セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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53話 月の女神

研究所

 

 装者一同がネフィリムと交戦していた頃、並行世界に残っている瞬はノイズの襲撃があまり多くないため、何もない時は医者の勉強をしていた。

 

ナスターシャ「瞬、そろそろ一輝と連絡をとりましょう。何かわかったかも知れませんよ」

 

瞬「兄さん、どうしてるかな?」

 

 早速、連絡を入れてみたが、繋がらなかった。

 

ナスターシャ「どうしたのでしょうか?繋がりませんね…」

 

瞬「通信機が壊れたのか…、電波状態がとても悪い所なのか…、それとも結界によって遮断されているのか、色々可能性はありますね」

 

ナスターシャ「一輝の身に何かが起こったのでは…?最悪の場合は…」

 

瞬「ナスターシャ教授、僕は兄さんの無事を信じます」

 

ナスターシャ「なぜ、連絡がとれない中でも無事を信じる事ができるのですか?」

 

瞬「兄さんは例えどんな事があっても必ず生きて帰ってくる人なんです。この世の地獄へ行っても、雪崩に巻き込まれても、異次元に飛ばされても、どんな事があっても生きて帰って来るんです。だから、僕は兄さんの無事を信じます」

 

ナスターシャ「…どんな事があっても生きて帰ってくる…。そんな一輝はまさに、不死鳥が人間として生まれ変わったようにも思えますね」

 

瞬「それに、兄さんは普段は傍にいなくても、僕がどうにもならなくなった時には必ず来てくれるんです」

 

ナスターシャ「離れていてもあなたと一輝は強い兄弟の絆で結ばれているんですね。わかりました、私も一輝の無事を信じましょう」

 

瞬「ありがとうございます」

 

ナスターシャ「それと…あなた達はなぜ私達の世界でも人を護るために戦ってくれるのですか?」

 

瞬「ただ、人々を護りたいからです。人を護る事に世界の違いも使命も関係ありません」

 

ナスターシャ「そうですか…ありがとうございます。あなた方という善意が、この世界に訪れた事を感謝します。では、現場の見学へ行きましょうか」

 

 瞬は見学へ向かった。

 

 

 

月の神殿

 

 その頃、一輝はアイアコスの拳によって前世の記憶を目覚めさせられて錯乱し、気を失ってからアルテミスの命を受けたカリストによって月の神殿へと運ばれていた。そして、目が覚めたのであった。

 

一輝「ここは…どこだ…?」

 

???「ここは月の神殿だよ」

 

 起きた一輝の目の前に少年がいたのであった。

 

一輝「お前は…?」

 

リュトス「僕は月衛士(サテライト)のリュトス。早速、カリスト様に」

 

 そう言ってると、カリストが来た。

 

カリスト「起きたか、フェニックス。本来であればお前のような男はこの場に来るべきではないのだが、アルテミス様が聞きたい事があるため、アイアコスとの戦いの後に気を失ったお前をここへ連れてきた」

 

一輝「(そう言えば、前世の記憶とやらを目覚めさせられてそれからの事は覚えてないな)俺も色々と聞きたい事がある」

 

カリスト「よかろう。ついて来るがいい」

 

 そして、カリストの案内で一輝はアルテミスと対面した。

 

アルテミス「待っていたぞ、フェニックス。私は月の女神アルテミス」

 

一輝「アルテミス、俺に聞きたい事というのは」

 

カリスト「フェニックス、いくら神話の時代に全滅したはずのアテナの聖闘士だからとて、その無礼な態度は」

 

アルテミス「カリスト、よい」

 

カリスト「…かしこまりました」

 

アルテミス「その聞きたい事というのは、お前とその弟、そしてシンフォギアとやらを纏う2人はこの世界の人間ではないのだな?私のこの目で見ていたぞ」

 

一輝「…ああ。俺達はこの世界の人間ではなく、この世界と似て異なる並行世界からやってきた」

 

カリスト「並行世界だと?」

 

アルテミス「やはりか。並行世界から来たのなら、神話の時代に全滅したはずのアテナの聖闘士が現れても不思議ではあるまい。そして、お前達が並行世界からこの世界へ来れたのは完全聖遺物、ギャラルホルンのお陰だな?」

