研究所
カルマノイズを捕食したネフィリムは完全体へと成長し、しかもカルマノイズの呪いまで撒き散らすようになっていた。
マリア「ぐ、うっ!」
セレナ「あああーっ!う、うぅ…。なに、この、苦しさは…姉さん…!」
呪いのせいでマリアとセレナは倒れてしまった。
マリア「セ、セレナ…!ネフィリムの発する熱とカルマノイズの呪い…近づく事すらできないなんて…!」
アドルフ「ふむ。完全体となった事だし、もう聖遺物は必要ないな。ネフィリム、好きにするといい」
マリア「私は、セレナを護」
ネフィリムはマリアとセレナに止めを刺そうとした。ところが、急行するためにイグナイトを発動させた切歌と調が到着した。
切歌「させるものかデェース!」
調「マリア!セレナ!」
そして、ネフィリムに攻撃を加え、二人を救ったのであった。
調「…間一髪…だったね……はぁ、はぁ…!」
切歌「うぐ…どうにか……間に合ってよかったデス……!」
セレナ「月読さん、暁さん!」
マリア「イグナイト状態で至近距離から呪いを受けるなんて…!あなた達、なんて無茶を!」
調「こうでもしないと…間に合わなかった、だから…」
切歌「2人を助けられるなら…悪くない賭けと、思ったデスよ…あはは……」
2人は倒れ、イグナイトは解除された。
セレナ「大丈夫ですか!?」
マリア「一輝と瞬は!?」
切歌「もう…足の小指も動かせないデスけどね…」
調「目を開いているだけで…精一杯……。それに、一輝さんと瞬さんは…カルマノイズの群れと…ネフィリムの完全体2体を引き受けて…私達を行かせてくれた…」
セレナ「黒いノイズの群れと完全体のネフィリム2体を月読さんと暁さんの代わりに…!」
マリア「2人とも…。またも九死に一生……ならば、あとは私がもう一度」
ネフィリムの攻撃を受けてもマリアは再び立ち上がった。
マリア「…まだだ、私はセレナを護る…!」
アドルフ「何がお前を立たせる?絆だとでもいうつもりか?…踏み潰せ、ネフィリム!」
絆を嫌っている素振りを見せるアドルフは更なる攻撃をネフィリムに命じ、ネフィリムは攻撃を続けた。
セレナ「やめて!もうやめて!姉さんが…姉さんが死んじゃう!」
切歌「うう…マリア…」
調「マリア…」
アドルフ「俺は好き嫌いをしないが、不確かなもの…中でも絆の力などというふざけたものは嫌いでね。つい、存在しない事を証明してやりたくなる。貴様らを始末した後はあの忌々しい兄弟をを叩き潰してやる!完全体のネフィリムならば、奴等でも勝てまい」
マリア「き、絆は……絆はここにある!」
セレナ「マリア姉さん!」
姉を助けようとセレナはネフィリムに攻撃したが、反撃で吹っ飛ばされてしまった。
セレナ「きゃあああっ!」
マリア「セレナ!」
アドルフ「絆など、本当の姉妹でもないくせにそんなものあるわけがないだろう。いつまでつまらない演技を続けるつもりだ?」
マリア「なっ!?」
アドルフ「ないはずのアガートラームが二つあれば、当然疑問を抱く。そして、盗聴器などという古典的な手法ではあったが、予想以上の情報が得られた。まさかとは思ったが、現にこうして装者の大盤振る舞いだ。となると信じるしかない。セレナ。こいつはお前の姉なんかじゃない。それどころか、この世界の誰の身内でもない」
セレナ「……」
マリア「違う!私は…セレナの…」
アドルフ「妹だと言えるのか?7年前、セレナを救ったのは私だと」
マリア「それは…」
アドルフ「ゲートは既に見たのだろう?こいつは並行世界から来たただの偽者だ!本物のマリアは7年前に死んでいる!」
セレナ「……」
アドルフ「お前をずっと騙していたんだ。お前の姉に成りすまして、信頼を利用していたんだ。」
マリア「黙れ!セレナ、こいつの話なんて聞いちゃダメ!」
アドルフ「お前に発言権はない!」
アドルフはマリアを殴った。
マリア「う、うぅ…たとえ世界は違って!私はずっと、セレナを…」
アドルフ「本当の妹だと思っていたと?都合のいい代替物だろう?大方、お前は本当の妹を死なせたというところか?」
マリア「く……」
アドルフ「妹の偽者に姉の偽者。偽者同士の傷のなめ合いにも、精神療法としての効果ぐらいならば認めないではないがね。」
