セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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55話 完全体のネフィリム

 

 深い森の中、一輝は邪悪な小宇宙を感じ取っていた。

 

一輝「あそこから邪悪な小宇宙を感じる…。恐らく、あそこにカルマノイズの発生源でもあるのかも知れんな…」

 

 邪悪な小宇宙を感じる方角へ一輝は向かっていった。

 

 

 

???

 

 同じ頃、人里離れた場所でのカルマノイズの発生源となっているアジトでは…。

 

???「ベアトリーチェ様、あのペガサス…いや、サジタリアスの仲間、フェニックスがここへ向かっているようです」

 

ベアトリーチェ「またサジタリアスの仲間が邪魔をしに来たのね。この世界では聖闘士もいないし装者も1人しかおらず、冥闘士という、邪気に溢れた戦士が眠っているからあの子の瘴気で目覚めさせようと思ったのに、あの月の女神とその配下のせいで思うように進まない上、おまけにフェニックスまで来る始末。ガンドを数多くバラまいてから、このアジトを放棄していまた別の世界へ行きましょう」

 

???「フェニックスと遭遇して我々の存在が判明する前に別の世界へ向かうのが賢明ですな」

 

 そう言って大量のカルマノイズをバラまいた後、配下の男はベアトリーチェと共にアジトを放棄して別の世界へ逃げ出したのであった。それから、一輝がもぬけの殻となったアジトに現れた。

 

一輝「(ここにはカルマノイズの瘴気が結構溜まっている…。それに、直前まではここに人がいたような感じもする。きっと、俺が来たから逃げ出したのだろうな…)」

 

 もうここに用はないために帰ろうとした一輝であったが、カルマノイズが数体現れた。

 

一輝「俺の存在に気付いて集まったのか?だが、俺の敵ではない!」

 

 一輝は瞬時にカルマノイズを倒し、アジトを後にした。

 

 

 

 

 策が決まった事と瞬が間に合った事もあり、アドルフが逃げたためにマリア達は何とかなったのであった。

 

切歌「何とかなったデス…」

 

調「危機一髪だった…」

 

マリア「私が間違っていたわ。ごめんなさい、3人とも(私は1人で無理をしようとしていたのね…。思えば、そんな事ばかり繰り返してきた気がする。思い込みで突っ走って、迷惑をかけて。私1人にできる事なんて、たかが知れているというのに)3人のお陰で目が覚めたわ、ありがとう」

 

切歌「マリアは優しいから、みんなを庇おうとしすぎデス。わかってくれたらそれでいいデスよ」

 

調「これからは、どんどん私達を頼ってほしい」

 

マリア「ええ、必ず。本当にありがとう」

 

切歌「それからセレナもデス!」

 

セレナ「わ、私!?」

 

調「何かあったら、私と切ちゃんにも言ってほしい。私達は…家族なんだから」

 

切歌「そうデスよ。あたし達は家族デス!」

 

セレナ「家族…私の、家族…!みんなも…。月読さんも暁さんも…私、嬉しいです!」

 

 嬉しくなったセレナは2人に抱き付いた。

 

切歌「セ、セレナ、そんなに抱き付いたら…いいデスけど」

 

調「こういう事、昔にもあった気がする…」

 

マリア「(私達レセプターチルドレンは決して恵まれた環境で育ったとはいえない。だからこそ、お互いを信頼して、肩を寄せ合って生きていかなくては…)」

 

セレナ「マリア姉さん。そして月読さん、暁さん…。みんながいてくれて、本当によかった」

 

切歌「えへへ…そんな事言われたら、思わず目から汗が出るデス」

 

調「うん……。あ、切ちゃん、鼻水出てる…」

 

切歌「いい所でそれを言うデスか!?」

 

調「セレナの服に付きそうだったから。はい、ティッシュ」

 

切歌「うーん、納得いかないけどありがとうデス」

 

セレナ「ふふ……2人共、いつまでも仲良しでいてくださいね」

 

瞬「さあ、そろそろ戻ろうか。僕がいるとはいえ、アドルフがまた襲ってくるかも知れないし」

 

 マリア達は研究所へ戻った。

 

 

 

研究所

 

 戻ったマリアとセレナはナスターシャに怒られたのであった。

 

セレナ「マムに怒られちゃったね…」

 

マリア「ごめんなさい。私が先走ったから…

 

セレナ「姉さんは悪くないよ。だって全部私のためでしょう?私、嬉しかった」

 