 

一輝「その通りだ」

 

カリスト「私も驚いた。まさか、この世界では神話の時代に消えて以来、未だに見つかっていないあのギャラルホルンが発見されていたとは…」

 

一輝「今度は俺が聞く番だ。聖闘士はこの世界には神話の時代に全滅したのか?」

 

アルテミス「その通り。そして、アテナもハーデスの魂と肉体に深い傷を負わせて死亡し、ゼウスの命を受けて私がアテナの遺志を継ぎ、この地上を治めている」

 

カリスト「そして、アテナのために散って逝った聖闘士の冥福を祈るべく、アルテミス様は聖闘士の聖衣をこの月の神殿に集め、我らが管理している。もっとも、そのままだと月衛士達から置くスペースなどの苦情が多発したため、アルテミス様の手でアクセサリー状に形を変え、保管している」

 

 そして、カリストはアクセサリー状になった聖衣を一輝に見せた。

 

一輝「この世界の聖衣はこうなっているのか…」

 

カリスト「普段の形は変わっているが、纏う時は昔の形に戻るぞ」

 

一輝「そうか。それで、あんた達はノイズについてはどういった方針をとっている?」

 

アルテミス「私はアテナ程お人好しでお節介焼きではないから、人間の問題には口出ししない。それに、ノイズはもともと人間が作り出したもの。故に人間がどうにかしなければならないのだ」

 

カリスト「だが、その例外ともいえるのが7年前に初めて出没したあの黒いノイズだ」

 

一輝「カルマノイズの事か…」

 

アルテミス「カルマノイズと言っているのか。ならば、私達の方でもそう呼ぶとしよう」

 

カリスト「あのノイズは普通のノイズとは異なる所が多い。それに、奴等の邪悪な瘴気のせいでアルテミス様が封印していた冥闘士達の封印が緩み、一部は復活してしまう事態にまでなっている。このため、アルテミス様は私や天闘士(エンジェル)を派遣して緩んだ封印を強固にしたり、復活した冥闘士を倒したりしている。まさか、三巨頭まで復活する事態になったのは驚きだが、お前がその三巨頭を倒せる聖闘士だったとは…」

 

一輝「アイアコスは元の世界でも倒した事があるからな。お前達はノイズはノータッチでも、カルマノイズは倒している理由は?」

 

アルテミス「あのカルマノイズは人の手で作られたノイズではないと思っているからだ。あの破壊衝動を植え付ける呪い、そして邪悪な瘴気、明らかに普通のノイズとは異質のもの。それに、あのノイズは生み出している怪物の尖兵に過ぎないと思っている」

 

一輝「…言われてみれば、大群で出現したりする事もあるから、尖兵に過ぎないのだろうな」

 

アルテミス「そして最近、私は9人のシンフォギア装者と未知の怪物が戦う夢を見る。セレナとやら以外の装者は全滅しているのになぜ、こんなおかしな夢を見るとはと思っていたが、恐らく残りの8人は並行世界の装者であろう。フェニックスよ、地上へ戻る際に頼みがある」

 

一輝「何だ?」

 

アルテミス「今から用意する9つの聖衣をシンフォギアとやらに詳しい技術者に届けてほしい。私の見た夢では9人のシンフォギア装者は怪物になすすべもなく負け、死亡するものだった。そもそも、シンフォギアは聖衣などに比べると貧弱で小宇宙の使用を想定していない。そして、9人の装者には小宇宙の才能がある。か弱き装者達の助けとするべく、聖衣を届けるのだ」

 

一輝「わかった。だが、守護星座はわかるのか?」

 

カリスト「問題ない。既に我々は把握している」

 

 カリストは箱に入った宝石のアクセサリーとなった聖衣を見せた。

 

カリスト「繋ぐガングニールは乙女座、切り裂く天羽々斬は鶴座、撃ち抜くイチイバルは冠座、銀の左腕のアガートラームはカシオペア座、ザババの双刃、シュルシャガナとイガリマはそれぞれ御者座と地獄の番犬座、貫くもう一つのガングニールは鷲座、魔を祓う神獣鏡は琴座、そしてこの世界にただ一人残っているアガートラームの装者、セレナはアンドロメダ座だ」