マリア「私は、私は…う、うぅ…!」
アドルフ「結局は自分の都合よい状況を得るために嘘をついていただけだ。それが人間の本質、限界だ。その流す涙すらも本当かどうか怪しいものだな。セレナ、人間は恐ろしいだろう。人という生き物は、あまりにも不確かで恐ろしい…。人類の安寧を確定させるには、圧倒的な力が必要不可欠。お前はやがて、この完全な力を起動し、この世界に確定をもたらした自分を誇るようになるだろう…!」
セレナ「……」
アドルフ「悲しいか?最初からありもしない、架空の絆を惜しんで。決して覆される事のない現実を目にして、なお迷うなど甚だ愚かな事だ。ノイズを倒せるほどの力を手に入れておきながら、この程度の事で心が折れ、使いものにならなくなる。これが人類を護る装者とは笑わせる。…いや、こいつが出来損ないなだけか?」
セレナ「…許しません」
アドルフ「ん?」
セレナ「マリア姉さんを傷つける人…悲しませる人……泣かせる人は、絶対に許しません!!」
アドルフ「お前は、話を聞いていたのか?こいつはお前の姉では」
セレナ「たった一人の姉さんだから!」
現実を知っても動じず、姉を悲しませる仕打ちを行ったアドルフに激怒したセレナは絶唱を唄った。
アドルフ「り、理解できん…!完全に存在しない絆のために、なぜ…くっ!ネフィリム、この妄想狂を」
そう命令しようとした途端、2体の完全体のネフィリムが体のあちこちが欠けた状態で吹っ飛ばされてきて、そのまま地面に激突し、激突した勢いでそのまま地面を削ってある程度進んだ後でピタリと止まった。
アドルフ「そんな…、囮に使ったネフィリム2体も完全体になっているのに、完全体のネフィリム2体がこんなにもなって吹っ飛ばされてきただと!?」
一輝と瞬でさえ敵わないだろうと思っていた完全体のネフィリムが2体ともボロボロになって吹っ飛ばされてきた事にアドルフは衝撃を受けた。
マリア「(あの時、私を助けてくれたセレナ…、今度は、私が助ける番。……もう二度と、この子を、セレナを失うわけにはいかない…!私はこの子の本当の姉じゃない…けれど!今この場で妹を助けられるのは私しかいない!)」
もう二度とセレナを失いたくないため、マリアも絶唱を唄った。
マリア「くっ(これしきの…負荷…なんて……!?)」
ところが……
マリア「(何!?身体が楽に…負荷が消えていく…)これは…?私とセレナのアガートラームが輝いてる!?」
マリアとセレナのアガートラームが輝き、眩い光を放っていたのであった。
アドルフ「聖遺物同士の共鳴…?絶唱のフォニックゲインと負荷をあいつが、セレナが吸収しているだと!?まさかこれが、セレナの特性…!完全体のネフィリムを退かせるほどの力…だと!?」
切歌「なんデスか!?このとんでもなくとんでもない光は…?」
調「綺麗な…奇跡の形……」
マリア「セレナが…私の絶唱負荷を…。結局、また護られているのは…私…?」
セレナ「違うよ、マリア姉さん。感じるの、マリア姉さんの力を。私を包み込んで、護ってくれている。すごく温かくて、優しい力」
マリア「セレナ…」
アドルフ「これが絆の力とでもいうのか!?そのような不確かで下らないものが…」
不確定を嫌うアドルフにとって、その光景は受け入れられないものであった。
マリア「私の絶唱のエネルギーが、全てセレナに集中している…!」
セレナ「(あの時、姉さん達が見せてくれた綺麗な虹色の光…あれがそう、絆の形!)そしてこれも…私とマリア姉さんの2人のフォニックゲイン…私の束ねるこの力は、想い合う妹と姉のー絆の力!」
膨大なフォニックゲインを束ね上げ、セレナのアガートラームのエクスドライブモードが起動したのであった。
アドルフ「何だ!?何が起こっているんだ!?こんな不測は」
???「バカめ、この力こそマリアとセレナの世界の壁を超えた姉妹愛から生まれたものだ!」
アドルフに反論するかの如く、一輝と瞬が姿を現した。
マリア「一輝!瞬!」
アドルフ「なぜそこで姉妹愛!?」
一輝「なぜかって?決まっているだろう、小さい頃から互いに支え合ってきた兄弟姉妹の絆は強いからだ!」
