セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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5話 奏の苦悩

市街地

 

 その頃、並行世界の方では奏達がノイズの群れと戦いを繰り広げていた。アイザックと王虎はうんざりしてはいたものの息を切らしていなかったが、翼と奏はバテバテだった。

 

翼「はぁ…、はぁ……。さすがに数が多すぎる…」

 

奏「はっ…息が…、あがってる…な…。…はぁ、はぁ…。疲れたなら、1人で帰ったら、どうだ…?」

 

翼「絶対に…帰らない!」

 

奏「なら、気合入れな!さぁ、まだまだ行くよ!」

 

 ノイズの群れは一向に減らず、アイザックと王虎はまだノイズの殲滅が済んでいないために合流できなかった。

 

翼「一体、どれだけのノイズが…?アイザック達もあまりの多さに私達と合流できない上、流石に私も奏も限界が近い…」

 

奏「…歌うしかないな」

 

翼「まさか…、絶唱を!?」

 

奏「…それ以外にこのノイズの群れを倒す手段があるのかい?」

 

翼「いや、しかし…」

 

奏「躊躇するならそのまま見てな。…あたしはもう躊躇なんてしない」

 

翼「待って、奏」

 

奏「…邪魔するんじゃないよ」

 

翼「絶唱なら私も唄う。…もう奏を1人で歌わせるのはたくさん」

 

奏「お前…そうか、そっちではあたしが唄ったんだったな…。いいよ。それじゃあ、派手にぶちかまそうか!」

 

???「その絶唱、ちょーっと待ったぁ!」

 

 奏は絶唱を唄おうとしたが、突如として誰かがやめろという声がした。

 

翼「立花!?」

 

マリア「全く…だから翼からは目が離せないのよね」

 

翼「マリア、星矢達…戻って来てくれてのか!」

 

奏「…ったく、いい所で再登場か…」

 

響「後は私達が引き受けます!2人は少し休んでから」

 

奏「バカいってんじゃねえよ。こちとらようやく体が温まってきた所なんだ」

 

翼「…ああ、ノイズを前にしてただ見ているだけなど、防人としてできるわけがないだろう」

 

星矢「全く、意地の張り方とかで似た者同士だな、お前ら。それなら、全員でやろうぜ!」

 

奏「ああ、頼む」

 

 奏が初めて『頼む』と言った事に翼はおろか、星矢達も驚いていた。

 

氷河「(初めて頼むって言ったな…)」

 

奏「今はお前達の力が必要だ…」

 

響「はい!どーんと頼りにしちゃってください!」

 

 星矢達の光速拳と響達の活躍であっという間にノイズの群れは一掃された。

 

響「お疲れ様でした。奏さん、翼さん!」

 

マリア「あなた達、一体どれだけ戦ってたの…?」

 

奏「そんなの覚えちゃいないよ」

 

翼「私もだ。片っ端から斬り続けていた…。ところで5人とも。戻るのが随分早かったな…」

 

星矢「そりゃ、俺達の世界にもカルマノイズが現れたんだ」

 

翼「何だと!?」

 

紫龍「しかも、この世界の異変を治めなければ次は俺達の世界に本格的に現れる。他人事ではなくなってきてるぞ」

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 星矢達はエルフナインから受け取ったチップを了子に渡した。

 

了子「ふむふむ…それで、これが受け取ったチップね。研究欲が刺激されるわぁ~」

 

マリア「…イグナイトの事についてあなたは気付いていたの?」

 

了子「まあね~。ノイズのカルマ化に関しては色々研究していたし、ギアを作ったのはなんていったってこの櫻井了子なんだから。あのノイズの持つ特性と干渉して、おかしくなっている可能性が一番高いとは考えていたわよ~」

 

翼「だから紫龍と同じように問題はカルマノイズの方にあるとあの時言っていたのか…」

 

了子「そうよ~。ちょっとは見直したかしら?」

 

響「流石は了子さんです!」

 

 星矢達もその了子の頭脳は認めていた。

 

弦十郎「…それより、そうなるとイグナイトはもう使えない、そう解釈していいのか?」

 