マリア「セレナ…」

 

セレナ「私には、こんなに心配してくれる家族がいるんだって、凄く嬉しかった。マムも、月読さんも、暁さんも…。そして、瞬さんと一輝さんも、みんな大好き。…あ、姉さんが一番だけど」

 

マリア「ふふ、ありがとう」

 

セレナ「…そういえば月読さんと暁さんはどこに行ったんだろう?瞬さんも見てないし…」

 

マリア「訓練施設を見てくるって。瞬は医者になるための勉強で医療現場の見学もしてるそうよ。私達も行ってみる?」

 

セレナ「うん、二人とももっと話したい、だって…家族だもん」

 

マリア「そうね、行きましょう」

 

 マリアとセレナも訓練へ向かった。しばらく訓練をしていると、ナスターシャと瞬が来た。

 

ナスターシャ「やっていますね」

 

マリア「ええ。さっきは本当にごめんなさい。勝手な事をしてしまって」

 

セレナ「私からも、改めてごめんなさい…」

 

ナスターシャ「言いたい事はさっき言いました。もう気にしてませんよ。無事に戻ってきてくれたのですから…」

 

切歌「それで、囮作戦はどうなったデスか?」

 

ナスターシャ「あれは現在、検討中です」

 

セレナ「検討…それじゃいつかは…」

 

ナスターシャ「ええ。ですから検討している間に解決をしてしまえばいいのです」

 

マリア「…マム!?」

 

瞬「教授、それは名案ですね」

 

ナスターシャ「こんな私でも、プロフェッサーの肩書を与えられ、現場の指揮を任されています。つまり私が認可しなければ、作戦が実行に移される事はありません。今は検討、そして準備中の段階です。しかし検討にも準備にも時間がかかるものです。作戦の実行はいつになる事でしょうね…」

 

セレナ「あ…ありがとうございます…!」

 

ナスターシャ「感謝なんて必要ありません。根本的な問題が残っている以上、これからもあなたには戦ってもらうのですから」

 

セレナ「それでも…。ありがとうございます、マム」

 

切歌「セレナだけに戦わせるなんてさせないデス!あたし達もいるデス!」

 

調「うん、みんなで乗り越えよう」

 

マリア「マムがいてくれてよかった…そう思うわ。もしもマムがいてくれなければ、私はどんな愚かな、荒んだ生き方を選んでいたかも知れない…。本当にごめんなさい。私はマムの事さえも信じられていなかった…」

 

ナスターシャ「自分を卑下する必要はありません。あなたはセレナを大事に思うがあまりに、視野が狭くなっていただけの事」

 

マリア「マム…ありがとう」

 

 その後、マリア達は集まって今後の事を考えていた。

 

マリア「それじゃあ、私達はネフィリムをどうするか考えなければいけないわね」

 

セレナ「うん、マムが作戦実行を引き延ばしてくれているうちに」

 

瞬「向こうでは何かあったかい?」

 

調「翼さん達から聞いて、ネフィリムの情報についてS.O.N.Gで改めて調べてもらったの」

 

切歌「集めた情報と直接対峙した翼さん、響さんの話かあら、ネフィリムはインプリプリとかそんな状態でいう事を聞いてるらしいデス」

 

調「切ちゃん、インプリンティング。ひよこと親の関係みたい」

 

切歌「ただ、どこまでそれが有効かは怪しいって話デス」

 

マリア「…下手に完全体のネフィリムにさせてしまうと、どうなるかわからないって事ね」

 

切歌「それに、完全体のネフィリムの強さは…危険すぎるデス」

 

調「あれを倒せと言われても、正直…」

 

瞬「いや、あの時のネフィリムはフロンティアのエネルギーを得ていたからこその強さだ。仮にこの世界のネフィリムが完全体になったとしても、あの時と同じぐらいの強さとは限らない。でも、完全体にさせない方がいいのは僕も同じだ」

 

セレナ「…まるで実際に戦った事があるみたい」

 

マリア「そ、その…シミュレータでね!」

 

切歌「デスデス!あー、あのトレーニングはキツかったデスよ!」

 

マリア「と、とにかく今のうちにネフィリムを何とかするには、私達が一丸となって挑むしかないわ」

 

調「小さいネフィリムも油断できない…。あれも放置したら成長するかも知れないし」

 

切歌「それじゃ、やっぱり訓練するデスか?」

 

セレナ「それなら私、やりたい事があります」

 