アドルフ「何だと!?き、貴様ら兄弟はあの完全体のネフィリム2体をボコボコにしたというのか!?そんなのはあり得ん!そんな不確かなものが」
一輝「頭でっかちの惰弱な大馬鹿が!これが現実だ!そして、強き兄弟姉妹の絆に並行世界の壁など関係あるものか!」
マリアとセレナへの仕打ちに怒っていた事もあり、一輝は拳がアドルフの顔面に大きくめり込むほどのパンチでアドルフを殴り飛ばした。
アドルフ「ぐ、ぐが……!なんて…不確定の極みともいえる…暴論…!」
瞬「アドルフ、あの力はお前には絶対にわからない力だ!」
ふと、マリアはある事に気付いた。
マリア「セレナから…力が流れ込んでくる…!とても温かい、力が…!」
切歌「あたしもデス!何だか、身体がポカポカするデス」
調「ネフィリムの熱も、カルマノイズの呪いも消えていく…」
切歌「これが、セレナの力デスか…」
調「今なら…もう一度…!」
切歌「立ち上がれる…気がするデス…!」
今までの疲れが嘘のようにとれてしまい、切歌と調は立ち上がれた。
マリア「調、切歌!」
調「ネフィリムの力が弱まってる…。セレナが吸収して、私達に分け与えてくれたんだ…!」
切歌「滅茶苦茶元気が出てきたデース!」
アドルフ「う、うぅ…。完全体にネフィリムにカルマノイズの力までを与えた完全が、どう、して…」
セレナ「完全なんてありません!みんな完全じゃないから!肩を寄せ合って!力を合わせて、生きてるんです!」
力強く一言いうたびにセレナはネフィリムへ攻撃を加えた。
セレナ「月読さん、暁さん、マム、私、そしてマリア姉さん…私達、家族みたいに!!」
アドルフ「こんな…こんな事が、人間に可能だとは…!」
一輝「貴様はそれが人間に可能という、覆せない現実を目の当たりにしたのだ」
瞬「支え合う家族や友がいれば、不可能も可能になる!」
アドルフ「み、認めない!認めない認めない認めない認めない!!!こんなバカな事があってたまるか!!!!」
完全体のネフィリム2体が一輝と瞬の兄弟にボロボロにされ、マリアとセレナの姉妹が起こした奇跡にアドルフは壊れた機械のように錯乱したのであった。
セレナ「マリア姉さん…一輝さん…瞬さん…みんな……一緒に戦ってくれる?家族の、絆の力をこの人に見せたいの」
瞬「いいよ、セレナ」
一輝「俺も家族の絆の力を見せつけ、奴の歪んだ心をズタズタにしてやりたかった所だ」
マリア「セレナ、本当にいいの?私はあなたの姉じゃ」
セレナ「ごめんなさい!」
マリア「え…?」
セレナ「本当は、知ってた。私が囮になるって作戦をマムから聞いた時に、マムに確認したの」
回想
それは、作戦をナスターシャから知らされた時だった。
ナスターシャ「…危険な作戦ですが、これは拒否できない作戦指令です。理解してもらえますね?」
セレナ「…はい。でも、その代わり一つだけ聞いてもいいですか…?」
ナスターシャ「質問に答える事が代償となるなら、どんな事にでも答えましょう」
セレナ「マリア姉さんは…、私の元に来てくれたマリア姉さんは……本当の、姉さんじゃないんですよね…?」
ナスターシャ「…気付いて、いたのですか」
セレナ「少しだけ、本当は最初から違和感がありました。でもそれはきっと、7年っていう時間の中での変化だって、自分に言い聞かせていました。考えたくなかったから…」
ナスターシャ「あなたにショックを与えないための配慮のつもりだったのですが……」
セレナ「それじゃあ、やっぱり姉さんは…」
ナスターシャ「……わかりました。本当の事を、話しましょう…」
ナスターシャは本当の事をセレナに話した。
セレナ『だけどその事を口に出したら、1人になっちゃう…。マリア姉さんが姉さんじゃなくなってしまうんじゃないかって思って…』
セレナは作戦の事よりも、本当の事を言ったら姉を失う恐怖に震えていたのであった。
セレナ「…怖いよ(私は、独りなの?姉さんは…姉さんでいてくれるの…?)」
マリア「私が護るわ。あなたを必ず」
セレナ「姉さんは…姉さんだよね…?ずっと離れていても、私の大好きな…(お願い…答えて、姉さん…)」
マリア「…当たり前じゃない、私は…私はあなたの姉よ。どんなに離れていても、あなたの事が大好きな、あなたの姉なんだから…」