了子「ええ、そうなるわ」

 

弦十郎「それで…カルマノイズに勝つ手立てはあるのか?」

 

紫龍「あります。数々の戦いを経て響達の得た力はイグナイトだけではありません」

 

響「そうです!気合で何とかします!」

 

弦十郎「気合か…そうだな!大切なのは気合だ!」

 

響「はい!」

 

 一方で了子はデータ解析を行った。

 

マリア「…精神論はともかく、現実的な手段としては私達がもっと連携して戦えるようになる必要があると思うわ。特にこちらの誰かさんとね」

 

 マリアは奏の方を向いた。

 

マリア「あなたが翼に思う所があるのはわかってるわ。でも、それとこれとは話が別。これからあのノイズと戦っていくには、1人1人がバラバラに戦うのではなく、協力が必要よ。わかってるでしょう?」

 

奏「…ああ」

 

アイザック「ならば、お前も翼達と一緒に訓練しろ。もっと相手の事もわかってやるんだ」

 

 それから、奏は響達と一緒に訓練を行った。

 

奏「…もうこれくらいで十分だろ。あんた達の動きはわかったよ」

 

 そう言って奏は部屋を出た。

 

響「え…、奏さん?」

 

翼「待って、奏!」

 

マリア「翼」

 

翼「マリア…?」

 

マリア「あなたはここにいなさい。…当事者じゃない方がいい事もあるのよ」

 

紫龍「ここは俺達に任せるんだ」

 

翼「…わかった」

 

 マリアは星矢達と共に奏の方へ向かった。

 

マリア「…ちょっと待ってくれるかしら?」

 

奏「何だ用だ?…あんたらも向こうのあたしと関係あるのか?」

 

星矢「俺達が奏に会ったのはこの世界のお前が初めてだぜ」

 

氷河「もっとも、元々いた世界では名前とかは聞いたけどな」

 

奏「…そうか」

 

マリア「…自分ではない自分が重圧になっているの?」

 

奏「…あんたらには関係ない事だ」

 

 機嫌を悪くした奏はその場を去って行った。

 

紫龍「おい、待て!」

 

 星矢達も奏を追いかけた。

 

 

 

公園

 

 星矢達は奏に追いついた。

 

マリア「何でこんな所に?」

 

奏「落ち着くのさ。ったく、こんなとこまでついて来て」

 

星矢「ゴールドカルマノイズを倒すには俺達聖闘士と装者が力を合わせなきゃダメなんだ。それに、お前に何かあれば翼が落ち込むしな」

 

奏「…そういや、あたしでないあたしが重圧なのか、って聞いたよな…」

 

マリア「ええ」

 

奏「…わからない。だって向こうのあたしは、翼にどう接してどうかかわっていたのかわからないんだから…。あたしはあたしだ。向こうのあたしじゃないし、あたしにとっての翼はこっちの翼だけだ。でも…ダブるんだ…。翼は翼で、確かにあたしの知っている翼なんだよ。でも、あたしの翼はもう…。そっちの翼を翼として受け入れたら、死んだ本当の翼はどうなるんだ?あっさり受け入れた男共と違って別人なんだと思っても思いきれない。あたしの仲の翼が消えてしまうのが怖いんだよ…」

 

紫龍「だから翼を拒絶しているのか」

 

奏「…あいつは翼じゃない。そう思い続けないと、あたしは翼を忘れてしまう…」

 

マリア「…あなたの中の翼との一番の思い出って何なのかしら?」

 

奏「ツヴァイウイングとして、2人で唄った事だ。翼の横で思いっきり唄った事…」

 

マリア「…知ってる?翼は今、向こうでは日本を飛び出して世界に向けて歌を唄っているわ。私も向こうじゃちょっとしたアーティストなんだけど、何度か翼とコラボユニットを組んだりもしてるの」

 

星矢「(何がちょっとだ。かなり有名じゃねえか)」

 

 心の中で星矢はマリアの発言に突っ込んだのであった。

 

奏「翼と…コラボ?」

 