瞬「やりたい事?」

 

 早速、訓練の場へ向かった。

 

切歌「で、何をやるんデスか?」

 

セレナ「私と姉さん、月読さんと暁さんのチームに分かれてのチーム戦です。この前の森では私達、ずっと歩き詰めで疲れてて、瞬さんの鎖に拘束されていたから、ちゃんと2人と戦ってみたいなって思ってたんです」

 

調「セレナって意外と…」

 

切歌「ま、負けず嫌いデス…」

 

セレナ「よろしくお願いします!」

 

マリア「言っておくけど、負けないわよ!」

 

切歌「こっちも受けて立つデス!」

 

調「うん、望む所!」

 

瞬「僕が見ておくからね」

 

 そして、チーム戦での訓練が始まり、勝者はマリアとセレナの姉妹チームとなった。

 

瞬「勝者はマリアさんとセレナの姉妹チームだね」

 

切歌「くうぅ…も、もう1回デース!」

 

調「切ちゃんまで熱くなってどうするの?」

 

セレナ「(少しは手加減なしで戦ってもらえたかな?)」

 

マリア「ほらほら、落ち着きなさい。セレナも切歌も。ふふ…(こうして調や切歌と一緒にセレナが笑っていると、まるで本当に自分の妹が帰ってきたようで……違う。私はこの子にとって)」

 

 そんな中、警報が鳴った。

 

ナスターシャ『近隣の市街地付近にノイズの出現を確認しました。皆さん、行っていただけますか』

 

瞬「はい、すぐに向かいます!」

 

切歌「それなら今度はノイズを倒した数で勝負デス!」

 

セレナ「次も負けませんよ!」

 

 

 

市街地

 

 出撃したマリア達はノイズを次々と倒していった。

 

切歌「これでもう1体デス!」

 

 切歌はノイズを撃破した。

 

セレナ「こっちも!」

 

 ノイズを撃破していると、小さいネフィリムが出現した。

 

切歌「ネフィリムの小さいの…!」

 

調「こんなにすぐ現れるなんて…!」

 

マリア「分裂体…くっ、単体でも現れるなんて!」

 

セレナ「またアドルフ博士がノイズ発生に合わせて送ってきたのかな…」

 

マリア「…とにかく倒すわよ!」

 

セレナ「(大丈夫、みんながいるんだから…)」

 

瞬「僕も」

 

???「瞬、お前は手出しするな」

 

 瞬に制止をかけたのは一輝であった。

 

瞬「兄さん!」

 

一輝「あのネフィリムは俺達の助けがなくとも、マリア達だけで倒せる。だから、大丈夫だ」

 

 一輝が言った通り、小型のネフィリムならマリア達だけでなんとかなっていた。

 

マリア「ネフィリムといえど、小型1体なら!」

 

調「このまま押し切れる!」

 

 マリア達は猛攻を仕掛けた。対するネフィリムも反撃したが…。

 

切歌「反撃はあたしが捌くデス、セレナ!」

 

セレナ「はい!」

 

 セレナが小型のネフィリムに止めを刺したのであった。

 

マリア「やった……セレナ!」

 

セレナ「うん、姉さん!私、ネフィリムが相手でも戦えたよ!」

 

切歌「お互い腹を割って話して、連係も完璧になったデス。あたし達の敵じゃないデスよ!」

 

調「この調子で1体ずつ出てきてくれれば…!」

 

 ところが、一般人の悲鳴が聞こえたのであった。

 

瞬「これは…悲鳴?」

 

一輝「すぐ近くだ!」

 

 また小型ネフィリムが出たのであった。

 

切歌「げげっ、またまたネフィリムデスか!?」

 

マリア「小型2体目…制御を離れて暴れ回っているの!?」

 

調「かなり厄介…」

 

セレナ「皆さん、逃げてください!化け物は私達が戦います!」

 

マリア「ノイズ発生に重ねてバラバラに行動させるのは対処が厄介だけど、むしろ好都合だわ!」

 

切歌「まずは周りのノイズから、続いてもう1匹のネフィリムを仕留めるデス!」

 

 そんな中、瞬のチェーンが反応した。

 

一輝「瞬のチェーンが反応してる?」

 

瞬「この反応は…カルマノイズが来る!」

 

 ベアトリーチェがこの世界から逃げる前に残していった大量のカルマノイズが出現したのであった。

 

通行人「く、黒いノイズの大群だぁ~~!」

 