 

一輝「(セレナの守護星座が瞬と同じアンドロメダだと?)」

 

アルテミス「私はこの世界の地上を護らねばならぬ身であるが故、アテナがまだ生きていて地上を護る向こうの世界に直接赴くわけにはいかぬ。そして、私の推測に過ぎないが、ギャラルホルンによって世界が繋がった事は、いくつもの並行世界の命運がかかっている可能性もある。私にできる事はこれだけだ。よいな?」

 

カリスト「受け取るのだ、フェニックスよ」

 

 一輝はアクセサリー状になっている9つの聖衣を入れた箱を受け取った。

 

一輝「この聖衣、必ず届けてみせよう」

 

カリスト「それと、ネフィリムという聖遺物が地上で暴れているようだな。アルテミス様は既にそれを操る者も知っている。その黒幕を教えよう」

 

 カリストは一輝にネフィリムを操る黒幕の正体を教えた。

 

一輝「やはり、あいつだったか…」

 

カリスト「この問題はあくまでも人間の問題。人間が解決しなければならない。リュトス、フェニックスを地上へ送るのだ」

 

 一輝はリュトスに掴まり、地上へ戻った。

 

カリスト「アルテミス様、なぜカストディアンは清らかで完全な人間を作らなかったのでしょうか?地上の人間は汚らわしい上に不完全です。アルテミス様も少なからず」

 

アルテミス「…私もアテナが死んだ後、地上を護るようになった当初はそう思っていた。なぜ、不完全で汚らわしい人間をアテナは肩入れしすぎるのかが理解できなかった。だが、地上の人間を見続けて、なぜアテナが不完全な人間を好きになったのか、カストディアンがなぜ完全なプロトタイプではなく、不完全なルル・アメルを人として正式に採用したのかが理解できた」

 

カリスト「それは…」

 

アルテミス「それは、不完全であるが故の成長性や発展性による可能性だと理解できた。もしも、人間がカストディアンが破棄した完全な人間のプロトタイプのように発展性が見込めなければ、私は完全に見限っていたであろう」

 

カリスト「今までそうしなかったのは、」

 

アルテミス「いつの間にかアテナ程でないにしろ、不完全で手間もかかるが、可能性を秘めた人間に肩入れするようになったのかも知れん。完全とは、もうこれ以上成長できないという証でもあるのだからな」

 

カリスト「…そうでした。私は完全の意味をはき違えていたようです…」

 

アルテミス「フェニックスにはシンフォギアの事は貧弱と言ったが、あれには聖衣にはない可能性も秘めているであろう」

 

 完全の意味などをアルテミスとカリストは語り合った。

 

 

 

研究所

 

 そして、マリア達は並行世界を渡り、ナスターシャの元へ戻ってきた。

 

ナスターシャ「よく戻ってきてくれました」

 

マリア「予定より遅くなってごめんなさい、マム」

 

瞬「念のため僕が残ったけど、ここ数日はネフィリムの襲撃もなかったし、ノイズもあまり多く出現しなかったよ」

 

ナスターシャ「カルマノイズに加え、ネフィリムまでが脅威となった今、あなた方装者と聖闘士の存在より心強いものはありません。それから、セレナ」

 

セレナ「はい、マム」

 

ナスターシャ「いきなりいなくなるとはどういう事ですか?」

 

セレナ「それは、書置きを…」

 

ナスターシャ「書置きを残せばいいというものではありません。勝手な行動は慎みなさい。ここには、あなた以外の装者はいないのですよ。あなたの行動を予測して瞬が残ってくれましたが、戦える装者や聖闘士がいない時にノイズに襲われたらひとたまりもないのですよ」

 

セレナ「ごめんなさい、マム…」

 

翼「あれから襲撃はなかったとの事ですが、そちらで何か、ネフィリムに関する新しい情報は得られましたか?」

 

ナスターシャ「所内のカメラをチェックしたところ、驚くべき事にネフィリムは監視カメラを的確に破壊しつつ聖遺物保管庫に進んでいました。逃走経路を隠すためと考えられますが、陽動めいた動きといい、知性を持たないネフィリムの行動としてはあまりに不可解です。やはり、何者かがネフィリムを操っていると考えるのが妥当と言えるでしょう」