マリア「そうよ。同じステージで、デュエットソングを唄ったわ。世界的な歌の祭典でね。あの子の歌の才能は本物よ。階段を駆け上がるように、世界的なアーティストへと成長してきている。私はそんなあの子と唄えるのが楽しい、唄う度に、次もまた一緒に唄いたいと思ってる」

 

奏「…ああ。そうだろうな」

 

マリア「あなたは唄いたくないの?一緒に」

 

 その言葉に奏は動揺した。

 

マリア「翼は翼よ。あの歌は唯一無二。だからみんなあの子に惹かれる」

 

紫龍「俺や春麗に星矢達、沙織さんも翼の歌が大好きなんだ」

 

マリア「こちらの翼は亡くなったかも知れない、でも翼に偽者も本物もないわ。翼が歌を捨てない限り、全て本物の翼よ。もう一度聞くわ。あなたは翼と唄いたくないの?」

 

奏「唄いたい…唄いたいに決まってんだろ!だけど、あたしはもう…戦い以外の歌をなくしちまったんだ!そんなあたしがどうして翼の横に立てる!?あいつの横で唄う資格なんて、もうないんだよ…」

 

 そんな中、通信が入った。

 

弦十郎『マリア君、聞こえるか?ん、奏や星矢達も一緒か。ちょうどいい』

 

マリア「はい」

 

弦十郎『ノイズの反応を検知した。急ぎ、ランデブーポイントまで来てくれ』

 

マリア「了解したわ」

 

 そこへ、アイザックと王虎が来た。

 

王虎「紫龍、お前達は休んでな。俺とアイザックが行ってくる」

 

氷河「済まないな。頼むぞ、アイザック」

 

アイザック「ああ」

 

マリア「…行きましょうか」

 

奏「…ああ、怒鳴って悪かったな…」

 

マリア「気にしないで。私が焚き付けたのだから、あなたは悪くないわ。でもね、あなたは一つ間違えてる」

 

奏「…間違えてる?」

 

マリア「歌を失う事なんてないわ。あなたは忘れているだけ。胸の歌は、何があってもなくなる事なんてないんだから…」

 

 

 

市街地

 

 奏はノイズ退治に出撃した。

 

奏「(あたしは…歌を忘れているだけなのか…?)」

 

翼「奏、危ない!」

 

 集中力が切れている時に奏はノイズの攻撃を受けそうになり、翼が咄嗟に庇った。しかし、咄嗟に反撃してノイズを倒した。

 

翼「よかった、奏…」

 

奏「済まない…」

 

翼「気にしないで。さあ、残りは後少し。一気に片付けよう」

 

奏「(翼…翼の歌が聞こえる…。戦いの中でもあたしに響く歌が…。唄いたい、一緒に唄いたいのに!でも…翼…あたしはどうしたら…)」

 

 

 

回想

 

 そして、奏は昔の事を思い出していた。

 

奏『(懐かしい…あたしは夢を見てるのか…?この夢は…あの時の…)』

 

 あの悪夢の出来事の時、奏も翼もボロボロだった。

 

翼「奏!奏、大丈夫!?」

 

奏「ん…ああ、翼か?」

 

翼「よかった。気が付いた!」

 

奏「…くっ、翼、今の状況は…?」

 

翼「…見ての通り、だよ。まるで地獄絵画…あのノイズのせいで……」

 

奏「何なんだよ…あいつは!」

 

翼「…奏、私のわがままを聞いてくれる?」

 

奏「…翼?こんな時に何を…?」

 

翼「奏にはずっと唄ってほしい。私が大好きな奏の歌を絶やさないでほしい…」

 

奏「おい…翼…?」

 

翼「必ず奏を護るから…約束」

 

奏「おい…何を言ってんだよ…!」

 

 翼はノイズの群れとカルマノイズを倒すため、奏を護るために絶唱を唄った。

 

奏「やめろ!そんなボロボロの状態で絶唱なんて唄ったら!やめろ、やめてくれ翼!」

 

翼「…例えこの身が朽ちようとも、人の世を、人々を、そして大切な誰かを護るために、これが風鳴翼の歌だ!」

 

奏「翼ああああああっ!!」

 