切歌「げげっ、カルマノイズ大量発生デス!」

 

マリア「こんな時にカルマノイズなんて…!」

 

セレナ「姉さん、もう1体のネフィリムが!」

 

 今度は3体目の小型ネフィリムまで出現したのであった。

 

マリア「3体目まで!」

 

調「小型ネフィリム2体にカルマノイズの大群…」

 

瞬「カルマノイズの大群は僕と兄さんに任せて!」

 

一輝「お前達はネフィリムをやれ!」

 

切歌「こういった時は聖闘士が頼りになるデス!」

 

瞬「でも、アドルフはどこへ…」

 

 そう言ってると、通信が入った。

 

ナスターシャ『皆さん緊急事態です!ネフィリムが研究所に!』

 

マリア「小型ネフィリムは陽動…くっ、またしても!」

 

セレナ「マム…」

 

マリア「でも、市街地で暴れる小型ネフィリムも放置できない!」

 

一輝「なら、お前とセレナだけでも先に研究所へ向かえ!俺達もカルマノイズが片付き次第、ネフィリムを叩き潰す!」

 

マリア「一輝…」

 

瞬「時間がありません!マリアさんとセレナは急いで研究所へ!」

 

切歌「一輝と瞬がカルマノイズと戦っている間、あたしと調がネフィリムと戦うのデス!」

 

調「うん。2人はマムをお願い」

 

マリア「いくら相手が小型2体だからって、あなた達2人だけで…」

 

切歌「あたし達を」

 

調「信じてほしい」

 

一輝「俺と瞬もいる。だから急げ、マリア!」

 

マリア「(…そうだったわね。私はこの子達を信じる。なら…私もこの子達の信頼に応えて、マムを救わなければ!)…ここは任せたわ!すぐに倒して追いついてきなさい!」

 

切歌「了解デス!」

 

調「了解!」

 

マリア「いい顔をしてるわ。マムの事は私達に任せて!走るわよ、セレナ!」

 

セレナ「うん…!(マム、無事でいてね…)」

 

 マリアとセレナは研究所へ向かっていった。

 

切歌「マリアのいい顔してたデス」

 

調「うん。私達は自分の役目を果たそう!」

 

 カルマノイズは大群でかかっても一輝と瞬の敵ではなかった。

 

一輝「とああああっ!!」

 

瞬「ふんっ!」

 

 一輝の拳と瞬のチェーンでカルマノイズは盛大に吹っ飛んでいった。

 

切歌「す、凄いデス…!」

 

調「私達じゃ苦戦するカルマノイズを圧倒的な力の差で蹴散らしてる…」

 

切歌「おっと、気を取り直してあたし達はネフィリムを」

 

 ネフィリムと戦おうとした切歌と調だが、肝心のネフィリム2体は一輝と瞬の攻撃で再生が間に合わずに弱っていたカルマノイズを手あたり次第に次々と捕食していたのであった。

 

切歌「げえっ、ネフィリムがカルマノイズを食ってるデス!」

 

調「確か、ノイズはネフィリムの餌にならないってドクターが言ってたはずなのに…」

 

切歌「なのに、何でカルマノイズを食べてるんデスか…!?」

 

一輝「(やはり、アルテミスの言ったようにカルマノイズは普通のノイズとは異質の存在だ。ネフィリムの餌になるとは…どうなっている?)」

 

 弱ったカルマノイズを何十体か捕食したネフィリムは幼体から一気に成長し、以前、戦ったネフィリム・ノヴァとは色が違い、黒いボディに赤いラインが走った色になっているものの、姿形そのものは完全体の姿となった。

 

切歌「間を置かずに成長したデス!おまけに完全体デスよ!」

 

調「2体ともそうなるなんて…」

 

切歌「カルマノイズのせいでイグナイトも使えないし、万事休すデスよ!」

 

一輝「ならば、この場は俺と瞬に任せろ!お前達は急いでマリアとセレナの救援に向かえ!」

 

調「一輝さん、瞬さん、無理はしないで」

 

 まだ残っているカルマノイズとネフィリム完全体2体を一輝と瞬に任せ、切歌と調は研究所へ向かった。

 

一輝「あのネフィリムの発する熱と本来はカルマノイズが発していた呪いは装者ではとても耐えられるようなものではないな…」

 

瞬「うん。ましてや、装者がイグナイトを使ってたら自殺しに行くようなものだよ」

 