セレナ「だから…」
マリア「…私は姉失格ね、大事な妹にそんな不安な思いをさせてたなんて。自分が妹を再び失う事ばかり怖れていた…」
セレナ「マリア姉さん…!」
マリア「あなたは私の妹よ、セレナ。私も、あなたがこの不甲斐ない姉を姉さんと呼んでくれて…嬉しいわ」
セレナ「ありがとう、姉さん……。私の傍に帰ってきてくれて…!」
マリア「ありがとう、セレナ…。あなたの隣に私を迎えてくれて…!」
マリア姉妹の姿を一輝と瞬は微笑んで見ていた。
アドルフ「一体何の話をしている…!如何にアガートラームの絶唱特性があれど、完全体になったネフィリム相手に!」
一輝「貴様に発言権はない!」
再びアドルフは一輝に殴られたのであった。
一輝「マリアとセレナの姉妹水入らずに水を差すな、惰弱な大馬鹿が!」
マリア「私達姉妹の絆を邪魔する奴は」
セレナ「絶対に許しません!」
切歌「あたし達もいるデス!たとえ血の繋がりはなくても、血の繋がった家族以上の家族デス!」
調「F.I.Sの、家族の絆は永遠!」
セレナ「これが、姉妹の、家族の絆の力です!」
瞬「みんな、あの2体のネフィリムは僕と兄さんが倒すから、残る1体は頼んだよ!」
セレナ「はい!」
ボロボロながらも、2体のネフィリムも立ち上がり、戦いが仕切り直しになったが…。
一輝「行く前にちょっと待て。マリア、お前に餞別だ」
マリア「餞別って…?」
一輝「はああああああっ!!」
急にマリアの背後に来た後、一輝はマリアの背中に手を置いて小宇宙を送り、強引にマリアのアガートラームのエクスドライブモードを起動させた。
マリア「エクスドライブ…?一輝、どうして…?」
一輝「姉妹お揃いの方がいいだろう?さあ、セレナ達と共に行け!」
マリア「……ありがとう。行くわよ、セレナ!切歌、調!」
セレナ「うん!」
マリア達は1体の方へ、一輝と瞬は2体のネフィリムの方へ向かい、戦闘に入った。幼体の時のネフィリムは一輝に怯えていたが、完全体になってからは一輝に怯える事なく向かっていったものの、一輝との力の差は歴然であり、一輝の光速のスピードと圧倒的なパワーの前には無力であった。そして、最後の手段と言わんばかりに火を吐いたが…
一輝「ぬるい。そんな炎など地獄の業火に比べれば生温い!」
そのまま一輝は反撃で光速拳を放ち、ネフィリムを再起不能にした。瞬の方も完全にネフィリムを圧倒していた。
瞬「ネビュラチェーン!」
チェーンでネフィリムを拘束した後、凄まじいチェーンの締め付けでネフィリムの腕などが千切れてしまい、再起不能となった。
一輝「瞬、一気に片付けるぞ!」
瞬「うん!ネビュラストーム!!」
再起不能になったネフィリム2体を瞬はネビュラストームで空高く吹っ飛ばした。
一輝「喰らえ、星をも砕け散るフェニックスの羽ばたきを!鳳翼天翔!!」
被害が出ないように一輝は上空で鳳翼天翔を放ってネフィリム2体を炎の拳で貫いた。貫かれたネフィリム2体は上空で大爆発を起こしたのであった。一方、マリア達は家族の絆の力でネフィリムを追い詰めていった。
切歌「一輝と瞬の兄弟の絆の力は凄いのデス!」
調「力では及ばないけど、家族の絆の強さは私達も負けてない!」
一輝と瞬の活躍に感化され、切歌と調の攻撃もより激しくしていった。そして、4人の猛攻でネフィリムは虫の息になった。
マリア「感じる…セレナの歌の力を…。これならいける!行くわよ、セレナ!」
セレナ「この歌で、明日を切り開く!」
マリアとセレナは呼吸を合わせて攻撃を行い、マリアはDESPAIR☨BREAKを、セレナはGREMLIN☨ROYALEを同時に放ち、ネフィリムを完全に倒したのであった。
アドルフ「そ、そんな…あり得ない…。完全なネフィリムが…完全に……消えるなんて……!まさか、取り込んだあの黒いノイズ…。あれが、完全を否定する存在だったのか…?こんな、こんな事が……」
一輝「大馬鹿が。セレナが言った通り、完全があるものか。そして、マリアとセレナが受けた苦痛を何倍にもして返してやるぞ!」
一輝の指から放たれた閃光がアドルフに命中した。
アドルフ「な、何を…?」