 限界の体で翼は絶唱を唄い、その命と引き換えにカルマノイズを倒したのであった。

 

奏『翼は限界だった。残りの力を全て使って、あのノイズと相打ちになった。あたしは、何もできなかった…』

 

 その後、奏は歌手をやめる事となった。

 

慎次「…本当にやめてしまうのですか?」

 

奏「…ああ、翼がいないのに、もう唄う意味なんて…」

 

慎次「…残念です…」

 

奏「あんたはどうするんだい?」

 

慎次「さあ…まだ決めていません。ツヴァイウイングのマネージャーの仕事はなくなりますしね…。奏さんは?」

 

奏「…あたしは翼の仇をとる」

 

慎次「…そうですか。ご武運を祈っています」

 

奏「(そう、あたしにもう戦い以外の歌はいらない…。ごめんな、翼…。でもあたしはあんたの仇をとりたい。自己満足だとわかってても、あいつらを許せない)…カルマノイズはまだ残ってる。翼の仇が討てる…ふ、ふ、あははははっ!」

 

 家族を失い、その仇をとるために装者になった奏は翼との出会いで復讐以外の生き方が見つかった矢先、翼を失った事で再び復讐以外の生き方しか残らなかったのであった。

 

弦十郎『奏、聞こえるか!ノイズが現れた!すぐ現場に向かってくれ!』

 

奏「ああ、聞こえてる…」

 

奏『(あたしは復讐のために歌を捨てたんだ…。翼の願いに背を向けて…。だから、もう翼と唄いたいなんて思っちゃいけない。…あたしには復讐の、戦いの歌だけがあればいい)』

 

 

 

 戦いの最中、ゴールドカルマノイズが姿を現した。

 

奏「来やがった!」

 

翼「あれは、ゴールドカルマノイズ!」

 

アイザック「現れたようだな」

 

奏「…待っていたよ。今度こそ、あたしが倒してやる!」

 

 奏はゴールドカルマノイズへ向かっていった。

 

響「奏さん?」

 

王虎「あのバカ、怒りに任せて」

 

奏「(あいつさえいなければ、あたしは翼の隣にいられた。あいつさえいなければ、あたしは翼と夢を追いかけられた)」

 

翼「奏!」

 

王虎「落ち着け!こんなにノイズがいたらお前達の攻撃は届かん!俺とアイザックが一掃するから待ってろ!」

 

奏「あいつは、あいつだけはあたしが殺す!邪魔するノイズも…全部ぶっ殺してやる!」

 

 奏は頭に血が上り、ノイズを蹴散らしながらゴールドカルマノイズへ向かっていった。

 

王虎「お前ら、ゴールドカルマノイズは装者の方が攻撃が効く。だから、俺とアイザックが道を作るから一気に突っ込め!」

 

響「はい!」

 

マリア「道ができたら、最短で最速で一気に突っ走るわよ!」

 

アイザック「ダイヤモンドダストォ!」

 

王虎「廬山百龍覇!」

 

 アイザックと王虎はノイズを蹴散らして道を作った。一方、奏はゴールドカルマノイズと対峙していた。

 

奏「邪魔者は片付いた!これで翼の痛みを…思い知りな!」

 

翼「奏、ダメだ!」

 

 奏の攻撃はあっさりとゴールドカルマノイズにかわされてしまった。

 

奏「な!?避けられ」

 

 すぐにゴールドカルマノイズが迫ってきた。

 

奏「(いつの間にこんな近くに!?ダメだ、こりゃ避けられないな…)」

 

翼「奏ぇえええっ!」

 

奏「(翼、ごめんな…)」

 

翼「させるかああああっ!」

 

アイザック「よせ、頭を冷やしてクールに」

 

 奏の危機に翼はクールに徹する事ができずにそのまま奏を庇い、ゴールドカルマノイズの攻撃を受けた。

 

響「翼さん!?」

 

マリア「翼!?」

 

奏「な、あ、あたしを庇って…!?何てことしてるんだ!」

 

翼「よかった…今度は間に合った…くっ」

 

奏「い、傷むのか!?何で庇ったりなんか」

 

