと力任せになっちまうから、こういった所は紫龍が相応しいな!」

 

響「傷薬をくれるなんて、ヒルダさんってとってもいい人みたいだよ!私も一度会ってみたいなぁ…」

 

調「ジークフリートさん、怪我の具合はどうですか?」

 

ジークフリート「紫龍がもらった傷薬は神闘士御用達の効果の高い代物だ。あと二日ぐらいすれば、私の傷も塞がって戦う事ができるようになるだろう。それに、このヒルダ様から託された指輪は大切に使い、必ずドルバルを倒す!」

 

響「星矢さんと紫龍さんだけじゃなく、ジークフリートさんまで加わったらもう敵は一網打尽になっちゃいますよ!」

 

ジークフリート「(協力などしないと自分で言っておきながら、これ程までに彼等を信頼するようになったとは…。ヒルダ様のためにも、私のドルバル打倒を後押ししてくれた彼等のためにも、絶対に負けるわけにはいかないな…!)」

 

 協力しないと言っておきながら、ドルバル打倒を後押ししてくれた紫龍達にいつの間にかジークフリートも心を許していたのであった。そしてその晩…。フィーネがどこかへ行くのを紫龍と星矢は察していた。

 

星矢「紫龍、あいつは…」

 

紫龍「俺もフィーネに関してはずっと目を光らせていた所だ」

 

ジークフリート「私もあの女に関しては信用できない」

 

星矢「ジークフリート、起きてたのか」

 

ジークフリート「あの女はドルバルと似たような目をしている。野心を隠し持っている目をな」

 

紫龍「とにかく、あの女が何をやらかすのか注意しておこう」

 

 紫龍の言葉に星矢とジークフリートは頷いた。

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 F.I.Sの司令官の元へ来たのは意外な人物だった。

 

司令官「…まさか、君から直接連絡があるとは思っていなかったよ」

 

フィーネ「招かれたって事は、私の計画に乗ってくれるという事かしら?」

 

司令官「調子に乗るな!我々は貴様を捕まえて無理矢理働かせる事もできるんだぞ」

 

フィーネ「ふふ…スマートじゃないわね。薬でも使ってこの私の頭脳に何かあったら、カ・ディンギルは永遠に完成しないわよ。必要なんでしょう?本国に成果を報告するために」

 

司令官「…貴様の目的は何だ?どうして今頃、我々に接触してきた」

 

フィーネ「こちらより進んだ、そっちの研究施設が恋しくなっただけ。それに、命を狙われるのもそろそろ勘弁してほしいものだしね」

 

司令官「我々の目的は兵器としてのカ・ディンギルの完成と、アンチノイズプロテクターの完成。両方だ。貴様ならそれが達成できる、というのだな…?」

 

フィーネ「当然。設備と資金が潤沢ならば、ね。とりあえずはそちらでカ・ディンギルの建造を進められるよう、情報を提供するわ」

 

司令官「いいだろう。ならばこれより同志として扱おう。ところで君に聞きたいのだが…、あの者達と我々を交戦させたのは、君なりのプレゼンテーションというわけかね。いささか度が過ぎていないか?特にあの黄金の鎧の奴等は我々が雇った神闘士さえも一蹴したのだぞ」

 

フィーネ「あれは成り行き。どこの組織の手の者かしらないけれど、予想外の乱入で色々と戸惑ったのよ。私もね」

 

司令官「あのプロテクターとカ・ディンギル、黄金の鎧が揃い、神闘士さえ従わせれば我が国は諸外国に対して絶大なアドバンテージを得る事となる。資金は出そう」

 

フィーネ「いいわ。他に懸念要素は?」

 

司令官「足止めを食わせているが、いずれ二課の司令官が戻ってくるだろう。しかしソロモンの杖があれば」

 

フィーネ「…そちらについては私が直接対処するわ」

 

司令官「ならば、いいだろう…。完成の暁にはそれなりの待遇で研究所に戻れるよう手配してやろう」

 

フィーネ「ふ、交渉成立ね」

 

 フィーネは帰ろうとしたが…。

 

フィーネ「言い忘れていた事があったわ。あなた達が雇っている神闘士には気を付けてちょうだい。奴等…今はあなた達に従順に従っているけど、親玉のドルバルは何を企んでいるのか私にもわからないわよ」

 

司令官「何を言うか。あの老いぼれとその一味が何を考えていようと、我らがこき使ってやるまでだ」

 

フィーネ「そして…あなた達には最大の懸念があるわよ」

 

司令官「懸念だと?あの男以外に何がある?」

 

フィーネ「ノイズを一蹴し、神闘士さえ容易く退けた黄金の戦士2人の事よ。彼等を刺激するような真似だけは厳禁よ」

 

司令官「何だと!?あの黄金の戦士2人はあの男より強いとでもいうのか!?」

 

フィーネ「その通りよ。あの黄金の戦士2人はあなたが思っているよりも遥かに恐ろしい存在。どんな聖遺物を使っても、逆立ちしても勝てはしないわよ。それに、神闘士を雇っても今度は神闘士に反逆される恐れもある。黄金の戦士とあなた達が雇っている神闘士には要注意よ。これはあなたの身を案じて言っているの。わかったかしら?」

 

司令官「……わかってる!」

 

 司令官が承諾した返事をした事でようやくフィーネは帰ったのであった。

 

司令官「おのれ…、あの黄金の戦士2人はあの男より強いだと!?たかが黄金の鎧を纏ったガキ2人に何もできないまま尻尾を巻いて逃げかえったのであれば、大統領や上層部に合わせる顔がない!何としても…何としてもあの黄金の戦士を倒して成果として黄金の鎧を持ち帰ってやるぞ…!神闘士共を死ぬまでこき使ってでもな…!」

 

 超大国の人間というプライド故に司令官はフィーネの忠告を無視し、雇っている神闘士をこき使ってでも星矢と紫龍を倒し、黄金聖衣を手に入れようとしていたのであった。そのプライドと欲を優先する司令官の様子をドルバルは見下した様子でひっそり見ていた。

 

ドルバル「バカな奴め、我々をこき使おうとしているようだが、所詮は武器や聖遺物に頼らねば何もできぬ人間。小宇宙を扱える我らの足元にも及ばぬ存在よ。聖遺物を独占し、地上を支配するのはアメリカなどという経済力にものをいわせた国ではない、このアスガルドの支配者となる私こそが世界の支配者に相応しいのだ。今はそうやって私達をこき使っているという優越感に浸っているといい。時が来れば、我々は貴様らを切り捨てるのだからな、あ~はははははっ!!!」

 

 表向きは自分達を雇ってくれた司令官に従順な態度をとっているドルバルであるが、本心では自分より力が大幅に劣る癖に偉そうに命令する司令官を完全に見下しており、アメリカではなくアスガルドの支配者となる自分こそが地上を支配する国に相応しいと思っていたのであった。

 

 




これで今回の話は終わりです。
今回は紫龍達が二課に潜入し、ヒルダを始めとする人質がいる場所の確認を行うという話になっています。また、フィーネの暗躍やF.I.Sの司令官とドルバルの不協和音なども同時に描いています。
次の話は今まで二課を留守にしていたあの男が帰ってきます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。