何が起こったのかわからないアドルフであったが、突如として目の前にカルマノイズの大群が現れたのであった。
アドルフ「く、黒いノイズの大群だと!?お、俺の方へ来るな、来るな来るな来るな!う、うわああああああっ!!!!」
カルマノイズの大群に囲まれてアドルフは錯乱してしまい、カルマノイズに炭素分解されてしまった。尚、これは一輝の拳を受けて見ている幻であり、アドルフは炭素分解されておらず、カルマノイズは現れていなかった。そして、精神をズタズタにされたアドルフは白目をむいて倒れたのであった。
マリア「一輝、さっきのって…」
一輝「鳳凰幻魔拳。奴は恐ろしい幻を見て、全神経をズタズタにされただろうな。だが、死なん程度には加減しておいた」
調「一輝さんの幻魔拳って技、とっても怖い…」
切歌「絶対にあの技は受けたくないデスよ…」
マリア「(私が幻魔拳を受けてたら、セレナが死ぬ所をまた見せられてしまうのかしら…?)…でも、これで終わったのね…」
セレナ「うん。やっと……」
ギアの装着を解除したが、その際にセレナは倒れてしまった。
マリア「…セレナ?セレナ!」
切歌「そんな、どうしてデスか!?」
調「セレナ、しっかりして!」
瞬「まさか、これは絶唱の反動!?」
一輝「瞬、すぐに応急処置を!」
瞬「わかったよ、兄さん!」
すぐに瞬が小宇宙による応急処置を行ったのであった。そして、その後…。
ナスターシャ「さて。皆さん、揃っていますね」
マリア「……」
調「はい」
ナスターシャ「まず、ドクター・アドルフは拘束され、今回の件の首謀者として日本政府と米国政府合同で取り調べを行う事になりました」
切歌「それはよかったデス!」
ナスターシャ「ドクター・アドルフの経歴が辿られた結果、彼が今回のような凶行に走った理由も見えた気がします」
切歌「凄いパワーで世界征服!とかじゃなかったデス?」
一輝「それは違うだろう。奴は絆を嫌っていた。恐らく、それに関係しているんじゃないか?ナスターシャ」
ナスターシャ「過去に彼が所属していた研究所がノイズに襲われた際、多数の被害者が出ました。惨劇の中、死亡した所員は実に128名。うち、50名前後はノイズによる炭素分解ではなく、恐怖と混乱の中で我先にと逃げ惑い、亡くなったようです。恐らくは将棋倒しによる転落死、圧死などの群衆事故が死因であったのでしょう。圧倒的な暴力に対する無力さと、極限状態における愚かさ…。そういった経験が彼を狂わせた。彼もまた、ノイズという恐怖に怯えた、1人の被害者であったのかも知れません…」
瞬「そうだったんですか…」
調「平和じゃないから、辛い事が起こるんだね」
切歌「こっちのノイズも、根絶できる日が絶対に来るデス」
ナスターシャ「また、F資料についても回収されたため、これから各聖遺物研究機関で調査が行われる運びとなっています」
切歌「ところでF資料のFって、何なんデス?」
ナスターシャ「真実はそれを記した研究者本人でないとわかりませんが、Fとはフロンティアの略ではないかと思われます。ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス博士。彼は生前、フロンティアと呼ばれる物の研究をしていたと記録にあります」
切歌「デデデース!」
調「う……。原因の資料の作者って…」
瞬「間違いなく、この世界のあの人だろうね…」
F資料の作者がこの世界のウェルだとわかった事で切歌と調は悪寒がし、瞬は呆れたのであった。
ナスターシャ「どうかしましたか?」
調「…いえ、何でもないです」
マリア「……」
ナスターシャ「マリア、そう落ち込まないでくだだい、というのは無理かも知れませんが…今はあたし達を信じて、任せてください」
マリア「マム…」
ナスターシャ「マリアとセレナ、2人の絶唱負荷を1人で受け止めたのです。生きている事自体がまさに奇跡」
一輝「大丈夫だ、セレナはヤワな子じゃない」
瞬「そうだよ。僕が小宇宙で応急処置を施したし、セレナの適合係数は響達よりも高いんだから」
マリア「一輝、瞬…2人共ありがとう。わかってるわ。セレナは大丈夫だって」