 

翼「こちらでも同様の推測を立てていた所です」

 

響「操るって…でもいったい誰が?」

 

マリア「心当たりはありますか、マム」

 

ナスターシャ「…。恐らく、ネフィリム起動実験に係わった研究員の誰かでしょう。しかし、確証がありません。もう少し時間をください」

 

翼「…わかりました」

 

 瞬は1人だけ心当たりがあった。

 

瞬「(そう言えば、アドルフ博士はやけに僕や兄さんを嫌っていたようだ…。勇気などを否定していたし…。もしかすると、あの人が…!)」

 

 そんな中、通信が入った。

 

ナスターシャ「私です。……近隣の町にノイズが」

 

響「私達が出ます!」

 

マリア「セレナ、平気かしら」

 

セレナ「うん」

 

翼「ならばいくぞ!」

 

 マリア達は出撃した。

 

 

 

市街地

 

 瞬がいる事もあり、ノイズはすぐに全滅した。

 

セレナ「凄い…、瞬さんのアームドギアはとても凄い…」

 

マリア「セレナ、聖衣とシンフォギアは根本から違うの。鎖はあくまでも補助装備で、瞬は素手の方が強いのよ」

 

セレナ「素手の方が強いなんて…」

 

瞬「でも、チェーンは素手と違ってみんなを護ったりできるから、気に入ってるけどね」

 

 そう言ってると、カルマノイズが出てきた。

 

瞬「カルマノイズ…!」

 

翼「そろそろ出てくる頃合いだと思っていたが、まさかそれなりの群れで来るとは…」

 

マリア「避難はあらかた終わっているとはいえ、まずいわね…!」

 

セレナ「私、まだ戦える」

 

マリア「わかっているわ。けれど、あなたはフォローに回って!」

 

セレナ「う、うん!」

 

瞬「大半は僕に任せて、みんなは2人ずつで先へ進もうとしている2体のカルマノイズを頼む!」

 

翼「了解した。立花!」

 

響「はい!マリアさんはセレナちゃんと!」

 

翼「1体を撃破次第、そちらの戦列に加わる!無茶をしてくれるなよ!」

 

マリア「ええ!セレナは私が護る!」

 

セレナ「マリア姉さん…。大丈夫、私も戦えるよ」

 

 瞬はカルマノイズの大半を相手取り、響と翼、マリアとセレナはそれぞれ2人一組でカルマノイズ1体ずつと応戦した。響と翼は連携でカルマノイズを倒したのであった。

 

マリア「こっちだって!」

 

セレナ「姉さんとなら!」

 

 セレナは押し出ようとしていた。

 

マリア「セレナ!あまり押し出ては!」

 

セレナ「姉妹の一撃を!」

 

マリア「姉妹の…はああーっ!」

 

 しかし、カルマノイズは攻撃をかわした。その直後、チェーンがカルマノイズを貫き、カルマノイズは消滅した。

 

マリア「この攻撃は瞬ね」

 

 攻撃したのは瞬であった。

 

響「瞬さん、逃さずに倒してくれてありがとう」

 

瞬「あのノイズを1体でも逃せば大変な事になるからね」

 

マリア「取り逃がしそうになった所を倒してくれてありがとう、瞬」

 

 取り逃がしそうになったマリアとセレナの様子を瞬は察していた。

 

 

 

研究所

 

 瞬がいなければカルマノイズを取り逃がしていたため、マリアとセレナは落ち込んでいた。

 

マリア「…どうして私はあの時!」

 

セレナ「私がうまくタイミングを合わせられなかったから…。ごめんなさい、姉さんの指示を無視して前に出ちゃって」

 

マリア「違うわ。問題は私にあるのよ。自分でもわかってる。ごめんなさい、セレナ…」

 

 落ち込むマリアをセレナは抱き締めた。

 

セレナ「ううん、姉さんが悪いはずない。だからそんなに気に病まないで」

 

マリア「(セレナ…温かい)」

 

セレナ「マリア姉さん…」

 