翼「奏が危ないのに、私が見てるなんてできるわけがないじゃない…」

 

奏「…馬鹿野郎…」

 

翼「…だけど、バカをした意味はあった。奏、私達と一緒に戦ってほしい…」

 

奏「わかった、戦ってやるから…。だからお前はそのまま休んで」

 

翼「そういうわけにはいかない…。休むなら、あいつを倒してからだ!」

 

王虎「その通りだぜ」

 

 ゴールドカルマノイズへ攻撃したが、再生速度が速すぎてダメージを当たられなかった。

 

マリア「くっ…これじゃあまだ足りないの!?再生している!?」

 

翼「立花、S2CAだ!絶唱の力で、一気にあいつを殲滅する!」

 

響「翼さん、でもその怪我じゃ…」

 

翼「問題ない。防人の剣は、この程度で手折られはしない!」

 

響「わかりました!」

 

アイザック「奴の動きを封じるのは俺に任せろ!」

 

 そう言ってアイザックは小宇宙を高めた。

 

奏「おい、お前達、一体何を…」

 

マリア「アイザックが敵の動きを封じるまで引きつけて。それから、一気に決めるわ」

 

奏「わかった」

 

 奏はアイザックが攻撃するまでゴールドカルマノイズの注意を引き付けた。

 

アイザック「ダイヤモンドダストォ!」

 

 猛烈な凍気がゴールドカルマノイズを襲った。

 

奏「おい、お前らの攻撃ではあいつは」

 

 ダイヤモンドダストを受けたゴールドカルマノイズの下半身と触手は凍り付いており、ゴールドカルマノイズも凍り付いた部分を割ろうとしたが、割れなかった。

 

奏「割れない氷だって!?」

 

王虎「ほう、フリージングコフィンも同時に放って完全に攻撃と動きを封じたようだな」

 

アイザック「奴の手足を封じた!今のうちにその秘策をやれ!」

 

 響達は絶唱を唄った。S2CAを知らない奏にとっては3人同時に絶唱を唄うのは衝撃的な光景であった。

 

奏「絶唱!?しかも3人同時って…何を!?」

 

 そしてS2CAを発動させたのであった。

 

響「セット、ハーモニクス!」

 

奏「な!?一体何がどうなっていやがるっ!?」

 

響「行きます!はああああっ!」

 

 奏の理解が追いつかないまま響はS2CAのパワーでゴールドカルマノイズを粉砕したのであった。

 

翼「倒した…のか?」

 

アイザック「もう奴の邪悪な気配は感じない」

 

王虎「見事だ」

 

 響達のもう一つの秘策、S2CAに奏は衝撃を受けた。

 

奏「…これが、翼達の力…」

 

翼「さすが立花…だ…」

 

 戦闘のダメージもあって負荷に耐え切れなかったのか、翼は倒れた。

 

響「翼さん!?」

 

アイザック「あのバカめ、やせ我慢しやがって…」

 

奏「おい…翼?翼ああああっ!」

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 倒れた翼はすぐに搬送された。

 

奏「了子さん、翼の容態は!?」

 

了子「…まだ何ともいえないわ。星矢君達が小宇宙で応急処置をしてくれたとはいえ、怪我の影響と極度の疲労による衰弱。全身ボロボロよ」

 

響「翼さん…」

 

紫龍「俺達にやれるだけの事はした。後は翼次第だ…」

 

奏「…なぁ、翼に会わせてくれ!」

 

了子「無茶言わないの。これは専門家の仕事。絶対に翼ちゃんは助けてみせるから、そのまま待ってなさい」

 

奏「翼…くそっ!全部、あいつらが…あのノイズ共が悪いんだ!だから!」

 

マリア「あいつらを根絶やしにする、とでも言うつもり?」

 

奏「そうだ」

 

星矢「それは元を絶たなきゃ無理だぜ」

 

氷河「この世界ではソロモンの杖は見つかっていない。バビロニアの宝物庫を閉じなければ、ノイズは現れ続ける」

 

マリア「子供じみた事を言う前にちゃんと考えたらどう?」

 