ナスターシャ「確かに、セレナの適合係数、回復力はともに高いですが、今回助かったのはそれらと瞬の応急処置だけではないと思います」
マリア「え…?」
ナスターシャ「あの時見せたアガートラームの光…。おそらくあの力によってセレナは護られたのだと思います」
マリア「アガートラームの光、あの時の共鳴が…」
ナスターシャ「はい。セレナを護ったのは、姉であるマリア、あなたなのだと私は思います」
マリア「私が…セレナを護った…」
ナスターシャ「世界は違えど、あなたとセレナからは間違いなく、強い絆を感じます。どうか、これからもセレナの姉でいてあげてください」
マリア「マム…。ええ、ありがとう」
S.O.N.G潜水艦
事件終結に伴い、セレナが回復するまで代わりにノイズ退治を行う事となった一輝と瞬の兄弟は残り、マリア達は帰る事となった。
マリア『絶唱の負荷によって重傷を負ったセレナは、マムや医療スタッフの献身的な治療により少しずつ回復していった。面会ができるようになってからは、風鳴司令の許可をもらい、お見舞いに足を運んだ。セレナは、私を見ると眩しいくらいの笑顔を見せて迎えてくれる。その笑顔に、私も幸せな気持ちになる。そして同時に、もう二度とこの笑顔を失うわけにはいかないと強く感じた。あの事件から、一か月が過ぎ…セレナの傷もだいぶ癒えて、全て丸く収まった。と、思ったけど…』
事件終結から1か月後の事だった。
切歌「セレナ、いい加減マリアから離れるデス!」
調「マリアはセレナだけのじゃなくて、私達のお姉ちゃんでもあるんだから」
セレナ「嫌です。今日はマリア姉さんと一緒にいるって決めたんです」
マリア「ちょ、ちょっとセレナ!」
星矢「マリアの奴、モテモテだな」
紫龍「だが、病み上がりの状態でよくこっちの世界へ来る許可が下りたものだな」
弦十郎「何でも、マリア君がお見舞いから帰った後の落ち込み具合が尋常じゃないらしい。セレナ君が元気になるまで一輝と瞬がいてくれてたんだが、2人ではマリア君の代わりになれなかったそうだ。見かねたナスターシャ教授が、制限付きでこちらへ来る許可を出したそうだ」
響「ああ、それ、わかります!私も何度か入院してますけど、1人の病室って凄く寂しいですよね!未来の声が聞きたくて、何度も何度も電話したの覚えてます!」
未来「大体が食べ物の話だったけどね」
クリス「お前も大概だよな…」
響「あ、でもクリスちゃんも心配して、何度も電話くれたよね!たくさんい見舞いにも来てくれたし!」
クリス「!?う、うっせー!今、その話はいいだろ!」
翼「ふふ、お前達も本当に仲がいいな」
マリア「ねえ、セレナ、そろそろ離れてくれないかしら?」
セレナ「マリア姉さん、すごくいい匂い…」
切歌「ぐぬぬぬー、マリアの匂いまでも独り占めとは許さないデスよ」
調「切ちゃん、私達も!」
切歌「ガッテン承知デス!」
切歌と調もマリアに抱き付いた。
マリア「あ、あなた達まで何してるの!離れなさい!!」
セレナ「2人とも、マリア姉さんが困っていますよ」
切歌「どの口が言ってるデスか!」
調「うん、まずはセレナが離れるべき」
セレナ「私はいいんです。だってマリア姉さんは…私のたった一人のお姉さんですから」
そんなマリアとセレナの様子をこっそり一輝は微笑んでみていた。
瞬「兄さん…」
そんな一輝の存在に瞬は気付き、マリア達に存在を悟られる事なく、一輝は去って行ったのであった。
これで今回の話は終わりです。
今回はネフィリムとの決着を描きました。
XD本編でのイノセントシスターではマリアがエクスドライブモードになるシーンはありませんでしたが、せっかくなので一輝が小宇宙を送って強引に起動させるという形で姉妹揃ってエクスドライブにしました。
また、聖闘士星矢Ωの時の一輝の中の人はウェルと同じだったので、一輝が姉妹愛と言った際に『なぜそこで愛!?』のアレンジとしてアドルフが『なぜそこで姉妹愛!?』と返すシーンを入れました。
これから当分の話は新しい並行世界は出ず、本編世界とこれまで訪れた並行世界が舞台となります。
これでイノセントシスター編は終わり、次はエキスパートメイド編となり、聖闘士星矢側では主に沙織と美衣の出番が多くなります。