マリア「(こうしてセレナに抱き締められていると、幼い頃の事を思い出す…。理由は忘れてしまった。きっと、大事にしていた服を引っかけて裂いたとか、その程度のくだらない事だったと思う。その時、セレナはこうして私を慰めてくれた。…私が悲しんでいる時、落ち込んでいる時、いつも傍にいて私を慰めてくれた、元気をくれた。そうか、私はずっとセレナを護っていたつもりだったけど…同時に護られてもいたんだ…)セレナ、ありがとう…」

 

セレナ「私が辛い時はマリア姉さんが、マリア姉さんが辛い時は私がずっとお互い寄り添ってきたよね」

 

マリア「ええ……覚えているわ。あなたと過ごした、私の大切な時間を…」

 

セレナ「これからもそうだよ。だからもう、悲しい顔はしないで?」

 

マリア「ええ……大切な、私の…(私の妹ではない。その事実を隠し、私はこの子を欺いている…)私の、妹…」

 

セレナ「姉さん…」

 

 その後、マリアは外に出た。その際、一輝と遭遇した。

 

マリア「一輝…」

 

一輝「マリア、お前はセレナの事で悩んでいるな?」

 

マリア「…そうよ。私はあの子の本当の姉じゃない…。事実を隠し、あの子を欺いているのよ。妹を護れなかった私にあの子の信頼と愛情を受け取る権利なんてない…」

 

一輝「惰弱な。マリア、過剰に自分を責めるな。そして、姉妹愛に本当も偽りも関係ない。偽りだとわかった時点で壊れるほど、お前達の姉妹の絆は脆いものなのか?」

 

マリア「一輝!セレナは…あの子は目覚めて間もないから不安定なのよ!もしも、真実を知ったら…」

 

一輝「お前はセレナを過小評価しているようだな。セレナはお前が思っている以上に芯の強い子だ。もしかすると、お前の素性に薄々気付いているかも知れんぞ」

 

マリア「そんな事って…」

 

一輝「これだけは言っておく。兄弟や姉妹といった、家族の絆に並行世界という壁など関係ない。お前がセレナを大切に思っているのなら、最後までセレナを信じろ。セレナだって、お前を信じているのだからな。そして、セレナが大切だからといって、ヤケを起こすなよ」

 

 助言を残し、一輝はナスターシャの所へ行った。

 

マリア「一輝…」

 

 一輝はナスターシャの所へ来た。

 

ナスターシャ「一輝、無事だったのですね」

 

一輝「色々あってな。それと、ナスターシャに伝えておきたい事がある。ネフィリムを操っている犯人がわかった」

 

ナスターシャ「犯人…ですか」

 

 その犯人を一輝は教えた。

 

ナスターシャ「…彼が犯人で間違いないのですね?」

 

一輝「ああ、間違いない。俺は引き続き、カルマノイズの殲滅に向かう。奴に気を付けろ。そして、この預かり物を置いておく。騒動が終わるまで奴が見つけにくい所に隠すんだ」

 

 そう言って一輝は9つの聖衣をナスターシャに預け、カルマノイズ退治に出かけた。同じ頃、セレナは空を眺めていた。そこへ、瞬が来た。

 

セレナ「瞬さん…」

 

瞬「セレナ、暗い様子で空を眺めてるけど、どうしたんだい?」

 

 その問いにセレナは答えなかった。

 

瞬「答えられないなら、答えなくてもいいよ」

 

セレナ「あの…瞬さんはいつもお兄さんの一輝さんがいてくれなくて寂しくないんですか…?」

 

瞬「…本音を言えば、昔みたいに兄さんと一緒にいてほしいと思っている」

 

セレナ「どうして、そうしないんですか?」

 

瞬「兄さんの気持ちを尊重しているっていうのもあるけど、普段は傍にいなくても兄さんは僕の危機にはいつも駆け付けてくれるんだ」

 

セレナ「瞬さんの危機に駆け付ける一輝さんって、やっぱり優しい人ですね」

 

瞬「強い絆で結ばれた兄弟や姉妹はいつも一緒にいるいないは関係ないと思うよ。それに、セレナはお姉さんの事が大好きかい?」

 

セレナ「はい、大好きです。ちょっと暗い話になったので、話題を変えてみませんか?」

 

瞬「そうだね」

 

セレナ「実を言うと私、装者じゃなくて聖闘士だったらアンドロメダの聖衣を纏ってみたいんです」

 