一輝「だが、完全体になった所で俺達の敵ではない。瞬、すぐに蹴散らして救援に向かうぞ!」

 

 ネフィリムが完全体になっても一輝はいつもの自信満々な態度を崩さず、不敵な笑みを浮かべて瞬と共に完全体のネフィリム2体とカルマノイズの群れに向かっていったのであった。

 

 

 

研究所

 

 急いで駆け付けたマリア姉妹だが、研究所は荒らされていた。

 

マリア「既に荒らされて…マム、マムは…!私達は間に合わなかったというの…!?」

 

セレナ「姉さん、あそこ!マムが」

 

 セレナが指差した方向にけがをしたナスターシャがいた。

 

マリア「マム!」

 

ナスターシャ「う…マリア、セレナ。来てくれましたか。私は大丈夫です。それよりも、ネフィリムがまだ」

 

マリア「マムを放ってなんておけないわ!せめてベッドに」

 

セレナ「メディカルルームが無事か、私見てくる…!」

 

???「何だ、生きていたのか」

 

 声の主はアドルフであった。

 

マリア「これは…お前が!」

 

アドルフ「自明の事実を確認するムダは止した方がいい。それにしても、存外にナスターシャ教授は健康体のようだ。偏食家故、もっと弱っていると思ったよ。くく…」

 

ナスターシャ「ドクター・アドルフ…さらなる聖遺物をネフィリムに与えるつもりですか。ネフィリムは人の手に余るものだと、まだわからないのですか…!」

 

アドルフ「そら!ネフィリム、もっともっと聖遺物を喰らえ!」

 

 アドルフは手に入れた聖遺物をネフィリムに与えていた。もっとも、一輝がアルテミスから授かり、ナスターシャに預けていた聖衣に関してはその存在自体を知らなかったせいか、探そうともしなかった。

 

セレナ「マムは、私達が絶対に護ります!」

 

アドルフ「バカか。俺は教授の命など興味はない。それより、むしろ生かしておいた方が有用といえる。生かしておけば…。こうして餌がそちらからやってくるのだから」

 

ナスターシャ「私を囮に使って、マリア達をおびき出したというのですか…!まるでF.I.S上層部の指示を逆に…」

 

マリア「どこまでも下劣な!」

 

アドルフ「はっ!品性が結果の良し悪しを左右するならば、世界は聖人で溢れている事だろう。そんなもの見た事はないがね。陽動による遅延、連戦による消耗、囮による誘引。すべて不安要素を取り除くための必要な手段だ。俺に悪意などない」

 

マリア「それこそが邪悪!」

 

セレナ「私を目覚めさせてくれた事には感謝してます。でも…!」

 

アドルフ「あらゆる不可測を押し潰す、完全体はもうすぐだ!ネフィリム、残りの餌も平らげろ!」

 

マリア「その歪んだ執着、私が必ず砕いてみせる!」

 

 マリアとセレナはネフィリムに戦いを挑んだ。ある程度成長したネフィリムの力は強大であり、2人は苦戦を強いられた。

 

マリア「セレナ!」

 

セレナ「くっ……私は大丈夫…!」

 

マリア「流石に強い…けれど、まだまだ!」

 

アドルフ「どうしてここまで耐えられる…!計測したギアの耐久数値はとうに超えているはずだ!」

 

マリア「ふっ…そんなもので私達を計るつもり?」

 

アドルフ「くっ、まったく、あの精神論の化身の兄弟といい、人間と言うのは忌まわしい不確定要素の塊だ…。何をやっている、ネフィリム!もっと聖遺物を喰らえ!そして不安要素を排除しろ!」

 

 業を煮やしたアドルフはまたネフィリムに聖遺物を与えた。

 

マリア「セレナ、大丈夫?」

 

セレナ「うん。傍にマリア姉さんがいてくれれば私はもう、ネフィリムを前にして怯えたりなんかしない。姉さんが隣にいるんだから、怖い物なんてない!だから2人で!」

 

マリア「ええ!ネフィリムなんて、乗り越える!はあああっ!」

 

セレナ「やあああーっ!」

 

 どれだけ追い詰められても2人は共に戦い、ネフィリムを追い詰めていった。

 

アドルフ「ネフィリムが苦しんでいるだと…まだ完全体に至らないのか!早く、確定した安寧を…」

 

 焦るアドルフであったが、何かが来た事で態度を変えた。

 

アドルフ「…ふ…ふふふ、はははは…っ!存外に早かったな…!」

 