奏「…わかってる。本当はあたしが悪いんだ。あいつを、翼を受け入れてちゃんと協力していたら…。翼の歌は届いていたのに、あたしは、翼は翼だとわかっていたのに、どうしてあたしは…」

 

響「奏さん…」

 

 そんな時、ノイズ警報が鳴った。

 

星矢「ノイズか…」

 

奏「ノイズ…!」

 

 感情に任せ、奏は出撃した。

 

響「奏さん!星矢さん、私達も」

 

星矢「ああ。翼の分も戦おうぜ!」

 

紫龍「今度は俺達の番だ」

 

 

 

市街地

 

 響達は出現したノイズと応戦したが、ノイズは増え続けていた。

 

マリア「くっ、まだ増えるの!?」

 

響「奏さん、マリアさん、ここは体勢を立て直して」

 

奏「…来るなら来い。あたしは虫の居所が悪いんだ…。」

 

星矢「奏、何をするつもりだ!?」

 

奏「ノイズ共にたっぷり聞かせてやるよ…。このあたしに唯一残っている…戦いの歌を!」

 

 奏は絶唱を唄った。

 

氷河「待て、早まるな!」

 

紫龍「勝手に自分の命を犠牲にするような事はするな!!」

 

奏「(全部…ぶっつぶしてやる!)」

 

 奏の絶唱に割り込む形で響は絶唱を唄った。

 

響「ぐうううっ!!」

 

 そして、奏の絶唱の力を負荷諸共吸収する事でS2CAを発動させたのであった。

 

奏「絶唱の力が!」

 

マリア「いいわ、その力を正面のノイズに!」

 

響「とりゃああああっ!!」

 

 S2CAの威力を正面のノイズにぶつけ、一掃したのであった。

 

奏「この前、あのノイズを倒した時のように今度はあたしの絶唱の力を…?」

 

響「はぁ、はぁ…奏さん!生きる事を諦めないで!」

 

 その言葉は響がかつて自分のいた世界の奏に言われた言葉であった。

 

奏「(!…あたしは諦めようとしていたのか…)」

 

 割り込みで絶唱の負荷を肩代わりしたため、その負荷によって響は倒れた。

 

星矢「響、大丈夫か!?」

 

響「だ、大丈夫です…。ただちょっと、疲れました…」

 

奏「ほら、あたしが運んでやる」

 

響「か、奏さん?」

 

 戦闘後、負荷で倒れた響は奏が運んだ。

 

 

 

セーフハウス

 

 先程の戦闘の事でマリアは奏を呼び出していた。

 

奏「…話って何だ?」

 

マリア「…どうも私もお節介な性分みたいなのよね。それに、あなたにはどうしても一言言いたくて。いい加減、自分を偽るのはやめなさい。翼に怪我をさせた挙句、ノイズへの憎しみで自分の本心を全部覆い隠して1人で死のうだなんて、ふざけないで。私はあなたの尻拭いをするためにいるんじゃない。勝手な行動ばかりして、何様のつもりなの?」

 

奏「…あたしは…」

 

マリア「この前、私に翼と唄いたいと言ったのがあなたの本心でしょう。なのに、その本心から目を背け、真逆の行動ばかり…。翼と居たいんでしょう。一緒に唄いたいんでしょう。なら、ちゃんと翼を見なさい!」

 

奏「……」

 

マリア「あなたが1人で死ぬのはあなたの勝手かも知れないでもそれを後で翼が知ったらどう思うかくらいわかるでしょう。片翼を失って悲しんでいるのはあなただけじゃないのよ。自暴自棄になる前にもう一度自分の気持ちをきちんと見つめ直してみなさい」

 

 それから、マリアは星矢達と会った。

 

星矢「奏の様子はどうだ?」

 

マリア「私にできる限りの事は尽くしたわ。後は奏次第、といった所ね」

 

アイザック「奏が力を合わせられるかどうかがカルマノイズを倒すためのカギなのだからな…」




これで今回の話は終わりです。
今回は奏の苦悩とトラウマとなったライブの回想、ゴールドカルマノイズ戦を描きました。
次は奏が響達と打ち解け始めます。

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