瞬「どうしてかな?」

 

セレナ「瞬さんのアンドロメダの聖衣を見て、何だか不思議な感じになって…」

 

瞬「案外、セレナの守護星座は僕と同じアンドロメダかも知れないと思うよ」

 

セレナ「そうですか」

 

瞬「それじゃ、そろそろ戻ろうか」

 

 そして夕方、警報が鳴った。

 

マリア「マム!またノイズが現れたの!?」

 

ナスターシャ「いえ、カルマノイズです。しかも、大群で来ています。こことは別の聖遺物研究所付近に現れたようです。お願いできますか?」

 

瞬「大群となれば、一刻も早く行かなければならない!」

 

 瞬の言葉に一同は頷いた。

 

ナスターシャ「ありがとうございます。セレナ、先導をお願いします」

 

セレナ「はい!」

 

 

 

 

 一同はセレナの先導でカルマノイズ出現地点に来た。

 

セレナ「瞬さん、何体かは私達も倒します!」

 

瞬「けど、無理はしないで!」

 

 カルマノイズの群れの大半は瞬が戦う事となり、抜け駆けしようとした1体は響達が連携で倒したのであった。

 

響「…や、やった!やりましたよ、翼さん!」

 

翼「ああ。何とかな…」

 

マリア「ふう…。セレナ、怪我はないかしら?」

 

セレナ「うん。姉さんが護ってくれたから、かすり傷だけ…」

 

翼「後は瞬が群れを倒し終われば…」

 

 ところが、呻き声と共にネフィリムが現れたのであった。

 

マリア「ネフィリム…!どうしてカルマノイズに続いて!」

 

 そこへ、ナスターシャから通信が入った。

 

ナスターシャ『このネフィリムの出現は操る黒幕の仕業です。その黒幕の正体は…』

 

マリア「正体は?」

 

???「それは確定させるためだ」

 

 声の主はアドルフであった。

 

響「博士!?生きていたんで」

 

マリア「アドルフ、これはあなたの仕業だったのね!」

 

アドルフ「何?なぜ俺の仕業だとすぐにわかった?」

 

マリア「マムがさっき、教えてくれたからよ!」

 

アドルフ「なぜ俺だとわかった!?まあいい、ノイズの出現は反応パターンにより追跡できる。装者はノイズと戦闘する。ならば勝ちを確定させるためには、戦闘直後まで伏して待つのが最も合理的だろう」

 

響「そんな…ノイズさえ利用しようとするなんて…!」

 

翼「ノイズの尻馬に乗ろうとは、何たる下劣!」

 

アドルフ「俺は不確定な理想論よりも、確定する安寧を選ぶ。ただそれだけの事。あの精神論の塊ともいえる兄弟はとても気に食わなかったがな!」

 

セレナ「アドルフ博士は私の治療を頑張ってくれたって…、マムが…」

 

アドルフ「ネフィリムを起動させるためには装者が必要だ。ならばお前の治療を行う事は当然の手順じゃないか」

 

セレナ「それだけの、ために…」

 

マリア「…くっ、お前!」

 

アドルフ「無駄な会話でお前達に時間を与えるのは愚策だな。ちょうどあの鎖のガキは加勢できん。さあ、ネフィリム…そいつらの持つ聖遺物も喰らい尽くせ!」

 

 ネフィリムが襲い掛かってきた。

 

響「瞬さんはカルマノイズの群れと戦っている最中だし、この消耗した状態で…!」

 

翼「…死力を尽くすほかあるまい」

 

マリア「セレナ、あなたは後ろに…」

 

セレナ「…ううん、私も…姉さんと一緒に戦う」

 

マリア「(…こんなにも震えてるのに。やっぱり、一輝の言った通りかも知れない…)…あなたは強い子ね。アドルフ!私は決然として、あなたを断罪する!」

 

 マリア達とネフィリムの戦いの様子をベアトリーチェは見ていた。

 

ベアトリーチェ「あのまま聖闘士にネフィリムを倒させるわけにはいかないわね。フェニックスの方にも足止めを差し向けたし、あの子を傷つけた報復でどんどん邪魔してあげないと」

 