マリア「何が可笑しい!」

 

アドルフ「お前達が期待しているものと同じだ。援軍…だよ!ネフィリム起動実験に用いたフォニックゲイン増幅装置を起動しておいた甲斐があった!」

 

マリア「フォニックゲインの、増幅…!?」

 

セレナ「姉さん、あれ…!」

 

 アドルフのいう援軍とは、カルマノイズの事であった。

 

マリア「そうか、フォニックゲインでカルマノイズを誘き寄せて!」

 

 カルマノイズも加わった事でマリアとセレナは再び追い詰められた。

 

セレナ「きゃあああっ!」

 

マリア「うう…くぅーっ!セレナ…!」

 

セレナ「私まだ、戦える…けど、姉さんが」

 

マリア「増えた傷を数えても仕方がない。こうなれば起死回生の勝負手を討ちに行くしかないわ…セレナ!」

 

セレナ「うん!」

 

マリア「完全体への成長さえ阻止すれば!」

 

セレナ「これで!」

 

 完全体にさせないため、マリア姉妹はネフィリムに攻撃を集中させた。

 

アドルフ「しぶとい奴等だ…下がれネフィリム!ここは黒いノイズに」

 

セレナ「させない!」

 

マリア「このままネフィリムを先に仕留める!」

 

 攻撃を続け、ネフィリムを先に仕留めようとしたが、カルマノイズが邪魔してきた。

 

マリア「この、邪魔をするな!」

 

 邪魔をしてきたカルマノイズにマリアは攻撃した。

 

マリア「多少の無謀は私がカバーする!セレナ、突っ込むわよ!」

 

セレナ「うん、ネフィリムを!」

 

アドルフ「そう……それでいい、ネフィリム。背後から……そいつも喰らえ!」

 

 一輝と瞬が戦っていた分裂体と同様にネフィリムはカルマノイズを背後から襲い、捕食したのであった。

 

マリア「…まさか、カルマノイズをも捕食するなんて…」

 

セレナ「ね、姉さん…ネフィリムが…!」

 

 カルマノイズを捕食した事で分裂体と同様、ネフィリム本体も完全体へと成長を果たしたのであった。

 

アドルフ「ついに…確定した!はは、ははははっ!完全なる力、完全なる安寧!」

 

マリア「そ、そんな…ネフィリムにそんな能力なんて!」

 

セレナ「これもマムが言ってた、取り込んだ聖遺物の…!?」

 

アドルフ「片っ端から与え続けた結果、俺にもどの聖遺物が作用したかはもうわからないがね。だが、家庭がどうあろうと…完全は完全に完全だ!」

 

マリア「くっ!(かつて対峙したネフィリムは装者6人のエクスドライブの力を使って…どうにかエネルギー臨界を起こして撃破した。…一輝と瞬が来ていない状況で私とセレナ、たった2人で勝てる望みが一縷でもあるというの…!)それ、でも……諦めるわけにはいかない!」

 

セレナ「私が揺り起こしてしまったネフィリムを…、もう一度眠らせてみせる!」

 

 

 

月の神殿

 

 アルテミスとカリストは地上の様子を見ていた。

 

カリスト「まさか、カルマノイズがネフィリムの餌になるとは…!」

 

アルテミス「確かに、カルマノイズを捕食して完全体に至ったネフィリムは脅威であろう。だが、肝心のアドルフは完全の意味を全く理解しておらぬ」

 

カリスト「アルテミス様はあの姉妹がネフィリムに勝てるとでも?」

 

アルテミス「可能だ。セレナは類稀なる才能を持った装者である上、慕っている姉もいる。あの姉妹ならば、奇跡を起こせるであろう。完全に固執しているアドルフでは全く理解できぬ、奇跡を」

 

 のちに迫る脅威を夢で見たためか、アルテミスはネフィリムが完全体になっても全く動じていなかった。




これで今回の話は終わりです。
今回は分裂体も含めたネフィリム4体やカルマノイズの大群との戦いとネフィリムがカルマノイズを食って完全体になるのを描きました。
セレナが生きている世界でもまたまた暗躍していたベアトリーチェですが、当分の間は登場しなくなります。
完全体のネフィリム2体を見ても動じない一輝と瞬ですが、結果がどうなるのかは次の話で明らかになります。
次の話は今回の話の最後でアルテミスが言った通り、マリアとセレナの姉妹の絆が奇跡を起こします。

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