 この世界でもカルマノイズの大群を差し向け、聖闘士の邪魔をしていたのであった。一方、装者達のしぶとさにアドルフは業を煮やした。

 

アドルフ「くそっ、鎖のガキは加勢できず、もはや時間の問題だというのにしぶとい連中だ。ならば、更なる確定を!食え、ネフィリム!」

 

 アドルフはネフィリム目掛けて、何かを投げた。

 

響「あれって、聖遺物…!」

 

 ネフィリムは聖遺物を食った。

 

翼「何が起こっている!すぐに成長が可能なのか…!?」

 

マリア「そんなはずがないわ!ネフィリムにはある程度の成長期間が必要なはず」

 

セレナ「一体、何して…うっ…」

 

 目の前で起こったのはネフィリムの成長ではなく、新たなネフィリムが3体も産まれたのであった。

 

響「そんな…ネフィリムがネフィリムを、産んだ…!?」

 

マリア「そんな…、3体も増殖したなんて…!?」

 

アドルフ「これは…予想以上だ!想定外の事態は気に入らないが、この結果を捨てる理由もない」

 

翼「貴様、何をした!」

 

アドルフ「見ての通り、食わせただけだ。生み出す力を象徴するという、聖遺物の欠片をな」

 

セレナ「ね、姉さん…瞬さんが助けに来れない状況だとこのままじゃ…」

 

マリア「いざという時は、あなただけでも…」

 

セレナ「そんな事、できないよ!」

 

翼「苦難には慣れているつもりだったが…瞬が加勢できない以上、いよいよ万事休すか。いや、いざとなれば絶唱で」

 

響「勝てない、逃げられない、でも負けられない。ないない尽くしの状況でも、できる事はあります」

 

翼「…何をやるつもりだ」

 

響「S2CAを、使いましょう…!」

 

翼「正気か立花!そんな状態では、とても負荷に耐えられるとは思えない!」

 

響「翼さんだって、さっき絶唱を唄おうとしていたじゃないですか」

 

翼「それとこれとは」

 

響「同じです!やるしかないなら、やるしかないんですよ!」

 

翼「くっ!」

 

アドルフ「一か八かの賭けになどださせるか、もはや状況は確定した!ネフィリム!」

 

 ネフィリム4体が襲い掛かろうとしていた。

 

マリア「あなたという子は…いいわ。やりましょう。可能な限りアガートラームでサポートする」

 

翼「無理はするなよ、立花。と言っても無駄かもしれないが…」

 

響「無理なんてしませんよ。みんながいるんですから!」

 

マリア「セレナ、下がっていなさい」

 

セレナ「う、うん…」

 

 姉の言う通りにセレナは下がった後、マリア達は絶唱を唄い、S2CAを発動させた。

 

響「セット・ハーモニクス!S2CA・トライバースト!」

 

 その光景をセレナは目の当たりにした。

 

セレナ「綺麗…」

 

アドルフ「これはあの時の…!まずい、離脱しろ、ネフィリムーーッ!」

 

 S2CAの威力に恐れをなしたアドルフは慌ててネフィリムと共に離脱した。

 

マリア「はぁ、はぁ…倒す事はできなかったけれど、撤退させる事は、できた…!」

 

翼「九死に…一生という、所だな…!」

 

響「あ…あはは…ね、うまくいったでしょ?翼さ」

 

 響はS2CAの反動で倒れてしまった。ちょうどその時、カルマノイズの大群を倒し終わった瞬が戻ってきた。

 

瞬「遅くなってすまない!」

 

セレナ「瞬さん、立花さんが!」

 

瞬「これは…S2CAの反動だ。急いで研究所へ戻ろう!」

 

 マリア達は研究所へ戻る事となった。

 

 




これで今回の話は終わりです。
今回は気を失った一輝がアルテミスに出会うのと、ネフィリムを操っていた黒幕の正体が判明する話となっています。
今回の並行世界ではアクセサリー状になっている聖衣ですが、聖闘士星矢Ωの聖衣石のような状態になっているといった方が早いです。
そして、一輝が地上へ戻った後のアルテミスとカリストの会話は何か重大な話になるかも知れません。
次の話は響と翼に代わり、切歌と調が来ます。

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